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東京地方裁判所 平成4年(ワ)10674号 判決 1994年4月27日

東京都大田区田園調布南一三番九-八〇七号

甲事件及び乙事件原告

株式会社白磁社

右代表者代表取締役

松本久吾

右訴訟代理人弁護士

飯田秀人

松岡靖光

大阪市中央区本町三丁目四番八号

甲事件被告

岩谷産業株式会社

右代表者代表取締役

齋藤興二

長野県松本市大字笹賀三〇三九番地

甲事件被告

株式会社泉精器製作所

右代表者代表取締役

泉俊二

東京都新宿区新宿三丁目一四番一号

甲事件被告

株式会社伊勢丹

右代表者代表取締役

小柴和正

東京都千代田区二番町一番地

甲事件被告

株式会社グループ・七一

右代表者代表取締役

錦本敏夫

東京都千代田区神田錦町三丁目二二番地二

乙事件被告

株式会社博報堂

右代表者代表取締役

磯邊律男

東京都中央区八丁堀二丁目七番一号

乙事件被告

イワタニライフアップ株式会社

右代表者代表取締役

宮川仁博

右六名訴訟代理人弁護士

畑良武

堀井昌弘

被告株式会社伊勢丹輔佐人弁理士

松原伸之

村木清司

東京都新宿区河田町三番一号

甲事件被告

株式会社フジテレビジョン

右代表者代表取締役

日枝久

右訴訟代理人弁護士

渡部喬一

小林好則

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  被告岩谷産業株式会社(以下「被告岩谷産業」という。)及び被告イワタニライフアップ株式会社(以下「被告イワタニ」という。)は、いずれも別紙第二目録記載のフードミキサー(以下「被告製品(一)」という。)及び同第三目録記載のフードミキサー(以下「被告製品(二)」といい、被告製品(一)及び(二)をまとめて「被告製品」という。)を製造、販売、広告宣伝してはならない。

二  被告株式会社泉精器製作所(以下「被告泉精器」という。)は、被告製品を製造、販売してはならない。

三  被告株式会社伊勢丹(以下「被告伊勢丹」という。)は、被告製品を販売してはならない。

四  被告株式会社フジテレビジョン(以下「被告フジテレビ」という。)及び被告株式会社グループ・七一(以下「被告七一」という。)は、いずれも被告製品の広告宣伝をしてはならない。

五  被告株式会社博報堂(以下「被告博報堂」という。)は、被告製品の広告宣伝の代理又は媒介をしてはならない。

六  被告らは、原告に対し、連帯して金二億円及びこれに対する昭和六二年八月三一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二 事案の概要

本件は、原告が、主位的に、被告らそれぞれに対し、その製造販売する別紙第一目録記載のフードミキサー(商品名スリーペット。以下「原告製品」という。)の形態が原告の商品表示として周知であるとして、不正競争防止法一条一項一号及び同法一条の二第一項により被告製品の製造、販売、広告宣伝等の差止及び損害賠償を求め、予備的に、被告フジテレビ、被告七一、被告博報堂に対し、広告媒体業務に携わる者の調査義務違反等を理由とする不法行為に基づく損害賠償を請求している事案である。

一  争いのない事実及び括弧内の認定根拠により認められる事実

1  原告は、昭和五八年二月ころから、原告製品を製造販売し、現在に至っている。(弁論の全趣旨)

2(一)  被告泉精器は、昭和六三年春ころから被告製品(一)(商品名ミルサー)を、平成二年八月一日から被告製品(二)(商品名ミルサーⅡ)を、それぞれ製造販売している。

(二)  被告岩谷産業及び被告イワタニは、いずれも右(一)のころから、被告製品(一)及び(二)をそれぞれ販売し、広告宣伝しており、また、今後、右製品を製造するおそれがある。

(三)  被告伊勢丹は、平成元年四月ころから被告製品(一)を、同二年八月ころから被告製品(二)を販売している。

(四)  被告フジテレビは、平成三年一一月ころから同五年九月ころまでの間、被告製品についての広告用フィルムをテレビにおいて放映した。

(五)  被告七一は、平成三年一〇月ころ、被告製品のテレビ放映用の広告に女優浜木綿子を出演させた。

(六)  被告博報堂は、右(五)のころ、被告製品(一)及び(二)の広告のテレビ放映についての媒介行為をなし、特定のテレビ局をして右の広告用フィルムを放映させた。(いずれも争いがない。)

二  当事者の主張

1  原告

(一)  主位的請求について

(1) 原告は、昭和五八年二月二〇日ころから、原告製品を有名百貨店及びスーパーを含む全国の小売店を通じて販売しており、次のアないしオ記載の原告製品の形態的特徴は、遅くとも昭和六〇年初めころ、原告の商品であることを示す表示として、わが国において周知となっている。

ア 主要構成は、本体駆動部、作動部、容器部、スイッチカバー部に分かれ、付属品として容器蓋、ヘラが付いている。

イ 本体駆動部は、不透明で、内部は外からは見えない。その内部には、小型モーターが内蔵して取り付けられ、そのコードは下部から外部に出ており、本体駆動部全体は概して円筒形ないしは幾らかの変形部分がある。その上部には、作動部に連結し回転動力を伝達するための装置が付いている。また、この上部には、始動するためのスイッチの頭部分が出ている。このスイッチを直接押すことはできないようになっており、このスイッチは、スイッチカバーのスイッチボタンと連動する構造になっていて、すべての構成部分を組み立てた後、スイッチカバーのスイッチボタンを押すことによって始動させることができる。

ウ 作動部の下部には、本体駆動部と連結連動する装置があって、作動部の中心にある軸に本体駆動部の回転が伝わり、その軸は、作動部上面において物を粉砕するための羽様の歯に直結されていて軸の回転はそのまま羽様の歯を回転させる。この作動部上面周辺の内部にはネジがあり、これによって容器部分と嵌合するようになっている。また、その部分の周辺内部にはゴムのパッキングを施し、容器部分と密着する構造になっており、右のネジ嵌合とゴムのパッキングによって容器内は気密に保たれる。

エ 容器部分は透明で、容器内部の状況がよく見えるようになっている。その外部下部には、作動部内部のネジと嵌合するようになっているネジがあり、内部は上部に向かって内側に傾斜し、その内側には縦方向に断面が三角山形様の突起が四本施されている。

オ スイッチカバーは、容器内部が確認できるように透明で、その外側にスイッチボタンがあり、このボタンにより本体駆動部上部のスイッチと連動してこれを作動させることができる構造になっている。このような構造により、回転部分が露出したままではスイッチが作動せず、安全が確保される。

(2) 被告製品(一)及び(二)の形態は、ほぼ前記アないしオ記載のとおりであり、原告製品の形態に類似している。なお、原告が昭和六二年一〇月末に原告製品に大型容器を付加したものを発売したところ、被告らは、同六三年一〇月にこれを模倣して大型容器を付加したものを発売している。

(3) 被告フジテレビ、被告七一、被告博報堂の前記広告宣伝行為は、不正競争防止法にいう「拡布」に該当する。したがって、被告らの前記一2の各行為は、共同して原告製品と被告製品との混同を生ぜしめる行為であり、原告は、これにより営業上の利益を害されている。

(4) 被告らは、故意又は過失により共同して被告製品(一)を製造、販売ないし広告宣伝したことにより原告が被った損害を連帯して支払うべき義務を負う。

(5) 原告が被った損害は、被告らが被告製品(一)を製造販売したことにより得た利益の額であるところ、被告らが販売した被告製品(一)は、被告伊勢丹を通じて販売した分だけでも、昭和六三年春ころから現在まで少なくとも二万五〇〇〇個であり、また、被告製品の定価は一万円で、被告製品一個販売することにより得られる利益は八〇〇〇円であるから、被告らは、右行為により少なくとも二億円の利益を得ている。

(二)  予備的請求について

仮に、被告フジテレビ、被告七一、被告博報堂の被告製品(一)及び(二)の広告宣伝行為が、不正競争防止法一条一項一号にいう「拡布」に当たらないとしても、右被告らは、商品の広告宣伝をするに当たり、消費者がその広告を軽信して購買活動に入り、それによって不測の損害を被ることのないように、広告内容の真実性に留意し、広告商品の内容、種類、性質によっては、広告媒体業務に携わる者として社会通念上必要かつ相当と認められる調査、確認の措置を施すべき義務があるのに、本件訴状の送達を受けた後もこれを怠り、故意又は重過失により漫然と広告宣伝行為を継続したものであるから、これにより原告が被った前記(一)(5)の損害を賠償すべき義務を負う。

2  被告ら

(一)  主位的請求について

(1) 原告製品の形態は周知ではない。また、被告岩谷産業は、昭和六三年から別紙第五目録記載のとおりの宣伝広告を行ない、かつ、被告製品を昭和六三年度約一六万台、平成元年度約二六万台、同二年度約五一万台、同三年度約七〇万台販売しているものであり、むしろ被告製品の方が周知であり、原告の名声を利用しているわけではない。

(2) 被告製品の形態は、原告製品の形態と類似していない。すなわち、原告製品は、本体部分は緑色ないし水色の一色であり、その外観は旧くから用いられている水筒を直感させる円筒形であり、全体として単調で、また、掴みがってが悪く不安定な感じを抱かせるのに対し、被告製品(一)は、本体部分は、アイボリーを基調とし、その下端部にある広幅の黒帯状のバンドの黒色と強いコントラストをなしているとともに、その外観は、前後面が偏平状で、左右側面がゆるやかに膨らむ太鼓を連想させ、その上部に位置するキャップ部分は穏やかに湾曲する伏椀状をなし、全体として落ち着いた穏やかな感じを抱かせるものであり、また、被告製品(二)は、前方後円柱形をなし、その下方から接地部分にかけて横に広がる張出部が形成されているので、全体に奥行が深くどっしりとした安定感を抱かせるものである。なお、被告製品の正確な寸法は、別紙第四目録記載のとおりである。

(3) 被告製品をテレビ等で宣伝広告しているのは、被告岩谷産業であって、被告七一あるいは被告博報堂ではない。すなわち、被告七一は、被告岩谷産業の依頼でその宣伝広告に女優浜木綿子を出演させているだけである。また、被告博報堂は、被告岩谷産業が製作した被告製品のテレビの宣伝広告画像を被告フジテレビを通じて放映することについて媒介行為をしているだけである。したがって、被告七一及び被告博報堂は、被告製品の拡布をしていない。

(4) 意匠権の行使(抗弁)

被告岩谷産業は、被告製品(一)及び(二)についてはそれぞれ意匠権(登録番号第七九六一四五号、同第八八三七八〇五号)を取得しており、被告製品(一)及び(二)の製造販売は、右各意匠権の行使に当たる。

(5) 消滅時効(予備的抗弁)

原告は、平成四年六月二三日に本訴を提起しているものであるから、平成元年六月二二日以前の被告らの行為を原因とする損害賠償請求権は、時効により消滅しているものであり、被告らは、右時効を援用する。

(二)  予備的請求について

商品の宣伝広告に関与することが不法行為を構成すると考えられる場合とは、宣伝広告されている商品ないし役務が、社会通念に照らし、明白に公序良俗等に反する違法不当な商品ないし役務であると認識できる場合、及び、判決等で商品、役務の違法性、不当性が確定しており、かつ、そのことが認識されている場合に限定されるというべきである。

三  争点

1  原告製品の形態の原告商品表示としての周知性

2  原告製品と被告製品(一)及び(二)との形態の類似性

3  原告製品と被告製品(一)及び(二)との誤認混同のおそれ

4  被告フジテレビ、被告博報堂、被告七一の行為が、不正競争防止法における拡布に当たるか。

5  右4の被告らの行為は、不法行為に当たるか。

6  被告岩谷産業の行為は、意匠権の行使に当たるか。

第三 判断

一  主位的請求について

1  原告製品の形態の周知性について

原告製品の売上数量、販売高、広告宣伝の方法ないし態様その他社会において原告製品の形態が原告の商品表示として広く認識されていることがいずれも証拠上明らかではなく、本件全証拠によるも、原告が主張する原告製品の形態が原告の製品であることを示す周知商品表示であることを認めるに足りる証拠はない。(なお、弁論終結後に原告が取り調べを申し出た書証の写を検討してみても右の結論に影響があるとはいえない。)

2  形態の類似性について

原告製品の形態は、略円筒状の本体駆動部、その上部に接続する二枚の回転刃からなる作動部、作動部にかぶせられた透明なやや口径の小さい円筒容器状の容器部、容器部の外側にかぶせられた透明なやや口径の大きい円筒容器状で周壁の外側の一箇所に小長方形状のスイッチボタンがついているスイッチカバー部からなり、全体として上部約三分の一が透明のわずかに先細りではあるがほぼ単純な円筒形である。

これに対し、被告製品(一)は、原告製品と同様に本体駆動部、その上部に接続する二枚の回転刃からなる作動部、作動部にかぶせられた透明なやや口径の小さい円筒容器状の容器部、容器部の外側にかぶせられた透明なやや口径の大きい円筒容器状で周壁の外側の一箇所に小長方形状のスイッチボタンがついているスイッチカバー部からなっているものの、本体駆動部は、平面視において長辺が外方へゆるやかに膨出した長方形の柱状で、その基部は段状に一回り大きくなっており、スイッチカバー部の下部は本体駆動部の平面視の形状に拡がっていて、更にスイッチカバー部及び容器部の上縁はゆるやかに湾曲しており、全体として、前後面が偏平面で左右側面がゆるやかに膨らんだ柱状の本体駆動部の上部に透明な伏椀状のスイッチカバー部、容器部が載置された形態であって、原告製品の前記のようなほぼ単純な円筒形の形態とは全体として類似していない。

また、被告製品(二)は、原告製品と同様に本体駆動部、その上部に接続する二枚の回転刃からなる作動部、作動部にかぶせられた透明なやや口径の小さい円筒容器状の容器部、容器部の外側にかぶせられた透明のスイッチカバー部からなっているものの、本体駆動部は平面視で略前方後円形の柱状で、その基部はやや裾広がりに一回り大きくなっており、スイッチカバー部のうち、平面視円形部分は高く、平面視略方形部分は低く、かつ、スイッチカバー部及び容器部の上縁はゆるやかに湾曲しており、全体として略前方後円柱形の本体駆動部の上部に、円柱部は高く略方柱部は低い段差のある透明なスイッチカバー部、容器部分が載置された形態であって、その形態は前記のような原告製品の形態と異なるものであることは明らかである。(検乙一の一及び二の各1ないし3、同一の三の1ないし5、同一の四の1ないし3)

3  よって、原告の不正競争防止法に基づく請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がない。

二  予備的請求について

被告岩谷産業らが被告製品を製造、販売、宣伝広告したことについての原告の不正競争防止法に基づく請求が理由がないことは前記一認定のとおりである以上、被告フジテレビ、被告博報堂、被告七一が被告岩谷産業らによる被告製品の広告宣伝になんらかの形で関与していたとしても、これについて不法行為を認める余地はない。

よって、原告の被告フジテレビ、被告博報堂、被告七一に対する不法行為に基づく予備的請求も理由がない。

第一目録

<省略>

第二目録

<省略>

第三目録

<省略>

第四目録

<図面<1>>

<省略>

<図面<2>の1>

<省略>

<図面<2>の2>

<省略>

第五目録

メディア別「ミルサー」掲載データ

平成4年7月17日 技術部

1988年(昭和63年) 1989年(平成元年) 1990年(平成2年) 1991年(平成3年) 1992年(平成4年)

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(裁判長裁判官 西田美昭 裁判官 設樂隆一 裁判官 大須賀滋)

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