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東京地方裁判所 平成2年(ワ)7633号 判決 1992年7月16日

原告

金野真理子

被告

外苑タクシー株式会社

ほか一名

主文

一  被告らは、原告に対し、連帯して、金四〇九万二五八五円及びこれに対する平成元年三月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用はこれを三分し、その一を被告らの負担とし、その余を原告の負担とする。

四  この判決は、原告勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、原告に対し、連帯して、金一二七五万五三八四円及びこれに対する平成元年三月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  交通事故の発生(以下、この事故を「本件事故」という。)

平成元年三月三〇日午前二時一〇分ころ、神奈川県横浜市鶴見区平安町一丁目二七番地先国道一五号線上交差点において、右折するため停止していた訴外車両(以下「訴外某車」という。)に、原告が客として乗車していたタクシー(普通乗用自動車、車両番号品川五五き六三〇〇、以下「被告車」という。)が追突した。

2  被告らの責任原因

被告らは、次の理由に基づき、連帯して、原告が本件事故により被つた損害を賠償すべき責任がある。

(一) 被告外苑タクシー株式会社(以下「被告会社」という。)

被告会社は、被告車の保有者であり、自己のために被告者を運行の用に供していた際に、本件事故を発生させたのであるから、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条本文により責任を負う。

(二) 被告斉藤修(以下「被告斉藤」という。)

被告斉藤は、本件事故当時、被告車を運転していた者であり、前方不注視の過失によつて本件事故を発生させたのであるから、民法七〇九条により責任を負う。

3  原告の受傷、通院経過及び後遺障害

原告は、本件事故により、頸椎捻挫、腰部捻挫、右膝打撲及び右肩打撲の各傷害を負い、病院等へ通院して治療を受けた結果、平成二年五月一五日、後遺障害を残して症状が固定した。

右通院経過及び後遺障害の内容は、次のとおりである。

(一) 通院経過

(1) 日本鋼管病院(整形外科)

平成元年三月三〇日(本件事故日)から平成二年五月一五日まで

(2) 田中治療室(マツサージ)

平成元年六月二六日から同年九年二一日まで

(二) 後遺障害

(1) 自覚症状

右肩及び頸部痛、頸及び右肩の運動制限、右手及び右上肢しびれ感、右上肢脱力感、頭痛及び吐気、目がちかちかする。

(2) 他覚症状等

右肩を中心とした右上肢筋力低下(握力右一九キログラム、左二〇キログラム)、右肩の可動域制限、筋電図にて右僧帽筋と右上肢二頭筋に神経原性変化あり、レ線では頸椎C4~C5間の不安定性あり。

右(1)及び(2)の後遺障害中、頭痛、吐気、頸部痛、右上肢しびれ感は自賠法施行令二条別表後遺障害別等級表(以下「自賠法施行令等級表」という。)の第九級一〇号に、右肩を中心とした右上肢筋力低下及び可動域制限は自賠法施行令等級表の第一〇級一〇号にそれぞれ該当し、併合して第八級相当となる。そして、右後遺障害は三年間存続する。

4  原告の損害

(一) 治療費(日本鋼管病院) 金六五万九六七五円

(二) 薬(温湿布)代 金五万三七四八円

(三) マツサージ施術料 金二万一〇〇〇円

(四) 文書料 金八五〇〇円

(五) 通院交通(バス)費

(1) 日本鋼管病院 (180円+180円+170円)×2回×101日 金一〇万七〇六〇円

(2) 田中治療室 180円×2回×6日 金二一六〇円

(六) 休業損害 297万2000円÷365日×398日 金三二四万〇七〇一円

原告は、本件事故当時、満二八歳で、特殊浴場のホステスとして稼働しており、平成二年賃金センサス第一巻第一表産業計・企業規模計・女子労働者・学歴計・二五~二九歳の平均給与額である二九七万二〇〇〇円をはるかに上回る収入を得ていたが、本件事故により、本件事故日から前記症状固定日である平成二年五月一五日までの間のうち三九八日間、休業を余儀なくされた。したがつて、右の平均給与額を基礎として右期間の休業損害を算定すると、右金額となる。

(七) 後遺障害による逸失利益 297万2000円×0.45×2.7310 金三六五万二四三九円

原告は、本件事故による前記各後遺障害によりその労働能力の四五パーセントを喪失し、その影響は症状固定日から三年間は継続するものであるから、右期間の逸失利益は、前記平均給与額を基礎とし、新ホフマン方式により年五分の割合による中間利息を控除して算定すると、右金額となる。

(八) 慰謝料

(1) 通院慰謝料 金一三〇万円

(2) 後遺障害慰謝料 金四〇〇万円

(九) 弁護士費用 金一一〇万円

5  よつて、原告は、被告らに対し、被告会社については自賠法三条本文に基づき、被告斉藤については民法七〇九条に基づき、連帯して、本件事故による損害賠償請求として、右4(原告の損害)の(一)ないし(八)の合計額である金一三〇四万五二八三円の内金一一六五万五三八四円と同(九)とを合計した金一二七五万五三八四円及びこれに対する本件事故日である平成元年三月三〇日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の各支払を求める。

二  請求原因に対する認否及び主張

1  請求原因1及び2は認め、3は知らない。同4のうち、(一)の治療費額は認め、その余は知らない。

2  本件事故は軽微な追突事故であり、原告主張のような傷害が生じることは通常あり得ないし、仮に傷害を負つたとしても、遅くとも本件事故の一か月後には治癒したものとするのが相当であつて、その後原告主張の症状が残つたとしても、それは心理的要因によるものであり、本件事故との間に相当因果関係はない。

第三証拠

本訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。

理由

一  請求原因1(交通事故の発生)及び同2(被告らの責任原因)の各事実については当事者間に争いがない。

したがつて、被告らは、原告に対し、被告会社については自賠法三条本文に基づき、被告斉藤については民法七〇九条に基づき、連帯して、本件事故により原告が被つた損害を賠償すべき責任がある。

二  請求原因3(原告の受傷、通院経過及び後遺障害)について判断する。

1  成立に争いのない甲第一号証、甲第一九号証、甲第二三号証の一及び二、甲第二四号証の一ないし四、乙第二号証の一ないし一五、乙第八号証、原本の存在及び成立に争いのない甲第三号証、甲第四号証ないし第九号証、乙第五号証、原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第一〇号証の一、甲第一二号証、甲第一三号証、甲第二二号証、被告斉藤本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる乙第一号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第二号証、甲第一〇号証の二ないし五、甲第一八号証、乙第四号証(原本の存在を含む。)、原告及び被告斉藤の各本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実を認めることができる。

(一)  本件事故の状況

本件事故現場は、国道一五号線上の信号機により交通整理が行われている変形十字路交差点(以下「本件交差点」という。)であり、右国道は、片側二車線(両側車道幅員は約一二・五メートル)の平坦なアスフアルト舗装の道路で、最高速度は時速五〇キロメートルと定められており、事故当時その路面は乾燥していた。

被告斉藤は、原告を後部座席左側に乗せ、被告車(タクシー)を川崎市方面から横浜市方面に向けて進行し、本件交差点を通過するにあたり、自己の対面信号が青色表示であつたことから、本件交差点を直進する意図で右国道の道路中央寄り第二車線を時速約六〇キロメートルで走行していたが、右斜め前方の歩道寄り第一車線を走行していた大型トラツクに気をとられたまま約七〇メートル進行し、本件交差点の手前約三〇メートルにおいて、前方の本件交差点入口付近に訴外某車(普通乗用自動車)が右折するため停車しているのを認め、追突の危険を感じ、直ちに急制動をするとともに右転把の措置を講じたが間に合わず、被告車の右前部を訴外某車の左後部フエンダー付近に衝突させた。

原告は、被告車の後部座席左側(助手席後)に背中を座席に付けて座り、身体を正面に向け、左手で左側ドアの把手をつかみ、顔を左側に向け窓の外を見ていたところ、右急制動により、身体が前方に移動し、右肩及び右膝を助手席背部にぶつけるとともに、助手席と後部座席の間に身体が横向きに落ちる形となつた。

本件事故後、道路上には、被告車のスリツプ痕が約二〇メートルにわたつて印象され、また、被告車は、本件事故によりフロントバンパー、右フロントフエンダー、右ライト等を損傷し、右部品の交換等により生じたその修理費用は合計金一〇万九五〇〇円であつた。

(二)  原告の診療・通院経過

本件事故後、被告斉藤は、原告に対しその状態を尋ねるとともに、被告車を道路左端に寄せて救急車を呼ぶべく一一九番へ電話したが、原告から不要である旨告げられたため、救急車を断つた。

その後、原告は、自宅から内縁関係にある金野剛に車で迎えに来てもらい帰宅し寝ていたところ、首及び腰が痛くなつたため、翌日(平成元年三月三一日)日本鋼管病院で診療を受け、頸椎捻挫、腰椎捻挫、右肩・右膝打撲の各傷病名により、二一日間安静、通院加療を要する旨の診断を受けた。

原告は、その後平成二年五月一五日までの間、同病院に通院(平成元年三月三一日及び平成二年五月一五日を含め、実通院日数九九日。)して内服薬(精神・情緒不安定剤及び鎮痛剤等)、外用薬(湿布剤)、針等を用いた治療を受けるとともに、介達牽引療法、運動療法等の処置を受けたが、頸部痛、右肩痛等の自覚症状は、低下はしたものの依然治まらず、平成二年五月一五日、「自覚症状として、<1>右肩・頸部痛、<2>頸と右肩の運動制限、<3>右手及び右上肢しびれ、<4>右上肢脱力感、<5>頭痛・吐気あり、<6>目がちかちかする、精神・神経の障害、他覚症状及び検査結果として、<1>両上・下肢知覚正常、反射正常、<2>右肩を中心とした右上肢筋力低下あり(右肩甲骨及び右肩関節の徒手筋力検査結果は、他部位の同検査結果が5((Normal=最大抵抗を加えても、なお重力に抗して完全に動く。))であつたのに対して、4((Good=若干の抵抗を加えても、なお重力に抗して完全に動く。))であつた。)、<3>右肩の可動域制限あり(右肩関節可動域範囲計測結果は、屈曲が自動一五〇度他動一五五度、伸展が自動四五度他動五〇度、外転が自動一三〇度他動一三五度、外旋が自動七〇度他動八〇度、内旋が自動一〇〇度他動一一〇度であつた。)、<4>筋電図にて右僧帽筋と右上肢二頭筋に神経原性変化あり、<5>CT、EEGは脳神経症状はつきりしないので施行せず、<6>レ線では頸椎C4~C5間の不安定性ありという後遺障害を残して症状が固定し、右後遺障害の見通しについては、頸部痛、右肩痛などは数年間は続くものと思われる。」旨の診断を受けた。

(三)  右通院期間中及び現在に至るまでの原告の生活状況

原告は、本件事故以前から特殊浴場のホステスとして稼働しており、本件事故当時も東京都品川区東大井五丁目にある特殊浴場「大名」(中野商工株式会社経営)で働いていた(平成元年の稼働実日数は、一月が一七日、二月が二一日、三月が二三日)が、本件事故により、その事故日に同店を退職し、その後は、右通院治療中、家事を可能な範囲で行つていたが、頭痛、右肩痛などのため家事が困難となる場合があり、妹に手伝いに来てもらうなどしていた。そして、現在も仕事はせず、自宅におり、最低限の家事をする以外は、頭痛や吐気のため寝ていることが多い。

2  右認定の事実によれば、原告は、本件事故により、頸椎捻挫、腰椎捻挫、右肩打撲及び右膝打撲の各傷害を負い、平成二年五月一五日、頭痛、吐気、頸部痛、右上肢しびれ感、右肩を中心とした右上肢筋力低下、右肩の可動域制限等の後遺障害(以下、右後遺障害中、頭痛、吐気、頸部痛、右上肢しびれ感を併せて「本件後遺障害」という。)を残して症状が固定したものというべきであり、本件後遺障害は、その内容、程度及び他覚症状等に鑑み、自賠法施行令等級表第一四級一〇号にいう「局部に神経症状を残すもの」に該当するものと認めるのが相当である。

原告は、本件事故により、自賠法施行令等級表第九級一〇号(頭痛、吐気、頸部痛、右上肢しびれ感)及び同第一〇級一〇号(右肩を中心とした右上肢筋力低下及び可動域制限)に該当する後遺障害が残つた旨主張し、これと同一の記載内容を有する診断書(甲第一一号証)も存するが、前記認定の事実に照らすと、原告の後遺障害の程度はその主張する右等級に該当するものであるとは認め難く、甲第一一号証中等級認定に関する部分は採用することができず、他に原告にその主張する各等級に該当する後遺障害が残つたことを認めるに足りる証拠はない。

他方、被告らは、本件事故が軽微な追突事故であるとして、原告主張の各傷害を負うことはないし、仮に傷害を負つたとしても早期に治癒したものとするのが相当であり、その後の症状については仮にそれが存在するとしても心理的要因によるものであつて本件事故とは相当因果関係がない旨主張する。しかしながら、前記認定の本件事故の状況からすれば、本件事故は決して軽微な事故ということはできず、追突の前段階である急制動による衝撃は、かなり強いものであつたと認められるから、被告らの主張は失当であり、乙第三号証の一(意見書)中の右認定に反する部分も採用することができない。なお、被告斉藤本人の供述によれば、同人は本件事故により何ら負傷していないことが認められるが、同人らは自ら急制動措置を講じた者で、それから生じる衝撃を予期してこれを回避する態勢をとり得たと考えられるので、本件事故によつて原告のみが受傷したことは何ら不自然ではない。また、心理的要因の寄与についても、確かに、原告には、自己の手帳(前掲甲第一二号証及び甲第一三号証)に本件事故後ほぼ毎日その日の症状、事故の相手方である被告らとの交渉経緯等について詳細なメモを残すなど几帳面な性格が窺われ、原告の症状は自覚的な訴えを中心としたものであることからすると、原告の心理的ないし心因的要因が本件事故後の諸症状に微妙な影響を与えていることは考えられないわけではないが、前記認定の後遺障害の程度からすれば、原告の前記諸症状と本件事故との間の相当因果関係を認定することの妨げとなる程の心理的ないし心因的要因が寄与したと認めることはできない。

三  請求原因4(原告の損害)について判断する。

1  治療費(日本鋼管病院) 金六五万九六七五円

日本鋼管病院での治療費が右金額であることについては当事者間に争いがなく、前記認定の治療経過に照らせば、その治療費全額について本件事故との相当因果関係を肯認することができる。

2  薬(温湿布)代 金五万三七四八円

原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第一四号証の一ないし四、甲第二〇号証の一ないし二四、甲第二一号証の一及び二並びに原告本人尋問の結果によれば、原告は、平成二年三月二〇日から平成三年八月二〇日までの間、温湿布代として右金額を出捐したことが認められるところ、前記認定の原告の症状、本件後遺障害の内容及び程度に鑑みれば、その必要性を認めることができる。

3  マツサージ施術料 金二万一〇〇〇円

原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第一五号証、甲第一六号証の一ないし五並びに原告本人尋問の結果によれば、原告は、平成元年六月二六日から同年九月二一日までの間、五回田中治療室においてマツサージ治療を受け、その施術料として右金額を出捐したことが認められるところ、前記認定の原告の症状、本件後遺障害の内容及び程度に鑑みれば、その必要性を認めることができる。

4  文書料 金八五〇〇円

原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第一六号証の六、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第一七号証の一及び二並びに原告本人尋問の結果によれば、甲第一〇号証の一、甲第一一号証、甲第一五号証の各診断書の文書料として、右金額を出捐したことが認められる。

5  通院交通(バス)費 金一〇万九二二〇円

原告本人尋問の結果によれば、原告は、前記日本鋼管病院への通院のためその往復にタクシーを用い、一日当たり少なくとも金一六〇〇円の出捐をしたことが認められるが、原告の通院期間中の症状に照らせば、通院交通費としてはバス代の限度で相当因果関係を認めうるところ、原告本人尋問の結果によれば、右バス代としては一日当たり往復合計金一〇六〇円必要であることが認められるから、これを前記の実通院日数(九九日)及びそれ以外に診断書を得るため同病院に赴くなどした二日分に乗じ、また、田中治療室への通院にはバス代として一日当たり往復金三六〇円必要であることが認められるから、前記実通院日数(五日)及び診断書を得るため同治療室に赴いた平成二年四月一一日分(前記甲第一六号証の六によつて認められる。)に乗じて、通院交通費の総額を算定すると、金一〇万九二二〇円となる。

6  休業損害 金一〇五万五〇三四円

前記認定のとおり、原告は、本件事故により、その事故日である平成元年三月三〇日に勤務先の「大名」を退職し、その後現在までの間、傷害及び後遺障害の影響から稼働することなく生活して来ていることが認められる。そして、前記通院経過、通院時の原告の状態等からすれば、前記症状固定日までの通院期間中、平成元年中(延べ二七七日)については平均してその取得しうる所得の四割の休業損害を、平成二年中(延べ日数は一三五日であるが、原告が休業損害を請求する日数は三九八日分であるので、これから右平成元年中の二七七日を控除した一二一日分で算定する。)については同様の所得の二割の休業損害をそれぞれ認めるのが相当である。ところで、右休業損害算定にあたつての基礎収入額については、原告は平均月収が金一二〇万円程度であつた旨供述しているが、これを裏付ける客観的証拠はない。しかしながら、原告は、勤労意欲のある健康な本件事故当時満二八歳(昭和三五年八月三一日生)の女性であることからすれば、右期間中、少なくとも賃金センサス第一巻第一表産業計・企業規模計・学歴計・女子労働者の右年齢相当の平均給与額程度の収入は得られたであろうと推認されるから、平成元年分及び平成二年分それぞれについて当裁判所に顕著な同年の平均給与額を基礎とし、右休業損害を算定すると、次のとおり金一〇五万五〇三四円となる(一円未満切捨て)。

2,826,400÷365×277×0.4+2,972,000÷365×121×0.2=1,055,034,301

7  後遺障害による逸失利益 金三八万五四〇八円

前記本件後遺障害の内容及び程度からすれば、原告は、症状固定日から三年間にわたり、その労働能力の五パーセントを喪失したものと認めるのが相当というべきところ、前記認定のとおり、原告は本件事故当時賃金センサスの平均給与額程度の収入はあつたものと推認され、また、原告自身今後は事務の仕事をしたいと希望していることからすると、右三年の間、本件事故がなければ少なくとも原告主張にかかる前記平成二年の平均給与額程度の収入は得られたものと認められるから、右平均給与額を基礎として、ライプニツツ方式により年五分の割合による中間利息を控除して、右三年間の逸失利益の本件事故時における現在価額を算定すると、次のとおり金三八万五四〇八円となる(一円未満切捨て)。

2,972,000×0.05×(3.5459-0.9523)=385,408.96

8  慰謝料 金一五〇万円

前記認定の本件事故の態様、原告が本件事故により負つた傷害の内容及び程度、通院経過、残存した後遺障害の内容及び程度、その他本件に現われた一切の事情を斟酌すれば、本件事故による原告の精神的苦痛を慰謝するための金額は、右金額と認めるのが相当である。

9  以上の損害合計額は、金三七九万二五八五円となる。

四  弁護士費用

原告が本訴訟の提起及び遂行を原告訴訟代理人に委任したことは当裁判所に顕著であるところ、本件事案の難易、経過、認容額等を考慮すると、原告が本件事故と相当因果関係のある損害として被告らに対し賠償を求めうる弁護士費用の額は、金三〇万円とするのが相当である。

五  したがつて、本訴各請求は、原告が被告らに対し、連帯して、金四〇九万二五八五円及びこれに対する本件事故日である平成元年三月三〇日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度において理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条本文、九三条一項本文を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 小川英明 小泉博嗣 江原健志)

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