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東京地方裁判所 平成2年(ワ)7678号 判決 1993年1月27日

原告 株式会社 昇賢

右代表者代表取締役 文永明

右訴訟代理人弁護士 川上英一

同 高橋富雄

被告 日本相互住宅株式会社

右代表者代表取締役 塚本三千一

右訴訟代理人弁護士 長野源信

被告 国

右代表者法務大臣 後藤田正晴

右指定訴訟代理人 仲田光雄

同 開山憲一

同 岡野英郎

同 吉田光宏

主文

一、原告と被告日本相互住宅株式会社との間において、原告が別紙物件目録(一)記載の土地について、木造建物所有を目的とし、存続期間を平成元年六月一二日から三〇年間とする地上権を有することを確認する。

二、前項の地上権の地代を、一か月金四五二〇円と定める。

三、被告日本相互住宅株式会社は、原告に対し、別紙物件目録(一)記載の土地について、平成元年六月一二日法定地上権取得を原因とする第一項記載の地上権設定登記手続をせよ。

四、原告の被告国に対する請求を棄却する。

五、訴訟費用中、原告と被告日本相互住宅株式会社との間に生じたものは同被告の負担とし、原告と被告国との間に生じたものは原告の負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、請求の趣旨

1. 請求の趣旨第一ないし第三項に同じ。

2. 被告国は、原告に対し、金一〇〇万円及び平成二年三月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3. 訴訟費用は被告らの負担とする。

二、請求の趣旨に対する答弁(被告ら)

1. 原告の請求をいずれも棄却する。

2. 訴訟費用は原告の負担とする。

第二、当事者の主張

一、請求原因

1.(一) 訴外株式会社いすみ建設(以下「いすみ建設」という。)は、昭和五一年一〇月一三日、いすみ建設の訴外株式会社千葉銀行に対する銀行取引債務、手形債務及び小切手債務を担保するため、その所有に係る別紙物件目録(二)記載の建物(以下「本件建物」という。)及び別紙物件目録(三)記載の土地(以下「件外土地」という。)に対し、極度額六二五万円の根抵当権を設定し、同月一六日その旨の根抵当権設定登記をした。

(二) 右根抵当権は、昭和六一年七月二八日、弁済による代位により千葉信用保証協会に移転した。

2. 次いで、いすみ建設は、昭和五七年九月二〇日、近藤悦治から本件建物の敷地の一部である別紙物件目録(一)記載の土地(以下「本件土地」という。)を買い受けて所有権を取得し、同年一〇月六日、その旨の所有権移転登記を受けた。

3. いすみ建設は、昭和六〇年五月二五日、いすみ建設の訴外新日本工業株式会社に対する金銭消費貸借取引債務、手形債務及び小切手債務を担保するため、本件建物及び本件土地に対し、極度額六〇〇〇万円の根抵当権を設定し、同年七月二日その旨の根抵当権設定登記をした。

4. 千葉信用保証協会は、本件建物及び件外土地につき、1項(一)記載の根抵当権の実行として、昭和六二年一月二九日、千葉地方裁判所木更津支部に、同支部昭和六二年(ケ)第一一号不動産競売事件の申立てをし、原告は、平成元年六月一二日、本件建物及び件外土地を競落してその所有権を取得し、同月一三日その旨の所有権移転登記を受けた。

原告は、本件建物の競落の結果、本件土地について法定地上権(以下「本件地上権」という。)を取得した。

5. 被告日本相互住宅株式会社(以下「被告日本相互住宅」という。)は、平成二年一月二三日、東京国税局の公売処分(以下「本件公売処分」という。)により本件土地の所有権を取得した。

6. 原告は、平成元年八月三日、千葉地方裁判所木更津支部に、本件地上権に基づき地上権設定の仮登紀仮処分命令を申請し、同月四日地上権設定仮登記仮処分決定を得、同月二九日、その旨の登記(以下「本件仮登記」という。)を受けた。

7. 東京国税局長は、本件公売処分に際し、本件仮登記についての抹消登記を千葉地方法務局木更津支局に嘱託し、平成二年三月一日、本件仮登記は抹消された。しかし本件地上権は、本件建物に対する1項記載の根抵当権に後れる根抵当権である3項記載の根抵当権が設定された当時、本件建物と本件土地とが同一所有者(いすみ建設)に帰属していたことによるものであり、本件公売処分については、3項記載の根抵当権設定登記に後れる昭和六〇年八月九日に差押登記がされたものであるから、本件地上権は本件公売処分における買受人である被告日本相互住宅に対抗できるものであって、本件仮登記は、国税徴収法一二五条、不動産登記法二九条の「消滅する権利に係る登記」に該当しないから、東京国税局長は本件公売処分における買受人被告日本相互住宅への本件土地の所有権移転登記の嘱託に当たり、本件仮登記の抹消登記の嘱託をしてはならないのに、漫然と抹消登記嘱託を行った過失がある。

8. 原告は、本件仮登記の抹消により、次の損害を被った。

(一)  仮登記仮処分命令申請費用

弁護士費用 金二〇万円

(二)  本訴提起費用

弁護士費用 金三五万円

(三)  逸失利益損害金 金一〇〇万円

本件仮登記があれば法定地上権付き不動産として売却できたものが、本件仮登記の抹消により法定地上権付き不動産として売却できず、転売の機会を失い、これにより原告は右の損害を被った。

(四)  借入金金利負担損害 金一五五万円

9. よって、原告は、原告と被告日本相互住宅との間において、原告が別紙物件目録(一)記載の土地について、平成元年六月一二日法定地上権取得を原因とする木造建物所有目的、存続期間を平成元年六月一二日から三〇年間とする地上権を有することを確認すると共に、右地上権の地代を一か月金四五二〇円と定めることを求め、かつ、被告日本相互住宅に対し、法定地上権に基づき、別紙物件目録(一)記載の土地について、請求の趣旨第一項記載の地上権設定登記手続を求める。また、被告国に対しては、国家賠償請求として、金三一〇万円の一部である金一〇〇万円及びこれに対する平成二年三月一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二、請求原因に対する認否

(被告日本相互住宅)

1. 請求原因1の事実は知らない。

2. 請求原因2の事実のうち、本件土地が本件建物の敷地の一部であることは否認する。いすみ建設が昭和五七年九月二〇日売買を原因として、同年一〇月六日受付の所有権移転登記を受けていることは認める。その余の事実は知らない。

3. 請求原因3の事実のうち、根抵当権設定登記がされていることは認め、その余の事実は知らない。

4. 請求原因4の事実のうち、原告が本件建物競落の結果、本件土地について法定地上権を取得したことは争う。その余の事実は知らない。

5. 請求原因5の事実は認める。

(被告国)

1. 請求原因1ないし5の各事実は認める。

2. 請求原因6の事実のうち、本件土地に平成元年八月二九日受付の地上権設定仮登記が存在した事実は認める。その余の事実は知らない。

3. 請求原因7の事実のうち、本件法定地上権は本件公売処分における買受人被告日本相互住宅に対抗でき、したがって、本件仮登記は、国税徴収法一二五条の「消滅する権利に係る登記」に該当しないのであるから、東京国税局長は本件公売処分における落札人被告日本相互住宅株式会社への本件土地の所有権移転登記の嘱託に当たり、本件仮登記の抹消登記の嘱託をしてはならないのに漫然と抹消登記嘱託を行った過失があるという点については争う。その余の事実は認める。

4. 請求原因8の事実は不知ないし争う。本件地上権は、後記被告の主張のとおり、本件公売処分に対抗できず公売手続との関係では売却により消滅するが、原告は、国税徴収法一二七条一項に基づいて新たに本件建物に法定地上権を取得するのであり、原告は本件建物について所有権移転の登記を得ているのであるから建物保護ニ関スル法律一条により対抗要件を備えている。したがって、原告は、本件仮登記の抹消にかかわらず、法定地上権付き建物として本件建物を売却できるのであって、原告に損害は生じていない。

三、被告の主張

(被告日本相互住宅)

1. 法定地上権の成立について

請求原因4記載のとおり、原告は本件建物を請求原因1(一)記載の根抵当権の実行による競売事件において競落したものである。本件では、右根抵当権設定後その実行前にいすみ建設が本件土地を取得し、本件建物と本件土地の所有者が同一になった後に本件土地建物に根抵当権が設定されているが(請求原因3記載の根抵当権)、法定地上権の成否は最先順位の根抵当権を基準に判断すべきであり、本件において先順位の根抵当権(請求原因1(一)記載の根抵当権)設定時に土地と建物の所有者が異なり従って法定地上権の要件を充たしていない以上、法定地上権は発生しない。

2. 請求原因4について(弁護士法七三条違反)

原告は、他人の権利を譲り受けて訴訟、和解その他の手段によって、その権利の実行をすることを業とするものであって、本件建物の競落及び本件提訴もその業としてしたものである。原告の行為は弁護士法七三条に違反するものであるから、本件建物競落は無効である。

3. 権利濫用

(一) 法定地上権制度は、建物の効用あるいはその経済的価値を保護するための制度であるところ、本件建物は昭和三八年に建築されたものであって法定耐用年数及び経済的耐用年数も既に経過しており、法定地上権によって保護する必要はない。

(二) 本件建物の床面積はわずか一〇八平方メートルに過ぎないところ、その大部分は件外土地に掛かっているのであり、また、件外土地は六一八・一七平方メートルであるのであるから、本件建物を件外土地部分に移築する余地は十分あり、可能である。

(三) 原告は、本件建物を他に転売する目的で競落したものである。

(四) 以上の各事実からすると、原告が、被告に対して、法定地上権の設定登記手続を請求するのは権利濫用である。

4. 法定地上権成立の範囲

仮に、原告主張の法定地上権が成立するとしても、本件土地のうち本件建物の敷地になっている部分は最大限に見積もっても七五平方メートルにすぎない。その余の土地は公道に面する角地であり、今日の不動産取引の慣行上、十分に一筆の宅地として取引できる面積を有している。右によれば、本件建物の敷地としては、法定地上権の及ぶ範囲は最大限七五平方メートルを限度とするものであって、本件土地中のその余の部分には法定地上権は及ばない。

(被告国)

東京国税局長が、本件仮登記の抹消を千葉地方法務局木更津支局に嘱託したことは適法である。

(一) 本件土地公売の経緯について

(1) 被告国は、昭和五九年二月二〇日の時点で、いすみ建設に対して合計一三〇八万五四六六円の国税債権を有していたところ、右国税の徴収権限を有する茂原税務署長は、右同日、国税通則法四三条三項に基づき、東京国税局長に右国税について徴収の引き継ぎを行った。

(2) 東京国税局長は、右滞納国税及びそれ以後に東京国税局長が徴収権限を取得した滞納国税を徴収するために、昭和六〇年八月七日、本件土地を滞納処分により差押え、同月九日、その旨の登記をした。

(3) 東京国税局長は、平成元年一〇月、本件土地の見積価格を六〇九万円と定め、平成二年一月一六日、東京国税局において公売を実施した。

(4) 本件公売において、被告日本相互住宅が最高価額一一三八万八八〇〇円をもって入札したので、東京国税局長は平成二年一月二三日、右被告に対して、売却決定するとともに右金員を買受代金として受領した。

(5) 右同日、被告日本相互住宅から本件土地の所有権移転登記請求がされたため、東京国税局長は同年二月二三日、不動産登記法二九条の規定により、千葉地方法務局木更津支局に対して、被告日本相互住宅を権利者とする本件土地の所有権移転登記の嘱託と共に本件公売処分により消滅する権利の抹消登記として本件仮登記の抹消を含む抹消登記の嘱託を行い、同年三月一日、右各登記が完了した。

(二) 本件仮登記の抹消登記嘱託が違法でないこと

東京国税局長が、本件仮登記の抹消登記を嘱託した行為は、不動産登記法二九条に基づく適法なものである。

税務所長は、滞納処分による差押えをした不動産を公売換価した場合において、代金を納付した不動産の買受人から請求があったときには、公売処分により消滅した権利の登記の抹消等を登記所に嘱託しなければならないが、本件地上権は次の理由により公売処分により消滅した権利である。

1. 差押えは、目的財産の法律上又は事実上の処分を相対的に禁止する効力を有し、したがって、差押え後にその財産についてなされた譲渡又は地上権、質権、抵当権等の権利の設定等の法律上の処分は、差押え債権者に対抗することができず、換価処分によって消滅する。

本件において、東京国税局長が本件土地を差押え、その旨の登記をしたのは昭和六〇年八月九日であり、原告のため本件土地に地上権が設定されたのは平成元年六月一二日であり、本件仮登記がされたのは同年八月二九日であって、いずれも右差押登記に後れるものであるから、本件地上権をもって滞納処分庁ないし公売処分における買受人に対抗することはできない。

2. 第三者に対抗できる用益物権等であっても、それらの権利の設定前に設定され、かつ、換価によって消滅する担保物件がある場合には、その用益物権も消滅するが、本件においては、本件地上権の設定前である昭和五七年一一月五日及び同六〇年七月二日にそれぞれ登記を了した各根抵当権が存在し、それらはいずれも本件差押えに基づく換価によって消滅する権利であるので、本件地上権も右換価によって消滅する。

四、被告国の主張に対する原告の認否

本件公売処分の経緯については認めるが、本件仮登記の抹消登記の嘱託が適法であることに関する主張は争う。

第三、証拠<省略>

理由

第一、被告日本相互住宅について

一、請求原因について

1. 請求原因1の事実(いすみ建設の本件建物及び件外土地に対する根抵当権設定等の事実)は、成立に争いのない甲第二号証、第一二号、第一三号証により認めることができる。

2. 請求原因2の事実のうち、いすみ建設が近藤悦治から本件土地を買い受けたことは成立に争いのない甲第一号証により認めることができ、本件土地が本件建物の敷地の一部であることは成立に争いのない甲五号証、乙第一ないし第三号証により認めることができる。また、昭和五七年一〇月六日に本件土地につき右売買を原因とする所有権移転登記がされたことは当事者間に争いがない。

3. 請求原因3の事実(いすみ建設の本件建物及び本件土地に対する根抵当権設定等の事実)は、成立に争いのない甲第一、二号証により認めることができる。

4. 請求原因4(根抵当権の実行等)の事実については、原告が本件建物競落の結果本件土地について法定地上権を取得したことを除き、当事者間に争いがない。

そこで、原告が、本件建物競落の結果、本件土地について本件建物のため法定地上権を取得したか否かについて検討する。

(一)  成立に争いのない甲第一、二号証及び第一二、一三号証に前記当事者間に争いのない事実を総合すると以下の事実が認められる。

(1) いすみ建設は、昭和五一年一〇月一三日、いすみ建設の千葉銀行に対する銀行取引債務、手形債務及び小切手債務を担保するため、その所有に係る本件建物及び件外土地に対し、極度額六二五万円の根抵当権を設定し、同月一六日その旨の根抵当権設定登記をした。

(2) 次いで、昭和五七年九月二〇日、いすみ建設は、近藤悦治から本件土地を買い受け、同年一〇月六日所有権移転登記をした。

(3) 同年一〇月三〇日、いすみ建設は、訴外長生信用組合に対する信用組合取引に関する債務、手形債務及び小切手債務を担保するため、本件土地に対し、極度額三三〇万円の根抵当権を設定し、同年一一月五日その旨の根抵当権設定登記をした。

(4) いすみ建設は、昭和六〇年五月二五日、新日本工業株式会社に対する金銭消費貸借取引債務、手形債務及び小切手債務を担保するため、その所有に係る本件建物、本件土地及び件外土地に対し、極度額六〇〇〇万円の根抵当権を設定し、同年七月二日その旨の根抵当権設定登記をした。

(5) (1)記載の根抵当権につき、弁済による代位により根抵当権の移転を受けた千葉信用保証協会は、本件建物及び件外土地につき、根抵当権の実行として、千葉地方裁判所木更津支局に、同支部昭和六二年(ケ)第一一号不動産競売事件の申立てをし、原告は、平成元年六月一二日、本件建物及び件外土地を競落してその所有権を取得し、同月一三日その旨の所有権移転登記を得た。

(二)  ところで、建物を目的とする一番抵当権の設定当時において土地の所有者と地上建物の所有者とが異なり、法定地上権の要件が具備されていなかった場合であっても、土地と建物とが同一人の所有に帰するに至った後に右土地及び建物に後順位抵当権が設定され、その後に右建物に対する一番抵当権が実行され、建物競落により一番抵当権が消滅する前記認定のごとき事実関係の下においては、土地について建物のために法定地上権が成立するものと解するのが相当である。なお、本件では、建物に対する後順位抵当権設定以前の昭和五七年一〇月三〇日に本件土地に対して抵当権が設定されているが、右抵当権が設定された時点では既に本件土地と本件建物が同一人(いすみ建設)の所有に帰しているから、このような場合に前記第一順位の建物抵当権により競売手続が進められ建物が競落されたときは土地について法定地上権が成立すると解しても、土地抵当権者が予見し又は予見すべき事情に反してその利益を害することにはならず、したがって、右土地抵当権設定の事実は、右判断の妨げとなるものではない。そうであるならば、本件においては、平成元年六月一二日原告が本件建物を競落し買受代金を納付した時点において、本件土地について本件建物のための法定地上権が成立したことになる。

5. 請求原因5の事実は当事者間に争いがない。

二、被告の主張2について

被告は、原告が他人の権利を譲り受けて訴訟等の手段によってその権利を実行することを業とする者であり、本件建物競落は右業としてされたものであると主張するので、この点について検討する。

弁護士法七三条の規定は、世上事件屋等と呼ばれる者が権利の譲渡を受けることにより、事実上他人に代わって訴訟活動等を行うことによって生ずる弊害を防止し、国民の利益を保護する趣旨のものであるところ、本件において争いのない事実関係によれば、原告は、本件建物競落によって、本件土地に法定地上権が成立したとの認識の下に、本件土地に地上権設定登記の仮処分を得て、その後に本件訴訟を提起したものであって、不動産の前所有者に代わって訴訟活動等を行う関係にないことが認められる。このような原告の仮処分申請、訴訟提起が弁護士法七三条に規定する他人の権利を譲り受けて訴訟等の手段によってその権利を実行する行為に該当しないのは明らかであり、他に全証拠によるにも、被告日本相互住宅の右主張を認めるに足りる証拠はない。したがって、同被告の右主張は理由がない。

三、被告の主張3について

前掲甲第二号証及び乙第一号証によれば、本件建物は昭和三八年一二月に新築され、その後一部増築された木造亜鉛メッキ鋼板交葺平屋建床面積一〇八平方メートルの居宅であることが認められる。しかしながら、全立証によるも右建物が、現在、老朽化して直ちに取り壊さなければならない状況にあることを認めることはできない。また、前掲甲第一二、一三号証によれば、件外土地の面積は合計六一八・一七平方メートルあることが認められるが、だからといって、原告が、本件建物を自己の所有地である件外土地に移築する義務があるということにはならない(このことは、原告が本件建物を転売目的で取得した場合でも異ならない)。したがって、原告が被告日本相互住宅に対して、本件地上権設定登記手続請求をすることが権利濫用であるとはいえない。

四、法定地上権の成立の範囲

法定地上権は、建物の存続に必要な範囲で成立するところ、前掲乙第一号証によれば、本件土地に対する本件建物の場所的利益は約七五平方メートルであるとされており、したがって、本件土地のうち本件建物の場所的利益が及ばない部分は約七四平方メートルしかないこと、成立に争いのない乙第四及び第五号証、本件係争現場を撮影したことに争いのない甲第一一号証によれば、本件建物から件外土地にかけてブロック塀が存在し、本件土地と件外土地が一体として本件建物の敷地として使用されていることが認められ、以上認定の事実関係のもとにおいては、本件土地の全部について本件建物のために法定地上権が及ぶものと認めるのが相当である。

五、地上権の地代及び期間

成立に争いのない甲第七号証の三によれば、本件土地の平成二年度における固定資産評価額は一一二万〇六五〇円であること、前記認定のとおり本件土地の全体に法定地上権が及ぶこと、本件建物は木造亜鉛メッキ鋼板交葺平屋建て建物であることが認められるのであって、右事情に本件にあらわれた諸般の事情を総合すれば、地上権の地代は一か月金四五二〇円、存続期間は三〇年が相当である。

第二、被告国について

一、請求原因1ないし5の事実は当事者間に争いがない。

二、請求原因6の事実のうち、原告が平成元年八月三日、千葉地方裁判所木更津支局に本件地上権に基づき地上権設定の仮登記仮処分命令を申請し、同月四日、地上権設定仮登記仮処分決定を得たことは、成立に争いのない甲第三、四号証によりこれを認めることができる。右仮処分決定に基づき、原告が、同月二九日、その旨の登記を得たことは当事者間に争いはない。

三、そこで、被告国が本件公売処分において、本件仮登記の抹消登記の嘱託をしたことが違法か否かについて検討する。

差押えの登記に後れてなされた登記は、当該登記に係る権利の設定ないし移転が実体的に滞納処分庁ないし公売処分における買受人に対抗できるものであるか否かを問わず、公売処分における換価が行われた場合には抹消されるものと解すべきである。なんとなれば、滞納処分手続における差押えは、手続開始の時点で目的財産についての権利関係を固定することによって、手続開始後における目的財産の換価価値に対する減少・消滅させる行為を禁止するとともに手続の円滑な進行を確保することを目的としてされるものであるところ、右の趣旨に照らせば、差押えにより滞納者が禁止されるのは、実体上の権利の設定・移転はもとより、第三者に対して登記上の権利を取得させる登記手続上の行為も含めての、法律行為一般と解すべきものである。仮に公売手続において、差押登記に後れてされた登記について、実体的に滞納処分庁ないし公売処分における買受人に対抗できるか否かを個別に判断した上でなければ当該登記を抹消することができないとすると、課税処分に基づいて専ら換価手続を遂行するという公売処分手続の制度趣旨と相いれないばかりか、公売処分手続の円滑な進行を阻害すると共に手続の安定を損なうことになるものであって、このような見解はとうてい採用することができない。

そこで、本件について検討すると、当事者間に争いのない事実によれば、本件土地については、昭和六〇年六月九日、滞納処分による差押えの登記がされ、平成元年八月二九日、本件仮登記がされたことが認められる。したがって、本件公売処分に当たり、東京国税局長が本件仮登記の抹消登記嘱託をしたことを違法ということはできない。

第三、結論

以上によれば、原告の被告日本相互住宅に対する請求はいずれも理由があるからこれを認容し、被告国に対する請求はその余の点について判断するまでもなく理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 河野信夫 裁判官 三村量一 中山大行)

<以下省略>

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