東京地方裁判所 平成2年(特わ)2088号・平2年(特わ)2089号・平2年(特わ)2091号 判決
右有限会社利昌、横山彰、東部観光開発株式会社、土田正二に対する法人税法違反各被告事件並びに島川清に対する法人税法違反及び所得税法違反各被告事件について、当裁判所は、検察官立澤正人出席の上審理し、次のとおり判決する。
主文
被告人有限会社利昌を罰金九〇〇〇万円に、被告人横山彰を懲役二年に、被告人東部観光開発株式会社を罰金七五〇〇万円に、被告人土田正二を懲役二年に、被告人島川清を懲役一年一〇月及び罰金一五〇〇万円にそれぞれ処する。
被告人島川清に対し、未決勾留日数中三〇日をその懲役刑に算入する。
被告人島川清において、右罰金を完納することができないときは、金一五万円を一日に換算した期間同被告人を労役場に留置する。
被告人横山彰及び被告人土田正二に対し、この裁判確定の日から四年間それぞれその刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
第一 被告人会社有限会社利昌(以下、被告会社利昌という)は、東京都保谷市東伏見一丁目八番一三号(平成二年一月一日以降は同都新宿区高田馬場四丁目九番一一―四〇二号)に本店を置き、不動産の売買等を目的とする資本金二〇〇〇万円の有限会社であり、被告人横山彰(以下、被告人横山という)は、被告会社利昌の代表取締役(平成二年三月二六日以降は取締役)としてその業務の全般を統括していたものであり、被告人島川清(以下、被告人島川という)は、法人や個人の経理処理や決算書・確定申告書原案の作成等を、報酬を得て行っていたものであるが、被告人横山と被告人島川は、共謀の上、被告会社利昌の業務に関し法人税を免れようと企て、不動産売買を第三者との共同事業として行い手数料を支払ったかのように仮装して仕入高に架空計上し、あるいは不動産売買を行うに当たって、第三者名義で取引をする等の方法により所得を秘匿した上
一 昭和六〇年一月二八日から同年一二月三一日までの事業年度における被告会社利昌の実際所得金額が七五三三万七二五六円(別紙1修正損益計算書参照)、課税土地譲渡利益金額が八四五三万円であったのにかかわらず、昭和六一年二月二八日、同都東村山市本町一丁目二〇番二二号所轄東村山税務署において、同税務署長に対し、所得金額が七七九万三二五六円、課税土地譲渡利益金額が一二八五万七〇〇〇円であり、これに対する法人税額が四九四万五五〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(平成三年押第一四七号の1)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、被告会社利昌の右事業年度における正規の法人税額四八五〇万一二〇〇円と右申告税額との差額四三五五万五七〇〇円
(別紙2脱税額計算書参照)を免れ
二 昭和六一年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度における被告会社利昌の実際所得金額が四億四七四七万六六九五円(別紙3修正損益計算書参照)、課税土地譲渡利益金額が四億四八一一万三〇〇〇円であったのにかかわらず、昭和六二年二月二八日、前記東村山税務署において、同税務署長に対し、所得金額が二四万七一六五円、課税土地譲渡利益金額が零であり、納付すべき法人税額がない旨の虚偽の法人税確定申告書(前同押号の2)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、被告会社利昌の右事業年度における正規の法人税額二億八一九四万二四〇〇円(別紙4脱税額計算書参照)を免れ
第二 被告人会社東部観光開発株式会社(以下、被告会社東部観光開発という)は、東京都新宿区西新宿七丁目一〇番一七号に本店を置き、建物の管理等を目的とする資本金一〇〇〇万円の株式会社であり、被告人土田正二(以下、被告人土田という)は、被告会社東部観光開発の代表取締役としてその業務の全般を統括していたものであり、被告人島川は前記のとおり、法人や個人の経理処理や決算書・確定申告書原案の作成等を、報酬を得て行っていたものであるが、被告人土田と被告人島川は共謀の上、被告会社東部観光開発の業務に関し法人税を免れようと企て、架空の支払手数料を計上し、あるいは不動産売買を仮装し架空の売却損を計上する等の方法により所得を秘匿した上
一 昭和六〇年一〇月一日から同六一年九月三〇日までの事業年度における被告会社東部観光開発の実際所得金額が三億五九四五万一六四五円(別紙5修正損益計算書参照)、課税土地譲渡利益金額が三億九七〇六万八〇〇〇円であったのにかかわらず、昭和六一年一二月一日、同区北新宿一丁目一九番三号の当時の所轄淀橋税務署(昭和六二年七月一日新宿税務署に名称変更)において、同税務署長に対し、所得金額が四七八三万二一六四円、課税土地譲渡利益金額が九九五一万一〇〇〇円であり、これに対する法人税額が三九四五万一〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(前同押号の3)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、被告会社東部観光開発の右事業年度における正規の法人税額二億三三八一万九七〇〇円と右申告税額との差額一億九四三六万九六〇〇円(別紙6脱税額計算書参照)を免れ
二 昭和六一年一〇月一日から同六二年九月三〇日までの事業年度における被告会社東部観光開発の実際所得金額が一億九八〇万八五三九円(別紙7修正損益計算書参照)、課税土地譲渡利益金額が一億七五五七万三〇〇〇円であったのにかかわらず、昭和六二年一一月三〇日、前記新宿税務署において、同税務署長に対し、所得金額が一七四万八〇六六円、課税土地譲渡利益金額が二六八六万円であり、これに対する法人税額が五二四万五七〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(前同押号の4)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、被告会社東部観光開発の右事業年度における正規の法人税額七九六二万三三〇〇円と右申告税額との差額七四三七万七六〇〇円(別紙8脱税額計算書参照)を免れ
第三 被告人島川は、東京都杉並区成田東一丁目六番九号に住所を定め、被告会社利昌及び被告会社東部観光開発から、第一及び第二の犯行に加担したことに対する謝礼金を得ていたものであるが、右謝礼金を借名の普通預金口座に入金する等の方法により所得を秘匿した上、昭和六一年分の実際総所得金額が一億三九八三万四七〇八円(別紙9修正損益計算書参照)であったのにかかわらず、昭和六二年三月一六日、同都杉並区成田東四丁目一五番八号所轄杉並税務署において、同税務署長に対し、同六一年分の総所得金額が二八六万四八四九円であり、これに対する所得税額が二万三一〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書(前同押号の5)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同年分の正規の所得税額八五六九万四二〇〇円と右申告税額との差額八五六七万一一〇〇円(別紙10脱税額計算書参照)を免れ
たものである。
(証拠の標目)
判示全事実について
一 被告人島川の当公判廷における供述
一 被告人島川の検察官に対する平成二年一二月九日付供述調書
判示第一の各事実及び判示第三の事実について
一 被告人横山の当公判廷における供述
一 被告人横山の検察官に対する平成二年一二月二日付、同月二一日付(本文一六丁のもの)各供述調書
一 被告人島川の検察官に対する平成二年一二月一四日付供述調書
判示第一の二の事実及び判示第三の事実について
一 被告人横山の検察官に対する平成二年一二月一七日付供述調書
判示第一の各事実について
一 被告人横山の検察官に対する平成二年一二月二一日付(本文一三丁のもの)、同月二五日付各供述調書
一 被告人島川の検察官に対する平成二年一二月二四日付(二通)各供述調書
一 登記官作成の被告会社利昌の法人登記簿謄本
一 収税官吏後藤良光作成の次の各調査書(いずれも被告会社利昌に関するもの)
1 売上高調査書
2 当期仕入高調査書
3 租税公課調査書
4 支払手数料調査書
5 利益分配金調査書
6 雑費調査書
7 受取利息調査書
8 支払謝礼金調査書
9 支払利息割引料調査書
一 収税官吏佐々木義仁作成の課税土地譲渡利益金額調査書(被告会社利昌に関するもの)
一 検察事務官作成の次の副題のある各捜査報告書(いずれも被告会社利昌に関するもの)
1 雑費
2 支払謝礼金
一 収税官吏作成の領置てん末書(被告会社利昌の確定申告書等に関するもの)
判示第一の一の事実について
一 被告人横山の検察官に対する平成二年一二月一二日付供述調書
一 押収してある被告会社利昌の昭和六〇年一二月期の法人税確定申告書一袋(平成三年押第一四七号の一)
判示第一の二の事実について
一 大蔵事務官後藤良光作成の次の調査書(いずれも被告会社利昌に関するもの)
1 当期末棚卸高調査書
2 事業税認定損調査書
一 検察事務官作成の「控除所得税額の金額について」と副題のある捜査報告書(被告会社利昌に関するもの)
一 押収してある被告会社利昌の昭和六一年一二月期の法人税確定申告書一袋(前同押号の二)
判示第二の各事実及び判示第三の事実について
一 被告人土田の当公判廷における供述
一 被告人土田の検察官に対する平成二年一二月一五日付、同月一八日付各供述調書
一 被告人島川の検察官に対する平成二年一二月二二日付供述調書
判示第二の各事実について
一 被告人土田の検察官に対する平成二年一二月七日付、同月一二日付、同月二五日付、同月二六日付各供述調書
一 登記官作成の被告会社東部観光開発の法人登記簿謄本
一 収税官吏吉川聡作成の次の各調査書(いずれも被告会社東部観光開発に関するもの)
1 売上高調査書
2 当期仕入高調査書
3 公租公課調査書
4 支払手数料調査書
5 謝礼金調査書
6 受取利息調査書
7 課税土地譲渡利益金額調査書
一 検察事務官作成の「謝礼金の金額異動について」と副題のある捜査報告書(被告会社東部観光開発に関するもの)
一 収税官吏作成の領置てん末書(被告会社東部観光開発の確定申告書等に関するもの)
判示第二の一の事実について
一 被告人土田の検察官に対する平成二年一二月二四日付供述調書
一 収税官吏吉川聡作成の控除所得税調査書(被告会社東部観光開発に関するもの)
一 検察事務官作成の次の副題のある各捜査報告書(いずれも被告会社東部観光開発に関するもの)
1 支払手数料の金額異動について
2 控除所得税額の金額について
一 検察事務官作成の平成二年一二月二二日付捜査報告書(淀橋税務署の名称変更に関するもの)
一 押収してある被告会社東部観光開発の昭和六一年九月期の法人税確定申告書一袋(前同押号の三)
判示第二の二の事実について
一 被告人土田の検察官に対する平成二年一二月二二日付、同月二三日付各供述調書
一 収税官吏吉川聡作成の次の各調査書(いずれも被告会社東部観光開発に関するもの)
1 期末販売用不動産調査書
2 支払利息調査書
3 その他所得調査書
4 事業税認定損調査書
5 繰越欠損控除額調査書
一 検察事務官作成の「繰越欠損控除額について」と副題のある捜査報告書(被告会社東部観光開発に関するもの)
一 押収してある被告会社東部観光開発の昭和六二年九月期の法人税確定申告書一袋(前同押号の四)
判示第三の事実について
一 被告人島川の検察官に対する平成二年一二月七日付、同月二三日付、同月二四付各供述調書
一 収税官吏櫻井治男作成の次の各調査書(いずれも被告人島川に関するもの)
1 収入金額調査書
2 支払謝礼金調査書
3 租税公課調査書(二通)
4 水道光熱費調査書
5 旅費交通費調査書
6 通信費調査書
7 交際費調査書
8 損害保険料調査書(二通)
9 消耗品費調査書
10 減価償却費調査書(二通)
11 利子割引料調査書
12 地代家賃調査書
13 車両費調査書
14 申告経費額調査書(二通)
15 修繕費調査書
16 給与収入調査書
17 給与所得控除調査書
18 源泉徴収税額調査書
19 所得控除額調査書
一 松山市長中村時雄作成の戸籍謄本(附標写し添付)
一 収税官吏作成の領置てん末書(被告人島川の確定申告書に関するもの)
一 押収してある被告人島川の昭和六一年分の所得税確定申告書一袋(前同押号の五)
(被告会社利昌及び被告人横山の弁護人の主張に対する判断)
被告会社利昌及び被告人横山の弁護人は、「被告人横山は被告会社利昌の昭和六〇年一二月期の所得に関し、既に被告人島川とともに行っていた不正工作を前提として税の申告をする意思であったが、右不正工作以上の不正をする意思はなかったところ、被告人島川が課税土地譲渡利益金額につき、右不正工作を前提として法人税法上認められた計算をすれば一九六九万三〇〇〇円となるにもかかわらず、その計算方法を誤り、一二八五万七〇〇〇円として申告書を作成したため、その旨の申告がなされたものである。すなわち、右金額で申告がなされたのは、所得の秘匿工作とは関わりのない不注意や思い違いによるものであり、一九六九万三〇〇〇円との差額分について被告人横山には故意がないから、昭和六〇年一二月期分のほ脱罪が成立するのは、課税土地譲渡利益金額を一九六九万三〇〇〇円と申告したものとして計算したほ脱税額四二一八万八五〇〇円に止まる。」旨主張する。
しかしながら、前提関係各証拠によれば、
(1) 被告人横山と同島川は、被告会社利昌の脱税の目的で、相談した上、同社が昭和六〇年一二月期に行った不動産取引のうち、神戸市熊内町の物件については、同物件の購入・販売を有限会社伸弘商事と共同事業で行い、それに伴う手数料を伸弘商事に支払ったように仮装する工作を、また、練馬区石神井町三丁目一二一一番の三五、六六、七一の物件については、株式会社エムケーホームが取引を行ったように仮装する工作をそれぞれ行った。
(2) 被告人横山は、昭和六一年一月中旬ころ、これらの工作のため被告人島川とともに準備した帳簿、伝票類、契約書写し等を、その内容が虚偽のものであることを隠して、大塚税理士に渡し、被告会社利昌の決算書と申告書の作成を依頼した。
(3) ところが、被告人横山は、その後決算等を行っている大塚税理士から、「所得が七八〇万円くらいで、六七〇万円の税金を納めなければならない。」旨の説明を受け、その税額を高いと思い、さらに同税理士がいわゆる土地重課の計算に不慣れな様子でもあったことから、被告人島川に相談したところ、税金はもっと安くなる旨言われて、同被告人に申告書等を作成させることにし、同年二月二〇日ころ、大塚税理士から、おおむね作成されていた申告書等と、前記帳簿等を受け取り、被告人島川に渡した。
(4) 大塚税理士は前記不正工作を前提として、課税土地譲渡利益金額を租税特別措置法施行令三八条の四第六項に従い二一五七万六〇〇〇円と計算していたが、被告人島川は計算方法を誤解していたため、一二八五万七〇〇〇円と計算した。なお、前記不正工作を前提として、課税土地譲渡利益金額を同施行令三八条の四第八項の方法により計算すると、一九六九万三〇〇〇円となる。
(5) 被告人島川は、所得額等を算定した上、同年二月末ころ被告人横山に対し、被告会社利昌の昭和六〇年一二月期の所得額が七七九万三二五六円、法人税額が四九四万五五〇〇円ということになる旨電話で説明し、被告人横山は課税土地譲渡利益金額を確認したりせず、申告書も見ないまま、それを了承し、その額で申告するように依頼した。そこで、被告人島川は、出入りしていた高柳会計事務所におおむね作成していた申告書を持ち込んで完成させ、その後、これにより申告の手続をした。
以上の事実が認められる(なお、被告人横山は公判廷において、大塚税理士から聞いた税額を多すぎるとは思わなかった旨供述するが、その前後の事実経過に照らし、信用できない)。すなわち、被告人横山は同島川とともに事前の不正工作を行い、当初から正当な申告をする意思がなかったものであり、右不正工作に基づき、第三者が計算した法人税額はなお高すぎるとして、被告人島川に相談し、同被告人が税額をさらに低く押さえることを期待し、その後、同被告人が前記不正工作を前提として計算した所得額・法人税額につき、計算根拠等を何ら問題にせず、かつ、過少であることを十分認識しつつ、ただちにその額による申告を依頼したのである。そうすると、被告人横山は、ほ脱の意図の下にその手段として事前の所得秘匿工作を行った上、申告にかかる所得額及び課税土地譲渡利益金額が真実のそれらの金額よりも少ないことを概括的に認識しつつ、虚偽過少申告をしたものであり、さらに、被告人島川が計算方法を誤解したことにより、課税土地譲渡利益金額及び税額を過少に申告した部分についても、右虚偽過少申告ないし事前の所得秘匿工作と無関係な特段の事情により生じたものとはいえないから、被告人横山は右部分についてほ脱の故意を欠くものではなく、正規の税額と申告税額との差額全体についてほ脱罪の責任を負うものと解するのが相当である。したがって、被告会社利昌及び被告人横山の弁護人の前記主張は採用できない。
(法令の適用)
一 罰条
被告会社利昌 判示第一の一、二の各事実について法人税法一六四条一項、一五九条一項、二項(情状による)
被告人横山 判示第一の一、二の各行為について刑法六〇条、法人税法一五九条一項
被告会社東部観光開発 判示第二の一、二の各事実について法人税法一六四条一項、一五九条一項、二項(情状による)
被告人土田 判示第二の一、二の各行為について刑法六〇条、法人税法一五九条一項
被告人島川 判示第一の一、二及び判示第二の一、二の各行為について刑法六〇条、六五条一項、法人税法一五九条一項
判示第三の行為について所得税法二三八条一項、二項(情状による)
二 刑種の選択
被告人横山 判示第一の一、二の各罪について懲役刑選択
被告人土田 判示第二の一、二の各罪について懲役刑選択
被告人島川 判示第一の一、二及び判示第二の一、二の各罪について懲役刑選択
判示第三の罪について懲役刑及び罰金刑選択
三 併合罪加重
被告会社利昌 刑法四五条前段、四八条二項
被告人横山 刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(犯情の重い判示第一の二の罪の刑に加重)
被告会社東部観光開発 刑法四五条前段、四八条二項
被告人土田 刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(犯情の重い判示第二の一の罪の刑に加重)
被告人島川 刑法四五条前段、懲役刑について同法四七条本文、一〇条(犯情の最も重い判示第三の罪の刑に加重)
四 未決勾留日数の算入
被告人島川 刑法二一条
五 労役場留置
被告人島川 刑法一八条
六 執行猶予
被告人横山、同土田 各刑法二五条一項
(量刑の理由)
被告人横山及び同島川による被告会社利昌の本件脱税の犯行(判示第一の犯行)は、不動産取引により多額の所得がありながら、二年度にわたって合計三億二五〇〇万円余りを脱税したものであり、脱税率は昭和六〇年一二月期が約八九・八パーセント、同六一年一二月期が一〇〇パーセント、二年度を通しては約九八・五パーセントという高率である。不正工作の態様をみると、不動産の購入・販売を赤字のいわゆるダミー会社との共同事業として行い手数料を支払ったかのように仮装して仕入高に架空計上し、あるいは被告会社利昌の行った不動産取引につきダミー会社の取引であるかのように仮装するなどの方法であり、預金口座の開設その他金銭の流れを作り出すことはもとより、仮装のための虚偽の契約書等を作成するなどしており、巧妙かつ悪質であり、また、これら不動産取引をする際に、既に脱税のための工作をしているのであって、計画的でもある。さらに犯行後、被告人横山と同島川は、関連の会社に国税局の調査が入った際、被告会社利昌の脱税の発覚を一部に押さえるため、従前はダミー会社が行って利益を得たものと仮装していた新宿区弁天町の物件の取引を、被告会社利昌とその他複数の者で行い利益を分配したように装う等の罪証湮滅工作も行っている。
被告人横山は、被告人島川に自己の経営する別会社の税金対策を任せるうちに、同被告人が脱税工作をしてくれることはっきりと認識し、同じく自己の経営する被告会社利昌の不動産取引による所得についても、被告人島川の示唆を受けて、脱税の工作を依頼するようになったものであるが、その動機は、いわゆる土地重課制度により高率の税金を取られるのは惜しいと考え、被告会社利昌の取引において自由に使える裏金を確保し、かつ自己の老後に備える資金作りを意図したという利己的なもので、土地重課制度をないがしろにすること甚だしく、酌量すべき点はない。そして、被告人横山は、右の依頼をするに際し、被告人島川に多額の謝礼金を提供することとし、さらに、その後の取引については被告人島川に対し自ら積極的に脱税の工作を依頼しているのである。不正工作における役割をみても、被告人横山は同島川の指示に従い、一部のダミー会社(ダビオハウヂング)を被告人島川が入手するための資金の拠出や、ダミー会社名義の預金口座への入金その他の重要な行為をしており、前記の罪証湮滅工作に際しては、被告人島川の指示により、利益分配を受けたことにする者への謝礼金やその納税資金等として約六〇〇〇万円の支出までしている(なお、被告人横山は、公判廷において、ダビオハウヂング入手資金を拠出したことはなく、また右約六〇〇〇万円のうち四三〇〇万円は被告会社利昌の申告分として被告人島川に渡した旨供述するが、その供述内容は不自然であり、被告人島川の公判廷における供述や、同横山の検察官に対する供述に照らし、信用できない)。さらに、本件起訴にかかる法人税の本税すら、いまだ完納に至っていない状態である。
以上の事情によれば、判示第一の犯行は重大であって、被告会社利昌及び被告人横山の責任は重いというべきである。
次いで、被告人土田及び同島川による被告会社東部観光開発の本件脱税の犯行(判示第二の犯行)は、同じく不動産取引による多額の所得につき、二年度にわたって合計二億六八〇〇万円余りを脱税したものであり、脱税率は昭和六一年九月期が約八三・一パーセント、同六二年九月期が約九三・四パーセント、二年度を通しては約八五・七パーセントという高率である。不正工作の態様をみると、被告会社利昌同様、不動産取引を赤字のダミー会社との共同事業として行い手数料を支払ったかのように仮装し、あるいは不動産の真実の転売先との間にダミー会社を介在させて売上を一部除外し、さらにはダミー会社を利用して不動産取引を仮装し架空の売却損を計上するなどの方法であり、やはり巧妙かつ悪質で、計画的である。さらに、犯行後、被告人土田と同島川は、使用した一部のダミー会社の関係書類を廃棄するなどの罪証湮滅工作を行っている。
被告人土田は、地価高騰の影響で自己の経営する被告会社東部観光開発にそれまでにないほどの多額の利益が見込まれたが、土地重課制度により多額の納税をするよりは、以後の事業拡張資金として残しておきたいと考え、知人に相談し、脱税の工作をしてくれる人物として被告人島川の紹介を受け、謝礼金を支払うことを申し出て、脱税の工作の依頼をしたのであり、動機において何ら酌量すべき点はないほか、以後も脱税の工作を自ら積極的に依頼しているのであり、犯情は甚だよくない。不正工作についても、被告人土田は同島川の指示により、ダミー会社の預金口座への入金その他の重要な行為をしているばかりか、被告人島川とは別個に、独自の判断で架空領収証を使用して架空支払手数料を計上したり、ダミー会社を介在させて売上の一部を除外している。さらに、本件起訴にかかる法人税の本税等のうち、修正申告にかかる本税の三十数パーセントに相当する八七〇〇万円が起訴後になって納付されたのみであり、その余の税はすべて未納の状態である。
以上の事情によれば、判示第二の犯行も重大であり、被告会社東部観光開発及び被告人土田の責任は重いというべきである。
被告人島川は、以前から会計事務所に出入りし、法人や個人から報酬を得て決算書や申告書原案等を作成していたところ、その税務知識を悪用し、自己の蓄財のために、いわば脱税の請負人として、判示第一及び第二の各犯行につき、多額の謝礼金を得ることを目的として脱税の工作を引き受け、前記のような巧妙かつ悪質な、多岐にわたる工作の具体的方法をいずれも考案し、被告人横山及び同土田に教授した上、工作に用いる赤字のダミー会社をいくつも提供し、その経理・税務処理も引き受け、さらに両被告人に具体的な指示を与え、あるいは被告人島川自身で架空領収証や虚偽の契約書を準備するなどして、工作を終始主導的立場で実行し、その上被告会社利昌については虚偽の決算書及び申告書原案の作成を行い、出入りの会計事務所で申告書を完成させて申告手続自体を行ったのである。このように、被告人島川の犯行の動機が悪質であることはいうまでもなく、同被告人が果たした役割はまことに大きく、その存在なくしてこれらの犯行は困難であったと認められ、さらに、前記の各罪証湮滅工作についても被告人島川が発案し、その他、被告会社利昌の脱税の発覚を妨げるため、一部ダミー会社の代表者・本店所在地の変更等も行っている。そして、被告人島川が判示第一及び第二の各犯行に加担したことにより得た謝礼金は、少なくとも一億七六一〇万円余りという多額に上り、その性質上、当初から所得としての申告をする意思はなく、借名の預金口座に入金するなどして、そのうち昭和六一年分について判示第三の犯行に及び、八五〇〇万円余りの所得税を免れ、その脱税率は約九九・九パーセントという極めて高率である上、被告人島川は、ほ脱した所得により自己の不動産等を購入していたのであって、その責任は極めて重大である。
一方、被告会社利昌はすでに国税局の調査の段階で本件各事業年度の修正申告を行い、そのころから分割ながらも本税を順次納付していき、その合計額は修正申告にかかる本税の約三分の二に相当する一億七七〇〇万円余りであり、また、右各年度の地方税も月々納付していること、本税その他の未納分についても不動産の在庫処分等により今後順次納税していく計画であり、不動産の売却の準備が進んでおり、被告人横山はそのための努力を続けていること、被告人横山の行為による結果とはいえ、前記の約六〇〇〇万円は支出したままとなっていること、本件各事業年度において所得秘匿工作の対象となった不動産取引の数はそれぞれ数件ずつにとどまるが、地価高騰の影響及び土地重課制度によりほ脱額が多額に上ったという側面があること、被告人横山には二〇年以上前に罰金の前科が一件あるほか、前科がないこと、同被告人は事実を認め、反省の情を示していること等の被告会社利昌及び被告人横山のために酌むべき事情が認められる。次いで、被告会社東部観光開発は前記のとおり起訴後の修正申告により、一部とはいえ本税を納付し、その余の未納分は、国税当局に差し押さえられた不動産につき金融機関の抵当権との調整を図りながら、差押の解除を得て処分することにより、今後順次納税していく計画であり、一部の不動産については現在処分の見込みがないわけではなく、被告人土田はそのための努力を続けていること、所得秘匿工作を行った不動産取引の数の割に、ほ脱額が多額に上った原因として被告会社利昌におけると同様の事情があること、被告人土田が実刑になると、被告会社東部観光開発の存続が危胎に瀕し、前記本税等の納付が困難になると考えられること、被告人土田は罰金の前科二件のほか、前科がないこと、約三か月間勾留されたこと、同被告人は事実を認め、反省の情を示していること等の被告会社東部観光開発及び被告人土田のために酌むべき事情が認められる。さらに、被告人島川については国税局の調査の段階から、所得税法違反の対象年分である昭和六一年分及びその前後の二年分につき修正申告を行い、それら申告にかかる本税、附帯税を不動産の処分等により全額納付済であること、地方税についても不動産の処分により納付しうる見込みであること、被告会社東部観光開発の脱税のうち、昭和六一年九月期の中野区中央物件に関する合計四〇三〇万円相当の架空支払手数料の計上及び同六二年九月期の東十条物件に関する二五〇〇万円相当の売上除外については、被告人土田が単独で行い、被告人島川は関与していないこと(関係各証拠によれば、被告人島川はこれら事前の不正工作及びそれによる所得の秘匿を何ら認識していないが、同被告人と被告人土田との間には、その他の不正工作を行う際に、それらの工作を前提として虚偽過少申告により被告会社東部観光開発の本件二年度の法人税を脱税する旨の共謀が成立しており、被告人土田につき右二年度のほ脱罪がそれぞれ単純一罪として成立する以上、被告人島川が前記の認識を欠くことは、共犯者間における同一構成要件内の事実の錯誤、いわば犯罪の量すなわちほ脱所得の額に関する錯誤に過ぎず、同被告人も各年度のほ脱罪全体につき責任を負い、認識を欠く部分の存在は情状として考慮すれば足りるものと解すべきである)、前述した被告会社利昌及び被告人東部観光開発の納税状況、被告人島川には前科前歴がなく、今回はじめて七〇日間以上身柄を拘束されたこと、事実を認め、反省の情が顕著に認められること、現在では会社員として真面目に働いていること、家庭の状況等の酌むべき事情がある。
そこで、以上の各事情及びその他諸般の情状を考慮し、被告会社利昌及び同東部観光開発に対しては、それぞれ主文のとおりの罰金刑を、被告人横山及び同土田に対しては、実刑も考えられるところではあるが、今回に限り、いずれも懲役刑の執行を猶予して社会内での更生を図らせ、各被告会社の今後の納税に全力を尽くさせることとし、被告人島川に対しては、その罪責の重大さに鑑み、実刑は免れないが、その刑期及び併科する罰金額については、主文の程度にとどめることとした次第である。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判官 西田眞基)
別紙1
修正損益計算書
<省略>
別紙2
脱税額計算書
<省略>
別紙3
修正損益計算書
<省略>
別紙4
脱税額計算書
<省略>
別紙5
修正損益計算書
<省略>
別紙6
脱税額計算書
<省略>
別紙7
修正損益計算書
<省略>
別紙8
脱税額計算書
<省略>
別紙9
修正損益計算書
<省略>
別紙10
脱税額計算書
<省略>