東京地方裁判所 平成2年(ワ)13302号 判決 1992年5月06日
原告
清田雄三
右訴訟代理人弁護士
星隆文
被告
清田武
同
清田富子
同
清田伍郎
右三名訴訟代理人弁護士
川勝勝則
主文
一 別紙物件目録記載の土地は、原告の持分一〇〇分の一三、被告清田武及び被告清田富子の持分各一〇〇分の四〇、被告清田伍郎の持分一〇〇分の七ずつの共有であることを確認する。
二 別紙物件目録記載の土地を同記載の建物の敷地となし、種類を所有権とする敷地権を設定し、かつ、別紙物件目録記載の建物を各独立した部屋ごとに分割し、同建物三〇一号室(床面積30.69平方メートル)及び三〇二号室(床面積32.06平方メートル)並びに右各室に付随する敷地利用権を一体とした区分所有権を原告に、その余の専有部分にかかる区分所有権を被告らに分割する。
三 被告らは、前項の分割による登記手続きをしたうえ、原告に対し、前項の原告の所有となった区分所有建物について共有物分割を原因とする移転登記手続きをせよ。
四 被告らは、原告に対し、各自金七六九万九〇〇〇円を支払え。
五 原告のその余の請求を棄却する。
六 訴訟費用は被告らの負担とする。
事実及び理由
第一請求
一別紙物件目録記載の土地及び区分建物は、原告の持分一〇〇分の一三、被告清田武及び清田富子の持分各一〇〇分の四〇、被告清田伍郎の持分一〇〇分の七ずつの共有であることを確認する。
二別紙物件目録記載の土地を同記載の建物の敷地となし、種類を所有権とする敷地権を設定し、かつ、別紙物件目録記載の建物を各独立した部屋ごとに分割し、同建物三〇一号室及び三〇二号室並びに右各室に付随する敷地利用権を一体とした区分所有権を原告に分割する。
三主文3項同旨
四被告らは、原告に対し、各自金一五〇〇万円及び訴状送達の日の翌日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
一争いのない事実及び証拠により容易に認められる事実
1(一) 別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)及び同目録記載の建物(以下「本件建物」といい、両者を「本件不動産」という。)は、それぞれ原被告の共有である。
(二) 本件土地・建物の持分の割合は原告一〇〇分の一三、被告清田武(以下「被告武」という。)、被告清田富子(以下「被告富子」という。)がそれぞれ一〇〇分の四〇、被告清田伍郎(以下「被告伍郎」という。)が一〇〇分の七である。(<書証番号略>)
2 被告らは、原告からの右不動産の分割請求に応じず、また、共有割合も、実質的な貢献度において登記されている割合とは異なる旨主張している。
二争点
1 本件訴の提起が原告の委任によらないもので不適法か否か。
2 本件不動産について、共有物不分割の合意の効力が存在するか否か。
3 共有物分割の方法としていかなる方法が相当か。
第三争点に対する判断
一(争点1について)
1 原告が民法上の行為能力を欠如していると認めるに足る証拠はないから、原告は、訴訟能力を有しているものと認められる。
2 また、原告代理人に対する本件訴訟委任状は、原告の妻である清田日出子(以下「日出子」という。)が原告に代わって作成したものであるが、原告が意識混濁に至る以前に訴訟による解決を決意して日出子にその処理を委ね、これを受けた同女が原告を代理して原告訴訟代理人と訴訟委任契約を締結したもので、原告がいわゆる植物人間状態となって意思能力を欠くに至ったのは、訴訟委任が成立した後であるものと認められるから、原告訴訟代理人の訴訟行為は、適式に行われているものと認められる。
(証拠清田日出子、弁論の全趣旨)
二(争点2について)
1 被告らは、昭和五三年一一月二八日ころ、共有物不分割の合意が成立し、昭和五五年一〇月三〇日ころ、及び昭和六〇年一〇月三〇日ころにも同様の合意を確認している旨主張する。
2 しかしながら、共有物につき分割をなさない旨の合意は五年を超えない期間内のものでなければならず、更新する場合にも、その期間は更新の時から五年間を超えることができない旨定められている(民法二五六条)ところ、昭和六〇年一〇月三〇日以降に同様の合意が成立した旨の主張がないのみならず、本件書証目録及び証人等目録記載の全証拠によるも、不分割の合意が更新されたことを認めることはできない。
3 被告富子は、本件建物は借入金により建築したもので、基礎固めのために返済終了までは共有物分割を認めないとの前提があり、黙示的に不分割合意が成立しているとも供述する。
しかしながら、本件建物建築に際し金融機関に担保を提供して借入れた金額は三七二〇万円であり、昭和五五年の借入当時の利率年9.2パーセントで二〇年間の元利均等償還を行ったと仮定した場合(平成三年六月に施行された被告富子本人尋問時点で返済期間が九年間残っているものと認められる。)の返済額は月額三三万九四九二円と計算されるところ、賃料収入は満室の場合月額約二〇〇万円で、空室がありその半額程になる場合もあることは認められるものの、これを前提に計算しても数年間で借入金額を上回る収入金額が確保できるのであるから、これまで定期的に収益を分配したことがなかったことなどに照らせば、被告富子のいわゆる基礎固めの必要を考慮したとしても、昭和六〇年一〇月三〇日以降においてこれを前提とした不分割合意をなさなければならない必然性はなく、したがって、不分割合意が黙示的に成立したと認めることも出来ない。(<書証番号略>、証人日出子、被告富子本人、弁論の全趣旨)
三(争点3について)
1(一) 本件建物を構成する一棟の建物は、本件土地及び第一勧業信用組合が所有する千代田区外神田<番地略>所在の土地上に昭和五五年八月三〇日に新築された一棟の建物で、本件建物は本件土地上に、第一勧業信用組合の専有部分は同信用組合の所有土地上にそれぞれ位置している縦割りの区分所有建物である。
(二) 本件建物の共有部分を除く一ないし五階部分の有効床面積は521.48平方メートルであり、各室の有効床面積は、一〇一号室85.29平方メートル、二〇一号室62.70平方メートル、二〇二号室47.60平方メートル、三〇一号室30.69平方メートル、三〇二号室32.06平方メートル、三〇三号室47.52平方メートル、四〇〇号室32.01平方メートル、四〇一及び四〇三号室一体として78.34平方メートル、五〇一号室50.37平方メートル、五〇二号室54.90平方メートルである。
そのうち、五階部分は被告武、被告富子が居宅として使用し、一階部分は全体が一社に対する賃貸の対象となっており、この部分を原告に対する分割の対象とするのは相当でなく、一般に対する賃貸目的で建築された二階ないし四階部分が現実に分割可能な部分と認められるところ、有効床面積の割合の関係で四階部分を分割対象とするのは難しく、原告の希望をも加味した最も現実的な分割方法は三階三〇一号室(床面積30.69平方メートル)及び三〇二号室(床面積32.06平方メートル)を原告に分割する方法である。(<書証番号略>、証人日出子、被告富子本人、鑑定、弁論の全趣旨)
2 ところで、本件建物を構成する一棟の建物は右1(一)のとおり縦割りの区分所有建物で、その敷地利用関係はいわゆる分有形式のものであるから、第一勧業信用組合の専有部分と本件建物とについては建物の区分所有等に関する法律二二条に定める一体性の原則の適用がない場合と認められ、したがって同法附則八条の適用は考慮する必要はないものと解すべきである。
しかしながら、前認定のような本件土地・建物の位置関係及び本件土地・建物につき共有物分割の請求がなされ本件建物の三〇一号室及び三〇二号室を分割するのが最も現実的である現状を考慮すると、現時点においては本件建物を各室に区分するのが相当であり、同法二二条三項を類推適用し、本件土地を本件建物の敷地となし、種類を所有権をする敷地権を設定し、これと各室とを一体のものとして扱い、その上で、三〇一号室及び三〇二号室並びに右各室に付随する敷地利用権を一体とした区分所有権を原告に分割するのが相当である。
3 更に、右各室を原告に分割したとしても他の共有者との関係において原告の取得部分が価格にして七六九万九〇〇〇円不足すると認められるところ、鑑定に際し比準のための資料とした取引事例の取引時点から以後土地価格が下落傾向にあることは被告ら主張のとおりであるが、鑑定においても地価が弱含みであることを考慮して時点修正を一応施していることなど本件記録上認められる諸事情を総合考慮すれば、被告らにおいて原告に対し、七六九万九〇〇〇円の価格賠償をするのが相当である。
なお、原告は、本件建物賃貸部分から原告が本訴係属中に受け得べき賃料収入を受けていないことをも価格賠償の額に反映させるべき旨の主張をもしているが、右賃料については管理を委ねられている被告富子に対する独立の請求権が別途存在し同被告との間で清算されるべきものと認められるから、この点を価格賠償の額に加味するのは相当でない。
また、価格賠償は、共有物分割の一部であるから、判決確定時に支払義務が発生するものであり、訴状送達の日の翌日から遅延損害金を求める部分は理由がない。
(証人日出子、被告富子本人、鑑定、弁論の全趣旨)
四ところで、原告は、本件建物の共有持分割合の確認をも求めているが、共有物分割が確定した時点においては共有関係が廃止されることになるのであるから、この点の請求も理由がない。
(裁判官古田浩)
別紙物件目録
一 (土地)
所在 千代田区<省略>
地番 <省略>
地目 宅地
地積 161.58平方メートル
二 (建物)
(一棟の建物の表示)
所在 千代田区外神田三丁目三六番地二、三七番地二、三七番地三
構造 鉄筋コンクリート造陸屋根地下一階付六階建
床面積 一階 320.85平方メートル
二ないし四階 354.77平方メートル
五階 347.99平方メートル
六階 39.87平方メートル
地下一階 203.45平方メートル
(専有部分の建物の表示)
家屋番号 <省略>
種類 事務所居宅
構造 鉄筋コンクリート造陸屋根六階建
床面積 一階部分 122.00平方メートル
二ないし四階部分 135.46平方メートル
五階部分 129.04平方メートル
六階部分 37.75平方メートル
(共有部分を除く一階ないし五階部分の有効床面積)
521.48平方メートル