東京地方裁判所 平成2年(ワ)15998号 判決 1991年10月22日
原告
三浦泰
被告
遠藤昌宏
主文
一 被告は、原告に対し、金二〇四万九一二八円及びこれに対する平成二年四月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は、これを五分し、その四を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。
四 この判決は、原告勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告は、原告に対し、金二八九万四五八七円及びこれに対する平成二年四月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
原告の請求を棄却する。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 本件事故の発生
平成二年四月一七日午前七時五三分ころ、原告が普通乗用自動車(車両番号品川三三ゆ四八〇九、以下「被害車」という。)を運転して、東京都世田谷区深沢四丁目二一番一九号所在の交差点(以下「本件交差点」という。)を通過しようとしたところ、突然、被告が、普通乗用自動車(車両番号品川五三ま六六三七、以下「加害車」という。」)を運転し、原告の進行方向左側から本件交差点に進入したため、被害車の左側面に衝突し、その結果、被害車は大破した。
2 被告の責任
被告は、本件交差点に進入する際、原告の進行する道路が優先道路であり、かつ被害車がすでに本件交差点内に進入していたのであるから、本件交差点の手前で一時停止をし被害車の通過を待つて本件交差点に進入すべき注意義務があつたにもかかわらず、これを怠り、漫然と本件交差点に進入した過失により、加害車を被害車の左側面に衝突させ、被害車を大破させたものであるから、民法七〇九条に基づき、後記の損害を賠償する責任がある。
3 損害合計 金二八九万四五八七円
(一) 修理費 金二〇五万四五八七円
原告は、本件事故のため大破した被害車の修理代として、金二〇五万四五八七円を支払つた。
(二) 評価損 金三〇万円
原告は、本件事故のため、被害車につき、修理ではまかなうことのできないいわゆる評価損として、金三〇万円の損失を被つた。
(三) 弁護士費用 金五四万円
被告は、本件事故によつて原告が被つた損害を支払わないので、原告は、本件訴訟代理人弁護士らに対し、本件訴訟の報酬として、金五四万円を支払う旨約した。
よつて、被告は、原告に対し、民法七〇九条に基づき、金二八九万四五八七円及びこれに対する本件事故の日である平成二年四月一七日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する認容
1 請求原因1のうち、原告主張の日時場所において本件事故が発生したことは認め、その余の事実は否認する。
2 同2の事実及び主張は争う。
被告は、徐行して本件交差点に進入しているのであり、本件事故は、原告が安全確認を怠つて本件交差点に進入して、加害車に衝突したことによつて発生したものである。
3 同3の事実は否認する。
第三証拠
本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるからこれを引用する。
理由
一 事故態様及び責任
請求原因1の事実のうち原告主張の日時場所において本件事故が発生したことは当事者間に争いはない。
右事実に、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき甲第一号証、原告本人尋問の結果によつて本件事故現場の写真であることが認められる甲第二号証、同甲第五号証に、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すると、
1 本件事故現場である東京都世田谷区深沢四丁目二一番地一九号所在の本件交差点は、南西方面から北東方面に向かう一方通行路(以下、単に「南北方向の道路」という。)と、北西方面から南東方面に向かう一方通行路(以下、単に「東西方向の道路」という。)とが交差する交通整理の行われていない交差点であり、東西方向の道路は、その南側に平行してとおる南東方面から北西方面に向かう一方通行路とともに、呑川緑道と呼ばれ、その中央には公園様の緑地帯が設置されている。また、東西方向の道路には、本件交差点の手前に一時停止の標識が設置され、右道路上には、停止線及び「止まれ」との記載があり、他方、南北方向の道路は、呑川緑道の緑地帯部分にあつた木などのため、本件交差点における左右の見とおしがきかない状況であつた。
なお、南北方向の道路の幅員は、東西方向の道路の幅員より若干広いが、両者の間には優先関係はない。
2 原告は、平成二年四月一七日午前七時五三分ころ、被害車を運転し、南西方面から北東方面に向かつて本件交差点を通過しようとしたところ、突然、被告が、加害車を運転し、北西方面から南東方面に向かつて本件交差点に進入し、加害車の前部を被害車の左前フエンダー部分に衝突させ、勢い余り、本件交差点を横断した地点で停車した。他方、被害車は、右衝突のため、前部フエンダーやボンネツトを曲げられ、フロントフレームやその内部にあるエンジンルームなどの損傷を受けた。
以上の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。
右認定の本件事故現場の状況及び本件事故態様によれば、被告には、本件交差点を進行するに際して、一時停止する義務があるにもかかわらず、右義務を怠り、漫然と進行した過失があるので、民法七〇九条に基づき、原告の被つた損害を賠償する責任がある。
二 損害
1 修理費
原告本人尋問の結果により真正に成立したと認められる甲第三号証の一、二と同甲第六号証の一ないし二一及び原告本人尋問の結果によれば、原告は、本件事故のため破損した被害車を株式会社アウトバーンモーターで修理し、同会社に対し、修理代として、金二〇五万四五八七円を支払い、同額の損害を被つたことが認められる。
2 評価損
原告は、本件事故のため、被害車に金三〇万円の評価損が発生した旨主張し、右主張に沿う甲第四号証を提出するが、右書証は、単に、被害車を修理した株式会社アウトバーンモーターが作成したものにすぎないうえ、原告が、二〇〇万円以上の費用をかけて本件事故による被害車の破損の修理をしていることは先に認定したとおりであり、また、原告が、本人尋問において、右修理の結果、被害車には、ドア部分に塗装のかすれがあつたほかは特に支障はなかつた旨供述しており、かつ右会社に対して修理の結果について苦情を述べた形跡もないことに照らすと、被害車に評価損が発生したことを認めることはできず、他に右損害を認めるに足りる証拠はない。
三 過失相殺
前記一認定の本件事故現場の状況によれば、本件交差点は、左右の見とおしのきかない交差点であり、かつ、交通整理が行われていない交差点であるから、本件交差点に進入するにあたり、被害車を運転する原告としては、徐行したうえで、特に左側方から進入してくる車両等に十分注意して進行する注意義務があつたというべきである(道交法四二条参照)。
原告は、本人尋問において、本件交差点を通行する際には、交差点の手前で一時停止をしたうえ、徐行して進行した旨供述しているが、前記一認定の事故態様からすれば、原告は、加害車と被害車とが衝突するまで、左側方から進入してきた加害車の存在について、まつたく気づいていなかつたことが窺われるのであり、右事実からすれば、原告には、前記注意義務に反し、漫然と本件交差点に進入した過失があるというべきである。
したがつて、本件賠償額の算定にあたつては、原告の右過失を考慮し、原告の損害に一割の過失相殺をするのが相当であるから、前記二認定の損害額金二〇五万四五八七円に一割の過失相殺をした金一八四万九一二八円(円未満四捨五入)が、原告の損害と認めるのが相当である。
四 弁護士費用
原告が、本件訴訟代理人弁護士らに対し、本件訴訟の報酬として相当額の支払を約していることは、弁論の全趣旨によつて明らかであるところ、本件事案の性質、審理の経過及び認容額に照らすと、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用は、金二〇万円と認めるのが相当である。
五 以上のとおり、原告の被告に対する請求は、金二〇四万九一二八円及びこれに対する本件事故の日である平成二年四月一七日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余の請求は理由がないのでこれを棄却し、訴訟費用の負担につき、民訴法八九条、九二条本文を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 稲葉威雄 石原雅也 見米正)