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東京地方裁判所 平成5年(ケ)31号 決定 1993年1月18日

主文

債権者(土地抵当権の債権者)の申立てにより、土地に対する別紙担保権目録記載の抵当権に基づき、別紙物件目録(建物)記載の建物について、民法三八九条による一括競売手続を開始し、これを差し押さえる。

理由

一  申立て

本件は、土地建物抵当権設定後の再築建物について、土地の抵当権に基づき、土地と一括で競売(民法三八九条)することを追加的に求めるものである。

二  記録により認められる事実

(一)  債権者は、債務者(土地抵当権の債務者。株式会社丁原)に対して、平成元年六月一六日付け金銭消費貸借に基づき、三六億円を貸し付け、同日、債務者所有の別紙物件目録(土地)(2)記載の土地(以下「本件土地(2)」という。)及びその土地上の債務者所有の建物(港区赤坂《番地略》所在 鉄筋コンクリート造陸屋根地下一階付五階建 床面積延五六六・三六平方メートル。以下「旧建物」という。)を共同担保として、抵当権の設定を受けた。さらに、債権者は、債務者に対して、平成元年八月三〇日付け金銭消費貸借に基づき、二三億円を貸付け、同日、本件土地(2)及び旧建物並びに株式会社戊田社(丁原社の子会社)所有の別紙物件目録(土地)(1)記載の土地(以下「本件土地(1)」という。)を共同担保として、抵当権の設定を受けた(別紙担保権目録記載の抵当権)。

(二)  その後、債務者は、旧建物を取り壊し、平成四年六月四日、本件土地(1)及び(2)上に、別紙物件目録(建物)記載の建物(以下「新建物」という。)を新築した。

(三)  債務者は、抵当建物再築の場合には債権者に第一順位の抵当権を設定するとの当初の約定に反して、甲田建設株式会社に対して債権額二億五八四八万二二八六円の抵当権を設定し、債権者に対しては、前記三六億円及び二三億円の各貸付金について、それぞれ、第二及び第三順位の抵当権(前記各抵当権と共同抵当)設定仮登記をしたにとどまつた。

(四)  債権者は、別紙担保権目録記載の抵当権に基づき、本件土地(1)及び(2)の競売を申立て、平成四年一二月一四日、不動産競売開始決定がされた(当庁平成四年(ケ)第四二六七号事件)。

三  当裁判所の判断

(一)  新建物に法定地上権が成立するか

法定地上権(民法三八八条)は、競売の結果土地と建物の所有者が異なることになる場合に、建物収去という国民経済上の損失の発生を防止するため法律上敷地の利用権を発生させる、公益的見地から設定された制度である。しかしまた、同時に、法定地上権の制度は、将来競売によつて土地と建物の所有者が異なることになる場合には建物のため地上権が設定されるべきものとする、抵当権設定当時の当事者の合理的意思に基礎を置き、この合理的意思を法律の力で実現しようとするものであるから、抵当権設定当事者の合理的意思として地上権を留保したと考えられないような場合にまで、法律上地上権の成立を強制する趣旨ではないものというべきである。

ところで、本件は、抵当権設定者が土地との共同担保の対象であつた旧建物を競売の前に取り壊し、その後新建物を再築した場合であるが、このような場合には、新建物に土地と同順位の共同抵当権の設定登記を受けたときを除き、新建物については地上権を留保しないのが抵当権者の合理的意思というべきである。なぜなら、抵当権者は、競売まで旧建物が存続するものとして土地建物の担保価値を把握していると考えるべきところ、建物が再築された場合に、新建物に法定地上権が成立するとすれば、抵当権者は、地上権価格相当の多大な担保価値を失つて、不測の損害を被るからである。そこで、このような建物再築の場合には、抵当権者が土地と同順位の共同抵当権の設定登記を受けたときや、抵当権者がそのような抵当権の設定を受ける利益を放棄したときを除き、法定地上権は成立しないものというべきである。そして、このように法定地上権が原則として成立しないと解しても、建物を再築する抵当権設定者は、建物収去の結果を避けるためには、抵当権者のために本来設定すべきところの、土地と同順位の共同抵当権を設定すればよい(法定地上権を成立させることができる)のであるし、また、再築工事を請け負う者や再築工事代金を融資する者も、土地建物登記簿謄本を見ることにより、新建物について法定地上権が発生するのが前述の場合に限られることを予測することができるのであるから、抵当権設定者や第三者に不測の損害を与えることにはならない。

そうすると、本件においては、抵当権者は、旧建物について有していたとおりの第一、第二順位の抵当権の設定を受けることができず、しかも、抵当権者は、土地と同順位の抵当権の設定を受ける利益を放棄していないのであるから、原則どおり、新建物については、法定地上権は発生しない。

したがつて、債務者所有の新建物には、土地利用権がない(なお、本件土地(1)についての敷地利用権の設定がされているかどうかは不明であるが、仮に戊田社と債務者との間に何らかの敷地利用権が設定されているとしても、執行手続上否定されるべきものである。)のであつて、土地が競売され売却されたときは、債務者は、新建物を収去しなくてはならない。

(二)  民法三八九条による一括競売の可否

民法三八九条は、一括競売の要件として、「抵当権設定ノ後其設定者カ抵当地ニ建物ヲ築造シタルトキ」をあげる。その趣旨は、このような場合には、法定地上権が成立しないから、土地が競売されたときは建物を収去せざるを得ないところ、社会経済的見地からすれば、建物収去という社会的損失は避ける方が望ましいこと、抵当権者にとつても、建物を収去するものとして土地だけを売却するより土地建物を一括して売却する方が売りやすい上に土地の評価も高くなること、また、建物所有者にとつても、建物を収去するより建物売却代金を収受する方が有利といえることにある。そうすると、民法三八九条は、更地の抵当土地に抵当権設定者が建物を建築した場合のみならず、本件のように、土地建物に共同抵当権が設定された後、抵当権設定者が建物を取り壊して新建物を建築したため、新建物については法定地上権の成立しない場合にも、これを適用すべきものである。実質的にも、このように新建物を土地(1)、(2)と一括して競売することにより、債務者は地下一階建て地上八階建ての新建物の収去の負担を免れ、戊田社はその所有土地が高く売られることになり、また新建物の第一順位の抵当権者甲田建設は建物の売却代金から配当を受けることができるのであつて、それぞれ、有利でありこそすれ、不利になることはない。

四  結論

よつて、一括競売を認めることとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 杉原 麗)

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