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東京地方裁判所 平成3年(ワ)7534号 判決 1993年3月24日

原告

シャネル エスアー

右代表者

フルフレッドへール

右訴訟代理人弁護士

田中克郎

松尾栄蔵

宮川美津子

水戸重之

高市成公

千葉尚路

被告

株式会社伍幸

右代表者代表取締役

堀越實

右訴訟代理人弁護士

石川幸吉

成瀬眞康

主文

一  被告は、別紙標章目録(一)ないし(四)記載の各標章を包装用パッケージに付した香水を販売してはならない。

二  被告は、原告に対し、金五六万円及びこれに対する平成三年六月一八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告のその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用は、これを二分し、その一を原告の、その余を被告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、別紙標章目録(一)ないし(四)記載の各標章を包装用パッケージに付した香水を販売してはならない。

2  被告は、原告に対し、金三五八万円及びこれに対する訴状送達の日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は、被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は、原告の負担とする。

第二  請求原因

一  当事者

1  原告は、シャネル・グループに属し、商標その他無体財産権の管理等の法的事項に関する業務を営むスイス法人である。

シャネル・グループの起源は、ガブリエル・シャネルが、一九一〇年代にパリでオートクチュール(高級婦人服装店)を開店したことに始まるが、シャネル・グループに属する企業が製造販売する婦人服は高い評価を獲得しており、シャネル・グループは、オートクチュールの老舗として世界的に知られている。また、同女が販売を開始した香水「シャネル五番」、「シャネル一九番」は、日本を含む全世界において有名である。

シャネル・グループは、日本においては、昭和八年の香水の輸入を皮切りに営業活動を開始し、昭和五五年一〇月にシャネル株式会社が設立され、同社がシャネル・グループの一員として、日本におけるシャネル製品の輸入、販売を行っている。

2  被告は、衣料品、化粧品、貴金属及び日用品雑貨の販売等を目的とする株式会社である。

二  原告の商標

1  原告は、左記(一)、(二)の商標権を有している(以下、右各権利をそれぞれ「原告商標権(一)」、「原告商標権(二)」といい、その商標をそれぞれ「原告商標(一)」、「原告商標(二)」という)。

(一) 登録番号 第三二三六六九号

登録商標 別紙商標目録(一)記載のとおり

指定商品 第三類 香料及他類に属せざる化粧品

出願日  昭和一四年六月三日

登録日  昭和一四年一一月六日

存続期間の更新登録日

昭和三四年一二月二二日

昭和五五年一月三一日

平成二年二月一九日

(二) 登録番号 第九八五二九七号

登録商標 別紙商標目録(二)記載のとおり

指定商品 第四類 せっけん類(薬剤に属するものを除く)、歯みがき、化粧品(薬剤に属するものを除く)香料類

出願日  昭和四五年六月二二日

登録日  昭和四七年一〇月一八日

存続期間の更新登録日

昭和五八年一月二七日

平成四年九月二八日

2  原告の属するシャネル・グループは、原告商標(一)、(二)を香水、化粧品等の商品に使用しており、原告商標(一)、(二)は、原告の属するシャネル・グループの営業及び商品を表示するものとして、わが国においても広く知られている。

三  被告の標章使用

被告は、別紙標章目録(一)、(二)記載の標章(以下、それぞれ「被告標章(一)」、「被告標章(二)」という)を包装用パッケージに付した香水(以下、「被告商品(一)」という)及び別紙標章目録(三)、(四)記載の標章(以下、それぞれ「被告標章(三)」、「被告標章(四)」という)を包装用パッケージに付した香水(以下、「被告商品(二)」という)を販売しており、その表示態様は、被告商品(一)については別紙写真(一)ないし(三)に、被告商品(二)については別紙写真(四)ないし(六)に、各示したとおりである。

四  原告商標(一)、(二)と被告標章(一)ないし(四)の類似性

1  原告商標(一)、(二)の構成

原告商標(一)は、別紙商標目録(一)記載のとおり、「No 5」の下に、「CHANEL」の欧文字を横書きし、また、その下に「PARIS」の欧文字を横書きしてなるものであり、原告商標(二)は、別紙商標目録(二)記載のとおり、「CHANEL」の欧文字を横書きし、その上に「No 19」を、また、その下に「PARIS」の欧文字を横書きしてなるものである。

2  被告標章(一)ないし(四)の構成

(一) 被告標章(一)は、別紙標章目録(一)記載のとおり、「CHANEL NO.5」の欧文字を横書きしてなるものである。

(二) 被告標章(二)は、別紙標章目録(二)記載のとおり、「シャネルNO.5」の文字を横書きしてなるものである。

(三) 被告標章(三)は、別紙標章目録(三)記載のとおり、「CHANEL NO.19」の欧文字を横書きしてなるものである。

(四) 被告標章(四)は、別紙標章目録(四)記載のとおり、「シャネルNO.19」の文字を横書きしてなるものである。

3  原告商標(一)、(二)と被告標章(一)ないし(四)の対比

(一) 被告標章(一)は、原告商標(一)の主要部である「CHANEL」、「No 5」と称呼、外観、観念において類似する。

(二) 被告標章(二)は、原告商標(一)の主要部である「CHANEL」、「No 5」と称呼、観念において類似する。

(三) 被告標章(三)は、原告商標(二)の主要部である「CHANEL」、「No 19」と称呼、外観、観念において類似する。

(四) 被告標章(四)は、原告商標(二)の主要部である「CHANEL」、「No 19」と称呼、観念において類似する。

五  被告商品と原告商標権の指定商品

被告標章(一)ないし(四)が使用されている被告商品(一)、(二)は、香水であり、原告商標権(一)、(二)の指定商品に含まれる。

六  以上のとおり、被告の被告標章(一)ないし(四)の使用は、原告の原告商標権(一)、(二)を侵害するものである。

七  原告の損害

被告の原告商標権(一)、(二)の侵害により原告の被った損害の額は、以下の1ないし3のとおり合計三五八万円である。

1(一)  侵害により被告の受けた利益

被告は、被告商品(一)及び(二)を、一本あたり通常二〇〇〇円で販売している。

そして、通常の取引上、香水等の販売業者が取得する利益率は、販売額の少なくとも三〇パーセントが相当であるから、被告が被告商品(一)、(二)を販売した際の一本あたりの販売利益率も三〇パーセントを下回らないところ、被告は、被告商品(一)、(二)を、昭和六三年二月頃から本訴提起時までの間に、二種合計で少なくとも一三〇〇本は販売した。

したがって、被告が被告商品(一)、(二)の販売により得た利益は、一本あたりの利益六〇〇円に、最低販売本数一三〇〇本を乗じた七八万円を下回らず、右金額が原告の損害と推定される。

なお原告自身は、本件商標を使用した製品の製造販売を行っていない。しかしながら、原告はシャネル・グループに属する企業であるが、法律的には持株会社であるシャネル インターナショナル ビーヴィの子会社である。日本においてシャネル製品の輸入・販売を行っているのはシャネル株式会社であるが、同社も同じくシャネル インターナショナル ビーヴィの子会社であるから、両社は兄弟関係にあり、形式的には別法人ではあるが、実質上は同一企業である。このように、商標権者である外国企業が日本に進出する場合、輸入・販売のための別法人を作ることはしばしば行われていることであるが、実質的には同一企業であって、特に海外進出をしているブランド品のメーカーの場合にはそれが顕著である。したがって、法人格が異なるとしても、輸入・販売のためのグループ内の別法人によって商標が使用されている以上、商標権者による使用であると認めて、商標法三八条一項の適用を認めるべきである。

(二)  右(一)による損害の主張が認められなかった場合は、原告は商標法三八条二項によって、本件登録商標の使用に対し通常受けるべき金銭の額に相当する額の金銭を、自己が受けた損害の額としてその賠償を求める。

そして仮に原告が他社に原告商標(一)、(二)の使用を許諾するとすれば、原告のブランドイメージの高さ及びブランド保護のための多年にわたる努力等から、少なくとも小売販売価格の三〇パーセントは下らない実施料が相当であるから、原告は、右金額をもって損害として請求する。

2  信用毀損

シャネル・グループの製造、販売する香水、化粧品、高級婦人服、ハンドバッグ、靴、アクセサリー等の商品には、いずれも原告商標(一)、(二)が付され、これらの商品は、一九一六年以来長い期間にわたって独創的なデザイン、高い品質によって世界中で信頼を得ており、日本でも、一九三三年に商品の輸入を開始して以来、独自のマーケッティング戦略と厳格な品質管理により高いプレステージが形成され、海外有名ブランドの中でも格別の人気を誇っている。そのため、原告商標(一)、(二)は、シャネル・グループが製造、販売する香水のブランドとして極めて大きな顧客誘引力を有し、その出所表示機能のほか、品質保証機能及び宣伝広告機能が極めて強いものとなっている。

また原告を含むシャネル・グループは、右のような原告商標(一)、(二)の各機能を保持するために莫大な広告宣伝費用を費やしているほか、原告商標(一)、(二)の不正使用を防止するためにも莫大な費用を費やしている。

原告商標権(一)、(二)を侵害する被告標章(一)ないし(四)が付された被告商品(一)、(二)を販売する被告の行為は、原告商標(一)、(二)が一般消費者にシャネル・グループの商品及び営業を喚起させる働きを侵害するものであり、その結果、原告商標の持つ広告宣伝機能を稀薄にすると同時に、その商標の無体財産権としての価値を減少させるものである。

また被告商品は、原告の商品に比して品質が劣りかつ安価であり、被告の右商品の販売行為により、原告の長年にわたる努力の結果築き上げた原告商標の信用や評価が著しく傷付けられた。

このように原告は、被告の原告商標権侵害行為により、その信用を著しく傷つけられたものであり、これによる損害は、少なくとも金二〇〇万円を下回らない。

3  弁護士費用

スイス法人である原告は、被告の原告商標権侵害行為により、やむなく日本人弁護士を訴訟代理人として依頼せざるをえなかったものであり、その弁護士費用中の少なくとも金八〇万円は、被告の右商標権侵害行為により原告の被った損害である。

八  結論

よって、被告標章(一)ないし(四)を包装用パッケージに付した被告商品(一)、(二)の販売の差止めと、損害賠償金三五八万円及びこれに対する商標権侵害の不法行為の後の日である訴状送達の日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

第三  請求原因に対する認否及び被告の主張

一  請求原因一の1のうち、原告が商標その他無体財産権の管理等の法的事項に関する業務を営むことは知らない、その余は認める。同2は認める。

二  請求原因二は、認める。

三  請求原因三は、被告商品の包装用パッケージの表示態様が被告商品(一)については、別紙写真(一)ないし(三)に表示されたとおりであること、被告商品(二)については、別紙写真(四)ないし(六)に表示されたとおりであることは認め、その余は否認する。

被告は、被告商品(一)、(二)であるスティック香水を昭和六三年二月頃から販売したが、同年九月頃には取扱いを中止し、以後全く取り扱っていない。

被告商品(一)、(二)は、訴外ギニーインターナショナル株式会社、訴外日本サムソン株式会社からの売込みにより「世界の有名ブランドの香りを模したスティック香水」の一部として取扱い、通信販売会社に卸売りをしたものである。しかし、昭和六三年九月頃には取扱いを中止し、現在はギニーインターナショナル株式会社も日本サムソン株式会社も事業を閉鎖しているため、被告は、右商品を販売しようとしてもこれを仕入れることができないのが実情である。

なお、<書証番号略>記載の平成元年一〇月二七日時点における送付は、原告の意を受けた調査員が、「アラン商会」と称して、被告を訪ねて来て、被告商品(一)、(二)の購入を強く希望し、倉庫に残ったサンプルでも良いから送ってほしいと依頼したので、担当者が倉庫を探してサンプル二本ずつを送付したもので、右調査員が、更に自分のところで販売したいと要望したので、被告がギニーインターナショナル株式会社と連絡をとり、<書証番号略>の見積書を作成したが、アラン商会からの発注はなかった。

四  請求原因四1は認め、同2、3は否認する。

一般消費者が被告商品を原告の商品と誤認するおそれは全くない。このことは、右三のような被告標章(一)ないし(四)の記載の形態自体からも明らかであるが、更に以下に述べるような原告の商品と被告商品(一)、(二)の販売価格や販売方法、商品形態が著しく異なることからも明らかである。

すなわち、原告の商品は一般に高額で、原告のマークを店舗に付した原告の系列店と判別できる店舗で販売されているのに対し、被告商品(一)、(二)は通信販売であり、値段も安価である。また被告商品(一)、(二)は、原告が現在全く製造販売しておらず、商品形態としても原告商品と著しく異なるスティック型の練り香水である。

このような取引きの実情に鑑みれば、被告標章(一)ないし(四)は、原告商標(一)、(二)の自他商品識別機能を侵害するものではないから、これに類似するものではないというべきである。

五  請求原因五中被告商品(一)、(二)が、原告商標権の指定商品に含まれるものであることは認める。

六  請求原因六は、争う。

被告の販売した被告商品(一)、(二)に付された被告標章(一)ないし(四)は、自他商品の識別標識としての機能を果たす態様で用いられているものではない。すなわち右標章は被告商品(一)、(二)の説明であって、同商品の出所を表示したものではないから、商標の使用にあたらない。

1  商標が保護されるのは、それが事業者の商品に継続的に付されて使用されることにより、その商品に対する需要者の信用を通じ、事業者に対する信用が形成され、更にその事業者に対する信用が商標に対する信用となるから、このような事業者の信用と需要者の利益を保護する必要があるためである。

したがって、商標の本質は、自己の営業にかかる商品を、他人の営業にかかる商品から区別するための標識として機能するところにあると解されるから、商標権者が商標法三六条により差止等を請求するためには、第三者の使用する標章が、単に形式的に商品などに表示されているだけでは足りず、それが自他商品の識別標識としての機能を果たす態様で用いられていることが必要である。そして、自他商品の識別標識としての機能を果たしているかどうかを判断するためには、当該標章の商品全体に占める位置や表示態様を考慮しなければならない。

2  被告商品(一)においての「シャネル」「No 5」及び同(二)においての「シャネル」「No 19」の使用態様は、いずれも包装用パッケージに貼られた着脱可能な円形のシールに、「シャネル」「No 5」「タイプ」又は「シャネル」「No 19」「タイプ」と上から三列に記載されており、同一のシールに並べて記載されている以上、「タイプ」の語も併せて判断しなければならない。そして、「タイプ」の語も併せ考えれば、原告主張の被告標章(二)、(四)は、シャネルNo.5、シャネルNo.19と類似した香りを持つ商品であることを表示説明するため記述的に記載されたものと容易に理解できる。

3  また、被告商品(一)においての「CHANEL NO.5」及び同(二)においての「CHANEL NO.19」の記載は、「If You like The Fragrance Of CHANEL NO.5 You'll Love Cinq」(もし貴方がシャネルNO.5の香水がお好きなら、五番を愛好されるでしょう。)又は「If You like The Fragrance Of CHANEL NO.19 You'll Love Dix-Neuf」(もし貴方がシャネルNO.19の香水がお好きなら、一九番を愛好されるでしょう。)という一連の文章の中で用いられたものに過ぎず、シールに記載された「シャネルNo 5タイプ」、あるいは「シャネルNo 19タイプ」の記載とあいまって、被告商品(一)、(二)が「シャネルNo 5」又は「シャネルNo 19」と類似した香りを持つ商品であることを強調するための、いわばその広告文として記述的に使用されているにすぎない。

したがって被告商品(一)、(二)における被告標章(一)ないし(四)は、自他商品の識別標識としての機能を果たす態様で用いられているものではない。

4  そして自他商品の識別標識としての機能を果たす態様で、被告標章(一)ないし(四)は用いられていないから、例え商標の宣伝広告機能等が侵害されているとしても、商標権侵害を構成するものではない。

七1  請求原因七1(一)のうち被告が被告商品を一三〇〇本販売したこと、被告商品の販売利益率が三〇パーセントであることは認め、その余は否認する。

原告は被告商品(一)、(二)の販売価格が二〇〇〇円であると主張するが、右は小売価格であって、被告は、小売会社に卸売りをしたに過ぎない。そしてその際の卸売価格は、単価七五〇円である。これに原告主張の利益率三〇パーセントを乗じた二二五円が一本当たりの利益であり、その一三〇〇本分の二九万二五〇〇円が被告の得た利益である。

なお、原告は、原告とシャネル株式会社は実質上同一企業であるから商標法三八条一項の適用があると主張しているが、役員も会計も厳密に区別され、財産目録、貸借対照表、損益計算書も別で、個別の会社として厳密な監査を受けている法人である以上、別個の企業であるから、右主張は失当である。

請求原因七1(二)の主張中、原告商標の使用許諾料が三〇パーセントというのは妥当でない。特許権の実施料でさえ高くて五パーセント、低いものは一パーセント以下というのが通常である。

2  請求原因七2は否認する。

原告は信用毀損の理由として、原告商標(一)、(二)の宣伝広告機能、品質保証機能が阻害された旨主張するが、そもそも、原告の商品と被告商品では商品形態が全く異なり、消費者が原告の商品と被告商品を誤認混同することはないから、商標の宣伝広告機能、品質保証機能が侵害されたということはない。

しかも被告商品(一)、(二)を製造し、これに原告主張の被告標章(一)ないし(四)を付したのは、米国のメーカーであり、被告が被告商品(一)、(二)の広告宣伝を行った事実はなく、被告は、ギニーインターナショナル株式会社、日本サムソン株式会社からの売込みによって、小売業者に卸売りをしたに止まるのであって、いわば二次的、間接的に関与したにすぎない。また被告が被告商品(一)、(二)を取り扱った期間は約七か月間にすぎず、小売業者に卸販売した数量も少量に止まる。

したがって、被告がした行為の程度では、原告商標(一)、(二)の信用毀損の効果が生じる余地はない。

3  請求原因七3は知らない。

本件は被告商品の形態からして被告の立場からも十分に争う余地があるものであり、本人訴訟を原則とする我が国の制度において原告の主張は失当である。

弱者救済の交通事故訴訟や不当訴訟などと異なり、本件は巨大企業である原告が原告代理人の高等技術をもって自己の立場を有利に展開するための費用であり、当然原告が負担すべきものである。

4  また仮に原告の商標法三八条一項の損害額推定規定による損害賠償の請求が認められる場合、同規定は商標権侵害の事実があれば、商標権者の全損害を、侵害者が侵害行為によって得た利益額相当と推定するもので、それ以上の損害の請求を認めないものである。

したがって、原告が右規定による損害賠償請求をする以上、右規定による以外の損害の主張はすべて失当である。

八  請求原因八は争う。

九  消滅時効の抗弁

被告が被告商品を扱ったのは昭和六三年九月頃までであり、原告はその頃までに損害の発生を知っているから、原告主張の損害賠償請求権は平成三年九月までに時効により消滅している。

被告は、右時効を援用する。

第四  被告の主張に対する原告の反論

一1  被告の被告標章(一)ないし(四)の使用は、原告商標(一)、(二)の自他商品識別機能を侵害するものとして使用されている。

すなわち、被告商品(一)、(二)のパッケージの右下部には、それぞれ「If You like The Fragrance Of CHANEL NO.5You'll Love Cinq 5」、「If You like The Fragrance Of CHANEL NO.19You'll Love Dix-Neuf 19」と印刷されているが、「CHANEL NO.5」、「CHANEL NO.19」のみが、ボールド体で強調されていること、これらの文字の右肩ないし右下にの表示を施し、あたかもそれが登録商標であるかのようなイメージを与えていること、「Cinq 5」「Dix-Neuf 19」という表示についても、意図的に原告商標(一)、(二)に対応する「5」「19」という数字を使用して、目立たせていることなどからすれば、消費者が被告標章(一)、(二)により本件香水の出所を原告であると誤認するおそれは高いというべきである。

2  被告は、これらの表示は単なる商品の説明にすぎない旨主張するが、「CHANEL NO.5」、「CHANEL NO.19」との表示に比べて細い字体で、しかも英語で記された右文章を見ても、一般消費者は、その文章の内容は十分理解できず、「CHANEL NO.5」、「CHANEL NO.19」との表示に引きつけられ、原告の商品と誤認するおそれが高い。

3  また、被告商品(一)、(二)のそれぞれの左上部に付されている「シャネルNo.5タイプ」、「シャネルNo.19タイプ」と表示されたシールについても、前述した「CHANEL NO.5」、「CHANEL NO.19」との表示と併せて見ると、一般消費者にとっては、本件商品は原告の商品であり、原告がシャネル五番ないしシャネル一九番のスティック型の新商品を出したと誤認するおそれが高い。

4  被告標章の使用は原告商標の品質保証機能及び宣伝広告機能も侵害しているものである。

すなわち、原告の商品に比べて品質が劣り、安価であるのみならず、その外観、形態、包装等も粗末な被告商品に原告商標と類似する被告標章を付することによって、原告商標が有する顧客吸引力が著しく侵害されている。

「シャネルNo.5タイプ」、「シャネルNo.19タイプ」等の表示を被告商品に付することは、原告商標への只乗りであり、原告商標の独占的広告価値を希釈化するものであり、被告標章の品質保証機能及び宣伝広告機能を違法に利用し、これによりこれらの機能に著しい損害を与えているものである。

そしてこのような品質保証機能ないし宣伝広告機能を侵害する態様の商標使用行為も商標権の侵害に該当するというべきである。

二  被告は、昭和六三年九月頃に被告商品(一)、(二)の取扱いを中止した旨主張しているが、平成元年一〇月二七日の時点においても販売を継続しており、被告は今後も被告商品(一)、(二)の販売を継続し、あるいは再開するおそれが高いというべきである。

三  抗弁は、否認する。

原告が、被告の原告商標権侵害行為による損害及び加害者を知ったのは平成元年一〇月頃であるから、原告の損害賠償請求権は時効により消滅していない。

第五  証拠関係<省略>

理由

一弁論の全趣旨によって真正に成立したものと認められる<書証番号略>によれば、原告がシャネル・グループの商標権その他の知的財産権を有し、その管理の事業をする会社であることが認められ、請原因一(当事者)中その余の事実は当事者間に争いがない。

二請求原因二(原告の本件商標権)は当事者間に争いがない。

三1 請求原因三(被告の標章)中被告商品の包装用パッケージの表示態様が、被告商品(一)については別紙写真(一)ないし(三)に、被告商品(二)については別紙写真(四)ないし(六)に表示されたとおりであることは当事者間に争いがない。

2 そこでまず、原告主張の被告標章(一)、(二)を含む被告商品(一)の包装用パッケージの表面全体の表示について検討する。

(一) 右1の事実によれば、被告商品(一)の包装用パッケージの表面全体の地の色は橙黄色で、

(1)  その上部中央には、手書風の書体で大きく「Cinq」の文字が記載され、そのすぐ下には、右文字と同程度の大きさで「5」の数字が記載されていること、

(2)  右「Cinq」の斜め左下で「5」の左横には、全体が灰色の円が描かれ、この円内に、ゴシック体で小さく、上段に「シャネル」の片仮名文字、中段に「No.5」の文字(上段の片仮名文字と下段の文字を合わせたものが被告標章(二)である。)下段に「タイプ」の片仮名文字が表示されていること、

(3)  パッケージの表の中央部左側には、棒状の商品に沿うように下から上へやや斜めに、手書風の書体で大きく「LaParfumerie」の文字、その下に並行して小さく「Designer Fragrance Stick」の文字が記載されていること、

(4)  右パッケージの表の最下部には、やや大きく「Designer Fragrance Stick」の文字が記載されていること、

(5)  パッケージの表の右下方、右(4)の文字の右上にはやや小さい文字で、「If You like The Fragrance Of CHANEL NO.5You'll Love Cinq 5」という文章が七段に区切って記載されており、その内「CHANEL No.5」の文字からなる一段のみが、やや肉太の、他とは異なる書体で表されていること(この「CHANEL No.5」の部分が被告標章(一)である。)

が明らかである。

(二) 右のようなパッケージの表示中、字の大きさ、位置からは、(一)(1)の「Cinq 5」、(3)の「LaParfumerie」、(4)の「Designer Fragrance Stick」が目につくが、数字の「五」を意味するフランス語である「Cinq」や、「香料、香水」を意味するフランス語に定冠詞が付いた「LaParfumerie」は、我が国の一般社会におけるフランス語の普及度から考えれば、一般にはその意味は理解されにくいものと認められ、また、「デザイナーの棒状の香料」というような意味の英語である「Designer Fra-grance Stick」や、「もし貴方がシャネルの五番の香りをお好きならCinq 5を愛用されるでしょう。」との趣旨の英語である前記(一)(5)の文章は、我が国一般社会において英語がかなり理解されていることを考慮しても、なおその意味が理解されないことが少なくないものと認められる。

これに対し、前記(一)(2)の「シャネル」「No 5タイプ」の文字は、唯一の日本語であり、橙黄色の地の中の灰色の円形の中に記載されていることもあって、小さな文字であっても需要者、取引者の注目を引くところ、「シャネルNo 5」がシャネル・グループの製造販売する香水の商品表示として著名であることが当裁判所に顕著であることからすれば、前記(一)(2)の「シャネルNo 5タイプ」の内「シャネルNo 5」の部分(被告標章(二))をもって、被告商品(一)の出所を表示する標章と理解する需要者も決して少なくないものと認められる。

もとより、右「シャネルNo 5タイプ」の表示をもって、「シャネル五番の香水ではないが似た香りのもの」という趣旨の表示として正しく理解する需要者もあることは当然であるが、「シャネルの販売するシャネル五番の香水ではない」ことをわかりやすい表現で明瞭に記載してあればともかく、右のような表示では多数の需要者の中には「タイプ」の意味するところを理解できずあるいは不注意から「タイプ」の意味するところを深く考えないままに、右のとおり被告標章(二)をもって、被告商品の(一)の出所を表示する標章と理解する需要者が少なくないと認める妨げとはならない。

また、前記(一)(5)の文章中、「CHANEL NO.5」の部分はやや肉太の、他とは異なる書体で表されて一段をなしていることから需要者、取引者の注目を引くところ、前記のとおり、右部分を含む英語の文章全体の意味を理解できない需要者は少なくないものと認められること、右部分(被告標章(一))の直後に登録商標であることを示すの記号が付されていること、前記のとおり、「シャネルNo 5」がシャネル・グループの製造販売する香水の商品表示として著名であることからすれば、右被告標章(一)をもって、被告商品(一)の出所を表示する標章と理解する需要者も決して少なくないものと認められる。

したがって、被告商品(一)の包装用パッケージに被告標章(一)及び(二)を付することは商標の使用にあたるということができる。

3  次に、原告主張の被告標章(三)、(四)を含む被告商品(二)の包装用パッケージの表面全体の表示について検討する。

(一)  前記1の事実によれば、被告商品(二)の包装用パッケージの表面全体の地の色は橙黄色で、

(1) その上部中央には、手書風の書体で大きく「Dix-Neuf」の文字が記載され、そのすぐ下には、右文字と同程度の大きさで「19」の数字が記載されていること、

(2) 右「Dix-Neuf」の斜め左下で「19」の左横には、全体が灰色の円が描かれ、この円に、ゴシック体で小さく、上段に「シャネル」の片仮名文字、中段に「No.19」の文字(上段の片仮名文字と下段の文字を合わせたものが被告標章(四)である。)、下段に「タイプ」の片仮名文字が表示されていること、

(3) 右パッケージの中央部には、前記2(一)(3)と同様の「LaParfumerie」の文字と「Designer Fragrance Stick」の文字が記載されていること、

(4) 右パッケージの表の最下部には、やや大きく「Designer Fragrance Stick」の文字が記載されていること、

(5) パッケージ表の右下方、右(4)の文字の右上にはやや小さい文字で、「If You like The Fragrance Of CHANEL NO.19You'll Love Dix-Neuf 19」という文章が七段に区切って記載されており、その内「CHANEL No.19」の文字からなる一段のみが、やや肉太の、他とは異なる書体で表されていること(この「CHANEL No.19」部分が被告標章(三)である)

が明らかである。

(二)  そして、前記2(二)と同様の理由により、被告標章(三)及び(四)をもって、それぞれ被告商品(二)の出所を表示する標章と理解する需要者が少なくないものと認められ、被告商品(二)の包装用パッケージに被告標章(三)及び(四)を付することは商標の使用にあたるということができる。

四そこで、原告商標(一)と被告標章(一)、(二)、原告商標(二)と被告標章(三)、(四)を対比する。

1 原告商標(一)は、「No 5」、「CHANEL」の各文字に続いて、「PARIS」という文字を表示するものであるが、右の「PARIS」はフランスの地名「パリ」を表示したもので、特段の識別力があるとは認められないから、原告商標(一)の要部は、「No 5」、「CHANEL」の文字を二段に表示した部分にあると認められる。

そして、右の原告商標(一)の要部と、被告標章(一)、(二)とを対比すると、両者は、「シャネルの五番」という同一の観念を有し、称呼も原告商標(一)の要部からは「ナンバー ゴ シャネル」という称呼を生じるのに対し、被告標章(一)、(二)はいずれも「シャネル ナンバー ゴ」という称呼を生じるが、両者は番号を表す「ナンバー ゴ」と「シャネル」の二つの語の称呼の順番が逆になったに過ぎないから、類似するものと認められる。また外観についても、原告商標(一)の要部と被告標章(一)との間には文字を上下二段にわけて記載するか一段に記載するかの違いと番号を示す略号を「No」と表示するか、「No.」と表示するかの違いがあるのみであるから、両者は類似するものと認められる。そして「PARIS」という文字を含む原告商標(一)を被告標章(一)と対比しても、両者は外観において類似するものと認められる。

したがって、被告標章(一)、(二)はそれぞれ原告商標(一)と類似するものである。

2 原告商標(二)と被告商標(三)、(四)を対比しても、右1と同様の理由から、原告商標(二)の要部は「No 19」、「CHANEL」の文字を二段に表示した部分にあり、原告標章(二)の要部と被告標章(三)、(四)は「シャネルの一九番」という同一の観念を有し、原告商標(二)の要部から生ずる「ナンバー ジュウキュウ シャネル」という称呼と、被告標章(三)及び(四)からそれぞれ生ずる「シャネル ナンバー ジュウキュウ」という称呼は類似し、外観でも、原告商標(二)の要部と被告標章(三)は類似し、原告商標(二)と被告標章(三)も類似するものと認められる。

したがって、被告標章(三)、(四)はそれぞれ原告商標(二)と類似するものである。

3 被告は、被告商品と原告商標(一)、(二)にかかる原告の商品との間には、被告商品は、通信販売であるのに対し、原告の商品は、専門店で販売されるなどの販売形態の違い、価格の違い、商品形態の違いがあるから両者を誤認混同するおそれがないなどと主張する。

しかしながら、被告商品は通信販売でしか販売されないものであるとは認められず、また仮に、原告の商品と比較して安価であり、商品の形態に違いがあるとしても、原告商標(一)及び(二)と被告標章(一)、(二)及び(三)、(四)が、右1、2にみたように類似しているので、被告標章(一)、(二)が付された被告商品(一)あるいは被告標章(三)、(四)が付された被告商品(二)に接した需要者の中には、それらを原告の商品と誤認する者が少なくないと推認されるから、右被告主張は失当である。

五被告商品(一)、(二)は原告商標権(一)、(二)の指定商品に含まれるものであることは、当事者間に争いがない。

六以上のとおり、被告は、原告商標権(一)、(二)の指定商品に含まれる被告商品(一)、(二)の包装に、原告商標(一)に類似する商標である被告標章(一)、(二)及び原告商標(二)に類似する商標である被告標章(三)、(四)を付して使用したものであるから、原告の商標権(一)、(二)を侵害したものと認められるところ、<書証番号略>及び弁論の全趣旨によれば、被告は平成元年一〇月にも他からの求めに応じ、被告商品(一)、(二)の見本を送り、被告商品を含む商品の見積書を送付したことが認められ、また、本件訴訟においても被告の行為は原告の商標権を侵害するものではないと争っていることは明らかである。これらの被告の行為によれば、被告は被告標章(一)ないし(四)を使用して原告商標権(一)、(二)を侵害するおそれがあるものと認められるから、原告は被告に対しその侵害の予防を請求することができるものである。

被告は、被告商標にかかるスティック香水は、昭和六三年二月頃から同年九月頃にかけて販売しただけでそれ以後全く取り扱っておらず、また被告商品の仕入先は事業を閉鎖したため、右商品を販売しようとしても仕入れることができないなどと、被告が原告商標権を侵害するおそれがないと主張する。

しかしながら、被告は、右認定のとおり原告の原告商標権(一)、(二)を侵害する行為を行い、平成元年一〇月にもサンプルの発送や見積書の発行をしていたものであり、本件訴訟においての原告商標権を侵害したことについて全面的に争う応訴態度を考慮すれば、被告が将来にわたって同種の侵害行為を行うおそれがあるものと認められ、被告の右主張は失当である。

七前記のとおり、被告商品を販売した被告の行為は原告商標権(一)、(二)を侵害したものであり、かつ商標法三七条により準用される特許法一〇三条により、右侵害行為についての過失が推定されるから、被告は、右侵害により原告に生じた損害を賠償する義務がある。

八そこで、原告の損害について検討する。

1  原告は商標法三八条一項による損害額の推定を主張するものであるが、同条同項による損害額の推定を受けるためには、商標権者が自ら登録商標を使用していて、当該商標権の侵害により損害を受けたものであることを要するものであるところ、原告が商標その他無体財産権の管理等の法的事項に関する業務を営む法人であり、日本におけるシャネル製品の購入、販売はシャネル株式会社が行っていることは前記一のとおりであり、原告は我が国で原告商標(一)、(二)を使用して商品の販売を行っていないものと認められるから、原告は商標法三八条一項による損害額の推定を受けることができない。

右に反する原告の主張は採用できない。

2  そこで原告が予備的に主張する商標法三八条二項の損害額の主張について検討する。

被告が被告商品(一)、(二)をこれまでに一三〇〇本販売したことは当事者間に争いがない。

<書証番号略>によれば、被告商品(一)、(二)の小売価格は一本二〇〇〇円であり、卸売業である被告の卸売価格は、一本七五〇円であると認められる。

原告商標が、高級な香水の商標として我が国で極めて著名であることを考慮すれば、原告が受けた損害額とすべき原告商標の使用に対し通常受けるべき金額の額は、小売価格の一〇パーセントを下回らないと認められるが、これを上回る事情はこれを認めるに足りる証拠がない。

したがって、原告は、被告商品の小売単価二〇〇〇円に、販売本数一三〇〇本を乗じた二六〇万円の一〇パーセントに当たる二六万円を自己が受けた損害の額としてその賠償を請求することができる。

3  次に、原告商標権の侵害行為によって生じた信用毀損による損害について検討する。

<書証番号略>及び弁論の全趣旨によれば、原告商標(一)、(二)の付された原告の香水等の商品は、日本国内において極めて高い評価と信頼を受けており、原告商標(一)、(二)はいわゆる著名商標の一つとして、大きな顧客誘引力を有し、強い品質保証機能及び宣伝広告機能を有するものであり、原告を含むシャネル・グループは、このような著名商標に対する顧客の信頼やブランドイメージを維持するために多額の広告宣伝費用等を費やしていることを認めることができる。

そして被告の被告商品(一)、(二)の販売行為は、右にみたような原告商標(一)、(二)の商標としての信用、評価を傷付けるものと認められるが、他方、被告標章も、被告商品の包装用パッケージを注意して読む人の中には、これが被告商品の出所を表すものではないと正しく理解する需要者もあると認められる態様で表示されていること、被告の販売数量が、一三〇〇本を越えることを認めるに足りる証拠はなく、その実質的な販売期間が七か月程度を越えることを認めるに足りる証拠もなく、その小売価格を見ても総額二六〇万円に止まることをも考慮すると、被告の原告商標権侵害による原告の業務上の信用の毀損の程度は、金銭をもって償う必要のある程に大きなものであるとは認められない。

4  原告が本訴の提起、遂行に弁護士である原告代理人を選任したことは記録上明らかであり、本件事案の内容、認容金額、差止請求が認容されることその他諸般の事情に照らせば、原告の負担する弁護士費用中三〇万円の限度で、被告の原告商標権侵害行為と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。

被告は、本件は被告の立場からも十分に争う余地があるものであり、本件における弁護士費用は、弱者救済の交通事故訴訟や不当訴訟などと異なって、巨大企業である原告が原告代理人の高等技術をもって自己の立場を有利に展開するための費用であるから、当然原告が負担すべきものであるなどと主張する。

しかしながら、被告が原告に生じた弁護士費用を右の限度で賠償すべき責任が認められるのは、不当抗争を理由とするものではなく、不法行為と相当因果関係のある損害であることによるものであり、原告としては商標権侵害を否定して争う被告に対し、自らの権利を行使するためには裁判によるほかなく、裁判上右権利を行使するためには、弁護士に委任しなければ、十分な訴訟活動をなし得なかったことは明らかで被告の商標権侵害行為と右認定の限度の弁護士費用との間に相当因果関係が認められ、被告の右主張も採用できない。

九消滅時効の抗弁について判断する。

被告は、本件商品を扱ったのは昭和六三年九月頃までであり、原告はその頃までに損害の発生を知っているから、原告主張の損害賠償請求権は平成三年九月までに時効により消滅していると主張する。

しかしながら、本件全証拠によっても、原告が昭和六三年九月頃までに原告が本件損害の発生と侵害者を知ったことを認めることはできないから、右抗弁は採用できない。

十  以上によれば、原告の本訴請求は、被告標章(一)ないし(四)の使用差止めと損害賠償金五六万円及びこれに対する不法行為の後の日で、本件訴状送達の日である平成三年六月一八日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九二条本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官西田美昭 裁判官宍戸充 裁判官櫻林正己)

別紙商標目録(二)、標章目録

(三)(四)、写真(四)(五)(六)<省略>

別紙

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