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東京地方裁判所 平成2年(ワ)8102号 判決 1994年1月18日

原告

染谷壮平

ほか二名

被告

熊谷満春

主文

一  被告は、原告染谷壮平に対し三七九四万四二六八円、原告染谷靖夫に対し七七万円、原告染谷尚子に対し七七万円及びこれらに対する昭和六二年七月四日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、これを四分し、その三を原告らの、その余を被告の各負担とする。

四  この判決は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告染谷壮平に対し一億五一四五万二八〇四円、原告染谷靖夫に対し五五〇万円、原告染谷尚子に対し七七〇万円及びこれらに対する昭和六二年七月四日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  争いのない事実

1  本件事故の発生

<1> 日時 昭和六二年七月四日午後四時五〇分ころ

<2> 場所 東京都三鷹市中原一丁目一番地先交差点(以下、「本件交差点」という。)

<3> 態様 原告染谷壮平(以下、「原告壮平」という。)は、子供用足踏自転車(以下、「被害自転車」という。)に搭乗して走行し、本件交差点に進入したところ、同交差点において、同原告の進行方向右方から本件交差点に進入してきた被告運転の自家用普通乗用自動車(登録番号「多摩五三ふ一六七一」、以下、「被告車」という。)と衝突し、その結果、路上に転倒し、傷害を負つた。

2  責任原因(自動車損害賠償保障法三条本文)

被告は、本件事故当時、被告車を保有し、これを自己のため運行の用に供していた。よつて、被告は、各原告に対し、後記認定の損害額及びこれに対する遅延損害金の支払いをすべき義務がある。

3  原告染谷靖夫(以下、「原告靖夫」という。)は原告壮平の父、原告染谷尚子(以下、「原告尚子」という。)は母である。

4  損害の填補

原告壮平に対し、自賠責保険金として一六〇〇万円が支払われたほか、治療費等として八三一万三七八五円が支払われた。

二  争点

1  損害

原告らは、原告壮平につき、<1>治療費、<2>リハビリテーション費用、<3>入院雑費、<4>通院等の交通費、<5>付添費用・通院付添費、<6>医師らへの謝礼、<7>電話代、<8>将来の治療費・検査費、手術費用、<9>将来のリハビリテーシヨン費用、<10>将来の介護費用、<11>逸失利益、<12>慰謝料(傷害分、後遺障害分)及び<13>弁護士費用を、原告靖夫、同尚子につき、それぞれ、<1>慰謝料及び<2>弁護士費用を請求しており、被告は、その額を争う。

2  過失相殺

(一) 被告の主張

本件交差点での見通しは悪く、原告壮平の進行方向には、本件交差点手前に一時停止の標識と標示が設置されているところ、原告壮平は本件交差点手前で一時停止をすることなく、漫然と交差点に進入した。他方、被告は、制限速度内の速度で進行していた。従つて、原告壮平の側にも重大な過失があるから、五割の過失相殺をすべきである。

(二) 原告らの主張

原告壮平は、一時停止をして本件交差点に進入した。他方、被告は、本件交差点が見通しが悪いのであるから、徐行し、カーブミラーによつて左方向の安全を確認しつつ進行すべき注意義務があるのに、これを怠り、高速のまま、漫然と進行した過失により、本件事故を惹き起こしたものであり、被告の過失は極めて重大である。

第三争点に対する判断

一  本件事故態様

1  証拠(甲三八の五ないし七、九ないし一三、一六ないし一八、二〇、二一、二三、二五、二八ないし四一、甲三九、四〇、甲六八の一ないし三、甲七〇、証人松井武美、同横川修一の各証言、被告本人尋問の結果)によれば、以下の事実が認められる。

(一) 本件交差点は、別紙図面のとおり、つつじケ丘方面から緑ケ丘方面に通ずる、幅員五・八メートル(一・五メートルの路側帯が道路の南側にある。)の道路(以下、「東西道路」という。)と、万助橋通り方面から甲州街道方面に通ずる、幅員三・二五メートルないし三・七メートルの道路(以下、「南北道路」という。)がほぼ直角に交差する十字路交差点である。路面はいずれもアスフアルト舗装され、平坦で乾燥していた。

本件交差点は信号機による交通整理は行われていない。

本件交差点の北西角には高さ二・四メートルのブロツク塀があり、そのため、東西道路をつつじケ丘方面から緑ケ丘方面に向けて進行した場合にはその左側の、また、南北道路を万助橋通り方面から甲州街道方面に向けて進行した場合にはその右側の、それぞれの見通しはいずれも極めて悪い。また、交差点の南東角にカーブミラーが設置されているに止まる。そして、南北道路の本件交差点北側には、一時停止の標識と「とまれ」の標示があり、停止線が引かれている。

制限速度は東西道路につき時速四〇キロメートルである。

本件事故当時、交通は閑散としていた。

(二) 被告は、被告車を運転し、東西道路をつつじケ丘方面から緑ケ丘方面に向け時速約三五キロメートルの速度で進行し、本件交差点手前約一〇・三メートルの地点に至つて右角のカーブミラーを一瞥した上、前記速度のまま本件交差点に進入したところ、左方から進入してきた被害自転車に被告車左前部を衝突させた。衝突直後、被告はハンドルを右に切りつつブレーキを踏み、衝突地点から一二・五メートル進んだ地点に停車した。

被告は、本件交差点を以前に数回進行したことがあり、見通しが悪いことはわかつていたが、本件事故の際には、衝突するまで被害自転車には気付いておらず、同乗者の「危ない」の声で危険を察知したものである。ところで、被告進行方向からすると、本件交差点手前一二・二メートルの地点では、前記カーブミラーによつて、交差する南北道路の北側(被害自転車の進行方向)を少なくとも約六・二五メートルまで確認することが可能であつた。

(三) 他方、原告壮平は、南北道路を、被害自転車に搭乗して北上し、本件交差点に至つたものであるが、本件交差点に進入する際に、一時停止はしないまま、通常の速度で進行した。被害自転車は五段変速ギア装備のものであるが、本件事故の際、ギアは「二段」(ギアなし自転車とほぼ同様のギアの状態)であつた。

(四) 衝突地点は、転倒した被害自転車のものと思われる擦過痕等からすると本件交差点内の北東寄り地点である。

2  原告らは、原告壮平が一時停止をした旨主張するけれども、前記各証拠、とりわけ、横川修一の刑事事件の捜査段階における供述及び本件訴訟における証言、更には、被害自転車のギアの状況に関する捜査資料によれば、前記のとおり、原告壮平が一時停止をしなかつたものというほかない。

3  前記1認定の事実によると、本件交差点は左右の見通しの悪い交差点であるから、被告においては、本件交差点に進入するに際し、徐行(道路交通法四二条一号)の上、安全を確認しつつ進行すべき注意義務があつたにもかかわらず、これを怠り、漫然と、時速約三五キロメートルの速度で進入した過失が認められる。他方、原告壮平においても、本件交差点に進入するに際し、一時停止をして右方の安全を確認しつつ進行すべき注意義務があつたのに、一時停止をしないまま進行した過失があるものといわざるをえない。

二  原告壮平の受傷、治療経過

1  原告壮平は、昭和五二年三月一二日生まれの男児で、本件事故当時は一〇歳、小学校の五年生であつた(甲六七、原告尚子本人尋問の結果)ところ、本件事故により、後頭部等を強打し、頭蓋骨骨折、脳挫傷、急性硬膜外血腫、急性硬膜下血腫等の重傷を負つた(甲二、甲三八の一五)。

2  同原告は、本件事故当日、杏林大学医学部附属病院に搬送され、二日間、開頭術の施行を受けた後、同病院に昭和六二年一〇月一三日まで入院し(甲二、五、六)、この間、頭蓋形成術、頭蓋人工骨抜去術を受けた。

3  その後、言語訓練等のリハビリテーシヨンのため、東京都立神経病院に転医したが、精神安定をはかるために自宅療養となり、その間に、入院の上、頭蓋形成術(人工骨)を二回受けた。平成元年三月二五日からは東京都立府中病院において通院治療を始めた(甲三、甲七ないし甲九、甲一一)。

4  また、外斜視の症状も現われ(甲七四の一、二)、昭和六三年九月に受診した後、平成五年一月から東京都立府中病院、東京厚生年金病院等で診察を受けた(甲一〇、甲七五の一ないし三)。

三  原告壮平の後遺障害の内容・程度

1  原告壮平は、本件事故による後遺障害として、いわゆる頭部外傷後遺症が残り、両側大脳の中等度萎縮や脳波異常があり、知能・言語能力、精神・情動面での能力が低下し、右症状は平成元年一〇月三一日に固定した(甲四)。

2  ところで、原告壮平は昭和六二年一〇月二四日より小学校へ登校し始めた(甲一五)が、乳幼児程度の能力までにしか回復しておらず(甲二〇)、学力面(甲一六、一七)、情緒面の問題から二年間小学校を留年し、その間の昭和六三年一〇月からは心身障害児総合医療療育センターで判定を受けて、福祉センターにおいて機能回復訓練を受けた(甲六四、六七、原告尚子)。平成三年四月に三鷹市立第五中学校の難聴学級に進学したが、この頃のIQは七五であり、言語面でも記銘力、構成力の点で障害が目立つた(甲六三、七一、七二)。また、平成四年四月、一〇月、平成五年三月の時点でも、依然、記憶力、思考力、判断力等は低下したままであり、また、精神的にも不安定である(甲七三、甲七九の一、二)。脳波の異常も認められ、更に、易感染性、抵抗力低下の状態が続いている(甲六九)。その後も脳波の異常はあり、てんかん予防のための薬物療法は一〇年以上必要であるとされている(甲六一、六二、七七)が、その副作用として白血球も減少した(甲六九、八六)。

3  更に、外斜視についても症状は固定しており、手術も適切ではないとの診断がされている(甲七八)。

4  自賠責保険の等級認定では、頭部外傷後遺症につき五級二号、外斜視につき一二級、併合して四級の認定がされた(甲八四)。

四  原告壮平の損害

1  治療費 七三〇万九〇二〇円

(請求 一八万七八五〇円、既払分七一二万一一七〇円)

症状固定日である平成元年一〇月三一日までの治療費のうち被告において支払われた七一二万一一七〇円のほか、証拠(甲二一の一ないし二〇、甲二二の一ないし九、甲四二、甲四三の一ないし一六、甲四四の一ないし一九、甲四五の一ないし一〇)によれば、平成三年五月までの治療に要した費用は一八万七八五〇円であることが認められる。なお、この中には、症状固定後の治療費も含まれるが、その内容は脳波異常に関する診察代及び抗けいれん剤の薬代であり、本件事故と相当因果関係にある損害というべきである。

2  リハビリテーシヨン費用 二四五万〇四七二円

(請求 二四五万〇四七二円)

証拠(甲二三の一ないし九、甲二四の一ないし八五、甲二五の一ないし二八、甲四六の一ないし六、甲四七の一ないし八九、甲四八の一ないし六四、甲四九の一ないし二三)によれば、原告壮平の言語能力や、手先の運動能力等の機能回復のために、書籍、模型等を購入したり、塾通いなどした費用として前記金額が認められる。この中には、症状固定日以降平成三年五月までのものも含まれるが、頭部外傷後遺症という症状の性質上必要な訓練費用であるから、後記の将来分はともかく、相当因果関係があるものといえる。

3  入院雑費 一六万八〇〇〇円

(請求 二九万三三九〇円)

証拠(甲二、三)によれば、入院治療は合計一六八日間に及んだことが認められ、弁論の全趣旨により一日あたりの入院雑費としては一〇〇〇円が相当であるから、合計は一六万八〇〇〇円となる。

4  通院等の交通費 四八万〇八一〇円

(請求 五一万〇五九〇円)

証拠(甲三二の一ないし五五、甲三三の一ないし一一五、甲三四の一ないし三〇、甲五二の一ないし一三、甲五三の一ないし八八、甲五四の一ないし八五、甲五五の一ないし三二、原告尚子)によれば、平成三年四月までの通院(通院日数一九九日)、リハビリテーシヨンのための交通費として合計四八万〇八一〇円を要したことが認められるところ、この中には症状固定後の通院等の交通費も含まれるが、前記1、2と同様、必要な出費として相当因果関係にある損害といえる。

5  付添費用・通院付添費 一五六万二三八四円

(請求 八九万五五五五円及び三九万八〇〇〇円)

証拠(甲二六、甲二七の一ないし五一、甲二八の一ないし一五、甲五〇の一ないし一八)によれば、入院付添費、家政婦費用として、三八万四〇八九円(乙一四によつて認められる昭和六二年一〇月二〇日までの既払分)のほかに九七万九二九五円(このうち三五万二五二六円は既払分)を要したことが認められ、合計一三六万三三八四円(既払合計七三万六六一五円)が損害といえる。また、原告壮平の年齢や前記症状に照らすと、通院の際の付添は不可避であり、弁論の全趣旨により一日あたりの費用は一〇〇〇円とみるのが相当であるから通院日数一九九日の合計は一九万九〇〇〇円となる。

6  医師らへの謝礼 認められない

(請求 一五一万四二〇五円)

証拠(甲三五の一ないし一〇、甲三六の一ないし五、甲三七の一ないし一六、甲五六の一ないし八、甲五七の一ないし一二〇、甲五八の一ないし二二、甲五九の一ないし一二)によれば、医師らに対し謝礼を支払つたことが認められるけれども、これらは相当因果関係にある損害とは評価できない。

7  電話代 認められない

(請求 二五万四一〇四円)

原告らは、本件事故後に増えた電話代の差額とコードレステレフオンへの変更費用を請求し、それに沿う証拠(甲六〇の一ないし四〇)もあるけれども、相当因果関係にある損害とはいえない。

8  将来の治療費・検査費・手術費用 二六万一六八八円

(請求 八六〇万円)

原告らは、今後一〇年間の投薬治療費・検査費用、頭蓋除去・形成手術代を請求する。このうち、投薬治療費・検査費用については、平成五年の診断書においても少なくとも一〇年の投薬が必要とされている(甲七七)から、これを認めるのが相当であり、その額については、証拠(甲八三の一ないし一三)によれば、平成四年二月二八日から平成五年二月二日までの約一年間の治療費が三万三八九〇円であるから、この金額を基礎にするのが相当であり、一〇年分の治療費・検査費用を、ライプニツツ方式により中間利息を控除して算定すると次のとおりとなる(円未満切捨て)。

33890×7.7217=261688

次に、頭蓋除去・形成手術については、現在の頭蓋形成部の人工骨への感染の可能性があり、その場合には人工骨を除去し再度新たな人工骨による形成を行うことになることが認められる(甲七七)けれども、右は感染の可能性に止まるので、将来の出費の蓋然性を認めることはできない。かかる将来への不安に対しては慰謝料で考慮することとする。

9  将来のリハビリテーシヨン費用 認められない

(請求 六〇〇万円)

原告壮平については、現在も言語訓練等のリハビリテーシヨンを行つており(甲八〇ないし甲八二)、今後も継続することは有用であると認められるが、後に述べる逸失利益について、症状固定時点での後遺障害の内容、程度を前提と算定している関係上、これと別個に改善目的のリハビリテーシヨン費用を損害として認めることは相当でない。

10  将来の介護費用 認められない

(請求 二七九一万三八八六円)

証拠(甲六七、七三、原告尚子)によれば、現在、原告壮平は中学校に在籍し、難聴学級に登校しているが、自宅にいる時間が多く、家庭での日常生活においては、情緒面の問題で同原告を一人にできず、見守る必要があることが認められる。しかしながら、日常生活自体は自分で行つていることが推測されるのであり、前記後遺障害の程度をも勘案すると、将来の介護費用を別途認めるまでの必要性は認められない。

11  逸失利益 五四二五万一七〇三円

(請求 六五〇一万三七一八円)

原告壮平は、本件事故以前は健康で学業成績も優秀な男子小学生であつた(甲一三、一四、六七、原告尚子)が、本件事故により前記三認定の後遺障害を残す結果となり、その内容、程度に照らすと、辛うじて日常生活は営むことができるとはいうものの、精神的側面からしても、また、言語能力を含む知的側面からしても、将来、いずれの労務に服するにしても著しい制約を受けるであろうことは明らかであり、自賠責保険においても、併合四級の認定を受けている。また、抗けいれん剤の服用により白血球が減少したこと、人工骨への感染の可能性があることなど、将来、なお治療を余儀なくされる不安をかかえており、この点も労働への制約となるといえる。以上の事情を総合すると、同原告においては、本件事故に遭わなければ、一八歳から六七歳まで就労が可能であつたにもかかわらず、本件事故により、四九年間にわたり、原告らが援用する賃金センサス平成元年第一巻第一表・産業計・企業規模計・男子労働者・学歴計・全年齢平均の年収額四七九万五三〇〇円の九二パーセントの収入を喪失するものと推認することができる。

そこで、中間利息をライプニツツ方式(本件事故日から六七歳までの五七年に相当する係数一八・七六〇五から、本件事故日から一八歳までの八年に相当する係数六・四六三二を控除すると一二・二九七三となる。)により控除して、本件事故時における逸失利益の現価を算出すると次のとおりとなる(円未満切捨て)。

4795300×0.92×12.2973=54251703

12  慰謝料 一七〇〇万〇〇〇〇円

(請求 傷害分・三七二万一〇三四円、後遺障害分・二〇〇〇万円)

原告壮平の受傷の内容、程度、治療状況は前記二のとおりであり、一時は生命さえ危ぶまれる状態にあり、数回の開頭・頭蓋形成の手術を受け、また、記憶を失い、知能が著しく低下し、情動面でも極めて不安定であつた状態から徐々に機能回復のための訓練を受けており、受傷から症状固定日までの治療期間は二年四か月近くに及んでおり、入院日数も一六八日に達している。以上に鑑みると、傷害慰謝料としては三〇〇万円を下らないものといえる。

次に、記憶力、思考力が低下し、言語能力にも著しい障害が残り、更に精神的にもすぐに不安定になるという頭部外傷後遺症の内容、程度や、外斜視については前記三認定のとおりであり、これらによつて今後予想される生活面における種々の制約や将来の不利益は明らかである。加えて抗けいれん剤の副作用や感染症への不安もぬぐい去ることはできない。また、同級生らとの意思疎通の面でも支障が生じており、原告壮平の後遺障害が誘引となつている場合が少なからずあるものと推察され、人格形成への悪影響も懸念される。これらの事情のほか、原告壮平の年齢その他弁論の全趣旨によつて認められる諸般の事情をも考慮すると、後遺障害による精神的苦痛を慰謝すべき金額として一四〇〇万円が相当である。

13  以上の合計八三四八万四〇七七円に、支払済みの保護帽代四五万六〇〇〇円を加えると、八三九四万〇〇七七円となる。

五  原告靖夫、同尚子の損害 慰謝料 各一〇〇万〇〇〇〇円

(請求 原告靖夫分五〇〇万円、同尚子分七〇〇万円)

証拠(甲三八の二二、甲六五、六七、七三、原告尚子)を総合すれば、原告尚子は、本件事故後、それまで勤めていた教職を辞して原告壮平の介護にあたつたこと、乳幼児同様の知的レベルに陥つた息子のリハビリテーシヨンに一家をあげて尽力してきたこと、父母として、原告壮平の頭蓋形成が済む間は絶えず注意を払わなければならず、また、その後も精神状態の不安定な同原告を見守る必要があつたこと、しかるに、治療、介護の甲斐もなく、前記のとおり原告壮平には重篤な後遺障害が残つたものであり、その程度、内容等に照らすと、両親として受けた精神的苦痛は原告壮平が死亡した場合に比して著しく劣らない程度のものであつたというべきであり、右苦痛を慰謝するには、それぞれ一〇〇万円が相当である。

六  過失相殺

1  前記一3のとおり、被告においては、左方の見通しの悪い本件交差点に進入するに際し、徐行しつつ安全を確認すべき注意義務を怠つた点に重大な過失が認められる。他方、原告壮平においても、本件交差点に進入するに際し、一時停止をして右方の安全を確認しつつ進行すべき注意義務を怠つた過失が認められるのであつて、かなりの過失相殺はやむを得ないところ、本件では被害車両が足踏自転車であること、原告壮平が本件事故時一〇歳であつたことを考慮すると、その損害の三割を減ずるのが相当である。同様に、原告靖夫、同尚子の損害についても、被害者側の過失として三割を減ずるべきである。

2  過失相殺後の金額

原告壮平 五八七五万八〇五三円

原告靖夫、同尚子 各七〇万〇〇〇〇円

七  原告壮平の既払控除後の金額 三四四四万四二六八円

八  弁護士費用

原告壮平 三五〇万〇〇〇〇円

原告靖夫、同尚子 各七万〇〇〇〇円

九  合計

原告壮平 三七九四万四二六八円

原告靖夫、同尚子 各七七万〇〇〇〇円

一〇  以上の次第で、原告らの本訴請求は、被告に対し、右九記載の各金額及びこれらに対する不法行為の日である昭和六二年七月四日から各支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文、九三条一項本文を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 小西義博)

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