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東京地方裁判所 平成3年(手ワ)59号 判決 1992年3月25日

原告 村岡三郎

右訴訟代理人弁護士 北川雅男

被告 株式会社ラヴィー

右代表者代表取締役 尾澤増朗

被告 尾澤増朗

右二名訴訟代理人弁護士 赤坂軍治

被告 株式会社フロジャポン

右代表者代表取締役 上妻善之助

右訴訟代理人弁護士 杉野翔子

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

理由

一  原告の請求原因事実のうち、被告フロジャポンが本件小切手に裏書したこと及び拒絶証書作成義務免除の記載のあることは、右被告との間において、被告ラヴィーが本件手形を振出したこと、被告尾澤が裏書をしたことは、被告ラヴィー及び被告尾澤との間においてそれぞれ争いがない。≪証拠省略≫によれば、原告の請求原因事実はすべて認めることができる。

二  原告は、本件小切手は、平成二年四月ころ、中村に対して金一五〇〇万円を貸し付けた際、その担保として交付を受けたものであると主張している。

原告及び被告尾澤の各本人尋問の結果、≪証拠省略≫によれば、被告尾澤は、昭和六三年一一月ころ、被告ラヴィーの金策方を得る目的で被告フロジャポンの裏書きをした上で中村に対して交付し、巴商事から金一〇〇〇万円を借り受けたこと、しかしながら、被告尾澤は、右借入金の返済ができなかったことから、平成元年三月八日、再度、中村に対して金策方を依頼し金額欄及び振出日を白地とした本件小切手を交付したこと、原告は中村らと、平成二年七月三〇日及び同年八月二一日、訴外株式会社すかいらーく(以下 すかいらーくという)を訪れ、同社に対して本件小切手の支払い方を求めたこと、その際、原告は、中村が保証人として責任を追及されているので被告フロジャポンの親会社であるすかいらーくにおいて本件小切手の支払をするように求めたこと、原告は、中村の代理人と称して右折衝をしたこと、原告は、すかいらーくにおいて本件小切手金の支払を求めた際、市川の求めに応じて本件小切手のコピーを示したが、原告の裏書及び銀行の支払拒絶宣言の記載等はなかったことの各事実が認められる。

右認定した事実によると、原告は、平成二年七月三〇日及び同年八月二一日、すかいらーくに対して本件小切手金の支払い方を求めるべく折衝をもったが、その際、原告らが、本件小切手のコピーとして示したものには、すでに呈示日を経過した後であるにも関わらず原告の裏書き及び銀行の支払拒絶宣言の記載はなかったものであり、かりに右コピーが支払呈示前の小切手をコピーしたものであり、それに基づいて交渉をしたとしても、原告は、平成二年四月ころ、中村に対して金一五〇〇万円を貸し付け、その支払いのために本件小切手の交付を受けたとしながらも、すかいらーくとの右折衝の際に、自己が本件小切手の権利者であることを前提とした権利の主張をしていた形跡は認められない。

これらの事実を勘案すると、原告は、本件小切手の呈示後である平成二年七月三〇日以降においても、自己が本件小切手の権利者であることを前提として請求権を行使していたとは到底認め難いところであるし、また、原告が、中村に対して金一五〇〇万円を貸付けた際、その支払いの担保として本件小切手の交付を受けたとする原告本人尋問の結果及び証人中村直樹の証言は、曖昧で一貫性を欠き容易く信を措き難い。他に原告が本件小切手上の権利を取得したという確たる証拠も見出し得ないのであって、そうすると、原告が、本件小切手の権利者であると認定することはできない。したがって、原告の右主張は採用できない。

三  右に判断したように、原告は、本件小切手上の権利者であると認めることはできないところであるが、かりに、原告が主張するように、平成二年四月ころ、中村に対して金一五〇〇万円を貸し付けた際、その担保として本件小切手の交付を受けたとしても、本件小切手の原因関係はすでに消滅しているのであるから、以下に述べるように本件小切手金上の権利を行使する実質的な理由はないといわざるを得ない。

原告及び証人中村直樹の供述によると、平成二年四月ころ、中村に対して金一五〇〇万円を貸し付けたこと、原告は、平成二年六月ころ、中村から右貸付金及び利息として合計金二〇〇〇万円の返済を受けたこと、原告は、平成二年三月ころにも、中村に対して金六〇〇万円を貸し付け、右貸付金の担保として約束手形一通を受け取ったこと、原告は、右金六〇〇万円の貸付金については金二〇〇万円の返済を受けたのみで未だ残金四〇〇万円の返済を受けていないとして、本件小切手及び右約束手形を中村に返還していないことの事実が認められる。

右のとおり、原告は、中村に対して、金一五〇〇万円を貸し付けた際、その支払確保のため、本件小切手の交付を受け、その所持人となったものでるが、同年六月ころ、中村から右貸付金の完済を受けて本件小切手取得の原因関係が消滅したのであるから、特別の事情のない限り、爾後本件小切手を所持すべき正当の権原を有しないこととなり、本件小切手上の権利を行使すべき実質的理由を失ったこととなる。したがって、原告が、本件小切手を返還せず自己の手裡に存することを奇貨として、自己の形式的権利を利用して被告らに小切手金の請求をすることは、権利の濫用に該当するといわざるを得ない。

本件小切手の債権の完済を受けて、本件小切手交付の原因関係が消滅した以上、特別の事情のない限り、本件小切手金の請求をすることはできないことは、右に判断したとおりである。原告は、本件小切手が、原告の中村に対する右金四〇〇万円の担保として交付を受けたものであるから、被担保債権を越える部分は、取立委任の性格を有するものであるので、本件小切手上の権利関係が消滅したとしてもなおその権利を行使することができる特別の事情があるというべきである旨主張する。原告は、中村に対する貸し付けに際して、その都度約束手形及び本件小切手を担保として受け取っているのであって、それぞれ別個独立した貸し付けであるといわざるを得ないし、中村自身、本件小切手は、金一五〇〇万円の貸金の担保となっているが、金四〇〇万円の担保となっていることについては、これを否定する証言をしているところであるから、これを前提とする原告の右主張は理由がないといわざるを得ない。かりに、本件小切手が、金四〇〇万円の貸金の担保として提供されたとしても、それは中村に対して本件小切手の返還を拒むことができ、あるいは、原告と中村間においては右債務清算に際して本件小切手に基づく請求ができるというにとどまるのであって、被告らに対する関係においても、右事由が当然に本件小切手金を請求すべき正当の権原となり得るものではないし、本件小切手上の権利の行使するべき実質的理由となるものでないことは明らかである。また、本件所掲の全証拠によるも、中村が、原告に対して本件小切手を取立委任の目的のために交付したとする事実を認めることはできない。したがって、原告主張の右事実が、被告らに対して本件小切手金を請求することを正当化する特別の事情であると解することは到底できない。

右のとおり、原告は、本件小切手を所持しているとしても、既に支払いを受けるべき正当な経済的理由を有しないのであるから、被告らは、原告に対し本件小切手金の支払いを拒むことができる。したがって、その旨の被告らの主張は理由がある。

四  以上のとおりであるから、原告の被告らに対する本訴請求は、その余の争点を判断するまでもなく理由がないので棄却

(裁判官 星野雅紀)

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