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東京地方裁判所 平成3年(ワ)17765号 判決 1992年7月28日

原告

飯島修

右訴訟代理人弁護士

竹内俊文

被告

ベル健物株式会社

右代表者代表取締役

庄野陸夫

右訴訟代理人弁護士

牛久保秀樹

主文

一  被告は、原告に対し、金四五万四九四八円及びこれに対する平成三年一〇月一一日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用はこれを五分し、その二を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告は、原告に対し、金七二万五八〇〇円及びこれに対する平成三年一〇月一一日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、肩書住所地に所在する木造二階建居宅・店舗に居住している。

2  被告は、目黒区中目黒二丁目五六三番一三地上に鉄骨鉄筋コンクリート造八階建、地上高25.55メートルの事務所ビル(以下「被告建物」という。)を建設した。

3  被告建物の建設中の平成二年一二月頃から、被告建物のために、原告宅のテレビに電波障害が発生し、ゴーストが甚だしく、映像とならない状態となった。

4  その結果、原告は、次のとおり合計七二万五八〇〇円相当の損害を被った。

(一) 東急ケーブルテレビを利用するための加入契約料

五万一五〇〇円

(二) 同工事費 二万四〇〇〇円

(三) 同利用料(二〇年分)

六五万〇三〇〇円

本件電波障害が二〇年継続するものとして、ケーブル利用料金の月額三九八〇円の二〇年分について、新ホフマン方式により中間利息を控除して得た額

(3980×12)×13.616=650,300

5  よって、原告は被告に対し、不法行為に基づく損害賠償請求として、金七二万五八〇〇円及びこれに対する不法行為後の平成三年一〇月一一日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1、2の事実は認める。

2  同3のうち、原告宅のテレビにゴーストが出ることは認めるが、その余は争う。右障害は被告建物だけによるものではないし、また、その障害の程度は受忍の範囲内である。

3  同4のうち、(一)及び(二)の負担は認めるが(ただし、加入契約料は五万円)、その余は争う。

東急ケーブルテレビを利用した場合は、画像の向上、合計三二チャンネル視聴可能などの付加価値があり、その利用料はこれら付加価値に対する受益分として原告が負担すべきである。また、原告が二〇年間本件居住家屋に居住し続けることはあり得ないから、被告が二〇年間にわたるケーブルテレビ利用料を負担するいわれはない。

第三  証拠関係<省略>

理由

一請求原因1、2の事実は当事者間に争いがない。

<書証番号略>、証人飯島なぎさ、同平山泰弘(後記措信しない部分を除く。)の各証言並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

1  原告は、昭和六二年三月から肩書地に居住しており、妻及び三歳と一歳の子供との四人暮らしである。現在の住居は、原告の妻の実家が原告らのために新築してくれたものであり、妻の母の所有となっている。

2  平成二年一二月頃から、原告宅のテレビ画面の映像に、それまではなかったゴーストが強く出るようになり、画面の映りが悪くなった(原告宅のテレビにゴーストが出ることについては当事者間に争いがない。)。原告の妻が、近所の電気屋に見てもらったところ、テレビの故障ではなく、当時建設中の被告建物による電波障害であるとのことであった。

3  そこで、原告の妻が、被告建物の建築工事を行っている建設会社に連絡をとったところ、建設会社の現場主任等と被告の担当員が原告宅を訪れ、テレビの映りを見たうえ、後日対策を検討するということになったが、その後、被告側は、建物の足場が取れるまで待ってほしいとか、外観工事が終わるまで待ってほしいというだけで、時日が経過した。平成三年八月になって、建設会社が電気業者を伴って原告宅を訪れ、テレビアンテナを移動するなどしたが、障害は解消しなかった。結局、被告側の提案で、ケーブルテレビを利用するほかないとの話になったが、その利用料等の負担をめぐって原、被告間の話し合いがつかず、原告は、平成三年九月一八日、義父を通じて目黒区の建築環境部環境課にあっせんを申し立てた。右環境課では、被告に対し、誠意をもって解決に当たるよう説得するとともに、文書で改善方を申し入れたが、被告の社長ないし役員などの責任者が目黒区の呼出に一切応ぜず、何らの進展もなかった。

4  被告建物は平成三年一一月に完成したが、原告宅のテレビ画面の映像にゴーストが出る状態は一向に改善されず、NHKのほか民放の一部の映りが悪く、子供が興味を示すアニメーション番組の映像もひどい状態にある。このような状態にあって、NHKでは、原告に対し受信料を免除しており、また、原告の妻としては、ゴーストのある状態では目に悪いと考え子供達にはテレビを見せずに、ビデオを見せるようにしている。

5  被告建物は、原告宅と山手通りを挟んでほぼ真向かいにあり、原告宅のテレビの受信障害が出るようになったのは、被告建物の建設が始まってからのことであったし、また、原告の隣家のテレビにも同様の障害が発生し、被告は同家のテレビアンテナの移設などの措置をとっている。

以上のとおり認められる。証人平山康弘の証言中には、ゴーストはNHK放送に限って発生しているだけであり、その程度もテレビを見るのに特に問題となる程のものでない旨の供述部分があるが、しかし、右供述部分は、現にNHKが受信料免除の措置をとっていること、子供達はテレビが見にくく、ビデオに頼らざるを得ない状況にあること、原告の隣家については、被告においてアンテナの移設の措置をとっていること、原告宅については、アンテナ移設では効果がなかったことなど前記認定の事実及び証人飯島なぎさの証言に照らし、たやすく措信することができず、他に前記認定を左右するに足りる証拠はない。

右認定した事実によれば、原告は、被告建物のために、自宅のテレビ画面にゴーストが発生し映像が極めて悪い状態となり、家族を含めて、その生活上の不利益を被っているものということができるから、被告は、これによって原告が被った損害を賠償すべき責任があるというべきである。

二そこで、損害について判断する。

1  <書証番号略>、証人飯島なぎさ、同平山泰弘の各証言並びに弁論の全趣旨によれば、原告宅の地域では、株式会社東急ケーブルテレビジョンが開設しているケーブルテレビを利用することが可能であること、原告宅の前記受信障害を解消するための方策としては、右ケーブルテレビを利用することが簡便かつ低廉であるといえること、右ケーブルテレビに加入するためには、加入契約料として五万一五〇〇円、工事費として二万四〇〇〇円が必要であり(他に保証金二万円が必要であるが、これは解約時に返還されるものである。)、また、加入後は、一か月三九八〇円の利用料を負担しなければならないこと、右ケーブルテレビは、NHKなど通常のチャンネルのほかに多数の番組を聴視することができること、集団電波障害の場合には、ケーブルテレビでNHKと民放のみを低料金で放映しているところもあるが、本件地域では、右のような限定的なケーブルテレビの利用をする方法は存在しないこと、が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

2 右認定した事実によれば、前記受信障害によって原告が被った損害は、次のとおりであると認めるのが相当である。

(一) 加入契約料と工事費の合計七万五五〇〇円

(二) 利用料(一〇年分) 三七万九四四八円

毎月の利用料の負担は、本件受信障害によって原告が負担することとなる余計な支出であり、本件受信障害による損害といえる。確かに、本件ケーブルテレビを利用した場合には、NHKなど通常のチャンネル以外の放送も多数聴視することができることは前記認定のとおりであるが、しかし、原告としては、特にそれらの放送を聴視することを希望しているわけではなく、NHKなど通常の放送を受信する方法として(即ち、被告建物による被害を回復するための方法として)本件ケーブルテレビを利用するほかないのであるから、被告が主張するように、本件ケーブルテレビに加入することによって多数のチャンネルを聴視しうることとなるとしても(また、仮に画像が向上するとしても)、そのことは、利用料の全額をもって本件受信障害による損害と認めることの妨げとなるものではないというべきである。

ところで、原告は二〇年分の利用料を請求するが、仮に被告建物の建設がなかったとしても、将来的に、付近の環境等の変化によって原告宅のテレビの受信状態が影響を受ける可能性もなかったわけではないことなどを考えると、本件においては、一〇年分の利用料の負担をもって被告建物の建設と相当因果関係にある損害と認めるのが相当である(なお、被告は、原告が現在の建物に長期間居住することはない旨主張するが、証人飯島なぎさの証言によれば、原告には現在の建物を離れて移り住む予定はないことが認められ、被告の右主張は失当である。)。

したがって、年間利用料四万七七六〇円(三九八〇円の一二か月分)の一〇年分について新ホフマン方式により中間利息を控除してその現在価格を求めると(係数は7.9449)、次のとおり、三七万九四四八円(円未満切り捨て)となる。

(3980×12)×7.9449=379,448

三以上のとおりであって、原告の本件請求は、右損害額合計四五万四九四八円及びこれに対する平成三年一〇月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払いを求める限度で理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官佐藤久夫)

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