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東京地方裁判所 平成3年(行ウ)44号 判決 1991年9月30日

東京都三鷹市井口三丁目一四番一号

原告

榎本武男

東京都千代田区霞が関三丁目一番一号

被告

国税不服審判所長 杉山伸顕

東京都武蔵野市吉祥寺本町三丁目二七番一号

被告

武蔵野税務署長 永野重知

被告両名指定代理人

佐藤鉄雄

仲田光雄

被告国税不服審判所長指定代理人

河村秀尾

上田幸穂

被告武蔵野税務署長指定代理人

綱脇豊紀

郷間弘司

大島誠二

主文

一  本件訴えをいずれも却下する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

1  被告国税不服審判所長が平成二年二一日付けでした、被告武蔵野税務署長による同年七月九日付けの異議申立棄却決定に対する原告の審査請求をいずれも却下する旨の裁決を取り消す。

2  被告武蔵野税務署長が平成二年七月九日付けでした、原告の昭和六二年分及び昭和六三年分に係る各所得税の更正及び過少申告加算税の賦課決定に対する原告の異議申立てをいずれも棄却する旨の決定を取り消す。

3  訴訟費用は被告らの負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  本案前の答弁

主文同旨

2  本案の答弁

(一) 原告の請求をいずれも棄却する。

(二) 訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  被告武蔵野税務署長は、平成二年二月二七日付けで原告の昭和六二年分及び昭和六三年分に係る各所得税につき更正及び過少申告加算税の賦課決定(以下「本件各更正処分等」という。)をした。

2  原告は、本件各更正処分等に対し、同年四月二六日被告武蔵野税務署長に異議申立てをしたところ、同被告は、同年七月九日付けで右異議申立てをいずれも棄却する旨の決定(以下「本件決定」という。)をした。原告が本件決定があったことを知った日は同年八月一八日であった。

3  原告は、本件決定に対し、同年九月一七日被告国税不服審判所長に審査請求(以下「本件審査請求」という。)をしたところ、同被告は、同年一一月二一日付けで本件審査請求をいずれも却下する旨の裁決(以下「本件裁決」という。)をした。

4  しかし、本件決定及び本件裁決はいずれも違法である。

よって、原告は、本件決定及び本件裁決の各取消しを求める。

二  被告武蔵野税務署長の本案前の主張

異議決定は、国税通則法(以下「法」という。)七六条一号の不服申立てについてした処分に当たり、これに対して法七五条による不服申立てをすることはできないから、その取消しの訴えは、異議決定があったことを知った日から三か月以内に提起しなければならない(行政事件訴訟法一四条一項)。

そして、本件決定の決定書謄本は、平成二年八月一三日原告の自宅において直接本人に交付して送達され、原告はこれによって本件決定があったことを知った。

したがって、平成三年二月一八日に提起された本件決定の取消しを求める訴えは、出訴期間を徒過した不適法なものである。

三  被告国税不服審判所長の本案前の主張

右二のとおり本件決定が確定している以上、本件決定に対してされた本件裁決の取消しを求める訴えは、その実益がないので、不適法である。

四  請求原因に対する被告国税不服審判所長の認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2の事実中、原告が本件決定があったことを知った日が平成二年八月一八日であったことは否認し、その余は認める。原告が本件決定があったことを知った日は、同月一三日である。

3  同3の事実は認める。

4  同4の主張は争う。

五  被告国税不服審判所長の本案の主張

1  右二のとおり、異議決定に対しては法七五条に基づく不服申立てはできないから、本件決定に対してされた本件審査請求は不適法であり、したがって、これを却下した本件裁決は適法である。

2  また、法七五条三項の審査請求は、異議決定の決定書謄本の送達があった日の翌日から起算して一か月以内にしなければならない(法七七条二項)。

本件決定の決定書謄本が原告に送達されたのは平成二年八月一三日であるから、同年九月一七日にされた本件審査請求は不適法であり、したがって、これを却下した本件裁決は適法である。

六  被告国税不服審判所長の本案の主張2に対する原告の主張

法七七条二項の期間内に審査請求をしなかったことについて天災その他やむを得ない理由があるときは、審査請求は、その理由がやんだ日の翌日から起算して七日以内にすることができる(同条三項)。

そして、原告は、平成二年八月ころ、妻が病身であったため、未明から深夜まで農作業や家事等に多忙を極めていた。したがって、原告には、本件決定の決定書謄本の送達を受けてから一か月以内に本件審査請求をしなかったことについてやむを得ない理由があった。原告は、その理由がやんだ日の翌日から起算して七日以内である同年九月一七日に本件審査請求をしたから、本件審査請求は適法であり、これを却下した本件裁決は違法である。

七  原告の主張に対する被告国税不服審判所長の反論

法七七条三項の「やむを得ない理由」とは、同項がこれに当たる具体的な事由として「天災その他」を例示していることや、同条の不服申立期間の設けられた趣旨が租税法律関係の早期確定を図ろんとするという点にあることなどに照らすと、単なる不服申立人の主観的な事情では足りず、申立人が不服申立てをしようとしても、その責めに帰すべからざる事由によりこれをすることが不可能であったと認められるような客観的な事情の存在を意味するものと解すべきである。

原告がやむを得ない理由として主張するところは、いずれもその主観的事情をいうものに過ぎず、原告の責めに帰すべからざる客観的な事情てはないから、原告が本件決定の決定書謄本の送達を受けてから一か月以内に本件審査請求をしなかったことについてのやむを得ない理由には当たらない。

第三証拠

本件訴訟記録中の書証目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  本件裁決の取消しを求める訴えの適否について

原告の被告国税不服審判所長に対する訴えは、本件決定に対する審査請求を却下した本件裁決の取消しを求めるものであるが、本件決定は、税務署長のした処分についての異議申立てを棄却する決定(法八三条二項)であるから、法七六条一号にいう不服申立てについてした処分に当たることになる。したがって、同条に定めるところによりこれに対して法七五条に基づく不服申立てをすることはできないこととなる。そして、本件決定に対して審査請求をすることを認めるような他の法令の規定はない。そうすると、本件審査請求は、法律上そのような申立てをする権限が設けられていないのにもかかわらずされたものということになるから、適法とされる余地はない。

そうであれば、仮にそのような審査請求を却下した裁決を、それ自体に瑕疵があるとして判決によって取り消し、再度審査請求について審理をさせたとしても、その結果は再び裁決で審査請求が却下されること以外にはあり得ないから、右のような審査請求を却下した裁決の取消しを求める訴えは結局その利益を欠くものというべきである。

したがって、本件裁決の取消しを求める訴えは、不適法である。

二  本件決定の取消しを求める訴えの適否について

本件決定は、右一のとおり、法七五条に基づく不服申立てをすることができない処分に当たるから、その取消しの訴えは、本件決定があったことを知った日から三か月以内に提起しなければならい(行政事件訴訟法一四条一項)。

そして、本件訴えが平成三年二月一八日に提起されたことは当裁判所に顕著である。

そこで、原告が本件決定があったことを知った日がいつであるかについてみるに、成立に争いのない乙第二号証の送達記録書によれば、本件決定の決定書謄本は平成二年八月一三日原告の自宅において原告に交付され、原告が右送達記録書に受取人として署名押印した事実が認められ、右認定事実によれば、原告は、同日、本件決定があったことを知ったものと推認すべきである。

そうすると、本件決定の取消しを認める訴えは、原告が本件決定のあったことを知った日から三か月を経過した後に提起されたものと認められるから、不適法である。

三  結語

以上によれば、本件訴えはいずれも不適法であるから、これを却下することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 中込秀樹 裁判官 石原直樹 裁判官 長屋文裕)

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