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東京地方裁判所 平成3年(ワ)10581号 判決 1992年6月25日

原告 株式会社グランステージリゾート

右代表者代表取締役 鈴木一雄

右訴訟代理人弁護士 仲田信範

被告 ニコス生命保険株式会社(旧商号 エクイタブル生命保険株式会社)

右代表者代表取締役 大野和夫

右訴訟代理人弁護士 長島安治

内藤潤

片山典之

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

理由

一  請求原因1、2の事実及び同3(一)のうち、本件保険契約が定額養老保険ではなく、保険金額が資産の運用実績によって増減し、解約払戻金も変動する変額保険であったことについては、当事者間に争いがない。

そこで、原告主張の不法行為の成否について判断するに、右争いのない事実に≪証拠≫、証人井出晃(後記措信しない部分を除く。)及び同三島睦弘の各証言並びに弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。

1  原告は、平成二年四月中旬頃、三菱銀行市ヶ谷支店の宮脇課長から節税対策の方法として、同銀行から融資を受けて役員、従業員を被保険者とする生命保険に加入することを勧められ、同銀行の川島俊一(以下「川島」という。)及び明治生命の佐藤らの説明を受け、これに応じることとした。原告は、当初、明治生命の保険に加入する予定であったが、三菱銀行からの融資金の担保として保険金請求権等に質権を設定する必要があり、明治生命の保険では質権設定ができないことから、川島らから勧められるままに被告の保険に加入することとした。

2  被告の営業員の三島は、明治生命の佐藤又は八巻から原告の保険加入について連絡を受け、早速、変額保険の保険設計書を作成して佐藤らに送付した。平成二年五月二九日、三島は、川島及び佐藤らと同行して原告の事務所を訪れ、被告の診察医による被保険者(原告の役員、従業員)の健康診断が実施された。そして、男性については診察を終えたが、女性についてその場で心電図をとることに対し原告代表者からクレームがあり、話し合いの結果、女性については心電図をとらないで済むように保険金額を変更することになり、三島は、改めて被保険者全員について保険設計書を作成し直すこととなった。また、当日は健康診断の終了後、三島は、川島も同席した場で、井出部長に対して、変額保険特有の特別勘定の指定(変額保険に係る資産の運用方法の指定)について被告の社内資料を示して説明し、その結果、「日本株式型四〇パーセント、米国株式型二〇パーセント、金融市場型四〇パーセント」とすることが決められた。

3  三島は、翌五月三〇日、原告の事務所を訪れ、作成し直した全員の保険設計書を井出部長に渡し(なお、その後も保険設計書の作成し直しがされている。)、同日、各人の本件保険契約の申込書が作成された。右保険設計書には、大きな字で「エクイタブル生命の変額保険」と明記され、変額保険の内容について説明がされており、また、当日、井出部長には「ご契約のしおり約款」という小冊子(≪証拠≫)も渡され、右申込書にその旨の原告の受領印が押捺されている。

4  そして、原告は、翌五月三一日、被告に対し保険料を支払い、領収証の交付を受けたが、その領収証にも、本件保険契約の内容が変額保険であることが明確に表示されている。また、同日、本件保険契約に基づく保険金等の請求権について、三菱銀行を質権者(債権者)、原告を質権設定者(債務者)とする質権設定契約書等が作成されたが、その質権の目的欄にも保険種類として「変額」と明記されている。

以上のとおり認められる。

なお、証人井出晃の証言中には、変額保険であることを知らなかったなど前記認定に反する供述部分があるが、前記認定のとおり、保険設計書、保険料の領収証などには、変額保険であることがすべて明確に記載、表示されており、これらの書類の授受をしておりながら、一年後の解約時まで変額保険であることを知らなかったというのは、極めて不自然であるなど、右供述部分は、前掲各証拠に照らし採用することができない。なお、同証人は、三島から保険設計書を受け取ったのは六月中旬以降であるとも供述するが、同人は、保険設計書を受領した後も何らの措置もとっておらず、保険設計書そのものに特段の関心を示していなかったことが窺われるのであって、その受取時期に関する右供述もにわかに採用するわけにはいかない。

二  以上に認定した事実によれば、三島は、本件保険契約の締結にあたり、原告の井出部長に対し、保険設計書などにより本件保険契約が変額保険であることを告知、説明していたものということができるのであって、右告知、説明を怠った違法があるとの原告の主張は失当である。

そうすると、その余の点について判断するまでもなく、原告の本件請求は理由がないから、棄却する

(裁判官 佐藤久夫)

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