大判例

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東京地方裁判所 平成4年(行ウ)232号年(イ) 判決

原告

多胡正一

黒澤敏行

吉田幸雄

右原告ら訴訟代理人弁護士

小島延夫

近藤博徳

被告

東京都文京区長 遠藤正則

右被告指定代理人

山口憲行

濱中輝

竹澤正美

事実及び理由

第三 争点に対する判断

一  基準法九条は、違反建築物に対する措置として、特定行政庁が違反建築物等につき、建築主等に対して当該建築物の除去等、必要な是正措置をとることを命ずることができる旨規定しているが、同法その他関係法令に、右是正措置命令の発令につき、近隣住民に申請権限を認めているものと解すべき規定は存在しない。

二  原告らは、基準法の目的、機能等に照らせば、右是正命令等の発令につき、近隣住民に解釈上の申請権限が認められるべきであると主張する。

なるほど、基準法は、建築物の敷地、構造、設備及び用途に関する最低の基準を定めて、国民の生命、健康及び財産の保護を図り、もって公共の福祉の増進に資することを目的とするものである(基準法一条)が、そのことをもって、直ちに原告ら主張のように、近隣住民等に是正措置命令の発令についての申請権限が認められていると解することはできない。

基準法九条は、同法又は同法に基づく命令等を実効あらしめるため、特定行政庁に警察行政上の措置として違反建築物について措置命令等を発する権限を認めたものであるが、特定行政庁は、その権限の行使に当たっては、違反の程度やこれにより近隣住民が受ける具体的被害の内容及び程度、是正措置命令あるいは行政代執行により建築主の受ける損害の程度、さらには、都市政策的観点からの都市の安全と財産権の保護の調和等諸般の事情を考慮した上で、その合理的な判断により、是正措置命令等を発するか否か、発するとした場合、いついかなる命令を発するか等を決すべきであり、その権限の行使不行使は特定行政庁の広範な裁量に委ねられていると解すべきである。したがって、むしろ、基準法は、特定行政庁が一定の期間内に右権限の行使不行使について応答すべき義務があるような申請権を近隣住民に付与しているものではなく、近隣住民は特定行政庁に対し是正措置命令の発動を促すことができるにとどまるものと解すべきである。

右によれば、原告らの右主張は採用できない。

三  また、原告らは、違反建築物の違反の程度や建築過程における違法性が著しい場合には、申請権が認められるべきであると主張するようであるが、基準法上、法令に基づく申請権がそうした実体的な違法性の程度によって個別的に発生すると解することは困難であり、原告らの右主張は独自のもので到底採用し得ない。

四  以上によれば、原告らの本件建物の除去命令の発動を求める旨の申請は、法令に基づく申請ということはできない。

五  行政事件訴訟法三条五項の不作為の違法確認の訴えは、行政庁の処分がなされた場合には取消訴訟等の抗告訴訟を提起し得るのに、行政庁の不作為により抗告訴訟を提起する機会が奪われる事態になることを慮って規定された補充的な性質を有する訴訟であると解される。このような趣旨にかんがみれば、法は、行政庁が原告の申請に対して応答義務があるのにこれをしない場合の不作為についてのみ違法確認の訴えを許容しているものであって、行政庁に応答義務がない場合、すなわち、法令上の申請権がない場合についてまでこれを許容しているものと解することはできないというべきである。

そうすると、原告らに本件建物の除去命令の発動を求める法令上の申請権がないことは前記のとおりであるから、原告らの本件訴えは、不適法であり、これを却下すべきこととなる。

(裁判長裁判官 秋山壽延 裁判官 竹田光広 森田浩美)

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