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東京地方裁判所 平成3年(ワ)2330号 判決 1991年9月26日

主文

一  被告は原告に対し、七八三万三〇三〇円及びこれに対する昭和六〇年二月一九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は三分し、その一を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。

四  この判決は、原告勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は原告に対し、二八五三万九六六八円及びこれに対する昭和六〇年二月一九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、被告の代務運転者である矢部雅彦の運転する普通乗用車(以下、「加害車」という。)が、道路を横断中の原告に衝突し、原告が負傷したことから、被告に対し自賠法三条に基づいて、原告に生じた損害の賠償を請求した事案である。

一  当事者間に争いのない事実

1  事故の発生(以下、「本件事故」という。)

(1) 日時 昭和六〇年二月一八日午後三時二〇分頃

(2) 場所 東京都世田谷区世田谷二丁目一三番一号先路上(以下、「本件路上」という。)

(3) 加害車 普通乗用車(品川五五う五九六二)

右運転者 矢部

(4) 被害者 原告

2  責任原因

被告は、加害車を所有し、同車を矢部に運転させることにより自己のため運行の用に供していた。

3  既払い額

原告は自賠責保険から七五万円の支払いを受けている。

二  争点

争点は、原告の損害及び過失相殺である。

第三争点に対する判断

一  原告の損害

1  原告の受傷、入通院経過、後遺症など

証拠(甲二の一ないし四、六の一ないし一二、八、九の一ないし一七、一二の一ないし四)によると、以下の事実を認めることができる。

(1) 受傷

鼻出血、顔面口唇・両膝打撲、右膝挫創、右足関節部・右足部広範剥皮欠損創、右拇指伸筋腱部分断裂、右拇趾MP関節包断裂

(2) 入通院期間

昭和六〇年二月一八日から同月二六日まで世田谷中央病院入院

昭和六〇年二月二七日から同六一年四月一日まで同病院通院(実日数二九日)

昭和六〇年四月一日から同六一年四月一八日まで国立東京第二病院通院(実日数一五日)

昭和六〇年八月一四日から同月一五日まで同病院入院

昭和六〇年一〇月一六日から同年一一月六日まで同病院入院

昭和六一年六月一六日から同六二年九月八日まで順天堂大学医学部付属順天堂医院通院(実日数一一日)

昭和六一年九月二七日から同年一〇月一七日まで同医院入院

(3) 後遺障害

症状固定日 昭和六二年九月八日

後遺障害の内容 右足関節を中心とした瘢痕部のつつぱり感・掻痒感・外貌(一五センチメートル×五センチメートル)、右臀部採皮部の肥厚性瘢痕による醜状(五センチメートル×一五センチメートル)及び同部の掻痒

自動車保険料率算定会調査事務所は、原告の右後遺障害のうち、下肢の後遺障害については自賠法施行令二条別表後遺障害別等級表(以下、「等級表」という。)一四級五号に該当するが、右臀部採皮部の瘢痕については同表の後遺障害に当たらないと判断した。

2  原告の具体的損害

(1) 積極損害 一六万三〇三〇円

証拠(甲九の一ないし一七、一〇の一ないし一九、一一の一ないし五)によると、原告は入通院費のほかに本件事故と相当因果関係のある次の支出をなしたことを認めることができる。

<1> 国立第二病院の治療費 一二万八一一〇円

<2> 薬代 一万六六三〇円

<3> 通院交通費 一万八二九〇円

(2) 逸失利益 〇円

原告は、前記後遺障害は等級表の七級一二号に該当し、その労働能力の五六パーセントを喪失したとして、一五〇五万円余りの逸失利益を請求する。

しかし、前記認定のとおり、後遺障害は右足関節を中心とした部分と右臀部との瘢痕が主なものであつて、何れも機能障害ではないうえ、顔面などと異なり人目につきにくい部分であること、その大きさも何れも一五センチメートル×五センチメートル程度であること、その他の後遺障害の内容も右各部のつっぱり感・掻痒感というものであることからすると、前記内容の後遺障害では未だ原告の将来の労働能力に影響を及ぼす程度には至つていないと認めることが相当である。従つて、この点を慰謝料中で斟酌することとし、原告の逸失利益の請求は理由がない。

(3) 慰謝料 七七二万〇〇〇〇円

原告の傷害の部位・程度、入通院の期間・経過、後遺障害の部位・内容・程度、前記の通り原告に逸失利益の発生の認められないこと、後記の通り過失相殺はしないこと、その他本件審理に現れた一切の事情を総合して考慮すると、本件事故により原告の受けた苦痛を慰謝するには七七二万円をもつてすることが相当である。

(4) 合計

以上を合計すると、七八八万三〇三〇円となる。

二  過失相殺

1  証拠(乙三、四)によると、以下の事実を認めることができる。

(1) 本件事故の発生した本件路上は、渋谷方面と砧方面とを結ぶ世田谷通りと、通称ボロ市通り方面から上町駅方向に向けた道路の世田谷通りとの交差した上町駅方向寄りであつて、舗装され、歩車道の区別はなく、付近には商店もあり、路上駐車車両のある制限速度時速三〇キロメートルの指定のあるところである。右交差点には、信号機が設置され、横断歩道も設けられている。また、本件路上の上町駅寄りには、信号機の設置されていない交差点があり、横断歩道が設けられている。

(2) 矢部は加害車を運転してボロ市通り方面から上町駅方向に向けて直進進行し、世田谷通りを横断した付近で、前方の信号機の設置されていない交差点の横断歩道上の歩行者等の有無に気を取られ、左方路側帯を通行中の歩行者に対する注視不十分のまま時速約二五キロメートルの速度で進行した過失により、約七・四メートル先を左から右に駆け足で横断している原告を発見し、急ブレーキを掛けたが間に合わず、原告右足に自車のタイヤを乗せる事故を発生させた。

なお、矢部は、本件事故の二箇月位前にも事故を発生させていた。

(3) 原告は、本件事故当時満五歳の女児であつた。

2  以上の事実によると、本件事故の発生に当たつては、矢部の過失は極めて大きいが、原告にも過失の存在を認めることができる。しかしながら、原告の過失の程度は然程大きくないので、この点は慰謝料中で考慮することとし、過失相殺はしないこととする。

そして、既払い額七五万円を控除すると、残存する損害額は七一三万三〇三〇円となる。

三  弁護士費用 七〇万〇〇〇〇円

原告法定代理人らは、本件訴訟の提起及び追行を原告訴訟代理人らに委任し相当額の報酬を支払うことを約したことを認めることができるところ、請求額、認容額、審理の経過などに照らし、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用は七〇万円とすることが相当である。

四  結論

以上により、被告は原告に対し、七八三万三〇三〇円及びこれに対する本件事故の翌日である昭和六〇年二月一九日から完済まで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。

(裁判官 長久保守夫)

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