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東京地方裁判所 平成3年(モ)13092号 判決 1991年10月08日

申立人

株式会社エス・イー・エム

右代表者代表取締役

亀島昭徳

右訴訟代理人弁護士

坂口公一

藤原弘子

被申立人

大森功吉

右訴訟代理人弁護士

渡邊興安

主文

一  右当事者間の前橋地方裁判所平成元年(ヨ)第一六二号不動産仮処分命令申請事件について、同裁判所が、同年一二月一五日にした仮処分命令を取り消す。

二  訴訟費用は被申立人の負担とする。

三  この判決の第一項は仮に執行することができる。

事実及び理由

第一申立て

一申立人

主文同旨

二被申立人

申立人の申立てを棄却する。

第二事案の概要

一争いのない事実

1  本件決定

本件決定<注・主文第一項記載の決定>は、別紙物件目録記載の建物(本件建物)の処分禁止を命ずるもので、その被保全権利は、被申立人の申立人に対する売買を原因とする本件建物の所有権移転登記請求権である。

2  本案訴訟

本件決定の本案訴訟として、東京地方裁判所に次の本訴及び反訴請求事件が係属した。

(一) 申立人を原告、被申立人を被告とする。申立人に本件建物の所有権移転登記手続義務がないこと等の確認を求める同裁判所平成二年(ワ)第六五二一号債務不存在確認請求事件

(二) 被申立人を原告、申立人を被告とする。申立人に対する本件建物の所有権移転登記手続等を求める同裁判所平成二年(ワ)第一四八六一号建物所有権移転登記手続等反訴請求事件

3  第一審判決

本案訴訟について、東京地方裁判所は、平成三年五月二九日に、申立人の2(一)の本訴請求を認容し、被申立人の同(二)の反訴請求を棄却する第一審判決を言い渡した。

第一審判決は、本件決定の被保全権利を否定するものであるが、被申立人がこれに対して控訴しており、確定していない。

二争点

第一審判決によって、本件決定後の事情の変更に該当する事由があると言えるかどうかが本件の争点である。

第三当裁判所の判断

一本案訴訟の争点と第一審判決

<書証番号略>(本案訴訟の第一審判決)によれば、以下の事実が一応認められる。

1  本案訴訟の争点

(一)(二) <省略>

(三) 本案訴訟における争点は、

(1) 本件契約<注・申立人の経営するパチンコ店営業に関し、本件建物を含む一切の権利及び営業用設備の譲渡契約>の解除の有効性に関し、当事者間に代金支払時期の合意があったかどうか、

(2) 本件契約が解除されたとした場合、本件念書<注、被申立人が申立人に交付した一定の時期に一定の金額を支払う旨を記載した念書>によって被申立人の主張する変更契約はされたと言えるかどうかであった。

2  第一審判決における判断

本案訴訟の第一審判決(<書証番号略>)は、その争点(1)につき、本件契約の代金について支払時期の合意があったことを認定し、平成元年九月三〇日に支払われるべき一億七〇〇〇万円の支払がなかったのであるから、申立人がした解除は有効であるとし、また、(2)につき、被申立人の主張するような本件念書による変更契約(再契約又は本件契約の継続)を認めるに足りる証拠はないとして、前記第二の二3のとおり申立人の本訴請求を認容し、被申立人の反訴請求を棄却した。

二第一審判決維持の蓋然性

1 第一審判決の前記判断の理由は、<書証番号略>の判決書に記載されているとおりであり、この判断は右判決書記載の証拠(本件では、本案訴訟における尋問調書も書証として提出されており、本件と本案訴訟との証拠の対応関係は申立人の平成三年七月二九日付け「書証対照表」記載のとおりである。)に照らして正当なものと考えられる。

2  ところで、被申立人側で作成提出した本件の答弁書及び書証中の書面等(<書証番号略>―本件仮処分命令申請書、<書証番号略>―本案訴訟の本訴請求に対する答弁書、<書証番号略>―反訴状、<書証番号略>―本件念書、<書証番号略>―被申立人作成の平成元年一二月一三日付け報告書(第一)、<書証番号略>―申立人宛の同月六日付け内容証明郵便及び同月七日付け配達証明、<書証番号略>―被申立人の本案訴訟及び本件の訴訟代理人弁護士である渡邊興安の本案訴訟における尋問調書、<書証番号略>―本案訴訟における被申立人の尋問調書)並びに<書証番号略>(本案訴訟における申立人のもと代表者代表取締役渡辺恭健の尋問調書)によれば、(ア)被申立人の主張は、第一審判決において整理されている前記一1(一)の主張に尽きるものであり、(イ)また、その立証も、本案訴訟の第一審で既に提出された以外に有効適切なものはないものと考えられる。そうすると、控訴審において被申立人は、第一審判決における証拠評価を不当として争うことになるであろうと推測される。

しかし、第一審判決の証拠評価及び判断が正当と考えられることは右1記載のとおりであり、また、そもそも右(ア)の被申立人の主張自体、便宜的で強引なもので、これに対する右(イ)の立証からみても、第一審判決の認定判断が控訴審で覆される可能性はきわめて乏しいと言うべきである。

すなわち、前記一1(三)の本案訴訟の争点(1)について言えば、代金の支払時期と金額は、本件契約のように売買契約的要素を含む契約においては重要な事項であるところ、被申立人自身が、本件仮処分申請の際の平成元年一二月一三日付け報告書(<書証番号略>)において、「売買代金残金一億五千五百萬円は本年九月三〇日支払約束であった。しかしこの約束の日に残金支払い出来なかったため三光株式会社は内容証明郵便にて解約の通知があった。」ことを既に自認しているのであるし、更に基本合意書(<書証番号略>)第八条及び第九条には、代金支払時期について確定期限の定め及びこれを厳守すべきことと最大延長期限の定めの記載が存し、しかもこれは弁護士である渡邊興安が立会の上作成されたものである。それにもかかわらず「右契約において一応代金支払期日の定めはあったが、特に契約書にある期日に拘束されるものではなく、また、両者間においてもとくに指定はしていなかった。」(<書証番号略>の「請求の原因」四)などと認定判断することは困難である。争点(2)についても、本件念書(<書証番号略>)は、申立人からの契約解除の意思表示到達後に被申立人が作成して申立人に提出したものであるし、その文言上も被申立人から申立人に対して、「契約の継続の承諾」ないしは「契約手続を進める」ことを依頼しているに過ぎないのであって、これによって変更契約が成立したとの主張(ただし、その変更契約と本件契約との関係については明確な主張がない。)にそう認定判断をすることは到底できないのである。

三結論

以上によれば、本案訴訟の第一審判決は、控訴審においても維持される蓋然性が高く、これは民事訴訟法七五六条、七四七条に定める事情の変更に該当するから、本件決定を取り消すこととし、主文のとおり判決する。

(裁判官笠井勝彦)

別紙物件目録<省略>

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