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東京地方裁判所 平成3年(ワ)4755号 判決 1991年8月27日

原告

小泉茂

右訴訟代理人弁護士

高橋正八

米林和吉

被告

有限会社泉不動産

右代表者代表取締役

小泉哲雄

右訴訟代理人弁護士

井上壽男

野田房嗣

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

三  本件につき当裁判所が平成三年四月二二日になした強制執行停止決定はこれを取り消す。

四  この判決は、前項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告より原告に対する東京地方裁判所昭和六〇年(ヨ)第五二六四号不動産仮処分申請事件(以下「本件仮処分事件」という。)の和解調書(以下「本件和解調書」という。)及びこれについてなされた同裁判所昭和六一年(モ)第一一九九六号の更正決定(以下「本件更正決定」という。)に基づく強制執行はこれを許さない。

第二事案の概要

(争いのない事実)

原告と被告との間には、被告を利害関係人、原告を債務者とする本件和解調書及びこれについて昭和六一年三月三一日になされた本件更正決定が存在する。

本件和解調書の和解条項第一項には、左記の記載がある。

一  賃貸借契約の成立

1 利害関係人(被告)有限会社泉不動産(以下「泉不動産」という。)は、債務者(原告)に対し、別紙第一物件目録記載のゴルフ練習場施設一切(以下「本件施設」という。)を次のとおり、賃貸する(以下「本件賃貸借」という。)。

(一) 賃貸借の目的 ゴルフ練習場の経営

(二) 賃貸借期間 昭和六一年四月一日から昭和六六年三月三一日まで

(三) 賃料 一箇月三〇〇万円

(四) 賃料の変更 本日現在債権者(訴外小泉善太郎)の所有する全不動産に対する固定資産税(都市計画税を含む。)が(二)の期間中に増額された場合には、その増額された金額の一年分の一二分の一を、増額された年の四月から、従前の毎月の賃料に付加して支払う。

(五) 賃料の支払方法 毎月一五日限り当月分を泉不動産方に持参又は送金して支払う。

2 泉不動産は、債務者(原告)が賃料の支払を三箇月以上怠ったとき、又は泉不動産の書面による事前の承諾なくして賃借権の譲渡又は転貸をしたときは、何らの催告を要せず、本件賃貸借契約を解除することができる。この場合債務者(原告)は、泉不動産に対し、直ちに本件施設を明け渡す。

3 当事者双方(原告及び訴外小泉善太郎)は、株式会社早宮ゴルフセンターと債権者との間の本件施設についての賃貸借契約が既に合意解約により終了していることを相互に確認する。

そして、本件更正決定の主文には、左記の記載がある。

右当事者間の昭和六〇年(ヨ)第五二六四号不動産仮処分申請事件につき作成された和解調書中、和解条項一の1の(二)に「賃貸借期間 昭和六一年四月一日から昭和六六年三月三一日まで」とあるを、「賃貸借期間 昭和六一年四月一日から昭和六六年三月三一日までとし、債務者(原告)は泉不動産(被告)に対し、同日限り本件施設を明け渡す。」と更正する。

なお、原告は、本件更正決定に対し、即時抗告をしなかった。

(争点)

本件の争点は次のとおりである。

一本件更正決定の無効

(原告の主張)

原告は、本件和解調書が作成された期日において、昭和六六年三月三一日限り本件施設を被告に明け渡すことを合意したことはない。

本件更正決定は、民訴法一九四条にいう「明白性」の要件を満たしていないから、無効である。

二賃貸借の法定更新による明渡請求権の消滅

(原告の主張)

仮に、本件更正決定が有効であったとしても、本件賃貸借契約は、借家法の適用を受けるものであるから、法定更新されたことにより、被告の明渡請求権は消滅した。

(被告の主張)

本件和解においては、法定更新をしないことの合意が当然に含まれている。また、本件和解における賃貸借は、建物を対象としない一時賃貸借であるから、借家法の適用は受けない。

三権利濫用等

(原告の主張)

仮に、右一、二記載の主張が認められないとしても、別紙記載の事情により、原告の明渡請求権の行使は、信義誠実の原則及び公序良俗に反し、権利の濫用に当たるものであり、許されない。

第三争点に対する判断

一本件更正決定の効力について

一般に、和解調書に明白な誤謬がある場合には、民訴法一九四条の準用により更正決定をすることができると解すべきところ、明白な誤謬であるか否かは、当該和解調書及び当該訴訟手続の全趣旨から判断すべきである。

これを本件についてみるに、<書証番号略>、弁論の全趣旨を総合すれば、本件和解を成立させるに際し、本件仮処分事件における当事者(訴外小泉善太郎、原告)及び利害関係人(被告)の全員は、債務者たる原告が本件賃貸借期間の満了する昭和六六年三月三一日限り本件施設を明け渡すことを当然の前提として、前記のような和解条項を作成したにもかかわらず、債務者(原告)が利害関係人(被告)に対し右同日限り本件施設を明け渡す旨の記載が、本件和解の調書上脱落していたことが認められる。

そうすると、本件更正決定は、民訴法一九四条の明白性の要件を満たしているものというべきであるから、本件更正決定を無効とする余地はない。

二法定更新について

本件施設は、別紙第一物件目録1、2記載の構築物、同目録3記載の建物(クラブハウス)を含むものではあるが、本件和解は、本件賃貸借期間満了と同時に原告が被告に対し本件施設を明け渡すことを前提とする内容であったことを考慮すれば、仮に本件施設が借家法一条にいう建物に該当したとしても、本件賃貸借が本件施設の一時使用を目的としたものであることは明らかであるから、法定更新を考える余地はないというべきである。

三権利濫用等について

原告は、別紙記載のような事情を主張し、被告の原告に対する明渡請求権の行使は、信義誠実の原則及び公序良俗に反し、権利の濫用に当たるものであり、許されないと主張する。

しかしながら、<書証番号略>によれば、原告は、本件仮処分事件の手続の中で、弁護士たる原告代理人二名の同席の上で、本件和解を成立させたものであることが認められるところであり、仮に原告の主張するような事情があったとしても、被告の明渡請求権の行使が信義誠実の原則又は公序良俗に反し、権利の濫用に当たると認めるべき余地はない。

四よって、本訴請求は理由がないから、これを棄却し、主文のとおり判決する。

(裁判官井上哲男)

別紙<省略>

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