大判例

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東京地方裁判所 平成5年(ワ)18465号 判決 1995年11月14日

原告

坂本達也

坂本捷人

坂本道恵

右三名訴訟代理人弁護士

鈴木誠

被告

福原建希

安田火災海上保険株式会社

右代表者代表取締役

有吉孝一

右両名訴訟代理人弁護士

三好徹

吉田哲

江川清

竹内義則

星隆文

根本雄一

渡辺昇一

被告

吉田敏行

日動火災海上保険株式会社

右代表者代表取締役

江頭郁生

右両名訴訟代理人弁護士

高崎尚志

右訴訟復代理人弁護士

玉重良知

主文

一  被告福原建希、同吉田敏行は、各自、原告坂本達也に対し金一億三四四三万六三一四円、同坂本捷人に対し金三三〇万円、同坂本道恵に対し金三三〇万、及びこれらに対する平成三年二月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告安田火災海上保険株式会社は、原告らの被告福原建希に対する判決が確定したときは、また、被告日動火災海上保険株式会社は、原告らの被告吉田敏行に対する判決が確定したときは、各自、原告坂本達也に対し金一億三四四三万六三一四円、同坂本捷人に対し金三三〇万円、同坂本道恵に対し金三三〇万円、及びこれらに対する平成三年二月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、これを五分し、その二を原告らの、その余を被告らの各負担とする。

五  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  原告らの請求

一  被告らは、各自、原告坂本達也に対し金二億一七八二万八八九七円、同坂本捷人に対し金五五〇万円、同坂本道恵に対し金五五〇万円、及びこれらに対する平成三年二月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用の被告らの負担及び仮執行宣言

第二  事案の概要

一  本件は、保土ケ谷バイパスを走行中の普通乗用自動車同士の接触事故があり、その一両に同乗していた者が負傷したことから、同乗者及びその両親が両普通乗用自動車の運転者及び任意保険会社を相手に損害賠償を求めた事案である。

二  争いのない事実

1  本件交通事故の発生

事故の日時 平成三年二月二五日午後一一時四五分ころ

事故の場所 横浜市旭区金が谷四八五 保土ケ谷バイパス路上

関係車両 (1) 被告福原建希(以下「被告福原」という。)が運転する普通乗用自動車(相模五四や二五。以下「福原車」という。)

(2) 被告吉田敏行(以下「被告吉田」という。)が運転する普通乗用自動車(相模五八ろ八四三六。以下「吉田車」という。)。

被害者 福原車に同乗していた原告坂本達也(以下「原告達也」という。)。

事故の態様 被告福原が福原車を運転して保土ケ谷バイパスを狩場方面から上川井方面に走行中、被告吉田運転の吉田車と衝突した。

2  責任原因

(1) 被告福原は、福原車の運行供用者である。

被告安田火災海上保険株式会社は、福原車についての、保険期間を平成二年一二月二八日から平成三年一二月二八日までとし、対人賠償保険金額無制限とする対人賠償保険契約の保険者である。

(2) 被告吉田は、吉田車の運行供用者である。

被告日動火災海上保険株式会社は、吉田車についての、保険期間を平成三年二月六日から平成四年二月六日までとし、対人賠償保険金額無制限とする対人賠償保険契約の保険者である。

3  損害の填補

原告達也は、被告福原から六〇〇万円の填補を受け、また、被告日動火災海上保険株式会社から、自賠責保険金として、二五〇〇万円の填補を受けた。

三  本件の争点

1  損害額

(一) 原告ら

原告達也は、本件事故の結果、第五頚椎圧迫粉砕骨折、頚髄損傷の傷害を受け、平成三年二月二五日から平成五年二月二六日まで入院治療、同月二七日からリハビリのため通院したが、四肢麻痺のため、後遺障害別等級表一級三号の後遺障害を残し、このため、次の損害を被った。

(原告達也分)

(1) 逸失利益九〇八〇万四四一三円

平成三年度賃金センサス男子労働者年収五三三万六一〇〇円を基礎として、ライプニッツ方式(係数17.017)により中間利息を控除して算定。

(2) 慰謝料 三三五三万〇〇〇〇円

入院中の慰謝料として三五三万円が、また、後遺障害による慰謝料として三〇〇〇万円がそれぞれ相当である。

(3) 付添介護料

九六四一万九一三〇円

原告達也は、下半身が完全麻痺、かつ、両手指の感覚が全くない。このため、食事、入浴、移動、排泄等につき介護が必要である。

介護料を一日一万として、入院中のもの七三〇万円、退院後は平均余命49.21年につき新ホフマン方式(係数24.4162)により中間利息を控除すると八九一一万九一三〇円となる。

(4) 弁護士費用

二二〇七万五三五四円

右合計金額から自賠責填補分二五〇〇万円を控除した二億一七八二万八八九七円が主たる請求部分である。

(その余の原告ら分・原告各人につき)

(1) 慰謝料 各五〇〇万〇〇〇〇円

(2) 弁護士費用各五〇万〇〇〇〇円

(二) 被告ら、

原告らの主張を争う。特段の主張は次のとおり。

(1) 逸失利益について

原告達也は、その勤務先である日本道路公団東京第一建設局横浜工事事務所(以下「横浜工事事務所」という。)に勤務して、給料を得ており、逸失利益は生じていない。

また、同原告は、自動車運転の適性検査に合格し、将来自ら運転して通勤することができるし、勤務先でも恒常的には迷惑をかけていないのであって、将来解雇される可能性はない。

さらに、同原告は、平成五年七月九日から労災給付金として年間に二六一万一八〇〇円を受領しているから、既受領分は勿論のこと、将来受領する分も損害金から控除すべきである。

(2) 介護料について

入院期間中は、職業看護人が付いたこともなく、また、看護婦らが看護していてその必要もなかった。

退院後も、職業介護人が付いたこともなく、リハビリの結果、常時看護の必要性もない。

2  好意同乗減額

被告らは、原告達也は、同僚の被告福原が残業で疲れているのを認識しながら、同被告の運転する福原車に乗り込み、同被告が速度違反をしたのに、この点を同被告に注意することなく同乗していたのであり、自ら進んで危険を承諾していたといえるから、福原車、吉田車いずれに対する関係でも、損害額を減額すべきであると主張する。

第三  争点に対する判断

一  原告の症状等について

甲九、一〇、一二ないし一四、一五の1、2、一六、乙一の9、丙一ないし八五、原告達也、原告坂本捷人各本人、横浜西労働基準監督署長に対する調査嘱託の結果によれば、次の事実が認められ、これに反する証拠はない。

(1)  原告達也(昭和三九年六月二一日生まれ)は、本件事故の結果、第五頚椎圧迫粉砕骨折、頚髄損傷の傷害を受け、平成三年二月二五日から平成四年七月一三日まで聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院で入院治療を受けた。その間に、腸骨からの移植を含む頚椎前方固定術の手術を受け、また、仙骨部に感染症による褥創が生じてこのための手術を受けたり、膀胱直腸障害の治療等も受けた。同月一四日、神奈川リハビリテーション病院に転院し、平成五年二月二六日まで入院してリハビリの治療を受けたが、症状は良くならず退院し、翌二七日からリハビリのため同病院や横浜市総合リハビリテーションセンターに通院した。その結果、同年七月九日に後遺障害別等級表一級三号の後遺障害を残して症状が固定した。

(2)  原告達也は、退院後、日本道路公団が平成四年に身障者用に改造した社宅に住んでいるところ、現在の状態は、下半身が完全麻痺の状態で両足は全く動かず、手の握力がなく、指は全く動かない、手首は屈曲せず、肘も伸展できない、肩から下の皮膚の感覚はなく、便意や尿意も殆どなく、痙攣が時々起こるというものである。このような身体の状況のため、同原告は、自分の力で身体を動かすことが不可能であり、衣類の脱着については、腹部の裾を上げることができるものの背部を捲くることができないとの状態であり、また、落とした物の取得や字を書くことができず、車椅子は、平坦な場所なら一人で動かせるが、坂を登ることは不可能な状況である。

原告達也の日常の生活は、ベッドから車椅子への移動、衣類の脱着、ひげそり、洗顔等を父である原告坂本捷人(昭和五年一〇月二五日生まれ。以下「原告捷人」という。)又は母である原告坂本道恵(昭和一二年一一月一四日生まれ。以下「原告道恵」という。)にやって貰い、食事は、手に装具で固定したフォークで独力で取ることができるが、スープ類はスプーン等で飲ませて貰わなければ摂取が不可能である。落ちた食べ物の掃除をすることができず、前歯は独力で磨くことができるが、その余の部分の歯磨きは無理で父母にやって貰っている。

尿意は、入院中の一時期に有したこともあったが、その間も尿意がないままに尿が出ていた。現在は、尿意は、殆ど消失し、就寝中は、溲瓶をつけ、朝に父又は母にその処理や陰部等の洗浄をしてもらう必要がある。昼間は、コンドームやゴム管等を用いて組み立てた尿集器を装着しており、尿集器から排尿することができるが、尿集器が外れたときは、自分で処置をすることができない。

排便は、ほぼ一日置きに行い、下剤・軟便剤を使用してから、原告捷人又は同道恵がゴム手袋を嵌めて肛門から指で掻き出すため、約一時間要する。その後の入浴も独力ですることができず、機械で吊り上げてもらい身障者用の風呂で行う。

就寝時は、床ずれ部分の消毒・薬の塗布をしてもらい、身体の血行を良くするためにマッサージをしてもらっている。体交は、昼間は意識すれば自力ですることが可能であるが、就寝後、午前二時ころには、床ずれ防止のため原告捷人又は同道恵に体交をしてもらっている。

(3)  原告達也は、現在は、休職中であるが、火曜日から金曜日までは、リハビリを兼ねてその勤務先である横浜工事事務所に勤務したことがある。その時は、午前一〇時ころ、合板ボードを利用して原告捷人に車椅子から自動車の助手席に乗せてもらい、一〇時三〇分ころ同事務所に着き、同原告に車椅子への移動をしてもらい、事務所内に入っていた。事務所では、ワードプロセッサーを操作する仕事をするが、手に装具を使って棒状の物を付け、一つ一つキーを押していく作業であり、B五サイズの片紙面に字を打つのに約一時間を要していた。食事のときに落ちた食べ物の掃除は同僚にしてもらい、帰宅は午後四時ころであり、原告捷人の車に乗って帰っていた。原告達也には尿漏れや下痢等のトラブルがあることから、原告捷人は、連絡があれば同事務所に赴いて対処するために社宅で待機し、実際、週に一度は同事務所に赴いていた。しかし、平成七年三月になって、原告捷人が交通事故のため負傷し、腰痛や頚椎後縦靱帯骨化症が悪化し、原告達也を車椅子から助手席に移動させることができなくなり、このため、原告達也は、同月から横浜工事事務所に出勤していない。なお、原告達也は、月曜日はリハビリのための通院をしていた。

二  原告らの損害

(原告達也分)

1 逸失利益

八〇〇八万九五二四円

(一) 前認定の事実によれば、原告達也は、ワードプロセッサーを操作することができるものの、B五サイズの片紙面に字を打つのに一時間程度を要しているのであって、同原告が、下半身が完全に麻痺し、両手指の感覚が全くなく、このため、食事、移動等について介護が必要であることに鑑みれば、右ワードプロセッサー従事能力を考慮しても、通常の職務に就く能力を有するとは到底認められず、同原告は、本件事故による前記後遺障害のため、一〇〇パーセント労働能力が喪失したと認めるのが相当である。

(二) ところで、前認定の事実に甲一〇、一一、丙八六、原告達也、同捷人各本人を総合すると、原告達也は、鳥取大学工学部、同大学大学院を卒業後、日本道路公団に入社し、横浜工事事務所に勤務したこと、本件事故後は、同公団が本件事故後の平成四年に同原告の退院を見計らって身障者用に改造した社宅に住んでいること、現在も休職扱いとされているが、前認定のリハビリを兼ねての勤務中は従前どおり二〇万円程度の月給やボーナスも得ていたこと、原告捷人が原告達也を送迎しなくなって同勤務を中断した平成七年三月からは、右月給等を得ていないこと、横浜工事事務所の責任者は、原告達也はリハビリ中のため休職扱いとして様子を見ているが、毎日定時に出勤し、定められた勤務時間中勤務ができなければ、雇用の継続が困難であるとの認識であり、また、勤務に当たっては、用便と通勤について公団に迷惑がかからない限り問題はなく、前示リハビリを兼ねての勤務中は特に問題があるとは考えておらず、数年以内に同原告の解雇があるとは思えないとの意見であることが認められる。

そうすると、原告達也は、労働能力が一〇〇パーセント喪失したものの、平成七年二月末までは、現実に職場から賃金等を得た以上、これによる逸失利益が生じていないものというべきである。

(三) 被告らは、原告達也が、今後も引き続き横浜工事事務所への勤務が可能であり、逸失利益が生じないと主張するので検討すると、前示各認定事実からは、原告達也の今後の就労継続の可否については、不確定な要素が極めて多いといわなければならない。特に、原告捷人は、交通事故のため負傷し、その負傷のため、腰痛や頚椎後縦靱帯骨化症が悪化することとなったのであって、同原告の年齢(六四歳)に鑑みれば、今後同原告の症状が軽快し、再び原告達也を車椅子から助手席に移動させることができるようになると推認するのは現実的ではない。この点、被告らは、原告捷人による送迎が不可能の場合には、原告達也自ら身障者用の車を運転するなり、タクシーを利用して勤務すれば足りると主張するが、丙六四ないし八四、原告捷人本人によれば、原告達也は、リハビリ訓練の結果、他人の介護を得て車椅子から乗用車に乗ることは可能となったが、現時点では独力で乗用車に乗ることが不可能であり、また、自動車運転免許の適性検査には合格しているが、リハビリ訓練において実際に運転することまでは未だ行っていないことが認められるのであって、タクシーに独力で乗り込んだり、公道を独力で運転することを前提として、原告達也の勤務を想定することはできないといわなければならない。また、前認定の同原告の勤務先の責任者の説明によれば、同原告の勤務の継続は、定時出勤の確保と用便の自己処理が条件となっているのであり、前認定の事実を前提とする限り、特別の介護者の存在抜きにしては、勤務の継続、ひいては収入の確保は困難であることが明らかである。そして、後記認定にかかる職業的介護人では、原告捷人が行ってきたように原告達也の送迎をし、また、事務所でのトラブルに備えて社宅に待機することまで要求することは実際上不可能であり、このためには、相当の追加費用を要するものと予想される。これらの諸点に、原告達也が、平成七年三月から横浜工事事務所に通勤できず、賃金を得ていないことも参酌すると、原告達也が将来職場復帰して収入を得ることまで推定するのは困難であるというほかはない。

(四) そうすると、原告達也は、本件事故の結果、平成七年三月から六七歳に達するまで、原告ら主張の平成三年度賃金センサス男子労働者年収五三三万六一〇〇円を基礎として、ライプニッツ方式により中間利息を控除した額の逸失利益を損害賠償として請求できるものというべきである。

同金額は、症状固定日も勘酌すると、次の計算どおり、八〇〇八万九五二四円となる。

533万6100円×100%×(16.868−1.859)=8008万9524円

2 付添介護料

五六六三万〇〇九〇円

(一) 甲一〇、原告達也、同捷人各本人、前認定の事実に弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。

(1) 原告達也は、前認定の聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院への入院の当初から中期にかけての状態は極めて悪く、頚椎骨折の治療のために腸骨からの移植を含む頚椎前方固定術の手術を受け、また、仙骨部に感染症による褥創が生じてこのための手術を受けたり、膀胱直腸障害の治療等も受けた。このため、原告捷人や同道恵が病院に毎日通って、原告達也を看護し、同原告が発熱等をしたときは頭を冷やしてあげたり、看護婦に知らせる等をした。このような状況で、同原告が同病院を退院するまでは、原告捷人や同道恵は、ほぼ毎日通院して、原告達也の看護をした。また、同原告が神奈川リハビリテーション病院に転院してからは、原告捷人や同道恵は、原告達也を看護したほか、同原告のリハビリに関連して、退院後の生活に供えて、父母としての介護を行うための指導を受けた。

このような原告捷人、同道恵の看護もあって、原告達也の入院期間中は、職業的付添人に対しては看護を依頼しなかった。

(2) 原告達也は、病院を退院して社宅の生活が開始した後においても、下半身完全麻痺等のため、食事、入浴、移動、排泄等につき他人の介護が必要であるところ、原告捷人、同道恵は、その年齢による体力の弱体化もあって、同原告らのみでは原告達也の介護を行いきれないため、原告達也は、同原告の姉福島恵子に週四日間社宅に来てもらって、原告捷人、同道恵の補助をしてもらい、毎月五万四〇〇〇円を支払っている。

このような親族による介護の結果、現在のところ社宅においても職業的介護人に介護を依頼していない。

(二) 右認定事実によれば、原告達也の入院中は、同原告の症状の重篤性や原告捷人、同道恵の父母としての介護のための知識習得の必要性に鑑みれば、親族看護の必要な時期があったことは明らかである。他方、入院中は、基本的には看護婦が原告達也の看護をすることとなっていること、入院のすべての期間を通じて原告達也が重篤な症状であったものではないことから、入院期間の全日にわたって親族看護が必要であったということができない。これらの事実に、後記認定の原告捷人、同道恵が原告達也の看護のため鳥取から転居したことも参酌すれば、聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院と神奈川リハビリテーション病院の両病院の入院期間中を通じて、その三分の二の日は親族による看護が必要であったと認めるのが相当である。

また、退院後も、原告達也の日常生活のためには、その終身(退院時における同原告の平均余命は49.32年である。)他人による介護が毎日必要であることは明らかであるところ、現在のところは原告達也の父母や姉による親族介護がされているが、父母である原告捷人、同道恵は、今後は老齢化により介護ができなくなり、また、姉福島恵子も自己の生活を営む必要があって、終身にわたり、原告達也の介護のために週四日間社宅を訪れることを強いることも相当でなく、近い将来、職業的介護人による介護が必要であることは明らかである。そして、親族介護により賄えきれなくなり、職業的介護人による介護を必要とされる時期としては、母親である原告道恵が六七歳に達する平成一六年と認めるのが相当である。

(三) そうすると、前認定のとおり、原告達也の入院期間は平成三年二月二五日から平成五年二月二六日までであり、入院期間中の看護料は、親族看護として一日五〇〇〇円と認めるのが相当であるから、次の計算どおり、二四四万円となる。

5000円×732÷3×2=244万0000円

次に、退院後の社宅における親族介護料は、一日六〇〇〇円と認めるのが相当であるから、ライプニッツ方式により中間利息を控除すると、次の計算どおり、一八一九万〇一四〇円となる。

6000円×365×8.306=1819万0140円

最後に、平成一六年から平均余命49.32年を迎える平成五四年までの職業的介護人による介護の分は、介護料を一日一万円とするのが相当である、ライプニッツ方式により中間利息を控除すると、次の計算どおり、八九一一万九一三〇円となる。

1万円×365×(18.169−8.306)=3599万9950円

以上の合計は、五六六三万〇〇九〇円である。

3 慰謝料二五五〇万〇〇〇〇円

前示の症状固定までの入通院の日数、治療の経過、後遺障害の程度、内容、その他本件に顕れた諸般の事情を勘酌すると、原告達也の入院(傷害)慰謝料として三五〇万円が、また、後遺障害による慰謝料として二二〇〇万円が相当である。

4 以上の合計金額は、一億六二二一万九六一四円である。

(原告捷人、同道恵分)

甲九、原告捷人本人によれば、前示の原告達也の世話のため、同原告の父母である原告捷人、同道恵は、自宅のある鳥取市から現在の肩書地まで転居し、一日中原告達也を世話していること、原告捷人は、鳥取での高校教師退職、第二の職場に再就職が決まっていたのにこれを取り止め、自宅を空き家にし、かつ、同原告の病弱の父母を郷里に残して、原告達也の世話のために転居したことが認められ、このような事実及びその他の本件に顕れた諸般の事情を勘酌すると、原告捷人、同道恵の、原告達也の父母としての慰謝料は、それぞれ三〇〇万円と認めるのが相当である。

三  好意同乗減額

1  甲一ないし八、乙一の1ないし8、11、丙87、原告達也、被告福原各本人に前示争いのない事実を総合すれば、次の事実が認められる。

(1) 原告達也と被告福原は、日本道路公団への同期入社で両名とも横浜工事事務所に勤務し、また、同公団座間寮に住んでいた。被告福原は、福原車で通勤し、本件事故までにも原告達也を同乗させて出勤したことがあった。本件事故当日は、両名とも残業し、原告達也は、終電に乗って寮に戻ろうとしていたところ、被告福原の誘いにより福原車に同乗し、保土ケ谷バイパスを経由して寮に戻ることとなった。

(2) 保土ケ谷バイパスは、片側二車線の自動車専用道路であり、最高速度が時速七〇キロメートルに制限されている。事故当時は、深夜でもあり、走行する車両も少なく、順調に流れていた。

被告福原は、原告達也を福原車の助手席に同乗させ、同車を運転して保土ケ谷バイパスの狩場方面から上川井方面に向かう車線の第二通行帯を走行していた。下川井インターチェンジ付近にさしかかったところ、後ろから時速約一三〇キロメートルで走行していた車両に煽るように車間距離を詰められ、パッシングをされたことから、被告福原は、速度を時速約一〇〇キロメートル程度まで上げ、第一通行帯に車線変更して同車両をやり過した後、後方の安全確認を怠ったまま直ちにウインカーを出すことなく第二通行帯に車線変更しようとした。ところが、被告吉田は、吉田車を運転し、右に摘示した福原車の後続車両の後方において時速約一三〇キロメートルで走行し、同車両に追随してさらに速度を増して走行していたため、福原車の後部右側が吉田車の左前部と衝突した。このため、福原車のタイヤがロックされて左に流れ、同インターチェンジの本線と出口車線の分岐点にあるクッションドラム及び街路灯に衝突した。

(3) 原告達也は、残業の疲れもあり、福原車の助手席で少しうたた寝をしていたところ、本件事故が起きた。

以上の事実が認められ、これに反する証拠はない。

2 右事実によれば、原告達也は、本件事故当時うたた寝をしており、福原車の速度が分からなかったことは明らかであり(同原告は、本人尋問において、福原車の速度は時速八〇キロメートル程度であったと供述している。)、速度違反の点を指摘して減速するように指示しなかったことはやむを得なかったというべきである。のみならず、被告福原が本件事故直前に時速約一〇〇キロメートルで走行したのは、後続車に煽られたものであって、同被告本人によれば、このような場合には助手席に同乗している者から速度違反しないように注意を受けても、それを聞かないで速度を増すことが認められるのであり、また、同被告が右後続車をやり過ごした後、直ちに第二通行帯に車線変更しようとしたものであって、助手席の者が車線変更を慎重にするよう注意する時間がなかったことも明らかであり、原告達也がこれらの点を指摘したとしても、本件事故は発生したというべきであり、指摘の鉄欠と本件事故との間には因果関係を欠く。

なお、本件事故当時、被告福原が残業による疲労のために運転が緩慢になっていたことを認めるに足りる証拠はない。仮に、同被告が疲労して運転していたとしても、前示の事故発生状況に照らせば、そのことが本件事故に結びついているものでないことも明らかである。

そうすると、原告達也には、本件事故について、危険行為に関与又は認容したということができず、被告らの好意同乗減額の主張には理由がない。

四  損害填補等

1  自賠責保険等

前示のとおり、原告達也は、被告福原から六〇〇万円の填補を受け、また、被告日動火災海上保険株式会社から、自賠責保険金として、二五〇〇万円の填補を受けており、その合計額は三一〇〇万円である。

2  労災保険金

(一) 横浜西労働基準監督署長に対する調査嘱託の結果によれば、原告達也は平成五年七月九日に治癒(症状固定)した後、死亡に至るまで障害年金として年額二〇五万〇〇〇〇円、障害特別年金として年額五六万一八〇〇円を現に受け、また、将来受け得ることが認められる。このうち、障害特別年金については、福祉事業の一環として支給されるものであって、保険給付ではなく政府の代位取得はないことから、損害の填補性は否定すべきであり、障害年金の填補のみが問題となる。

(二) この点、被告らは、障害年金の既受給分のみならず、将来分も含めて逸失利益から控除すべきであると主張する。

労働者が、通勤途上で第三者の行為によって生じた事故により障害を負った場合には、第三者に対して損害賠償請求権を有するのみならず、政府からは労災保険給付金たる障害給付金を得ることができるところ、両者は相互に補完しあう関係となり、労働者が政府から労災保険給付を得た場合には、その給付の限度で第三者に対する損害賠償請求権は減縮することとなり(最高裁昭和六二年五月二七日第三小法廷判決・民集三一巻三号四二七頁参照)、また、当該給付を得たものと同視し得る程度にその履行が確実であるという場合も同様と解すべきである(最高裁平成五年三月二四日大法廷判決・民集四七巻四号三〇三九頁参照)。

しかし、現実の給付又はこれと同視し得る程度にその履行が確実であるもの以外については、給付があったものと認めることができないことから、これを予め控除する根拠はないものといわなければならない。この点、被告らは、労働者災害補償保険法(以下、この項において「法」という。)一二条の四は、事故が第三者の行為によって生じた場合における労災保険給付と受給権者の第三者に対する損害賠償請求権の調整のための規則を定めており、この点に関する前示最高裁昭和五二年五月二七日第三小法廷判決の後においても、労災の実務は、労働省の通達(昭和四一年六月一七日基発六一〇号、昭和四三年一二月二三日基発八一〇号)による事故後三年を経過した分については支給停止をしないとの取扱いを維持しているため、障害年金を受給する被害者は二重の利得をすることとなって不合理であり、これを損害賠償請求訴訟において調整すべきであると主張する。しかし、被害者が、政府から労災保険給付を得た場合に、その給付の限度で第三者に対する損害賠償請求権が減縮するのは、代位理論に基づくのであって(最高裁昭和五二年四月八日第二小法廷判決・金融商事判例五二七号二六頁参照)、前説示のとおり、現実に給付されたもの又は給付があったものと同視し得るもの以外は、これを予め控除する根拠はないというべきである。なお、障害年金に関する限りは、事故により被害者の労働能力の全部又は一部が喪失したことに起因する年金であって、労働能力喪失の対価と見ることが可能であることから、障害年金を得る被害者の労働能力の喪失率を障害年金額を加味して認定し、結局、障害年金分については、逸失利益が生じないとすることも考えられないわけではないが、そうすると、障害年金支給分または支給予定分については、民法上、労働者の損害と構成しないこととされ、政府は、労働者に障害年金を支給した場合においても、法一二条の四第一項にかかわらず第三者に対してその求償をすることができなくなる結果となって、著しく不合理であるのみならず、障害等級八級以下の場合に支給される障害補償一時金については、その障害による労働能力喪失割合から算定した逸失利益から同一時金を控除した金額が現実の逸失利益として評価すべきこととなり、損害填補項目や過失相殺のある場合の填補方法についての現在の判例理論と抵触することとなることから、このような考え方も直ちに採用することができない。

もっとも、労働者がその事業者に対して民事上の損害賠償請求をすることができる場合には、法六四条により、年金給付と損害賠償についての二重払いに関する調整が具体的に図られているのに比して、本件のように加害者が第三者の場合には、労災の実務では前示の取扱いがされていて、被害者が第三者たる加害者から損害賠償金の給付を受けたときは二重利得の可能性のあることは否定できないが、法六四条においても、将来受けるべき労災給付の額を予め損害賠償から控除することまでは認めていないこと、及び、法一二条の四第二項が「政府は、その価額の限度で保険給付をしないことができる」と定めていて、二重給付が廃止される可能性もあることから、労災の実務を根拠として将来受けるべき労災給付の額を予め損害賠償から控除することは相当でない。

(三) 前認定のとおり、原告達也は、平成五年七月九日から年額二〇五万〇〇〇〇円の障害年金の支給を受けているところ、法九条一項及び三項によれば、年金たる保険給付は、その支給すべき事由が生じた月の翌月から支給を受ける権利が消滅した月までの分を支給し、毎年二月、五月、八月及び一一月の四期に、それぞれの前月分までを支給するものとされており、本件口頭弁論は、平成七年一〇月二六日に終結していることから、平成五年七月から平成七年一〇月までの二八月について、三か月につき五一万二五〇〇円の割合で障害年金の支給を受け、又はこれを受けることが確実であるということができるから、本件損害賠償(同原告の逸失利益分)から控除すべき額は、次の計算どおり四七八万三三〇〇円となる(ただし、法八条の六による端数処理済の金額)。

51万2500÷3×28=478万3333

3  右各填補後の原告達也の損害賠償の額は、一億二六四三万六三一四円となる。

五  弁護士費用

本件事案の内容、審理経過及び認容額等の諸事情に鑑み、原告らの本件訴訟追行に要した弁護士費用は、原告ら各人につき、それぞれ次の金額をもって相当と認める。

(1)  原告達也 八〇〇万円

(2)  原告捷人及び同道恵各三〇万円

第四  結論

よって、原告らの本訴請求は、

1  被告福原及び同吉田の各自に対しては、原告達也につき一億三四四三万六三一四円、原告捷人及び同道恵につきそれぞれ三三〇万円、並びにこれらに対する本件事故の日である平成三年二月二五日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを、

2  被告安田火災海上保険株式会社に対しては原告らの被告福原に対する判決の確定を、また、被告日動火災海上保険株式会社に対しては原告らの被告吉田に対する判決の確定を、それぞれ条件とする、被告福原及び同吉田の各自に対するのと同一の額の支払いを、

それぞれ求める限度で理由があるが、その余の請求は理由がないからいずれも棄却すべきでる。

(裁判官南敏文)

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