東京地方裁判所 平成4年(ワ)17839号 判決 1993年8月10日
原告
杉山俊一
右訴訟代理人弁護士
林千春
被告
東都観光企業株式会社
右代表者代表取締役
宮本繁樹
右訴訟代理人弁護士
高山征治郎
同
東松文雄
同
亀井美智子
同
中島章智
同
野島正
同
枝野幸男
主文
一 被告は、原告に対し、金二二〇〇万円及びこれに対する平成四年二月二日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第一請求
主文同旨。
第二事案の概要
原告は、被告に対し、ゴルフ会員契約を解除し、入会金と預託金及びこれらに対する契約解除の日の翌日から支払済みまで民法所定の遅延損害金の返還を求めた。
一争いのない事実
1 原告は、昭和六二年五月八日、被告が経営管理するゴルフ場「東都飯能カントリー倶楽部」(以下「本件ゴルフ場」という)。の第一次個人正会員の募集に応じ、入会契約をした(以下「本件入会契約」という)。
原告は、被告に対し、平成三年八月九日までに、入会金三〇〇万円、預託金一九〇〇万円の合計二二〇〇万円を支払った。
2 原告は、被告に対し、平成四年二月一日到達の書面により、債務不履行を理由として、本件入会契約を解除する旨の意思表示をした(以下「本件解除」という)。
二原告の主張
1 被告には、以下の債務不履行があった。
(1) 本件ゴルフ場は、昭和六三年秋に完成(開場ではない。)予定とされていたものであるところ、造成工事等の遅延により、平成二年一二月には、平成三年梅雨明けに完成・開場(以下「オープン」ともいう。)予定と変更されたが、予定を半年過ぎても完成・オープンしなかった。
(2) 本件ゴルフ場のコースは、フラットなコースで、高低差一〇メートル以内ということで募集されたが、高低差一〇メートル以上二〇メートル未満のホールが二ホール、二〇メートル以上が九ホールあり、高低差が四一メートルあるホールもある。
(3) 本件ゴルフ場は、戦略性に富んだ魅力のあるコースであるとともに、資産価値の高い名門コースにするとのふれ込みで募集されたものであるが、度重なる設計変更により、魅力のないものとなっており、会員権の相場も、八五〇万円程度で低迷している。
(4) 本件ゴルフ場の用地は、一〇〇パーセント社有地として募集されたにもかかわらず、一部が借地である。
2 動機ないし要素の錯誤
原告において、前記(1)ないし(4)の事実を知っておれば、本件入会契約を締結することはなかった。
三被告の反論
1 本件ゴルフ場は、平成三年七月二五日、オープンした。なお、オープンの遅延は、進入路である市道の完成の遅れ等によるものであって、被告の責に帰すべき事由によるものではない。
2 本件ゴルフ場のコースのレイアウトは、契約の内容ではない。
3 本件ゴルフ場の用地は、買収見込みの土地を含めると、98.4パーセントが社有地であり、残りの借地も会員の利用権行使に全く影響のない土地である。
四争点
1 本件解除は有効か。
2 本件入会契約は錯誤により無効か。
第三判断
一本件解除の有効性について検討する。
1 証拠(<書証番号略>、証人坂入、原告)によると、本件ゴルフ場のオープンまでの経緯は、以下のとおりであると認められる。
(1) 本件ゴルフ場のオープン予定時期は、昭和六四年秋であった(<書証番号略>)。
(なお、原告は、「来秋(昭和六三年)、一八ホール完成!」との本件ゴルフ場の広告(<書証番号略>)及び「完成 昭和六三年秋予定」との募集要項(<書証番号略>)により、本件入会契約を締結したものであるが、その後の募集要項では、「開場 昭和六四年秋」になっているから、原告との関係でも、昭和六四年秋がオープンの予定時期として約されていたとみるべきである)。
(2) ところが、本件ゴルフ場の完成・オープンは、進入路の完成の遅延や調整池予定地の買収が不能となり、オープン予定時期の昭和六四年秋を過ぎても、完成せず、オープンされなかった。
(3) 原告等会員は、平成三年七月二五日になって、ようやく、本件ゴルフ場でプレーすることができるようになったが、工事完了公告前に使用しないことが本件ゴルフ場の開発行為変更許可の条件であった(被告が自認するところである。)ところ、右時点においては、許認可庁である埼玉県知事から、工事完了検査済証の交付されておらず、右条件が充たされていなかったところから、本件ゴルフ場の使用は憚られ、「視察プレー」の名目で会員にプレーをさせたものであって、スタート時間も平均的なゴルフ場とは異なり、午前一〇時から(遅くとも、九時からプレーできることは、合理的な期待の範囲内である。)であり、ビジターの同伴も叶わなかった。
(4) 原告等会員が、午前八時からプレーできるようになったり、ビジターを同伴してプレーできるようになったのは、被告が工事完了検査済証の交付を受けた平成四年七月六日以降であった。
なお、被告は、本件ゴルフ場のオープンの遅延は、進入路の市道の完成の遅れと調整池予定地の買収の遅れによるものであって、被告の責に帰すべき事由によるものではない旨主張するが、市道の完成の遅れも調整池予定地の買収の遅れも、結局のところ所有者が思惑に反し買収に応じなかったことによるものであって、そのような事態は当初から当然予測し得べきものであったというべきである(<書証番号略>、証人坂入)から、被告の主張は理由がない。被告の判断の誤りというほかない。
また、被告は、視察プレーが可能になった時点において、本件ゴルフ場はオープンされた旨主張するが、前記(3)、(4)のとおり、右時点において、その実質が正規のオープンと変わらぬものであったとは認め難い(なお、仮に変わらぬ実質のものであったとすれば、開発許可の条件に反するものであり、そのような状態でプレーすることを潔しとしない者もあるであろう)。
2 また、証拠(<書証番号略>、証人坂入、原告)によると、本件ゴルフ場のコースのレイアウトは、以下のとおり、当初の予定から変更されたものと認められる。
(1) 本件ゴルフ場は、高低差の少ないいわゆるフラットなコースとして公告・募集されたものであり、パンフレット(<書証番号略>)の表示によると、下りでは、高低差が一〇メートルを超えるコース(ただし、一五メートル以下)が四コース(一番、一一ないし一三番)あったが、上りでは、一コースもないことになっていた。
(2) ところが、完成したコースの高低差をみると、下りでは、二〇メートル以上のコースが四コース(一番、五番、一一番、一四番、一一番は四一メートルもある。)、上りでは、四コース(四番、一二番、一三番、一六番、一二番と一三番とは併せて五二メートル上りになっている。)であり、本件解除後オープン後二か所にベルトコンベアーが設定されるなど、フラットなコースとはいい難い。
なお、被告は、コースのレイアウトは本件入会契約の内容になっていない旨主張するが、レイアウトは、入会契約を締結するにあたって重要な要素であり、それが全く契約の内容ではないとは認め難い。被告代理人がいみじくも指摘しているように、コースの良否については定説がない(加えて、プレーヤーの年齢、体力、技量等により、選択は異なるはずである。)から、入会者の選択が重視されるべきである。したがって、本件ゴルフ場が、女子プロのトーナメントの会場にも選ばれ、それなりの評価を受けている(<書証番号略>)からといって、レイアウトの著しい変更が不問に付されてよいものではない。
3 また、証拠(<書証番号略>、証人坂入)によると、本件ゴルフ場の募集要項には、「用地面積 一〇〇パーセント社有地」とされていたものであるところ、本件ゴルフ場の用地は、現在でも、買収予定地を含めると約九五パーセントは社有地ではあるが、その余は借地であると認められる。
4 以上によると、被告は、(1)本件ゴルフ場を、昭和六四年秋にオープンすると約しながら、これを怠り、約一年一〇か月を経過した平成三年七月二五日に至ってようやく視察プレーの名目で使用を可能ならしめたに過ぎず、平成四年七月までは完全な状態でオープンできなかったばかりか、(2)本件ゴルフ場を、フラットなコースにするとして募集しながら、かなりアップダウンのあるコースに設計変更し、(3)更には、本件ゴルフ場の用地を、一〇〇パーセント社有地とするとして募集しながら、それを充たさなかったものであるから、被告に債務不履行があることは明らかであるところ、(3)の点はともかく、(1)、(2)の点は看過し難い義務違反であるから、本件解除は有効というべきである(右不履行の性質上、催告は不要である)。
二以上によると、原告の請求はその余の点について判断するまでもなく理由があるから、主文のとおり判決する(なお、仮執行宣言は、相当でないからこれを付さない)。
(裁判官佐藤嘉彦)