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東京地方裁判所 平成5年(ワ)10741号 判決

原告 日本情報通信コンサルティング株式会社

右代表者代表取締役 牧山武一

右訴訟代理人弁護士 國生肇

被告 愛知電機株式会社

右代表者代表取締役 川口将一

右訴訟代理人弁護士 田中愼介

同 佐治良三

同 藤井成俊

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨(主位的請求、予備的請求とも同じ。)

1  被告は、原告に対し、九億八七四〇万円及びこれに対する平成五年一月一九日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  請負契約の解除による損害賠償(主位的請求)

(一) 原告は、電気通信計画の調査・作成、電子計算機応用システムの開発・製造・販売等を目的とする株式会社であり、被告は、電気機械・電子応用機器の製造・販売等を目的とする株式会社である。

(二) 原告と被告は、平成四年三月二四日、被告が、中部電力株式会社(以下「中部電力」という。)から同社岡崎営業所・西尾営業所管内向けの配電線自動化システム(配電線自動制御システムとも呼ばれる。以下「配自システム」という。)のサーバシステム装置・ネットワーク装置(以下サーバシステム、ネットワークを合わせて「本件サーバシステム」という。)設置工事(以下「本件工事」という。)の発注を受けることを停止条件として、原告が更に被告から右設置工事を請負代金見込額約一三億五〇〇〇万円、納期平成五年一〇月予定として請け負う旨の契約を締結した。

(三) 被告は、平成四年九月一日、中部電力から、本件工事の発注内示を受けた。なお、電力会社からのいわゆる正式発注と呼ばれる契約書作成は、納期の一週間前といった納入直前や場合によっては納入直後というのが通例であるから、電力会社からの発注内示は、商慣習上、請負契約締結と同視し得る。

(四) 被告は、原告に対し、平成五年一月一八日、本件工事についての請負契約を解除する旨の意思表示をした。

(五) 原告は、右解除により次の損害を被った。

(1)  納入予定品の仕入れ代金 五億三五九〇万円

(2)  開発投資資産償却費 四六三〇万円

(3)  人件費、役務費、旅費、機器賃料、業務委託費等 一億六五二〇万円

(4)  得べかりし利益 二億四〇〇〇万円

合計九億八七四〇万円

(六) よって、原告は、被告に対し、民法六四一条に基づき、九億八七四〇万円とこれに対する解除の日の翌日である平成五年一月一九日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

2  請負契約の解除による損害賠償(予備的請求その一)

(一) 原告と被告は、平成四年九月三〇日、原告が被告から本件工事を、具体的内容は、右同日、原告から被告に交付された「中部電力向け『配電自動化ネットワークシステム』プロジェクトについて」と題する書面(甲二)及び被告から原告に交付された注文内示書(甲一)のとおりとし、請負代金額を一三億五〇〇〇万円(仮設工事費含む。現地総合試験とバーサント移植費は除く。)、納期を平成六年三月三〇日として請け負う旨の契約を締結した。

なお、被告から交付された注文内示書には、左記の記載があった。

(1)  品名 中部電力岡崎営業所向けサーバシステム装置 ハードウェア、ソフトウェア一式

(2)  台数 一式

(3)  納期 平成六年三月三〇日

(4)  納入場所 被告 本社工場

(5)  仕様 別途打合せによる。

(6)  発注金額 別途協議の上決定。ただし、設置工事を含め中部電力査定金額の九〇パーセントを上限とする。

(7)  支払条件 別途打合せによる。

(二) 当事者、契約の解除及び原告の損害は、請求原因1に同じ。

3  請負契約に至った経緯

(一) 被告は、平成三年九月一九日、中部電力との間で、ワークステーションによる配自システムにおける相互連携に関する共同研究を行う旨の共同研究契約を締結したが、原告、ダイトーエムイー株式会社(以下「ダイトー」という。)と被告は、同年一〇月三一日付覚書により、右共同研究を行うための共同研究(以下「本件共同研究」という。)を行うことを合意した。

(二) 本件共同研究は、かねて中部電力から競争入札によらず随意契約によって本件工事を受注することになっていた被告が、配自システムを分散処理方式によるシステムで構築する場合の基本仕様の取りまとめを目的としたもので、分散処理方式を採用する上で不可欠なサーバシステムの開発・構築を行うことになっており、原告と被告の共同研究の結果、被告が中部電力より発注を受けた際には、原告が本件サーバシステムにつき、下請としてシステム構築から機器の納入までを担当することが合意されていた。なお、中部電力と東芝との間で集中制御方式による研究もされたようであるが、右研究は当て馬にすぎず、中部電力は当初から分散処理方式を採用することにしており、共同研究は、分散処理方式による配自システムの構築を目指した作業であった。

(三) 原告と被告及び中部電力は、平成四年三月ころまでの間、共同研究を実施したが、その研究の過程で、平成五年一〇月ころには本件工事を完成させること、中部電力から被告への請負代金額は約一五億円、被告から原告への請負代金額は、右代金額から約一〇パーセントを控除した額とすることが合意された。

(四) 平成四年三月二四日、原告のネットワーキングシステム事業部長であった渡辺久雄(以下「渡辺部長」という。)が、被告のシステム開発本部技術部課長である堀部勲夫(以下「堀部課長」という。)に対し、共同研究の成果である共同研究報告書を引き渡し、同日、原告の常務取締役統括営業本部長である西川賀博(以下「西川本部長」という。)及び被告の取締役システム開発本部長である竹安一郎(以下「竹安本部長」という。)との間で交渉の機会が設けられ、西川本部長及び竹安本部長の間で請負契約の請負金額及びその支払条件について、また西川本部長及び竹安本部長からそれぞれ権限を委任された渡辺部長及び堀部課長の間で、システムの仕様、納期及び開発スケジュールについて、それぞれ合意が成立し、原告と被告との間で請負契約が成立した。仮に渡辺部長及び堀部課長に契約締結の権限がないとしても、西川本部長及び竹安本部長の間で、既に堀部課長と原告との交渉により明らかになっていた、金額、仕様、納期及びスケジュールにより本件工事を発注する旨の合意が成立したものである。

(五) 右契約後である同年四月八日から一〇日までの間、静岡県浜名湖畔の弁天島において、原告、被告及び中部電力の各担当者による合同会議(以下「弁天島会議」という。)が開かれたが、右会議において、本件サーバシステムにおいて必要となるデータベース用コンピューターとコミュニケーション用コンピューターのうち、データベース用コンピューターにはディジタルイクイップメント社(以下「DEC社」という。)製のコンピューターである「VAX六〇〇〇」又は「VAX七〇〇〇」を、コミュニケーション用コンピューターには同社製のコンピューターである「VAXft」をそれぞれ用いること、ソフトウェアは、バーサント社が開発したデータ管理ソフトOODB(オブジェクト・オリエンテッド・データ・ベース。以下「バーサントOODB」という。)を使用することが合意された。

(六) 堀部課長及び渡辺部長らは、同年五月一二日から同月二一日までの間、DEC社及びバーサント社と打ち合せるため、アメリカ合衆国に赴いたが、その際、右バーサント社より、(三)で合意された期日を遵守するためには、同年六月中の発注が必要である旨説明を受けたため、原告は、堀部課長の意向を受けて、同年六月末に、バーサント社の日本国内代理店であるニチメンデータシステム株式会社(以下「ニチメン」という。)に対し、三億四九五〇万円でバーサントOODBのライセンス等の発注を行った。この発注は、直ちに原告より堀部課長に報告がなされた。

(七) 原告は、同年六月二四日、日本DEC社に対し、代金を四億三七〇三万九三〇〇円として、本件サーバシステムに用いるVAXコンピューター一式を堀部課長の意向に沿って発注し、被告に対しその旨の報告をした。

(八) 同年八月二一日、原告、被告及び日本DEC社間において打合せの機会がもたれたが、本件サーバシステムのハードウェアについては、DEC社製のVAXコンピューターを用いることが前提となっており、同日ころ、右に基づいて、原告は、被告の下請業者として中部電力に対し、VAXコンピューターの仕様を提出した。これにより、被告は、中部電力から発注の内示を得たものである。

(九) 同年九月三〇日、原告は、被告に対し「中部電力向け『配電自動化ネットワークシステム』プロジェクトについて」と題する書面を交付して請負契約の詳細な内容を提示し、被告はこれに基づいて原告に対し、「注文内示書」を交付して、請負契約を書面化した。右注文内示書によっても、サーバシステムの基本仕様として、コンピューターはDEC社のVAX(二台)及びソフトウェアにはバーサントOODBを使用することが被告において認識されていた。

(一〇) したがって、原告と被告との間で、平成四年三月二四日、本件工事の請負契約が成立したものであり、仮にそうでないとしても、同年九月三〇日には請負契約が成立した。

4  契約締結上の過失に基づく損害賠償(予備的請求その二)

(一)その一

(1)  被告の従業員である堀部課長は、本件のプロジェクトに関し、被告の唯一の実質的責任者であり、原告に対して指示をし、原告との多数回にわたる打合せの過程で、原告が本件サーバシステムの構築について、多大な費用投入を行って開発行為や機器・ソフトウェアの発注を行ってきたことを知っていた。

(2)  平成四年九月三〇日に交付された注文内示書は、原告に納期を平成六年三月と定めて本件サーバシステムの構築作業を求めるものであるところ、被告は、機器構成やシステム構成を熟知した上で、右注文内示書の交付を行ったものであり、そうであれば堀部課長が作成したスケジュール表(甲四二の3)に従った手順でないと右の納期を厳守できないことを十分に承知していたものである。その上で納期厳守を言明している以上、被告は、原告が右納期を厳守すべく、前記の作業を推進していたことは十分認識していたはずであるから、注文内示書の交付は、本件サーバシステムの発注行為とほとんど異ならないものであり、その撤回は、無条件には許容されないものというべきである。

(3)  しかるに、被告は、一方的に注文内示書を解消したものであって、被告は、請負契約の解除に準じて、不法行為上の損害賠償義務を負担すべきである。

(二) その二

(1)  堀部課長は、あたかも自らが本件プロジェクトにつき被告会社を全面的に代理すべき立場にあるかの如く装い、原告は、堀部課長の指示のとおりに開発行為や発注行為をした。

(2)  堀部課長は、一年余にわたり、会合を重ね一定の信頼関係にあった以上、原告に対し、具体的な開発行為や発注行為を指示したと客観的に受け取り得る行為をしてはならない義務を負っており、また、原告が開発行為や発注行為をした事実を知った場合には、機器やソフトの選定は未定であり、全額原告の損害になるかもしれない旨直ちに警告すべき義務があったというべきである。

(3)  それにもかかわらず、堀部課長は、これを行わずそのまま放置したため、原告は、多額な出捐を余儀なくされ、損失を被った。

(三) 損害は、請求原因1に同じ。

(四) したがって、原告は、被告に対し、民法七〇九条、七一五条に基づき、九億八七四〇万円及びこれに対する不法行為日の後である平成五年一月一九日から支払済みまで年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否、反論

1  請求原因1の(一)の事実は認める。

同1の(二)の事実は否認する。

原告主張の請負契約が成立していないことは、報酬額が高額であるにもかかわらず契約書が作成されていないことや、渡辺部長や堀部課長には契約締結の権限がないこと、原告の主張によっても、平成四年七月二三日の時点でも原告は被告に対し、本件工事に関する見積りの条件等を提示するなどしていること、同年九月三〇日に至るまで、原告は被告から注文内示書を受領していないこと、右注文内示書自体も、注文者側の将来の発注可能性を示した書類にすぎないこと、集中制御方式と分散処理方式とのどちらを採用するかについて、中部電力内部の決定がない限り、中部電力から被告への発注も、被告から原告への発注も考えられないところ、平成四年三月二四日当時、中部電力内部においても、右については未だ決定していなかったこと、右同日の西川本部長、渡辺部長らの行動からしておよそ契約締結があったとは認め難いこと、同日提出された概算見積書と題する甲第九号証の3はその内容からしても契約の申込みとしての正規の見積書とはいえないことなどから明らかである。

同1の(三)のうち、被告が平成四年九月一日に中部電力から着手依頼書の交付を受けたことは認めるが、右は発注内示とは異なる。

同1の(四)の事実は否認する。被告が原告に平成五年一月一八日付で注文内示書を解消する旨の通知をした事実はあるが、右は契約解除の意思表示ではない。

同1の(五)の事実は争う。

2  請求原因2の(一)のうち、平成四年九月三〇日に、原告が「中部電力向け『配電自動化ネットワークシステム』プロジェクトについて」と題する書面を被告に交付し、被告が原告に原告主張の記載のある注文内示書を交付した事実は認めるが、その余は否認する。本件では、報酬額が高額であるにもかかわらず契約書が作成されておらず、平成四年九月三〇日に被告が原告に交付した注文内示書は、注文者側の未確定的内意の表明にすぎないものである。注文内示書の交付の際、原告と被告との間で契約締結に向けての基本姿勢、方針の確認を行い、今からが契約交渉のスタートであることで意見が一致していたのであり、現に同日以降、契約上の債務の履行その他契約成立を前提とする行為が行われておらず、基本仕様などの契約内容の交渉に終始しているのである。甲第二号証は、原告が請け負った内容でなく、請負契約締結に向けての原告の希望を提示したものにすぎない。原告と被告の間で原告主張のような請負契約が締結されたとはいえないことは明らかである。

3  請求原因3の(一)の事実は認める。

同3の(二)の事実は否認する。本件共同研究は、中部電力が将来配自システムを構築するに当たり、集中制御方式と分散処理方式との得失を比較するため、前者については中部電力と東芝との間で、また後者については中部電力と被告との間でそれぞれ共同研究が実施されることとなったものの、後者については当時被告が技術を持っていなかった高速長距離通信技術の研究も必要であることから、更に原告との共同研究を企画したものにすぎず、分散処理方式の採用の可能性を検討すること自体を目的とするものであって、被告が原告に対して本件工事を発注することを前提としたものではない。

同3の(三)の事実は否認する。本件共同研究は、分散処理方式の一部である通信要素の理論化及び技術的研究・開発を目的とするものであって、発注を前提としていない。右研究においては、サーバシステムの実現可能性、総費用の試算及びスケジュール等の検討もされたが、右はサーバシステム実用化のための一般論の検討にすぎない。なお、被告は、右共同研究の費用として、合計九四〇万円を原告に対して支払っている。

同3の(四)のうち、渡辺部長が、堀部課長に共同研究報告書を交付したことは認めるが、その余は否認する。右共同研究報告書の交付は、共同研究にかかるレポートの取りまとめ作業にすぎない。堀部課長は、被告の契約締結についての権限を有せず、かつ右契約締結について通常必要とされる社内決裁も経ていないのであるから請負契約の締結は不可能である。

同3の(五)のうち、弁天島会議が開かれたことは認めるが、その余は否認する。右会議は、分散処理方式の適用について、ケーススタディ方式により原告、被告及び中部電力の技術者間の意見交換を目的として実施されたにすぎない。

同3の(六)のうち、堀部課長及び渡辺部長らがアメリカ合衆国に赴き、DEC社及びバーサント社を訪問したことは認めるが、その余は否認する。右は、原告の要望により、DEC社の展示会の見学と観光を兼ねて堀部課長が同行したにすぎない。

同3の(七)の事実は不知。配自システムにおいては、最初にシステムの基本設計を完成させた後、ハードウェア及びソフトウェアの基本設計を行うものであるところ、弁天島会議が開かれた平成四年四月ころは未だシステムの基本設計にも着手されておらず、コンピューターの機種選定には至っていなかった。したがって、仮に原告が機器を購入したとしても、それは原告が独自の判断で投資したものである。

同3の(八)のうち、平成四年八月二一日に、原告、被告及び日本DEC社との間で打合せがあったこと、原告がVAXコンピューターの仕様を提示したことは認めるが、その余は否認する。右打合せにおいて、DEC社のVAXコンピューターが話題になることはあったが、それは一例にすぎない。また、被告は、中部電力から、平成四年九月一日に至って、本件工事に関し初めて着手依頼(発注内示とは異なる。)を受けたが、右は中部電力の独自の判断に基づくものであって、原告のVAXコンピューター仕様提出とは関係がない。

同3の(九)のうち、原告及び被告間において、原告主張にかかる書面が交付されたことは認めるが、その余は否認する。注文内示書は、発注者側の発注の条件を提示したにすぎず、請負契約を文書化したものではない。

4  請求原因4のうち、堀部課長が被告側の担当者として原告側と数多く打合せを行ったことは認めるが、その余は争う。原告の主張する費用投入は、堀部課長の意向ないし指示に基づくものではなく、原告の経営戦略に基づく投資であった。堀部課長は、機器等の発注を何ら知らされてはおらず、知る方法もなかった。なお、契約締結上の過失は、契約締結準備段階に達した以後における信義則上の注意義務違反の問題であり、契約準備段階に至ったか否かは、契約の諸条件が合意され、契約締結への準備がなされるなど、契約が確実に成立するとの期待を抱けるに至ったか否かによって判断されるべきである。本件では、被告が中部電力に提案しようとする分散処理方式は、新しいシステムであり、中部電力で採用されるかどうかは全くの未知数であったものであり、共同研究は、それ自体で対価が決められ、システムの採否とは全く無関係に行われたものである。その後の勉強会、打合会などもその延長線上のものにすぎず、契約準備段階には入っていない。平成四年九月三〇日の被告から原告への発注内示書の交付以降は、多少は契約が成立するとの期待が生じたかもしれないが、これも、今後の仕様等の交渉いかんによっては契約に至らない可能性があり、確実に契約が成立するとの期待を抱くまでには至っていない。

また、堀部課長は、被告の技術上の責任者にすぎない。配自システムについての一定範囲の決裁権限は担当取締役である竹安本部長に与えられており、堀部課長には決裁権限は与えられていなかった。堀部課長は自分に代理権限があるかのようなことを言ったことも、装ったこともなく、西川本部長も、堀部課長に代理権限のないことを知っていたものである。

なお、原告と被告との契約が締結に至らなかった原因は、(1)  本件配自システムに関する原告の技術水準は、被告が期待したほどのものではなかった、(2)  原告は、自己の取り扱うメーカーの機種の使用に固執して被告の意向を無視するような対応をした、(3)  堀部課長と原告の技術担当者の間の技術上の問題に関し、修復し難い軋轢が生じ、信頼関係がなくなった、ことによるものであり、被告に責められるべきところはない。

理由

第一平成四年三月二四日の請負契約の成否について

一  原告は、原告と被告は、平成四年三月二四日、被告が中部電力から同社岡崎営業所・西尾営業所管内向け配自システムのサーバシステム装置・ネットワーク装置の設置工事の発注を受けることを停止条件として、原告が更に被告から右設置工事を請負代金見込額を約一三億五〇〇〇万円、納期平成五年一〇月予定として請け負う旨の契約を締結したと主張する。

しかるところ、原告の右主張にかかる請負契約については、契約書等これを直接証明するに足りる書面が作成された形跡はない。

そこで、まず、平成四年三月二四日に至るまでの経緯等についてみてみるに、証拠(甲第三号証の1ないし3、第四号証の1及び2、第五号証の1、第五号証の2の1ないし5、第五号証の3の1及び2、第五号証の4の1ないし4、第五号証の5、第五号証の6、第六号証、第七号証、第八号証の2、第九号証の2及び3、第一〇号証の1及び3、第一三号証、第二〇号証、第二一号証、第二二号証の1及び2、第二三号証、第二四号証、第二五号証の2、第二六号証の2の1ないし11、第二七号証、第二九号証、第三〇号証、第三一号証の1及び2、第三二号証、第三三号証、第三五号証の1ないし5、第五五号証、第五六号証、第六四号証、乙第一号証、第二号証、第四ないし第六号証、第一四号証、第一六号証の1、第一七号証、第二七ないし第三四号証、第三六号証、証人西川賀博の証言、証人渡辺久雄の証言(第一、第二回)、証人堀部勲夫の証言(第一、第二回)、証人竹安一郎の証言、証人関正明の証言)並びに弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実を認めることができる。

1  当事者

(一) 原告は、昭和三五年九月に設立された電気通信計画の調査・作成、電気通信施設工事の設計・監督・検査などを目的とする会社で、平成四年当時の資本金は一億八〇〇〇万円であった。

(二) 被告は、昭和一七年五月に設立された電気機械・器具の製造・修理・販売、電気施設工事の請負・監理・施工などを目的とする会社で、平成四年当時、その資本金は四〇億四四〇〇万円、従業員数は約一五〇〇名、その株式は名古屋証券取引所市場第一部に上場され、大型変圧器など電力会社向けの製品を中心に年間約五六五億円の売上があった。被告の筆頭株主は、中部電力であり、同社は被告にとっての大口取引先でもあって人事の交流もある。

被告会社の組織は、社長室、管理本部及びシステム開発本部の二本部と変圧器事業部、機器事業部及び電子機器事業部の三事業部に分かれているが、後述の配自システムの研究開発は、システム開発本部の技術第二グループ(堀部課長)が担当していた。

(三) 被告の堀部課長は、平成二年ころ、当時株式会社オーエスアイプラス(以下「オーエスアイ」という。)に在職していた西川本部長と知り合った。

2  中部電力の配自システム導入計画

(一) 中部電力では、平成二年、コンピューターを使った配自システム(配電線自動化システム又は配電線自動制御システム)を管内全域に導入することが社内で承認された。

この配自システムとは、コンピューターを使って、地図データ、電柱データを始めとし、配電線に設置される種々の機械類の設備データ、配電線路の接続データ及び系統状態等多大なデータベースを基に親局が子局を介して配電線路上の開閉器を遠隔監視、制御したり、配電線路の切替運用計画などをしたりするシステムであり、平成二年当時、既に中部電力名古屋支店北営業所及び三重支店四日市営業所に試行的に導入され、稼働していたが、北営業所及び四日市営業所の配自システムは、それぞれの営業所管内の配電線設備内でのみで行われていた。

(二) 中部電力では、同社の配電部配電技術グループが中心になって、平成三年から新しい配自システムを管内全域に導入するための検討を始めた。平成三年から同四年ころの配電技術グループのメンバーは、武藤昭世主幹(総括)、杉山博副長(計画業務。以下「杉山副長」という。)、関正明主任(親局担当。以下「関主任」という。)、宮岡洋一(子局担当。以下「宮岡」という。)、小林久則(親局担当。以下「小林」という。)という構成であった。

(三) 中部電力の配電技術グループが既に稼働している北営業所や四日市営業所の配自システムを検証した結果、中部電力の全営業所で自動化を実施する場合、各々の営業所でコンピューターを個々に導入することは費用対効果の上で大きなロスが生じるのではないか、複数の営業所管内を関連させて運転する方式を考える必要があるのではないかということが問題となった。

そこで、中部電力は、平成三年ころ、右の問題を解決するシステムの提案を配電線の自動制御を扱っていたメーカー七社に求めたところ、東芝など数社が、二、三の営業所を一つのグループとして、能力の比較的高い一台の大型電算機(プロセスコンピューター)で一括監視・制御し、それらのグループ間については相互バックアップをする集中制御方式を提案し、被告が、各営業所単位に比較的能力の低い電算機(ワークステーション)を置き、処理を分担してこれを連携して一連の処理を完遂する方式である分散処理方式を提案した。集中制御方式は、試行的に導入されていた北営業所や四日市営業所の配自システムを大型化しようとするもので、なじみやすいことから中部電力内では当初有力視されていた。また、分散処理方式は、被告の堀部課長の発案によるもので、親局(配自システムの中核をなすもので常時配電線の運転状態を監視し、必要に応じて配電線を制御する装置)間でデータを相互通信することに特色があり、そのために四〇〇キロメートルに及ぶ長距離光通信システムが必要であって、その開発が可能であることが前提となっていた。

(四) 中部電力は、各メーカーの提案内容、資料のみでは、集中制御方式を採用すべきか分散処理方式を採用すべきかの決定ができかねたので、両方式について提案者と共同研究をして更に詳細な検討を行い、それぞれの方式の長所や短所を把握することとし、平成三年九月、集中制御方式については東芝を、分散制御方式については被告をそれぞれ共同研究の相手方として選択し、東芝及び被告とそれぞれ共同研究契約を締結して、共同研究を始めた。

被告と中部電力は、平成三年九月一九日、共同研究契約を締結したが、右契約では、その研究目的を、ワークステーションによる配自システムにおける相互連携方式の開発とした。研究費用は、総額八〇〇万円とし、中部電力と被告が均等に負担するものとするが、主に担当するのが被告であったため、中部電力は、自己の負担分四〇〇万円に消費税を加算した金額を被告に支払うこととされた。また、同日、中部電力は、東芝との間で、プロセスコンピューターによる配自システムの広域運用方式に関する共同研究を行う旨の合意をした。なお、中部電力においては、メーカーなどとの共同研究は頻繁に行われており、具体的な工事の発注と共同研究が直接結びつかないようにするため、有償を原則としていた。

3  原告と被告の共同研究の合意

(一) 被告の技術第二グループの責任者として、中部電力の配自システムを研究していた堀部課長は、平成三年夏、原告に移籍していた西川本部長とダイトーの開いた展示会の会場で再会し、原告会社の存在を知るとともに、原告が展示していた画像伝送システムを見て、この技術が中部電力の計画している配自システムに利用できるかもしれないと考えた。堀部課長は、その旨を西川本部長に述べたところ、西川本部長から中部電力の人にも是非見てもらいたいと言われたため、中部電力の関主任を右会場に誘い、西川本部長に関主任を紹介した。関主任は、展示されていた原告の画像伝送システムを見て、配自システムに利用できるかもしれないと興味を持った。

(二) 原告の西川本部長、渡辺部長、中島宣夫情報通信事業部副事業部長(以下「中島副部長」という。)、原告の窓口であった株式会社東京日放の大塚正商品開発室長(以下「大塚室長」という。)らは、平成三年八月一日、ダイトーの川口常務に案内されて、中部電力本店七階配電部配電自動化グループ作業室に、当時配自システムの検討のため、常駐に近い状態で中部電力の担当者と一緒に作業していた堀部課長を訪問した。

中部電力の関主任や杉山副長も同席する中で、西川本部長は、原告やオーエスアイの説明をし、堀部課長は、同人が検討している配自システムの分散処理方式を西川本部長らに説明した。堀部課長がした説明の内容は、おおむね、中部電力における従来のシステムは、営業所ごとに開発されているため、これを別の営業所に導入しようとしてもコンピュータープログラムに互換性がなく、その都度開発費用がかかる上、信頼性重視の制御用コンピューターが採用されており、一般のコンピューターのような処理スピードがなく、処理量が増えた場合、容易に処理能力を増強できないので、一般のコンピューターを応用して、ある営業所管内のシステムがトラブルを起こしても別の営業所のシステムで代行する分散処理方式が良いと考え、これを中部電力に提案しているというものであった。

(三) 平成三年八月、被告は、中部電力から前述の共同研究の打診を受け、これに応ずることにしたが、堀部課長は、右共同研究には高速通信技術を持つ原告の協力が必要と考え、原告側に協力方を打診したところ、原告も協力する意向であったため、同月二九日、ダイトーを訪れ、同社の川口常務、東京日放の大塚室長、原告の西川本部長らと、中部電力と被告が行う共同研究を踏まえ、被告とダイトー、原告とで行う共同研究の主要テーマについて検討した。堀部課長は、その席で、分散処理方式を説明した上、同方式におけるシステム間のデータ通信の手法、高速光通信の手法を共同研究のテーマとしたいと述べた。

(四) 被告は、平成三年九月一九日、前述のように中部電力との間で共同研究契約を締結したが、その後の同月二六日、ダイトーの本社で、被告の堀部課長、原告の西川本部長、中島副部長、渡辺部長、関口営業部長、名古屋支店藤島課長、東京日放の大塚室長、ダイトーの川口常務が参加して技術上の打合せが行われた。その席上、堀部課長は、被告の希望として、中部電力との共同研究や原告らとの共同研究によって分散処理方式を中部電力に採用させ、被告が他の重電メーカーに妨害されることなく、特命受注を受けられるようにしたい、受注が受けられた場合には、原告に、配自システムの中のネットワーク系、サーバ系を担当してほしい、今後の作業としては分散制御システムの特徴などをまとめたいなどと発言をし、仮に平成四年四月に中部電力から発注を受けた場合を想定して、平成五年六月に運用を開始する場合の作業スケジュールを例示した。また、同年一〇月二五日には、ダイトーから大塚室長、西川本部長に対し、被告が原告へ依頼したい内容が、ネットワークプロトコル、ネットワークセキュリティー、全体のシステム管理法、サーバの仕様、これらを実現するハードの選択、調査(コスト等を含む)であることが伝えられた。

(五) 右のような打合せを経て、平成三年一〇月三一日、被告とダイトー及び原告は、中部電力向けのワークステーションによる配自システムにおける相互連携に関する研究を推進するために、システム基本構成の検討及び相互バックアップ方式の検討を内容とし、研究期間を平成四年三月三〇日までとする本件共同研究を実施するための覚書を締結した。この覚書では、本件共同研究に対する対価として、被告がダイトーに四一二万円(消費税を含む)を支払い、ダイトーは、右金額の範囲内で原告に対する対価を支払うこと、ダイトー及び原告は平成四年三月一〇日までに研究報告書を被告に提出すること、研究により得られた成果は、原告、被告、ダイトーの三社に等分に帰属することなどが合意された。

(六) 平成三年一一月一日、ダイトー本社で、原告を代理した大塚室長と堀部課長が作業スケジュールについての打合せをした。その際、大塚室長が堀部課長に西川本部長の作成にかかる「『ワークステーションによる配電線自動制御システム』開発」と題する書面(甲三の2)を交付した。右書面には、原告が、ワークステーションによる配自システム開発について、当面、ネットワークの概念設計、サーバシステムの概念設計、システム構成、システム構成ハードウェア仕様、ソフトウェア仕様を担当すること、原告の要望として、ネットワーク、サーバに関しては、岡崎営業所、西尾営業所への納入、総合試験まですべてを担当することを前提に、当年度作業を実施するので、平成四年三月の時点で受注仮確定ができるようにしてほしい、ネットワーク及びサーバの使用機器選定は原告に任せてほしい旨の記載があった。堀部課長は、大塚室長に対し、吉良変電所新設に伴い、新システムをこれまでの平成五年六月運用開始ではなく、中部電力の制御所と他のシステムとの間で通信する場合の通信規約であるRCN実装規約(RCNはリアルタイム・コンピューター・ネットワークの略)の始動予定時である平成六年一月と合わせて運用を開始できるとよいこと、原告からの右書面による申入れについては、担当項目等については了解し、また、平成四年度から開発作業に入らないと間に合わないのでそれまでには何らかの契約処理をしなければならないと考えていること、サーバの機種選定等については基本的には原告に任せるが、VAXコンピューターを使用する場合には、早急にクリアしなければならない問題点があることなどを伝えた。

(七) ダイトーの川口常務は、平成三年一〇月ころに堀部課長が研究予算を得るため竹安本部長に向けて書いた「次世代配電自動化システムの開発の件」と題する書面(甲二一)を基に「中部電力(株)配電部殿との打合せによる次世代配電自動化システムの開発」と題する書面(甲二二の2)を作成し、平成三年一一月八日ころ、原告に交付した。右書面には、被告が中部電力の配自システムについての分散処理方式による仕様案を作成することになった経緯、分散処理方式の特長、システム開発の進め方及びスケジュールなどが記載されているほか、今後分散処理方式のシステム開発に取り組むについて被告社内の体制を整える必要があることなどが記載されている。

(八) 平成三年一一月一九日、西川本部長は、東京日放の大塚室長、オーエスアイの今永社長、ダイトーの川口常務とともに被告本社を訪問し、被告の資材部への取引先登録手続を行い、被告の川口将一社長、川口将二専務、竹安本部長らに挨拶をした。この日以降、原告と被告の本件共同研究が始まった。

4  共同研究の開始から平成四年三月二四日までの経緯

(一) 平成三年一一月二〇日から同月二二日までの三日間、原告の渡辺部長らと被告の堀部課長らとの間で打合せが行われた。同月二〇日の午前中は、原告名古屋支店において行われ、そこでは、原告側から、分散処理方式における長距離光通信方式において、既存のFDDI(ファイバー・ディストリビューテッド・データ・インターフェイス。光ファイバーを用いたネットワークの通信方式)では中部電力の要求条件を満たすことができないため、汎用品をベースとして最長四〇〇キロメートルまで一〇〇Mbps(一秒当たり一〇〇万ビットの通信速度)の光通信を可能とするXFDDI(拡張FDDI)を開発する必要があるなどの説明があり、制御所システムとの通信を行うコミュニケーションサーバの機種としては、DEC社のVAXft、データベースサーバの機種としてVAXのクラスタがよいと思う旨の意見が出された。

同日午後からは場所を中部電力本社に移し、関主任ら中部電力の担当者も加わった。そして、ネットワーク、サーバの構成等について検討を行ったが、XFDDIについては、一〇〇キロメートルを超える長距離伝送路の環境で動作の確認を行う必要があるため、実証実験を行うことが検討された。また、中部電力側からは原告の提案するシステムの価格について質問があり、原告は、サーバ側のハードウェアとソフトウェアだけなら一五億円程度であろうと答えた。原告側からは中部電力に対し、光通信の試行運用のため、西尾、岡崎間の既設の光ケーブルを借用したい旨の申入れがあった(この試行運用は、空きケーブルがなかったため結局行われなかった。)。

(二) 平成三年一二月中旬、中部電力から堀部課長に対し、予算要求の資料の一つとして、集中制御方式と分散制御方式とのコスト検討をするために、本件共同研究を前提とした場合の費用について、メモ書き程度のものでよいから概算金額を出してほしい旨の要請があった。そこで、堀部課長は、原告に対し、本件共同研究を前提とした場合に要する費用の概算見積りを算出するよう連絡し、原告は、平成三年一二月一三日付で、サーバシステム(工事費除く)を八億四二〇〇万円、ネットワークシステム(工事費除く)を一億三〇〇〇万円、開発費を一二億九〇〇〇万円として合計二二億六二〇〇万円の「中部電力様向けシステム概算見積(甲二三)」を提出した。

(三) 平成三年一二月一八日、杉山副長や堀部課長は、原告に招待されて、池袋サンシャインビル三六階の日本DEC社ショールームでVAXコンピューターを見学した。

(四) 平成四年一月九日、被告の堀部課長、中部電力の武藤主幹、杉山副長、関主任、ダイトーの川口常務、東京日報の大塚室長、原告の西川本部長と渡辺部長が参加した席上で、原告側から本件共同研究の内容を前提とし、必要最低限の構成とした場合の本件サーバシステムの概算見積りの説明があった。原告側の説明では、データベースサーバを一台とし、ディスクを四ギガバイトとすれば、サーバ、ネットワークの設備費、開発費として一二億八一〇〇万円、開発試験環境構築費として一億円、一般管理費としてこれらの一〇パーセントである一億三八一〇万円の合計一五億一九〇〇万円程度になるとのことであった。

(五) 平成四年一月二三日、堀部課長から渡辺部長に電話があり、本件サーバシステムにおいては、親局に搭載する予定であるバーサントOODBをサーバにも搭載する必要があることが伝えられた。渡辺部長は、当時サーバの機種として挙げられていたDEC社のVAX・VMS(VMSはOSソフト)上で動くバーサントOODBがなかったことから、バーサント社の日本総代理店であるニチメンと連絡を取って検討してみる旨答えた。原告は、ニチメンと連絡を取った結果、同年二月七日に、堀部課長に対し、DEC社のVAX・VMSにバーサントOODBを搭載することは解決できる問題である旨返答した。

(六) 平成四年二月二〇日、原告は、松下通信工業株式会社で、中部電力配電部の宮岡と堀部課長立会の下、試作XFDDI装置の動作実験を行った。この実験では、試験装置に不具合が生じたため、試作装置の動作は確認できたものの、性能については確認できなかった。

(七) 中部電力は、平成四年二月二五日、配電線自動制御関連七メーカーに対して、新しい配自システムについての基本的な考え方を示し、それに対応する各社の構想、その概略の仕様、納期、超概算金額などを、同年三月二五日ないし二七日に提案するよう求めた。これは、中部電力としては、共同研究の相手方である東芝、被告以外の各社からも、幅広い意見、構想の提案を受けることで、両方式の長所や短所、平成四年三月に中間報告ないし報告書として提出される予定である共同研究報告書の客観性、費用の妥当性等を検討し、できるだけ多くのメーカーの提案を取り入れた配自システムの方式を決定したいと考えたからであった。

(八) 平成四年三月四日、中部電力本店内で、原告の渡辺部長らから堀部課長に本件共同研究の研究報告書草案(甲二六の2の1ないし11)が提出された。堀部課長と渡辺部長らは、右研究報告書草案に基づいて、これを被告が中部電力へ提出する共同研究報告書の第III 編、第IV編に使えるようにするため、中部電力への共同研究報告書には不要な仕様と開発スケジュールに関する章を削除したり、システムに採用するハードウェアメーカーを中心としたメーカー名、製品名を匿名表記へ変更したり、その他の修正や字句訂正等を行ったりするなどの作業をし、原告は、同月一三日ころ、右の修正作業の結果に基づいて書き改めた研究報告書(甲二七)を堀部課長に郵送した。

(九) 平成四年三月一七日、西川本部長は、堀部課長を中部電力配電部作業室に訪ね、XFDDIの検証実験について被告に費用負担を求めた。堀部課長は、自分自身には契約締結権限がないことから業務部を通すように答え、最終的に被告から原告に五四〇万円が支払われた。また、このころ、被告側から西川本部長に対し、本件サーバシステムについての概算見積りをしてほしい旨の依頼があった。これは、竹安本部長が、中部電力への提案において概算の金額を提示するについて、一五億円程度という金額を直接西川本部長から聞いていなかったことから、原告と被告の技術者間では、一三・五億円という数字が出ていても、会社として提示する金額になれば営業的判断もあるので、異なる数字になる可能性があると懸念して、原告が本件サーバシステムについては、概算で一三・五億円で実現可能と考えているということを確認しようとしたものであった。

(一〇) 平成四年三月二四日の昼前後、西川本部長は、中部電力配電部にいた堀部課長を呼びだして、東海テレビ会館内の喫茶室で被告から提出を求められた見積書(甲八の2)を見せて説明した。堀部課長は、見積りの総額を一三億五〇〇〇万円となるようにした方がよいのではないか、ダイトーのマージンを見積書に入れるのはおかしいのではないかなどと問題点を指摘したため、西川本部長は、指摘された問題点を右見積書に書き込んで見積書を訂正した。そして、西川本部長は、原告名古屋支社で書き直した見積書(甲九の3)を作成した後、被告本社に竹安本部長を訪ねた。これには被告の加藤技術部長と足立業務部長が同席した。西川本部長は、XFDDI検証実験についての同日付け見積書(甲九の2、乙六)と、配自システムについての書き直した見積書(甲九の3、乙五)を提出し、本件サーバシステムについての超概算費用が一三億五〇〇〇万円であることを説明した。その際、西川本部長は、竹安本部長に対し、被告が中部電力から配自システムを受注する見通しについて質問をし、受注した場合には原告に請け負わせてほしいと要請をした。同日午後、中部電力七階の配電部内で原告の渡辺部長らと被告の堀部課長が本件共同研究の報告書(甲二七、乙三四)を取りまとめた。その際、渡辺部長は、堀部課長に対し、今後も勉強をする場を設定することを提案し、堀部課長もこれを了承した。また、仮にバーサントOODBをVAX・VMSに移植する場合には、その購入価格は同等市販製品なみの一本四〇〇〇万円程度とし、現時点での見積金額である一三億五〇〇〇万円に含むものとした。

5  中部電力による分散処理方式の採用

(一) 中部電力は、平成四年三月二五日から同月二七日にかけて、メーカー七社のヒアリングを行って配自システムについて提案を受け、検討を行った。

被告は、中部電力との共同研究を踏まえ、コンピューターの機種としてサーバについてDEC社、親局のワークステーションについてヒューレット・パッカード社(以下「HP社」という。)を一例として挙げ、概算費用につき一五億円に多少リスクをみた金額を提案した。なお、平成四年三月下旬には東芝と中部電力の共同研究の中間報告も提出された。この時点で、右共同研究では集中制御方式の方式についての検討はほぼ終了しており、運転上の制約について引き続き検討が進められることとなった。

(二) 平成四年四月から七月まで、中部電力の配電技術グループは、東芝との共同研究や被告との共同研究の結果を踏まえた技術検討と使用する側としての運転に対する比較を行った。その結果、配電技術グループは、集中制御方式は、主局(集中制御拠点親局)にプロセスコンピューター(大型計算機)を設置し、主局同士を互いに連携するとともに、主局が隣接する複数の営業所を従局(集中制御衛星親局)として統括するので、複数の営業所管内を関連させて運転するという中部電力の方針には沿うが、変電所や配電線での大規模故障発生時における復旧のためのデータ更新に時間を要しすぎるため、今のコンピューターの技術水準では採用が難しい、他方、分散処理方式は、中部電力の方針もクリアでき、しかも費用対効果も十分に期待できるとの結論を出し、平成四年七月、分散処理方式を採用する方がよく、分散処理方式を採用した場合の発注先業者候補としては被告が考えられるという配電技術グループの意見を配電部長に出した。

(三) その結果、中部電力は、平成四年八月、分散処理方式を採用することを正式に決定し、同年九月一日、被告に対し、岡崎営業所に係る配電線自動化サーバシステム装置及び配電線自動化システム親局装置並びに西尾営業所にかかる配電線自動化システム親局装置(第二期工事)の着手依頼書(乙一六の1)が交付され、同日、被告から中部電力に対し、着手承諾書(乙一七)が交付された。

二  右認定したところに基づいて判断するに、結局のところ、平成四年三月二四日に原告と被告との間で請負契約が成立したとする原告主張の事実については、これを認めるに足りる十分な証拠はないといわざるを得ない。その理由は以下のとおりである。

1  まず、原告の主張する請負契約の請負代金額は一三億五〇〇〇万円であるというのであるが、そのような高額の請負代金の請負契約でありながら契約書その他の合意書面が作成されていないのは、特段の事情のない限り、不自然であるというべきである。前記一で認定したところによれば、原告と被告は、本件共同研究が始まる前には特にこれといった取引関係があったわけではなく、書面を取り交わさなくても契約関係が紛れることはないなどの信頼関係があったわけでもない。また、原告は、本件共同研究の過程で、被告側に契約の早期締結を希望していたことがうかがわれるが、そうであれば、仮に請負契約の合意が成立したならば、そのことの書面化を求めてしかるべきであるが、本件全証拠によるも、原告側から被告側に書面化を求めた形跡も認められないのである。

2  次に、前記認定によれば、中部電力がメーカー各社のヒアリングを行ったのが平成四年三月二五日から同月二七日にかけてであり、その結果や東芝や被告との共同研究に基づいて中部電力社内で検討を重ねて、最終的に分散処理方式の採用を決定したのは同年八月であったことが認められるから、停止条件にもせよ、分散処理方式が採用されるかどうかも分からない同年三月二四日の時点で、被告が原告と本件サーバシステムの請負契約を締結したとは考えにくいところである。

もっとも、右の点について、原告は、中部電力では当初から分散処理方式を導入する予定であり、東芝と中部電力との共同研究は当て馬にすぎず、本件共同研究も被告が中部電力から特命受注を受けることを前提として行われたものであって、本件共同研究の開始の前後から、中部電力から直接、あるいは被告の堀部課長などを経由して、中部電力の機密資料に属するRCN結合に関する資料(甲二〇三、二〇八の1、2、二〇九、二一〇の1ないし9、二一一ないし二一三、二一四の1ないし4、二一五の1、2、二一六の1、2、二一七の1ないし6、二一八ないし二二〇、二二一の1、2、二二二)が交付されているが、このことは、中部電力から被告への本件配自システムの発注が本件共同研究の開始前に決定していたことを示している旨主張する。

しかしながら、これらの資料が本件共同研究開始前後から平成四年一〇月ころまでの間に原告に交付されたことは被告も認めるところ、乙第四一号証及び証人関正明及び証人堀部勲夫(第二回)の各証言によれげ、これら資料の内容は、RCN実装規約、インターフェイス仕様書、通信線ルート図などであり、本件共同研究及びその後の打合せのために原告側に交付したものであって、中部電力で部外秘とするほどの文書ではなく、メーカーが検討をしていく上で利用するものであるから、中部電力は、希望があれば、悪意がないと判断される限り、相手方に渡しているもので、これらの資料の中に含まれるRCN実装規約など、RCN関連の資料については、今後中部電力で通信についての規約としてRCN実装規約を採用する予定であったことからこれを前提として作業をしなければならないために原告側に交付されたものであり、また、その内容は、制御所と営業所との間の接続の手法についてのものであって、営業所に設置される親局がどのような形で運用されるかとは別個のものであることが認められる。したがって、これらの資料の交付と分散処理方式の採否とは直接の関連を有するものとは認め難い。

また、前記一の認定の事実によれば、平成三年九月二六日の原告と被告の会合で、堀部課長は、被告の希望として、中部電力との共同研究や原告らとの共同研究によって分散処理方式を中部電力に採用させ、被告が他の重電メーカーに妨害されることなく、特命受注を受けられるようにしたいとの発言をしたことがあり、また、中部電力と被告は、資本や人事交流などの面で密接な関係があることがうかがわれるから、被告が他のメーカーよりも有利に取り扱われ、その関係で中部電力が被告の提案する分散処理方式を採用しやすい素地がなかったわけではないとも思われる。しかしながら、堀部課長の発言は、あくまで被告ないし堀部課長の希望を表明したものと解され、他方、甲第二一号証、第二二号証の2によれば、堀部課長は、平成三年一〇月ころ、竹安本部長に向けて書いた「次世代配電自動化システムの開発の件」と題する書面を提出したが、その中で、堀部課長は、中部電力は被告が分散処理方式によるシステムを作成することが可能であるとの認識を持っておらず、担当部署の配電部においてすら、当初被告案に冷ややかであり、全く相手にされなかったが、最近になりやっと信頼を得ることができたのが現実である、資材部を含む他部門においては被告をコンピューターに関連するメーカーとの認識がなく、上層部も同様の感覚であると思われる、そのため競合メーカーは、被告が表に出る前につぶす機会を虎視眈々と狙っている、被告としては実績を作ることが第一であるという認識の下に社内的に意思統一を図るべきであると訴えていることが認められるのであり、本件共同研究が始まった当初は、被告は、むしろ、被告が提案した分散処理方式を中部電力に採用させることは容易ではないとの認識を持っていたことがうかがえるのである。また、現実に東芝と中部電力との間で金銭対価を伴って共同研究が行われており、具体的な研究対象のモデルとなる地区が異なるからといって、集中制御方式、分散処理方式の比較が不可能となるわけではないと考えられる。

したがって、本件共同研究をする以前から中部電力が被告提案の分散処理方式を採用することを決めていたとの原告の主張は採用し難い。

3  また、前記認定によれば、平成四年三月二四日、原告の西川本部長が被告本社を訪れ、被告の竹安本部長に対し、本件サーバシステムの見積書を渡し、竹安本部長がこれを受け取ったことが認められる。

しかしながら、右見積書の授受をもって請負契約が成立したとはいい難い。すなわち、右にみたとおり、平成四年三月二四日の時点では、中部電力は未だ分散処理方式を採用することを決定していなかったのであるから、当然のこととして、配自システムをどのメーカーに、代金をいくらとして請け負わせるかは決めていなかったと考えざるを得ない。そうであれば、被告が中部電力から分散処理方式による本件工事を受注することを停止条件としたにせよ、被告が請負代金額を決めてこれを更に原告に下請させる契約を締結することはできない筋合いである。なぜなら、本件サーバシステムの工事は、コンピューター等の機器とプログラム開発、設置工事などからなるところ、請負人側からの見積書は前提とするにしろ、発注者側の査定はされるから、原告ないし被告が提出した見積りで中部電力がそのまま応じるとは考え難いのであり、そうであれば、被告は原告との請負代金も決めることはできないからである。

また、前記一で認定したところによると、平成四年三月二四日に授受された見積書の内容は、分散処理方式によって原告提案の本件サーバシステムが採用された場合のおおよその概算見積りであり、被告が中部電力に分散処理方式の配自システムを提案する際におおよそのコストを中部電力に説明するために被告が原告に提出を求めたものであるところ、その提出の仕方からしても原告の一方的な見積りであり、そのような概算の見積りを契約の内容にすることは通常では考えられない。

4  平成四年三月二四日、原告の西川本部長と被告の竹安本部長が会った際、西川本部長は、竹安本部長に対し、被告が中部電力から配自システムを受注する見通しについて質問をし、受注した場合には原告に請け負わせてほしいとの要請をしたことは前記認定のとおりである。

しかし、証拠(乙第二九号証、第三〇号証、証人竹安一郎の証言)によれば、竹安本部長及び足立業務部長は、西川本部長の要請に対し、被告はコンピューターシステムのメーカーとしては中部電力に十分に認知されていない上、方式の決定は中部電力上層部の判断であるし、中部電力の発注業務は資材部が行っていることから仮に受注できるとしても請負代金額は資材部の査定次第であってどうなるかは分からず、外注先を云々する段階ではないとの説明をしたことが認められるのである。

5  以上のような事柄を総合勘案すると、原告と被告との間で平成四年三月二四日に請負契約が締結されたものとは認め難いといわざるを得ないのである。

なお、前記認定の本件共同研究の過程をみれば、原告と被告は、本件共同研究の成果を基に、できれば中部電力から配自システムを請け負いたいとの共通の考えを持ち、それを狙って本件共同研究を進めていたのであろうということは容易にうかがうことができる。そして、平成四年三月二四日の時点においても、そのことは変わらなかったであろうから、その点では両者の意思が一致していたといえようが、それは原告と被告が協力して将来的に中部電力から配自システムの受注を獲得しようという意思を共通にしていたというにすぎず、その意思の一致があったからといって、原告と被告との間に請負契約があったということはできないのである。

第二平成四年九月三〇日の請負契約の成否について

一  平成四年九月三〇日に、原告が被告に対し、「中部電力向け『配電自動化ネットワークシステム』プロジェクトについて」と題する書面(以下「本件プロジェクト書面」という。)を交付し、被告が原告に対し、請求原因2の(一)に記載した注文内示書(以下「本件注文内示書」という。)を交付したことは当事者間に争いがないところ、原告は、同日、原告と被告は、右二つの書面を内容として、原告が被告から本件工事を請負代金額一三億五〇〇〇万円(仮設工事費含む。現地総合試験とバーサント移植費は除く。)、納期平成六年三月三〇日として請け負う旨の請負契約を締結したと主張する。

しかるところ、甲第二号証によれば、本件プロジェクト書面は、原告が被告のプロジェクトへ参加させてもらうことについて礼を述べ、被告のプロジェクトへ参加するについて原告の条件、要望事項を列挙するとともに、プロジェクトについては被告の所要見積項目・様式を提示してもらった上で別途見積書を提出することが記載されており、他方、甲第一号証によれば、本件注文内示書には、「下記の件名の注文を内示致します」との文言に続いて注文の内容が記載されていることが認められる。

したがって、その文書の体裁及び内容に照らして、本件プロジェクト書面と本件注文内示書が原告と被告との間で授受されたというだけでは、何らかの約定が原告と被告との間に成立したと認めることは困難であり、他に平成四年九月三〇日に契約書等の書面が作成された形跡はない。

二  そこで、本件注文内示書が交付された経緯等についてみるに、証拠(甲第二号証、第一六号証の1及び2、第一七号証の1及び2、第一八号証の3、第三七号証、第三八号証の1ないし4、第四〇号証、第四一号証の2、第四二号証の1ないし3、第四三号証の1及び2、第四四号証の1及び2、第四六号証、第四八号証の2、第四九号証の1ないし13、第六二号証の2、第六七号証の1及び2、第六八号証、第二〇〇号証の1、乙第三号証の1、第五号証、第六号証、第八号証の1及び2、第九号証、第一二号証ないし第一四号証、第一六号証の1及び2、第一七号証、第一八号証、第二〇ないし第三三号証、第三五号証、第三六号証、第三九号証の1ないし5、第四〇号証、第四一号証、証人西川賀博の証言、証人渡辺久雄の証言(第一、第二回)、証人堀部勲夫の証言(第一、第二回)、証人竹安一郎の証言、証人関正明の証言))並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

1  中部電力が着手依頼書を出すまでの経緯

(一) 平成四年四月八日から一〇日にかけて、原告が手配し、費用を負担する形で、静岡県浜名湖湖畔の弁天島のホテルで弁天島会議が開かれた。右会議には、中部電力配電技術グループの宮岡、小林、被告の堀部課長、原告の渡辺部長、中島副部長、新良貴幸夫システム開発部長代理(以下「新良貴部長代理」という。)ら、東京日放の大塚室長が参加した。この会議では、今後の配自システムの開発スケジュールやシステムの概要が検討されるとともに、システムに必要なコンピューターやデータベースのメーカーの開発意欲を高揚させるために平成四年五月に渡米する計画が立てられた。

(二) 平成四年四月二一日、西川本部長は、オーエスアイの今永社長とともに、被告の川口将一社長及び川口将二専務を訪問した。また、平成四年四月二二日から二三日にかけて、原告は、中部電力の武藤主幹、杉山副長、被告の堀部課長を新東京国際空港の情報通信設備の視察及びNTT竹橋DNSSセンターの設備の見学に案内し、熱海の石亭で懇親会を開催した。

(三) 平成四年四月二七日、中部電力において、中部電力の関主任と宮岡、原告の中島副部長、渡辺部長、新良貴部長代理ら、被告の堀部課長、東京日報の大塚室長が出席して検討会が開かれた。この席では、弁天島会議で取り上げたシステムの詳細な部分について議論をした。また、平成四年五月九日、被告の応接室で、中部電力の宮岡、原告の中島副部長、新良貴部長代理、被告の堀部課長、東京日報の大塚室長が出席して中部電力通信部から光ケーブルを借りることに関しての打合せがあった。

(四) 平成四年五月一二日から二一日にかけて、被告の堀部課長及び原告の渡辺部長、新良貴部長代理がアメリカ合衆国に出張し、DEC社及びバーサント社を訪問した。この出張の目的は、メーカーの開発意欲を高揚させることや、平成五年三月までにバーサントOODBをVAX・VMSに移植できる可能性を確認することなどであった。この出張中、堀部課長や渡辺部長は、平成四年五月一四日、ボストン郊外のDEC本社において、DEC社の開発責任者のフェルナンド氏、日本DEC社の内山部長、大木課長代理と会い、平成五年一月ころに新型のコンピューターVAXftが出る予定であることなどの説明を受け、同月一九日には、サンフランシスコ郊外のバーサント社において、同社のシーショルズ社長らからバーサント社の概要、業務内容、販売戦略、開発計画などの説明を受けた。バーサント社からは、バーサントOODBをVAX・VMSに移植して納入するためには、納入を平成五年三月とするならば平成四年六月中に発注をする必要があることなどが説明された。このアメリカ出張の費用については、被告は、原告から請求され、六七万四七九〇円を原告に支払った。

(五) 平成四年六月五日に松下通信工業にて、渡辺部長ら、中部電力配電部宮岡と堀部課長の立会のもと、XFDDI装置の動作及び性能の検証実験が行われた。

(六) 平成四年六月一六日、中部電力で、中部電力の関主任ほか、原告の渡辺部長、新良貴部長代理ほか、被告の堀部課長らが集まって打合せを行った。この打合せの席上、堀部課長からVTCM(配自システムに必要な装置の名称)を親局に問題が起きたときのバックアップだけでなく通常運転時も使用することや親局間通信も必要であることなどの発言があり、原告側からVAX七〇〇〇が平成四年七月に発表されることが伝えられた。また、同月二二日、中部電力に、中部電力配電部の武藤主幹、杉山副長、関主任、制御通信部の担当者、原告の中島副部長、被告の堀部課長が集まって、ネツトワークに関連する打合せを行った。ここでは、中部電力の制御通信部の担当者に対し、本件配自システムにかかわるネットワークに関し説明がされ、質疑応答があった。

(七) 原告は、平成四年六月二四日、同日付けの日本DEC社からの見積書(甲四一の2)に従って、VAX六〇〇〇等を四億三七〇三万九三〇〇円(消費税込み)で同社に発注した。また、原告は、同月三〇日、VAX・VMS対応のバーサントOODBのライセンス一〇本を納期平成五年三月三一日、三億五九九八万五〇〇〇円でニチメンに発注した。

(八) 平成四年七月一六日、堀部課長は、原告会社を訪れ、原告の西川本部長、渡辺部長、中島副部長らと打合せを行った。このとき、堀部課長から、現時点では、本件配自システムを受注できた場合、その運用開始時期について、これまで想定していた平成六年一月から同年七月にこれが延びるようなので、予定納期も平成五年一〇月から平成六年三月に延びると考えられるとして、その予定で作業を組んだ場合のスケジュール例を白板に書き、その後、手書きのスケジュール表(甲四二の3)のコピーを原告側に交付した。また、堀部課長から、XFDDIからVAXftへのデータ取り込みのスピードが、現状では一〇メガbpsであり、ボトルネックとなる可能性があるので、XFDDIを一〇〇メガbpsで直接にVAXftへ取り込むことができないか提案があり、渡辺部長が検討してみる旨答えた。

(九) 平成四年七月二二日から二四日にかけて、バーサント社のスタッフが来日し、主として、原告、日本DEC社、ニチメンが参加してバーサントOODBをVAX・VMSに移植することに関する打合せが行われた。バーサント社のスタッフは、同月二三日、被告会社を訪れ、中部電力、被告、ニチメンの各担当者と打合せをしたが、システムの機能概要説明が中心で、仕様の詳細を詰めるには至らなかった。

(一〇) 西川本部長は、堀部課長宛に、平成四年七月二三日付で「中部電力向け『汎用WSによる配電自動制御ネットワーク』見積の件」と題する書面(乙一二)を交付した。右書面は、とりあえず情報を整理したものである旨の記載があり、また、その内容は、定価による単価表による見積りとなっており、被告への納入価格、又は値引率については、別途協議することになるとしている。その後、同年八月七日付で、西川本部長は、堀部課長宛に本件サーバシステムについて、総額一五億二一九七万八〇〇〇円の見積書を提出した。右見積りには、平成五年一二月末までのハードウェア等の仕入、システム設計、アプリケーション開発、ハード改修、工場内試験、開発・試験環境償却(これのみ一年半分)が含まれ、現地工事費、現地調整費、総合試験費用は含まれていない(これらを含んだ場合は、一五億九七七五万四〇〇〇円となっている。)。

(二) 平成四年八月二一日、中部電力において、被告の堀部課長、日本DEC社のスタッフ、原告の渡辺部長らが出席してハードウェア仕様等についての打合せが行われた。堀部課長から、原告から提出されているVAXコンピューターのアメリカ仕様のカタログではマシンの仕様に不明な点があるので、各機器についてのデータを提出してほしい旨の依頼が原告側にされた。また、渡辺部長から、コミュニケーションサーバの負担を軽減するため、XFDDIのRCN接続をデータベースサーバのほうで行ってはどうかとの提案があった。

2  本件注文内示書の授受

(一) 平成四年九月一日、中部電力は、被告に対し、同日付けで「岡崎営業所に係る配電線自動化サーバシステム装置及び配電線自動化システム親局並びに西尾営業所に係る配電線自動化システム親局(第二期工事)」について着手依頼書を交付し、被告は、中部電力に対し、同日付けで着手承諾書を提出した。

また、このころ、渡辺部長は、中部電力に赴き、堀部課長にVTCMに関する資料(甲四九の1ないし13)を渡した。右資料は、本件配自システムにおけるVTCMの仕様、外観や設置条件などについてのものである。

(二) 平成四年九月二二日、西川本部長、大塚室長、オーエスアイの今永社長が被告本社を訪問した。被告側では、竹安本部長、足立業務部長らが応対した。その際、被告側から、中部電力から被告に対し着手依頼が出されたこと、被告から原告に対し注文内示書を出す予定であること、原告の担当範囲、スケジュール、開発体制等について原告の案を出してほしいことが原告側に伝えられ、九月三〇日に再度打ち合せることとした。

(三) 平成四年九月三〇日、被告本社で、竹安本部長、足立部長、堀部課長、西川本部長、大塚室長が会談し、原告側から、「中部電力向け『配電自動化ネットワークシステム』プロジェクトについて」と題する本件プロジェクト書面が提出された。西川本部長は、右書面に基づいて、本件配自システムの仕様の基本事項については、平成四年四月に行った弁天島会議で決めたことを前提とし、平成四年一〇月末の原告、被告間の仕様決定、同年一二月の中部電力の仕様凍結を前提としたい旨の原告側の希望を提示し、既に原告は試験開発環境用のマシンや基本ソフトウェアを購入済みであると述べた。しかし、サーバシステムに使用するマシンやソフトウェアが既に弁天島会議で決定済みであるかのような原告側の見解は、堀部課長の意に反するものであったため、その場で協議がなされた結果、基本仕様、基本条件等についてはこれからスタートであること、ハードウェア購入に当たっては被告の了解を得ることを原告、被告間で確認した上で、本件注文内示書が被告側から原告側に交付された。

3  本件注文内示書の解消通知までの経緯

(一) 平成四年一〇月六日、中部電力において、中部電力配電部の関主任、制御通信部の担当者、原告の武藤部長、被告の堀部課長及び富士電機の担当者との打合せがもたれた。その際、制御所側のRCN化作業を担当していた富士電機の担当者からRCN化に関する工程表(甲六二の2)が提出された。この席では、堀部課長は、データベースサーバのコンピューターをVAX七〇〇〇にした場合の説明を行った。

(二) 平成四年一〇月一三日、原告名古屋支店において、中部電力、原告、被告の各担当者によって技術打合せが行われた。その席上、被告側から親局間のダイレクト通信も可能であることを前提にしたい旨の申入れがあり、これに対して、原告側は、これまでのものとは異なっているので検討するとの回答をした。このころの打合せから、原告のスタッフは、サーバの機種はVAXコンピューターに決まっているとの前提で行動するようになり、そうは考えていない堀部課長との間で軋轢が生じるようになった。

(三) 平成四年一〇月二〇日、中部電力、原告、被告間で打合せをした。この日は、親局間通信について技術的検討をすることが中心テーマであったが、堀部課長は、原告担当者に親局についてより深く理解してもらうため、中部電力の親局(実機)の見学会を行った。

(四) 平成四年一〇月二二日、堀部課長は、原告会社を訪れ、原告側スタッフと打合せを行った。堀部課長が、親局間通信についての返答を求めたが返事はなかった。平成四年一一月九日には、中部電力で中部電力、被告と原告社員を含めた打合せがなされた。

(五) 平成四年一二月九日、西川本部長が、被告の要請を受けて被告会社を訪問した。竹安本部長は、訪れた西川本部長に対し、サーバの機種をHP社のコンピューターで検討できないか、仮にそれができない場合でも、本件配自システムの通信部分については担当してもらえないかとの申入れをした。これに対して、西川本部長は、中部電力が求める平成六年六月の納期に間に合わせるにはHP社のコンピューターにすることは無理であるとして、VAXコンピューターにこだわる姿勢を見せた。堀部課長が、これまでの被告内部での検討によれば被告がHP社のコンピューターによるシステムを構築することも可能であると考えている旨申し向けると、西川本部長は、HP社のコンピューターの件については、持ち帰って一週間後に返事をすると答えた。また、この会議の終了後、西川本部長は、個別に竹安本部長と会い、竹安本部長に対し、原告は既にVAXコンピューターやバーサントOODBなど納入予定機材の発注手配をほとんど終わっていること、原告の技術者は一〇月二〇日ころの堀部課長との打ち合せ以来、堀部課長が仕様についての検討依頼をするため強い不信感を持っていること、HP社のft計算機については、堀部課長の指示に従って調べているが推奨はできないことなどを話した。これに対して、竹安本部長は、原告のした納入機材の発注は、九月三〇日の申し合わせに反するものであり、これについて被告としては責任が持てないと答えた。

(六) 平成四年一二月二一日、名古屋都ホテルにおいて、西川本部長と竹安本部長、足立部長との折衝があった。ここでは、西川本部長が「中部電力岡崎営業所向け『サーバシステム等開発について』」と題する書面(乙二一)を竹安本部長、足立部長に示し、このような文書を正式に被告に対し出してよいかと尋ねた。右文書には、原告はあくまでDEC社のVAXコンピューターを採用することを勧めること、被告が既にHP社のコンピューターによるシステム設計を終えたということは、被告が早期からVAXコンピューターからHP社のコンピューターへの変更を意図していたということであり遺憾であること、サーバの機種をHP社のコンピューターへ変更するのであれば、ネットワーク部分についても原告は被告への協力を辞退すること、本件に関し原告は被告に対するあらゆる権利を保留すること等が記載されていた。竹安本部長は、堀部課長がHP社製コンピューターのシステム設計を既に完了しているという事実はないと述べ、足立部長は、これらの点について説明、質問などをした上、西川本部長に対し、技術者同士の話し合いを提案したが、西川本部長は、信頼関係の修復は不可能であるとしてこれを拒否した。

(七) 平成四年一二月二四日に被告からの要請があったため、西川本部長は、同月二六日に被告会社を訪問し、被告の川口将一社長、川口将二専務、竹安本部長と会談した。その席上、川口社長は、技術者間の言葉不足が食い違いの元と考えるのでよく話し合いをして円満に納めたいと述べたが、西川本部長は、DEC社以外の製品を使用した場合は納期、品質面で責任が持てない、DEC社のマシンの採用を前提としないと検討にも入れない、技術者間の信頼関係が壊れてしまっているのでこの修復は難しいと答え、解決策は見いだせなかった。この席で、竹安本部長は、西川本部長に、この話が壊れるとどんな迷惑をかけるのかと尋ねた。

(八) 平成五年一月八日、被告東京支社で、西川本部長と渡辺部長、ダイトーの川口常務、被告の竹安本部長らが出席して、打合せを行った。その席上、原告側は、DEC社のマシンを採用するのでなければ本件から離れるとの主張を維持し、話し合いは平行線をたどった。同月一二日にも、被告東京支社で、西川本部長と竹安本部長が会談したが、解決策は見いだせなかった。

そのため、平成五年一月一八日、被告は、原告に対し、本件注文内示書を解消する旨を文書で通知した。

三1  原告は、平成四年九月三〇日、原告と被告が本件プロジェクト書面と本件注文内示書の授受したことをもって、本件工事の請負契約が成立したと主張するところ、これら二つの書面は、その内容及び体裁からは直ちに契約の成立をうかがわせるものとなっていないことは前記のとおりである。

2  しかし、右二で認定したところによると、原告と被告は、本件共同研究が終わった後も、中部電力からの受注を目指して、分散処理方式による配自システムについての検討を重ねたが、中部電力の技術スタッフも分散処理方式の技術上やコスト上の問題を探るため、原告と被告との検討作業に加わっており、その検討の過程においては、サーバに用いるコンピューターとしてDEC社製のVAXを想定していたこと、被告が中部電力から分散処理方式による配自システムの工事を受注することができた場合には、そのうちのサーバシステムの工事を原告が被告から下請負いをする形で担当することについては原告も被告も当然の前提として予定していたことが認められる。そして、中部電力は、平成四年八月に分散処理方式を採用することを決定し、同年九月一日で被告に着手依頼書を交付し、同日、被告から中部電力に着手承諾書を交付しているのであるから、右時点において、被告は、分散処理方式による配自システムの構築作業に入れるようになったものと考えられる。そうであれば、被告としても、配自システムの構築作業の一部である本件サーバシステムを構築するための工事を原告に依頼することが可能となったものといえ、平成四年九月三〇日に授受された本件注文内示書をもって、請負契約締結の申入れとみる余地がある。

3  そこで、更に検討するに、仮に、本件注文内示書を契約の申込みとみると、これを承諾する旨の注文請書等の書面が原告側から被告側に提出されてしかるべきものと思われるところ、このような書面が原告側から被告側に交付された形跡はない。正式な契約は工事完成直前に交わされるという原告主張の業界の慣行があったとしても、中部電力と被告との間では、中部電力が着手依頼書を交付し、被告が着手承諾書を交付しているのであって、合意が成立しているのなら、双方で何らかの書面を交わしているのが自然であると思われ、原告側が本件注文内示書をもって契約の申込みと受け取っていたのなら、これに対応する書面を原告側が被告側に提出しなかったのは不自然といわなければならない。

それでは、本件プロジェクト書面をもって契約の申込みがされ、本件注文内示書をもって契約の受諾があったということができるであろうか。しかしながら、本件プロジェクト書面は、前記のとおり、原告が被告のプロジェクトへの参加させてもらうことについて礼を述べ、被告のプロジェクトへ参加するについて原告の条件、要望事項を列挙するとともに、プロジェクトについては被告の所要見積項目・様式を提示してもらった上で別途見積書を提出することが記載されているのであって、具体的な請負代金額など契約の条件が記載されておらず、これをもって契約の申込みとみることは困難といわざるを得ない。

4  のみならず、前記認定によれば、本件プロジェクト書面に記載されたサーバシステムのマシンや基本ソフトが既に決定済みであるかのような表現には、堀部課長から異議が出され、その場で協議がされた結果、基本仕様、基本条件等についてはこれからスタートであること、ハードウェア購入に当たっては被告の了解を得ることを原告、被告間で確認したというのであるから、この点においても、本件プロジェクト書面の交付をもって契約の申込みとみることは困難である。もっとも、原告は、本件プロジェクト書面に記載された仕様の基本事項は弁天島会議の決定内容のとおりとするとの点については平成四年九月三〇日の会談の際、被告側から異議は出なかったと主張し、右主張に沿う証人西川賀博の証言、甲第六〇号証の記載などがある。しかしながら、当日被告側が作成した議事録(乙九)が後日、原告側に送付されたことは、右証人西川の証言でも認められるところ、この議事録について、直ちに原告側から異議が出されたような形跡はない。したがって、右議事録に記載されたとおり、基本仕様、基本条件等はこれからスタートであるとの認識で出発することが合意されたものと解されるのである。そうすると、基本仕様や基本条件が定まらない以上、請負契約の合意などできるはずがなく、請負契約が成立したものとはいい難いことになる。

また、本件注文内示書は、品名は中部電力岡崎営業所向けサーバシステム装置ハードウェア、ソフトウェア一式、台数は一台、納期は平成六年三月三〇日、納入場所は被告本社工場と、それぞれ具体的に記載されているが、仕様は別途打ち合わせによる、発注金額は別途協議の上決定、だだし、設置工事を含め、中部電力査定金額の九〇パーセントを上限とする、支払条件は別途打ち合わせによると記載されており、請負契約にとって重要な要素である金額や仕様などはこれから協議することとされているのである。原告は、本件プロジェクト書面が金額や仕様を定めていると主張するが、本件注文内示書や本件プロジェクト書面は、平成四年九月三〇日、原告と被告がそれぞれ別途に作成していたものを交付し合ったものであり、本件プロジェクト書面の内容を前提に本件注文内示書が作成されたものとは認め難く、したがって、本件注文内示書が本件プロジェクト書面の内容を前提としているとはいえない。

5  以上の事柄を総合勘案すると、本件注文内示書は、これから注文をする予定であるから契約金額等について協議をしようという程度のものであり、契約の申込みとなる注文書とは異なるものといわざるを得ない。そして、他に、平成四年九月三〇日に請負契約が締結されたとする原告の主張を裏付けるに足りる的確な証拠はなく、結局のところ、原告の右主張も採用することができないといわざるを得ない。

第三契約締結上の過失の有無について

一1  原告は、被告の従業員である堀部課長は、本件のプロジェクトに関し、被告の唯一の実質的責任者であり、原告は、右堀部課長の意向ないし指示に基づき、本件サーバシステムの構築の多大の費用投入を行って開発行為や機器・ソフトウェアの発注を行ってきたものであり、このような事情は、被告側は十分知悉していたか、堀部課長から交渉過程を聴けば容易に知ることができたものであり、そのような中で平成四年九月三〇日に交付された本件注文内示書は、原告に納期を定めて本件サーバシステムの構築作業を求めるものであり、請負契約の成立が認められないとしても、発注とほとんど差のない行為であるから、その撤回は無条件には許容されないものというべきであって、請負契約の解除に準じて、不法行為上の損害賠償義務を負担すべきである旨主張する。

2  なるほど前記第一の一及び第二の二で認定したところによると、原告と被告は、本件共同研究において、中部電力向けの分散処理方式による配自システムを共同研究し、本件共同研究の報告書が出された後も、中部電力からの受注を目指して、分散処理方式による配自システムについての検討を重ねており、被告が中部電力から分散処理方式による配自システムの工事を受注することができた場合には、そのうちのサーバシステムの工事を原告が被告から下請負いをする形で担当することについては、原告も被告もこれを当然の前提として予定していたものということができる。そして、本件注文内示書は、被告が中部電力から着手依頼書の交付を受けて、事実上、配自システムの工事に取りかかれる状態になった後に、被告から原告に交付されたものであるから、原告と被告との関係も、それまでの中部電力からの受注を目指して共同研究を行っていたという関係から一歩進めて、法的拘束力を持つ契約関係を結ぼうという段階に立ち至ったものというべきであり、原告において近い将来契約が締結されるという信頼に基づいて行動することが無理からぬ状況を惹起させたということができ、この原告の契約締結に至るであろうという信頼は、法的保護に値するものといわなければならない。そして、このような信頼を与えながら、被告が何らの理由もなく契約締結を拒んだとすれば、被告は、信義則上、その信頼に基づいて行動した原告が被った損害を賠償すべき義務があるものというべきである。

3  そこで、被告が本件注文内示書を解消したことに正当な理由があったか否かについてみるに、前記認定によると、原告側と被告側で対立が生じ、ついには被告が本件注文内示書を解消するに至った最も大きな原因は、サーバシステムのコンピューターにはDEC社のVAXコンピューターを使用することが平成四年九月三〇日よりも前に決まっていたかどうかにあったことは明らかである。原告は、既に、同年六月二四日に、VAX六〇〇〇等を四億三七〇三万九三〇〇円(消費税込み)で、日本DEC社に発注し、同月三〇日に、VAX・VMS対応のバーサントOODBのライセンス一〇本を納期平成五年三月三一日、三億五九九八万五〇〇〇円でニチメンに発注してしまっており、サーバシステムにVAXコンピューター以外のコンピューターを使用することになると、既に発注してしまったコンピューターやその運用ソフトが使えなくなり、原告に多額の損失が出ることになるため、サーバシステムに他社のコンピューターを使用することも検討すべきだとする被告側と妥協する余地がなくなっていたのである。原告は、VAXコンピューター以外であれば、本件プロジェクトから撤退するとまで申し入れており、結局は、被告は、原告が購入した機器やソフトプログラムをそのまま請負契約の内容とするか、原告との関係を解消するかのいずれかの選択を迫られた形となり、本件注文内示書の解消を通知したものといえる。

そこで更に、被告がVAXコンピューター以外のコンピューターを検討しようとし、それに対して、原告がVAXコンピューターに固執したことの是非を検討するに、原告は、弁天島会議の際にVAXコンピューターを使用することは決定されていたと主張する。しかしながら、第一で判断したように、中部電力が分散処理方式の採用を決定したのは平成四年八月であったから、弁天島会議が行われた同年四月一〇日ころはもちろん、原告がVAXコンピューター等を発注した同年六月の時点においては、最終ユーザーである中部電力の意向も確認せずに、使用機器等を決定することはできなかったはずである。また、本件注文内示書の授受の際に、本件プロジェクト書面に記載されたサーバシステムのマシンや基本ソフトが既に決定済みであるかのような表現には、堀部課長から異議が出され、その場で協議がされた結果、基本仕様、基本条件等についてはこれからスタートであること、ハードウェア購入に当たっては被告の了解を得ることが原告、被告間で確認されたことは、前記第二の二で認定したとおりである。そして、乙第四二号証、証人堀部勲夫の証言(第一、第二回)によれば、堀部課長としては、平成四年一〇月ころ、サーバシステムに使用する機種の選定をする必要があると思っていたが、常々配自システムには汎用性の高い機器を導入したいと考えていたところ、DEC社のVAXコンピューターについては、サーバシステムに用いる上での利点もあるが、基本ソフトであるVMSがDEC社固有のものであり、開発人口も少なく、汎用性に欠ける面があり、当時DEC社の経営不振が伝えられていたこともあって不安視していたが、HP社のコンピューターは、汎用性のあるユニックスマシンが主体であり、中部電力の配自システムのうち被告が担当する親局のコンピューターにHP社のコンピューターを使用することを前提に研究し、中部電力にも親局に使うコンピューターは汎用性があるものであると訴えてきたことからも、できればサーバシステムにもHP社のコンピューターを使用する方向で検討してみたいとの意向を持っていたことが認められる。

そうだとすると、サーバシステムには、VAXコンピューター以外のコンピューターも検討したいとする被告側の意向は無理からぬところがあり、被告がVAXコンピューターに固執する原告との請負契約締結を断念して本件注文内示書を解消したことには正当な理由があったものというべきである。

4  したがって、被告が本件注文内示書を解消したことを理由とする原告の損害賠償請求は、結局、理由がないことに帰する。

二1  次に、原告は、堀部課長は、あたかも自らが本件プロジェクトにつき被告会社を全面的に代理すべき立場にあるかの如く装ったため、原告は、堀部課長の指示のとおりに開発行為や発注行為をしてきたが、堀部課長には、一年余にわたり、会合を重ね一定の信頼関係にあった以上、原告に対し、具体的な開発行為や発注行為を指示したと客観的に受け取り得る行為をしてはならない義務があるというべきであり、原告が開発行為や発注行為をした事実を知った場合には、機器やソフトの選定は未定であり、全額原告の損害になるかもしれない旨直ちに警告すべき義務があったにもかかわらず、これを怠ったと主張する。

しかるところ、前記第一の一、第二の二で認定した事実によれば、分散処理方式による配自システムの考案者が堀部課長であり、被告会社において、配自システムの開発の技術上の責任者が堀部課長であったことが認められるから、被告とともに中部電力からの受注を目指していた原告側が、堀部課長の意向に沿って、サーバシステムの研究を行っていたであろうことは容易に推認し得るところである。また、共同研究や被告側との打合せにおいて、原告がVAXコンピューターの使用を念頭に置いていたであろうことは、堀部課長と共にアメリカに出張して、DEC社を訪問していることからも明らかであり、堀部課長も、原告側がサーバシステムにはVAXコンピューターを使用することを想定して研究を進めていることは認識していたものと思われる。

2  しかしながら、証人西川賀博の証言によれば、原告側においても、被告の契約関係の責任者は堀部課長ではなく、竹安本部長であるとの認識を持っていたことが認められるから、堀部課長が、技術面の問題を超えて、全面的に被告を代理すべき立場にあることを装ったとは認め難いところである。前述のとおり、中部電力が分散処理方式の採用を決定したのは平成四年八月であったから、原告がVAXコンピューター等を発注した平成四年六月の時点においては、最終ユーザーである中部電力の意向も確認せずに、堀部課長が使用機器等を決定し、その発注を原告に指示するようなことはできなかったはずであるが、仮に、堀部課長が使用機器に関して何らかの発言をしたとしても、それが被告との契約に絡み、その発言をもって何らかの法的拘束力を持つものと原告側が捉えたとは考え難いところである。本件の経過に照らせば、原告が堀部課長に対し、VAXコンピューターを前提として、システムを説明をしたり、様々な提案をし、意見を述べたりしたことがあり、堀部課長があえてその提案や意見を否定しなかったことがあったものと思われるが、そうだとしても、そのような堀部課長の態度をもって、堀部課長がコンピューター等の発注を指示したものと解することはできない。

3  また、前記で認定したところによれば、堀部課長は、原告が配自システムの受注を得るためにある程度の費用を投じて研究していたことは知っていたものとうかがわれる。本件共同研究は有償である上、中部電力から受注することができれば原告にとっても相当大きな取引となったであろうから、原告が受注を見込んで研究開発に先行的に投資をすることも予想し得る状況にあったからである。しかしながら、そのことと堀部課長の言動に基づいて共同研究の過程で取り上げられた機器等を実際に発注することについて堀部課長が認識していたかとは別の問題である。この点について、原告は、VAXコンピューターの発注や基本ソフトの開発発注の事実は、平成四年七月一六日に堀部課長に報告し、了承を得た旨主張し、右主張に沿う甲第四二号証の1、第四三号証の1、第五一号証、第六四号証、証人西川賀博の証言、証人渡辺久雄の証言(第一、第二回)がある。しかし、右の各発注は、代金額が数億円に上るものであるから、仮に堀部課長がこれを了承したのなら、その責任の所在を明らかにすべく何らかの書面にしておくのが通常と思われるところ、そのような書面が作成された形跡はない。また、一技術者にすぎない堀部課長の発言に基づいて、同人が契約の責任者ではないと認識している原告が数億円もの発注をしたとも考え難いところである。その上、平成四年七月一六日に堀部課長が原告に交付したスケジュール表(甲四二の3)には、サーバシステムのハードウェアの手配時期は、平成四年一〇月と記載されているのであり、これによれば、少なくとも同年七月一六日の時点では、堀部課長は原告が既にVAXコンピューターを手配済みであることを知らなかったことがうかがえる上、仮に七月一六日にVAXコンピューター等が手配済みであるとの報告を堀部課長が受け、そのことを了承したのであれば、右スケジュール表の記載も変更されていたものと思われるのにそのような変更がされた形跡はない。機器等の発注は被告側から聞いていない旨の証人堀部勲夫の証言(第一、第二回)に照らし、原告の主張に沿う前掲各証拠は採用し難いものといわざるを得ず、他に堀部課長が原告のハードウェア等の発注を事前に、あるいは平成四年九月三〇日以前に知っていたことを認めさせるに足りる的確な証拠はない。

4  結局、原告は、サーバシステムについては、通信技術を有さない被告は原告の提案に従うであろうとの見込みの下に、VAXコンピューター等を発注したものと考えざるを得ないのであって、堀部課長が原告の機器等の発注を事前に知らされ、あるいは事後に直ちに知らされたということはできないから、原告に機器やソフトの選定は未定である旨の警告をして、機器等の発注をさせないようにすべき義務や発注後でも直ちに取り消させる義務が堀部課長にあったものということはできない。

したがって、右の点に関する原告の主張も採用し難いものというべきである。

第四結論

以上の次第であるから、原告の本訴請求は、その余について判断するまでもなく、いずれも理由がないので、これを棄却することとする。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大槁弘 裁判官 大久保正道 裁判官 野村武範)

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