東京地方裁判所 平成4年(行ウ)145号 判決
原告
石成基
同
陳石一
右原告ら訴訟代理人弁護士
新美隆
同
金敬得
同
梁文洙
右訴訟復代理人弁護士
在間秀和
同
菅充行
被告
厚生大臣
井出正一
右指定代理人
池本壽美子
外五名
主文
一 原告らの請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第一 原告らの請求
一 被告が平成三年六月七日付けの厚障年却下第〇〇〇四七四号をもってした原告石成基に対する障害年金請求却下処分を取り消す。
二 被告が平成三年一〇月四日付けの厚障年却下第〇〇〇五二九号をもってした原告陳石一に対する障害年金請求却下処分を取り消す。
第二 事案の概要
本件は、本籍地を大韓民国(以下「韓国」という。)に有し、日本に在住する原告らが、軍属として公務に従事中に負傷し障害の状態になったとして、それぞれ戦傷病者戦没者遺族等援護法(以下「援護法」という。)に基づく障害年金請求をしたところ、被告が、同法附則二項の規定により戸籍法の適用を受けない者は同法の適用を受けられないとして右各請求を却下したので、原告らが、これを不服として、右各却下処分の取消しを求めている事案である。
一 援護法の規定について<省略>
二 当事者間に争いのない事実等<省略>
三 争点
本件第一処分及び本件第二処分(以下「本件各処分」という。)は、原告らが戸籍法の適用を受けない者であり、本件附則により援護法を適用することができないことを理由としてなされたものであるが、原告らは、本件附則は、無効又は既に失効していると主張しており、本件の争点及びこれに関する当事者双方の主張の要旨は、以下のとおりである。
1 本件附則の無効事由について
(一) 原告らの主張
(1) 本件附則の違憲性
援護法は、その一条で規定するように、国家補償の精神に基づく援護を目的として制定されたものであり、右国家補償の精神とは、軍人軍属等の日本国との特別な関係に基づき提供した軍務等のために受けた戦争被害に対して、国が使用者の立場から補償等の救済措置を講じるべきことをいう。そうであるとすれば、同法の援護対象者は、日本の軍人軍属等として戦争に従事し、これにより戦死傷した者であれば足りるというべきであり、日本国籍の有無や戸籍法適用の有無は何ら本質的な要素ではなく、戸籍法の適用を受けていないことを理由に援護対象者から除外することは、法の下の平等を定める憲法一四条一項に違反し、許されないというべきである。
まして、韓国・朝鮮人は、日本の植民地統治下において、日本国籍を強要される一方、戸籍に関しては朝鮮戸籍令(総督府令第一五四号)の適用により戸籍法の適用は元来受けていなかった者であるところ、韓国・朝鮮人が戦争に従事させられたのは、日本国籍を有するとされたからであり、戸籍法の適用のあることは何ら戦争に従事させるための要件となっていなかったのである。それにもかかわらず、戦争被害に対する補償において、戦争従事の要件とされていなかった戸籍法の適用のあることを要件とすることは、何らの合理的理由なく韓国・朝鮮人の軍人軍属を差別するものであるから、憲法一四条一項に違反するというべきである。
なお、被告は、本件附則が援護法一四条等の国籍条項を補完するものとして規定されたものである旨主張するが、韓国・朝鮮人は、戦争被害を受けた時点において日本国籍を有しており、昭和二七年四月二八日に発効した日本国との平和条約(昭和二七年条約第五号、以下「サンフランシスコ平和条約」という。)に伴う国籍喪失は、自らの意思にかかわらない国籍喪失である以上、援護法一四条等の国籍条項にいう国籍喪失には該当しないというべきであるから、原告らに援護法が適用されないのは、本件附則が存在することだけを理由とするものであり、本件附則が国籍条項を補完するものということはできない。また、そもそも、援護法の適用において、日本国籍を有することを要件とすること自体が不合理であることは、前記のとおりであるから、いずれにしても、原告らに援護法上の援護をしない理由とはならない。
また、被告は、本件附則がいわゆる分離独立地域の住民の戦争被害の補償問題がその後の二国間の協議の主題となる可能性があることを考慮して置かれたものであるとしても不合理とはいえない旨主張するかのようであるが、戦争により障害の状態となった軍人軍属等にとって死活問題である補償の問題を、いつ解決されるかわからない二国間協議を理由として将来に引き延ばすことには合理性がないというべきであるし、そもそも、戦争に従事させられたことにより障害等を受けた個人が日本国に対して有する補償請求権を、その個人の所属国家が個人に代わって放棄ないし処分することを根拠づける何らの法的権限もなく、国家間の合意によって個人の有する補償請求権を消滅させることができるものではないから、補償問題が二国間協議の主題となる可能性があることをもって、本件附則の合理性の根拠とすることはできないというべきである。
したがって、本件附則は、憲法一四条一項に違反し、無効である。
(2) 国際人権規約違反
国際連合は、昭和四一年一二月一六日に、経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約(以下「A規約」という。)と市民的及び政治的権利に関する国際規約(以下「B規約」という。)を採択し、A規約は昭和五一年一月三日に、B規約は同年三月二三日に発効したところ、日本国は、昭和五三年五月三〇日に右両規約に署名し、両規約は批准を経て昭和五四年九月二一日に日本国内においても効力を生じた。
A規約九条は「この規約の締約国は、社会保険その他の社会保障についてのすべての者の権利を認める。」と規定し、社会保障におけるすべての者の平等を保障している。
また、B規約二六条は「すべての者は、法律の前に平等であり、いかなる差別もなしに法律による平等の保護を受ける権利を有する。このため、法律は、あらゆる差別を禁止し及び人権、皮膚の色、性、言語、宗教、政治的意見その他の意見、国民的若しくは社会的出身、財産、出生又はその他の地位等のいかなる理由による差別に対しても平等かつ効果的な保護をすべての者に保障する。」と定めている。
そして、本件附則は、日本国民として戦争に従事させられた韓国・朝鮮人に対する援護法の適用を排除するものであるから、A規約九条及びB規約二六条に違反し、無効である。
なお、B規約は、その二条一項の規定に照らしても、締約国に対して、即時的実施義務を課していることは明らかであり、B規約は、何らの立法措置を経ずに直ちに国内的効力を有し、裁判所における裁判規範としての効力を有するものである。
(二) 被告の主張
(1) 憲法一四条一項違反の点について
ア 戦争は国の存亡にかかわる非常事態であり、国民のすべてが戦争により多かれ少なかれその生命、身体及び財産の犠牲を余儀なくされているのであって、これらの犠牲は、いずれも戦争犠牲又は戦争損害として国民がやむを得ず等しく受忍しなければならなかったものである。こうした戦争犠牲又は戦争損害について、国がこれを補償すべきか否か、補償すべきであるとした場合に、いかなる範囲、内容及び程度の補償をするかは、高度の政治的判断を要する立法政策の問題である。
ところで、本件附則が設けられたのは、終戦時、朝鮮半島及び台湾出身者の国籍の帰属が分明ではなく、援護法の審議の段階ではサンフランシスコ平和条約の発効日が必ずしも明確ではなかったことから、援護法の本則に定めた国籍条項の他に、戸籍法の適用のない者について、当分の間、援護法の適用をしない旨の本件附則を設けて、朝鮮半島及び台湾出身者に対しても援護法の適用がないことを明らかにしたものであり、その趣旨は、日本国籍を有することを給付の要件とすることを明らかにするところにある。なお、サンフランシスコ平和条約の発効によって、朝鮮半島及び台湾出身者が日本国籍を喪失するという解釈が確立した現在においてみれば、朝鮮半島及び台湾出身者が日本国籍を失ったのがサンフランシスコ平和条約の発効の日である昭和二七年四月二八日であるところ、援護法は、同月三〇日に公布・施行され、同月一日に遡って適用されることとされたため、結果的には、昭和二七年四月分の年金等を受ける権利を発生させないというところに、援護法一四条等の本則における国籍条項ではまかなえない独自の意義があったことになる。
イ 終戦当時までは、軍人や文官が公務上負傷し又は疾病にかかり、これにより障害の状態となり又は死亡したときは、恩給法による傷病年金等が支給されていたが、終戦後、連合軍最高司令部の指示により重度の戦傷病者に対する恩給を除き軍人恩給は停止されていた。その後、恩給停止を受けていた軍人などに対し、国家補償の精神に基づいた援護を行うため、援護法が恩給法に準じて制定されたものであり、こうした経緯からみても、援護法は、公務員制度の一環をなす恩給法に準じて軍人軍属等国と一定の雇用関係ないし雇用類似の関係にある者をその対象として成立したものである。
そして、援護法が、国家補償の精神に基づくものであるとしても、戦争被害に対する補償については、前記のとおり高度の政治的判断を要する立法政策の問題であり、一般の戦争被害と軍人軍属等に生じた戦争被害との間には本質的な差異はないというべきであるから、援護法が国家補償の性格を有するが故に、直ちに外国人をも補償の対象とすべきであるということはできない。
ウ 援護法は、その一面において、障害又は生計の担い手の死亡という事由に対して、本人又はその遺族の生活を援助するという性格も有しているが、現下の世界体制の下における国家と国民との関係に照らすと、右のような状況にある各人に対し、生活保障ないし援助をするのは、各人の所属する国家の責任においてなされることが国際間の基本原理になっているのであるから、この点からも、本件附則には、十分な合理性があるというべきである。
エ なお、サンフランシスコ平和条約四条(a)は、日本国と同条約二条に掲げる地域(いわゆる分離独立地域)との財産・請求権の問題は、日本国と現にこれらの地域の施政を行っている当局との間の特別取極の主題とすると規定しているものであるから、右の分離独立地域の住民の戦争被害の補償の問題が、特別取極の主題となる可能性のあることを念頭に置きつつ、援護法が立法され、そこにおいて日本国籍を有しないものを対象から除外する趣旨で本件附則が設けられたとしても、このことを不合理であると評価することはできない。
オ 憲法一四条一項は、絶対的な法の下の平等を保障したものではなく、法規の制定又はその適用において異なる取扱いがなされたとしても、一般社会観念上それが合理的な根拠に基づいて必要と認められるものである場合には、法の下の平等に反しないことは明らかであるところ、以上のとおり、本件附則は、合理性を有するから、憲法一四条一項に違反するものではない。
(2) 国際人権規約違反の点について
A規約二条一項及びB規約二条二項は、右規約の実体条項に定められた権利が、各国内の立法措置等を待って初めて個人の権利ないし利益として具体化されるとしており、A規約九条及びB規約二六条に定める権利は、締約国における立法を待って具体的な請求権が付与されるものであるから、右規定を根拠にして、個人が国家に対して権利の保障を具体的に請求することはできない。
なお、B規約で禁止されているのは不合理な差別であるところ、本件附則は、前記のとおり合理性を有するものであるから、右B規約の規定に反するものではない。
2 本件附則の失効について
(一) 原告らの主張
(1) 援護法制定時においては、サンフランシスコ平和条約四条(a)に基づき、日本と韓国間等において戦後の請求権等の処理につき外交上の協議が開始されており、旧植民地出身者の補償問題も右請求権問題の一環として外交上の協議により解決されるものと考えられていたところである。かかる状況下において援護法が制定されたことにかんがみれば、仮にその点で本件附則を設けたことの合理性が認められるとしても、本件附則に「当分の間」と規定されたのは、旧植民地出身者の補償問題が外交上の協議により解決されるまでの間、援護法の適用を保留する趣旨のものと解され、したがって、右「当分の間」とは、外交上の協議により補償問題が解決されるまでの期間を意味すると解釈すべきである。
(2) 日本と韓国との間においては、昭和四〇年六月二二日、「財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定」(以下「日韓請求権協定」という。)が署名され、批准を経て、同年一二月一八日に発効した。
日韓請求権協定二条一項は「両締約国は、両締約国及びその国民の財産、権利及び利益並びに両締約国及びその国民間の請求権に関する問題が、完全かつ最終的に解決されたこととなることを確認する。」と規定し、同条三項は「一方の締約国及びその国民の財産、権利及び利益であって、この協定の署名の日に他方の締約国の管轄の下にあるものに対する措置並びに一方の締約国及びその国民の他方の締約国及びその国民に対するすべての請求権であって同日以前に生じた事由に基づくものに関しては、いかなる主張もすることができないものとする。」と規定している。
他方、右協定二条二項本文は「この条の規定は、次のものに影響を及ぼすものではない。」とし、同項(a)で「一方の締約国の国民で一九四七年八月一五日からこの協定署名の日までの間に他方の締約国に居住したことがあるものの財産、権利及び利益」と規定し、原告らのようないわゆる在日韓国人の有する「財産、権利及び利益」については、同協定二条一項に規定する「完全かつ最終的に解決された」とする対象から除外した。
(3) 韓国においては、「請求権資金の運用及び管理に関する法律」(一九六六年)、「対日民間請求権申告に関する法律」(一九七一年)、「対日民間請求権補償に関する法律」(一九七四年)が制定され、韓国国民が有する日本国に対する民間請求権の補償をしたが、在日韓国人は、これらの補償対象者から除外された。
また、日本においては、「財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定第二条の実施に伴う大韓民国等の財産権に対する措置に関する法律(昭和四〇年法律第一四四号)」(以下「措置法」という。)が制定されたが、在日韓国人の財産、権利及び利益は、協定二条三項にいう「消滅したものとされるもの」から除外された。
(4) したがって、本件附則が設けられた理由が、韓国・朝鮮人の補償問題については外交交渉による解決に待つという点にある以上、日韓請求権協定において、在日韓国人の補償問題が「完全かつ最終的に解決されたこととなるもの」の対象外とされることが確定され、さらに、その後現在に至るまで在日韓国人に対し何らの補償もなされていないことに照らすと、本件附則にいう「当分の間」とは、在日韓国人に関する限り、日韓請求権協定の締結により確定したというべきであり、本件附則は右協定の署名日以後は失効したというべきであるから、右署名日である昭和四〇年六月二二日以降は、援護法が在日韓国人に対して適用されるものと解すべきである。
(二) 被告の主張
(1) 本件附則が設けられた趣旨は、前記1(二)(1)記載のとおり、朝鮮半島及び台湾出身者の国籍の帰属が分明ではなく、サンフランシスコ平和条約の発効日が明らかでなかったことによるものであり、「当分の間」という表現は、援護法の法案立案中及び国会審議中においては、朝鮮半島及び台湾出身者の国籍喪失時期が分明でないなどの不確定要素があったことから、同趣旨の立法例にならって用いられたものである。
(2) 日韓請求権協定二条二項(a)にいう「財産、権利及び利益」とは、協定時の議事録2(a)からも明らかなように、「法律上の根拠に基づき財産的価値を認められるすべての種類の実体的権利」に限定されている。したがって、援護法の適用が除外されている原告らのような在日韓国人の援護法に基づく給付の請求等の国内法上の根拠を欠く「実体的権利に該当しない請求権」の問題については、同協定二条三項により、相手国にいかなる主張もすることはできなくなり、外交保護権が放棄されていることになる。
同協定二条三項を受け、我が国においては、韓国及び韓国国民の財産、権利及び利益(ただし、在日韓国人の財産、権利及び利益を除く。)については、措置法の制定により国内法的な処理をしたが、「請求権」については、国内法によって処理すべき問題は発生せず、援護法についても国内法上の特段の処理は行われなかった。
(3) 原告らは、本件附則の「当分の間」とは、サンフランシスコ平和条約四条(a)の二国間の特別取極がされるまでという意味であり、日韓請求権協定の締結により、本件附則は失効した旨主張するが、「当分の間」という文言が用いられた趣旨は前記のとおりであるし、また、「当分の間」という文言は、別途当該法令の改廃等の立法措置が講じられない限り継続して効力を有するというものであり、日韓協定締結後も、本件附則等の廃止の必要性がなく、本件附則が存続させられたのであるから、「当分の間」の経過により本件附則が既に失効したとの原告らの主張は、理由がない。
第三 争点に対する判断
一 援護法等の制定経緯について
1 今次の戦争の終戦までは、軍人や文官が公務上負傷し又は疾病にかかり、これにより障害の状態となり又は死亡したときは、恩給法による傷病年金等が支給されており、軍人軍属等が戦死傷した場合には、本人又はその遺族に対して、右恩給法、雇人扶助令(大正七年勅令第三八二号)、雇員扶助令(昭和三年勅令第一〇九号)により、恩給、扶助料等を支給されることとされていたが、終戦後、連合軍最高司令部の指示に基づく昭和二一年勅令第六八号等により、軍人、準軍人、軍属及びこれらの遺族に対する恩給、扶助料等の支給を、一部重度の戦傷病者に対するものを除いて一切停止し、同年の恩給法の一部を改正する法律(昭和二一年法律第三一号)により、軍人、準軍人、軍属及びこれらの遺族は恩給権者から除かれた。また、昭和二六年には、国家公務員災害補償法(昭和二六年法律第一九一号)附則九項により、雇人扶助令及び雇員扶助令も廃止されるに至った。
その後、昭和二七年四月三〇日に、軍人軍属等であった戦死傷者及びその遺族の救済を図るべく、援護法が公布、施行され、同月一日に遡って適用されることとされたが、前記のとおり、援護法には本件附則が設けられた。
ところで、昭和二六年九月八日に署名され、昭和二七年四月二八日に発効したサンフランシスコ平和条約においては、その二条で朝鮮、台湾等を初め日本国がその独立を承認し、あるいは、日本国が有するすべての権利、権原及び請求権を放棄する地域(以下「分離独立地域」という。)を規定し(具体的には、二条(a)において、日本国は、朝鮮の独立を承認して、済州島、巨文島及び欝陵島を含む朝鮮に対するすべての権利、権原及び請求権を放棄するとされた。)、その四条(a)においては、右分離独立地域に関し、日本国及びその国民に対する現に右地域の施政を行っている当局(以下「施政当局」という。)及び住民の請求権の処理は、日本国と施政当局との特別取極の主題とする旨規定されている。
2 甲四八号証によれば、援護法制定の際の衆議院厚生委員会における政府委員の答弁においては、援護法上の援護対象者は日本国籍を有する者に限定され、日本国籍の喪失は権利消滅事由として定められているところ、当時においては、朝鮮半島及び台湾出身者の国籍の帰属が不分明であるが、これらの人々が戸籍法の適用を受けていないことは明らかであったため、これらの人々に援護法の適用がないことを明らかにする趣旨で本件附則が設けられた旨述べられていることが認められる。
また、甲四四号証の一及び二によれば、昭和三二年四月一日の参議院議員による政府が朝鮮及び台湾出身の元傷痍軍人及び軍属であった者に傷病、障害補償の途を講ずる意思があるか否かを問う質問主意書に対して、同月九日の内閣総理大臣による答弁書では、恩給法又は援護法によってこの問題を解決することは不適当であり、結局日韓、日中両政府間における問題として他の請求権の問題と関連して考慮せざるを得ないのではないかと考えている旨の答弁がなされていることが認められる。
二 日韓請求権協定の締結について
サンフランシスコ平和条約四条(a)にいう特別取極の一つに相当するものとして、日本と韓国との間においては、昭和四〇年六月二二日、日韓請求権協定が締結、署名され、批准を経て、同年一二月一八日に発効した。
日韓請求権協定は、その一条において、日本から韓国に対する経済協力を規定し、その二条一項は「両締約国は、両締約国及びその国民の財産、権利及び利益並びに両締約国及びその国民間の請求権に関する問題が、完全かつ最終的に解決されたこととなることを確認する。」と規定し、同条三項は「一方の締約国及びその国民の財産、権利及び利益であって、この協定の署名の日に他方の締約国の管轄の下にあるものに対する措置並びに一方の締約国及びその国民の他方の締約国及びその国民に対するすべての請求権であって同日以前に生じた事由に基づくものに関しては、いかなる主張もすることができないものとする。」と規定している。
また、同協定二条二項本文は「この条の規定は、次のものに影響を及ぼすものではない。」とし、同項(a)で「一方の締約国の国民で一九四七年八月一五日からこの協定署名の日までの間に他方の締約国に居住したことがあるものの財産、権利及び利益」と規定している(右にいう「一方の締約国の国民で一九四七年八月一五日からこの協定署名の日までの間に他方の締約国に居住したことがあるもの」としては、実際には主としていわゆる在日韓国人がこれに当たるところ、以下、右に該当する韓国国民を「在日韓国人」という。)。
そして、財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定についての合意された議事録(以下「合意議事録」という。)2(a)には、同協定二条に関し、「財産、権利及び利益」とは、「法律上の根拠に基づき財産的価値を認められるすべての実体的権利をいうことが了解された。」旨規定されている(甲三七号証の二)。
同協定二条の実施に伴い、日本においては、その国内法的措置として、措置法が制定され、韓国及び同国民の財産権であって、同協定にいう「財産権、権利及び利益」に該当するものについては、原則として、同協定署名日において消滅したものとされた。また、韓国においては、請求権資金の運用及び管理に関する法律、対日民間請求権申告に関する法律、対日民間請求権補償に関する法律等が制定され、韓国政府が、同協定の経済協力により導入された資金等により、韓国国民が有する日本国政府が発行した有価証券や日本国政府に対する各種債権、日本国により軍人、軍属又は労務者として招集又は徴用され、終戦前に死亡した者の請求権等の日本国に対する民間請求権の補償をしたが、これらの補償対象者からは在日韓国人は除外された(甲三四号証の一ないし六)。
甲三五号証、九三号証及び弁論の全趣旨によれば、日本政府としては、日韓請求権協定について、以下のように理解していたことが認められる。すなわち、同協定二条二項(a)により、在日韓国人の財産、権利及び利益はその対象外とされているが、右にいう財産、権利及び利益とは、合意議事録2(a)により了解された実体的権利に限られている、したがって、同協定二条にいう請求権とは、財産、権利及び利益に当たらないものであり、右合意議事録2(a)の反対解釈から、実体的権利ではないいわゆるクレイムを提起する地位であり、これは、同協定二条三項により、もはや相手国に対しいかなる主張もできなくなるものとして完全かつ最終的に解決された、もっとも、同協定により確認されたのは、韓国政府が国家として有する自国民に対する外交保護権を放棄するという趣旨である、在日韓国人の援護法に基づく給付請求については、援護法の適用から除外されている以上、何ら国内法上の根拠を有しておらず、法律上の根拠を有する実体的権利ではないから、同協定にいう財産、権利及び利益に当たらず、韓国政府の外交保護権は放棄されている、同協定二条三項を受けて、韓国及び在日韓国人を除く韓国国民の財産、権利及び利益については、国内法的処理として措置法を制定して処理したが、在日韓国人の請求権については、請求権が実体的権利ではないことから、国内法により処理する必要がないという理解をしていたものと認められる。
三 本件附則の無効事由について(争点1)
1 本件附則の憲法一四条一項適合性
(一) 憲法一四条一項は、法の下の平等を定めており、その保障の対象となる権利等の性質上特段の事情が認められない限り、少なくとも我が国に在住する外国人に対してもその保障が及ぶべきものと解されるが、右規定は合理的な理由のない差別を禁止する趣旨のものであり、各人に存する経済的、社会的その他種々の事実関係上の差異を理由としてその法的取扱いに区別を設けることは、その区別が合理性を有する限り、何ら右規定に違反するものではないと解すべきである。
そこで、本件附則が設けられた趣旨についてみると、前記認定の援護法の制定経緯及び甲六九号証に照らせば、援護法制定当時既に署名されていたサンフランシスコ平和条約四条(a)において、分離独立地域における施政当局及びその住民の財産、請求権の処理が日本国と施政当局との特別取極の主題とされ、朝鮮半島及び台湾出身者である軍人軍属等に対する補償問題は、関係二国間の外交交渉によって解決されることが予定されていたことから、援護法においては、援護法対象者を日本国籍を有する者に限る趣旨で、前記のとおり、その本則で、障害年金等の支給を受けることができない者として障害の状態となった日において日本国籍を有しないもの等を掲げ、日本国籍の喪失をもって権利消滅事由と定めるとともに、同法制定当時、朝鮮半島及び台湾出身者の国籍の帰属が必ずしも分明でなかったため、右の国籍条項に加えて、戸籍法の適用を受けない者については援護法の適用をしない旨の本件附則を設けて、朝鮮半島及び台湾出身者に対する援護法の適用除外を明確にしたものであると解される。
ところで、一般に、戦争は国の存亡に係わる非常事態であり、そうした状況の下では、国民の生命、身体及び財産に関する戦争犠牲又は戦争損害は国民の等しく受忍しなければならなかったところであって、こうした戦争犠牲又は戦争損害に対する補償は憲法の全く予想しないところというべきであるから、このような戦争犠牲又は戦争損害について、国が、いかなる範囲の者に対して、いかなる程度の補償を行うかは、基本的には、国民感情や社会・経済・財政事情、さらには、外交政策、国際情勢等を考慮した政治的判断を要する立法政策に属する問題であるというべきである(最高裁昭和四三年一一月二七日大法廷判決・民集二二巻一二号二八〇八頁参照)。そして、軍人軍属等の戦死傷による障害等も、右にいう戦争犠牲又は戦争損害に当たることは明らかである。また、援護法は、基本的には国家補償の精神に基づいて制定されたものであるが、一面において、軍人軍属等であった者又はその遺族に対する生活援助法的側面をも有するものであることは否定できないところ、この種の援助は、当該援助の対象者の属する国家の責任においてなされることが現在国際間で基本的に容認されている実状にあると解されるところである。
このような戦争犠牲又は戦争損害のもつ特殊性、援護法の性格等をも考慮すれば、援護法の制定に当たって、朝鮮半島及び台湾出身者に対する補償問題は、施政当局、本件に即していえば、韓国政府と日本政府との特別取極によって解決することを予定する一方、援護法自体においては、自国民のみを援護の対象とする趣旨で、前記のような国籍に関する条項を設けるとともに、朝鮮半島及び台湾出身者に対する援護法の適用を排除するとの本件附則を設けるという立法政策をとったことには、十分な合理性があるというべきであり、本件附則によって、戸籍法の適用のある軍人軍属等と戸籍法の適用を受けない朝鮮半島及び台湾出身者の軍人軍属等との間で、その取扱いに差異が生じているとしても、その立法政策の当否はともかく、これをもって直ちに、本件附則が憲法一四条一項に違反することになるということはできない(最高裁平成四年四月二八日第三小法廷判決・集民一六四号二九五頁参照)。
したがって、戦争被害に対する補償について日本国籍の有無や戸籍法適用の有無は何ら本質的な要素ではなく、まして、韓国・朝鮮人が日本の植民地統治下において日本国籍を有していたことを理由に、本件附則が憲法一四条一項に違反するとの原告らの主張は、結局、援護法が、朝鮮半島及び台湾出身者の戦争犠牲又は戦争損害については同法によって救済しないとの立法政策をとったこと自体に対し論難することに帰することになるから、採用することはできない。また、本件附則が国籍条項を補完するものではないとか、戦争被害に対する補償問題を二国間協議の主題とする何らの根拠もないとして、本件附則が憲法一四条一項に違反するとする原告らの主張も、前記のとおりの援護法の制定経緯、本件附則が設けられた趣旨等に関する認定、判断に照らせば、独自の見解といわざるを得ず、これを採用することはできない。
(二) ところで、サンフランシスコ平和条約四条(a)にいう特別取極の一つに相当するものとして、韓国政府と日本政府の間では、日韓請求権協定が締結されたが、日本政府としては、在日韓国人の請求権を含めて韓国政府が外交保護権の放棄をしたものと考えており、在日韓国人等の援護法上の請求は、実体的権利に当たらない請求権にすぎないと解していたことは前記認定のとおりであり、同協定締結後、日本政府は、韓国政府が右外交保護権を放棄したことを考慮した上、援護法の適用に関し、本件附則の廃止等の特段の国内法的措置をとらなかった結果、本件附則が存続したことは明らかである。
原告らは、この点につき、仮に本件附則が韓国政府と日本政府の間の特別取極の可能性を考慮して設けられたことにその合理性を認めるとしても、それは右特別取極がされるまでの間にすぎないものであるから、日韓請求権協定締結以後も韓国人に対する何らの補償立法措置をとることなく、なお本件附則を存続させて、韓国人を援護法の援護対象から排除することは、憲法一四条一項に違反することになる旨主張するかのようである。
しかしながら、本件附則は、朝鮮半島出身者等に対する補償問題について関係二国間の特別取極にゆだねることを考慮して設けられたものであるとしても、右特別取極による解決が図られるまでの間一時的に朝鮮半島出身者等への援護法の適用を排除するために設けられたものではなく、援護法自体によっては朝鮮半島出身者等に対する補償は行わないとの立法政策に基づいて、国籍条項と相まって設けられたものであることは、前記判示のとおりである。そして、援護法自体によって朝鮮半島出身者等に対する補償を行うかどうかは立法政策に属する問題である上、仮に右特別取極によって補償問題についての何らかの解決が図られたとしても、そのことから直ちにかつ一義的に日本国籍を有しない者とこれを有する者とを全く同等に補償すべきとの結論が導かれることになるわけではないことを考慮すれば、右の特別取極に相当する日韓請求権協定が締結された後、別途他の補償立法措置をとらない場合でも、そのことから当然に本件附則を廃止して援護法を適用すべきということにはならないのであって、なお本件附則を存続させたとしても、そのような立法政策をとったことの当否、あるいは、朝鮮半島出身者等の戦争犠牲又は戦争損害に対し何らの補償立法措置をとらないという立法の不作為についての議論が生じる余地があることはともかく、そのこと故に、日韓請求権協定締結以後当然に本件附則が憲法一四条一項に違反することになるということはできないから、右原告らの主張を採用することはできないというべきである。
2 本件附則の国際人権規約違反の有無
原告らは、本件附則がA規約九条及びB規約二六条に違反し無効である旨主張するところ、右A、B両規約には、原告ら主張のとおりの規定があり、A規約二条二項は「この規約の締約国は、この規約に規定する権利が人種、皮膚の色、性、言語、宗教、政治的意見その他の意見、国民的若しくは社会的出身、財産、出生又は他の地位によるいかなる差別もなしに行使されることを保障することを約束する。」と規定している。
しかしながら、右A、B両規約の裁判規範性の有無の点はさておいても、右A、B両規約の定める平等原則も、憲法一四条一項と同趣旨のものであり、合理的な理由のない差別を禁止する趣旨のものというべきであるから、前示したところによれば、直ちに、本件附則が不合理な差別を行うものということはできず、これを両規約に反する無効なものということもできないというべきである。
四 本件附則の失効について(争点2)
1 本件附則が設けられた趣旨が、朝鮮半島及び台湾出身者の補償問題については外交交渉による特別取極が予定されていたこと及びその国籍の帰属について不分明な点があったことから、援護法自体においては自国民のみを援護の対象とするとの立法政策の下に、国籍に関する条項を設けるとともに、朝鮮半島及び台湾出身者を援護法の対象者としないとの点を明確にすることにあったことは前示のとおりである。また、弁論の全趣旨によれば、朝鮮半島出身者等の国籍喪失時期も分明でなかったことから、本件附則と同様の趣旨で、戸籍法の適用を受けない者の選挙権等に関し規定していた旧衆議院議員選挙法(大正一四年法律第四七号)の改正法(昭和二〇年法律第四二号)附則四項(ただし、その文言は「當分ノ内」、旧参議院議員選挙法(昭和二二年法律第一一号)附則九条、公職選挙法(昭和二五年法律第一〇〇号)附則二項(ただし、現行法では同法附則三項)、地方自治法(昭和二二年法律第六七号)附則二〇条一項、旧外国人登録令(昭和二二年勅令第二〇七号)一一条等の規定の例にならい、援護法においても、戸籍法の適用を受けない者については、当分の間、この法律を適用しない旨の本件附則が設けられたものであることが認められる。そうすると、本件附則において「当分の間」という字句が用いられているのは、本件附則の制定趣旨等からして、近い将来における特定の事柄の発生を具体的に予想したことによるものではないと解される。
そして、一般に、法令等において、将来における改廃等をも予想して、規定中において「当分の間」という不定期間が定められることがあるが、そうした場合においても、不定期間として定められている以上、右規定が実際には全く適用されず、事実上改廃されたものとみられるなどの特段の事情があるような場合は格別、当該法令の改廃等の立法措置が講じられない限り、法規としての効力を失ったものということはできないと解される。
2 日韓請求権協定の締結により、日本政府としては、韓国人に対する補償問題については、在日韓国人の請求権を含めて韓国政府が外交保護権の放棄をし、完全かつ最終的に解決されたと考えており、在日韓国人等の援護法上の請求は、実体的権利に当たらない請求権にすぎないから、特段の国内法的な処理の必要がないと解していたことは前記のとおりである。そして、その当否はともかくとして、同協定締結後も、日本政府が、在日韓国人についても援護法の適用に関し、特段の国内法的措置をとることなく、その結果、本件附則が存続するに至ったことは明らかである。
そうすると、本件附則にいう「当分の間」が不定期間として定められたものであり、サンフランシスコ平和条約発効後、あるいは日韓請求権協定締結後、本件附則が、全く適用されなかったとか、事実上廃止されたというような事情もうかがわれない状況の下では、日韓請求権協定締結後、本件附則が当然に失効したということはできないというべきである。
3 この点に関し、原告らは、本件附則にいう「当分の間」とは、外交交渉による解決を待つまでの間を意味するものであり、そうである以上、その期間は日韓請求権協定の締結により確定し、同協定締結後は、本件附則は失効している旨主張する。
しかしながら、右に判示したところに照らせば、原告らの主張は、その前提を欠き失当といわざるを得ない。もとより、一般論としていえば、朝鮮半島出身者等に対する補償問題については、関係二国間の外交交渉にゆだねられていたのであるから、その帰趨いかんにより、例えば、仮に積極的に補償するとの取極がされた場合においては、その目的を達成するため、特別の立法をすることなく、援護法の本件附則を廃した上その本則の改正をするとの立法措置をとることは可能である。しかし、同一の目的を達成するためにどのような立法形式をとるかは、結局、立法技術上の問題にすぎないのであって、右の一般論から直ちに、本件附則においても原告ら主張のような意図で「当分の間」との文言が用いられたと断ずることはできないというべきである。このことは、前記のとおり、種々の事情を考慮した上での政治的判断の下に補償の範囲、程度を決めざるを得ない性質を有する戦争犠牲又は戦争損害の補償問題については、仮に特別取極によって補償問題についての何らかの結論が得られたとしても、そのことから直ちにかつ一義的に日本国籍を有しない者とこれを有する者とを全く同等に補償すべきとの結論が導かれることになるわけではないことに照らしても、明らかである。
なお、原告ら主張のように、仮に、日韓請求権協定においては、在日韓国人の請求権はその解決の対象から除外されているものと解したとしても、本件附則の失効を前提とした上で、援護法上の請求の適否を論ずるのであれば格別、そのこと自体が、本件附則の効力に影響を及ぼすものとはいえないことは明らかである。したがって、この点に関する原告らの主張も採用できない。
五 最後に、付言すると、前記のとおりの判示に従えば、援護法が、自国民のみを援護の対象者とし、国籍条項及び本件附則を設けて朝鮮半島出身者等に対する援護は、同法によっては行わないとの立法政策をとり、また、日韓請求権協定締結後も、その当否はさておき、韓国人に対する補償問題は同協定により解決済みとの解釈の下に、右補償問題についての何らの積極的立法措置がとられていない結果として、原告らのような在日韓国人については、依然として、日韓両国から何らの補償も受けられない状態となっている(在日韓国人ではない韓国人については、日韓請求権協定締結後、前記のとおり、請求権資金の運用及び管理に関する法律、対日民間請求権申告に関する法律、対日民間請求権補償に関する法律が制定されるなどし、韓国政府から一定の範囲での補償を受けることが可能となっている。もっとも、右各法律によっても、原告らのような障害状態となった軍人軍属等に対する補償はなされていないところではある。)ことは否定できない事実である。このような状況の下で、原告らが本件訴訟において提起した問題は、朝鮮半島出身者は、日本の植民地統治下において、日本国籍を強要され、そのこと故に戦争に従事させられたにもかかわらず、後にその補償問題に至るや国籍等を理由に一切の補償を拒否することは許されるべきことではないとする点にあり、日本国民に対する補償の途を開いている援護法を手掛かりに、本件附則の違憲等を理由として、その救済を求めているものと推察されるところである。そして、原告らの主張には、傾聴すべき点があることも否定できないところである。
しかしながら、これまでに繰り返し判示したとおり、戦争犠牲又は戦争損害についての補償措置、なかんずく、日本国籍を有しない者に対する補償措置の範囲、程度は、政治的判断に基づく立法政策にかかわる問題であることからすれば、原告らのような在日韓国人が日韓両国のいずれからも何らの補償も受けられない状態となっていることは、その意味では、立法不作為の状況にあるというべきである。もとより、原告らが戦傷を負った時点から、既に五〇年近くの歳月が経過していることをかんがみれば、原告らが極めて同情すべき状況にあることは明らかではあるが、原告らのような戦争被害者に対し、何らかの補償措置をとるのか否か、どの範囲の人を救済の対象とするのか、日本国籍を有する者との関係で救済の程度をどのようなものにするのか等については、これまでの関係国間の外交交渉の経緯、その後の外交関係、国際情勢の変化、日本国内の社会・経済情勢等を考慮した上で、日本政府及び立法機関である国会において論議されるべき問題であり、一義的に明白に結論を導きだし得る性質のものではない以上、司法機関である裁判所が、援護法の適用の可否が争点とされている本件において、右立法の不作為の状況について、その適否ないし当否を軽々に評することは適当ではないといわざるを得ない。
六 以上によれば、本件附則を無効又は既に失効したものとする原告らの主張は理由がなく、本件附則により原告らに援護法の適用をしなかった本件各処分が違法であるということはできないものといわざるを得ない。したがって、原告らの請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとする。
(裁判長裁判官秋山壽延 裁判官竹田光広 裁判官森田浩美)