大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成3年(ワ)3470号 判決 1991年12月24日

主文

一  被告会社の昭和六三年六月六日開催の株主総会における筥崎良允及び福田稔をそれぞれ取締役に選任する旨の決議が存在しないことを確認する。

二  被告会社の昭和六三年六月六日開催の取締役会における代表取締役吉田邦弘(原告)を解任し取締役筥崎良允を代表取締役に選任する旨の決議が無効であることを確認する。

三  被告会社の昭和六三年八月二日開催の株主総会における五十嵐昭を監査役に選任する旨の決議が存在しないことを確認する。

四  被告会社の昭和六三年一二月二六日開催の株主総会における筥崎良允、飯塚久子、福田稔、中村孝子及び福田弓上をそれぞれ取締役に選任し五十嵐昭を監査役に選任する旨の決議が存在しないことを確認する。

五  被告会社の昭和六三年一二月二六日開催の取締役会における取締役筥崎良允を代表取締役に選任する旨の決議が無効であることを確認する。

六  被告会社の平成二年八月一〇日開催の株主総会における筥崎良允、奈良篤子及び福田和子をそれぞれ取締役に選任する旨の決議が存在しないことを確認する。

七  被告会社の平成二年八月一〇日開催の取締役会における取締役筥崎良允及び取締役福田和子をそれぞれ代表取締役に選任する旨の決議が無効であることを確認する。

八  被告会社の平成二年八月二二日開催の株主総会における田山善一郎を監査役に選任する旨の決議が存在しないことを確認する。

九  被告筥崎良允が被告会社の取締役兼代表取締役でないことを確認する。

一〇  訴訟費用は被告らの負担とする。

事実及び理由

第一  請求

主文と同旨

第二  事案の概要

一  争いのない事実

1  原告は、被告会社(昭和五六年一〇月一日設立)の発行済株式総数五〇〇〇株のうち一〇〇〇株を有する株主である。

2  被告会社の昭和六一年一二月二六日開催の株主総会において、原告及び吉田洋子がそれぞれ取締役に選任され、同日開催の取締役会において取締役原告が代表取締役に選任され、いずれもその旨の登記がされた。

3  被告会社の登記簿には、主文一項ないし八項の株主総会決議又は取締役会決議がなされたとして、いずれもその旨の登記がされた。

4  主文一項の昭和六三年六月六日開催の株主総会は、福田稔が、同年五月二〇日、東京地方裁判所(民事第八部)において、同人を申請人とし被告会社を被申請人とする株主総会招集許可申請事件につき「申請人に対し、昭和六三年六月二〇日までに取締役二名選任の件を会議の目的とする被申請人の株主総会を招集することを許可する」旨の決定を得たうえ、同人が招集して開催されたものである。

5  その他の株主総会は、いずれも筥崎良允が招集したものである。

二  争点

主文一項ないし八項の株主総会決議の存否及び取締役会決議の有効性が争点であるところ、被告らは、本件株主総会決議及び取締役会決議の状況につき次のとおり主張する。

1  主文一項の昭和六三年六月六日開催の株主総会においては株主総数八名(株式総数五〇〇〇株)中、辻田昌徳、辻田昭徳、渋谷俊夫、渋谷千枝子、福田稔及び下田宏幸の六名(この持株数合計三五〇〇株)が出席し満場一致で議決された。

2  主文二項の昭和六三年六月六日開催の取締役会においては取締役五名中、筥崎良允、飯塚久子及び福田稔の三名が出席し全員一致で議決された。

3  主文三項の昭和六三年八月二日開催の株主総会においては株主総数八名(株式総数五〇〇〇株)中六名(この持株数合計三五〇〇株)が出席し満場一致で議決された。

4  主文四項の昭和六三年一二月二六日開催の株主総会においては株主総数八名(株式総数五〇〇〇株)中五名(この持株数合計三〇〇〇株)が出席し満場一致で議決された。

5  主文五項の昭和六三年一二月二六日開催の取締役会においては筥崎良允、飯塚久子、福田稔、中村孝子及び福田弓上の五名全員が出席し全員一致で議決された。

6  主文六項の平成二年八月一〇日開催の株主総会においては株主総数八名(株式総数五〇〇〇株)中七名(この持株数合計四〇〇〇株)が出席し満場一致で議決された。

7  主文七項の平成二年八月一〇日開催の取締役会においては筥崎良允、奈良篤子及び福田和子の三名全員が出席し全員一致で議決された。

8  主文八項の株主総会は真実は6と同日の平成二年八月一〇日に開催されたものであるが、過誤により平成二年八月二二日開催である旨登記されたものである。

第三  争点に対する判断

一  主文一項の昭和六三年六月六日開催の株主総会について

証拠(<書証番号略>)及び弁論の全趣旨によれば、被告会社設立以後右株主総会開催時までの被告会社の株主構成は、原告(一〇〇〇株)、下田宏幸(五〇〇株)、辻田昌徳(一〇〇〇株)及び福田博司(二五〇〇株)であり(下田宏幸と辻田昌徳が全株式を福田博司に対して譲渡済であったか否かは明らかでない)、株主総会招集許可決定を得て右株主総会を招集した福田稔を含むその余の者はいずれも名義上の株主にすぎなかったことが認められる。なお、株主総会招集許可申請者は六か月前から引き続き発行済株式総数の一〇〇分の三以上の株式を有する株主であることを要するが、株主総会招集許可決定の存在により申請者たる福田稔が右にいう株主であることにつき既判力を有するものでないことはいうまでもない。

ところで、株主総会招集許可申請事件において、申請者が招集請求の時点から当該株主総会終了までの間、一貫して株主でなかった本件においては、同事件が非訟事件手続法により決定手続でなされるものであることに照らしても、本来招集権の行使が許されなかったものであったと解すべく、またそれにもかかわらず招集された右株主総会でなされた決議は、単に取消しの対象になるに止まらず、招集権のない者による招集として決議が不存在になるものと解すべきである。

また、被告らは、右株主総会における出席者につき争点1のとおりであった旨主張するが、これが事実であることを前提としても、株主である原告及び福田博司はいずれも出席しておらず、すべて株主でない者により開催されたものであることになるから、この見地からも決議は不存在である。なお、仮に、辻田昌徳及び下田宏幸が当時いまだ株主であったとしても、出席者は株主総数の半分でありその持株数は五〇〇〇株中一五〇〇株にすぎないから、このような株主総会による決議は存在したと評価することはできない。

二  主文二項の昭和六三年六月六日開催の取締役会について

被告会社の昭和六一年一二月二六日開催の株主総会において飯塚久子(<書証番号略>)のほか原告及び吉田洋子がそれぞれ取締役に選任され、同日開催の取締役会において取締役原告が代表取締役に選任された(争いのない事実)ものであり、前記認定のとおり昭和六三年六月六日開催の株主総会は存在しないのであるから、同日開催の取締役会においては取締役三名中飯塚久子のみで議決されたこととなり、このような決議は無効である。

三  その後の株主総会及び取締役会について

右のとおり、被告会社の役員構成は、飯塚久子及び吉田洋子が取締役であり、原告が取締役兼代表取締役であったのであるから、その後の株主総会はいずれも招集権のない者による招集によって開催されたことになり、このような株主総会による決議はいずれも存在したと評価することはできない。なお、右三名の役員は昭和六三年一二月二六日の経過をもって任期満了となるが、その後適法な役員選任決議が存在しない本件では、右三名が現在まで依然権利義務行使者である。

また、その後の取締役会は、真実の取締役による多数決ではないことになるから、いずれも無効といわざるを得ない。

四  以上のとおりであるから、原告の請求はすべて理由がある。

(裁判官 佐藤公美)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例