東京地方裁判所 平成3年(ワ)10022号 判決 1992年9月11日
東京都新宿区百人町二丁目一七番一二号
原告
株式会社日本家庭教師センター学院
右代表者代表取締役
古川隆
右訴訟代理人弁護士
澤田保夫
同
関根裕三
東京都新宿区新宿五丁目一八番二〇号
被告
株式会社早稲田教育指導センター
右代表者代表取締役
木下茂樹
右訴訟代理人弁護士
民永清海
"
主文
1 被告は、別紙目録二記載のパンフレットを印刷、製本、販売、頒布してはならない。
2 被告は、前項記載のパンフレットを廃棄せよ。
3 訴訟費用は被告の負担とする。
4 この判決は仮に執行することができる。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
主文と同旨
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 当事者
(一) 原告は、昭和四六年に設立され、家庭教師派遣業務の草分けとして不動の地位を築き今日に至っている。なお、原告代表者である古川隆は、テレビ・ラジオへの出演、公演等の幅広い活動により、「フクロウ博士」として著名である。
(二) 被告は、家庭教師斡旋の業務を営んでいる。
2 本件著作権の帰属
(一) 原告は、訴外株式会社毎日広告社を通じ、訴外株式会社社会行動研究所(以下「社会行動研究所」という。)に対し、家庭教師や学習塾の利用等の実情等について調査を依頼したところ、同研究所は、右調査を実施のうえ、昭和五一年四月ころ、その調査結果を作成し、これについて著作権を取得した。
(二) 原告は、そのころ、右社会行動研究所に対し、金八五〇万円を支払い、右調査結果すべてについての著作権の譲渡を受けたが、右調査結果の中には、別紙目録一記載の「家庭教師・学習塾の利用の満足度」と題する円形グラフ(以下「本件著作物」という。)も含まれていた。したがって、本件著作物の著作権は、原告に帰属する。
(三) 原告は、昭和五一年四月ころから、その会社案内のパンフレットに本件著作物を掲載している。
(四) なお、原告は、原告代表者である古川隆に本件著作物の使用を許諾し、同人は次の書籍を出版し販売したが、それらには、次のとおり、本件著作物が掲載されている。
(1) 昭和五二年六月一日 「わるい家庭教師よい家庭教師」 一四頁
(2) 同六三年三月一〇日 「ふくろう博士の・モト・がとれる塾・家庭教師利用法」 二一八頁
(3) 平成二年六月八日 「ふくろう博士の失敗しない学習塾・家庭教師の選び方」 三一頁
3 被告による著作権侵害行為
(一) 被告は、平成三年ころ、その会社事業紹介のため、別紙目録二記載のパンフレット(以下「被告パンフレット」という。)を発行した。
(二) 被告は、被告パンフレット中において、本件著作物を盗用し、原告の本件著作物の著作権を侵害した。
(1) すなわち、被告は、被告パンフレットの「当センターの特長」の四番目の●部分において、次のとおり記載している(以下、この記載部分を「本件記事部分」という。)。
「家庭教師の満足度 六九・九% 塾の満足度 一六・〇%社会行動研究所調査」
(2) 本件記事部分のうち、「家庭教師の満足度六九・九%」の記載は、本件著作物のうちの家庭教師に関する「利用の満足度」を示すグラフ中の「かなり満足」「六六%」の記載とほぼ同一であり、また本件記事部分のうち、「塾の満足度一六・〇%」の記載は、本件著作物のうちの塾に関する「利用の満足度」を示すグラフ中の「かなり満足」「一六%」の記載と同一である。
(3) したがって、被告は、被告パンフレット中の本件記事部分を本件著作物に依拠して作成し、原告の著作権(複製権)を侵害したことが明らかである。
4 よって、原告は、被告に対し、本件著作物の著作権に基づき、被告パンフレットの印刷・製本等の差止めを求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1(一)の事実は不知、同(二)の事実は認める。
2 同2(一)ないし(四)の各事実はいずれも不知。
3 同3(一)の事実は認め、同(二)のうち、(1)の事実は認め、その余は否認する。
三 抗弁
被告が被告パンフレットに本件著作物の記載を使用したとしても、右は、次に述べる理由から、著作権法三二条で許される正当な引用である。
1 被告パンフレットには、出所が明示されているうえ、その表現形式上も、引用する側の著作物と引用される側の著作物とを明瞭に区別して認識できるような引用であった。
2 両著作物の間には、被告パンフレットが主で、引用された本件著作物が従の関係にあると認められるような引用であった。
3 その引用の仕方も、引用される側の著作者人格権を侵害するような態様でなされたものではない。
四 抗弁に対する認否及び原告の主張
抗弁の主張はすべて争う。
著作権法三二条は、報道・批評・研究等の正当な目的でする著作物の公正な慣行にしたがった引用を正当な範囲において適法とする規定であって、被告のように自己の営利目的追求のために、他人の著作物を無断で引用する場合にまで適用がないことは明らかである。
しかも、被告の引用は、本件著作物の内容を改変し、事実と異なる数字を挙げて被告パンフレットの読者をあざむいているのであって、もはや公正な慣行に合致しているとは到底いえない。
第三 証拠
本件記録中の書証目録に記載のとおりであるから、これを引用する。
理由
一 請求原因1(二)、請求原因3(一)及び3(二)(1)の各事実はいずれも当事者間に争いがない。
成立に争いのない甲第二号証の一、二、第三号証の一ないし六、第四号証ないし第七号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第一号証、第八及び第九号証並びに弁論の全趣旨によれば、請求原因1(一)、2(一)ないし(四)の各事実をいずれも認めることができる。
また、右各証拠によれば、被告は、本件記事部分に関して、平成三年五月三一日付けで、社会行動研究所宛に、同研究所の名称を無断で使用したことを詫びる書簡を送付していること、社会行動研究所が、家庭教師・塾に関する大規模な調査を実施したのは、原告の依頼に基づいて本件著作物などを作成した昭和五一年四月ころの調査のみであって、それ以外にはないこと、本件著作物も、本件記事部分も、いずれも家庭教師と学習塾の利用者の利用の満足度に関する記述であって、その内容も数字によって表現されていること、本件著作物と本件記事部分の各表現を対比しても、本件著作物においては、家庭教師の「利用の満足度」のうち「かなり満足」を示す部分が「六六%」と、学習塾の「利用の満足度」のうち「かなり満足」を示す部分が「一六%」と各記載されており、これに対し、本件記事部分においては「家庭教師の満足度六九・九%」「塾の満足度一六%」と各記載されているのであって、両者は表現においてほぼ同一であること、以上の諸事実もまた認めることができる。
右争いのない事実及び右認定した事実によれば、被告が、本件著作物に依拠してこれと表現においてほぼ同一である本件記事部分を作成したものと認められる。
以上によれば、被告による被告パンフレットの発行、配付は、原告が本件著作物について有する著作権(複製権)を侵害するものというべきである。
二 次に、抗弁について判断するに、先に説示した事実によれば、なるほど本件記事部分には「社会行動研究所調査」との記載はあるものの、前掲甲第三号証の一ないし六によれば、右記載以外には、本件記事部分に関し、引用された著作物の著者又は著作権者の氏名、当該著作物の掲載されている出版物名、出版物中における引用部分の掲載部分(頁数など)の特定に関する記載などがなされていないことが認められ、これらの点に照らすと、被告の本件記事部分の前記記載のみでは、未だ著作権法三二条一項所定の「公正な慣行に合致する」引用であると認めることはできず、被告の抗弁は理由がない。
三 よって、原告の本訴請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 一宮和夫 裁判官 足立謙三 裁判官 前川高範)
目録一
<省略>
図6 家庭教師・学習塾の利用の満足度
目録二
<当センターは、個人指導の専門機関です。>
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《社会行動研究所調査》
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