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東京地方裁判所 平成2年(ワ)14607号 判決 1992年9月28日

主文

一  被告株式会社バケーションプランは、原告に対し、金三九万四四五三円及びこれに対する平成二年一二月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告の被告株式会社バケーションプランに対するその余の請求を棄却する。

三  原告の被告日本航空株式会社、同ジャパンツアーシステム株式会社、同株式会社日本エアシステムに対する請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用中、原告と被告株式会社バケーションプランとの間に生じたものはこれを四分し、その一を被告株式会社バケーションプランの負担とし、その余を原告の負担とし、原告とその余の被告らとの間に生じたものは全部原告の負担とする。

五  この判決は、第一項に限り仮に執行することができる。

理由

一  請求原因1(当事者)の(二)、(三)の事実は当事者間に争いがない。同(一)については、原告と被告日本エアを除くその余の被告らとの間では争いがなく、被告日本エアとの間では、弁論の全趣旨によりこれを認めることができる。

二  被告バケーション及び被告日航に対する損害賠償請求(請求原因2)について

1  《証拠略》を総合すると、次の事実を認めることができる。

(一)  原告は、かつて一般旅行業者である訴外株式会社ユーアイツアー(その後、アムネット株式会社と商号変更。以下「ユーアイツアー」という。)所属の旅行代理店であり、旅行業者の登録を有していたが、昭和六二年四月、キャセイ航空との間の紛争に関連して右代理店業務の委託契約を解除され、旅行業者の登録も失つた。そこで、原告の代表取締役の後藤は、昭和六三年二月、原告に代わる登録旅行業者として秘湯の旅を設立して取締役に就任し(ただし、代表権は有していない。)、その後は、原告と秘湯の旅を同時に表示したパンフレットや名刺を使用して営業活動を行うこともあつた。

(二)  被告バケーションは、平成二年三月ユーアイツアーの国内旅行部門が分離独立し同社の子会社として設立されたものであり、小原正文(以下「小原」という。)は、同年五月の営業開始と同時にユーアイツアーから移籍し、同被告の大阪営業所に勤務して、営業を担当していた。

(三)  後藤は、原告がユーアイツアーの代理店をしていた当時、担当の営業員として知り合つた小原が、被告バケーションの大阪営業所に勤務していることを知り、国内線航空券の団体割引の運賃表を送つてもらうなどしていたが、平成二年一〇月初め頃、顧客の依頼を受けて、小原に対し国内線の団体割引航空券の手配を依頼した。

(四)  後藤は、小原は後藤が原告の代表者であることを十分知つていたことから、右依頼に際しては、特に注文者が原告であると明確に示したことはなかつたが、後藤としては、原告の代表者として航空券の手配を依頼したつもりでいた。

(五)  右手配依頼を受けた小原は、一〇月一六日、当日現在予約手配ができた状況について出発日、フライト便名などをファックスで後藤あてに連絡した。その後、同月二三日、小原は、「とりあえず、私から流した分のみ本日処理してしまいたい」とのファックスを後藤あてに送り、本件航空券(ただし、「マエバラ&4pax」分を除く。)に関して搭乗者全員の名前を知らせるよう求めた。

そして、小原は、同月二五日午前中、本件航空券について代金の請求書を送付したいので確認してほしいとして、搭乗日、フライト便名、搭乗者名、代金額などの明細を記載し、代金七八万七七九七円を振り込むよう連絡するファックスを後藤あてに送信した。

(六)  ところで、被告バケーションとしては、かつて原告がキャセイ航空との間で航空券の安売りをめぐり紛争となり、ユーアイツアーが迷惑を被つたことがあつたことなどから、後藤の会社とは取引しないとの方針をとつていたが、発足後間もないこともあつて、右方針については、必ずしも小原など個々の営業員に徹底されていなかつた。

小原の上司である吉浜課長は、一〇月二五日、小原が正規の請求書を送付しようとした段階になつて、初めて、小原が会社の方針に反して後藤の依頼にかかる本件航空券の手配をしていることを知り、同日夕方、後藤に対し、手配は受けられない旨電話連絡するとともに、翌二六日午前には、大阪営業所長吉浜亮の名前で、後藤あてにファックスで、「貴殿より依頼のありました飛行機の予約手配は当社都合によりお受けできませんので、ご連絡します。なお、予約記録は、本日全て取り消しましたので併せてご連絡致します。」と通知した(当日、被告が右のような趣旨の通知をしたことは、原告と被告バケーションとの間で争いがない。)。

(七)  後藤としては、本件航空券については小原の連絡を受け既に顧客に手配が完了している旨を連絡しており、今更キャンセルというわけにはいかず、一〇月二六日、小原から前日ファックス連絡された本件航空券の代金額全額を被告バケーションあてに振り込み送金したが、被告バケーションは、本件航空券の手配を行わず、「(株)秘湯の旅 代表後藤民夫」を被供託者として右送金された金額を供託した。

2  右事実によれば、後藤は原告の代表取締役として被告の営業員である小原に対し本件航空券についての手配を依頼し、小原はこれを承諾したものであつて、遅くとも小原が請求書発行の前提として確認のファックスを入れた一〇月二五日午前までには既に予約手配が完了されており、原、被告間に本件航空券の手配を内容とする本件契約が成立していたものということができる。

被告バケーションは、本件契約の注文者は原告でなく秘湯の旅である旨主張し、証人小原の証言中にはこれにそう供述部分がある。しかし、<1>後藤としては、代表取締役として原告のために本件契約をする意思であつたといえるし、現に、本件航空券の引換証とする趣旨で顧客に渡された書類も、原告名で出されていること、<2>小原は、かつてユーアイツアーの名古屋営業所に勤務していた当時、営業員として原告を担当していたもので、後藤が原告の代表者であることを熟知していたこと、<3>小原の証言によれば、小原は昭和六〇年に大阪営業所に転勤してからは、特に後藤との付き合いはなかつたというのであり、秘湯の旅の存在や後藤との関係を知つていたとは考えにくく、本件契約当時、小原としては、原告の代表取締役としての後藤という認識であつたとみるのが自然であること、<4>後藤は、秘湯の旅の代表取締役でないことなどからすると、後藤は原告の代表者として本件契約をする意思であつたし、小原としても、後藤が原告のために本件契約をなすものであることを知つていたというべきであつて、小原の前記供述部分はたやすく措信することができず、被告バケーションの右主張は失当である(なお、本件契約は商行為であるから、本件契約に際して後藤が原告のためにすることを表示しなかつたことは、本件契約が原告と被告バケーションとの間に成立したと認めることの妨げとならないし、また、被告バケーションが主張するように、旅行業者の登録を有しているのが秘湯の旅で、原告ではないからといつて、当然に本件契約が秘湯の旅との間で成立するということになるものでないことはいうまでもない。)。

3  そこで、被告バケーションの不法行為責任の有無について検討するに、前記認定した事実からすると、被告は、原告から本件航空券の手配を依頼され、その手配を完了した旨原告に対し連絡をし、後は代金の清算等を残すだけという状況にありながら、出発日の前日ないし数日前という時期になつて、突然に、予約記録を取り消し、原告の依頼は受けられないとして、本件契約を解除する措置に出たものであつて、このような時期になつて手配を拒絶されたときは、もはや他店に新たに団体割引航空券の手配を依頼する時間的余裕はなく、原告としては、顧客との契約を履行するため代替の航空券を確保するなどの措置をとらざるをえないこととなり、その結果損害を被るであろうことは、旅行業者である被告バケーションにおいて当然に認識していたものと推認することができるから、そのような状況のもとで、被告バケーションがあえて右のような措置に出たことは、原告に対する不法行為を構成するものということができ、被告バケーションには原告の後記損害を賠償すべき責任がある。

4  次に、原告は、被告日航が被告バケーションに圧力をかけて本件契約を解除させた旨主張するが、既に認定したとおり、被告バケーションが解除の措置に出たのは、被告バケーション独自の政策的理由に基づくものであつて、本件全証拠を検討しても、原告が主張するような被告日航の圧力があつたとの事実を窺わせる証拠はなく、この点に関する原告代表者本人の供述は憶測の域を出るものではない。したがつて、本件契約の解除に関して被告日航の不法行為を認める余地はなく、右不法行為を理由とする原告の被告日航に対する請求は理由がない。

5  そこで、次に被告バケーションの前記不法行為によつて原告が被つた損害について検討する。

(一)  《証拠略》によれば、原告は、被告から本件契約解除の通知を受けた後、直ちに、顧客の旅行を確保するため、代替の航空券の購入を手配し、その購入代金として別紙一覧表「代替航空券代金」欄記載のとおり合計一一四万七二五〇円を支出し、被告バケーションとの本件契約が履行された場合と比較して合計三五万九四五三円を余分に負担することを余儀なくされたことが認められる。

(二)  また、弁論の全趣旨によれば、原告は右損害賠償を求めるため本訴の提起追行を弁護士に委任し、相当額の報酬を支払う約束をしたことが認められるところ、本件事案の性質、認容額等に鑑みれば、被告バケーションの前記不法行為と相当因果関係のある弁護士費用は三万五〇〇〇円と認めるのが相当である。

6  したがつて、原告の被告バケーションに対する主位的請求は、右損害の合計三九万四四五三円とこれに対する平成二年一二月一日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるが、その余は理由がない(なお、原告は、予備的請求として民法六五一条二項に基づく損害賠償を求めるが、同条に基づいては弁護士費用まで請求することはできないと解すべきであり、主位的請求において認容された損害額を超える損害を認める余地はないから、予備的請求は理由がない。)。

三  被告日航に対する妨害予防請求等(請求原因3)について

原告がかかる請求をなしうる法律上の根拠があるかどうかについては問題の存するところであるが、その点はさておき、原告が妨害のおそれの根拠として挙げる本件契約解除についての被告日航の圧力なるものが、原告の憶測の域を出ず、認められないことは前示のとおりであり、また、本件全証拠を検討しても、他に被告日航が原告に対して主張のような妨害行為をするおそれがあることを認めるに足りる証拠はない。

したがつて、原告の被告日航に対する妨害予防請求は、その前提を欠くものであつて、その余の点につき検討するまでもなく理由がないし、右請求が理由がない以上、右請求のための弁護士費用の請求も理由がないことは明らかである。

四  被告日航及び被告ジャパンに対する差止請求等(請求原因4)について

原告は、被告日航及び被告ジャパンの行為によつて営業上の被害を被ることを理由にその差止めを求めるものであるところ、そのような営業上の被害を受けることを理由に差止請求権を肯認できるかどうかについては問題の存するところであるが、その点はさておき、前記認定のとおり、原告には旅行業者の登録がなく、したがつて手配旅行などの旅行業を営むことはできないことはもとより、原告代表者本人尋問の結果によれば、原告は、主として国際線の航空券を手掛けており、国内線の航空券はほとんど扱つていないというのであつて、原告が差止めを求める被告日航及び被告ジャパンの行為によつて、原告に具体的にどのような営業上の被害が生ずるというのか全く明らかでない。のみならず、原告代表者本人尋問の結果によれば、原告は、自ら航空券の発券業務を行つているわけではなく、専ら、顧客の注文を受け、その日時等の希望に沿う格安の航空券を販売している旅行業者に依頼して、顧客に提供するという形で営業しているのであつて、航空会社やその代理店(被告ジャパンはこれに当たる。)と競業関係にあるものではないのであるから、本件差止めを求める右被告らの行為によつて原告の営業に被害が生じるとは到底認められない。

したがつて、原告の被告日航及び被告ジャパンに対する本件差止請求は、その前提を欠くものであつて、その余の点につき検討するまでもなく理由がないし、右請求が理由がない以上、右請求のための弁護士費用の請求も理由がないことは明らかである。

五  被告日本エアに対する差止請求等(請求原因5)について

1  被告日本エアは、同被告に対する本件差止請求は差止めの対象となる行為が不明確で特定されていない旨主張するが、原告の請求は、被告日本エアの定める国内線の搭乗優待証の取扱に関する規則(被告日本エアがこのような規則を定めていることは、同被告の認めるところである。)に違反するCF券の販売又は拡布の禁止を求めているのであつて、原告が求める被告日本エアの不作為の内容は一応明らかになつており、差止めの対象となる行為としてその特定性に欠けるところはないと認められるから、被告日本エアの右主張は採用できない。

2  そこで、本件差止請求権の成否についてみるに、そもそも原告主張のような営業上の被害を受けることを理由に差止請求権を肯認できるかどうかについては問題の存するところであるが、その点はさておき、前記四で判示したとおり、原告は、旅行業者の登録がなく、主として国際線の航空券を手掛け、国内線の航空券はほとんど扱つていないのであつて、差止めを求める被告日本エアの行為によつて、原告に具体的にどのような営業上の被害が生ずるというのか全く明らかでない。

したがつて、原告の被告日本エアに対する本件差止請求もまた、その前提を欠くものであつて、その余の点につき検討するまでもなく理由がないし、右請求が理由がない以上、右請求のための弁護士費用の請求も理由がないことは明らかである。

六  結論

以上のとおりであつて、原告の本訴請求は、被告バケーションに対し三九万四四五三円及びこれに対する平成二年一二月一日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるから認容し、同被告に対するその余の請求及びその余の被告らに対する請求はいずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 佐藤久夫 裁判官 山口 博 裁判官 金光秀明)

《当事者》

原告 株式会社サカエ・トラベル・サービス

右代表者代表取締役 後藤民夫

右訴訟代理人弁護士 浅井岩根

被告 株式会社バケーションプラン

右代表者代表取締役 棚橋 保

右訴訟代理人弁護士 朝日純一

被告 日本航空株式会社

右代表者代表取締役 利光松男

右訴訟代理人弁護士 西 迪雄 同 向井千杉 同 富田美栄子 同 山下 淳

被告 ジャパンツアーシステム株式会社

右代表者代表取締役 足羽義郎

右訴訟代理人弁護士 斉藤則之

被告 株式会社日本エアシステム

右代表者代表取締役 真島 健

右訴訟代理人弁護士 畠山保雄 同 明石守正 同 武田 仁 同 中野明安

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