東京地方裁判所 平成4年(ル)1250号 決定 1992年4月08日
当事者
別紙当事者目録に記載のとおり
主文
本件申立を却下する。
申立費用は申立人の負担とする。
理由
1 申立の内容
(1) 債権者は、別紙請求債権目録記載の公正証書を債務名義とし、同公正証書第四条に表示されているという債権を請求債権として、債務者の第三債務者に対する別紙差押債権目録記載の債権を差し押えるよう求めた。
(2) 上記公正証書は、本件の債権者外一名を甲らとし、本件の債務者を乙として、概ね以下の趣旨の契約を締結した旨を記載したものである。
第一条 甲らは乙に対し、甲ら所有の宅地(ア土地)とそれに隣接する国有地(イ土地)を売り渡した。
第二条 甲らは国からイ土地の払下等を受けたうえ、平成四年八月末日までに乙に対し、その所有権移転登記ができるよう努力する。
第三条 甲らは乙から売買代金全額を受領し、その一部である一八五〇万円を、イ土地の所有権移転登記が済むまで、銀行(本件の第三債務者)に甲らと乙との共同名義で預託(定期預金とする)する。
第四条 甲らが平成四年八月末日までに国からイ土地の所有権を取得したうえ、これを乙に移転し、その所有権移転登記を経由したときは、甲らは前条記載の一八五〇万円を売買代金の一部として取得するものとする。
第五条 甲らが平成四年八月末日までに国からイ土地の所有権を取得し、乙に所有権移転登記をすることができないときは、イ土地の売買契約は解除されたものとみなし、甲らは乙に対し、第三条記載の一八五〇万円を返還する。なお預託(定期預金)中の一八五〇万円の預金債権は、乙が取得する。
第六条 甲ら及び乙は、本証書記載の金銭債務を履行しないときは、直ちに強制執行に服する。
(3) そしてこの公正証書には、第四条記載の事実の到来したことが証明されたとして、執行文が付されている。
2 本件申立を却下した理由
当裁判所は、本件申立を理由がなく、却下すべきものと判断する。その根拠は次のとおりである。
本件の債務名義とされた公正証書の第四条には、甲ら(債権者外一名)が乙(債務者)から受領する売買代金の一部である一八五〇万円(両者の共同名義の定期預金とすることが予定されている。)を甲らが売買代金の一部として取得するものとすると記載されている。これは要するに、上記金員またはそれが姿を変えたものである定期預金について、これが確定的に甲らに帰属し、乙に帰属する可能性はなくなることを意味するに過ぎず、甲らの乙に対する給付請求権が表示されていると解することはできない。
このことを別の面から説明すると、次のようになる。すなわち、公正証書の記載上は、第四条の事実が到来したときも、乙は銀行預金に対する権利を失う旨が定められているだけであって、それ以上に、新たに金銭の給付をすることは予定されていない。にも拘らず、第四条に給付請求権の表示があると解し、その請求を認めることは、乙に予想外の不利益を与えるものである。
よって本件の公正証書は、金銭の支払を目的とする請求について作成されたもの(民事執行法二二条五号)とは認められない。
(裁判官 村上正敏)
別紙 当事者目録
債権者 林秀昭
債務者 株式会社モリアート
代表取締役 森覚純
第三債務者 株式会社協和埼玉銀行
代表取締役 常見知生
別紙 請求債権目録
東京法務局所属公証人甲野一郎作成平成二年第三五四号公正証書に表示された下記金員
(1) 元本金 九、二五〇、〇〇〇円ただし第四条の残金
(2) 利息金 円
上記(1)に対する昭和 年 月 日から同年 月 日まで年 割 分の割合による利息金
(3) 損害金 円
上記(1)に対する昭和 年 月 日から同年 月 日まで年 割 分の割合による損害金
(4) 執行費用 金 六八七〇円
内訳
本申立手数料 金三〇〇〇円
資格証明書交付手数料 金一二〇〇円
差押命令送達料 金二二四八円
本申立提出費用 金四二二円
合計金 九、二五六、八七〇円
別紙 差押債権目録
金九、二五六、八七〇円
債務者が第三債務者(吉祥寺支店扱)に対して有する定期預金、定期積金、通知預金、普通預金、当座預金、別段預金の各債権のうち左に記載の順序で、かつ同種の預金は口座番号の若い順序で頭書金額にみつるまで。