東京地方裁判所 平成2年(ワ)4509号 判決 1990年10月11日
原告
浅川澄江
右訴訟代理人弁護士
岩佐直径
右訴訟復代理人弁護士
山岸良太
同
壽原孝満
原告
大澤裕義
同
大盛悦子
右原告二名訴訟代理人弁護士
本林徹
同
山岸良太
同
龍村全
同
金丸和弘
右山岸良太訴訟復代理人弁護士
壽原孝満
原告
野口節子
右訴訟代理人弁護士
伊藤昌釭
右訴訟復代理人弁護士
壽原孝満
原告
武田佐和子
右法定代理人親権者母
武田亨子
右訴訟代理人弁護士
壽原孝満
右訴訟復代理人弁護士
山岸良太
被告
株式会社富士銀行
右代表者代表取締役
端田泰三
右訴訟代理人弁護士
海老原元彦
同
広田寿徳
同
竹内洋
同
馬瀬隆之
同
谷健太郎
主文
一 被告は、原告浅川澄江に対し、金九六四六万二五七七円及びこれに対するこの判決の確定した日の翌日から支払い済みまで年六分の割合による金員を支払え。
二 被告は、原告大澤裕義に対し、金一七五三万八六五〇円及びこれに対するこの判決の確定した日の翌日から支払い済みまで年六分の割合による金員を支払え。
三 被告は、原告大盛悦子に対し、金一七五三万八六五〇円及びこれに対するこの判決の確定した日の翌日から支払い済みまで年六分の割合による金員を支払え。
四 被告は、原告野口節子に対し、金一七五三万八六五〇円及びこれに対するこの判決の確定した日の翌日から支払い済みまで年六分の割合による金員を支払え。
五 被告は、原告武田佐和子に対し、金八七六万九三二六円及びこれに対するこの判決の確定した日の翌日から支払い済みまで年六分の割合による金員を支払え。
六 訴訟費用は被告の負担とする。
七 この判決は、第一項ないし五項について仮に執行することができる。
事実及び理由
第一原告の請求
主文同旨
第二事案の概要
一当事者
原告浅川澄江は、平成元年七月五日に死亡した浅川正義の妻であり、その余の原告らは、浅川正義の子である。原告らを含む浅川正義の相続人の法定相続分は次のとおりである(<証拠略>)。
原告浅川澄江 二分の一
原告大澤裕義 一一分の一
原告大盛悦子 一一分の一
原告野口節子 一一分の一
原告武田佐和子 二二分の一
訴外浅川庄三 一一分の一
訴外浅川雅子 一一分の一
二被告の神田支店には、次のとおりの預金及び貸越がある。
1 当座預金(口座番号三二二七二) 金一億四四九三万二八九六円
2 総合口座(口座番号五三九三三六)
(一) 定期預金(満期日は平成二年六月三日) 金一〇〇万円
(二) 当座貸越 金四万二三五〇円
3 普通預金(口座番号一五五四六二二) 金四七〇三万四六〇八円
右の各預金ないし口座のうち、1及び2は、被告と浅川正義との間で契約が締結されたものである。また、3は、浅川庄三が預金口座開設手続をしたものである(以上は当事者間に争いがない。)。
三争点
右1の当座預金(以下「本件当座預金」という。)の預金残高のうち浅川正義の死亡後に入金されたもの及び右3の普通預金(以下「本件普通預金」という。)について、原告らが各自の法定相続分に従った払戻請求権を有するかどうかが争点である。
第三争点に対する判断
一本件当座預金について
本件当座預金の残高は、浅川正義が死亡した平成元年七月五日においては金三七一万九一〇二円であったが、その後、同年七月二一日に千倉観光開発株式会社が金一億四〇五二万二〇〇九円を、同年七月二五日に新日本観光開発株式会社が金六九万一七八五円をそれぞれ振込み、本件預金口座に入金されたので、金一億四四九三万二八九六円となった(当事者間に争いがない。)。なお、被告は、浅川正義の死亡を知っていたが、振込人からの依頼があったので、右各振込金を、本件当座預金口座へ入金したものである。浅川正義は、千倉観光開発株式会社に対しては金一億四〇五二万二〇〇九円の貸金債権を、また、新日本観光開発株式会社に対しては金六九万一七八五円の給料債権等を有していたので、前記の振込は、その各弁済のためにされたものである(<証拠略>、弁論の全趣旨)。
以上の事実によれば、本件当座預金に入金されている金員のうち浅川正義が死亡した当時の残高については、相続財産を構成するものであり、また、死亡後に入金された部分については浅川正義の相続財産である債権の化体した代償財産と認められるので、浅川正義の相続人は、各自の法定相続分に応じてその全部の払戻しを請求する権利を有する。
二本件普通預金について
本件普通預金は、「故浅川正義相続人浅川庄三」との名義で開設されたものであり、浅川庄三により、浅川正義を受取人とする約束手形の取立金として、平成元年一二月二七日に金六〇〇万円及び金三〇〇万円、同年七月二八日に金三八〇〇万円の入金がされた(当事者間に争いがない。)。
本件普通預金口座に入金されたのは、浅川正義が生前所持していた弘和開発株式会社の振出にかかる約束手形三枚(手形合計四七〇〇万円)の取立金である。また、浅川庄三は、浅川正義の死亡後、その遺産目録や相続税の申告書類を作成するなどの相続財産の管理を行っていた者であるところ、浅川正義の相続財産をめぐって、家庭裁判所において原告らとその他の相続人らとの間で遺産分割調停がなされているが、本件普通預金が相続財産を構成するものであることについては原告らとの間で争いがない(<証拠略>)。
以上の事実によれば、本件普通預金に入金されている金員は、浅川正義の相続財産である債権の化体した代償財産と認められ、また、預金行為をした浅川庄三は、自己を含む浅川正義の相続人のためにする意思で本件普通預金口座の開設手続をしたものと推認するのが相当である。従って、浅川正義の相続人は各自の法定相続分に応じてその払戻しを請求する権利を有する。(なお、本件普通預金契約は、浅川庄三が締結したものであるが、以上の事実関係によれば、同人は、浅川正義の相続人の代理人又は使者として本件預金契約を締結したか、もしくは浅川正義の相続人を第三者とする第三者のためにする契約として本件普通預金契約を締結したものといえ、原告らが本件訴訟においてその払戻しを請求している以上、追認もしくは受益の意思表示があったものといえる。)
(裁判長裁判官髙木新二郎 裁判官佐藤陽一 裁判官谷口豊)