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東京地方裁判所 平成3年(行ウ)115号 判決 1992年3月24日

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

理由

【事 実】

第一  当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

1  被告が平成二年一〇月二九日付けでした別紙物件目録記載の各土地に係る同年度の特別土地保有税について地方税法六〇一条一項に定める認定をしない旨の処分を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁主文同旨

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、東京都八王子市(以下「八王子市」という。)内に所在し、地方税法附則(平成三年法律第七号による改正前のもの。以下「附則」という。)三一条の五第一項二号に定める土地に該当する別紙物件目録記載の各土地(以下「本件土地」という。)を所有している。

2  原告は、被告に対し、平成二年五月三一日本件土地について、同項柱書、同条二項前段、地方税法(以下「法」という。)五九九条一項一号に基づき基準日を同年一月一日として同年度の特別土地保有税の申告をするとともに、附則三一条の五第二項前段、法六〇一条一項、地方税法施行令五四条の四二に基づき法五八六条二項一九号に掲げる土地に該当する土地として使用することについての認定を申請した(以下「本件申請」という。)。被告は、同年一〇月二九日付けで右の認定をすることができない旨の処分(以下「本件否認処分」という。)をし、原告に通知した。

3  原告は、本件否認処分に対し、同年一一月二八日被告に異議申立てをしたが、被告は、平成三年三月一一日付けでこれを棄却する旨の決定をした。

4  しかしながら、以下のとおり、本件否認処分は違法である。

(一) 特別土地保有税は、土地対策の一環として土地の投機的取得の抑制と宅地供給の促進とを図ることを目的として創設された税であり、附則三一条の五第二項によつて準用される法六〇一条の定める徴収猶予及び納税義務の免除の制度は、土地の所有者等がその所有する土地を現に同条一項所定の非課税土地(以下「非課税土地」という。)として使用していないが、将来非課税土地として使用しようとする場合において、市町村長がその事実を認定したときは(以下、この認定を「非課税土地認定」という。)、一定期間に限つてその期間に係る特別土地保有税の徴収を猶予し、その期間内に現実に非課税土地として使用されることとなつたことについて市町村長の確認を受けた場合には、右の徴収猶予に係る特別土地保有税の納税義務が免除されるものである。

(二) そして、非課税土地認定については、右(一)のような徴収猶予制度の趣旨、内容、ことに、非課税土地認定は特別土地保有税の徴収猶予の要件に過ぎず、納税義務の免除を受けるには、さらに現実に非課税土地として使用されることとなつたことについて市町村長の確認を受けなければならないことにかんがみ、形式的な判断にとどまるべきでなく、個々の事例について将来非課税土地としての用途に供されることがある程度確実と認められれば、その認定をすべきである。

(三)(1) 原告は、中高層賃貸住宅を建設するため本件土地を買い受けたものであり、購入後直ちに本件土地上の建物の建設計画の作成に着手し、準備を進めてきた。

(2) 右住宅の建設については八王子市の定める宅地開発に伴う指導要綱の適用があり、同要綱によつて、事業者は法律で定められた申請を行う前に予め被告と協議しその承認を受けなければならないものとされている。本件土地上の建物の建築については、被告との右の事前協議は未だ受け付けられていないが、これは、購入後の調査や建築計画作成の過程において、地形や面積との関係から本件土地上のみに中高層賃貸住宅を建設することは都市計画上好ましくないことが判明したため、急遽本件土地に隣接する土地の買収交渉をしたうえ、建築計画を変更したことや、別表記載のとおり事前協議の受付けに至るための八王子市との折衝に回を重ね、多大の時間を要したことによるもので、右の経緯からすれば、本件申請には非課税土地として使用する確実性が認められる。

(四) 附則三一条の五第一項柱書により初めて本件土地に対し特別土地保有税が課さられることとなる平成二年度(同年四月一日から平成三年三月三一日までの年度)において、本件土地は、未だ法五八六条二項一九号に掲げる土地に該当する土地として使用できていないが、これは、右(三)(2)のとおり原告が本件土地上の建物の建設についての事前協議の受付けに至るために事業者としてすることのできる努力をすべて尽くしたにもかかわらず、八王子市が右事前協議の受付けにすら至らせなかつたことによる。

したがつて、本件申請は、附則三一条の第一項の規定により特別土地保有税の課されることとなる年度において当該土地を非課税土地として使用することができなかつたことが災害その他やむを得ない理由によるものである場合(同条二項後段)に当たる。

(五) 右(三)及び(四)のとおり、本件申請は、附則三一条の五第二項、法六〇一条一項の要件を充足するものであるから、これに対してされた本件否認処分は違法である。

よつて、原告は、本件否認処分の取消しを求める。

二  請求原因に対する被告の認否及び主張

1  請求原因1ないし3の各事実は認める。

2(一)  同4(一)のうち、特別土地保有税が土地対策の一環として土地の投機的取得の抑制と宅地供給の促進とを図ることを目的として創設された税であることは認め、その余は争う。

(二)  同(二)は争う。

(三)(1) 同(三)(1)の事実は知らない。

(2) 同(2)の事実中、本件土地上の建物の建築について原告主張の要綱に基づく被告との事前協議が受付けにまで至つていないことは認め、別表記載の折衝がされたことは否認する。もつとも、日付は不明であるが原告側のフジホーム企画株式会社から八王子市開発指導課に相談がされたことはあり、舘清掃事業所に対し、電話で順号<7>記載の事項について、また、平成二年一〇月二日順号<10>記載の事項について、いずれも問合せのあつたことはあり、原告側の株式会社IMA建築設計事務所設計部長馬場洋二から同月二五日八王子市都市整備部(茂木副主幹)及び交通安全課(中部職員)に順号<11>記載の事項について建築主を伏せた一般的な相談がされたことはあつた。

なお、右の原告主張事実中同年二月八日以降の事実は、後記の基準日後の事実であるから、これを本件否認処分の適否について考慮すべきではない。

その余の事実は争う。

(四)  同(四)のうち、本件土地に対し特別土地保有税が課されることとなる年度は平成二年度であること、原告は同年度において本件土地を法五八六条二項一九号に掲げる土地に該当する土地として使用することができなかつたことは認め、原告がその主張のような努力を尽くしたが、八王子市が事前協議の受付けにすら至らせなかつたことは否認する。主張は争う。

(五)  同(五)は争う。

3  被告の主張

(一) 法六〇一条によつて課される特別土地保有税については、その課税客体である土地を非課税土地として使用しようとする場合において、当該土地の所有者からの申請に基づき市町村長が当該事実を認定した場合には、その認定したところに基づいて市町村長が定める日から原則として二年間はその徴収が猶予されることとなつている。

他方、附則三一条の五第一項によつて課される特別土地保有税については、現実に課税のされる年度を当該土地の取得のあつた日から二年を経過した日以降到来する一月一日(基準日)に係る年度とすることとして、取得の日から二年間は課税を実質的に猶予したと同様の措置を講じ、取得の日から二年間のうちに当該土地を非課税土地として使用しなかつた場合には課税がされることとなつている。

そして、右の附則三一条の五第一項により特別土地保有税を課されることとなる土地を非課税土地して使用しようとする場合において、右の課税とされる年度においてその土地を非課税土地して使用することができなかつたときでその理由が災害その他やむを得ない理由によるものである場合には、その土地の所有者からの申請に基づき市町村長が当該事実を認定したときは、市町村長が定める日から原則として二年間特別土地保有税の徴収が猶予されることとなつている。

この趣旨は、法六〇一条の徴収猶予制度を直ちに附則三一条の五による特別土地保有税に準用すると、土地の取得後二年間実質上課税を猶予した上に、原則として更に二年間の徴収猶予を認めることとなつて、同条の立法趣旨に適合し難いことから、徴収猶予については、課税のされることとなる年度において非課税土地として使用しなかつたことが災害その他やむを得ない理由によるものである場合に限りこれを認めるというところにあると解される。

そうすると、同条二項、法六〇一条一項にいう非課税土地として使用しようとする場合とは、土地の所有者の単なる主観的意図にとどまらず、客観的にも非課税土地として使用しようとすることが認められる場合をいい、附則三一条の五第二項後段にいう当該土地を非課税土地として使用することができなかつたことが災害その他やむを得ない理由によるものである場合とは、土地の所有者の責に帰することができない事由、その他避けることのできない事由等の客観的な事由によつて非課税土地として使用することができなかつた場合をいうものと、それぞれ解すべきである。

(二)(1) そして、本件土地に対し平成二年度の特別土地保有税を課する基準日である同年一月一日当時、本件土地は更地であり、その地上に建築するという建物について、建築確認の申請はされておらず、八王子市の宅地開発に伴う指導要綱に基づく被告との事前協議の受付けもされていなかつた。その後、本件否認処分のされた同年一〇月二九日に至つても右と同様の状態であつた。したがつて、本件申請は、本件土地を非課税土地として使用しようとする場合に当たらない。

(2) また、原告が、同年度において本件土地を非課税土地として使用することができなかつたことが災害その他やむを得ない理由によるものである場合に当たる事実として主張するところは、原告の責に帰することができない事由、避けることのできない事由等の客観的な事由に当たらない。

第三  証拠《略》

【理 由】

請求原因1ないし3の各事実並びに同4(四)の事実中、本件土地に対し特別土地保有税が課されることとなる年度は平成二年度であること及び原告は同年度において本件土地を法五八六条二項一九号に掲げる土地に該当する土地として使用することができなかつたことは、当事者間に争いがない。

二 法及び附則によれば、附則三一条の五第一項所定の地域に所在する土地で、昭和六三年四月一日から平成二年三月三一日までの間にその土地の所有者が取得したもののうち、同項各号に定める土地に該当する土地に対しては、法五九五条の規定にかかわらず、特別土地保有税を課すものとされ、その課税は、右の取得がされた日から起算して二年を経過した日の属する年の翌年(その取得がされた日が一月一日である場合には、同日から起算して二年を経過した日の属する年)の四月一日からその翌年の三月三一日までを初年度とする一〇年度分に限つてされている(同項)。そして、市町村は、土地の所有者等が、その所有する土地を非課税土地として使用しようとする場合(右によつて特別土地保有税の課されることとなる年度においてその土地を非課税土地として使用することができなかつたことが災害その他やむを得ない理由によるものである場合に限る。)において、市町村長が、当該事実を認定したところに基づいて定める日から二年を経過する日までの期間内にその土地を非課税土地として使用し、かつ当該使用が開始されたことにつき市町村長の確認を受けたときは、その土地に係る特別土地保有税に係る地方団体の徴収金(右の市町村長が定める日から二年を経過するまでの期間に係るものに限る。)に係る納税義務を免除するものとされている(同条二項、法六〇一条一項)。

右各規定によれば、附則三一条の五第一項によつて課せられる特別土地保有税は、特定市街化区域農地等を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例を定める租税特別措置法三一条の三第一項等の規定の適用を受ける譲渡によつて放出された土地が早期に有効利用されることを促進するという政策に基づく税であると解され、法五九五条の基準面積に満たない小規模の土地についても課せられる反面、土地の取得の日から起算して二年を経過した日の属する年の翌年の四月一日からその翌年の三月三一日までの年度に初めて課せられることとなる結果、その期間内にこれを非課税土地として使用するに至れば結局これについて特別土地保有税は課せられないこととなるものである(附則三一条の五第二項、法五八六条二項)。そうであれば、このような特別土地保有税について、附則三一条の五第一項によらないで課せられる特別土地保有税の徴収猶予につき定めた法六〇一条一項を直ちに準用することは、両者の特別土地保有税の納税義務の間の均衡を失し、また、右の附則三一条の五の立法目的に適しないこととなる。同条二項が、法六〇一条一項を準用するに際し、市町村長が非課税土地認定をすべき場合を、特別土地保有税の課されることとなる年度においてその土地を非課税土地して使用することができなかつたことが災害その他やむを得ない理由によるものである場合に限るとして、その要件を加重しているのは、右のことを考慮したものと解される。

以上のことに、附則三一条の五第二項はやむを得ない理由によるものである場合として災害を例示していることを併せ考えると、そこにいう「非課税土地として使用することができなかつたことが災害その他やむを得ない理由によるものである場合」とは、その土地を非課税土地して使用することが災害その他土地の所有者の責に帰することのできない理由によつて客観的に不可能であつたと認められる場合をいうものと解される。

三 附則三一条の五第二項によつて準用される法五八六条四項によれば、非課税土地であるかどうかの市町村長の判定は、附則三一条の五第二項、法五九九条一項一号により申告納付すべき日の属する年の一月一日の現況によるものとされている。そして、附則三一条の五第二項にいう当該土地を非課税土地として使用することができなかつた、特別土地保有税を課されることとなつた年度とは、本件土地については、平成二年四月一日を始期とする年度であるから、使用することができなかつたことについて災害その他やむを得ない理由があつたかどうかを判断する基準日は、本件土地については、同年一月一日であると解される。いいかえれば、同日現在において、本件土地を非課税土地として使用することができなかつたことが災害その他やむを得ない理由によるものである場合でない限り、本件土地について、非課税土地認定を受けることはできないものというべきである。原告が主張する八王子市の宅地開発に伴う指導要綱に基づく協議の受付遅延は、そもそも、その主張自体からして、同市との折衝の始期が同年二月八日であるというのであつて、同年一月一日現在本件土地を非課税土地として使用することのできなかつた理由になり得ないことが明らかである。

また、本件土地の購入後、同地上に中高層賃貸住宅を建設することが都市計画上好ましくないことが判明し、隣接土地の買収や、建築計画の変更に時間を要したとの主張についても、実際その主張のような事実があつたとしても、これをもつて、右基準日において、本件土地を非課税土地として使用できなかつたことに関する災害にも匹敵するようなやむを得ない理由ということのできないことも明らかである。

そうすると、本件申請が平成二年度において非課税土地として使用することができなかつたことが災害その他やむを得ない理由によるものである場合に当たるとする事実として原告の主張するところは失当であり、ほかに、本件申請が右の場合に当たるとする事実の主張立証はない。

したがつて、本件申請は、非課税土地として使用することができなかつたことが災害その他やむを得ない理由によるものである場合に当たるものとは認められないから、本件否認処分に原告の主張する違法はないこととなる。

四 以上によれば、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 中込秀樹 裁判官 石原直樹 裁判官 長屋文裕)

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