大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成4年(ヲ)2449号 決定 1992年9月08日

申立人 乙山株式会社

代表者代表取締役 甲野太郎

申立人代理人弁護士 篠崎芳明

同 小川秀次

同 金森浩児

同 古田利雄

同 小川幸三

相手方 株式会社丁原

代表者代表取締役 丙川春夫

<ほか一名>

別紙物件目録記載の不動産に対する当庁平成四年(ケ)第二六三八号土地競売事件につき、売却のための保全処分命令の申立があったので、相手方らのためにそれぞれ金五〇万円の担保を立てさせて、次のとおり決定する。

主文

一  相手方らは、買受人が代金を納付するまでの間、

(一)  別紙物件目録記載の土地上において自ら又は第三者を使用して行っている建物の建築工事その他一切の工事を中止せよ。

(二)  別紙物件目録記載の土地上において、建物の建築工事その他一切の工事を自ら行い、又は第三者をして行わせてはならない。

(三)  別紙物件目録記載の土地につき、その占有を他人に移転し、又は占有名義を変更してはならない。

二  執行官は、別紙物件目録記載の土地につき、相手方らが建物の建築工事その他一切の工事を禁止され、その中止を命じられていること及び占有の移転又は占有名義の変更を禁止されていることを公示しなければならない。

理由

一  申立の内容等

本件は、売却のための保全処分(民事執行法五五条一項)を求めた事件である。

申立人は、別紙物件目録記載の土地(以下、「本件土地」という。)についての抵当権者であり(平成元年九月二八日付けで登記されている)、その実行としての競売を平成四年八月一二日に申し立てた差押債権者である。

相手方株式会社丁原は上記抵当権の被担保債務者、相手方株式会社戊田は本件土地の所有者であり、両社の代表者は同一人物(丙川春夫)である。

申立人は、更地であった本件土地上に相手方らが建物の建築を開始しており、これは「不動産の価格を著しく減少する行為」(民事執行法五五条一項)に当たると主張して、占有移転禁止・工事禁止等を内容とする売却のための保全処分を申し立てた。

二  申立を認めた理由

当裁判所は、本件申立を認めるべきものと判断した。その理由は次のとおりである。

(一)  「不動産の価格を著しく減少する行為」の存在について

申立人の提出した資料によれば、以下の事実を一応認めることができる。

①  本件土地は更地であった。

②  債務者は平成二年一二月一日から利息の支払を怠るようになった。

③  そこで申立人は、本件土地の価格を減少する行為がなされないようにするため、相手方らの承諾を得て、平成三年八月一〇日、本件土地に囲いを設置して管理すると共に、債務の弁済方法等について相手方らと協議を続けていた。

④  ところが、競売申立の直前である平成四年八月六日ころから、上記囲いを損壊のうえ、本件土地上で建物の建築工事が開始された。

⑤  同月七日、工事現場にいた一名は、申立人従業員の質問に対して「有限甲田の乙田」と名乗ったが、その連絡先等は明らかにしなかった。また現場には、「有限甲田管理」との表示がなされていた。同日午後、乙田の代理人と称する青木弁護士から申立人宛て電話があったが、乙田がどういう人物かなどは一切明らかにしなかった。

⑥  同日、工事現場にいたもう一名が使用していた自動車は、相手方ら代表者の所有するものであった。

⑥  同月一七日、青木弁護士は電話で、申立人の従業員に対し、甲田の登記簿謄本を二、三日中に送ると述べたが、未だ送られてきていない。また青木弁護士は、翌日には、本件の詳しい内容は知らないし、乙田から委任状をもらったわけでもないと述べた。

⑦  同月二六日には、飲食店の開業を予告する紙が現場に張り出されていた。

以上の事実によれば、相手方らは自ら又は第三者を使って本件土地上に建物の建築を開始し、またその占有を他に移転しようとしているものと認めることができる。相手方らのこのような行為は、執行妨害を目的とし、「不動産の価格を著しく減少する行為」に当たるといってよい。

(二)  執行官に対して、建築工事禁止及び占有移転禁止等の公示を命じた点について

当裁判所は、このような公示を命じることは適法で、かつ必要なものと認める。その理由は次のとおりである。

民事保全法上の仮処分については、不作為を命じる仮処分とともにその公示を執行官に命じることは、法的には必要がなく、必要のないことを命じることは許されないと解されるのが通常であろう。

つまり、民事保全法上の仮処分において、公示を命じることは通常は許されないと解されているが、それは、法的には必要のないことだからにすぎない。逆にいえば、法的な必要性が認められれば、公示を命じることも許されるのである。

本件は、民事保全法上の仮処分ではなくて、民事執行法上の保全処分である。民事執行法上の売却のための保全処分においては、第三者に対してこれを発令することができるのは、法律の認める特定の場合に限られる。したがって、競売物件の所有者に対する保全処分がなされた後に第三者がこれを占有するに至った場合、その第三者が保全処分の存在を知っていたか否かは、その第三者に対して保全処分を命じることができるか否かの判断においてきわめて重要な意味を有することになる。よって、公示を命じる法的な必要性を認めるべきである。

(裁判官 村上正敏)

<以下省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例