東京地方裁判所 平成3年(ケ)1132号
物件明細書
東京地方裁判所民事第二一部
平成三年(ケ)第一一三二号
平成四年六月八日作成
1 不動産の表示
別紙物件目録(1)記載のとおり
同目録(2)の建物は、取り壊され存在せず、売却の対象とならない。
2 不動産に係る権利の取得及び仮処分の執行で売却によりその効力を失わないもの
物件(1)につき、
なし(後記の備考参照)。
3 売却により設定されたものとみなされる地上権の概要
物件(1)につき、
なし。
このように判定する理由は、次のとおりである。
記録によれば、次の事実を認めることができる。
(1) 本件所有者兼債務者である竹村商事は、別紙物件目録記載の土地(本件土地)及びその地上にある同目録記載の建物(本件建物)を所有していたが、株式会社カネオカ(後に商号変更して株式会社エクイオン)に対して、本件土地建物を共同担保として債権額四億四〇〇〇万円の抵当権を設定して、平成元年五月三一日その登記手続を経由し、さらに申立て債権者に対して、本件土地建物を共同担保として極度額一億九二〇〇万円の根抵当権を設定して、平成元年一二月一九日その登記手続を経由した。
(2) 竹村商事は、平成二年五月頃本件建物を取り壊した。
(3) エクイオンは、平成二年九月二七日株式会社第一勧業銀行に対して、本件土地建物を共同担保として、債権額四億四〇〇〇万円の転抵当権を設定した(登記は、平成三年六月二六日)。
(4) 竹村商事は、ファーストファイナンス株式会社に対して、本件土地を担保として、極度額二〇億円の根抵当権を設定して、平成三年四月二日その登記手続を経由した。
(5) 竹村商事は、株式会社丸正宅建との間で、本件土地につき次の内容の賃貸借契約を締結したと主張しており、また、平成三年六月一一日本件土地について、賃借権設定の仮登記(ただし、登記上の賃料は月額二〇万円である)を経由している。
契約の日 平成三年六月一〇日
賃借人 丸正宅建
期間 平成三年六月一〇日から五年間
賃料 月額一二万円
ただし、六〇カ月分(五年分)七二〇万円全額支払い済み
敷金 なし
目的 プレハブ事務所建物の所有及び露天自動車駐車場
特約 譲渡転貸することができる。
(6) 丸正宅建は、平成三年六月三〇日、軽量鉄骨造陸屋根平屋建事務所床面積21.47m2(件外建物)を建築して、同年七月六日その保存登記を経由した。
(7) 申立て債権者は、平成三年七月五日本件土地建物について、競売の申立てをし、当裁判所は、同月九日上記申立てに基づき、本件土地建物について、競売開始決定をした。
(8) 件外建物については、平成三年八月一四日有限会社ハラノのため、順位一番の債権額八億円の抵当権設定仮登記がなされている。
以上の認定事実をもとに、件外建物のため、本件土地に法定地上権が成立するかどうかについて検討する。
民法三八八条の法定地上権の制度は、土地とその地上の建物を別個の不動産とするわが国固有の法制のもとにおいて、競売の結果土地と建物の所有者が異なることとなった場合、なんらかの法律上の手当がないと、敷地の利用権を欠くこととなった建物は、収去しなければならず、その結果建物の建築に投じられた資本等を失うこととなっては国民経済上損失を被るので、そのような損失の発生を防止するという公益の見地から制定されたものである。したがって、その規定を解釈するに当たっては、できるかぎり、法定地上権が発生する方向での解釈上の努力が要請されることは、従来指摘されているとおりである。
しかしながら、民法制定の際の審議の内容及び更地に抵当権が設定された場合に関する判例の態度をみれば、この制度の趣旨は、抵当権設定当時の当事者の合理的な意思を尊重して、その意思の内容が、競売の場合に建物のため地上権を留保すべきものとする場合に、その意思の内容を法律の力で実現することにあるが、それを超えて、抵当権設定当時の当事者の合理的意思として、建物のため地上権を留保したとは考えられない場合にまで、建物の価値を維持する必要があるということのみを強調して、法律上地上権の成立を強制することまで含むものではないと解される。
ところで、土地とその地上建物が同一人に帰属する場合に、所有者がこれらを共同担保として、抵当権を設定する場合には、将来競売によって土地と建物の所有者が異なることとなったときでも、建物のため地上権を留保する意思を、抵当権設定の当事者双方が有しているのが通常であり、そのような意思が合理的なものであることは、改めていうまでもない。しかしながら、そのような当事者の意思は、抵当権の設定された建物が、競売まで存続することを前提としているのであり、競売にいたる前に、旧建物が滅失して、これに設定された抵当権が消滅した場合にまで、その後建築される新建物のため、地上権を留保する意思を有するということは考え難いことである。仮に抵当権設定者がそのような意思を有していても、新建物に土地と同じ順位内容の抵当権の設定を受けず、したがって、土地建物を共同担保にとっている場合とは、担保の内容に明かな格差を生じる抵当権者が、そのような意思を有しているとはいえないし、仮にそのような意思であったとしても、その内容は、合理的なものであるとはいえない。
そうすると、抵当権設定時の合理的な意思の内容は、抵当権が設定された旧建物が滅失した場合には、その後に建築された新建物に土地と同一順位同一内容の抵当権が設定される場合、または抵当権者がそのような抵当権の設定を受ける利益を放棄する場合は別として、新建物には、地上権は留保されないものというほかないものである。
そして、このような当事者の意思を尊重して、共同担保の対象となった旧建物が競売の前に滅失したときは、その後建築された新建物には、原則として法定地上権は成立せず、例外として、新建物の所有者が土地の所有者と同一であり、かつ、新建物が建築された時点での土地の抵当権者が新建物について土地の抵当権と同順位の共同抵当権の設定登記を受けたとき、または抵当権者がそのような抵当権の設定を受ける利益を放棄したときには、新建物についての法定地上権が成立するものと解釈したからといって、第三者に不測の損害を及ぼすという事態は考えられない。
すなわち、旧建物が滅失した後、建物を再築しようとする者は、敷地についてその登記簿を見ることにより、敷地に抵当権が設定されていることを知ることができる。そのことは、敷地を買い受けた者が再築する場合や、敷地を借り受けた者が再築する場合など、滅失した旧建物に抵当権を設定した者自身が再築する場合でなくても、変わりはない。
そして、敷地に抵当権が設定されていることが判明すれば、建物を再築する者は、抵当権者が土地の担保価値の全部を把握していることを容易に予想することができる。そして、その抵当権について付けられている共同担保目録を見れば、敷地上にあった旧建物も、抵当権の共同担保となっていたことを知りうるのであり、そうなれば、敷地の抵当権者が、滅失した旧建物についても抵当権の設定を受けることにより、土地の担保価値の全部を把握していたことを確認できるのである。
したがって、これから再築する新建物の所有者が、土地の所有者と同一の場合に、新建物に土地と同一内容の抵当権を設定するのでなければ、新建物のため法定地上権が発生することはないとされたとしても、建物を再築する者は、建物の建築費を支出するだけでは、敷地の土地の価格の六割から九割にも相当する高額の法定地上権を取得することができないという、経済常識として当然の結果を甘受するよう求められるのみで、それ以上不利益を受けるわけではない(新建物の所有者と土地の所有者が異なる場合、土地の所有者が設定した新建物のための土地の利用権は、一定の場合に限り、土地の買受人に対抗することができる。民法三九五条)。
これに反し、新建物に土地と同一内容の抵当権を設定しないまま、法定地上権の保護のみを要求するとすれば、その要求は、抵当権者に法定地上権の価格という土地の価格の六ないし九割に相当する多額の損害を与えたまま、なんらの対価を支払うこともなく、土地価格の六ないし九割という多大の利益を得ようとするものとなって、誰れしもその要求の不当性を認めざるをえないこととなる。
そして、建物の再築につき、その建築資金を融資する立場の者も、建物の敷地利用権がどのような内容となるのかについて、関心を有するのが通常であって、その場合には、敷地及び共同担保の対象となっている建物の登記簿を見ることにより、すでに敷地について抵当権者がその担保価値の全部を把握していることを知りうるのである。そうであれば、建築資金を融資する者も、再築する者と同様の認識を得ることができ、再築建物の建築資金を融資するのみでは、敷地の土地の価格の六ないし九割という高額の価値のある地上権について、抵当権を取得することができないという、経済常識として当然の結果の甘受を求められるにすぎない。
次に、建物の再築を請け負ったが代金の支払いを受けられない者について考えてみると、その代金債権は、不動産工事の予算額を建築工事に先立ち登記することにより保護され(民法三三八条)、そのような法律上の保護の結果、再築された新建物について土地と同一順位同一内容の抵当権が設定されても、未払い代金債権を有する請負人は、その代金債権について、登記した不動産先取特権によって、上記の抵当権に優先して、弁済を受けることができる(民法三三九条)。したがって、再築された新建物の所有者が土地の所有者と同一であり、かつ、上記の抵当権を設定した場合のみ、新建物について法定地上権が発生すると解したからといって、未払いの請負代金債権の保護が不十分となることはない。
以上のように、抵当権設定契約の当事者の合理的意思を尊重し、その内容にそう法律の解釈をしても、第三者に不測の損害を与えることはなく、むしろそのように解釈しないと、常時抵当物件の監視をすることのできない抵当権者に不測の損害を与えることとなる。
したがって、民法三八八条の解釈としては、土地及びその上に存在する建物(旧建物)について、共同抵当権の設定を受けた者がいる場合に、その後旧建物が滅失して同じ土地上に新たな建物(新建物)が建築された場合、旧建物に法定地上権が成立する要件があったときでも、その法定地上権は新建物には成立せず、新建物の所有者が土地の所有者と同一であり、かつ、新建物が建築された時点での土地の抵当権者が新建物について土地の抵当権と同順位の共同抵当権の設定登記を受けたとき、または土地の抵当権者がそのような抵当権の設定を受ける権利を放棄したときには、新建物についての法定地上権が成立するものと解釈するのが相当である。
本件においては、さきに認定したとおり、共同担保の対象となった本件建物は、競売の前に所有者によって取り壊されており、その後に建築された件外建物の所有者は、土地の所有者とは同一人ではない。したがって、競売の結果本件土地が売却された後は、本件土地の上に件外建物のため法定地上権が発生することはないものである。
4 備考
物件(1)につき
株式会社丸正宅建が主張する賃借権(3の(5)記載の賃貸借契約によるもの)は、正常なものとは認めない。したがって、件外建物は、権原なくして建てられたものとして取り扱われる。
(裁判官淺生重機)
別紙物件目録
(1) 所在 豊島区上池袋三丁目
地番 一二六番一
地目 宅地
地積 112.29m2
(2) <省略>