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東京地方裁判所 平成4年(ヲ)2116号 決定 1992年3月13日

当事者 別紙当事者目録記載のとおり

主文

相手方は、買受人が代金を納付するまでの間、別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)について、現状を変更し、占有を移転し、賃借権を設定しまたはその設定の仲介をする等の行為をしてはならない。

理由

一申立人の本件申立の趣旨及び理由は、別紙「保全処分命令申立書」記載のとおりである。

二よって、判断するに、一件記録によれば、次の事実が疎明される。

(1)  申立人は、申立外株式会社コスモエンタープライズ(以下「所有者会社」という。)所有の本件土地について、平成三年二月二七日、当庁に、抵当権実行としての競売の申立をし、同年三月一日競売開始決定がなされた。

(2)  当裁判所は、平成三年六月二五日、本件土地につき、最低売却価額を一〇億六〇四三万円と定め、同年八月二九日、売却実施命令(期間入札、開札期日同年一一月一三日)を発したが、適当な入札がなかったので、補充評価のうえ、平成三年一二月五日、最低売却価額を五億三〇二二万円と定め、平成四年一月九日、再度入札期間を同年三月五日から同月一二日まで、開札期日同月一九日として期間入札の方法による売却実施命令を発した。

(3)  所有者会社は現在事務所等を有しておらず、代表者も次々と交替している。

(4)  所有者会社は、平成四年一月八日ころから、同月一〇日ころまでの間に、更地で一部草の繁茂する状態であった本件土地に、砂利を敷きつめ、上からローラーで固める工事を行い、更に本件土地にビニールロープで車一四台分相当の区画に区切った。

(5)  そこで、申立人は、平成四年一月一六日に、当庁に、所有者会社のこのような行為は本件土地を有料駐車場として第三者に賃貸する準備行為であり、買い受けの申し出を妨げ、不当に本件土地の価格を減少させることを目的としたものであるとして、本件と同旨の保全処分の申立をした。当裁判所は、同月二〇日金二〇〇万円の担保を立てさせたうえ、これを認容する保全処分命令を発した。同命令は、同年二月二一日所有者会社に送達された(付郵便送達)。

(6)  相手方は、不動産の売買、賃貸の仲介・管理等を業とするものであり、またその本店所在地が、東京都港区麻布十番四丁目六番五号であることからして、港区南麻布に所在する本件土地が競売物件であることは知っているものと考えられるが、平成四年二月二九日ころから、本件土地の境界上の金網に、「本件土地が月極駐車場であり、連絡先が相手方である」旨の掲示を行った。同年三月七日には、一台の自動車が駐車していた。

三以上の事実、すなわち、①現在、本件競売手続は、二回目の売却実施命令が発せられ、入札期間が経過した直後であること、②既に所有者会社に対し、本件と同旨の保全処分命令が発せられていること、③本件土地の所在地、相手方の本店所在地、相手方の営業内容からして、相手方は本件土地が競売物件であることを知っていると考えられること、などを総合すれば、所有者会社は、本件競売手続を妨害する意図のもとに、本件土地を有料駐車場として賃貸しようとしているものであり、相手方は本件土地が競売物件であることを知りながら、所有者会社から、本件土地を有料駐車場として賃貸することの委託を受けて、本件土地を管理・占有しているものと推認される。このように、相手方は、所有者会社と一体となって、あるいはその占有補助者として、本件土地を管理・占有し、これを有料駐車場として賃貸しようとしているものであるから、このような者は民事執行法五五条の売却のための保全処分の相手方(対象)となるというべきである。

ところで、更地を第三者が占有するに至った場合には、買受人の出現が困難になることは顕著な事実であり、そのために、土地の価値は著しく減少することになる。本件土地についても、これと別異に判定すべき事情は存しない。以上によれば、相手方の行為は、本件土地の価格を著しく減少させようとするものなので、当裁判所は、申立人に金三〇万円の担保を立てさせたうえ、主文のとおり決定する。

(裁判官松丸伸一郎)

別紙当事者目録

申立人(差押債権者) 三菱信託銀行株式会社

代表者代表取締役 林宏

支配人 矢野豊

申立人(差押債権者)代理人弁護士 三宅省三

同 今井健夫

同 池田靖

同 桑島英美

同 矢嶋髙慶

同 竹村葉子

相手方 麻布ハウジング株式会社

代表者代表取締役 清水洋治

別紙物件目録

所在 東京都港区南麻布参丁目

地番 壱四四番六八

地目 宅地

地積 264.48平方メートル

別紙保全処分命令申立書

申立の趣旨

相手方は、別紙物件目録記載の不動産に対し、現状の変更、占有の移転、賃借権の設定、その他価額の減少をきたすような行為をしてはならない。

申立の理由

1、申立人は、平成三年二月二七日、申立外株式会社コスモエンタープライズ(以下コスモエンタープライズという)所有の別紙物件目録記載の不動産(以下本件土地という)に対し、御庁に抵当権実行としての競売を申立て、平成三年(ケ)第二五三号事件として平成三年三月一日競売開始決定がなされ、現に係属中である。

2、コスモエンタープライズは、平成四年一月八日ころから同一〇日までの間に更地であり地上には一切の加工の残のなかった本件土地に、砂利を敷きつめ上からローラーで固める工事を行い、さらにビニールロープで車一四台分相当の区画に区切った。

申立人は御庁に対し、平成四年一月一六日、コスモエンタープライズのこのような行為は本件土地を有料駐車場として第三者に賃貸する準備であり、買受の申出を妨げ不当に本件土地の価格を減少させることを目的としたものであるとして保全処分申立(平成四年(ヲ)第二〇一七号事件)を行い、同月二〇日決定がなされた。

上記決定は、同年二月二一日相手方に送達された。

3、しかし、相手方は、同年二月二九日ころより本件土地の境界上の金網に月極駐車場の表示を行い、本件土地を駐車場として賃貸する旨の表示を行った。

現に、同年三月七日には一台の自動車が駐車されている。

4、相手方が、コスモエンタープライズから本件土地を賃借したのか、単にコスモエンタープライズの委託を受けて本件土地を管理しているのかは明らかではないが、相手方は本件土地の占有者ないしは占有補助者である。

5、前記不動産競売事件の入札期間は平成四年三月五日より同一二日までであり、同月二六日が売却決定期日である。

従って、相手方が入札期間中である現在において本件土地を有料駐車場として賃貸し始めたことは、賃借人の存在により買受の申出を妨げ不当に本件不動産の価格を減少させることを目的としたものである。又、仮りにそうでなかったとしても、一四名の賃借人が存在した場合、本件土地の現実的価格は著しく減少する。

なお、現在賃借人は駐車中の一名であったとしても、都内における駐車場不足の状態においては直ちに他の賃借人も決定してしまう。また、後に賃借人が他に駐車場を見つけ、自動車を移動することは困難が予測される。

6、このように相手方の行為は、本件土地の価値を著しく減少するおそれのある行為であり、このまま放置することは本件土地の換価に影響をきたすものである。

7、よって、申立人は、民事執行法第五五条に基づき申立の趣旨記載のとおりの裁判を求める。

添付書類

1、現認報告書 一通

2、写真 六枚

3、決定写し 一通

4、不動産登記簿騰本 一通

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