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東京地方裁判所 平成3年(ワ)18452号 判決 1997年3月13日

当事者

別紙当事者目録記載のとおり

主文

一1  被告は、原告是村高市に対し、七万六八一二円及びこれに対する平成二年六月二六日から支払済みに至るまで年六分の割合による金員を支払え。

2  被告は、原告内田仁信に対し、六五万七五〇三円及び内金五五万九二四三円に対する平成二年六月二六日から支払済みに至るまで年六分の割合による金員を支払え。

3  被告は、原告川田晃司に対し、一六二万六一四五円及び内金一二五万五〇三二円に対する平成二年六月二六日から支払済みに至るまで年六分の割合による金員を支払え。

4  被告は、原告小高康男に対し、二九万〇一〇五円及び内金一八万一四五二円に対する平成二年六月二六日から支払済みに至るまで年六分の割合による金員を支払え。

5  被告は、原告小林孝志に対し、四三万〇八八七円及び内金三七万七三一五円に対する平成二年六月二六日から支払済みに至るまで年六分の割合による金員を支払え。

6  被告は、原告小森民雄に対し、八八万四七九四円及び内金六六万三二四〇円に対する平成二年六月二六日から支払済みに至るまで年六分の割合による金員を支払え。

7  被告は、原告斉藤達也に対し、一三五万二〇〇二円及び内金八八万八六六〇円に対する平成二年六月二六日から支払済みに至るまで年六分の割合による金員を支払え。

8  被告は、原告白井研也に対し、一〇五万二七六九円及び内金八三万八五五二円に対する平成二年六月二六日から支払済みに至るまで年六分の割合による金員を支払え。

9  被告は、原告西村裕一に対し、六七万七六一六円及び内金五一万〇一九〇円に対する平成二年六月二六日から支払済みに至るまで年六分の割合による金員を支払え。

10  被告は、原告野田守に対し、五五万九五五二円及び内金四七万一二七四円に対する平成二年六月二六日から支払済みに至るまで年六分の割合による金員を支払え。

11  被告は、原告堀田忠敏に対し、六九万四一三七円及び内金五四万二七三七円に対する平成二年六月二六日から支払済みに至るまで年六分の割合による金員を支払え。

12  被告は、原告三島知彦に対し、四万五八九九円及びこれに対する平成二年六月二六日から支払済みに至るまで年六分の割合による金員を支払え。

13  被告は、原告茂木孝浩に対し、三六万八五六三円及び内金二五万一二八八円に対する平成二年六月二六日から支払済みに至るまで年六分の割合による金員を支払え。

14  被告は、原告榎本顕に対し、六三万三七五八円及び内金五九万五七三三円に対する平成二年六月二六日から支払済みに至るまで年六分の割合による金員を支払え。

15  被告は、原告金子雅文に対し、六二万四六三一円及び内金五五万〇三六九円に対する平成二年六月二六日から支払済みに至るまで年六分の割合による金員を支払え。

16  被告は、原告庄司実に対し、一六八万三八四二円及び内金一三三万三七四二円に対する平成二年六月二六日から支払済みに至るまで年六分の割合による金員を支払え。

17  被告は、原告田邊浩之に対し、四三万八七一三円及び内金三六万七四二五円に対する平成二年六月二六日から支払済みに至るまで年六分の割合による金員を支払え。

18  被告は、原告豊島丞二に対し、四六万一九七四円及び内金三三万八九四一円に対する平成二年六月二六日から支払済みに至るまで年六分の割合による金員を支払え。

19  被告は、原告西脇正平に対し、一五五万〇四五〇円及び内金一二三万三一一一円に対する平成二年六月二六日から支払済みに至るまで年六分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、これを五分し、その二を原告らの負担とし、その余は被告の負担とする。

四  この判決は、一項1号、同項12号及び左記の部分に限り、仮に執行することができる。

1  一項2号については、五五万九二四三円及びこれに対する平成二年六月二六日から支払済みに至るまで年六分の割合による金員の支払いを命じる部分。

2  一項3号については、一二五万五〇三二円及びこれに対する平成二年六月二六日から支払済みに至るまで年六分の割合による金員の支払いを命じる部分。

3  一項4号については、一八万一四五二円及びこれに対する平成二年六月二六日から支払済みに至るまで年六分の割合による金員の支払いを命じる部分。

4  一項5号については、三七万七三一五円及びこれに対する平成二年六月二六日から支払済みに至るまで年六分の割合による金員の支払いを命じる部分。

5  一項6号については、六六万三二四〇円及びこれに対する平成二年六月二六日から支払済みに至るまで年六分の割合による金員の支払いを命じる部分。

6  一項7号については、八八万八六六〇円及びこれに対する平成二年六月二六日から支払済みに至るまで年六分の割合による金員の支払いを命じる部分。

7  一項8号については、八三万八五五二円及びこれに対する平成二年六月二六日から支払済みに至るまで年六分の割合による金員の支払いを命じる部分。

8  一項9号については、五一万〇一九〇円及びこれに対する平成二年六月二六日から支払済みに至るまで年六分の割合による金員の支払いを命じる部分。

9  一項10号については、四七万一二七四円及びこれに対する平成二年六月二六日から支払済みに至るまで年六分の割合による金員の支払いを命じる部分。

10  一項11号については、五四万二七三七円及びこれに対する平成二年六月二六日から支払済みに至るまで年六分の割合による金員の支払いを命じる部分。

11  一項13号については、二五万一二八八円及びこれに対する平成二年六月二六日から支払済みに至るまで年六分の割合による金員の支払いを命じる部分。

12  一項14号については、五九万五七三三円及びこれに対する平成二年六月二六日から支払済みに至るまで年六分の割合による金員の支払いを命じる部分。

13  一項15号については、五五万〇三六九円及びこれに対する平成二年六月二六日から支払済みに至るまで年六分の割合による金員の支払いを命じる部分。

14  一項16号については、一三三万三七四二円及びこれに対する平成二年六月二六日から支払済みに至るまで年六分の割合による金員の支払いを命じる部分。

15  一項17号については、三六万七四二五円及びこれに対する平成二年六月二六日から支払済みに至るまで年六分の割合による金員の支払いを命じる部分。

16  一項18号については、三三万八九四一円及びこれに対する平成二年六月二六日から支払済みに至るまで年六分の割合による金員の支払いを命じる部分。

17  一項19号については、一二三万三一一一円及びこれに対する平成二年六月二六日から支払済みに至るまで年六分の割合による金員の支払いを命じる部分。

事実及び理由

第一請求

一  被告は、原告是村高市に対し、三〇万五七六一円及びこれに対する平成二年六月二六日から支払済みに至るまで年六分の割合による金員を支払え。

二  被告は、原告内田仁信に対し、一二五万八九八三円及び内金一〇一万七四〇〇円に対する平成二年六月二六日から支払済みに至るまで年六分の割合による金員を支払え。

三  被告は、原告川田晃司に対し、二三三万〇〇五九円及び内金一七九万三八六二円に対する平成二年六月二六日から支払済みに至るまで年六分の割合による金員を支払え。

四  被告は、原告小高康男に対し、八八万七二〇一円及び内金六四万四四五六円に対する平成二年六月二六日から支払済みに至るまで年六分の割合による金員を支払え。

五  被告は、原告小林孝志に対し、九三万七〇四七円及び内金八〇万三七〇八円に対する平成二年六月二六日から支払済みに至るまで年六分の割合による金員を支払え。

六  被告は、原告小森民雄に対し、一四五万六二六九円及び内金一一三万四一六五円に対する平成二年六月二六日から支払済みに至るまで年六分の割合による金員を支払え。

七  被告は、原告斉藤達也に対し、一七五万五一六四円及び内金一二三万一一六六円に対する平成二年六月二六日から支払済みに至るまで年六分の割合による金員を支払え。

八  被告は、原告白井研也に対し、一七一万〇〇八八円及び内金一三五万六三三六円に対する平成二年六月二六日から支払済みに至るまで年六分の割合による金員を支払え。

九  被告は、原告西村裕一に対し、一二九万四八九三円及び内金一〇〇万六三〇二円に対する平成二年六月二六日から支払済みに至るまで年六分の割合による金員を支払え。

一〇  被告は、原告野田守に対し、一一〇万四八九六円及び内金九一万一二二一円に対する平成二年六月二六日から支払済みに至るまで年六分の割合による金員を支払え。

一一  被告は、原告堀田忠敏に対し、一五〇万〇四四二円及び内金一一五万七三三一円に対する平成二年六月二六日から支払済みに至るまで年六分の割合による金員を支払え。

一二  被告は、原告三島知彦に対し、一七万九八四〇円及びこれに対する平成二年六月二六日から支払済みに至るまで年六分の割合による金員を支払え。

一三  被告は、原告茂木孝浩に対し、八六万二八七六円及び内金六三万七七四八円に対する平成二年六月二六日から支払済みに至るまで年六分の割合による金員を支払え。

一四  被告は、原告榎本顕に対し、一二四万三二八四円及び内金一〇七万七五五五円に対する平成二年六月二六日から支払済みに至るまで年六分の割合による金員を支払え。

一五  被告は、原告金子雅文に対し、一二四万四六〇五円及び内金一〇五万一九二三円に対する平成二年六月二六日から支払済みに至るまで年六分の割合による金員を支払え。

一六  被告は、原告庄司実に対し、二五四万七三六九円及び内金二〇〇万〇五九八円に対する平成二年六月二六日から支払済みに至るまで年六分の割合による金員を支払え。

一七  被告は、原告田邊浩之に対し、九六万八六五二円及び内金七八万六一〇一円に対する平成二年六月二六日から支払済みに至るまで年六分の割合による金員を支払え。

一八  被告は、原告豊島丞二に対し、一〇九万八五三二円及び内金八一万八八九一円に対する平成二年六月二六日から支払済みに至るまで年六分の割合による金員を支払え。

一九  被告は、原告西脇正平に対し、二三八万九三七五円及び内金一八四万九七九四円に対する平成二年六月二六日から支払済みに至るまで年六分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

被告は、現実の時間外労働及び深夜労働の有無及び長短にかかわらず、被告営業部の男子従業員には月二四時間分、同第四作業部の男子従業員には月二八時間分の定額の割増賃金を支給し、この他には時間外労働及び深夜労働に対する割増賃金を支給しないという扱いをしていた。

本件は、被告営業部ないし第四作業部の従業員であった原告らが、被告に対し、現実の時間外労働及び深夜労働により支払われるべき割増賃金が月二四時間分ないし二八時間分を超えた場合の差額の割増賃金、遅延損害金及び付加金を請求したのに対し、被告が右各支払義務はないとして争った事案である。

一  争いのない事実等

1  被告は、印刷業を主たる業務とする株式会社で、被告肩書地の主たる営業所の所在地に本社及び本社工場を、また、千葉県船橋市に習志野工場を有している。

2  原告らは、いずれも昭和六三年八月二一日から平成二年六月二〇日までの間(以下「本件請求期間」という。)、被告に雇用され、次のとおり、就労していた。

すなわち、原告是村、同内田、同川田、同小高、同小林、同小森、同斉藤、同白井、同西村、同野田、同堀田、同三島、同茂木は、被告営業部(受注・発注等営業一般を取り扱う部門)に所属し、原告庄司、同西脇、同榎本、同金子、同田邊は、被告第四作業部(印刷製版の進行管理等を業務とする部門)に所属していた。原告豊島は、昭和六一年四月に被告に入社して、営業部に所属していたが、平成元年四月、第四作業部に配属され、平成二年六月二〇日まで同部に所属していた。

3  被告における従業員の始業時刻は午前九時であった。

4  被告営業部及び第四作業部に所属する従業員の給与支給形態は月給制であり、被告の給与規定(<証拠略>、以下「給与規定」という。)には、左記の定めがある。

(超過・深夜・休日勤務手当)

一八条 従業員が所定労働時間外、または深夜(当日二十二時より翌朝五時までの間)もしくは休日に勤務した場合には、一時間について次式で計算される超過・深夜・休日勤務手当を支払う。

但し、週平均実働四十八時間以内の時間外勤務に対する手当の計算においては次式の乗数を一とする。

一、月給制および日給月給制

基本給・職能・役付・資格・現業・2部制・調整・特別・技術・運転の各手当/年間所定労働時間÷12×(1+割増率)

(以下略)

(割増率)

一九条

一、月給制および日給月給制

1、時間外(早出、残業) 二割五分

2、深夜業

イ、単部制 二割五分

ロ、二部制 五割

3、休日出勤 二割五分

二、日給制(略)

三、深夜業と時間外または休日労働との重複

一および二の割増率について時間外または休日の労働が深夜に及ぶ場合は時間外・休日の割増率と深夜業の割増率は加算されるが、休日労働が深夜に及んでも時間外割増は加算されない。

5 被告においては、就業規則や給与規定上の定めは存しないものの、時間外労働及び深夜労働(以下併せて「時間外労働等」という。)に対する割増賃金の支払いについて、昭和六三年八月二一日以前から、現実の時間外労働等の有無及び長短にかかわらず、営業部の男子従業員には月二四時間分、第四作業部の男子従業員には月二八時間分の定額の割増賃金を支給し、この他には時間外労働等に対する割増賃金を支給しないという扱いをしていた(以下この扱いを「本件固定残業制度」、本件固定残業制度により従業員に支給される定額の割増賃金を「固定残業給」、固定残業給の計算の基礎になる固定化された月二四時間あるいは月二八時間の残業時間を「固定残業時間」という。)。

6 被告従業員は、本件請求期間中、出社・退社時刻を自らタイムカードに打刻し、この記録は個人別出勤表に転載されていた。

なお、同表の計算方法は、一五分ごとに〇・二五時間ずつ加算されるというものである。

7 被告における賃金の計算期間は、前月二一日から当月二〇日までで、支払日は毎月二五日であった。

8 被告には、昭和五三年五月に結成された訴外三晃印刷労働組合(以下「訴外組合」という。)があり、原告らのうち、原告是村、同川田、同小高、同西村、同堀田、同三島、同庄司、同豊島、同西脇の九名が右組合員、その他の一〇名が非組合員であった。平成二年九月、原告是村は訴外組合の執行委員長に就任した。

9 本件固定残業制度は、平成二年六月二一日以降は、時間外労働が固定残業時間を超えた場合、超えた時間数につき精算することとなり、平成三年七月一日に廃止された。

二  争点

1  原告らの終業時刻(割増賃金の起算点)

2  原告らの時間外労働等及び固定残業給を超える割増賃金の有無

3  原告らと被告とは、本件未払割増賃金問題について、争わない旨の合意をしたか。

4  本件未払割増賃金請求権の消滅時効の成否

5  遅延損害金請求権の有無

6  付加金支払義務の有無

三  当事者の主張

1  原告らの終業時刻(割増賃金の起算点)について

(原告らの主張)

被告における従業員の終業時刻は午後五時であり、割増賃金の起算点も同様に午後五時である。

(被告の主張)

被告における従業員の終業時刻は午後六時であり、原告の主張は否認する。

2  原告らの時間外労働等及び固定残業給を超える割増賃金の有無について

(原告らの主張)

(一) 原告是村の本件請求期間における時間外労働時間数(但し、起算点は午後五時)、午後一〇時以降の労働時間数及び賃金の時間単価は別表2<略、以下同じ>未払賃金等計算表1のとおりであり、「時間外労働時間数」から二四を差し引いたのが同表の「二四時間を超える労働時間数」であり、給与規定一八条、一九条に基づき同表の「賃金の時間単価」に一・二五を乗じたのが同表の「割増賃金の時間単価」である。そして、同表の「二四時間を超える労働時間数」に「割増賃金の時間単価」を乗じたもの(「未払時間外割増賃金」)と「午後一〇時以降の労働時間数」に「賃金の時間単価」を乗じ、さらに、〇・二五を乗じたもの(「未払深夜割増賃金」)との和が同表の「未払賃金額」である。こうして得られた本件請求期間中の各月の未払賃金額の合計は、同表の「未払賃金額」の計欄に記載のとおり、三〇万五七六一円になる。

なお、同表の「時間外労働時間数」及び「午後一〇時以降の労働時間数」は、個人別出勤表に基づくもので、一五分ごとに〇・二五時間ずつ加算される計算方法による。また、同表の「賃金の時間単価」は給与支給明細書(1)中の「超勤単価」欄に基づくものである(一部請求)。但し、同明細書によれば、原告是村の平成元年三月二一日以降同年五月二〇日までの賃金の時間単価は、それ以前と変更がないが、実際は、同年六月二四日支給の賃金において、同年三月二一日に遡って、別表2未払賃金等計算表1の「賃金の時間単価」欄記載のとおり、変更された。

その他の原告らの本件請求期間における時間外労働時間数(但し、起算点は午後五時)、午後一〇時以降の労働時間数、賃金の時間単価(但し、原告是村と同様、給与支給明細書(1)中の「超勤単価」欄によれば、原告川田、同小高、同西村、同三島、同庄司、同西脇の平成元年三月二一日以降同年五月二〇日までの賃金の時間単価は、それ以前と変更がないが、実際は、同年六月二四日支給の賃金において、同年三月二一日に遡って、別表2未払賃金等計算表3、4、9、12、16、19の「賃金の時間単価」欄記載のとおり、時間単価が変更された。)は別表2未払賃金等計算表2ないし19の各所定欄記載のとおりであり、前記の方法により計算すると(但し、第四作業部に所属する原告庄司、同西脇、同榎本、同金子、同田邊、同豊島については、時間外労働時間数から差し引く時間数を二八とする。)、別表2未払賃金等計算表2ないし19の「未払賃金額」の計欄に記載の各金額となる。

(二) 原告らのなした時間外労働等は被告の明示又は黙示の指示に基づくものである。

(三) よって、原告らは、被告に対し、別表2未払賃金等計算表1ないし19の未払賃金額の計欄に記載のとおりの時間外労働等の割増賃金を請求する権利を有する。

(被告の主張)

(一) タイムカードは、従業員の出・退勤の状況を把握し、あるいは、勤怠管理の一助にするという目的で従業員に打刻させていたものであり、被告が従業員の時間管理をしていた事実はない。また、原告らのタイムカードの記載から計算される労働時間は原告らの現実の労働時間ではない。さらに、原告らは、所定労働時間中、手待時間があったことはもとより、多々公私混同の行動があり、あるいは全く業務を行うことなく時間を徒過するなどしており、タイムカードの記載から計算される労働時間は、現実の労働時間と大きく乖離したものである。

(二) 被告は、原告ら営業部所属従業員及び第四作業部所属従業員等業務の性質上時間管理が不可能又は困難な従業員に対しては、割増賃金算出の基礎となるべき時間管理を全く行わず、割増賃金の支払いに代えて本件固定残業制度を実施し、固定残業給を支払ってきた。この取扱いは、昭和三〇年代初頭から実施してきたものであり、その長期にわたる実施期間、継続実施回数、対象者数及びその間適用対象者が右実施について何ら異議を述べなかったこと等に照らすと、本件当時、適用対象従業員は、本件固定残業制度によって生じる不利益を受忍する意思を有しており、本件固定残業制度は労働契約の内容になっていた。あるいは、被告と訴外組合が、本件固定残業制度について度重なる協議を行い、協定書等も作成してきたという経緯に照らせば、本件固定残業制度は、労働協約上の根拠を有していた。さらには、前記事実経過に照らすと、本件固定残業制度は、被告と適用対象従業員との間で法規範性を有する労使慣行となっていた。したがって、原告らに、本件固定残業給の他に割増賃金が生じる余地はない。

(三) 本件固定残業制度の適用対象者は、定められた固定残業時間の範囲内で時間外労働等を行うべきであり、かつ、被告が原告らに対し、固定残業時間を超えて時間外労働等を命じた事実はない。

(四) 時間外労働等の割増賃金の支払いは、労働基準法三七条所定の計算方法を用いなくても、同条所定の額以上の割増賃金の支払いがなされれば適法と考えられるところ、本件固定残業制度は、当該月に時間外労働等がなくても一定額の固定残業給を支給するというものであり、適用対象者に利益になる場合もあるのであるから、原告らの主張は理由がない。また、本件固定残業制度により、原告らに賃金上の不利益があったとしても、現実の時間外労働等により発生する割増賃金を超える固定残業給を得たことがあったことや終業時刻前の帰宅を認める被告の事実上の取扱いやその後の交渉による労働時間短縮等(締結主体は訴外組合であるが、非組合員たる原告らにも適用されると解する。)によって著しい利益を受けているから、原告らの主張は法的に許されない。

3  原告らと被告とは、本件未払割増賃金問題について、争わない旨の合意をしたかについて

(被告の主張)

(一) 訴外組合と被告とは、平成三年六月二一日、本件固定残業制度の廃止及びそれに伴う諸問題に関する東京都労働委員会(以下「都労委」という。)の斡旋案を受諾し、同月二八日に協定書の作成・調印を行うことにより本件固定残業制度の完全廃止に至ったのであるが、その中で訴外組合は、原告らの未払割増賃金問題について、今後一切請求せず、争わない旨を被告と合意した。

(二) 右の合意に先立ち、原告らは、訴外組合に対し、被告との間における本件未払割増賃金問題の解決を委任していた。

(原告らの主張)

被告の主張は否認する。被告主張にかかる平成三年六月二一日に労使双方が受諾した斡旋案にも、同月二八日に締結された協定書にも、本件未払割増賃金の問題は一切触れられていない。また、そもそも訴外組合は、原告らから本件未払割増賃金問題の解決についての委任を受けていないのであるから、仮に訴外組合が原告らに帰属する請求権について原告らに不利益な内容で合意しても、原告らはこれに拘束されるものではない。

4  本件割増賃金請求権の消滅時効の成否について

(被告の主張)

原告らの本件割増賃金請求権のうち、本件が提訴された平成三年一二月一〇日から二年以上前に弁済期の到来したものは消滅時効にかかっており、被告は、右消滅時効を援用する。

(原告らの主張)

原告らは、被告に対し、平成二年七月二〇日到達の書面で本件未払割増賃金等の請求をしたところ、被告は、検討のための時間的猶予を求めた。その後も、原告らは、被告に対し、交渉の席であるいは書面で度々右請求を行ったが、被告は、検討中であり支払わないとは言っていないとか、法的に認められるものについては支払う意思があるなどと述べ、また、原告らが訴訟提起によって解決する意向を示すと、それは困る、交渉によって解決したいなどと述べていた。そして、平成三年七月五日に至って初めて支払うつもりがないと通告してきたのである。これらの事実経過に照らすと、被告が消滅時効を援用することは信義則に反し、権利濫用であって許されない。

5  遅延損害金請求権の有無について

(原告らの主張)

原告らは、被告に対し、割増賃金請求権を有しているところ、各割増賃金合計額に対する平成二年六月二六日以降支払済みに至るまで年六分の割合による遅延損害金の支払いをそれぞれ求める(一部請求)。

(被告の主張)

被告には、原告らに対する割増賃金支払義務はなく、したがって、原告らに対し、それらについての遅延損害金支払義務が生じることはない。

6  付加金支払義務の有無について

(原告らの主張)

原告らは、被告に対し、割増賃金請求権を有しているが、被告は、原告らに対する割増賃金を支払わない。したがって、原告内田、同川田、同小高、同小林、同小森、同斉藤、同白井、同西村、同野田、同堀田、同茂木、同榎本、同金子、同庄司、同田邊、同豊島、同西脇は裁判所に対し、別表2未払賃金等計算表2ないし11、13ないし19の付加金の請求欄記載のとおり、原告らが本訴を提起した平成三年一二月二〇日の二年前以降である平成元年一二月二五日から平成二年六月二五日までの各賃金支払期日の未払割増賃金と同一額の付加金の支払いを被告に命じるよう請求する。

(被告の主張)

被告には、原告らに対する割増賃金支払義務はないので、付加金支払義務も発生しない。

第三争点に対する判断

一  原告らの終業時刻(割増賃金の起算点)について

証拠(<証拠・人証略>)によると、従前から被告は、営業部、第四作業部の従業員に対して、仕事がないときには午後五時に退社してもよいという扱いをしており、そのことによる賃金カット等の不利益措置はしておらず、対外的に従業員を募集する際の社員募集要項や新聞の求人広告等の従業員募集関係書類にも終業時刻を午後五時と明記して募集していたこと、原告西村も昭和五四年三月に被告に入社した際、終業時刻は午後五時という説明を受けたことが認められる。

しかしながら、被告の就業規則(<証拠略>)五〇条には、営業部・第四作業部従業員が該当する常駐勤務(単部制)事務の項には終業時刻は午後六時と明記されていること、被告から訴外組合に宛てた回答書(<証拠略>)及び被告と訴外組合との了解事項と題する文書(<証拠略>)によると、被告は、訴外組合に対し、昭和五九年一二月一二日、事務系従業員の終業時刻は午後六時であるところ、管理監督者から特に仕事を命じられない場合等は午後五時以降ならば自由に終業帰宅してもよいとの事実上の運営は認めるが、これは終業時刻が午後五時であるということを権利として主張しない限りにおいて認めるということである旨通知し、訴外組合もこれを承諾した事実が認められ、さらに、要求書(<証拠略>)、回答書(<証拠略>)、確認書(<証拠略>)、時差出勤制度に関する取扱い規定(<証拠略>)、同(<証拠略>)によると、右の取扱いは昭和六三年四月一八日の時点、平成元年八月七日の時点、同年一一月八日の時点において、それぞれ被告と訴外組合との間で確認されていること、平成三年三月二〇日付け訴外組合作成の春闘闘争ニュース(<証拠略>)には、一日一時間の労働時間引下げの回答が出たことによって、午前九時始業の職場は午後五時が終業時刻になる旨の記載があること、同年六月二八日付けの被告と訴外組合との協定書(<証拠略>)によれば、現行の終業時刻を一時間繰り上げることによって、一日の所定内労働時間を七時間とする旨の合意がなされていること、証人土方清宏の証言によると、採用面接時や新入社員研修時に終業時刻は午後六時であることを説明しているし、採用時に就業規則を各従業員に配布していることが認められる。

これらの事実に照らすと、原告らの終業時刻は午後六時であると認定すべきである。

原告らは、終業時刻は午後五時であると主張するが、被告従業員の労働条件に関して権限のある管理者が午後五時が終業時刻であることを承諾していたなどの事情は認められず、仕事がない場合には午後五時以降であれば退社しても不利益に扱わないという被告の事実上の受容に依拠していたにすぎないものであるから、終業時刻が午後五時であるということが労働契約の内容になっている、あるいは、このような慣習が成立していたということは到底いえない。

したがって、原告らの時間外労働の起算点も午後六時ということとなる。

二  原告らの時間外労働等及び固定残業給を超える割増賃金の有無について

1  争いのない事実及び証拠(<証拠略>)によると、原告ら被告従業員は、出社・退社時刻をタイムカードに打刻しており、この記録は、個人別出勤表に転載されていたこと、そして、同表によると、午後六時を起算点とする時間外労働時間数及び深夜労働時間数は、別表1<略、以下同じ>未払賃金等計算表1ないし19の「時間外労働時間数」欄、「午後一〇時以降の労働時間数」欄に各記載のとおりであることが認められる。

2  ところで、一般に、タイムカードの記載は、従業員の出社・退社時刻を明らかにするものであって、出社・退社時刻は就労の始期・終期とは一致しないから、本件原告らの時間外労働等の時間数をタイムカードの記載を転載した個人別出勤表に基づいて認定することが許されるかが問題となる。

証拠(<証拠・人証略>)及び弁論の全趣旨によると、被告においては、管理職等を除く従業員は、出・退勤時にタイムカードを打刻することが義務付けられており、被告作成の個人別出勤表の「始業時間」欄、「終業時間」欄、「所定内時間」欄、「所定外時間」欄、「実働時間」欄の各記載はいずれもタイムカードの記録を基に記載されていること、被告は、タイムカードの記録に基づいて、従業員の遅刻等による一時金からの賃金カットをするなど、タイムカードの記録により従業員の労働時間を把握していたこと、本件固定残業制度の適用を受けていなかった従業員の時間外労働等の割増賃金の計算は、営業部員を含めて、タイムカードの記載を基礎になされていたと考えられること、本件固定残業制度が廃止された後の時間外労働等の計算は、タイムカードの記録をも基礎にしてなされていること、出社時刻から退社時刻までの時間は、一般に実労働時間より長く、両者には誤差があるが、被告における時間外労働等の時間数の計算方法は、一五分ごとに〇・二五時間ずつ加算される方法をとっているため、出社してから就労を開始するまでの準備作業や終業して退社するまでの後片付けに相当の時間を要する行為(着替えや入浴等)を通常必要とするような場合は格別、そうでない場合は右誤差の相当部分は解消されることが認められる。

右認定事実からすると、タイムカードを打刻すべき時刻に関して労使間で特段の取決めのない本件においては、タイムカードに記録された出社時刻から退社時刻までの時間をもって実労働時間と推定すべきである。

3  これに対して、被告は、原告らはタイムカードに打刻した始業時刻と終業時刻との間の賃金計算期間中であるのに、公私混同の行動をとったり、あるいは業務を行うことなく、時間を徒過するなどしており、これらの時間については、賃金は発生しないと主張する。

たしかに、証拠(<証拠・人証略>)によれば、いずれも前記賃金計算期間中であるにもかかわらず、原告豊島は野球部の部室で休んでいたことが数回あったし、同内田、同川田、同小林、同小森、同斉藤、同野田、同堀田、同茂木、同榎本、同金子、同田邊は、食事をしたり、ビールを飲んでいたことがあったし、同小高は、本を読んだり、寝たりしていたことがあったし、同西村は、組合の仕事をしていたことがあったし、同庄司、同西脇は、テレビを見たり、入浴していたことがあったことが認められる。さらに、(人証略)は、原告是村及び同三島は、タイムカードの記載によれば、平成二年一月二二日は二人とも長時間の時間外労働をしたということになっているが、両名に対して、残業の指示をしたことはなく、両名は組合事務所で何かしていたのではないかと考えられ、また、原告是村、同三島、同西村及び同堀田は、同年三月九日に同様に、長時間の時間外労働をしたということになっているが、この両名にも残業を指示したことはないので、やはり、組合事務所で何かしていたのではないかと考えられるなどと証言する。

しかしながら、いずれの場合もタイムカードに打刻されている始業時刻と終業時刻の間で原告らが労務を提供しなかった日時ないし時間の長短が特定しておらず、タイムカードに打刻されている始業時刻から終業時刻までの時間をもって原告らの実労働時間と考えるべきことにかわりはなく、この点に関する被告の主張は失当である。

4  被告は、本件固定残業制度については、原告らは同制度によって生じる不利益を受忍する意思を有しており、あるいは、労働協約上の根拠を有しており、あるいは、労使慣行となっていたから、原・被告間において労働契約の内容になっていたと主張する。

たしかに、本件固定残業制度下にあっての本件固定残業給は、時間外労働等の割増賃金として支払われていたのであって、この限りにおいて、同制度は被告と適用対象従業員との間で労働契約の内容となっていたということはできるが、現実の時間外労働等により発生する割増賃金が固定残業給を超えた場合に、その差額を放棄する特約まで労働契約の内容になっていたと認めるに足りる証拠はなく、仮にそうであったとしても右の特約は労働基準法一三条に反し無効であり、この理は労働協約であれ、労使慣行であれ異ならない。

そして、現実の労働時間が固定残業時間数を超えるか否かは、原・被告間の賃金支払形態が月給制である以上、一か月単位で判断すべきものである。

被告は、本件請求期間全体を通じると、原告らが主張するほど多額の未払割増賃金はない旨主張するが、右の理由により採用しえない。

5  また、被告は、本件固定残業制度の適用対象者は、定められた固定残業時間の範囲内で時間外労働等を行うべきであり、かつ、被告が原告らに対し、固定残業時間を超えて時間外労働等を命じた事実はないとも主張する。

しかし、前記のとおり、原告らの所定時間外の労務提供が固定残業時間を超えてなされたことがあったこと自体は明らかであり、証拠(<人証略>)及び弁論の全趣旨によれば、原告らが時間外労働等をすることにつき、被告の明示又は黙示の指示があったことも認められるので、右主張も失当である。

6  ところで、原告らは、給与支給明細書(1)中の「超勤単価」欄によれば、原告是村、同川田、同小高、同西村、同三島、同庄司、同西脇の平成元年三月二一日以降同年五月二〇日までの賃金の時間単価は、それ以前と変更がないが、実際は、同年六月二四日支給の賃金において、同年三月二一日に遡って、別表2未払賃金等計算表1、3、4、9、12、16、19の「賃金の時間単価」欄記載のとおり、時間単価が変更されたので、右の各原告の同年六月二四日付けの給与支払(ママ)明細書(1)中の支給額欄中の「その他」欄の記載は、改定後の賃金が過去二か月に遡及して適用されたために生じた改定前の賃金により計算された過去二か月の支給額との差額分として支給された金額であると主張する。

そこで、証拠(<証拠略>)に基づき、同年六月二四日付けの同明細書中の支給額欄中の「その他」欄の記載と改定前後の賃金の差額の二か月分とが一致するか否か検討すると以下のとおりとなる(金額に変更がない手当等及び交通費については省略する。)。

(一) 原告是村

(1) 本給

一一万円から一一万四八〇〇円へ四八〇〇円増加

(2) 加給

七万三三〇〇円から七万六四〇〇円へ三一〇〇円増加

(3) 職能手当

一万六六〇〇円から一万七三〇〇円へ七〇〇円増加

(4) 住宅手当

一万五〇〇〇円から一万六〇〇〇円へ一〇〇〇円増加

(5) 超勤深夜手当

三万四〇〇〇円から三万六九〇〇円へ二九〇〇円増加

(6) 家族手当

三五〇〇円から六五〇〇円へ三〇〇〇円増加

(7) 合計

一万五五〇〇円増加(二か月合計三万一〇〇〇円増加)

(8) 前記「その他」欄の記載

三万一〇〇〇円

(二) 同川田

(1) 本給

九万四六〇〇円から一〇万円へ五四〇〇円増加

(2) 加給

六万二九〇〇円から六万六五〇〇円へ三六〇〇円増加

(3) 職能手当

一万四四〇〇円から一万五二〇〇円へ八〇〇円増加

(4) 役付・資格手当

七五〇〇円から一万円へ二五〇〇円増加

(5) 住宅手当

九〇〇〇円から一万円へ一〇〇〇円増加

(6) 超勤深夜手当

二万八八〇〇円から三万二一〇〇円へ三三〇〇円増加

(7) 合計

一万六六〇〇円増加(二か月合計三万三二〇〇円増加)

(8) 前記「その他」欄の記載

三万三二〇〇円

(三) 同小高

(1) 本給

一〇万七七〇〇円から一一万二四〇〇円へ四七〇〇円増加

(2) 加給

七万一六〇〇円から七万四九〇〇円へ三三〇〇円増加

(3) 職能手当

一万六三〇〇円から一万六九〇〇円へ六〇〇円増加

(4) 住宅手当

九〇〇〇円から一万円へ一〇〇〇円増加

(5) 超勤深夜手当

三万三三〇〇円から三万六二〇〇円へ二九〇〇円増加

(6) 合計

一万二五〇〇円増加(二か月合計二万五〇〇〇円増加)

(7) 前記「その他」欄の記載

二万五〇〇〇円

(四) 同西村

(1) 本給

九万七九〇〇円から一〇万三〇〇〇円へ五一〇〇円増加

(2) 加給

六万五二〇〇円から六万八五〇〇円へ三三〇〇円増加

(3) 職能手当

一万四九〇〇円から一万五六〇〇円へ七〇〇円増加

(4) 住宅手当

九〇〇〇円から一万円へ一〇〇〇円増加

(5) 超勤深夜手当

三万〇五〇〇円から三万三三〇〇円へ二八〇〇円増加

(6) 合計

一万二九〇〇円増加(二か月合計二万五八〇〇円増加)

(7) 前記「その他」欄の記載

二万五八〇〇円

(五) 同三島

(1) 本給

一〇万一〇〇〇円から一〇万五八〇〇円へ四八〇〇円増加

(2) 加給

六万七三〇〇円から七万〇四〇〇円へ三一〇〇円増加

(3) 職能手当

一万五三〇〇円から一万六〇〇〇円へ七〇〇円増加

(4) 住宅手当

一万五〇〇〇円から一万六〇〇〇円へ一〇〇〇円増加

(5) 超勤深夜手当

三万一四〇〇円から三万四二〇〇円へ二八〇〇円増加

(6) 家族手当

一〇〇〇円から二〇〇〇円へ一〇〇〇円増加

(7) 合計

一万三四〇〇円増加(二か月合計二万六八〇〇円増加)

(8) 前記「その他」欄の記載

二万六八〇〇円

(六) 同庄司

(1) 本給

一一万四〇〇〇円から一一万八八〇〇円へ四八〇〇円増加

(2) 加給

七万五九〇〇円から七万九一〇〇円へ三二〇〇円増加

(3) 職能手当

一万七二〇〇円から一万七八〇〇円へ六〇〇円増加

(4) 住宅手当

九〇〇〇円から一万円へ一〇〇〇円増加

(5) 超勤深夜手当

四万〇四〇〇円から四万三九〇〇円へ三五〇〇円増加

(6) 合計

一万三一〇〇円増加(二か月合計二万六二〇〇円増加)

(7) 前記「その他」欄の記載

二万六二〇〇円

(七) 同西脇

(1) 本給

一一万一七〇〇円から一一万六四〇〇円へ四七〇〇円増加

(2) 加給

七万四三〇〇円から七万七五〇〇円へ三二〇〇円増加

(3) 職能手当

一万六八〇〇円から一万七五〇〇円へ七〇〇円増加

(4) 住宅手当

九〇〇〇円から一万円へ一〇〇〇円増加

(5) 超勤深夜手当

三万九六〇〇円から四万三一〇〇円へ三五〇〇円増加

(6) 合計

一万三一〇〇円増加(二か月合計二万六二〇〇円増加(ママ)

(7) 前記「その他」欄の記載

二万六二〇〇円

以上のとおり、給与支給明細書(1)中の支給額欄中の「その他」欄の記載は、改定前後の賃金の差額の二か月分と完全に一致することが認められ、かつ、他の支給日の「その他」欄の記載のほとんどは○であり、記載がある場合もその金額は平成二年六月の記載の金額に比し相当少額であること、「その他」欄の記載のうち、右七名全員について○以外の記載があるのは平成二年六月のみであること、この点について被告は何らの反証をしないこと等に鑑みると、原告らの主張のとおり、原告是村、同川田、同小高、同西村、同三島、同庄司、同西脇の平成元年三月二一日以降同年五月二〇日までの賃金の時間単価は、給与支給明細書(1)中の「超勤単価」欄の記載にもかかわらず、実際は、同年六月二四日支給の賃金において、同年三月二一日に遡って、別表1未払賃金等計算表1、3、4、9、12、16、19の「賃金の時間単価」欄記載のとおり、変更されたものと認めるのが相当である。

7  以上に述べたところから、原告らには本件請求期間中、固定残業時間を超える時間外労働等が存する。そして、前示のとおり、被告における従業員の終業時刻及び割増賃金の起算点は、午後六時とすべきであるので、午後六時を起算点として、個人別出勤表に基づいて原告らの時間外労働等及び未払割増賃金を計算すると、別表1未払賃金等計算表1ないし19のとおりである(なお、前記争いのない事実に記載のとおり、被告給与規定一八条但書には、「但し、週平均実働四十八時間以内の時間外勤務に対する手当の計算においては次式の乗数を一とする。」という規定があり、この規定の意味するところは一見明確ではないものの、一日の所定時間外に労働した場合であっても、当該日の属する一週間の実労働時間が四八時間以内であるときには、右時間内の労働に対して支払われるべき賃金の計算においては割増率を加算する必要がないという趣旨と解されるが、右規定の適用については、被告の主張がない。)。

三  原告らと被告とは、本件未払割増賃金問題について、争わない旨の合意をしたか否か

1  右の合意については、本件全証拠によってもその存在を認めることはできない。

2  これに対し、被告は、被告と訴外組合は、平成三年六月二一日、都労委の斡旋案を受諾し、同月二八日に協定書の作成・調印を行う中で、原告らの未払割増賃金問題について、今後一切請求せず、争わない旨を合意したと主張する。

たしかに、協定書(<証拠略>)の九項には「一九九一年三月一九日・・・付け回答書の通りである・・・。」との記載があり、平成三年三月一九日付け回答書(<証拠略>)の一項一号の「現行の一日八時間の所定労働時間を一日七時間とする。但し、後記(5)の『固定残業制度』の廃止及びこれに伴う諸問題の解決を条件とする。」という記載及び同項五号の「『固定残業制度』は廃止し、これに伴う諸問題を解決すること。」という記載中の「これに伴う諸問題」に本件未払割増賃金問題が含まれるとすると、回答書の記載からは、固定残業制度の廃止と本件未払割増賃金問題を一括して解決することが予定されていたようにも考えられ、そうすると、協定書において、本件固定残業制度が廃止された以上、本件未払割増賃金問題も解決されたという可能性が考えられなくもない。

しかしながら、そもそも「これに伴う諸問題」の中に本件未払割増賃金問題が含まれていたかどうか明らかではない上、仮に、回答書作成時においては、「これに伴う諸問題」の中に本件未払割増賃金問題が含まれていたとしても、回答書の作成時から協定書作成時まで三か月以上の時間が経過していて情勢の変化がありうるところ、固定残業制度の廃止については、同年六月二一日作成の都労委の斡旋案(<証拠略>)及び前記協定書に明記されているのに対し、本件未払割増賃金問題に関する記載は前記の記載の他は全くないことや解決の具体的内容が前記の記載からは全く不明であること(<人証略>)からすると、本件未払割増賃金問題について、訴外組合と被告との間で争わない旨の合意が成立したと認めることは到底できない。

土方証人は、協定書締結により、本件未払時間外割増賃金問題は全て解決したと証言するが、右の理由により信用できない。

したがって、訴外組合の代理権の存否につき判断するまでもなく、被告の主張は理由がない。

四  本件割増賃金請求権の消滅時効の成否について

1  被告は、原告らの本件割増賃金請求権のうち、本件が提訴された平成三年一二月一〇日から二年以上前に弁済期の到来したものは時効により消滅したと主張し、これに対し、原告らは、原告らが、被告に対し、平成二年七月二〇日到達の書面で本件未払割増賃金等の請求をした(以下「本件催告」という。)ところ、被告は、検討のための時間的猶予を求め、その後の再々の原告らの請求に対しても、被告は、種々の言辞を弄して回答を引き伸ばし、結局平成三年七月五日に至って初めて支払うつもりはないと通告してきたのであって、このような事実経過に照らすと、被告が消滅時効を援用することは信義則に反し、権利濫用であって許されないと主張する。

2  そこで検討するに、平成二年七月二〇日から平成三年七月五日の間における本件未払割増賃金問題に関する原・被告間(訴外組合の行為も含む。)の交渉等の経緯について、当事者間で争いのない事実及び証拠によって認められる事実は以下のとおりである。

(一) 原告らのうち原告内田を除く一八名は、被告に対し、平成二年七月一九日付けで過去の未払いの時間外割増賃金等の支払いを請求する旨通知し、同月二〇日、被告に到達したが(<証拠略>)、被告は、同月二五日、検討のための回答のしばらくの猶予を求めた(<証拠略>)。

(二) 原告らは、被告に対し、同年八月三一日付け(<証拠略>)及び同年一二月一二日付け(<証拠略>)で前同様の支払請求を通知したのに対し、被告は、原告らに対し、同月二七日付けで、右二通の通知書につき被告は鋭意検討中であること、原告ら主張の請求について具体的な金額を指摘されるべきこと及び固定残業制度の廃止に向けての協議をとり行いたいこと等を通知した(<証拠略>)。

(三) 平成三年一月一一日、訴外組合は、被告に対し、平成二年に通知済みの未払いの時間外割増賃金を請求している原告らの入社時から平成二年六月まで(退職者は退職時まで)の勤務時間の一覧表を提出することを求め、もし提出されない場合は労働基準監督署へ訴えることを通知した(<証拠略>)。

(四) 同月一八日、原告是村及び同堀田と被告土方総務本部長(以下「土方本部長」という。)及び星野常務との間で交渉がもたれた。

(五) 原告らは、被告に対し、同月二一日付けで、平成二年七月二〇日到達の書面に基づく未払賃金の請求に関して、法的に認められる範囲の未払賃金等についての支払いを拒否するものではなく、今後継続して協議する意向であることを双方で確認した旨及び原告らの時間外労働に関する計算の基礎となる資料の明示についても誠意をもって検討するとの回答が得られた旨を通知した(<証拠略>)。

(六) 被告は、原告らに対し、同月二三日、右(五)の通知が事実に反すること及び原告らの未払いの時間外割増賃金等について具体的に金額を指摘されるべきこと及び固定残業制度の廃止に向けての協議をとり行いたいこと等を通知した(<証拠略>)。

(七) 被告は、訴外組合に対し、同月二五日、被告は未払いの時間外割増賃金については訴外組合から何らの通知も受けたことがない旨及び固定残業制度の廃止に向けての協議をとり行いたい旨を通知した(<証拠略>)。

(八) 被告は、訴外組合に対し、同月二九日、固定残業制度の廃止等について速やかに協議したい旨申し入れたが(<証拠略>)、訴外組合は右申入書の受領を拒否した。

(九) 訴外組合は、被告に対し、同年二月一二日付けで、原告らの過去の勤務時間の一覧表の提出を求める旨通知した(<証拠略>)。

(一〇) 被告は、訴外組合に対し、同年三月一九日、労働時間を短縮すること、但し、固定残業制度の廃止及びこれに伴う諸問題の解決を条件とする旨通知した(<証拠略>)。また、被告は、訴外組合に対し、同月二五日、同年三月一九日付け回答書等について、同年四月一五日までに一括して訴外組合の同意を得たい旨通知した(<証拠略>)。

(一一) 被告は、訴外組合に対し、同年四月一八日、固定残業制度の廃止及びこれに伴う諸問題の可及的速やかな解決を申し入れた(<証拠略>)。

(一二) 同年五月三〇日、訴外組合が申請した都労委における第一回斡旋期日において、被告は、都労委に対し、原告らの過去の未払割増賃金問題についても斡旋を依頼し、都労委の斡旋委員は、被告及び訴外組合に対し、この問題をどう考えるのか等について検討するよう指示した(<証拠略>)。

(一三) 同年六月一一日の都労委における第二回斡旋期日において、被告は、都労委に対し、原告らの過去の未払割増賃金問題についても斡旋を依頼した(<証拠略>)。

(一四) 同月二一日、都労委における第三回斡旋期日において、被告及び訴外組合は、都労委の示した斡旋案(<証拠略>)を受諾したが、右斡旋案においては、本件未払割増賃金問題については触れるところがない。

(一五) 同月二八日、被告と訴外組合は、協定書(<証拠略>)を締結したが、その九項には「一九九一年三月一九日・・・付け回答書の通りである・・・。」との記載がある。

3  そして、原告是村は本人尋問において、平成二年七月二五日の直後ころ、原告是村及び同堀田と土方本部長や星野常務との間で交渉をもったが、被告側は、原告らの未払割増賃金問題については、重大な問題であり、検討するため、もう少し待ってもらいたい旨述べたこと、これ以後も原告是村と土方本部長の間で数回交渉をもったが、土方本部長は、前同様、検討中だからもう少し待って欲しい旨述べていたこと、平成三年一月一一日、原告是村と土方本部長や星野常務との間で交渉をもち、原告是村は、被告に対し、原告らの未払割増賃金の支払いを求めたが、被告側の回答は前同様であったこと、同月一八日は、原告堀田も加わり、交渉がもたれたが、被告は法的に認められるものについては支払う意思がある旨及び法的に訴えるということはしないで話し合いで解決したい旨述べたこと、同月一九日は、原告是村と土方本部長との間で電話で交渉がなされたが、前日同様の内容であったこと、その翌週にも交渉をもったが、その際、被告は、前記の同月二三日付けの通知内容とは異なり、同月一八日の交渉内容と同様のことを述べたこと、同年五月三〇日、都労委における第一回斡旋期日において、被告から、都労委による斡旋に原告らの過去の未払割増賃金問題も含むよう申入れがあったが、訴外組合はこれを拒否したこと、同年六月以降、原告是村は、被告との間で交渉をもったが、被告は、依然、検討中だからもう少し待って欲しいとの回答であったこと、同年七月四日、原告是村及び同堀田と土方本部長及び星野常務との間で交渉をもったが、被告は、検討中だからもう少し待って欲しい旨及びなんとか穏便に労使交渉で解決したい旨述べたこと、同月五日、被告は、原告らの請求について、現時点においては、支払うつもりがないとの回答をしたこと等を述べる。

他方、土方証人は、原告らのうち原告内田を除く一八名の平成二年七月一九日付けの通知書を検討したが、その結果は、原告らの主張とは異なり、営業部及び第四作業部に所属する従業員については時間管理が不可能かつ困難なので時間外労働等の概念が成立しえず、したがって、割増賃金の不支給ということはないので労基法違反が成立することもないと判断したこと、これについて、同年七月ないし八月の役員会で検討したところ、出席者の意見はこの問題については影響が大きいだろうということであったこと、原告らの被告に対する同年八月三一日付け通知書についても同年七月一九日付け通知書と同様の判断をしたこと、被告の原告らに対する同年一二月二七日付け通知書は、原告らに時間外割増賃金等が存在しないので、その根拠ないし金額について原告らに問い合わせたものであること、平成三年一月一八日に四名で交渉をもったことはあり、その冒頭に原告らの未払割増賃金問題の話が出、土方本部長は、これについては弁護士を通じて可及的速やかに交渉したいと述べたこと及びこの日の交渉の中心は輪転機の撤去問題であり、これについては訴外組合の理解を得て合意したこと、同月一九日、原告是村は土方本部長宅に電話をかけて未払割増賃金の話をし、払わないと訴訟を提起する旨述べたこと等を証言する。

右の土方証言によれば、被告は、平成二年七月一九日付け通知書により原告ら(原告内田を除く)が請求した未払割増賃金問題につき、当初からその請求権の存在を明確に否定しており、その後の原告ら等との交渉においても右の態度を明確にしていたという趣旨ととれなくもなく、仮にそうだとすると、原告らの本件請求債権に関し、消滅時効が成立している可能性がある。

しかしながら、土方証言中の右通知書の検討に関する部分は、その時期が明らかでないところ、前記役員会における出席者の意見、同年一二月二七日付け通知書中の「鋭意検討中です」という文言、平成三年一月一八日の土方本部長の発言内容、同月一九日の原告是村の発言内容、前記(一二)、(一三)の都労委における被告の態度等に照らすと、右検討・判断は相当後の時期になされたものか、あるいは、一応の判断はしたものの、最終的な対応を決するまでには至っていなかったのではないかと考えられ、したがって、被告が、平成二年七月二五日に、原告らの請求に対し、検討のためのしばらくの猶予を求めた後も、法的に認められるものは支払う、交渉により解決したい等と述べ、原告らの本件請求権の存否についてあいまいな態度を継続していたという原告是村の供述は概略において信用することができる。土方証言中のこの部分に関する証言で原告是村の供述に反する部分は信用し難い。

4  ところで、債務者が債権者の請求に対し、検討のための時間的猶予を求め、債権者がこれに応じてその回答を待つことが権利行使の懈怠とは評価できないような場合においては、債権者の催告の効力はこれにつき債務者より何らかの回答があるまで存続する、すなわち、民法一五三条所定の六か月の期間は、債務者から何らかの回答があるまで進行しないと解すべきである(最判昭和四三年二月九日民集二二巻二号一二二頁)。

これを本件についてみるに、被告は、原告らの催告に対して、検討のための時間的猶予を求め、その後の原告らの請求に対しても基本的に同様の態度をとり続け、結局、平成三年七月五日に至って支払拒絶の意思を明確にしたので、原告らは同年一二月二〇日に本件提訴に至ったという事実経過や原告らの多くは当時被告の従業員であり、原告らの中心的立場にある原告是村は現在においても被告の従業員であること、原告らの、訴訟により解決する旨の申入れに対し、被告は交渉による解決を強く望んだので、原告らもこれを受け入れたこと(原告是村尋問)、本件は、時効制度の趣旨の中でも債権者の権利行使懈怠という趣旨がより重視される二年間の短期消滅時効(労働基準法一一五条)が問題となっていること等に鑑みれば、原告らの本件請求債権については、前記六か月の期間は、信義則上、平成二年七月一九日(原告内田を除く。)ないし同年八月三一日(原告内田)から進行すると解すべきではなく、被告からの回答があった平成三年七月五日から進行すると解すべきである。

そして、本件において、原告らは、被告の回答があった平成三年七月五日から六か月以内である同年一二月二〇日に本訴を提起したのであるから、本件割増賃金請求権の消滅時効は本件催告によって中断されたものと解するのが相当である(なお、原告内田が被告に催告をしたのは、他の原告とは異なり、平成二年八月三一日であるが、本件における原告内田の請求債権の弁済期は、いずれも同日の二年前である昭和六三年八月三一日より後である同年九月二四日以降に到来しているから、原告内田の本件各請求債権も時効消滅していないという点で他の原告と同様である。)。

五  遅延損害金請求権の有無について

前記第三、二で述べたとおり、原告らは本件未払割増賃金請求権を有しており、前記第三、三及び四で述べたとおり、右請求権につき、原・被告間で争わない旨の合意がなされたとは認められず、かつ、右請求権について消滅時効が成立したことも認められないから、原告らは被告に対し、それぞれ本件各未払割増賃金請求権の合計額に対する弁済期の後である平成二年六月二六日以降支払済みに至るまで年六分の割合による遅延損害金請求権を有する。

六  被告の付加金支払義務の有無について

前記第三、二で述べたとおり、原告らは、本件未払割増賃金請求権を有しているところ、原告内田、同川田、同小高、同小林、同小森、同斉藤、同白井、同西村、同野田、同堀田、同茂木、同榎本、同金子、同庄司、同田邊、同豊島及び同西脇は、支払日が平成元年一二月二五日以降の賃金と同額の付加金を請求し、右請求は相当と認められるので、裁判所は、被告に対し、別表1未払賃金等計算表の「付加金の請求」欄の合計欄に記載の各金額の支払いを命じることとする。

なお、付加金の性質に鑑み、仮執行宣言は付さないのが相当であると解され、認容金額中の賃金部分についてのみ仮執行宣言を付することとする。

第四結論

以上のとおりであるから、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 林豊 裁判官 合田智子 裁判官 中園浩一郎)

別紙 当事者目録

原告 是村高市

(ほか一八名)

右一九名訴訟代理人弁護士 柳沢尚武

同 滝沢香

被告 三晃印刷株式会社

右代表者代表取締役 山元悟

右訴訟代理人弁護士 宇田川昌敏

同 河本毅

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