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東京地方裁判所 平成3年(ワ)17630号 判決 1992年7月27日

主文

一  被告は原告に対し、原告から別紙物件目録記載の不動産につきなされた千葉地方法務局昭和六三年三月二八日受付第一七二九二号の持分移転登記の抹消登記手続を受けるのと引換えに、九〇〇万円を支払え。

二  原告のその余の請求にかかる訴えを却下する。

三  訴訟費用はこれを一〇分し、その九を被告の、その余を原告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り仮に執行することができる。

理由

一  争いのない事実及び証拠によれば、次の各事実を認めることができる。

1  被告(旧商号・香陵商事、平成三年一一月一五日に商号変更)は、ホテルの持分所有形式による小口分譲販売会社であり、昭和六三年頃、次のような広告を出し、投資を勧誘した。

「スポーツプラザ三〇では、一口わずか三〇万円でオーナー権を確保。ご購入になつた口数に応じ、家賃と売上収益の配当をお支払いするという合理的なシステムです。どなたでも気軽にオーナーになることができ、さらに、ボーナスや預貯金の活用にも最適といえます」「オーナーは、いながらにして年率四パーセント、一口につき一万二〇〇〇円の安定した家賃収入を得ることができるわけです。さらに、オープン一年後からは、プラザ売上収益の一部を所有口数に応じ配当。仮に収益がマイナスだつた場合でも、年率四パーセントは(株)香陵商事が責任をもつてお支払いいたします。」「他の資産運用の手段と比較しても、その投資効率の高さは、今後ますます上昇することが予想されます」(争いのない事実)

2  原告は、この広告を見てこれに応募することとし、ローン会社から金員を借り受けた上、三〇口(一口三〇万円)相当の持分を代金九〇〇万円で譲り受けた。

3  原告と被告との本件持分に関する契約書は、本件持分を被告が原告に売り渡し、原告がこれを買い受ける旨の本件持分の売買の部分及び被告が原告に対して本件持分を引き渡した後、被告はこれをスポーツ施設として使用し、賃料として原告に対し一口当たり年額一万二〇〇〇円を支払うものとする旨の賃貸借契約部分に分かれている。賃貸借に関する条項としては、他に、「次回の賃料については年額一万二〇〇〇円を下限とし、売主は賃料増額に努力するものとする」との定めがある。

そして、契約の解除に関する条項としては、売買に関する条項の後で、賃貸借に関する条項の前に、本契約締結後各当事者が本契約に違背し、定めた事項を履行しない時は相手方は催告の上本契約を解除することができる旨が定められている。ただし、右契約書に添付された重要事項説明書には、契約解除に関する事項として、「契約成立後締結した契約条項を売主、買主いずれか一方が履行しないとき。なお、代金支払不履行の場合は、期限を定めた催告の期間内に義務を履行しないとき。」との記載がある。

4  被告は、第一期(昭和六三年度)から第三期(平成二年度)まで、スポーツプラザの収益はマイナスであつたにもかかわらず約定どおり、一口当たり一万二〇〇〇円(年率四パーセント)の金員を原告に支払つていたが、平成三年になつてから、原告の承諾を得ることなく、第四期分前家賃として一口当たり六〇〇〇円(年率二パーセント)の割合に減縮した金員を原告の銀行口座に振り込んで支払つた(争いがない)。

5  原告は、右減縮された賃料の支払は、有効な弁済の提供にならず契約違反であるとして、渋谷簡易裁判所に対し契約の解除を求めて調停の申立てをした(調停の申立てがあつた事実は争いがない。)。

二  右のとおり、原告が被告と本件持分に関し締結した契約は、本件持分を被告が原告に売り渡す旨の売買契約と、本件持分の賃貸借契約とが一個の契約となつており、形式上、両者は別個独立の契約とみられないことはない。被告は、これを根拠に、仮に被告が約定金額の賃料を支払わなかつたことにより、賃貸借契約が解除となつても右解除の効力は売買契約には及ばない旨主張する。なるほど本件契約は、契約書の体裁の上からは、本件持分に関する売買契約の部分と、これを対象とした賃貸借契約の部分とに分かれ、しかも、契約解除に関する条項は、売買契約に関する条項の一つとして規定され、賃貸借契約に契約違反があつても当然に売買契約の解除が可能なようには規定されていないように解されないではない。

しかし、被告は、本件契約締結の一般向けの勧誘に当たり、前記一1のように本件契約の主眼が一口当たり四パーセントの家賃収入ないし売上収益の分配にあるかのような宣伝を行い、右宣伝あるいは右契約書においても、一口当たり一万二〇〇〇円の賃料を責任をもつて支払い、増額に努力する旨を確約していることからすると、原告も主としてこのことに期待して本件契約を締結したものであつて、本件持分を売買により取得すること自体は、単に右投資の手段にすぎず、このことに固有の利益ないし関心があつたわけではないことは明らかである。そうすると、本件契約は、本件持分を買い受ける方法により出資し、これに対し相当の利益配分を受ける旨の、本件持分の売買と賃貸借契約が不可分的に結合した一種の混合契約であるとみるのが相当であつて、右契約が形式上売買契約の部分と賃貸借契約の部分とに分かれている体裁をとつているからといつて、後者の債務不履行が前者の解除事由に当たらないとすることは相当でないというべきである。

そして、被告は、契約書上も一口当たり年額一万二〇〇〇円の賃料を支払い、減額を行わない旨を確約しているから、これに反して年額六〇〇〇円の賃料しか支払わないことは明らかに右契約に違反することになり(被告は、借家法所定の賃料減額請求権に基づき、一口当たりの賃料を一万二〇〇〇円から六〇〇〇円に減額したものであり、債務不履行には当たらない旨主張するが、前記のとおり、本件契約は、売買契約と賃貸借契約が不可分的に結合した一種の混合契約であると解するのが相当であるから、直ちに右借家法所定の賃料減額請求ができるかどうか疑問があるし、被告主張の事情は右減額後の賃料が適正な賃料であることを裏付けるものとはいえず、他に右賃料が本件物件の適正賃料であると認めるに足りる証拠はない)、原告は、本件契約の解除条項に基づき、本件契約を解除することができるというべきである。そして、原告は、その後本件契約の解除を求めて調停申立てを行い、さらに本件訴えを提起したものであるが、被告が右減額前の賃料である一口一万二〇〇〇円を支払う意思が全くないことは弁論の全趣旨からして明らかであるから、右解除は有効というべきであり、原告は被告に対し、右解除に基づく原状回復請求として、原告が被告に本件契約に基づき交付した九〇〇万円の返還を求めることができるというべきである。

三  原告は、被告が右九〇〇万円の返還を直ちに履行しないときは右九〇〇万円を借り受けたローンの割賦返済金を一か月当たり九万三六三一円支払つているから、右金員相当額を遅延損害金として本判決確定後右九〇〇万円の完済まで支払うよう求めるが、これはいわゆる将来の給付を求める訴えであるから、あらかじめその請求をする必要がある場合に限り提起することができるところ(民訴法二二六条)、原告は、かかる必要のあることについて何ら主張、立証しないから、右請求にかかる訴えは不適法である。

四  よつて、原告の請求は、被告に対し本件契約の解除に基づく原状回復として九〇〇万円の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余の請求にかかる訴えは不適法であるからこれを却下し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条を、仮執行宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 田中俊次)

《当事者》

原告 吉川涼一

被告 サイセイカンパニー株式会社

右代表者代表取締役 小松信行

右訴訟代理人弁護士 満園武尚 同 満園勝美 同 塚田裕二

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