東京地方裁判所 平成2年(ワ)7479号 判決 1990年12月10日
原告 株式会社大真
代表取締役 木立勉
原告 三愛商事株式会社
代表取締役 小高知久
右二名訴訟代理人弁護士 若山保宣
被告 有限会社光伸
代表取締役 八重マツヨ
被告 八重マツヨ
被告 田中仁太郎
主文
一 被告有限会社光伸、被告八重マツヨ及び被告田中仁太郎は、原告株式会社大真に対し、連帯して金一八二万三〇八四円及びこれに対する平成元年一二月六日以降支払い済みまで年三〇%の金員を支払え。
二 被告有限会社光伸、被告八重マツヨ及び被告田中仁太郎は、原告三愛商事株式会社に対し、連帯して金四七万九七七四円及びこれに対する平成元年一二月六日以降支払い済みまで年三〇%の金員を支払え。
三 原告らのそのほかの請求を棄却する。
四 訴訟費用は、被告らの負担とする。
五 この判決は、仮に執行することができる。
事実及び理由
一 原告らの請求
(いずれも貸金の請求として)
1 被告有限会社光伸、被告八重マツヨ及び被告田中仁太郎は、原告株式会社大真に対し、連帯して金一八八万三〇三五円及びこれに対する平成元年一二月六日以降支払い済みまで年三〇%の金員を支払え。
2 被告有限会社光伸、被告八重マツヨ及び被告田中仁太郎は、原告三愛商事株式会社に対し、連帯して金五〇万六五七三円及びこれに対する平成元年一二月六日以降支払い済みまで年三〇%の金員を支払え。
二 事案の概要
1 本件は、主債務者及び連帯保証人に対し貸金の請求をするものであるが、主債務者である被告有限会社光伸が別紙一及び二の支払利息、支払元本欄記載の金員を支払ったことは争いがない。そして、原告らは、被告光伸の支払った金員の一部(別紙一及び二の天引き利息と丸印のつかないもの)について、貸金業の規制等に関する法律(貸金業法)四三条の適用を受けるものとして、貸金残額を計算し請求している。
2 争点
(一) 原告株式会社大真は、後記の貸付当時、登録番号東京都知事(1) 第〇七八二五号の登録を受け、貸金業を営んでいる者であったか。
(二) 原告三愛は、後記の貸付当時、登録番号関東財務局長(1) 第〇〇六三二号の登録を受け、貸金業を営んでいる者であったか。
(三) 原告大真は、光伸に対し、次のとおり貸し付けたか。
<1>ア 貸付年月日 平成元年八月一一日
イ 貸付金額 五〇万円
ウ 弁済期・弁済方法 最終弁済期 平成元年一二月五日
エ 利息 年五三・五七%
オ 遅延損害金 年五四・七五%
カ 特約 一回でも元利金の支払を怠ったときは、期限の利益を失う。
<2>ア 貸付年月日 平成元年八月一七日
イ 貸付金額 六〇万円
ウ 弁済期・弁済方法 最終弁済期 平成元年一二月五日
エ 利息 年五三・五七%
オ 遅延損害金 年五四・七五%
カ 特約 一回でも元利金の支払を怠ったときは、期限の利益を失う。
<3>ア 貸付年月日 平成元年九月二九日
イ 貸付金額 五〇万円
ウ 弁済期・弁済方法 最終弁済期 平成元年一二月五日
エ 利息 年五三・五七%
オ 遅延損害金 年五四・七五%
カ 特約 1回でも元利金の支払を怠ったときは、期限の利益を失う。
<4>ア 貸付年月日 平成元年一〇月二六日
イ 貸付金額 一〇〇万円
ウ 弁済期・弁済方法 最終弁済期 平成元年一二月五日
エ 利息 年五三・五七%
オ 遅延損害金 年五四・七五%
カ 特約 1回でも元利金の支払を怠ったときは、期限の利益を失う。
(四) 被告八重マツヨ及び被告田中仁太郎は、光伸の原告大真に対する債務について、平成元年六月八日三〇〇万円を限度として連帯保証したか。
(五) 原告三愛は、光伸に対し次のとおり貸し付けたか。
ア 貸付年月日 平成元年九月七日
イ 貸付金額 一〇〇万円
ウ 弁済期・弁済方法 最終弁済期 平成元年一二月五日
エ 利息 年五三・五七%
オ 遅延損害金 年五四・七五%
カ 特約 1回でも元利金の支払を怠ったときは、期限の利益を失う。
(六) 被告八重マツヨ及び被告田中仁太郎は、光伸の原告三愛に対する債務について、平成元年七月二五日五〇〇万円を限度として連帯保証したか。
(七) 原告らが天引きした利息について、貸金業法四三条の適用があるか。
(八) 原告らは、右の貸し付けの都度、遅滞なく、債務者及び連帯保証人に対し、(一)及び(三)のそれぞれの貸付についてのアからオまでに記載した事項、登録番号、住所地、商号並びに債務者が負担すべき元本及び利息以外の金銭に関する事項等貸金業法一七条、同法施行規則一三条、保証人については同規則一四条に定める事項を記載した契約書面を交付したか。
(九) 被告光伸は、別紙一及び二の支払利息欄記載の金銭を利息と指定して支払ったか。
(一〇) 右の支払は、任意の支払であったか。
(一一) 原告らは、別紙一及び二の支払利息欄のうち丸印のない分の支払を受けるについて、直ちに、被告光伸に対し、その支払に対応する受領金額、利息、元本への充当額、各弁済後の残存債務額及び原告らの商号、住所地、登録番号、契約年月日、貸付金額等貸金業法一八条、同法施行規則一五条に定める事項を記載した受取証書を交付したか。
三 争点についての判断
1 争点(一)(二)(貸金業の登録の有無)について
甲二及び甲六によれば、原告らが争点(一)及び(二)記載の登録を受けていた事実を認めることができる。
2 争点(三)(原告大真の貸付の有無)について
甲二、八1ないし4及び弁論の全趣旨によれば、争点(三)記載の貸付をした事実を認めることができる。
3 争点(四)(連帯保証の有無)について
甲二によれば、争点(四)の連帯保証の事実を認めることができる。
4 争点(五)(原告三愛の貸付の有無)について
甲六、九1によれば、原告三愛が争点(五)記載の貸付をした事実を認めることができる。
5 争点(六)(連帯保証の有無)について
甲六によれば、争点(六)の連帯保証の事実を認めることができる。
6 争点(七)(天引き利息と四三条の適用の有無)について
貸金業法四三条の文言をみると、同条は、利息制限法一条一項及び四条一項の特則であるとされているが、同法二条(利息の天引き)に対する特則とはされていない。これは、天引き利息の支払いは、貸付の条件とされているのが通常であり、利息を先払いするのでなければ貸付を受けられない状況で、債務者が支払うのは、任意の支払いとはいえず、貸金業法四三条適用の要件を欠くことによるものと考えられる。したがって、利息の天引きについては、それが合意の上であっても、貸金業法四三条の適用を受けることはできないと解するのが相当である。
7 争点(八)、(一〇)(貸付時の法定書面の交付の有無及び支払いの任意性)について
甲二、六、八1ないし4、九1によれば、原告らは、貸付前に金銭消費貸借基本契約書を主債務者及び連帯保証人に交付し、貸付時に借用証書を交付していることが認められる。
ところで、貸金業法一七条の規定により交付すべき書面には、返済の期間として弁済期を記載しなければならないが、原告らの交付した書面の記載は、次のようなものであった。
金銭消費貸借基本契約書の記載
「元利金の支払方法 乙(主債務者のこと)の申し出によりその都度決定(利息先払い)」
借用証書の記載 「返済期日……等借用条件については、上記受取証書(兼計算書)・金銭消費貸借基本契約書・取引約定書に記載されているとおりとします。」
借用証書の上部に印刷されている受取証書(兼計算書)の記載 返済日(支払期日)の欄があり日付が記載されている。
右の受取証書の返済日の欄に記載されている日付が真の弁済期であれば、弁済期の記載があることになるが、原告らの主張では、本件の貸付の最終弁済期は、平成元年一二月五日であって、右の欄に記載されている日付とは異なる。また、甲一五以下の受取証書をみると、同じ貸付についての返済日の記載が皆異なり、なかには返済日までの期間が一日や三日などという極めて短時間のものがある(甲一六2、一五2)。これらの事実を考慮すると、右の借用証書の上部に印刷された受取証書の返済日(支払期日)の欄に記載されている日付は、先取りする利息を計算する期間の終期を意味するにすぎず、真の弁済期を意味するものではないものと認められる。
そうすると、原告らが貸付の際に交付した書面には、貸金業法一七条一項六号で記載すべきものとされている「返済期間」の記載がないものといわざるをえない。そして、原告らは、貸付時に法定の書面を交付していないこととなるから、被告光伸から支払われた利息について貸金業法四三条の適用を受けることはできない。
もっとも、原告ら代理人の説明によると、原告らは、受取証書記載の日を弁済期として貸付け、その弁済期がきたときは、その時点で期限を猶予し、あるいは再度貸付けたこととし(受取証書には再貸の語がある。)、その際次の弁済期までの利息を先取りしているとのことである。そうであるとすると、受取証書の記載は、弁済期を示すこととなり、契約書面に弁済期を記載すべきものとした法の要件を満たすこととなる。しかし、その際に先払いするという利息は、期限の猶予または再度の貸付の条件となっていることが通常であり、利息を先払いしなければ、期限の猶予や再度の貸付を受けられない状況において債務者が支払うのは、天引き利息の支払いと同じく、任意の支払いとはいえない。そうすると、原告らが光伸から支払いを受けた利息について、貸金業法四三条の適用を受けることはできない。
四 結論
以上判断したところによると、天引き利息の元本充当の関係は、別紙一及び二の該当欄記載のとおりとなる。
そして、別紙一及び二の光伸の弁済について、利息制限法の制限利息を超える部分を元本に充当する方法により、残債権の額を計算すると、原告大真の残債権の元本は別紙三のとおり一八二万三〇八四円となり、原告三愛のそれは別紙四のとおり四七万九七七四円となる。
(裁判官 淺生重機)
別紙<省略>