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東京地方裁判所 平成2年(ワ)9891号 判決 1992年2月03日

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

理由

第一  原告の請求

被告は原告に対し、金四五〇〇万円及びこれに対する平成元年一〇月二六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

本件は、生命保険金受取人である原告が、保険会社である被告に対し被保険者の死亡による保険金の支払を求める事案である。

一  争いのない事実

1  原告の亡き夫である甲野太郎(以下「太郎」という。)は、平成元年八月一日、保険会社である被告と次のとおりの生命保険契約を締結した。

被保険者 甲野太郎

受取人 原告

保険金額 二〇〇三年七月三一日まで災害による死亡の場合四五〇〇万円、災害以外の事由による死亡の場合二〇〇〇万円

2  太郎は、同年一〇月八日午前六時ころ、勤務先である乙山観光開発株式会社(以下「乙山観光開発」という。)の経営する丙川カントリークラブが造成中のゴルフ場用地(静岡県《番地略》)内に駐車中の自動車内で焼死していた。

3  太郎と原告との間の保険契約に適用される終身保険普通保険約款第二条は、死亡保険金を支払わない場合(免責事由)として、契約日から起算して一年以内の被保険者の自殺を規定している。

二  争点

太郎の死亡原因が自殺であるか否かが本件の争点である。

第三  争点に対する当裁判所の判断

一  前記約款第二条の規定にいう自殺とは、商法六八〇条一項一号における自殺と同趣旨のものと解すべきところ、右商法の規定にいう自殺とは、被保険者が自由な意思決定により故意に自らの生命を絶ち死亡の結果を生じさせる行為を指称するものであり、精神病その他の精神障害中の動作によつて自己の生命を絶つたような場合はこれに該当しないと解するのを相当とする。そこで、以下太郎の死亡原因が右の意味における自殺であるかについて検討する。

二  太郎の焼死体の発見状況

《証拠略》によると、次のとおり認められる。

1  太郎の焼死体の第一発見者は、本件事故当時、本件事故の現場となつた造成中のゴルフ場用地において重機に燃料を給油運搬する仕事に従事していた明石石油株式会社の従業員中村吉邦(以下「中村」という。)である。

中村は、平成元年一〇月一八日午前六時三〇分ころ、メンテナンスヤード(重機の整備点検をする場所)から煙が上がつているのを、同所から二〇〇ないし三〇〇メートル離れた地点で発見した。同人がメンテナンスヤードに駆けつけると、車体はほぼ焼け落ち、残つているタイヤや内装のゴム類から炎の上がつている自動車(以下「本件自動車」という。)があつた(以下本件自動車の駐車してあつた付近を「本件事故現場」という。)。

2  本件事故現場は、道路から二〇〇ないし三〇〇メートル入つたところにあり、一般の人の出入りはない。そこには小屋が建つていて、小屋の正面に向かつて左側に軽油ドラム缶が一つ置いてあり、本件自動車は小屋から約五〇センチメートル(人が一人通れるくらい)の幅を空け、小屋の正面に車体の後部が向いた形で駐車してあつた。

本件自動車の運転席側のドアから約五〇センチメートルないし一メートル離れたところに軽油ドラム缶が一つ置いてあり、運転席側のドアとドラム缶との間に右ドラム缶のポンプのホースが焼けて下に落ちていた。本件自動車の外から火を付けた形跡はなく、右ドラム缶の軽油の残量は約五〇リットルであつた。本件自動車の左右のドアに鍵は掛かつていなかつた。左右のドアのガラスは熱のため飴を溶かしたように曲がつていた。助手席の後ろに白骨化した頭蓋骨があり、シフトレバーの辺りに半焼けになつた人間の胴体部分があつた。小屋の正面向かつて左側の戸のガラスも熱で溶けて曲がつていた。

3  本件自動車はナンバープレートから、太郎のものであることが確認された。

4  本件事故現場にあつた二つの軽油ドラム缶は小型の重機用に備えつけられていたもので、小屋のすぐ横の囲いの中に置いておくという一応の決まりがあつたが、しばしば、給油のために三、四メートルほどドラム缶を移動させたまま放置されることがあつた。

また、軽油ドラム缶は軽油が満杯になつていれば素人が動かすことは難しいが、少量しか入つていない場合には素人でも倒して転がすことにより移動させることが可能である。

なお、本件自動車の運転席側ドアの横に置かれていた軽油ドラム缶の本件事故前における軽油の量は不明である。

本件自動車の横に軽油ドラム缶が置かれていたことについて、第一発見者の中村は、ドラム缶が小屋の横の囲いの中から出されたまま放置してある場所に合わせるように本件自動車を止めたこと、あるいは軽油の残量が少ないため、ドラム缶の方を移動させたことのいずれかの可能性を考えた。

5  本件自動車内の死体は、高度焼損死体であり、全身の黒色炭化が著しく、全身の皮膚はほとんど欠損し、頭蓋骨や内臓を露出していた。右上肢は前腕中部より遠位が欠損し、左上肢は上腕骨より遠位が欠損し、左右の下肢はいずれも大腿中部より欠損していた。骨盤内臓器より男性と認められた。死因は焼死であり、血中尿中にアルコールが検出され、軽度に酪酊していたものと推定された。

三  太郎の書き残したメモの発見

《証拠略》によると、本件事故のあつた平成元年一〇月一八日の朝、乙山観光開発の女子職員である丙川春子が、同社の乙山町の現地事務所の清掃をしていたところ、太郎の机の上に「つかれました。二年間我慢してきたけれど、会社側が評価してくれない。」と書かれたメモが丸めてあるのを見つけたことが認められる。

四  太郎の死亡前の行動経過

《証拠略》によると、次のとおり認められる。

1  太郎は、平成元年一〇月一四日午前一〇時から午後二時まで乙山観光開発の執行部会に出席し、午後二時三〇分ころ、丁原夏夫(以下「丁原」という。)とともに浜松市内の事務所に戻り、ゴルフ場用地にある現地事務所に行くということで、事務所で残務整理に当たる丁原と別れた。それ以後丁原は太郎と顔を合わせていない(この点、原告は、太郎は同日午前八時ころ起床し、食事を取つてから原告とともに新調した背広を取りに浜松市内へ出掛け、夕飯のおかず等を買つて夕方帰宅したと供述するのであるが、《証拠略》によると、乙山観光開発では毎週土曜日に執行部会を開催していたこと、同日は土曜日であること、業務部長の太郎が会社の重要な会議に欠席するというようなことはなかつたことが認められ、この点に照らし、また供述も必ずしもはつきりしないことからして、採用することができない。)。

同日の執行部会では、太郎からの申し出により同人が県信連から七〇〇万円ほどの借入れをするに当たり会社が保証するかどうかも議題とされた。しかし、太郎から借入金の使途についての説明は一切なく、執行部の役員からは会社の保証は無理であるとの意見も出されたところ、同社社長がどうしても必要ということならば、自分が個人保証をしようと太郎に申し入れた。しかし、太郎はその場において、保証の要請を撤回した。

2  翌日の同月一五日は日曜日で、太郎の長男の誕生日であり、その友達も来ていたので、太郎は手料理を作つたりして祝つた。妻である原告の目から見て普段と別に変わつたところはなかつた。

3  同月一六日昼ころ、原告は太郎を会社へ送り出したが、太郎は勤務先である市内の事務所には出勤していなかつた。事務所にも原告ら家族のところにも太郎からの連絡はなかつた。そして、同日は太郎は帰宅しなかつた。

4  同月一七日午前九時ころ、原告が現地事務所に電話したところ、現場の建設業者である戊田組の甲田所長の話では、太郎は昨晩現地事務所に泊まつたようであり、今そこで見掛けたが、もう自動車で出掛けてしまつたようだということであつた。原告は、太郎はそのまま市内の事務所に行つたのであろうと思つていたが、太郎は出勤していなかつた。会社にも家族の者にも太郎からの何の連絡も無かつた。そして、太郎はその日の夜も帰宅せず、翌一八日の朝、前述のとおり焼死体で発見された。

5  乙山観光開発は、創業間もない会社であることもあつて、出勤時間等かなり緩やかで、太郎も、昼ころ出勤したり私事で外出し連絡先が判らないということもあつたが、無断欠勤ということは少なかつた。

また、太郎は当時乙山観光開発の市内の事務所に勤務していたが、毎日のようにゴルフ場用地の現地事務所に足を運んでおり、月に三、四回は同事務所に泊まることもあつた。そのため原告は、一六日の晩には現地事務所に泊まつたのだろうとそれほど心配しなかつたが、二晩も無断外泊するということはなかつたので、一七日の晩には不審に思い、一睡もしないで太郎の帰りを待つていた。

五  太郎の生活状況等

1  太郎の経歴、家族構成等

《証拠略》によると、次のとおり認められる。

太郎は、高等学校卒業後乙田工業株式会社に勤務していたが、昭和六一年一二月ころ乙山観光開発に転職した。太郎は本件事故当時、五六歳で乙山観光開発の業務部長であり、月収は税込みで五〇万円であつた。太郎の本件事故当時の家族構成は、妻(原告。五三歳)と三人の子すなわちダウン症で一級障害者の長女(二七歳)、高等学校の非常勤講師の長男(二四歳)及び短期大学生の次女(一九歳)の一家五人であり、住居は借家である。原告は昭和六三年ころから被告に勤務していた。

2  多額の使途不明の借財等

(一) 太郎が本件事故当時負担していた債務は、次のとおりである。

(1) 原告が連帯保証人となつていた債務

(債権者) (金額)

<1> 株式会社東京プロモーション 五五〇万円

<2> ローンズ大阪 五〇〇万円

<3> 真寿商事 四五〇万円

<4> 丙田松夫 六五〇万円

(小計 二一五〇万円)

(2) その他の債務

<1> 静岡県信連浜松 五〇〇万円

<2> 清水銀行北支店 三〇〇万円

<3> カードローン

三和銀行浜松支店 五〇万円

富士銀行浜松支店 五〇万円

浜松信用金庫 五〇万円

(小計 九五〇万円)

(3) 滞納住民税 九〇万四六三〇円

(1)ないし(3)の総合計 三一九〇万四六三〇円

(二) また、原告は太郎死亡の約二か月後である平成元年一二月一四日付で破産宣告(自己破産)の申立てを行つている(平成二年一一月五日取下げられた。)が、右申立て時点における原告の債務は以下のとおりである。

(1) 前記太郎の債務の連帯保証分(1)の<1>ないし<4> 小計二一五〇万円

(2) その他の債務(いずれも昭和六二年以降、自ら債務者として借り入れたものである。)

(債権者) (金額)

<1> マルカンローン 約五〇万円

<2> 武富士株式会社 約五〇万円

<3> ニコニコクレジット 約五〇万円

<4> アルファー 約五〇万円

<5> 東洋企画 約五〇万円

<6> ワールド田町店 約二〇万円

<7> ワールド伝馬町店 約三〇万円

<8> プロミス株式会社 約一〇万円

<9> 日本信販株式会社浜松支店 約四九万八〇〇〇円

(小計 約三五九万八〇〇〇円)

(1)及び(2)の総合計 約二五〇万八〇〇〇円

(三) 太郎の前記月収の額及び借家住まいで特に資産も有していなかつたことに照らすと、総額三〇〇〇万円を超す前記(一)の借り入れは常識の範囲を逸脱した巨額のものといわざるを得ない。原告は、(二)(1)の四つの連帯保証債務について、太郎に連帯保証人となるように言われて判を押したが、その使途は知らされていない旨供述する。このような巨額の借り入れをするに当たり、しかも原告が連帯保証をするというのに、夫である太郎からその使途を全く知らされていないというのは不可解なことであるが、本件訴訟における証拠上は、その使途は不明である。

また、(一)(1)<1>の株式会社東京プロモーションからの借り入れは、太郎死亡の約二か月前の平成元年七月二四日のものであつて、借入れ後第一回の利息の支払すらしていない。

そして、《証拠略》を総合すると、太郎の借入れは、銀行からのみならず、個人金融や町の金融業者からのものもあり(前記(一)のとおり)、利息の支払だけでも相当な金額になることが容易に推認され、太郎の月々の収入は借入れの利息の支払等に充てられ、家庭内に生活費として入つて来なかつたこと、原告自身は生活費の捻出のため、前記(二)(2)のとおり町の金融業者から金銭を借入れていたことが認められる(原告は、太郎は月々の収入を家に入れていたとも供述するが、太郎の前記巨額の債務に鑑みると、太郎の給料の相当分はその利息等の返済に充てられたものと認めるのが合理的であること、原告が生活費まで金融業者から借入れていたこと及び《証拠略》に照らすと、採用することができない。)。なお、《証拠略》によると、太郎の会社の同僚である丁原は、平成元年一〇月二日付で乙山観光開発に勤務するようになり、太郎死亡までの一六日間同じ事務所で業務に従事していた者であるが、事務所においても太郎のもとに町の金融業者から電話があつたり、静岡県県信連の職員が度々訪れて太郎と内密な話をしたりする等のことがあつたので、太郎が大分金銭に困つており緊急に金銭を必要としていたのだなという印象を受けていたことが認められる。

3  原告らの相続放棄

《証拠略》によると、原告と長男及び次女は、平成元年一二月二一日をもつて太郎を被相続人とする相続放棄の申述を受理されている。

4  太郎の健康状態

調査嘱託の結果によると、次のとおり認められる。

太郎は、平成元年六月一三日右足関節化膿症のため乙山赤十字病院整形外科に入院し、同月二〇日退院した。入院時の検査成績で肝機能障害が認められたため、内科において精査したところ、肝硬変症の存在が疑われた。担当の内科医は、昭和六一年二月ころ、乙田浜松製作所健康管理センターにおいて当時同製作所に勤務していた太郎を診察したことがあり、その時の検査結果とも比較し、太郎に対し、以前よりも肝病変がひどく進行したというような印象はないが今回の検査でもそれなりの肝病変が明らかに認められるので、今まで以上に自己の肝臓に気を配る必要のあること、アルコールは必ず二合以下に制限すること、通院をすることを通告した。もつとも、この内科医からの通告について、太郎は、「肝臓は思つたほど悪くないと言われた、晩酌程度の酒はいいよと言われた」などと看護婦に告げ、喜んでいるような様子であつた。そして太郎は、同月二〇日の退院後、内科医の通告にもかかわらず、一度も内科外来で受診していない。

また、《証拠略》によると、太郎は酒が好きで、平素から家で日本酒二合程度の晩酌を嗜み、ほとんど毎晩飲酒していたこと、朝職場においてひどく酒臭いことがあつたことが認められる。

六  捜査当局の対応

《証拠略》によると、太郎の死体については司法検視、司法解剖及び鑑定が行われたこと、原告やその子らは太郎の死について他殺の疑いをかけ、原告は警察に対し心当たりのある人の名前を出して捜査を依頼したこと、しかし、乙山観光開発において退職金の支払等本件の事後処理に当たり本件について警察からの事情聴取を受けた丁原は、太郎の死亡について担当刑事から司法解剖の結果からしても自殺であるとの回答を得たことが認められる。

また、当裁判所が平成二年一一月一三日付で細江警察署に対し本件事件の一件記録の文書送付嘱託をしたところ、同月一六日付で、本件については検視を行い、その関係書類については静岡地方検察庁浜松支部に送付済みであるとの回答を得、これを受けて同年一二月二六日付で同支部に対し検視調書及び関係書類の文書送付嘱託をし、平成三年一月八日付で検視調書の送付を受けたこと、しかしながら、さらに当裁判所が平成三年九月一七日付で同支部に対し本件の実況検分調書の送付嘱託をしたところ、同日三〇日付けで、本件については警察署からの立件送致がなく、同支部に実況検分調書は存在しないとの回答があつたことは、当裁判所に顕著な事実であるから、本件事故については事故発生後二年近くを経過してもなお立件送致がなく、また、実況検分調書も作成されていないと推認するのが相当である。

七  当裁判所の判断

太郎の死因が焼死であることに争いはなく、前認定の事故発見状況の特異性に照らすと、本件事故が偶然に発生した不慮の事故であるとは到底考えられず、太郎は軽油ドラム缶からポンプのホースを引き込んで軽油を撒かれた自己所有の自動車の中で自動車とともに焼かれて死亡したものと認めるのが相当である。

そこで、自殺の可能性について検討すると、太郎は乙山観光開発の業務部長として月額五〇万円程度の収入がある外はこれといつた資産もないのに、個人金融やいわゆる町の金融業者を含む複数の金融機関に対し使途不明の総額三〇〇〇万円を超す多額の借金があり、月々の収入も右借金の利息の返済に充てられ、妻である原告が生活費捻出のため町の金融業者から借金をし、原告自身の借金も増加していつたこと、本件事故当時太郎が借金の問題で困窮していることは勤務先の同僚の目にも止まるような状態であつたこと、本件事故の数日前にも県信連から借入れをするに当たり会社に対し保証を依頼したが、会社の了承を得られなかつたことは前認定のとおりであり、このような常軌を逸した使途不明の借金は自殺の動機となり得るものであり、また、太郎の当時二七歳の長女は一級の身体障害者であり、親としてその将来を案じるあまり時に悲観的な発想に陥ることもあり得ないことではないこと、太郎自身の健康状態も良好とはいえなかつたこと等も、自殺を推認させる背景的事情として無視し得ないところである。また、死亡前の経過をみると、太郎は「つかれました。二年間我慢してきたけど、会社側が評価してくれない。」とのメモを書き残しており、現に死亡の四日前である平成元年一〇月一四日に開催された執行部会において会社側から借金の保証を事実上断られており、一六日には会社を無断欠勤し、家族の者にも連絡はなく、その晩は乙山観光開発の現地事務所に外泊したものの、翌一七日の朝自動車で現地事務所を出たが会社には姿を見せず、なお家族の者に何の連絡もなく、その晩も帰宅しないまま、翌一八日早朝に焼死体として発見されたというのであつて、太郎の自殺の意思を十分うかがわせるものがある。

他方、他殺の可能性について検討してみると、これをうかがわせるものは証拠上全く存在しない。

以上認定したところを総合すると、他に特段の事情のない限り、太郎は使途不明の多額の借金等を苦にして、死亡の二日前から人目を避けて悩んだ末、自らの意思により故意にその生命を絶つことを決意したものと推認するのが相当である。

原告は、太郎の死亡について、過労ないし心身症による発作的過失死であるとか、精神障害による死亡であるなどと主張するが、本件はその事故形態すなわち軽油ドラム缶の備えつけてある人気のないメンテナンスヤードに自己所有の自動車で乗り入れ、右ドラム缶の軽油と自動車を利用していることに照らすと、例えば自宅のベランダから飛び下りるとか線路に飛び込むといつた形態とは異なり、発作的な行動とは到底考えられないのであつて、むしろ確信的な意思に基づく計画的な行動といえること、また原告に精神障害があつたことをうかがわせる証拠は存在しないことからして、右主張は採用することができない。そして、ほかに右自殺の推認を覆すに足りる特段の事情をうかがわせる証拠は存在しない。

以上のとおりであつて、原告の請求は理由がないから主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 新村正人 裁判官 三村量一 裁判官 前田英子)

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