大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成3年(行ウ)20号 判決 1994年1月27日

東京都足立区綾瀬二丁目六番九号

原告

宇井茂雄

右訴訟代理人弁護士

黒岩哲彦

青柳孝夫

田中隆

吉村清人

東京都足立区千住旭町四番二一号

被告

足立税務署長 菊地英司

右指定代理人

秋山仁美

時田敏彦

清水智之

江島勝信

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が平成元年二月二三日付けで原告に対してした

(一) 昭和六〇年分の所得税の更正及び過少申告加算税賦課決定のうち所得金額を二八九万円として計算した税額を超える部分

(二) 昭和六一年分の所得税の更正及び過少申告加算税賦課決定のうち所得金額を四一一万九五二二円として計算した税額を超える部分

(三) 昭和六二年分の所得税の更正及び過少申告加算税賦課決定のうち所得金額を四五三万〇九七五円として計算した税額を超える部分

をいずれも取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、肩書地において建設(板金工事)業を営む個人事業者であり、所得税につき青色申告書によらないで確定申告を行っており、昭和六〇年ないし六二年の各年分(以下「係争各年」という)の所得税につき、所得金額を別表1の<1>欄に記載のとおりとし、納税額を同表の<2>欄に記載のとおりとして、それぞれその法定の期限内に確定申告をした。

被告は、平成元年二月二三日、原告に対し、係争各年の所得金額を同表の<3>欄に記載のとおりとし、納付すべき税額を同表の<4>欄に記載のとおりとして、それぞれ所得税の更正(以下「本件更正」という)をするとともに、係争各年につき同表の<5>欄に記載のとおりの額の過少申告加算税を賦課する決定(以下「本件決定」という。また、本件更正及び本件決定をあわせて「本件処分」という)をした。

原告は、平成元年四月一四日被告に対し本件処分につき異議申立てをしたが、これが棄却されたため、同年八月三日、国税不服審判所長に審査請求をしたところ、その審査請求も棄却された。

2  本件処分は原告の所得金額の過大な認定に基づく違法なものであるから、原告はその取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1の事実は認めるが、同2は争う。

三  抗弁

本件処分は、原告の係争各年の事業所得金額を推計の方法によって算出し、これに申告どおりの一時所得金額及び長期譲渡所得金額を加えた所得金額を基礎として行われたものであるところ、以下に述べるとおり、本件においては推計による課税が必要であり、推計の結果も合理的であるから、本件処分は適法なものである。

1  推計の必要性

(一) 被告は、係争各年の原告の申告所得が低調であり、その事業所得の収支計算も不明であったことから、被告所属の職員原田達也事務官(以下「原田係官」という)に対し、原告の所得税の調査を命じた。

(二) 昭和六三年九月二七日の原告に対する調査

原田係官は、同日原告宅に赴き、原告に対し身分証明書及び質問検査章を提示し、係争各年の所得税の調査に伺った旨を告げ、係争各年分の事業所得に関する帳簿書類等の提示を求めたが、原告は、「申告書を出しているからいいだろう」「記帳はしていない。自分の作成した請求書、領収書は保存しているが、他からもらったものについてはわからない」などと述べ、得意先についても「臼倉工務店と森工務店の二店だけである」と述べるだけであり、更に「今から仕事に行く」などとして調査に協力する姿勢をみせなかった。原田係官は、当日調査を継続することは困難と考え、原告に対し、翌朝に都合の良い日を連絡して欲しい旨告げて、原告宅を辞した。

(三) 同年九月二八日の原告に対する調査

原告が同日午前中に何の連絡もして来なかったため、原田係官は、同日午後、再度原告宅へ赴き、原告に対し、再三にわたり、帳簿書類の提示を求めて調査へ協力するよう説得を試みたが、原告は「帳簿はつけていない。請求書や領収書はあるかどうか調べてみないとわからない。外注費、消耗品費などは領収書をもらっていないものもあり、はっきりしない」と述べ、帳簿を記帳していないことや原始記録の保存も十分でない旨を説明するだけであって、事業所得の詳細について調査に応じる姿勢を全くみせなかった。

(四) 原田係官による原告以外の者に対する調査

原田係官は、原告の協力が得られなかったため、独自に原告の取引先について調査を行ったところ、原告の得意先は、原告が述べる二社だけにとどまらず、その他にも株式会社足立リビング、株式会社江戸一などが存在することが判明した。原田係官は、調査結果に基づき、推計によって原告の係争各年分の所得金額を算出し、平成元年一月二〇日、電話によって、原告に対し、右所得金額による修正申告書の提出をしょうようしたが、原告はこれに応じようとしなかった。

(五) 平成元年二月一〇日の原告に対する調査

原告は、同年二月六日足立税務署に来署し、領収書等の原始記録を提出する旨申し出、翌七日には電話で原田係官に対し一〇日に原告宅に調査に来て欲しい旨を連絡した。そこで、原田係官は、同年二月一〇日午後一時三〇分、原告宅に赴いたところ、原告は、「今回の調査は一方的な調査である。税務署側が独自に行った調査結果の内容を説明せよ」などと述べ、「金銭出納帳のような帳簿はない。帳簿は面倒なので書けない。申告は領収書や請求書を集計して行ったが、下職への工賃の支払については領収書がもらえないので概算で計算した」と述べて、容易には帳簿書類の提示に応じようとはしなかった。

その後、原田係官が繰り返し説得を行った結果、午後二時ころになってやっと原告がこれを提出すると述べたので、「まず、一番新しい年分のものを見せて欲しい」と求めたところ、原告は昭和六二年分の請求書控えや領収書控えの綴りなどの入った紙箱一箱を提出した。原田係官は、この箱の中の書類を検査し、その表題や合計金額などの要点をノートに書き写したが、箱の中には金銭出納帳等の帳簿類は存在せず、下職に対する工賃の支払を示す書類もなく、一般経費についても保存されていた領収書はわずかであって、その中にも宛名のないものや宛名が「上様」となっていて必要経費の証明になるのかどうか疑問のものも含まれていた。また、売上金額についても請求書控えと領収書控えが一致しないものが見受けられた。

昭和六二年分の書類全部の要点を書き写した時点で午後四時三〇分となったので、原田係官は、原告に対し、昭和六〇年分及び六一年分の書類の貸与を希望したが原告がこれに応じなかったため、再度原告宅に臨場して調査する日を決めることにした。ところが、原告は、「せっかく半日もとったんだ。これ以上は時間はできない」として再度の調査も拒否する態度を示したため、原告の協力を得てこれ以上の調査を継続することが困難な事態となった。

(六) 右のとおり、原告は、事業に関する収入や必要経費を明らかにする帳簿を記帳しておらず、調査当初から、事業所得の算出根拠を明らかにするなどして原田係官の調査に協力する姿勢を全くみせていなかったものであり、調査着手から四か月余りを経た平成元年二月になって初めて保存していた原始記録の提示に応じたものの、現実に検査ができた昭和六二年分の資料によってでも、その資料から正確な売上金額や売上原価その他の経費の額を把握することは不可能であった。それ以前の昭和六〇年分や昭和六一年分についても昭和六二年分同様帳簿の記帳や原始記録の確実な保存が行われていないものと判断せざるを得ない状況であった。

このように、原告の係争各年の事業所得金額を実額で認定することが不可能であったから、被告はやむを得ず所得税法一五六条に基づき、被告が得た資料によって原告の事業所得金額を推計したものである。

2  推計の合理性

(一) 反面調査によって把握できた原告の売上金額

被告が原告の取引先に対して行った調査の結果把握することのできた原告の係争各年の売上金額は別表1の<7>欄アに記載のとおりであり、その明細は、別表2に記載のとおりである。

(二) 売上原価及び一般経費の額

(1) 右売上金額に、原告と同業者の売上原価率及び一般経費率を適用して、原告の売上原価(材料費、外注費及び給与賃金等をいう。以下同じ)及び一般経費(特別経費である建物減価償却費、利子割引料及び地代家賃を除く必要経費をいう。以下同じ)の額を算出した。被告が右推計に用いた比準同業者は、原告の近隣区域内である足立税務署管内に事業所を有し個人で建設(板金工事)業を営む事業者であって、次の条件を充たす者を抽出したものであり、その抽出過程に恣意や作為が介在するようなことはなかった。

ア 係争各年分について青色申告の承認を受けている者

イ 係争各年分の売上金額が原告のそれの二分の一以上二倍以内である者

ウ 年を通じて建設(板金工事)業を営んでいる者

エ 売上原価中に材料費、外注費及び人件費のいずれもがある者

オ 災害等により経営状態が異常であると認められる者以外の者

カ 課税処分に対する不服申立て又は訴訟の手続が継続中でない者

(2) 昭和六〇年分について比準同業者として抽出された者は七名であり、それぞれの売上金額、売上原価の額、一般経費の額は別表3に記載のとおりであって、その平均の売上原価率は六四・四五パーセントであり、平均の一般経費率は一〇・七パーセントであった。

昭和六一年分について比準同業者として抽出された者は九名であり、それぞれの売上金額、売上原価の額、一般経費の額は別表4に記載のとおりであって、その平均の売上原価率は六四・六一パーセントであり、平均の一般経費率は一三・〇六パーセントであった。

昭和六二年分について比準同業者として抽出された者は一一名であり、それぞれの売上金額、売上原価の額、一般経費の額は別表5に記載のとおりであって、その平均の売上原価率は六三・二五パーセントであり、平均の一般経費率は一三・九四パーセントであった。

(3) 右の原告の売上金額に右の比準同業者の平均売上原価率を乗じて推計された原告の売上原価の額は別表1の<7>欄イに記載のとおりであり、同様に比準同業者の一般経費率を乗じて推計された原告の一般経費の額は同表の<7>欄ウに記載のとおりである。

(三) 特別経費の額

(1) 支払利息の額

原告は、事業に関する借入金の利息として、昭和六〇年中に東武信用金庫(綾瀬支店)に対し一九万七七七三円、東京東和信用組合(綾瀬支店)に対し九二四六円の合計二〇万七〇一九円を、昭和六一年中に同信用金庫に対し一三万〇一七一円、同信用組合に対し七万二七二八円の合計二〇万二八九九円を、昭和六二年中に同信用組合に対し一〇六六円をそれぞれ支払った。

(2) 建物減価償却費の額

原告は、昭和三八年六月、肩書住所地に総床面積九九・一五平方メートルの二階建の居宅兼事業所の木造建物(未登記)を新築したものであるところ、その残存割合を一〇〇分の一〇、耐用年数を二四年、償却率を〇・〇四二(減価償却資産の耐用年数に関する省令別表第一、第十及び第十一)として算出された右建物の事業所専有部分(その部分は一階土間の約二〇平方メートルであるから、事業所専用部分は全体の二〇パーセントとすべきである)の減価償却費の額は、次の算式のとおり、係争各年につき毎年一万一七五九円となる。

(算式)

一三九万九八二九円(償却の基礎となる金額)

=一五五万五三六六円(取得価額)×〇・九

一万一七五九円(係争各年の減価償却費の額)

=一三九万九八二九円×〇・〇四二(償却率)×〇・二(事業専用割合)

ただし、被告は、右建物の取得価額が不明のため、東京都首都整備局建築指導課作成の資料に基づく昭和三八年当時の足立区の木造建物一平方メートル当たりの工事費予定額一万五六八七円に右建物の総床面積を乗じた一五五万五三六六円を右建物取得価額とした。

(3) 地代の額

原告は、訴外石出吉蔵から右建物の敷地を賃借し、その地代として昭和六〇年中に九万七二〇〇円を、昭和六一年及び六二年中に各一〇万八〇〇〇円をそれぞれ支払っているところ、右建物全体の二〇パーセントを占める事業所専有部分についての係争各年の地代の額は、右各地代の額に二〇パーセントを乗じ、昭和六〇年分につき一万九四四〇円、昭和六一年分及び六二年分につき各二万一六〇〇円となる。

(4) 特別経費合計額

右支払利息、建物減価償却費及び地代は、いずれも事業所得を得るための経費(いわゆる特別経費)であると認められ、それら合計額は別表1の<7>欄エに記載のとおりである。

(四) 事業所得以外の所得金額

原告は、別表1の<8>欄及び<9>欄に記載のとおり一時所得及び長期譲渡所得を得た。これらは、いずれも原告の当該年分の確定申告書に記載されている金額である。

(五) 原告の係争各年の所得金額

原告の事業に係る右売上金額から、推計によって算出した売上原価及び一般経費の額を控除し、さらに右特別経費の額を控除したものが原告の係争各年の事業所得金額となり、これに右一時所得及び長期譲渡所得の金額を加算した額が原告の係争各年の所得金額となる。その金額は、別表1の<6>欄に記載のとおりであり、いずれも本件更正による所得認定額を上回るのであるから、本件更正には原告の所得を過大に認定した違法はない。

3  本件決定の根拠

本件更正によって新たに納付すべきものとされた昭和六〇年分の税額四二万円(国税通則法一一八条三項により一万円未満の端数を切り捨てた額であり、昭和六一年及び六二年分についても同様である)及び昭和六一年分の税額三六万円のそれぞれに国税通則法六五条一項(昭和六二年法律第九六号による改正前のもの)所定の一〇〇分の五の割合を乗じて算出した金額が当該年分の過少申告加算税額となる。また、本件更正によって新たに納付すべきものとされた昭和六二年分の税額九一万円に同条一項(右法律による改正後のもの)所定の一〇〇分の一〇の割合を乗じた金額と、同条二項により右九一万円のうち五〇万円を超える部分につき一〇〇分の五の割合を乗じた金額との合計額が当該年分の過少申告加算税額となる。その額は別表1の<5>欄に記載のとおりであるから、本件決定は適法に算出された額の過少申告加算税を賦課するものである。

四  抗弁に対する認否

1(一)  抗弁1(一)の事実は知らない。

(二)  同1(二)の事実のうち、原田係官が昭和六三年九月二七日原告宅を訪れた事実は認めるがその余の事実は否認する。原田係官は、事前の連絡なしに原告宅を訪れ、「所得のことについて来た」と述べたので、原告は「これから現場へ行くので都合が悪い」というと、「金銭出納帳を見せて欲しい」と述べた。原告は、「金銭出納帳は付けていない」と正直に述べたが、原田係官はしつこく出すようにと繰り返した。原告が「天候の悪い日は大概うちにいる」と話して調査の延期を申し出たので、原田係官は辞去した。この間は一〇分ないし一五分程度であった。

(三)  同1(三)の事実は否認する。原田係官は、昭和六三年九月二八日の午前中にも再度原告宅を訪れたが、その日も前日と同じ工事についての打合せがあったので、調査に応じることはできず玄関先で対応した。原田係官が再び「金銭出納帳を出して欲しい」と述べたので、原告は「金銭出納帳は付けていない」と返事をし、その日の調査も延期してもらった。この間のやりとりも一〇分ないし一五分程度であった。

原告は、二七日か二八日のいずれかに原田係官に対し、得意先、材料仕入先及び取引銀行等について説明した。

(四)  同1(四)の事実中、原田係官が、平成元年一月二〇日電話で原告に対し、「税額は一八〇万円である。行政処分にする」と述べたこと、原告が修正申告に応じなかったことは認め、その余は否認する。

(五)  同1(五)の事実中、原告が二月六日足立税務署に赴いて金銭出納帳は付けていないが原始記録はあるので調べれば分かる旨述べ、一〇日に調査を行う合意をしたこと、原田係官が平成元年二月一〇日午後一時三〇分ころ原告宅へ来て、原告の昭和六二年分の事業所得に係る領収書等の書類を検査したことは認めるが、その余の事実は否認する。

原告は、係争各年の事業所得に関する原始記録の全部を準備していたが、原田係官は、昭和六二年分の九〇個の領収書綴り、請求書綴りについて、何があるかのメモを取るだけで、その内容を確認して仕訳をするということはなかった。このようなメモを取っているうちに午後四時三〇分になったところ、原田係官は 「時間がないので調査はこれ以上できない。書類を貸して欲しい」と求めたが、原告としてもその書類の検討が必要なので貸与に応じることができない旨を説明すると、書類の貸与が受けられない以上調査を継続することができないと言うようになった。そして、原告が日を改めて調査を行って欲しい旨要求しても、原田係官は、これに応じようとせず、調査を打ち切ってしまったのである。

(六)  同1(六)は争う。

税務職員が行う所得税の調査は、納税義務者の真実の所得金額を把握するための調査でなければならないのが原則であり、税務職員において帳簿書類から納税義務者の所得の実額の調査ができない場合というのは、社会通念上要求される程度の努力を行って調査を実施しても、右実額を把握するに足りる資料の収集ができないという例外的な場合に限られるのである。原田係官は、昭和六三年九月二七日及び二八日には、事前の連絡もせずに突然原告宅を訪れ、「所得の確認をする」という以外に何ら具体的な調査の理由も告げずに原告に対し質問検査を行ったのであり、その際原告が金銭出納帳は記帳していない旨を正直に述べているのに、原告がその外にどのような原始記録を保管しているのか確かめもしなかった。原告は、平成元年二月一〇日の調査も含めて積極的に調査に応じるつもりであったのに、原田係官は、原告提出の原始記録の内容の確認もしなかったのであり、原告の所得の実額の調査をする意思を有していなかったのである。このような原田係官の行った質問検査は所得税法に基づく正当な調査ではないから、本件においては、調査をしても原告の所得の実額が把握できなかったという場合には当たらず、被告において、原告の所得を推計する必要性もなかったのである。したがって、推計の方法によって行われた本件更正は、その必要性を欠く違法なものである。

また、税務職員の行う質問検査権の行使は、質問検査の必要性と相手方の私的利益との衡量において社会通念上相当な態様で行われなければならないのである。国税庁昭和四九年版税務運営方針によれば、調査にあたる税務職員は、調査期日の事前通知を励行し、反面調査は客観的に見てやむを得ないと認められる場合に限って行うものとされ、調査内容を納税者が納得するように説明し、納税者の将来にわたる適正な申告と納税のための指導をすることにも努めなければならないとされているところである。しかしながら、本件における原田係官の質問検査権の行使は、事前の調査期日の通知も調査内容の説明も全くないまま行われたものであり、その態様は社会通念に照らし著しく相当性を欠くもので違法である。このような違法な調査を前提として行われた本件更正及び本件決定は違法なものとして取消しを免れない。

2(一)  抗弁2(一)の事実は争う。

(二)  同2(二)の各事実は知らない。

所得税の課税は真実の所得金額に対して行われなければならないのが大原則であるから、推計の方法によって認定された所得金額といえども、真実の所得金額に近似する蓋然性を有するものでなければならず、その蓋然性を欠くような推計方法は適当ではなく、そのような方法によって推計された結果には合理性がない。

原告は、昭和五九年一月に妻を亡くし、子供も娘であり、一人で板金工事業を営んでいるものであるから、忙しいときには職人に手伝ってもらうが、概ね工事代金が一〇〇万円以上の大きな仕事は外注に頼らざるを得ないのであり、原告の事業の収支については、売上金額と比較した外注費等の売上原価の割合が通常の同業者よりも特に多いという特殊な事情がある。被告の推計方法は、原告の右のような特殊事情を全く考慮しないで比準同業者の平均値を使用して行うものであり、推計の結果が原告の真実の所得金額に近似する蓋然性を欠くものというべきである。

(三)  同2(三)の特別経費の存在及び数額は認める。

(四)  同2(四)の一時所得及び長期譲渡所得の存在及び数額は認める。

(五)  同2(五)は争う。

3  抗弁3は争う。

五  再抗弁(原告主張の真実の所得金額)

1  売上金額

(一) 原告の取引先及び売上金額

原告の係争各年分の売上金額は、別表6の「売上収入金額」欄に記載のとおりである。原告の取引先(受注先)は、主として株式会社臼倉工務店(以下「臼倉工務店」という)、有限会社森建設(以下「森建設」という)、株式会社江戸一(以下「江戸一」という)など別表7に記載の七名であり、その外に比較的小口の取引先が多数ある。それら取引先に対する売上の合計金額は同表に記載のとおりである。そのうち、臼倉工務店に対する個々の売上代金の請求日、請求額の明細は、昭和六〇年分につき別表8に、昭和六一年分につき別表9に、昭和六二年分につき別表10にそれぞれ記載のとおりである。森建設に対する個々の売上代金の請求日、請求額の明細は、昭和六〇年分につき別表11に、昭和六一年分につき別表12に、昭和六二年分につき別表13にそれぞれ記載のとおりである。その他の取引先に対する個々の売上代金の請求日、請求額の明細は、昭和六〇年分につき別表14に、昭和六一年分につき別表15に、昭和六二年分につき別表16にそれぞれ記載のとおりである。

右売上金額は原告の作業日誌(甲第一七二号証)の内容と原告保管の請求書控え(甲第二号証の一ないし四五、第三号証の一ないし四八、第四号証の一ないし二五、第五号証の一ないし四五、第六号証の一ないし五、第八号証の一ないし二一、第九号証の一ないし六、第一一号証の一ないし二九、第一二号証の一ないし二二、第一四号証の一ないし三一、第一五号証の一ないし一二、甲第一七三号証の一ないし六)によって明らかであり、原告の事業にはこれを上回る売上がない。また、右売上金額は、被告が反面調査によって把握した金額に近似し、係争各年分合計でそれよりも九三万六九六五円多い額であって、その信頼性は高いものである。

(二) 売上計上時期

右売上は請負代金債権であるから、法律的には当該債権は工事の完成引渡時に発生するものであり、会計処理上も売上が実現し収入が発生するのは工事の完成引渡時の属する年と解すべきである(完成引渡基準)。したがって、年末近くに工事の完成引渡しが行われた場合には、当該年中に売上が実現しているのにその代金の請求が翌年に行われることがあり、請求日を基準に集計した売上合計額と真実の売上合計額が食い違うことになる。別表7の金額は、完成引渡基準によって集計された金額であるが、工事の完成引渡しの翌年に売上代金の請求が行われたものは次のとおりである。

(1) 臼倉工務店に対する売上の関係

ア 昭和六〇年請求分 二四三万七六二五円

次の(ア)及び(イ)の合計が前年分(昭和五九年分)の売上となる。

(ア) 昭和六〇年一月二三日請求に係る二四〇万五六二五円

別表8のNo.1同日欄の売上であり、該当する請求書控えは甲第二号証の一ないし八である。

(イ) 昭和六〇年一月三一日請求に係る三万二〇〇〇円

別表8のNo.1同日欄の売上であり、該当する請求書控えは甲第二号証の九である。

イ 昭和六一年請求分 二〇〇万一三七〇円

次の(ア)及び(イ)の合計が前年分(昭和六〇年分)の売上となる。

(ア) 昭和六一年一月一〇日請求に係る一五三万一四〇〇円

別表8のNo.3同日欄の売上であり、該当する請求書控えは甲第三号証の七及び八である。

(イ) 昭和六一年一月二九日請求に係る四六万九九七〇円

別表8のNo.3及び4の同日欄の売上合計であり、該当する請求書控えは甲第三号証の九ないし一三である。

ウ 昭和六二年請求分 二七万一六二〇円

次の(ア)及び(イ)の合計が前年分(昭和六一年分)の売上となる。

(ア) 昭和六二年二月二〇日請求に係る二七〇円

別表9のNo.3の同日欄の売上である(書証なし)。

(イ) 昭和六二年二月二八日請求に係る二七万一三五〇円

別表9のNo.3の同日欄の売上合計であり、該当する請求書控えは甲第五号証の二ないし五である。

エ 昭和六三年請求分 九八万八七五〇円

昭和六三年一月二九日請求に係る九八万八七五〇円(該当する請求書控えは甲第一七三号証の二ないし六である)は前年分(昭和六二年分)の売上となる。

以上のとおりであるから、工事完成基準による原告の係争各年の臼倉工務店に対する売上金額は次のとおりとなる。

昭和六〇年分 一九〇六万二一〇二円

昭和六一年分 一七二七万六六〇三円

昭和六二年分 一六九五万四九一五円

(2) 株式会社馬場瓦店に対する売上の関係

昭和六一年一月一七日付けで同社に請求した六万六六〇〇円(別表14の同日欄のものであり、該当する請求書控えは甲第一二号証の二、三である)は前年分(昭和六〇年分)の売上となる。

2  売上原価

(一) 材料費

原告の係争各年に仕入れた材料費は、別表6の「売上原価の額」欄のうち「Ⅰ材料仕入」欄の小計に記載のとおりである。原告は、事業に必要な材料の殆どを同欄に記載の株式会社武藤(以下「武藤」という)、有限会社岩本商店(以下「岩本商店」という)及び株式会社泉金物建材センターの三業者から仕入れており、その外にはわずかの仕入れしか存在しない。昭和六〇年分の材料の仕入状況の明細は別表17のとおりであり、昭和六一年分の材料の仕入状況の明細は別表18のとおりであり、昭和六二年分の材料の仕入状況の明細は別表19のとおりである(仕入の計上は、請求書の日付によるものである)。なお、同欄の岩本商店からの材料仕入れとして計上した中には、同社が原告から請け負った外注工事の代金の支払も相当額含まれている。

(二) 外注費

原告は、受注した工事をそのまま外注(下請)に出して下請業者に施工させ、当該施工業者に外注費を支払うことが多く、一〇〇万円を超える大きな工事は概ね外注に出していた。この場合には、原告が材料の全部又は一部を仕入れて当該施工業者に供給するようなことはなく、材料の仕入れを含む工事の施工全部を下請業者に任せていた。このように外注に出した工事については原告の作業日誌には記載がない。原告の外注先は、木村建築板金、小堀工業、佐藤四郎、有川板金、満井板金工業、馬場工業などであったところ、これら業者に支払った外注費の明細は、昭和六〇年分につき別表20に、昭和六一年分につき別表21に、昭和六二年分につき別表22にそれぞれ記載のとおりである。

(三) 工賃

原告は受注した工事を施工する際には、自ら作業をするほか職人を雇うことが多く、それら職人に対する工賃の支払をした。原告が使用していた職人は、有川義秋、本間龍一、今井恒雄及び伊藤茂次であったところ、同人らに支払った工賃の明細は、昭和六〇年分につき別表23に、昭和六一年分につき別表24に、昭和六二年分につき別表25にそれぞれ記載のとおりであり、これは給料支払明細書(甲第一六四号証ないし第一六六号証)に基づくものである。原告は、昭和六〇年分の給料支払明細書については所得計算書(甲第一七一号証)に基づき、昭和六一年及び六二年分の給料支払明細書については作業日誌に基づいて作成し、工賃の支払を受けた者にその明細書の正確性を確認をしてもらったものである。

(四) 期末たな卸資産(翌年分の必要経費となる売上原価)

ある年に生じた材料費、外注費、工賃という工事原価のうち、当該年以降に計上すべき売上に関して生じたものは、期末たな卸資産となり、当該売上の計上される年(通常は原価発生の翌年である)の必要経費となるから、当該年の必要経費から除外し翌年度に繰越算入すべきこととなる。係争各年に関係する期末たな卸資産の額は次のとおりである。

(1) 昭和五九年末たな卸資産 〇円

(2) 昭和六〇年末たな卸資産 七九万二四二〇円

昭和六〇年末時点で翌年以降完成工事について生じた原価は、甲第一七一号証の所得計算書の一五頁に記載の仕掛工事額三三万一九八〇円、武藤及び岩本商店からの材料仕入れのうち、甲第二二号証の三に記載の分九万五一四〇円及び第四八号証の二の二に記載の分三六万五三〇〇円である。

(3) 昭和六一年末たな卸資産 六四万八三六六円

ア 臼倉工務店からの受注工事分

昭和六二年二月二八日に代金を請求した工事のうち合計二七万四八〇〇円の工事(甲第五号証の六及び七)に関する原価一二万八六一六円、昭和六二年三月三一日に代金請求した工事のうち合計一三二万九四八〇円の工事(甲第五号証の一〇及び一一)に関する原価一四万七九〇〇円の合計二七万六五一六円が仕掛工事の原価である。

イ 森建設からの受注工事分

昭和六二年二月二三日に代金を請求した合計七七万三〇五〇円の工事(甲第一四号証の二ないし四)に関する原価三五万七八五〇円である。

ウ その他の工事分

材料費一万四〇〇〇円

(4) 昭和六二年末たな卸資産 二九五万〇三四五円

ア 山崎規矩男邸工事(以下「山崎邸工事」という)分

右工事は昭和六二年中に着手し昭和六三年二月一七日に終了したものであるところ、昭和六二年末時点の仕掛工事に必要な原価は八七万六一六四円であり、これが昭和六二年分の必要経費から除外される。

イ 小久保一男邸工事(以下「小久保邸工事」という)分

右工事は昭和六二年九月三日に着手し昭和六三年九月三日に終了したものであるところ、昭和六二年末時点の仕掛工事に必要な原価は四七万〇七六四円であり、これが昭和六二年分の必要経費から除外される。

ウ その他の工事分

材料費、外注費及び工賃として一六〇万三四一七円

以上のとおりであって、原告の事業の係争各年に係る期末たな卸資産の額は、別表6の「売上原価の額」欄の「期首棚卸高」欄及び「期末棚卸高」欄に記載のとおりとなる。

(五) 売上原価の合計額

右材料費、外注費、支払工賃及び期首たな卸高の合計額から右期末たな卸高を控除した額が、原告の事業に係る係争各年の売上原価の合計となるところ、その金額は別表6の「売上原価の額」欄の合計欄に記載のとおりである。

3  一般経費の額

原告の事業に係る一般経費の額は、原告の売上金額(別表6の「売上収入金額」欄に記載の金額)に被告主張の比準同業者の平均の一般経費率(別表1の<7>欄ウに記載の同業者率)を乗じることによって求めた。その額は、別表6の「経費の額」欄の一般経費の項目に記載の数額である。

4  特別経費の額

原告の事業については、被告主張のとおりの支払利息、建物減価償却費及び地代という経費が生じており、その数額は別表6の「経費の額」欄の特別経費の項目に記載のとおりである。

5  原告の係争各年の所得金額

右1の売上金額から、右2の売上原価、右3の一般経費及び右4の特別経費を控除した金額が原告の係争各年の事業所得の金額となるところ、その額は別表6の末尾の「事業所得金額」欄のとおりである。そして、原告は係争各年中に被告主張の一時所得(別表1の<8>欄に記載のもの)及び長期譲渡所得(同表の<9>欄に記載のもの)を得ている。したがって、原告の係争各年の所得の合計額は次のとおりである。

(一) 昭和六〇年分 二六一万三一二七円

(二) 昭和六一年分 四一一万九五二二円

(三) 昭和六二年分 四五三万〇九七五円

したがって、本件更正のうち右所得金額を超えて原告の所得を認定した部分は違法であり、本件決定のうち右所得金額を超えて認定された所得について算出された税額に係る部分も違法である。

六  再抗弁に対する認否

1(一)  再抗弁1については、原告主張の売上金額が原告の事業収入の全部であるとの点を否認する。被告は、本件更正を推計の方法によって行う際、被告において知ることのできた原告の取引先(受注先)に照会する方法(反面調査)で原告の事業収入の主要部分を占めると思われる板金工事の売上を調査し、それによって把握できた金額だけを主張しているのであるから、原告が実額として主張する売上金額が被告主張の売上金額と近似することは、特段、原告の主張の信頼性を基礎付けるものではない。

(二)  原告の事業収入に関する売上計上時期として原告が主張する「完成引渡基準」は、本件においては妥当ではない。

所得税の計算の基礎となる課税標準をどのように把握するかについては、所得税法が規定する会計準則はないのであって、所得を正当に把握できる一貫性及び継続性のある会計処理によって計算されていれば足りるのであるから、売上計上時期を原告主張のように工事の完成引渡時としても、その処理が一環し継続している限り特に問題はない。しかし、売上計上時期を工事完成引渡時として売上の実額主張を行うのであれば、受注工事全部について個別に、その完成引渡時期、当該工事の代金額を明らかにする必要がある。

また、いつの時点で売上が実現し収入が発生したと理解するかという点は(いつを売上計上時期と考えるかにかかわりなく)、売上原価の扱いにも影響するものである。すなわち、材料費や労務費等の工事原価は売上に対応する直接的な費用であるから、工事原価が当該年に生じていたとしてもこれに対応する売上が当該年中に実現していない場合には、たな卸資産として翌年以降に繰り越され、売上の実現した年の必要経費となるのであって、工事原価の生じた年の必要経費となるものではない。特に、原告のような建築板金工事業者は、建物本体に係る工事の進捗状況に応じ屋根、外壁や屋内の板金工事を施工することが多いため、ひとつの現場での作業が断続的でかつ長期的にわたることが多いはずであるから、工事現場ごとに板金工事の施工部分、未施工部分を把握し、未完成工事(仕掛工事)に係る期末たな卸資産の金額を把握することは、事業所得の計算上極めて重要な事項となるのである。したがって、建築板金工事業者は、工事ごとに、着手時期、完成時期、材料費、労務費等の発生日を把握するための台帳を作成し工事ごとの原価管理を行う必要があり、また、そうするのが通常である。

ところが、原告が本訴において証拠として提出しているものは、昭和六一年及び六二年の作業日誌だけであり(原告は、昭和六〇年以前のものは廃棄したと供述している)、しかも、原告の主張によれば、提出された作業日誌には外注に出した工事(原告の主張によれば、一〇〇万円以上の大口の工事である)が全く記載されていないというのである。外注した工事についても、当然、工事完成引渡時期(原告主張の売上計上時期)や期末たな卸資産の金額の特定は必要となるから、原告提出の作業日誌によって、原告の売上計上時期や期末たな卸資産の正確な把握はできないというほかない。

売上計上時期は一貫性及び継続性のある資料に基づいて客観的に正確に特定されるのでなければ、いつの年の売上として計上するのかという点が恣意的、作為的なものとならざるを得ないので、収入の把握が不適正なものとなるおそれが強い。原告提出の作業日誌に基づく売上計上時期の特定は極めて不十分かつ不正確であり、受注工事の全部について工事ごとの売上計上時期を正確に特定することができないのである。したがって、原告提出の請求書や領収書の控え(甲第二号証ないし第一七号証であり、外注に出した工事分も含むと考えられる)によって原告の売上全体を把握しようとする場合には、その計上時期は、工事代金の請求時とするのが、最も妥当である。

(三)  原告が売上の実額を立証するために提出した請求書や領収書の控えの中には、複写式で書かれたものでありながら、取引先に発行した請求書及び領収書と相違しているものがある(乙第九号証の一ないし第一四号証の二に対応する甲号証)。右甲号証は、その記載内容や文字の体裁からみて、原告が所持する請求書や領収書の控えを正確に書き写して作成されたものと考えられる。このことから、原告は本訴において提出したもの以外に、請求書及び領収書の控えを多数所持していることが疑われるのであり、原告が本訴において主張し資料を提出している売上は、原告の真実の売上の全部ではないと疑われるのである。

原告提出の江戸一に対する昭和六〇年一二月一一日付けの二七万円の請求書控え(甲第一七七号証の一及び二)が綴られた請求書綴り(一冊五〇枚綴り)の原本綴りには、右二枚の請求書と未使用の請求書二四枚があっただけで、表紙及び表紙に続く二四枚が破棄されていた。また、原告提出の昭和六〇年六月二五日付けの足立リビングに対する六万四〇〇〇円の領収書控え(甲第一七九号証の一)及び同年四月二七日付けの馬場に対する一万円の領収書控え(同号証の二)の二枚の領収書が綴られた領収書綴り(一冊五〇枚綴り)は、原本綴りにクリップで留められているだけであり、その切り口も綴りと一致しておらず、同綴りには未使用部分が二一枚しかなく残余部分は破棄されていた。このような不自然な状態に照らせば、原告は売上を除外する意図で原始記録の一部を廃棄した疑いが強い。

2(一)  再抗弁2の各事実はいずれも知らない。原告が本訴において主張している売上金額、売上原価、一般経費を前提とする算出所得率(売上金額に対する特別経費を控除する前の事業所得の割合)は、昭和六〇年分が一一・六一パーセント、同六一年分が一四・三四パーセント、同六二年分が八・二三パーセントとなるが、これは被告が主張する比準同業者の算出所得率の平均値(係争各年順に、二四・七七パーセント、二二・三三パーセント、二二・八〇パーセント)と比較して異様に低いものであり、昭和六二年分についてみれば、原告の算出所得率は、これが最も低い比準同業者(一五・七八パーセント)の半分しかないことになる。この事実は、原告の事業所得の実額主張が、売上を除外したものであるか、経費を過大に積算したものであることを窺わせるものである。

(二)  原告は、本件更正時はもとより、審査請求の時点ですら工賃の支払を証明する証拠資料の提出をしなかったものであり、本訴に至って初めて、給料支払明細書なる書証を提出しているが、この書証は工賃支払後数年を経て作成されたものであって信用性に疑問がある。原告は、これが作業日誌や所得計算書に基づいて作成されたというが、作業日誌や所得計算書は工賃の支払を証明するために作成された文書でないから、このような文書を基礎にして後日正確な給料支払明細書が作成できるのかどうか疑わしい。しかも、作業日誌記載の労働日数と右明細書記載の労働日数には食違いが多数見受けられるのであって(乙第二〇号証の五)、右明細書は実際にも正確なものではないのである。また、右明細書を確認して押印したとされる工賃受領者伊藤茂次は右明細書に確認印を押印したこともなければ、明細書記載のような多額の工賃を受領したこともない旨を認めている(乙第二〇号証の四)。

(三)  原告が、小堀悦との取引の明細について平成元年一〇月一〇日付けで西新井税務署に回答した文書(乙第一五号証)によれば、同人に対する外注費の支払額は、昭和六一年四月二六日に一七万七〇〇〇円、同六二年六月三〇日に一五万八五〇〇円、同年一一月六日に一三万二四〇〇円の金額を支払ったことになっているが、本訴で提出した書証(甲第一三九号証、第一四〇号証、第一五七号証、第一五八号証、第一六一号証)は、右同一の取引について異なった数額が記載されている。このような事実は、原告提出の外注費に関する書証の信頼性を損なうものである。

(四)  期末たな卸資産の額を特定して計算するためには、工事の着手時期、進捗状況、投じた材料費や労務費等を工事ごとに記録して管理する必要があるから、外注工事の記載がないという原告の不完全な作業日誌を参考にしてこれを行うことはできないのである。したがって、原告主張の売上に対応する売上原価を係争各年ごとに特定し、原告の収入の実額を算出することはできないというほかはなく、原告の事業所得の実額主張は失当である。

なお、山崎邸工事及び小久保邸工事は、いずれも昭和六二年中に終了したものであり、完成引渡時期を売上計上時期とする原告の見解に立つのであれば、右工事の売上は昭和六二年分となり、これに要した原価は同年中の必要経費となるはずである。

3  再抗弁3の事実は否認する。原告が事業所得の実額を主張立証しようとする際には、係争各年に生じた一般経費の細目及びその金額を明らかにし、これを証拠によって立証しなければ、真実の所得金額を明らかにすることができないのは当然であり、一般経費に関する原告の主張額は、被告主張の比準同業者の平均一般経費率を援用して算出した金額に過ぎないのであって、その主張自体が失当である。

4  再抗弁4の事実は認める。

5  再抗弁5は争う。

第三証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録に記載のとおりであるから、これらの記載を引用する。

理由

第一本件更正の適法性について

一  推計課税の必要性について

1  請求原因1の事実は当事者間に争いのないところ、被告は、原告の係争各年の事業所得金額を推計の方法を用いて算出し、これに申告通りの一時所得金額及び長期譲渡所得金額を加えた所得金額を課税標準として本件更正を行った旨主張している。

所得税法によれば、所得税は当該年の各種所得の合計金額から売上原価等の必要経費を控除した所得金額を課税標準として所得実額に課税されるものであるところ(同法二二条、三六条及び三七条参照)、同法は、申告納税制度を採用し、納税義務者に対し課税標準を正確に申告することを義務付けている。したがって、原告のように事業所得に係る所得税を申告する者は、事業に関する日常の取引実績に裏付けられた課税標準及び税額を計算して申告しなければならないのであって、このこと自体は原告が青色申告者かどうかにかかわらないものである。

所得税法一五六条は、納税義務者の所得金額を推計の方法によって認定し、この課税標準が存在するものとして課税処分を行うことができるものとしているが、この推計による課税は、税務署長において納税義務者の所得の実額が把握できない場合に限り行うことができるものと解すべきである。そこで、本件において推計課税を行う必要性があったかどうかについて検討する。

2  証人原田達也の証言によって真正に成立したものと認められる乙第三号証、同証人の証言、原告本人尋問の結果(後記採用しない部分を除く)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(一) 被告所属の税務職員である原田係官は、原告の事業が当時好況業種であった割には係争各年の申告所得が低調であったうえ、その申告には事業所得の収支内訳書が添付されておらず所得金額以外の数額が全く不明であったことから、昭和六三年九月下旬、中村秀男統括国税調査官から、原告の昭和六〇年ないし昭和六二年分の所得税の調査をするよう命令を受けた。

(二) 原田係官は、昭和六三年九月二七日午前一〇時三〇分ころ、原告宅に赴き、原告に対し身分証明書及び質問検査章を提示し、係争各年の申告所得が正しいかどうかの確認のため調査に来た旨を告げ、事業所得に関する帳簿や書類等の提示を求めた。原告は、「今、忙しい」としてその日は時間がとれない旨を述べ、帳簿書類については「帳簿は付けていない。書類もあるかどうかわからない」などと述べた。また、原告は、原田係官の質問に答え、得意先について「主に臼倉工務店と森工務店である」と説明した。しかし、同日は原告が仕事に出かけることになっていたため、右のようなやりとりを一五分程度原告宅の玄関先で行う以上の調査をすることが困難であり、原田係官は、原告に対し、翌日の午前中に調査に都合の良い日を連絡して欲しいと告げて、原告宅を辞した。

(三) 原田係官は、同年九月二八日午前中に原告から何の連絡もなかったことから、同日午後、再度原告宅に赴いたが、当日も原告宅の玄関土間で一五分程度立って話をする以外に実質的な調査の時間をとることができなかった。原田係官は、その際「申告の基礎になった帳簿や書類があったら見せて欲しい、あるままでよいから」と述べて、原告に対し、調査へ協力するよう説得を試みたが、原告は「帳簿はつけていない。請求書や領収書はあるかどうか調べてみないとわからない。外注費、消耗品費などは領収書をもらっていないものもあり、はっきりしない」と述べるにとどまり、同日も、事業所得の詳細について調査に応じる姿勢を全くみせなかった。

原田係官は、同日も調査の継続は困難と判断し、原告に対し、都合の良い日を連絡して欲しい旨及び連絡がない場合は調査ができないものとして税務署が独自の調査を行う旨を説明し、原告宅を辞した。

(四) 原田係官は、その後一か月間は原告の連絡を待ったが、原告が調査に応じる日を連絡して来なかったため、やむなく独自に原告の取引先について調査を行ったところ、原告の得意先は、原告が述べた二社だけでなく株式会社足立リビング、江戸一などが存在することが判明した。そして原田係官は、調査結果に基づき、推計によって原告の係争各年分の所得金額を算出し、平成元年一月二〇日、電話によって、原告に対し、差引き納付すべきおよその税額を説明したうえ足立税務署へ来署し修正申告をするよう促し、修正申告がない場合には行政処分もありうることを告げた。

(五) 原告は、右電話連絡を受けた後の平成元年二月六日、足立税務署を訪れたが、修正申告に応じたのではなく、中村秀男統括国税調査官に対し、請求書や領収書等の原始記録を提出する旨を申し出、更に翌七日原田係官に対し、電話により同年二月一〇日に原告宅に調査に来て欲しい旨を申し出た。そこで、原田係官は、同年二月一〇日午後一時三〇分、原告保管の原始記録を検査するため、原告宅に赴いたところ、第三者である灰野一夫が調査に立ち会っていたためその退席を求めたが、これが容れられなかったため、やむなく灰野が立ち会ったまま調査を行うことにした。

原告及び灰野は、最初のうちは「今回の調査は一方的な調査である。税務署が独自に行った調査結果の内容を説明せよ」などと述べ、更に原告は「金銭出納帳のような帳簿はない。帳簿は面倒なので書けない。申告は領収書や請求書を集計して行ったが、職人への工賃の支払については領収書がもらえないので概算で計算した」と述べて、すぐには保存書類を提示しなかった。

原告は、係争各年ごとに資料が入れられた三つの紙箱を用意していたものであり、午後二時ころになって、原田係官の求めに応じ、一番新しい昭和六二年分の資料が入った箱を同係官に差し出した。その箱の中には、帳簿はもとより収支計算書のような書類も入っておらず、多数の請求書控え綴りや領収書控えの綴りが必ずしも売上、仕入れ、取引先ごとに整理されていない状態で入れられていたものであったうえ、原告は、それら書類と照合できる集計一覧表のようなものを原田係官に示すようなこともなかった。また、箱の中に入っていた書類の中には、職人に対する工賃の支払を示す書類はなく、一般経費について保存されていた領収書も飲食店からのものがわずかに含まれているだけであった。

原田係官は、午後四時三〇分ころまでかかって、昭和六二年分の請求書綴りや領収書綴りの宛先、枚数、合計金額等をノートに書き写すという作業を続けたが、この間、原告又は灰野から書類や収支計算に関する説明などは全くなかった。原田係官は、夕刻になったので、原告に対し、昭和六〇年及び昭和六一年分の書類を貸与して欲しいと申し出た。しかし、原告は、「書類は貸せない」として貸与を拒否し、「今日これだけ時間をとったのだから、今日中に全部調べて欲しい」などとかなり無理な要求を行って、それ以上の調査には協力しないかのような態度をとった。そこで、原田係官は、既に検査した書類が不完全な状態でしか保管されていない状況及び帳簿や収支計算書がないことを勘案し、これ以上に調査を継続しても、原告の申告の裏付けを得ることは困難と判断し、敢えて次回の調査期日を定めようとはせず、同日の調査を終えて原告宅を辞した。また、原告も調査期日の都合をつけて再度の調査を促すようなこともなかった。

3  以上の事実が認められるところ、原告は、その本人尋問(第一回)において、平成元年二月一〇日の調査の際には係争各年分の所得計算書を準備していたかのような供述をしている。しかし、これらを原田係官に提示したことはないとのことであるから、原告が何のためのその所得計算書を準備していたのが疑問であるし、右原告本人尋問の結果中には、昭和六〇年分の所得計算書のうち七頁及び一五頁のみを切り離して準備していたのであって係争の三年分は用意していなかったなどと供述を変更する部分もあり、この点に関する原告の供述は極めて曖昧であり到底採用できるものではない。

また、原告は、その本人尋問(第一回)において、同日の調査終了時に原田係官に次回の調査期日を決めて欲しいと希望したのに同係官は何も返事をしないで帰ってしまい調査が打ち切られることになった旨を供述するが、原告は右同日の調査においても書類綴りの入った箱をただ提示するだけで収支計算を積極的に明らかにする等の協力姿勢をとっておらず、そもそも本件の調査着手当初から積極的に調査に協力する姿勢をとってはいないのであるから、同日以後の調査の継続に限ってこれを積極的に希望したとは考え難いうえ、昭和六二年分のみならず係争各年の原始記録を検査することは調査を行う税務職員にとって重要な職務であり、たとえ不完全にしか保存されていない書類でもその検査を行うことは爾後の課税処分をするうえでの参考にもなるのであるから、原田係官が原告の調査継続の希望を全く無視するとは考えられず、原告の右供述も採用できない。

4  右認定の昭和六二年分の書類保存状況に照らせば、原告は昭和六〇年及び六一年分の事業所得に関しても売上原価の相当部分を占める工賃の領収書や経費に関する領収書なども保存していなかったものと推認することができる。そして、以上に認定した事実に照らせば、原告は係争各年の事業に関する原始記録を十分に保存しておらず、帳簿も全く記帳しておらず、所得計算書等の事業収支の記録を原田係官に提示することもなかったのであるから(なお、後記のとおり、原田係官の調査があった際に所得計算書が作成されていたかどうかは不明である)、被告が原告の所得税の調査を行っても、原告の真実の事業所得金額を把握できなかったというべきであり、推計課税を行う必要性があったということができる。

5  なお、原告は、原田係官の調査は、調査の理由を説明していない点、調査期日を事前に告知していない点において手続的に違法であって、この違法が本件更正の違法をもたらす旨主張しているが、調査期日の事前告知や調査理由の開示が所得税の調査実施の要件とされているわけではなく、その調査は権限を有する税務職員がその裁量によって適切と判断する方法によって実施することができる。本件における原田係官の一回目と二回目の原告宅への臨場の際には期日の事前告知が行われていないが、ことさらに無理な方法で質問検査が実施されたわけではなく、申告所得金額が正確かどうかの確認が調査の目的である旨の説明も行われているのであるから、原田係官による調査の態様が社会通念上妥当性を欠き、調査権限の逸脱濫用にわたるものということはできない。したがって、原田係官の本件における調査が違法であるとする原告の主張は採用できない。

二  推計の合理性について

1  売上金額について

証人原田達也及び同小檜山幸郊の各証言によって真正に成立したものと認められる乙第四ないし第八号証及び弁論の全趣旨によれば、被告は原告の取引先と考えられた別表2の取引先名欄記載の各業者に対し、原告からの仕入れの実績について照会したこと、その結果、回答が得られた範囲内で被告が把握することのできた原告の係争各年の事業に関する売上金額はそれぞれ同表のとおりであり、その合計額は同表1の<7>欄アに記載のとおりであることが認められる。したがって、原告は係争各年に少なくとも右金額の売上を得ていたものと認められる。

2  売上原価及び一般経費について

証人小檜山幸郊の証言及び同証言によって真正に成立したものと認められる乙第一号証、第二号証の一ないし三によれば、以下の事実が認められる。

(一) 東京国税局長は、足立税務署管内に事業所を有し個人で板金工事業を営む者の係争各年分の売上金額に占める売上原価や一般経費の割合を調査するため、平成三年五月七日、被告に対し、次の(1)ないし(6)の条件を充たす同業者全員につき、係争各年分の売上金額、売上原価の額(材料費、外注加工費、給与賃金及び専従者給与の合計額)、一般経費の額(必要経費から建物減価償却費、給与賃金、利子割引料、貸倒金、固定資産除却損、外注加工費及び地代家賃等の特別経費となるものを控除した金額)の報告を求める通達を発した。

(1) 係争各年分について青色申告の承認を受けている者

(2) 係争各年分の売上金額が原告の主張額の二分の一以上二倍以下とみられる次の範囲内である者

ア 昭和六〇年分につき一二〇七万八六七九円以上四八三一万四七一四円以下

イ 昭和六一年分につき一四〇四万一〇六二円以上五六一六万四二四六円以下

ウ 昭和六二年分につき一五二一万二六六三円以上六〇八五万〇六五〇円以下

(3) 年を通じて板金工事業を営んでいる者

(4) 売上原価、外注加工費及び人件費のいずれもがある者

(5) 災害等により経営状態が異常であると認められる者以外の者

(6) 課税処分を受けて不服申立期間が経過していないもの及び課税処分に対する不服申立手続又は訴訟手続が継続中の者以外の者

(二) 右通達当時足立税務署に所属していた小檜山幸郊は、通達に基づき、同税務署保管の業種別名簿から個人で板金工事業を営む右通達(1)及び(2)の条件を充たす者全員を抽出し、抽出された業者の確定申告書及び青色申告決算書を調査して右通達(3)ないし(6)の条件を充たす者全員を抽出したところ、このように抽出された比準同業者の数は、昭和六〇年分について七名、同六一年について九名、同六二年について一一名であった。

(三) 右比準同業者の昭和六〇年の各売上金額、売上原価の額、一般経費の額は別表3に記載のとおりであり、その売上金額に占める平均の売上原価率は六四・四五パーセントであり、一般経費率は一〇・七八パーセントであった。

右比準同業者の昭和六一年分の各売上金額、売上原価の額、一般経費の額は別表4に記載のとおりであり、その売上金額に占める平均の売上原価率は六四・六一パーセントであり、一般経費率は一三・〇六パーセントであった。

右比準同業者の昭和六二年分の各売上金額、売上原価の額、一般経費の額は別表5に記載のとおりであり、その売上金額に占める平均の売上原価率は六三・二五パーセントであり、一般経費率は一三・九四パーセントであった。

3  推計の合理性について

反面調査によって被告が把握した右1の売上金額に同業者の右2(三)認定の平均売上原価率を乗じて推計された売上原価の額は別表1の<7>欄イに記載のとおりであり、同様に平均一般経費率を乗じて推計された一般経費の額は同表の<7>欄ウのとおりとなることが明らかである。

推計を用いて算出された所得金額は、納税者の事業形態等に照らし、納税者の真実の所得に近似すると合理的に考えられる金額でなければならないところ、被告が本訴において主張している原告の事業所得金額は、右認定のとおり、原告の真実の売上金額を上回らないと考えられる売上金額を基礎とし、原告と類似する業者の平均の売上原価率や一般経費率を乗じる計算によって算出されたものであって、比準同業者の選択も恣意的なものではなく、合理性があるから、事業所得の推計の方法として適切なものである。したがって、右金額を超えることのない本件更正が認定する事業所得金額も原告の真実の事業所得金額に近似すると合理的に考えられる金額ということができる。原告は、同業者と比較して、受注した工事をそのまま外注に出すことが多いから、同業者の平均値を用いた推計結果は、原告の特殊事情を考慮しない不合理なものである旨を主張するが、原告がどの取引先から受注したどのような内容の工事について外注に出したのかという基本的な事実関係を認めるべき証拠がない(原告は一〇〇万円を超える工事の全部を外注に回したなどと主張するがこれを裏付ける証拠はない)から、原告については他の業者と比較して外注費の割合が格段に高いといえるかどうかは明らかではない。したがって、原告の右主張はこれを直ちに採用することができない。

別表1の<7>欄エに記載の特別経費の存在及び数額、同表の<8>欄及び<9>欄に記載の一時所得及び長期譲渡所得の存在及び数額はいずれも当事者間に争いがない。したがって、係争各年の原告の所得金額は同表の<6>欄に記載のとおりとなる。この金額は、本件更正に係る所得認定額を上回るものであるから、本件更正は適法なものであり、原告の所得を過大に認定した違法なものではない。

第二本件決定の適法性について

本件決定に係る過少申告加算税の額は、本件更正によって差引き納付が必要となる所得税の額を基礎として国税通則法所定の計算方法により適法に算出された金額であるから、本件決定は適法なものと認められる。

第三原告の実額主張について

一  所得実額の主張立証の性質について

1  推計による課税処分は、課税庁において所得の実額が把握できない場合に行われるものであり、処分の適否が争点となる行政訴訟において当該課税処分が適法であるとする被告課税庁は、推計課税が必要となった事実と推計の合理性を基礎付ける事実を主張立証する義務を負うのであって、この点についての立証があれば、原告の真実の所得金額の如何にかかわりなく当該課税処分は適法なものと認められる。これに対し、原告が真実の所得金額が当該更正に係る額よりも下回ることを立証した場合には、当該課税処分の全部又は一部を取り消すべきである。

真実の所得金額は、その年中の総収入金額から総必要経費を控除するという所得税法所定の方法によって把握すべきであり、原告が訴訟上真実の所得金額の把握が可能であるとの前提でこれを立証しようとする場合には、被告課税庁主張の要証事実に反駁を加えるだけでなく、右総収入金額及び総必要経費の立証をしなければならない。すなわち、被告課税庁の主張する事実は、推計の方法によってした課税処分であって、実額を把握する方法によってした課税処分とは異なるのであるから、これに対し原告が真実の所得金額を立証するのは、被告主張に係る要証事実の存否を真偽不明なものとする反証ではなく、所得税法所定の所得算定の根拠真実の立証、すなわち本証でなければならないのである。

2  事業所得の金額は、その年中の事業所得に係る総収入金額から必要経費を控除した金額とされており(所得税法二六条)、総収入金額に算入すべき金額とは、その年において収入すべき金額であり(同法三六条)、必要経費とは、別段の定めがあるものを除き、総収入金額に係る売上原価その他当該収入を得るために直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他当該事業について生じた費用である(同法三七条)。したがって、真実の所得金額を主張立証しようとする原告は、所得税法所定の所得算定の根拠事実を主張立証すべきこととなる。売上原価については収入計上時期に対応する年の必要経費に算入される必要があるという意味で収入との対応関係が必要であるが、それ以上に常に個々の売上との対応関係を明らかにしなければならないわけではなく、その他の必要経費については当該年に発生したものを明らかにすれば足りるのである。

3  なお、本件においては、原告は、一般経費について被告主張の同業者率によって計算した額を主張しているが、原告主張の真実の所得金額の立証については、請求書や領収書等の直接証拠による証明でなければならないというような立証の制限は法律上存在しないから、右のような主張が必ずしも許されないわけではなく、原告としては、間接証拠等により少なくとも主張額の一般経費が生じたことを、合理的な疑いを容れない程度に立証すれば足りる(比準同業者に対する統計値を使用する経費の立証が失当であるとする被告の主張は、右のような主張が一般的に許されないとする趣旨のものであれば失当である)。

二  原告の事業所得に係る総収入金額について

1  売上計上時期について

(一) 事業収入に関する収入は当該年に収入すべき金額であり(所得税法三六条)、これは収入すべき権利の確定した金額であると解すべきであるから、収入は、当該収入すべき権利が確定した日の属する年の収入に計上して所得計算が行われなければならない。もっとも、権利が確定する時期の決定は、所得の把握を適正に行うという観点から各種取引の実情に照らしてされるべきである。そして、所得の種別が事業所得である場合には、当該納税者の所得を把握するために会計処理上適正と考えられる一貫性及び継続性のある基準によって権利確定の時期を定めるべきである。

(二) 本件において、原告は、その事業(板金工事請負業)に関する収入が工事の完成引渡時に発生する旨の主張をし、これを前提として原告の事業所得の実額を主張している。その結果、臼倉工務店に対する係争各年の売上について、原告の主張と被告が反面調査で把握した売上には別紙のとおりの食違いが発生している(個々の取引事実については、昭和六二年分について若干の相違がある以外には両者の間に食違いがない)。しかしながら、例えば、原告が昭和五九年中に完成引渡しを終了したが代金請求は昭和六〇年に行われたと主張する二四三万七六二五円の工事(別表8の昭和六〇年一月三〇日及び三一日欄のもの)については、昭和五九年中に完成引渡しを終了したという事実を認めるに足りる確たる証拠がないから、真実の所得金額を主張立証するうえで相当影響を及ぼす右工事について、その完成引渡時が明らかではないことになる。原告は、その本人尋問(第一回)において、妻の一周忌の行事のため昭和六〇年一月は仕事をしなかったと供述し、このことによって、一月請求分の右工事が前年の一二月末までに終了していた旨を裏付けるかのようであるが、これとて、原告がそのように供述するだけであり、作業日誌その他の裏付けがあるわけではないし、原告の供述によれば一周忌の行事自体は昭和五九年一二月中に終了しているのであるから、そのようなことを理由にして翌年の一月全部を休業するとは通常は考えられないところであり、原告の右供述もにわかに採用できないのである。

更に、原告本人尋問の結果(第一、二回)によれば、(1) 原告は、主として建築請負業者から板金工事を請け負っているが、受注した工事のかなりの部分をさらに外注に出していて自らは施工していないこと、(2) 外注に回した工事の施工については原告自身が工程の管理など直接の関与をすることがなく、いつその工事が完成したのかを把握しておらず、外注先から請求書を受け取った段階でさらに受注先に請求書を発送し、その後受注先から所定の代金を受領するという方法をとっていること、(3) 原告は自ら施工する工事については作業日誌を付けているが、昭和六〇年分の作業日誌は既に廃棄されているうえ、書証として提出した作業日誌の中にも、いつ作業が終了し受注先の検収を受けたかという事項が意識して記載されているわけでもないこと、(4) 原告自身が、売上の発生との関係で工事の完成引渡時というものを意識しているわけではなく、いつ工事の完成引渡しが終了したといえるのかという点については、結局は受注先に請求書を出したときということになる旨の認識を有していること、(5) 原告は係争各年の確定申告の際にも、売上計上時期を工事完成引渡時とする基準で所得計算をしておらず、これを請求時とする基準で所得計算していたことの各事実が認められるのである。

右事実によれば、売上計上時期に関する原告主張の完成引渡基準は、原告が受注した工事全部について売上計上時期を客観的に明らかにできないものであって、客観性、一貫性があるものとはいえず、原告の昭和五九年以前の確定申告との整合性も維持できないものであり、原告の真実の所得金額を把握するための会計処理としては著しく妥当性を欠くものである。

(三) 板金工事の成果物は、工事現場で受注先の完成検査を受けて検収があったとされた時点で、その引渡しが完了するのであるから、本来であれば、検収があった時点において代金を請求する権利が確定するものとすべきであるが、右認定に係る引渡時点の特定の困難さを斟酌すれば、本件のような事案においては、代金を請求した時点が受注先の検収が終了した時期に最も近接するとみられることをとらえ、その請求の時点で原告の代金請求権が確定し、その時点で収入すべきものとして所得計算をするのが、最も客観性、一貫性のある妥当な会計処理というべきである。

二  原告の売上金額について

1  右のとおり、本件における原告の実額主張は、売上計上時期について適切な見解に基づいておらず、そのため、原告主張の係争各年の売上金額が真実の所得金額の計算の基礎とすることのできないものとなっている。

もっとも、原告主張の別表8ないし16記載の個々の売上(別表14ないし16の売上の記載のうち「(15,000)」などと括弧で記載されているものは請求書の控えがなく領収書の控えだけが存在するものである)が生じた事実は、原告本人尋問の結果(第一回)により原告が作成したものと認められる請求書控えである甲第二号証の一ないし四五、第三号証の一ないし四八、第四号証の一ないし二五、第五号証の一ないし四五、第六号証の一ないし五、第八号証の一ないし二一、第九号証の一ないし六、第一一号証の一ないし二九、第一二号証の一ないし一四、同号証の一六ないし二二、第一四号証の一ないし三一、第一五号証の一ないし一二、第一七三号証の二ないし六並びに領収書の控えである甲第一〇号証の五ないし七及び一三、第一三号証の一五、二一及び二二、第一七号証の二、五、七、八及び一二によってこれを認定することができるから、右書証で認定できる売上に関しては、その計上時期を請求時に修正したうえで係争各年分の売上金額を認定することは不可能ではない。

しかしながら、売上計上時期に関する主張の誤りは、必要経費となる売上原価の計上時期についての誤りをも招来するものであるから、売上に対応する売上原価を控除して算出すべき真実の所得金額の認定に大きな困難をきたすものといわざるを得ない。

しかも、本件においては、継続的に記帳された売上仕訳帳や金銭出納帳が提出されない(原告はそのような帳簿を記帳していない旨供述している)うえ、原告が臼倉工務店以外の取引先に発行する請求書は市販の請求書であり、通し番号も付さずに使用されているのであるから、原告提出の請求書控えによって認められる売上が原告の事業収入の全部であるとの点が、右請求書控えそのものからは判然としないし、以下のとおり、原告が売上の総額を正確に主張していないと疑うべき相当の理由があるから、結局のところ、原告主張の売上がその事業所得に関する総収入であると認定をすることはできないというべきである。

2  原告の売上の主張漏れを疑う相当の理由の存在について

(一) 公務員がその職務上作成したものと認められるから真正に成立したものと推認すべき乙第二四号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第二五号証によれば、次の事実が認められる。

(1) 森建設は、係争各年の原告との取引状況について照会を受けた際には、請求書や領収書を廃棄した後であったため、総勘定元帳に基づいて回答した。

(2) 森建設の総勘定元帳の外注加工費及び当座預金の部分の昭和六〇年一二月二八日の箇所には、森建設が原告に三〇万円を支払った旨の明示的記載があり、その直後にも三〇〇万円を外注加工費として下請業者に支払った旨の記載があるところ、右三〇〇万円については支払先の記載がない。そこで、森建設が東京国税局へ回答した原告との取引の明細の中には、右三〇〇万円の分が含まれてはいない。しかし、森建設の代表者は、原告との取引は、昭和六一年分について七一五万円であって、これに比し東京国税局に回答した昭和六〇年分四五一万円というのは、いかにも少ないと認識している。

(3) 右三〇〇万円の支払は、右三〇万円の支払とともに小切手で行われたものであり、右二通の小切手は、いずれも森建設の裏判が押印され、その所持者が、株式会社国民相互銀行北綾瀬支店で同時に換金している。

以上の事実関係が認められるところ、原告は、昭和六〇年一二月二八日付けの支払のうち三〇万円の小切手の受領及び換金の事実は認め右三〇〇万円の受領を否定するが、右事実によれば、原告は右三〇〇万円も受領していると優に認めることができるから、このような多額の売上について、原告は本訴において売上の主張をしていないことになる。

(二) 弁論の全趣旨によって成立が認められる甲第一二九号証によれば、原告が木村建築板金に外注に出した工事につき、右業者が昭和六〇年一月二五日付けで合計四三万四〇〇〇円の代金を請求しており、その中には、原告が江戸一から受注したと思われる江戸一木更津店の工事代金二万五〇〇〇円分及び森建設から受注したと思われる一ツ家現場の工事代金三〇万円が含まれているが、原告がその後これらの代金を江戸一や森建設に請求した請求書控えが提出されていないし、その旨の主張もない。

(三) 甲第一二号証の一五に示されている昭和六一年九月二五日付けの江戸一に対する六八万九四二〇円の請求額のうち、前月請求残高三八万五三八〇円について、原告は、昭和六一年一二月三一日付けでこれを全部値引きをしたとしているが(別表15の同日欄)、これがどの売上に対応する値引きであって、どのような理由でこのような多額の値引きを余儀なくされたのかが判然としないから、このような値引きの事実を容易に認定することはできないのであって、この値引きと称する部分が売上に計上すべき可能性が否定できない。

(四) 甲第九号証の六、第一二号証の一四及び一五(三通とも江戸一宛の請求書の控え)並びに第一〇号証の六、一〇、一二(いずれも株式会社馬場瓦店宛の領収書の控え)は、いずれも、市販のコクヨ製品の綴りを使用して右取引先に発行されたものであり、原告は、その本人尋問(第一回)において、それらは二枚複写式の書類であって一枚は取引先へ渡されており、本訴で書証として提出した右の控えは原告の手元に残ったものであると供述している。しかし、乙第九ないし第一四号証の各一によれば、原告提出の右甲号証の内容は取引先に渡された書類のコピーである右乙号証の内容と全く同じであるのに、その両者の文字が異なっていて二枚重ねのものが複写されたわけではないことが明らかである。原告は、その本人尋問(第二回)において、このような事態が生じたのは、右乙号証が取引先に再発行されたものであり、原告提出の甲号証は再発行される前の請求書又は領収書の控えであった旨の弁解をし、再発行後のものの控えとして改めて甲第一七七号証の二、第一七八号証の二及び三、第一七九号証の一及び二を提出している。しかし、そうであるならば、なぜ、再発行前のものを選んで書証として提出したのかが疑問であるうえ、通常は相手方に渡す再発行の請求書又は領収書には、後日の混同を避けるために再発行である旨を示す文字が記載されると考えられるのに右乙号証にはそのような記載がないのも疑問である。また、甲第一〇号証の六、一〇及び一二は領収書の控えであり、このようなものが取引先に再発行されたというのはいかにも不自然である。更に、原告が再発行したという右甲号証は、他の請求書や領収書の控えと連続して継続的に記載されたと考えられるように綴られてはいないのである。したがって、原告の右弁解は容易に首肯できるものではないのであって、原告が先に提出した甲号証は、原告が所持し本訴に提出していない原始記録に基づいて訴訟のために作成されたものである疑いが強く、そうであるとすれば、原告は、本訴提出分とは別に請求書や領収書の控えを多数所持しているのではないかと疑われるのである。

(五) 右のような売上に関する不明瞭な事情が生じているものは、江戸一との関係での取引について目立つところ、公務員がその職務上作成したものと認められるから真正に成立したものと推認すべき乙第七号証によれば、江戸一は、原告の売上の反面調査のための被告の照会に対し、手形又は小切手で支払った日と金額を回答しただけであって、原告との取引日(仕入れの日)や取引金額、値引きの日やその金額などの取引の明細について明らかにせず、かなり不誠実な回答をしており、本訴に際して東京国税局が改めて行った照会に対しては回答していないことが認められる。そして、既に述べたとおり、江戸一との関係では、原告はかなり疑問のある値引きを計上しているのであって、原告と江戸一との取引の実際が書証に現れたもので全部であるのかが相当に疑わしい。

3  所得計算書の信頼性の欠如について

原告が係争各年について多数の請求書や領収書の控えを所持していることからすれば、原告が係争各年の確定申告をした際にはこれら請求書を集計したはずであり、その集計記録が存在するのであれば、これと原告の主張や書証とを照らし合わせることによって、原告の主張の信頼性や原告の売上や事業収支の全体を把握することができる。

ところで、右のような集計記録として、原告は、甲第一七四号証(昭和六〇年分)、甲第一七五号証(昭和六一年分)及び甲第一七六号証(昭和六二年分)の各所得計算書を提出しているところ、原告は、その本人尋問(第二回)において、これら所得計算書は確定申告の際に作成したものであると供述している。

確かに昭和六〇年分の所得計算書(甲第一七四号証)の集計結果は確定申告と一致しているから、申告の際に作成されたものと考えられるが、これは調査に当たった原田係官に提示されていないし、本訴においても、当初はそのうち七頁及び一五頁のみが甲第一七一号証として切り離されて提出されたものであり、その中に売上の集計は含まれていなかったものである。その後昭和六〇年分の所得計算書の全部が甲第一七四号証として提出されたが、原告は、その集計の参考にしたはずの昭和六〇年分の作業日誌は廃棄してしまったと供述しているところであり、右所得計算書の提出経過や作業日誌の廃棄の点に作為や不自然さを否定することができない。

また、昭和六一年及び六二年分の所得計算書(甲第一七五及び第一七六号証)の記載は別表26のとおりであり、その集計結果が確定申告と異なっていて、これが確定申告の際に作成されたものであるとするには大きな疑問がある。成立に争いのない甲第一号証によれば、原告が本件処分を不服として国税不服審判所長に対して審査請求をした際に主張していた右二年分の事業収支と右二通の所得計算書の事業収支は完全に一致しているから、右二通の所得計算書は審査請求手続の最中に作成されたものと推認できるのであって、これを確定申告の際に作成したという原告の供述は信用できないのである。ところが、右二通の所得計算書中の各費目と本訴における原告の主張とを比較しても、同表に記載のとおり隔りがある。特に昭和六一年分の外注費や工賃においてこの隔たりが顕著である。このような売上原価に関する不一致が、売上計上時期に関する集計方法の差異から他の年への売上原価として算入された結果生じたというようなものでないことは、その前後の年の外注費や工賃に関する原告の主張が所得計算書と一致していることから明らかであって、このような隔たりを単なる計算間違いと考えることはできない。

したがって、右二通の所得計算書は、本訴において提出されていない原始記録を使用して集計されたのではないかという合理的な疑いがあり、この計算書にどれほど信を措いて、請求書や領収書と照合することができるのかは大いに疑問であるといわざるを得ない。

4  外注費及び経費についての不自然さについて

右のとおり、本件においては、原告主張の売上金額が原告の事業収入の全部であるというには合理的な疑いが存在するといわなければならないから、原告の真実の所得金額の立証が功を奏したとはいえないのであるが、更に、原告主張の必要経費についても、以下のとおりの疑問があり、たとえ、原告主張の売上が原告の事業収入の全部であるとしても、原告の真実の所得金額が原告主張通りであると認めることは到底できない。

(一) 原告が職人に支払ったという工賃の額については、原告が本訴提起後の平成三年五月ころに作成したという給料支払明細書(甲第一六四ないし第一六五号証)が提出されており、原告本人尋問の結果(第一回)によれば、昭和六〇年分の給料支払明細書は所得計算書(甲第一七四号証)の毎月の集計に基づいて作成し、昭和六一年及び六二年分については作業日誌(甲第一七二号証)に基づいて作成したことが認められる。

しかしながら、昭和六〇年分の作業日誌は既に廃棄されたとのことであるうえ、昭和六一年及び六二年分の作業日誌と給料支払明細書との間には、職人の作業日数にかなりの食違いが見られるから、右の給料支払明細書がどれだけ正確に職人への工賃の支払状況を再現したものであるのか疑問である。

また、公務員が職務上作成したことが明らかであるから真正に成立したものと推認される乙第二〇号証の二によれば、原告は、有川板金こと有川美秋に対して支払った工賃の領収書を外注費に関する領収書として本訴において提出し、同人に対しては別途給料支払明細書を作成して提出していることが認められ、同様に成立の認められる乙第二〇号証の四によれば、原告が伊藤茂次を職人として使用するのは年に一日か二日程度であるのに、同人に多額の工賃を支払ったことを示す給料支払明細書を作成して本訴において提出していることが認められるから、右給料支払明細書を採用して、これに記載のとおり原告が係争各年に職人に工賃の支払をしたものと認めることは困難である。

(二) 原告が本訴において主張している一般経費についてはその明細を明らかにせず、原告主張の売上金額に比準同業者の平均一般経費率を乗じた数値を一般経費とし、これに被告が主張した建物減価償却費、支払利息及び地代を合算した額を経費として主張している。しかし、前掲の甲第一号証、第一七四ないし第一七六号証及び原告本人尋問の結果(第一回)によれば、原告は、売上原価を除く経費に関する請求書や領収書を殆ど保管しておらず、本件処分に対する審査請求の際には係争各年の経費(一般経費と特別経費を合わせた経費)の額を、係争各年順に、売上の七パーセント、九パーセント、七パーセント(いずれも比準同業者の平均一般経費率よりも低い)と認識し、それによって計算した額を経費として主張していたことが明らかである。そして、審査請求時の主張額と本訴主張額とでは、別表26のとおり一〇〇万円ないし二〇〇万円以上の隔たりがあり、このような額の隔たりがある以上、原告が本訴で主張する経費の額が比準同業者の平均一般経費率と同様の額であると推認することはできないところであるから、原告が光熱水費、通信費、消耗品費、運搬費、電話料、広告費その他の一般経費の細目を明らかにしたうえで、これについて立証するのでなければ、原告主張の一般経費の存在及び数額を認定することは困難であるといわなければならない。

第四結論

以上の次第で、本件処分は適法であり、これに対する原告の所得実額の主張は採用できないから、原告の本訴請求をいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき行訴法七条及び民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 中込秀樹 裁判官 橋詰均 裁判官 武田美和子)

別表1

<省略>

別表2 被告主張の原告の売上金額

<省略>

別表3

昭和60年分同業者率算定表

<省略>

別表4

昭和61年分同業者率算定表

<省略>

別表5

昭和62年分同業者率算定表

<省略>

別表6 原告主張の事業収支(事業所得の実額主張)

<省略>

別表7 原告主張の売上金額の明細

<省略>

別表8 臼倉工務店に対する昭和60年分の売上の明細

No.1

<省略>

No.2

<省略>

別表8-2枚目 臼倉工務店に対する昭和60年分の売上の明細

No.3

<省略>

No.4

<省略>

別表9 臼倉工務店に対する昭和61年分の売上の明細

No.1

<省略>

No.2

<省略>

別表9-2枚目 臼倉工務店に対する昭和61年分の売上の明細

No.3

<省略>

別表10 臼倉工務店に対する昭和62年分の売上の明細

No.1

<省略>

No.2

<省略>

別表11 森建設に対する昭和60年分の売上の明細

<省略>

<省略>

別表12 森建設に対する昭和61年分の売上の明細

<省略>

<省略>

別表13 森建設に対する昭和62年分の売上の明細

<省略>

<省略>

別表14 その他の取引先に対する昭和60年分の売上の明細

<省略>

<省略>

別表15 その他の取引先に対する昭和61年分の売上の明細

<省略>

<省略>

別表16 その他の取引先に対する昭和62年分の売上の明細

<省略>

<省略>

別表17 昭和60年分の材料費の仕入の明細

材料仕入-((株)・武藤)

<省略>

材料仕入-((有)・岩木商店)

<省略>

別表17-2枚目 昭和60年分の材料費の仕入の明細

材料仕入-((株)・泉金物機材センター)

<省略>

材料仕入-(現金小口)

<省略>

別表18 昭和61年分の材料費の仕入の明細

材料仕入-((株)・武藤)

<省略>

材料仕入-((有)・岩木商店)

<省略>

別表18-2枚目 昭和61年分の材料費の仕入の明細

材料仕入-((株)・泉金物建材センター)

<省略>

材料仕入-(現金小口)

<省略>

別表19 昭和62年分の材料費の仕入の明細

材料仕入-((株)・武藤)

<省略>

材料仕入-((有)・岩木商店)

<省略>

別表19-2枚目 昭和62年分の材料費の仕入の明細

材料仕入-((株)・泉金物建材センター)

<省略>

材料仕入-(現金小口)

<省略>

別表20 昭和60年分の外注費の支払の明細

<省略>

別表21 昭和61年分の外注費の支払の明細

<省略>

別表22 昭和62年分の外注費の支払の明細

<省略>

別表23 昭和60年分の工賃の支払の明細

<省略>

別表24 昭和61年分の工賃の支払の明細

<省略>

別表25 昭和62年分の工賃の支払の明細

<省略>

別表26 事業所得に関する収支内訳の比較

<省略>

(別紙) 臼倉工務店に対する売上について

<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例