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東京地方裁判所 平成4年(人)2号 決定 1992年7月31日

請求者

安倍治夫

甲野花子

右両名訴訟代理人弁護士

遠藤誠

海渡雄一

近藤勝

湊谷秀光

村田英幸

拘束者

東京拘置所長

中間敬夫

右指定代理人

関山憲一

外三名

被拘束者

甲野太郎

主文

本件請求を棄却する。

手続費用は請求者らの負担とする。

理由

一請求の趣旨及び理由

本件請求の趣旨及び理由は、別紙人身保護請求書、請求者らの平成四年五月二〇日付準備書面(二通)及び同年七月二七日付準備書面各記載のとおりである。

二当裁判所の判断

1  本件請求は、被拘束者の再審請求事件の弁護人である請求者安倍治夫及び被拘束者の実姉である請求者甲野花子が、死刑確定者として拘置所に拘束され、再審請求中である被拘束者について、拘束者が、①数年来一〇名以上の再審弁護人との接見時間を三〇分間に制限し、平成三年四月二二日にも再審請求事件の弁護人である請求者安倍治夫との接見について時間を三〇分間に制限したこと、②右各接見に拘置所の職員を常に立ち会わせ、会話内容を筆記させたこと、③外部から被拘束者宛てに差し入れられた文書又は物を検閲、没収し、又は抹消したことは、いずれも被拘束者の自由権についての違法な部分的剥奪である、と主張して、被拘束者と再審請求事件の弁護人との接見時間の制限の禁止、右接見についての拘置所の職員の立会いの禁止、被拘束者と再審請求事件の弁護人との間の文書及び物の検閲の禁止を求めるものである。

2  ところで、人身保護法は、法律上正当な手続によらないで身体の自由すなわち行動の自由を拘束されている者に対し、司法裁判により迅速かつ容易に行動の自由を回復させることを目的としているところ、同法の救済の対象となる「拘束」とは、逮捕、抑留、拘禁等身体の自由を奪い、又は制限する行為をいい(人身保護規則三条)、必ずしも行動の自由に対する全面的な制限のみを意味するものではなく、行動の自由を部分的に制限する行為をも含みうるものであるが、同法一条、二条、一〇条等の規定を考えあわせると、現実に身体に直接的な抑制が継続的に加えられることにより行動の自由が制限されている状態にあることを要し、行動の自由に対する制限が既に終了していたり、将来的に継続して行われるものと認められない場合を含まないと解される。

3  そこで、本件について検討するに、一件記録によれば、請求者らが主張する前記拘束者がとったとされる各措置のうち、拘束者が、被拘束者に差し入れられた文書又は物を没収したことまでは認められないが、その余の各措置がなされたことは一応認めることができ、かつ、右各措置は、いずれも被拘束者の行動の自由を制限する側面を有しているものと一応認められる。

しかしながら、拘束者のとった右各措置は、いずれも各接見時、各差し入れ時限りの一回的な制限であって、その都度終了しているものであるから、右各措置をもって現に行動の自由に対する制限が継続している状態にあるものと解することはできない。

4  次に、右各措置が将来的に継続して行われるものといえるかどうか、また、その場合の違法性について検討する。

死刑確定者の接見及び書類又は物の授受については、刑事訴訟法、監獄法上に特別の規定はないので、監獄法九条により、同法中刑事被告人に適用すべき規定の準用が検討されることとなるが、刑事被告人は、無罪の推定を受け、本来身体の拘束を受けるべき者ではないにもかかわらず、証拠隠滅の防止及び逃走防止の目的に従ってのみ身体を拘束されているのに対し、死刑確定者は、既に死刑判決が確定し、死刑の執行を受けるべき者として拘束されるのであって、両者は拘束の目的を異にしており、また、死刑確定者が再審請求をしたからといって、直ちに死刑確定者としての地位が刑事被告人としての地位に変わるものではないから、刑事被告人に保障されている権利の全てを当然に再審請求中の死刑確定者に保障すべきこととはならず、監獄法施行規則一二一条、一二七条に定める時間制限がなくかつ拘置所職員の立会いがない接見を保障される「弁護人」には、再審開始決定前の再審請求事件の弁護人を含まないと解すべきである。

したがって、死刑確定者と再審請求弁護人との接見時間及び立会い、外部からの文書又は物の授受についても、右死刑確定者の身柄拘束の目的に照らし、合理的な限度において、刑事被告人と異なる制限を加えることは、許されるものと解するのが相当である。そして、拘束者である拘置所所長には、死刑確定者の接見及び立会い、文書又は物の授受が拘束の目的に抵触するものかどうか、抵触する場合には、これを全部又は一部許可しないのが相当かどうかの判断について、一定の範囲内の裁量権が与えられているものと解すべきである。

そして、一件記録によれば、拘置所所長の前記各措置は、各時点における裁量的判断に基づくものであること、現在の運用としては、死刑確定者の接見時間を三〇分以内に制限することを原則としているが、右制限は絶対的なものではなく必要に応じて接見時間が延長されることもあり得ること、接見の際立会いの職員を付したり、外部からの文書又は物の授受を制限する運用は、将来的にも継続して行われる蓋然性はあるが、他面、死刑確定者の前記身柄拘束の目的に照らして相当の理由があることが一応認められる。

そうすると、拘束者の前記各措置は、将来的に継続されるものといえないか、仮にそういえるとしても、その内容からして拘束者の前記裁量権を逸脱するものであると認めることはできず、他にその違法性を認めるに足りる疎明はない。

しかも、請求者らの請求の趣旨は、将来にわたって接見時間の制限、職員の立会い、文書又は物の検閲等を全面的に禁止することを求めるものであるところ、拘束者の前記裁量権の行使の余地を一切奪うことになり、この点からみても許されない。

5  以上によれば、請求者らが主張する拘束者の各措置については、その事実がないか、あるとしてもそれらは人身保護規則四条に定める「権限なしにされ又は法令の定める方式若しくは手続に著しく違反していることが顕著である場合」に当たるとは認められず、したがって、被拘束者が人身保護法二条一項に定める「法律上正当な手続によらないで身体の自由を拘束されている者」に当たるとは認められない。

6  よって、本件請求は理由のないことが明らかであるから、人身保護法一一条一項、人身保護規則二一条一項六号に従い、これを棄却することとし、手続費用の負担について人身保護法一七条、民事訴訟法八九条、九三条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官石垣君雄 裁判官中本敏嗣 裁判官近藤宏子)

別紙人身保護請求書<省略>

平成四年五月二〇日付準備書面(二通)

同年七月二七日付準備書面<省略>

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