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東京地方裁判所 平成2年(ワ)9093号 判決 1992年8月27日

原告

守矢士郎

外一名

右二名訴訟代理人弁護士

小林幹治

被告

株式会社王将フードサービス

右代表者代表取締役

加藤朝雄

右訴訟代理人弁護士

田中壽秋

主文

一  被告は、原告らに対し、別紙物件目録二記載の建物を明渡し、かつ、平成二年一月一日から右建物の明渡済みまで一か月一九二万二八一五円の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は一〇分し、その一を原告らの負担とし、その余を被告の負担とする。

四  この判決一項は仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告らに対し、別紙物件目録記載二の建物(以下「本件建物」という。)を明渡し、かつ、平成二年一月一日から平成三年五月一九日まで一か月一九三万五八一五円の割合にる金員を、平成三年五月二〇日から本件建物の明渡済みまで一か月三八六万五〇四〇円の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  亡守矢清一は、昭和五四年二月一日、同人所有の本件建物を、被告に対し、賃料月額六〇万円、共益費月額六万五〇〇〇円、看板掲示料月額九〇〇〇円、期間三年と定めて貸し渡した(以下「本件賃貸借契約」という。)。守矢清一は昭和五七年七月二二日に死亡し、原告両名が本件建物を相続し、本件賃貸借契約の賃貸人の地位を承継した。

2  本件賃貸借契約には、次の約定があった。

(一) 賃借人が現状を変更するときはあらかじめ賃貸人の承諾を得ること

(二) 賃貸人の承諾は書面によること

(三) 賃借人は賃借物内において衛生上有害、危険、その他近隣の妨害になるような営業その他の行為をしないこと

(四) 賃借人は賃借物を善良な管理者の注意をもって保守しなければならないこと

(五) 賃借人は期間の満了、契約の解除、解約、その他本契約に基づき賃貸借物件の明渡しをなすべき日時に明渡しをなさないときは、明渡しをなすべき期日から明渡済みに至るまで損害金として所定月額賃料の二倍に相当する金額及び共益費を日割計算して支払うこと

3(一)  被告は、本件建物を含む別紙物件目録一記載のビル(以下「原告ビル」という。)とその東隣のビル(共栄ビル)の間に、冷房、冷蔵庫の室外機(以下「本件室外機」という。)を設置した。これは、被告が原告らに無断で設置したものである。

(二)  被告は、原告ビル等に油脂を飛散させている。しかるに、被告は、ビル屋上に設置した排風機とダクトの改修(排風機の機能を高めること、定期的清掃をすること、ダクトにフィルターを設置し縦管を高くすること)をしない。

(三)  本件建物のカーテンウォールに腐食箇所がある。これは、被告が洗剤や油を流したことに起因する。

(四)  (一)ないし(三)は、前記2(一)から(四)の約定に反するものであり、原告らはこれらの改善等を繰返し要求していたものであって、債務不履行に該当する。

4  原告両名は、被告に対して、平成元年一一月二八日に到達した書面により、本件室外機を撤去すること、排風機、ダクトを改善すること、カーテンウォールの腐食面の改修をすることを求め、一か月以内に改善されないときは、同年一二月三一日をもって本件賃貸借契約を解除する旨の意思表示をした。

5(一)  本件賃貸借契約の賃料は、昭和六三年二月一日から月額九一万八〇〇〇円に改定された。

(二)  本件賃貸借契約の共益費と看板掲示料は昭和五八年五月から各月額八万六八一五円及び一万三〇〇〇円に改定された。

(三)  本件賃貸借契約の賃料、共益費、看板掲示料は、平成三年五月二〇日において、各月額一八一万八六〇〇円、二〇万七八四〇円、二万円が相当である。

よって、原告らは、被告に対し、本件賃貸借契約の解除による終了に基づき、本件建物の明渡しと約定による損害金(前記2(五)の約定に基づき賃料相当額の倍額と、共益費、看板掲示料の合計額。平成二年一月一日から平成三年五月一九日までは一か月当たり一九三万五八一五円、平成三年五月二〇日から本件建物の明渡済みまでは一か月当たり三八六万五〇四〇円)の支払を求める。

二  請求原因に対する認否及び被告の主張

1  請求原因1のうち、看板掲示料九〇〇〇円の事実は否認し、その余は認める。

2  同2のうち、(一)ないし(三)の事実は認める。(四)、(五)は否認する。

3(一)  同3(一)のうち、被告が原告ビルとその東側に隣接する共栄ビルとの間に本件室外機を設置したことは認めるが、その余は否認する。

本件室外機は原告らの承諾のうえ設置したものである。仮に承諾がなかったとしても、被告が設置をしてから五年間原告らは何らの申入れをしなかったのであり、黙示の承諾をしている。なお、被告は、室外機を撤去して原告ビル屋上に設置しようと提案したが、原告が拒否した。

(二)  同3(二)のうち、被告が排風機とダクトを設置したことは認めるが、その余は否認する。

被告は、昭和五九年七月、排風機を新設し、ダクトを清掃した。なお、被告は、排風機とダクトの新設等の工事を提案したが、原告は拒否した。

(三)  同3(三)は否認する。

カーテンウォールが腐食しているとしても、その原因は明らかではない。被告が原因調査を申入れたが原告は拒否をした。

(四)  同3(四)は否認する。

4  同4の事実は認める。

5  同5の事実のうち、(一)は認め、(二)、(三)は否認する。

第三  証拠<省略>

理由

一請求原因1の事実(看板掲示料を除く。)は当事者間に争いがなく、同2のうち、(一)ないし(三)は争いがなく、(四)及び(五)は<書証番号略>により認めることができる。

二そこで、主要な争点である請求原因3(解除理由となる債務不履行があるかどうか)について判断する。

1  室外機の設置について

被告が原告ビルとその東側に隣接する共栄ビルとの間に本件室外機を設置したことは争いがなく、<書証番号略>、証人石井浩証言並びに原告守矢士郎本人尋問の結果によれば、本件室外機は被告が昭和五九年に設置したものであること、その際、被告は原告側に対して、口頭で家庭用冷房機の室外機を多少大きくしたものを設置すると述べただけで図面を渡したうえでの説明をしなかったこと、被告は原告らの明確な回答がないまま本件室外機を設置をしてしまったこと、本件室外機は相当大きなものが数台置かれていて、原告ビルと共栄ビルの間の空間をかなり占有し、改修工事等を行う場合に障害となることが予想されること、共栄ビルの所有者からは境界をはみ出していることを理由に本件室外機の撤去を求められていることが認められる。

これに対し、証人中井廉之は原告らに事前に室外機を記載した図面を渡した旨の証言をし、<書証番号略>には原告らの承諾を得た旨の記載があるが、いずれも曖昧であり採用することができない。他に、右認定を覆すに足りる証拠はない。また、本件室外機が設置されてから五年間原告らは何らの申入れをしていなかったとしても、原告らが室外機の規模、位置等を認識し、これを容認していたとは認められないから、黙示により承諾していたものとは認められない。

そうすると、本件室外機は被告が原告らの承諾なしに設置したもので、かつ規模も大きく、原告ビル等使用の妨げとなる可能性も考えられるから、前記の本件賃貸借契約約定(請求原因2(一)、(二))に反するものと認められる。なお、被告は、屋上に室外機を設置することを原告らが拒否しているために本件室外機を撤去できないと主張しているが、右事実は被告の約定違反があるかどうかとは直接は関係しない。

2  油脂の飛散と排風機等の改修について

被告が、原告ビルの屋上に排風機とダクトを設置していることは争いがない。

<書証番号略>、証人吉田光良の証言並びに原告守矢士郎本人尋問の結果によれば、被告は本件家屋で中華料理店を営業しているものであり、かねてから油脂の飛散が激しく、本件建物内、原告ビル屋上や壁、近隣のビル等を汚し、賃貸借契約更新の際にも問題となっていたこと、被告は昭和五九年に排風機の新設、ダクトの清掃工事をして油脂の放出を減少させるようにしたこと、しかしその後も油脂が飛散し屋上等が汚れるため原告らは清掃を定期的に行っていたこと、これに対して被告は営業上大量の油脂を出すことが避けられないにもかかわらず、昭和五九年の改修以降はその対策を講じることなく、排風機やダクトの清掃も不十分であり、冷凍肉の血を本件建物から外にたれ流したり、あき瓶やごみを放置することにも見られるように、全般的に本件建物や原告ビル等を清潔にしようとする態度に乏しかったこと、そこで原告らはたびたび排風機やダクトの改修を被告に求めたこと、しかし改修方法で話がまとまらず油脂の飛散はそのままになっていたことが認められる。

右の事実によれば、被告は油脂の飛散についての管理が十分でなく、本件建物を含む原告ビル等を汚し、その対策も怠っているというべきであるから、前記の本件賃貸借契約約定(請求原因2(三)、(四))に反するものといわねばならない。なお、被告は、排風機等の新設を原告らが拒否をしているために改善ができないと主張しているが、証人吉田光良の証言によれば排風機を新設しないでも改善することは可能であることが認められるから、右主張は認めることができない。

3  カーテンウォールの腐食について

<書証番号略>、証人吉田光良の証言並びに原告守矢士郎本人尋問の結果によれば、本件建物の二階下部のカーテンウオールの一部に腐食があること、この腐食は昭和五九年に被告が改修工事をしたときに発見されたこと、右カーテンウォールは被告の流し台が置いてあったところのすぐ下に位置し、被告が洗剤等を流していたことからカーテンウォールの腐食は被告の右行為が原因であると考えられること、被告もこれを認めるような書面を作成したことが認められる。

右の事実によれば、被告は不注意な使用方法により本件建物を傷めたものであるから、前記の本件賃貸借契約約定(請求原因2(四))に反するものというべきである。

4 以上のとおり、被告には本件賃貸借契約の約定違反が認められるところ、これら違反のうちには違反が行われあるいは発見されてから五年の間は問題にされなかったこと、あるいは前記カーテンウォールの腐食は一部にとどまり原告ビルに対する影響については明らかでないこと等の事情もあるけれども、違反が重なっていること、油脂飛散については、前記のとおりかねてから問題になり、かつ原告らは再三注意をしていたにもかからず被告が改善をしようとしなかったこと、被告は全般的に本件建物や原告ビル等を清潔にしようとする態度に乏しいと見られること等の事情を考慮すると、これら約定違反により原告らと被告の信頼関係は破綻しているものというべきであり、債務不履行となるものと認めることができる。

三請求原因4(催告と解除の意思表示)の事実は当事者間に争いがない。

したがって、前記の債務不履行を理由とする解除は認められる。

四請求原因5(賃料、共益費等の金額)のうち(一)の事実は当事者間に争いがなく、(二)の事実は<書証番号略>及び弁論の全趣旨により認められる。

原告は、本件賃貸借契約終了後の約定による損害金を請求しているところ、前記認定した約定(請求原因2(五))によると、終了時の賃料の倍額と共益費の合計額を請求できるものと解されるから、一か月当たり一九二万二八一五円の支払を求める限度で理由があるというべきである。

五以上の次第で、原告の請求は、本件建物の明渡しと解除の日の翌日である平成二年一月一日から右建物の明渡済みまで一か月一九二万二八一五円の割合による約定遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余は理由がないので棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官中西茂)

別紙物件目録<省略>

別紙平面図<省略>

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