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東京地方裁判所 平成4年(特わ)941号 判決 1993年1月22日

本店所在地

東京都新宿区北新宿四丁目一六番一二号

新関建設株式会社

代表者住居

同所一六番一二号

代表者氏名

新関幸子

本籍

同所一六番

住居

同所一六番一二号

会社員(元会社役員)

新関昌之

昭和一八年三月八日生

主文

被告人新関建設株式会社を罰金八、〇〇〇万円に、被告人新関昌之を懲役二年に処する。

被告人新関昌之に対し、この裁判の確定した日から四年間刑の執行を猶予する。

理由

(犯罪事実)

被告人新関建設株式会社(以下「被告会社」という。)は、東京都新宿区北新宿四丁目一六番一二号に本店を置き、土木建設工事の設計及び施工、不動産売買、ビリヤード場の経営等を目的をする資本金四、六四一万円の株式会社であり、被告人新関昌之(以下「被告人」という。)は、被告会社の代表取締役としてその業務全般を統括していた。被告人は、被告会社の業務に関し、その法人税を免れようと企て、売上げの一部を除外したり、架空人件費を計上するなどの方法により所得の一部を隠して、

第一  昭和六一年四月一日から昭和六二年三月三一日までの事業年度における被告会社の実際の所得金額が一四億二、一一四万七、二一四円、課税土地譲渡利益金額が一六億五、五四二万三、〇〇〇円であった(別紙1修正損益計算書参照)のに、確定申告書提出期限の延長処分による同申告書提出期限内である同年六月二二日、同区北新宿一丁目一九番三号にある所轄の淀橋税務署(同年七月一日から新宿税務署に名称変更)において、税務署長に対し、その所得金額が一〇億五、八九六万三、四八〇円、課税土地譲渡利益金額が一二億九、〇四二万三、〇〇〇円で、これに対する法人税額が六億九、八五一万四、四〇〇円であるという虚偽の内容の法人税確定申告書を提出した。そして、そのまま法定の納期限を経過させた結果、この事業年度における正規の法人税額九億二、八五八万九、〇〇〇円と申告税額との差額二億三、〇〇七万四、六〇〇円(別紙4脱税額計算書(1)参照)を免れた。

第二  昭和六二年四月一日から昭和六三年三月三一日までの事業年度における被告会社の実際の所得金額が一億八、九三五万三、三三四円、課税土地譲渡利益金額が一億三、一五七万五、〇〇〇円であった(別紙2修正損益計算書参照)のに、確定申告書提出期限の延長処分による同申告書提出期限内である同年六月二四日、新宿税務署において、税務署長に対し、その所得金額が一七四万六、五三六円、課税土地譲渡利益金額が一億三、一五七万五、〇〇〇円で、これに対する法人税額が一、一二〇万七、八〇〇円であるという虚偽の内容の法人税確定申告書を提出した。そして、そのまま法定の納期限を経過させた結果、この事業年度における正規の法人税額八、九〇七万七、三〇〇円と申告税額との差額七、七八六万九、五〇〇円(別紙4脱税額計算書(2)参照)を免れた。

第三  昭和六三年四月一日から平成元年三月三一日までの事業年度における被告会社の実際の所得金額が一億九、一三二万六九九円、課税土地譲渡利益金額が五億一、七三二万五、〇〇〇円であった(別紙3修正損益計算書参照)のに、確定申告書提出期限の延長処分による同申告書提出期限内である同年六月一五日、新宿税務署において、税務署長に対し、その所得金額が二、六〇七万六、五六五円、課税土地譲渡利益金額が五億一、七三二万五、〇〇〇円で、これに対する法人税額が一億五、二六二万一、八〇〇円であるという虚偽の内容の法人税確定申告書を提出した。そして、そのまま法定の納期限を経過させた結果、この事業年度における正規の法人税額二億二、二二八万一、九〇〇円と申告税額との差額六、九六六万一〇〇円(別紙4脱税額計算書(3)参照)を免れた。

(証拠)

(注)以下、括弧内の算用数字は、押収番号を除き、証拠等関係カード検察官請求分の請求番号を示す。

全事実について

1  被告人の

<1>  公判供述

<2>  検察官調書二通

2  野田光子の検察官調書

3  給与手当調査書、旅費交通費調査書、受取利息調査書、受取配当金調査書、有価証券売却損調査書、雑費調査書

4  捜査報告書三通(甲12、16、25)

5  商業登記簿謄本二通、閉鎖登記簿謄本二通

6  確認書

第一の事実について

7  津村忠夫、千頭俊彦、佐々木秀美、古屋侃午、佐藤こと金井英代、坂野陽吉の検察官調書

8  坂野宏吉、坂野陽吉の国税査察官質問てん末書

9  販売建物売上高調査書、建物土地販売手数料調査書、土地等の譲渡等に係る譲渡利益金額調査書

10  捜査報告書二通(甲3、14)

11  法人税確定申告書一袋(平成四年押第九五四号の1)

第二の事実について

12  事業税認定損調査書

13  捜査報告書(甲15)

14  法人税確定申告書一袋(同押号の2)

第三の事実について

前記12の証拠

15  洲崎英三の国税査察官質問てん末書

16  雑損失調査書

17  法人税確定申告書一袋(同押号の3)

(争点に対する判断)

一  弁護人は、第一の事実について、昭和六一年四月一日から昭和六二年三月三一日までの事業年度(以下「昭和六二年三月期」という。)における被告会社の実際所得金額は一三億一、六七〇万八、六〇一円、課税土地譲渡利益金額は一五億三、五四二万三、〇〇〇円であり、被告会社が同期に免れた法人税額は一億五、四〇九万七、〇〇〇円であると主張する。昭和六二年三月期に被告会社が免れた所得の大部分は、被告会社が昭和六一年四月(以下、年は、特に断らない限り、昭和六一年である。)に売却したとされる東京都中野区中野三丁目の自社所有地(以下「本件土地」という。)の売却益であるが、本件の主たる争点は、本件土地の売買代金が検察官主張の二三億五、一〇〇万円か、弁護人主張の二二億三、一〇〇万円かという点である(このほかに、被告会社の昭和六二年三月期の雑費の額について争いがある。)。

二  争点に対する判断の前提として、以下の事実は概ね争いがなく、証拠上明らかに認められる。

1  被告人は、三月上旬ころまでに、日本ヘリコプターサービス株式会社(以下「日本ヘリコプター」という。)の代表取締役である津村忠夫との間で、被告会社が日本ヘリコプターに本件土地を代金二三億五、〇〇〇万円で売却すること、うち一〇億円を手付金として同月一〇日に授受することで合意に達し、これに関する覚書を取り交わした。その数日後、被告人と津村は、口頭で右売買の代金額を二三億五、一〇〇万円に変更することに合意した。

2  被告会社は毎年三月が決算期であることから、被告人は、本件土地の売却益を翌事業年度である昭和六二年三月期に計上して、その間納税資金を運用しようと考え、本件土地の売買取引と引渡しの期日を昭和六一年四月とするよう津村に申し入れた。津村は、この申入れを承諾するかわりに、被告人に対して、津村の経営する丸の内産業株式会社(以下「丸の内産業」という。)が被告会社に金銭消費貸借に基づいて一〇億円を交付するとともに、本件土地に根抵当権を設定するよう要求し、被告人もこれを了承した。この結果、同月一一日、右金銭消費貸借契約書が作成され、被告会社に額面一〇億円の預金小切手(預手)が交付される一方、本件土地に丸の内産業を根抵当権者とする極度額一〇億円の根抵当権設定登記がされた。

3  被告人は、本件土地の売却益のうち三億円を公表せず課税を免れようと考え、知人で兼松通商株式会社(以下「兼松通商」という。)社長室長の古屋侃午を介して、同社及びその子会社の三伸商事株式会社(以下「三伸商事」という。)の代表取締役であった佐々木秀美に会い、津村との合意の内容を伝えたうえ、裏金を捻出するために、本件売買契約の当事者として加わるよう依頼したところ、佐々木も三伸商事を契約当事者とすることを承諾し、裏金三億円のうち二億円を被告会社が、一億円を三伸商事が取得するという合意が成立した。

4  被告人は、三月二〇日ころ、津村を三伸商事に案内して佐々木らに紹介し、津村に同社が本件土地の買主として間に入ると伝えた。

5  被告人は、三月二八日ころ、津村の依頼により、本件土地に関し、被告会社と三伸商事との売買代金二〇億五、一〇〇万円の契約書一通と、三伸商事と学校法人帝京第一学園(以下「帝京第一学園」という。)との売買代金二六億五、一〇〇万円の契約書一通を作成した。このうち、後者における買主の表示は、当初被告人が作成した文面では丸の内産業となっていたが、津村の意向により右のように訂正された。

6  被告人は、三月二八日、三伸商事に売買代金の一部として三億円を立替払いするよう要求し、これに応じた同社から右金額を額面二億円の預手及び現金一億円を受け取ったが、その際、被告人と佐々木らとの話合いにより、被告会社の裏金の取り分は、一億八、〇〇〇万円に減額された。

7  被告人は、四月三日、三菱銀行丸の内支店の取引会場において、三伸商事の関係者らと契約書類を取り交わすとともに、残代金として額面八億五、一〇〇万円の預手及び現金八、〇〇〇万円を受領した。本件土地の帝京第一学園への転売手続きも、同日、右取引会場で代金が決済されて、完了した。

三  以上の事実をもとに、本件土地売買の効力について検討する。

1  まず、前記二2の一〇億円交付等の行為の意味について考察すると、本件土地売買の手付金以外に、この時期に丸の内産業が被告会社に一〇億円もの多額の金銭を交付する理由が見当たらず、ほぼ当初の約定どおりの手付金交付時期に交付されていることからして、この金銭が本件土地売買の手付金としての性質を有することは明らかである。そして、津村や千頭が供述するように、被告会社側の事情により売買取引の時期が四月にずれ込んだため、津村の側において被告会社が本件土地を他に譲渡することを防ぎ、その取得を確保する手段として、金銭消費貸借の形式を借りて手付金を交付するとともに、本件土地に根抵当権を設定したとみることができる。

前記二1の被告人と津村との合意成立の段階では、買主は日本ヘリコプターであったと認められるが、前記二2の手付金交付の段階では、津村側が丸の内産業の名義を用いて金銭消費貸借や根抵当権の契約締結を申し入れたのに対し、被告人もこれを異議なく承諾しており、以後本件売買契約の履行過程において日本ヘリコプターの名義は表われていない。そうすると、丸の内産業が買主である日本ヘリコプターに替わって手付金を立替払いをしたというより、この段階で津村から被告人に対し、本件土地の買主としての権利義務を日本ヘリコプターから丸の内産業に承継させたいという黙示の申入れがあり、被告人がこれを承諾したことにより、買主の地位の変更が行われたとみるのが、取引の実体に即しているというべきである。このことは、前記二5のとおり、被告人が三月二八日ころ津村の依頼により本件土地売買に関する契約書を作成した際に、三伸商事からの買主を丸の内産業とすることに何ら疑いを抱かなかったことによっても裏付けられる。これに対し、被告人は、公判廷において、丸の内産業の立場についてはよく判らなかったと供述するが、この供述は、先に認定した事実に照らすと、信用できない。

更に、売買代金の額については、手付金交付の際に話合いが一切行われていないことからすると、被告会社と日本ヘリコプターとの間で成立した合意が丸の内産業に引き継がれ、ここに同社と被告会社との間で本件土地の売買契約が成立したとみることができる(なお、このことは、本件土地売買による収益の帰属時期がいつかということとは別個の問題である。)。これに対し、被告人は、公判廷において、右の契約書作成の際、津村と実際の売買代金についての話が出たことはなく、日本ヘリコプターとの間で成立した合意が丸の内産業に引き継がれたこともないと供述するが、前述のとおり、この合意が丸の内産業に引き継がれたからこそ、売買代金についての話が出なかったのであり、被告人の右の供述は信用できない。

2  次に、被告会社から契約書上本件土地を買ったとされる三伸商事が形式上の当事者(ダミー)であったかどうかを検討する。

前記二3のとおり、三伸商事が本件土地売買の当事者として関与するようになったのは、被告人が税務対策上本件土地売買による売却益を圧縮するため、裏金を捻出しようと意図して佐々木に協力を依頼したことにあり、もともと取引としての実体を伴うものではなかった。加えて、本件土地の売買に関しては、佐々木や古屋らが供述するように、被告会社と丸の内産業との間で既に契約内容が決定していて、代金決済を待つばかりとなっていたから、三伸商事が当事者として関与する必要性は全くなく、実際に同社が契約仲介等の労をとったことも、買主として行動したこともなかったと認められる。したがって、三伸商事が受領した金銭の性格は、売買の当事者としての転売益等ではなく、買主の名義を貸したことに対する報酬、すなわち脱税工作に加担したことに対する謝礼であったとみるべきである。

確かに、証拠によれば、三伸商事は、当初の被告人と佐々木との合意による一億二、〇〇〇万円という取り分を超えて、実際には二億円の裏金を取得している(なお、四月三日の取引日に、三伸商事から被告会社に入金になった八、〇〇〇万円以外の一億二、〇〇〇万円は、古屋又は津村の手に渡ったと推認されるものの、その行方は定かではない。この他にも、当日津村によって取引会場に持ち込まれた現金一億円の所在が明らかでないなど、右取引をめぐる金銭の動きには不明朗な点が多い。)ことが認められるが、これは、三伸商事と丸の内産業との間での裏金の分配の問題であり、三伸商事が被告会社からの一億二、〇〇〇万円に加えて丸の内産業から八、〇〇〇万円の脱税協力金を受領したとみることができるから、売買代金額の変更をもたらすものではない。

更に、右取引の際に買主側から各当事者に支払われた金種が、津村と古屋らによって事実上決定され、被告会社の者がこれに関与していないことは、弁護人の主張するとおりであるが、この点も、津村と古屋らの裏金の分配をめぐる協議の一環とみることができ、これらの者が種々の打合せをしたからといって、三伸商事が買主として行動したことにはならない。

以上の検討によれば、三伸商事はダミーにほかならないと認められる。

3  弁護人は、<1>三月二〇日過ぎに被告人が津村と三伸商事の佐々木らを引き合わせた時点で、被告会社と日本ヘリコプターとの合意が解消された、<2>四月三日の時点で二三億五、一〇〇万円の売買契約の存在を証する証拠はないと主張する。

しかし、被告人の三月二八日の契約書作成や立替金受領等の行動に照らしても、また、丸の内産業に引き継がれた日本ヘリコプターとの合意がその後解消されたとみるべき事情がないことからしても、弁護人の<1>の主張には理由がない。次に、四月三日の取引日に取り交わされた契約書類が税務対策上のもので、真実を反映したものでないことは明らかであり、裏金の捻出という目的からすれば、真実の代金額を記載した書面を残さないことが、関係者の行動として合理的である。また、前記三2のとおり、三月一一日の手付金交付の時点で被告会社と丸の内産業との売買契約が有効に成立している以上、四月三日の取引の際に真実の代金額についての確認がなかったからといって、代金額を二三億五、一〇〇万円とする約定がなかったことにはならない。よって、弁護人の<2>の主張も理由がない。

4  一方、被告人の検察官調書には、丸の内産業との代金額が二三億五、一〇〇万円であるという記載がある。これについて、被告人は、公判廷において、捜査段階で裏金の額が六億円ではないかと追及されたのに対し、一億八、〇〇〇万円であると主張していたが、捜査官に裏金の額が六億円ではないという自分の主張が認められたので、ホッとしてしまい、以後代金額については気にしなかったと弁解する。しかし、裏金の額がいくらかであったという点は、まさに被告人の最大の関心事であったはずであるから、それが六億円でないと認められれば、三億円であっても構わないと思ったということは考えられない。しかも、被告人は、検察官調書において、裏金の額を三億円と決めた根拠について、本件土地の地上げ資金等に充てた銀行からの借金の返済額やダミー会社との裏金の分配割合について、具体的に数字をあげて説明しており、その内容は、合理的かつ自然なものであって、充分信用することができる。また、古屋や坂野陽吉の検察官調書には、売買代金額や裏金の額について、被告人の右の供述に符合する供述がある。したがって、これら被告人の検察官調書における供述は信用できるものであるのに対し、被告人の公判での弁解は信用できない。

以上の検討によっても、裏金の額が三億円であることは明らかである。

5  結局、本件土地の売買代金は二三億五、一〇〇万円であり、被告会社が現実に受領した金額との差額は、損金と認められない三伸商事に対する脱税協力金とみるべきであるから、代金額に関する弁護人の主張には理由がない。

四  弁護人は、被告会社の昭和六二年三月期の雑費について、平成二年一二月一〇日付け修正申告において損金として認容された四万三、一一三円が、損金として同年度の被告会社の所得から控除されるべきであると主張する。しかし、雑費調査書及び捜査報告書(甲12)によれば、右の金額は、被告会社が不正に課税を免れた簿外資金を運用していた株式取引の口座管理料であり、いわゆる脱税経費に相当すると認められるから、損金をして控除されないと解すべきである。よって、弁護人の主張には理由がない。

(法令の適用)

罰条

被告会社について いずれも法人税法一六四条一項、一五九条一項、二項(情状による)

被告人について いずれも同法一五九条一項

刑種の選択

被告人について いずれも懲役刑

併合罪の処理 刑法四五条前段

被告会社について 刑法四八条二項(各罪の罰金額を合算)

被告人について 刑法四七条本文、一〇条(犯情の最も重い第一の罪の刑に加重)

刑の執行猶予

被告人について 刑法二五条一項

(量刑の理由)

本件は、土木建設工事の設計、施工やいわゆるプールバーの経営等を行っていた被告会社が、プールバーの売上げが急激に伸びたことや、自社所有地の売買により多額の売却益を得たことなどから、被告人がその法人税の脱税を企て、三年間にわたり合計約三億七、〇〇〇万円を超える法人税を脱税したという事案である。

本件の脱税額の総額は、前記のとおり相当に多額であり、犯行期間も三事業年度と長期間にわたっており、重大かつ悪質な事案ということができる。被告人は、被告会社の将来経営危機に陥ったときに備えて、簿外資金を蓄積しようとして本件を敢行したものであり、過去に被告会社が倒産の危機に瀕したことがあるという事情を考慮に入れても、犯行の動機に同情の余地は乏しい。また、本件犯行の手口を見ても、土地取引に関して、買主から三億円もの多額の裏金を受領しながら、ダミー会社を介在させて、これとの間で低額の売買が成立したように装って売却益の一部を除外したり、架空の従業員に給料や交通費を支払ったように仮装して、多額の架空人件費を計上したり、支払手数料を水増し計上したうえ、簿外で還流させるなどしていたのであり、本件犯行の態様は計画的であり、巧妙かつ悪質であるというほかない。被告人は、これらの不正手段によって蓄積した簿外資金を、仮名、借名口座による預金や株式購入の形で留保していたほか、海外での資産購入や遊興費等にも流用しており、この点でも犯情は芳しくない。しかも、被告人は、被告会社のワンマン経営者としての地位を悪用し、経理担当者の部下に不正経理を指示したり、特に本件土地取引をめぐっては、自ら率先して裏金作りを画策するなど、主体的に本件犯行を敢行しており、その責任は誠に重大である。こうしてみると、被告人に対し実刑をもって臨むことも充分考えられる。

しかしながら、被告会社は、本件起訴の対象となった三事業年度について、当初から土地重課を含め合計八億六、九一〇万円余りの額を申告納税しており、本件各犯行におけるほ脱率も、合計で約三〇・四パーセントと、他の同種事案と比較して必ずしも高くない。これによれば、被告人の納税意思や規範意識が鈍磨しているとはいえず、本件が一般の納税者への悪影響が懸念されるほど悪質な事案であるということもできない。また、被告会社は、本件三年度分について、厳しい経営状態の中にあって、本件の発覚後速やかに本税、重加算税、延滞税等を修正申告のうえ全額納付しており、本件犯行によって不正に蓄積した利益の殆ど全てを吐き出している。更に、被告人は、本件をきっかけに、被告会社の代表取締役はもとより取締役からも退き、反省の情も認められる。他方、被告会社は、代表者の更迭を始めとして、それまでの被告人のワンマンによる社内体制を改め、本件のような過ちを二度と起こさないため、経理の刷新を始めとする再発防止策を講じている。加えて、被告人は、業務上過失傷害による罰金前科一犯を除けば前科前歴がなく、これまで被告会社の経営者として、その事業の発展に努め、真面目に働いてきたものである。また、被告会社は、現在の経済状況の下で、多額の経常欠損が生じるという創業以来の厳しい経営状態にあり、被告人も、現代表者である被告人の妻を補佐として被告会社の建直しに当たるべき立場にある。

以上の事情等を考慮し、被告人に大しては主文の懲役刑を科するとともに今回に限りその執行を猶予し、被告会社に対しては主文の罰金刑を科するのが相当であると判断した。

(出席した検察官鈴木亨、弁護人小又紀久雄、飯塚勝)

(裁判官 朝山芳史)

別紙1 修正損益計算書

<省略>

<省略>

別紙2 修正損益計算書

<省略>

<省略>

別紙3 修正損益計算書

<省略>

<省略>

別紙4 脱税額計算書

(1) 自 昭和61年4月1日

至 昭和62年3月31日

<省略>

(2) 自 昭和62年4月1日

至 昭和63年3月31日

<省略>

(3) 自 昭和63年4月1日

至 平成元年3月31日

<省略>

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