大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成5年(ワ)19613号 判決 1998年2月27日

原告

ギブソン・ギター・コーポレーション

右代表者代表取締役

デビッド・エッチ・ベリマン

右訴訟代理人弁護士

中島和雄

被告

株式会社フェルナンデス

右代表者代表取締役

齋藤重樹

右訴訟代理人弁護士

小島秀樹

菊池毅

桐原和典

小川浩賢

小山裕治

増井和夫

宮川博史

右訴訟復代理人弁護士

出井直樹

本間正浩

斜木裕二

蛇持裕美

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、別紙被告製品目録一ないし三記載のエレクトリックギター及びそれらと同一正面形状のエレクトリックギターを製造し、販売し、輸出し又は輸入してはならない。

2  被告は、その本店、営業所、工場及び倉庫に保有する第1項記載のエレクトリックギターを破棄せよ。

3  被告は、原告に対し、金四五〇〇万円及びこれに対する平成八年九月三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

4  訴訟費用は被告の負担とする。

5  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  当事者

(一) 原告は、ギター等の弦楽器の製造、販売を業とするアメリカ合衆国法人である。

(二) 被告は、昭和四四年に設立され、楽器の製造、販売及び輸出入を業とするわが国の株式会社である。

2  原告製品

(一) 「レス・ポール」(LES PAUL)モデル

(1) 原告は、別紙原告製品目録一記載の正面輪郭形状を有するエレクトリックギターのシリーズを「レス・ポール」モデルとして製造、販売している(以下、右シリーズの製造を総称して「原告製品一」という。)。

原告製品一は、一九五二年に、アメリカ合衆国において、同国の著名なギタリストであるレス・ポールにちなんだエレクトリックギターとして、製造、販売が開始された。

(2) 原告製品一は、その後一九六一年に製造が中止されたが、一九六八年に製造が再開され、以後現在に至るまで、製造、販売が行なわれている。

わが国においては、遅くとも昭和四四年(一九六九年)には、原告製品一の輸入、販売が行なわれている。

(二) 「フライング・ブイ」(Flying V)モデル

(1) 原告は、別紙原告製品目録二記載の正面輪郭形状を有するエレクトリックギターのシリーズを「フライング・ブイ」モデルとして製造、販売している(以下、右シリーズの製品を総称して「原告製品二」という。)。

原告製品二は、一九五八年に、アメリカ合衆国において製造、販売が開始されたが、当初僅かな本数が出荷されただけで製造が中止された。

(2) 原告製品二は、その数一九六〇年代後半ころに製造が再開され、以後現在に至るまで、製造、販売が行なわれている。

わが国においては、遅くとも昭和五六年(一九八一年)には、原告製品二の輸入、販売が行なわれている。

(三) 「エクスプローラー」(Explorer)モデル

(1) 原告は、別紙原告製品目録記載の正面輪郭形状を有するエレクトリックギターのシリーズを「エクスプローラー」モデルとして製造、販売している(以下、右シリーズの製品を総称して「原告製品三」という。)。

原告製品三は、一九五八年に、アメリカ合衆国において製造、販売が開始されたが、当初僅かな本数が出荷されただけで製造が中止された。

(2) 原告製品三は、その後、一九七五年ころに製造が再開され、以後現在に至るまで、製造、販売が行なわれている。

わが国においては、遅くとも昭和五一年(一九七六年)には、原告製品三の輸入、販売が行なわれている。

3  原告製品の形態の周知商品表示性

以下に述べるとおり、原告製品一ないし三の形態は、いずれも個性的な特徴を有しており、また、原告製品一ないし三の国際著名性、わが国における輸入、販売、宣伝の状況等を考慮すれば、昭和四八年(一九七三年)ころまでに、もしくは少なくとも本件訴訟の口頭弁論終結時までに、わが国において、いずれも原告の商品であることを示す商品表示として、取引者・需要者の間で周知となっている。

(一) 原告製品一について

(1) 形態の特異性

ア 原告製品一は、別紙原告製品目録一記載のとおり、ボディ及びヘッドにおいて個性的な正面輪郭形状を有している。すなわち、

① ボディは、下半部、上半部とこれらを滑らかにつないでくびれているウエスーからなるが、下半部、ウエスト、上半部の高さ比は、ほぼ1対0.27対0.5であり、横幅比は、ほぼ1対0.54対0.7であり、

② ボディ下半部は、その最大横幅の位置がボディの下から一〇分の三の高さにあり、該位置から下側はほぼ楕円形状の凸曲線となっているが、上側は徐々に曲率が小さくなっていく凸曲線となっており、

③ ボディのウエスト部は、ボディの下から一〇分の6.5の高さで最もくびれる凹曲線となり、ボディ下半部の凸曲線からウエスト下側の凹曲線に変化する変曲点は、ボディの下から約一〇分の5.6の高さにあり、また、ウエスト上側の凹曲線からボディ上半部の凸曲線に変化する変曲点は、ボディの下から約一〇分の七の高さにあり、

④ ボディの上半部は、その最大横幅が下半部の最大横幅の約一〇分の6.8で、その最大横幅の位置は、ボディの下から約一〇分の8.3の高さにあり、

⑤ ボディ上半部の向かって左側は、ボディの下から約一〇分の6.5の高さで上下に線対称とした場合に下半部とほぼ相似形となっており、

⑥ ボディ上半部の向かって右側には、ボディの下から約一〇分の九の高さにネックに接する位置から下側に凹曲線を描く湾入部(カッタウェイ)が設けられ、カッタウェイの右先端はまるく曲線状をなし、カッタウェイの最深の位置は、ボディの下から約一〇分の8.3の高さにあり、ボディ上半部の最大横幅の高さとほぼ一致しており、

⑦ ヘッドは、横幅と高さの比が約1対2.3の縦長の羽子板状の形状で、その下部のネックとの境から最上端までの約一〇分の2.6の高さまではラッパ状に拡がり、該位置から最上端までの約一〇分の9.5の高さまでは穏やかな凹曲線となり、ヘッド上端の稜線は、鼻髭状の曲線を描いている。

イ 原告製品一の具体的な機種として、別紙原告製品目録四(1)ないし(3)記載の製品があるが、これらのボディ及びヘッドの輪郭形状は前記アのとおりであるほか、そのデザインにおいても共通点がある。すなわち、ピックアップ(ネック直下の二枚の長方形の部品)、ブリッジ(ピックアップのすぐ下のやや斜めに配設された横棒状の部品)、テイルピース(ブリッジのすぐ下の横棒状の部品)、コントロールノブ(ボディ右下に配設された四個のボタン状の部品)及びリズムトレブル(ボディ左上に配設されたボタン状の部品)の形状及び配置、ヘッド表面上部の「Gibson」の表示及びヘッド表面下部の鈴状の標章において特徴がある。

ウ 原告製品一の形態の前記のような特徴のうち、「ヘッドの輪郭形状」及び「ボディの輪郭形状、とりわけ、右肩湾入部(シングルカッタウエイ)の湾入程度と曲線の形状」は、アメリカ合衆国特許商標庁において、それぞれ登録第一〇二〇四八五号及び登録第一七八二六〇号として商標主登録されていることからも明らかなとおり、特に顕著な形態の特徴である。

(2) 周知生

ア 原告製品一の国際著名性

「ギブソン」のブランド名は、ギターにおける高級ブランドとして、アメリカ合衆国のみならず、国際的にも、ギター愛好家の間で知られている。原告の製品は、昭和三一年(一九五六年)からわが国に輸入されるようになり、以来現在に至るまで継続してわが国に輸入され、国内の代理店を介して販売されている。

原告製品一は、ギブソンの名声と人気絶頂のギタリストであったレス・ポールの人気によって、一九五二年の発売後たちまちにして普及し、以来、ギター愛好家垂涎の伝説的名器の名をほしいままにして今日に至っている。原告製品一の前記のような形態上の特徴は、一九五二年の発売以来変更されることなく、原告製品一であることを示す商品形態上の特徴として、国際的に取引者及びギター愛好家の間で広く知られてきた。

そして、国際化した現代社会においては、国際著名が同時に国内周知をもらたすことが十分ありうるところ、エレクトリックギターの歴史はアメリカ合衆国に始まり、そのデザインやそれを使用する音楽の流行も同国の流れに追随するという一般的傾向があったことからすれば、わが国のエレクトリックギターの取引業界や愛好家の目は終始アメリカ合衆国における嗜好や流行に向けられてきたはずであり、店頭陳列やカタログ類その他個別様々な情報ルートを通して、国際著名の原告製品一の形態についての認識がこれらの者の間に速やかに広まったであろうことが推察でき、その結果、昭和四八年(一九七三年)ころには、原告製品一の商品形態がもたらす商品表示は、当時のわが国における原告製品一の具体的な輸入販売状況の程度如何に関わらず、わが国に当業界において周知であったと推認しうる。

イ わが国における原告製品一の輸入、販売の状況

原告製品一は、遅くとも昭和四四年(一九六九年)から現在に至るまで、わが国において輸入、販売されている。その販売数量は、昭和六二年(一九八七年)が九九七本、昭和六三年(一九八八年)が一二〇〇本、平成元年(一九八九年)が一七八二本、平成二年(一九九〇年)が二三二五本、平成三年(一九九一年)が二一九九本、平成四年(一九九二年)が三〇〇三本、平成五年(一九九三年)が三八五六本である。昭和六一年(一九八六年)以前の販売数量は不明であるが、昭和四八年(一九七三年)における原告製品全体のわが国への輸入総額は、一〇〇万ドル弱であり(甲第七号証)、当時の為替レート一ドル三六〇円で換算すると三億六〇〇〇万円弱と、当時の輸入実績としてはかなりの額となっているところ、当時の原告製品全体のなかでは、原告製品一の出荷数が他製品に比して圧倒的に多く(甲第八号証)、原告の主力製品であることを物語っているから、前記昭和四八年(一九七三年)の原告製品全体のわが国への輸入総額中においても、原告製品一に関する分が相当の割合を占めていたであろうことが推認できる。

ウ わが国における原告製品一の宣伝広告の状況

原告製品一がわが国に輸入され始めたころの原告製品一の宣伝広告の状況は不明であるが、原告製品一は、当時から価格が三〇万円前後ときわめて高価なもので、一般愛好家には高嶺の花的な存在であったので、マスメディアを通しての宣伝広告活動はさほどなされなかったものと推測される。

その後、昭和五一年(一九七六年)の「楽器の本」中の紹介記事や昭和五二年(一九七七年)の楽器フェアにおける「ギブソン・コーナー」での原告製品一の陳列などにみられるように、愛好家の関心を引く形での製品紹介が折にふれて行なわれる。

さらに、訴外株式会社山野楽器が原告のわが国における総代理店となった昭和六二年(一九八七年)以降は、「ギターマガジン」誌(月刊、発行部数約二〇万部)、「プレイヤー」誌(月刊、発行部数約二五万部)、「ヤングギター」誌などの音楽関係雑誌に継続的に原告製品一の写真付きの宣伝広告が掲載されている。

(3) なお、被告が主張するとおり、一九七〇年代前半ころのわが国において、原告製品一の形態のコピー競争ともいえる状況の現出していたものの、そのことによって、原告製品一の形態がエレクトリックギターの標準型の一つとして認識され、形態によって出所を表示することが全く不可能な状況になっていたわけではない。

当時のわが国において、原告製品一がきわめて著名であり、顕著に出所表示機能を有するがゆえに、そのコピーが価値あるものとしてコピー競争が行なわれたとみるべきである。

(二) 原告製品二について

(1) 形態の特異性

原告製品二は、別紙原告製品目録二記載のとおり、画期的にユニークな正面輪郭形状を有している。すなわち、

① ボディの輪郭は、左右対称の矢羽形状で、矢羽の両先端部及び分岐部はいずれも丸みを帯び、

② ヘッドの輪郭は、左右対称の平根型矢尻状の形状をなし、

③ 矢状の全体形状をしている。

(2) 周知性

ア 原告製品二の国際著名性

原告製品二は、一九五〇年代後半のロックン・ロール・ブームのなかで、急進的なギターを目指して原告がデザインしたものである。一九五八年の発表当時は、あまりにも急進的なデザインのため、原告としては、実験的なモデルとして特別な愛好家のためにのみ、限定生産する考えであったことから、僅かな本数が出荷されただけで生産中止されたが、その後一九七五年ころに復活し、以後今日に至るまで継続的に量産され、原告の代表的なモデルの一つとなり、そのきわめて独特な形状と「ギブソン」ブランドの名声とが相まって、国際的に著名なモデルとなっている。

そして、国際化した現代社会においては、国際著名が同時に国内周知をもたらすことが十分ありうるところ、エレクトリックギターの歴史はアメリカ合衆国に始まり、そのデザインやそれを使用する音楽の流行も同国の流れに追随するという一般的傾向があったことからすれば、わが国のエレクトリッグギターの取引業界や愛好家の目は終始アメリカ合衆国における嗜好や流行に向けられてきたはずであり、店頭陳列やカタログ類その他個別様々な情報ルートを通して、国際著名の原告製品二の形態についての認識が、これらの者の間に速やかに広まったであろうことが推察できる。

イ わが国における原告製品二の輸入、販売、宣伝広告の状況

わが国における原告製品二の輸入、販売に関しては、昭和六二年(一九八七年)に二三本、平成二年(一九九〇年)に後述の原告製品三と合わせて三六〇本、平成三年(一九九一年)に後述の原告製品三と合わせて二八八本、平成四年(一九九二年)に二五七本、平成五年(一九九三年)に三三七本がそれぞれ販売されている。

また、音楽雑誌「プレイヤー」(月刊、発行部数約二五万部)の平成二年(一九九〇年)九月号に原告製品二の写真付きの広告が掲載されている。

(3) なお、被告が主張するとおり、昭和五五年(一九八〇年)ころから、わが国において、かなりの数のメーカーから原告製品二の形態のコピーないし類似製品が販売されたものの、そのことによって、原告製品二の形態が、出所表示機能を有し得ないこととなったとはいえない。

右のように、原告製品二の形態のコピーが行なわれていること自体、原告製品二の商品形態が、当時既に、わが国において顕著な商品表示性を獲得し、かつ周知であったことを物語っているものである。

(三) 原告製品三について

(1) 形態の特異性

原告製品三は、別紙原告製品目録三記載のとおり、きわめてユニークな正面輪郭形状を有している。すなわち、

① ボディの輪郭は、向かって右肩を右上方に突出させ、中央部付近がくびれ、両裾は下に行くほど広がり、かつ左袖を左下方に突出させた形状をなし、

② ヘッドの輪郭は、ブーツを仰向けた形状をしている。

(2) 周知性

ア 原告製品三の国際著名性

原告専門品三は、一九五〇年代後半のロックン・ロール・ブームのなかで、急進的なギターを目指して原告がデザインしたものである。一九五八年の発表当時は、あまりにも急進的なデザインのため、原告としては、実験的なモデルとして特別な愛好家のためにのみ限定生産する考えであったことから、僅かな本数が出荷されただけで生産中止されたが、その後一九七五年ころに復活し、以後今日に至るまで継続的に量産され、原告の代表的なモデルの一つとなり、そのきわめて個性的な形状と「ギブソン」ブランドの名声とが相まって、国際的に著名なモデルとなっている。

そして、国際化した現代社会においては、国際著名が同時に国内周知をもたらすことが十分ありうるところ、エレクトリックギターの歴史はアメリカ合衆国に始まり、そのデザインやそれを使用する音楽の流行も同国の流れに追随するという一般的傾向があったことからすれば、わが国のエレクトリックギターの取引業界や愛好家の目は終始アメリカ合衆国における嗜好や流行に向けられてきたはずであり、店頭陳列やカタログ類その他個別様々な情報ルートを通して、国際著名の原告製品三の形態についての認識が、これらの者の間に速やかに広まったであろうことが推察できる。

イ わが国における原告製品三の輸入、販売、宣伝広告の状況

わが国における原告製品三の輸入、販売に関しては、昭和六二年(一九八七年)に二三本、平成二年(一九九〇年)に前述の原告製品と合わせて三六〇本、平成三年(一九九一年)に前述の原告製品二と合わせて二八八本、平成四年(一九九二年)に八四本、平成五年(一九九三年)に五五本がそれぞれ販売されている。

また、音楽雑誌「ギターマガジン」(月刊、発行部数約二〇万部)の平成三年(一九九一年)三月号及び平成四年(一九九二年)四月号、音楽雑誌「プレイヤー」(月刊、発行部数約二五万部)の平成二年(一九九〇年)九月号に原告製品三の写真付きの広告が掲載されている。

(3) なお、被告が主張するとおり、一九七〇年代後半から、わが国において、少なくとも複数のメーカーから原告製品三の形態のコピーないし類似製品が販売されたものの、そのことによって、原告製品三の形態が、出所表示機能を有し得ないこととなったとはいえない。

右のように、原告製品三の形態のコピーが行なわれていること自体、原告製品三の商品形態が、当時既に、わが国において顕著な商品表示性を獲得し、かつ周知であったことを物語っているものである。

4  被告の行為

(一) 別紙被告製品目録一記載のエレクトリックギター

被告は、原告製品一の形態を参考にして制作した別紙被告製品目録一(1)ないし(6)記載のエレクトリックギター(以下、総称して「被告製品一」という。)を国内において製造、販売している。

(二) 別紙被告製品目録二記載のエレクトリックギター

被告は、原告製品二の形態を参考にして製作した別紙被告製品目録二(1)ないし(3)記載のエレクトリックギター(以下、総称して「被告製品二」という。)を国内において製造、販売している。

(三) 別紙被告製品目録三記載のエレクトリックギター

被告は、原告製品三の形態を参考にして製作した別紙被告製品目録三記載のエレクトリックギター(以下「被告製品三」という。)を国内において製造、販売している。

5  形態の同一性、類似性

(一) 被告製品一と原告製品一について

被告製品一の形態は、その正面輪郭形状において、いずれも別紙原告製品目録一記載の原告製品一の正面輪郭形状と同一である。

また、被告製品一(1)、(2)及び(6)のデザインは、原告製品一のうちの別紙原告製品目録四(1)の「レスポール・スタンダード」と、被告製品一(3)及び(4)のデザインは、別紙原告製品目録四(2)の「レスポール・カスタム・ブラックビューティ」と、被告製品一(5)のデザインは、別紙原告製品目録四(3)の「レスポール・カスタム」と、それぞれ同一ないし酷似する。

したがって、被告製品一の形態は、いずれも原告製品一の形態と同一ないし類似である。

(二) 被告製品二(1)及び(2)と原告製品二について

被告製品二(1)及び(2)の正面輪郭形状は、いずれも原告製品二の正面輪郭形状と同一であるから、被告製品二(1)及び(2)の形態と原告製品二の形態とは同一ないし類似である。

(三) 被告製品二(3)と原告製品二について

被告製品二(3)の形態は、そのボディの正面輪郭形状において、原告製品二のボディの正面輪郭形状と同一であるところ、ヘッドの正面輪郭形状においては、先端が原告製品二では丸みを帯びているのに対し、被告製品二(3)では尖っている点及び原告製品二では左右対称であるのに対し、被告製品二(3)では左右対称でない点において異なるものの、ギター全体としてみれば、被告製品二(3)の形態は、原告製品二の形態と類似する。

(四) 被告製品三と原告製品三について

被告製品三の形態は、その正面輪郭形状において、原告製品三の正面輪郭形状を全体的にやや角張らせたものであるから、原告製品三の形態と類似する。

6  混同のおそれ

被告製品一ないし三の形態は、前記5記載のとおり、原告製品一ないし三の形態と同一ないし類似するから、需要者・取引者をして、被告製品一ないし三が、あたかも原告製品一ないし三であるかのごとく誤認・混同させ、もしくは、原告との提携関係において製造、販売及び輸出されているかのごとく誤認混同させ、前記各原告製品モデルの個性的な形状、デザインによる商品出所の識別力を希釈化し、かつ、原告が独自に開発創作しかつその永年の企業努力により周知著名となった前記モデルの個性的な形状、デザインがもたらす顧客吸引上の利益にただ乗りし、原告の営業上の利益を侵害した。

とりわけ、被告製品一においては、ヘッド部のトラスロッドカバーの形状が、原告製品一の同部位の形状(原告の登録商標である釣鐘型の標章)と類似していること、ヘッドに付されている原告の登録商標「Burny」の文字の表示態様が、原告製品一のヘッドに付されている原告の登録商標「Gibson」の文字の表示態様と類似していうこと、さらに、被告製品一(2)においては、ヘッド部に付されている「Super Grade」の文字の表示態様が原告製品一のヘッド部に付された「Les Paul」の文字の表示態様と類似していることなどから、原告製品一との誤認混同のおそれが強い。

7  不正競争防止法違反による損害額

被告は、平成五年九月三日から平成八年九月二日間での三年間に、被告製品一の販売によって四〇五〇万円、被告製品二の販売によって三六〇万円、被告製品三の販売によって九〇万円の利益をそれぞれ得ている。

右被告が得た利益の合計額四五〇〇万円は、不正競争防止法五条一項により、原告が右三年間に、被告の本件不正競争によって被った損害の額と推定される。

8  不法行為(予備的請求原因)

(一) 人が物品に創作的な形状、デザインを施し、その創作的要素によって商品としての価値を高め、この物品を製造、販売することによって営業活動を行っている場合において、該物品と同一の物品に実質的に同一の形状、デザインを施し、その者の販売地域と競合する地域においてこれを廉価で販売することによってその営業を妨害する行為は、公正かつ自由な競争原理によって成り立つ取引社会において、著しく不公正な手段を用いて他人の法的保護に値する営業上の利益を侵害するものとして、不法行為を構成するというべきところ(東京高裁平成三年一二月一七日判決・知裁集二三巻三号八〇八頁)、被告製品一ないし三は、いずれも、原告の創作的商品である原告製品一ないし三の形状、デザインを模倣したデッドコピーの範疇に属する製品であり、被告は、これらを製造し、原告製品一ないし三に比して安価で販売することによって原告の営業を妨害しているから、被告の右行為は、前記の不法行為に該当する。

(二) 不法行為による損害額

原告は、被告が平成五年九月三日から平成八年九月二日までの三年間に、被告製品一を販売したことによって四〇五〇万円、被告製品二を販売したことによって三六〇万円、被告製品三を販売したことによって九〇万円、合計四五〇〇万円の損害を被った。

9  よって、原告は、被告に対し、

(一) 首位的に、不正競争防止法二条一項一号、三条に基づき、被告製品一ないし三及びそれらと同一正面形状のエレクトリックギターの製造、販売、輸出及び輸入の差止め並びに被告がその本店、営業所、工場及び倉庫に保有する被告製品一ないし三及びにそれらと同一正面形状のエレクトリックギターの廃棄を求めるとともに、同法四条に基づく損害賠償として、四五〇〇万円及びこれに対する不法行為の後である平成八年九月三日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

(二) 予備的に、民法七〇九条に基づき、四五〇〇万円及びこれに対する不法行為の後である平成八年九月三日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否及び反論

1  請求原因1の事実は認める。

2(一)  請求原因2(一)の事実のうち、(1)は認め、(2)は知らない。

(2) 同2(2)の事実のうち、(1)は認め、(2)は知らない。

(三)  同2(3)の事実のうち、(1)は認め、(2)は知らない。

3  請求原因3の事実は否認する。

(一) 原告製品一について

原告製品一の形態は、以下に述べるとおり、そもそも特異なものではないうえに、わが国においてはエレクトリックギターの標準型の一つとして認識されてきたという市場の実情からすれば、原告の周知な商品表示としての機能を獲得しているとはいえない。

(1) 形態の特異性の欠如

原告が原告製品一の形態の特徴として主張するボディの正面輪郭形状は、伝統的な瓢箪型の形状の右上に切込み(シングルカッタウェイ)を入れたものにすぎないところ、このような切込みは、エレクトリックギターとしては、一般的なものであるうえ、弦の高音部を押えやすくするという機能上の理由に由来する形態であるから、右ボディの正面輪郭形状には、商品表示性取得の前提が欠ける。

また、そのほかに原告が主張する原告製品一のヘッドの正面輪郭形状、ボディ上の部品の形状及び配置等の形態の特徴は、いずれもエレクトリックギターにありふれた一般的・標準的な形状であり、商品表示性を有し得ない。

(2) わが国における市場の実情による商品表示性の欠如

原告製品一が、国内において、原告により長期間独占的に販売され、あるいは大々的な広告宣伝が行なわれた事実はない。かえって、原告製品一がわが国で輸入、販売される以前、もしくはこれとほぼ時を同じくする昭和四五年(一九七〇年)前後ころから、わが国においては、原告製品一とほぼ同形態のエレクトリックギターが、国内の数十の楽器メーカーから、それぞれ自社のブランド名により、原告製品一に比して安価な数万円程度の価格で継続的に販売され、これらが消費者に受け入れられ、市場を拡大していった結果、原告製品一の形態は、昭和四五年(一九七〇年)以後の数年間において、わが国の消費者の間で、レスポールタイプというエレクトリックギターの標準型の一つとして認識されるに至っているといえるから、原告製品一の形態は、原告の商品表示としての機能を獲得していない。

(二) 原告製品二について

原告製品二の形態は、一九五八年にアメリカ合衆国で発売された当時、ギターとしてはユニークな形態であったことが認められるものの、以下のようなわが国の市場における事情からすれば、右形態が原告の周知な商品表示性を獲得しているとはいえない。

(1) 周知性の欠如

原告製品二は、一九五八年のアメリカ合衆国での発売後、ごく僅かの数量を出荷したのみで製造を中止したものであり、この時期の製品がわが国に輸入されたとは考えられない。また、その後の生産再開から現在に至るまでのわが国での輸入、販売数も、原告が主張するとおり、ごく僅かでしかないから、原告製品二の形態がわが国において周知になり、商品表示性を獲得したことはない。

(2) わが国における市場の実情による商品表示性の欠如

原告製品二がわが国で輸入、販売される以前の昭和四八年(一九七三年)ころから、わが国においては、原告製品二とほぼ同形態のエレクトリックギターが、国内の楽器メーカーから、自社のブランド名により販売されるようになり、その後も複数の国内の楽器メーカーから同様のエレクトリックギターが販売されるようになった結果、原告製品二の形態は、遅くとも一九八〇年前半には、わが国の消費者の間で、エレクトリックギターの一般的な形状の一つとして認識されるに至っているといえるから、原告製品二の形態は、わが国において、原告の商品表示としての機能を獲得していない。

(三) 原告製品三について

原告製品三の形態は、一九五八年にアメリカ合衆国で発売された当時、ギターとしてはユニークな形態であったことが認められるものの、以下のようなわが国の市場における実情からすれば、右形態が原告の周知な商品表示性を獲得しているとはいえない。

(1) 周知性の欠如

原告製品三は、一九五八年のアメリカ合衆国での発売後、ごく僅かの数量を出荷したのみで製造を中止したものであり、この時期の製品がわが国に輸入されたとは考えられない。また、その後の生産再開から現在に至るまでのわが国での輸入、販売数も、原告が主張するとおり、ごく僅かでしかないから、原告製品三の形態がわが国において周知になり、商品表示性を獲得したことはない。

(2) わが国における市場の実情による商品表示性の欠如

原告製品三がわが国で輸入、販売される以前の昭和五一年(一九七六年)ころから、わが国においては、原告製品三とほぼ同形態のエレクトリックギターが、国内の楽器メーカーから、自社のブランド名により販売されるようになり、その後も複数の国内の楽器メーカーから同様のエレクトリックギターが販売されるようになった結果、原告製品三の形態は、遅くとも一九八〇年代前半には、わが国の消費者の間で、エレクトリックギターの一般的な形状の一つとして認識されるに至っているといえるから、原告製品三の形態は、わが国において、原告の商品表示としての機能を獲得していない。

4  請求原因4の事実は認める。

5  請求原因5の事実は否認する。

(一) 被告製品二と原告製品二について

被告製品二の形態と原告製品二の形態とは、以下のとおり相違するから同一性ないし類似性がない。

(1) 原告製品二は、ヘッドが外側を黒色、内側を白色とし、ネックが茶色で、ボディが茶色の板のうえに白色の特徴的な形態の板を重ねているところ、被告製品二は、いずれも全体の色調、模様において原告製品二と異なる。

(2) 加えて、被告製品二(1)の形態は、原告製品二と比べて、ヘッドの形状が長くその先端の角度が急であること、ヘッド下端の線が原告製品二ほど曲線的でないこと、ボディ上端の左右の傾斜が穏やかであること、トレモロ用ハンドルが存在することのほか、ペグの形状、ボディ上のダイヤルの配置、弦の支持部の形状においても相違する。

(3) また、被告製品二(3)の形態は、原告製品二と比べて、ヘッドの形状、ネック上のマークの形状、トレモロ用ハンドルが存在することにおいても相違する。

(二) 被告製品三と原告製品三について

被告製品三の形態と原告製品三の形態とは、以下のとおり相違するから、同一性ないし類似性がない。

(1) 原告製品三は、ヘッドが黒色、ネックが茶色、ボディが白色に別の白色の板を重ねさらに黒色のピックアップ部や弦の保持部を有しているのに対し、被告製品三は、全体が黒色で統一されており、また、ボディ上に別の板が重ねられていることはない。

(2) 原告製品三は、ヘッドの先端が丸みを帯びているのに対し、被告製品三は、ヘッドの先端が鋭角的に尖っている。

(3) 原告製品三では、ボディの右上端近くにボタンがあるのに対し、被告製品三では、その位置にボタンはない。

(4) 原告製品三では、ボディの右下に三つのダイヤルが左下がり線上に配置されているのに対し、被告製品三では、ボディの右下に三つのダイヤルが右下がり線上に配置されている。

(5) 原告製品三では、ボデイの下端が滑らかな曲線であるのに対し、被告製品三では、ボディの下端は直線状である。

(6) 原告製品三では、ボディ右上に、根底部において幅が広く、先端に向かって細かくなっている突出部があるところ、被告製品三にあるボディ右上の突出部は、原告製品三に比して、根底部の幅が狭く、先端部にかけての幅の変化が小さいうえ、先端部が水平になっている。

(7) そのほかにも、被告製品三の形態は、ボディ上の部品の配置と形状、トレモロ用ハンドルが存在すること、ヘッドに釣鐘状のトラスロッドカバーがないことにおいて、原告製品三の形態と相違する。

6  請求原因6の事実は否認する。

以下のような理由から、原告製品一ないし三と被告製品一ないし三との間に混同のおそれはない。

(一) エレクトリックギターのファンにはマニア的な気質の者が多いこと、エレクトリックギターは安くとも数万円はする高価な商品であることからすると、エレクトリックギターを購入しようとする消費者が、出所を曖昧にしたままで商品を購入することはあり得ない。そして、エレクトリックギターの出所を示す表示としては、ヘッド上の標章がもっとも典型的かつ強力なものであるところ、原告製品一ないし三との被告製品一ないし三とは、ヘッド上の標章が大幅に相違しているから、これにより、出所の識別が十分に可能である。

原告は、被告製品一のヘッド部の各標章が原告製品一のそれと類似することを誤認混同が生じる理由として主張するが、被告製品一のトラスロッドカバーの形状は左右に突起が出ている点において原告製品一の釣鐘型形状と相違するし、被告製品一の「Burny」の文字表示と原告製品一の「Gibson」の文字表示及び被告製品一(2)の「Super Grade」の文字表示と原告製品一の「Les Paul」の文字表示は、いずれも明らかに異なるアルファベット表示であることが識別できる。

(二) 前記3(一)(二)、同(二)(2)及び同(三)(2)記載のとおり、原告製品一ないし三と同種形態の製品が多数のメーカーから販売されてきたというわが国の市場の状況の下では、被告製品一ないし三が原告製品一ないし三と同一の形態であるとしても、両者の間に誤認混同のおそれはない。

加えて、被告製品二及び三については、前記のとおり、原告製品二及び三とその形態を顕著に異にするから、両者の間に誤認混同のおそれはない。

(三) 一九七〇年代から、原告製品一ないし三は価格が十数万円以上する高級品であるのに対し、被告製品一ないし三は価格が数万円の普及品であり、両者の間には、価格という、およそ物を購入する上で最も決定的な要素において、明確な分担ができあがっているから、消費者がこれらを混同して購入することはあり得ない。

7  請求原因7の事実は否認する。

8  請求原因8は争う。

(一) 原告がその主張の根拠としている東京高裁平成三年一二月一七日判決は、デッドコピーそれ自体を民法七〇九条にいう権利侵害(ないし違法行為)としているのではなく、「人が物品に創作的な模様を施しその創作的要素によって商品としての価値を高め、この物品を製造販売することによって営業活動をおこなっている場合において、該物品と同一の物品に実質的に同一の模様を付しその者の販売地域と競合する地域においてこれを廉価で販売することによってその営業活動を妨害する行為」という一定の特殊な事実関係を総合して不法行為を構成するとしているものである。そして、そもそも、知的財産権の保護が及ばない以上、他者が先行者の商品を模倣することは基本的に自由なはずであり、知的財産権法や不正競争防止法で救済が否定された模倣行為一般について、不法行為となるとすることは、自由競争の例外として一定の要件のもとで、技術・思想・表現・表示の独占を許す知的財産権法、不正競争防止法の存在異議を没却してしまうことになりかねないから、右判例の射程距離は極めて厳格に解すべきである。

(二) 以上を前提にすると、右判例の事案と本件とは、以下のとおり、重要な点で事実状況を異にしているから、右判例が原告の損害賠償請求を基礎付けるものとはなりえない。

(1) 原告製品一ないし三の形態は、ここ十数年の間にエレクトリックギターにおける標準的・一般的形態と化しており、創作的な形態とは到底いえない。

(2) 前記判例では、被告製品が原告製品と寸分違わぬ完全な模倣すなわちデッドコピーであることが認定されているのに対し、被告製品二及び三の形態は、前記のとおり、原告製品二及び三の形態と相違しており、また、被告製品一の形態も、原告製品一のデッドコピーとはいえない。

(3) 前記判例の事案では、被告の廉価販売により、原告がその製品の値下げを余儀なくされた事実が認定されているのに対し、本件では、原告は、類似形態製品が出回り始めてから二〇年以上が経過した現在においても、原告製品一ないし三を数十万円もの高額製品として販売しているものであり、被告製品の販売を原因として値下げを余儀なくされた事実は存しない。すなわち、本件では、原告製品と被告製品の市場は、高級品市場対廉価市場ということで、全く異なるものであるから、競合する市場下で生じた前記判例理論の適用の余地はない。

(4) 前記判例の事案では、昭和五九年一一月中旬から被告が原告製品のデッドコピー製品の販売を開始したのに対し、原告は、早くも昭和六〇年には提訴を行なっているのに対し、本件の原告は、二〇年以上にわたって類似製品の出回りを放置し、原告製品一ないし三は標準タイプ化してしまった。

(三) したがって、本件における原告の不法行為に基づく損害賠償請求は理由がない。

三  抗弁(権利濫用)

以下のような事情の下においては、原告の不正競争防止法に基づく権利行使及び不法行為に基づく損害賠償請求権の行使は、権利濫用に該当し許されない。

1  前記のとおり、一九七〇年代から、わが国の市場では、原告製品一ないし三と類似形態のエレクトリックギターが多数出回っていたところ、原告は、右事実を知りながら、約二〇年にわたりこれを放置してきた。

2  さらに、原告は、原告製品の類似形態製品を製造、販売する日本楽器株式会社及び株式会社神田商会をわが国における代理店に選任し、また、同じく原告製品の類似形態製品を製造、販売する荒井貿易株式会社と合弁契約を締結して原告製品の販売会社を設立するなどして、原告製品の類似形態製品が市場に出回ることを積極的に容認してきた。

3  また、原告自身も、アメリカ合衆国のフェンダー社の製品デザインを採用した製品を幾つか製造、販売している。

四  抗弁に対する認否及び反論

1  抗弁1の事実のうち、わが国の市場で原告製品一ないし三と類似形態のエレクトリックギターが多数出回ったことは認め、その余は否認する。

2  同2の事実のうち、一時期原告の代理店やパートナーになったことのある会社が原告成否の類似形態製品を販売していたことがあることは認め、その余は否認する。原告がそれを積極的に容認してきたことはない。むしろ、代理店やパートナーの右のような行為が障害となって、原告としては、次々と代理店やパートナーを変更せざるを得なかったのが実情である。

3  同3の事実は否認する。原告はフェンダー社の製品のデザインを参考にしたことはあるが、そのコピー製品でないことはもとより、当業界の常識において、類似デザインの範疇ですらないものである。

4  以上の事情のほか、在外者でありかつ職人気質の会社である原告にとってわが国における臨機の権利行使は容易なことではなかったこと、被告は悪意をもって原告の著名な商品表示と同一ないし類似の製品を販売して利益を得てきたことなどを考慮すれば、原告の不正競争防止法及び不法行為に基づく権利行使は、権利濫用に当たらない。

第三  証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

第一  不正競争防止法に基づく請求について

一  請求原因1(当事者)の事実は、いずれも当事者間に争いがない。

二  請求原因2(原告製品)について

1  請求原因2(一)(1)の事実は当事者間に争いがなく、甲第一号証、甲第二号証、甲第六号証、甲第七号証、甲第九号証及び甲第一一号証によれば、同2(一)(2)の事実が認められる。

2  請求原因2(二)(1)の事実は当事者間に争いがなく、甲第一号証、甲第二号証、甲第八号証、甲第一一号証、乙第一一号証及び弁論の全趣旨によれば、同2(二)(2)の事実が認められる。

3  請求原因2(三)(1)の事実は当事者間に争いがなく、甲第一号証、甲第二号証、甲第八号証、甲第一一号証、乙第一四号証及び弁論の全趣旨によれば、同2(三)(2)の事実が認められる。

三  請求原因3(原告製品の形態の周知商品表示性)について

1 商品の形態は、第一次的には、商品本来の効用の発揮や美観の向上等のために選択されるものであり、そもそも商品の出所を表示することを目的として選択されるものではないが、特定の商品形態が他の業者の同種商品と識別しうる特別顕著性を有し、かつ、右商品形態が、長期間継続的かつ独占的に使用され、又は短期間でも強力な宣伝が行なわれたような場合には、結果として、商品の形態が、商品の出所表示の機能を有するに至り、商品表示としての形態が周知性を獲得する場合があるというべきである。

他方、発売当初商品の形態に特別顕著性があっても、同一又は類似の形態が複数の業者により複数の同種商品について使用され、そのような状態が長期間継続した場合には、希釈化(ダイリューション)により当該商品の形態を特定の出所の表示として認識することができなくなり、不正競争防止法二条一項一号にいう周知商品表示といえなくなる場合もあると解すべきである。

そこで、原告が主張する原告製品一ないし三の形態が、わが国において、右のような周知な商品表示としての機能を獲得しているか否かについて検討する。

2  原告製品一について

(一) 以下に掲げる各証拠に弁論の全趣旨を総合すれば、以下の事実が認められる。

(1) アメリカ合衆国における状況

ア 原告は、一九〇二年、その前身であるギブソン・マンドリン・ギター・マニュファクチュアリング・カンパニー有限会社が設立されて以来、「ギブソン」のブランド名でギター等の楽器を製造販売してきた会社であり、右「ギブソン」のブランド名は、ギターにおける高級ブランドとして、アメリカ合衆国のみならず国際的にもギター愛好家に知られている(甲第二号証、甲第一一号証)。

イ 原告製品一は、一九五二年のアメリカ合衆国での発売以来、各年毎に細部の仕様に変更を加えたモデルが発表されてきたが、これら各年毎のモデルは、それぞれ同国やイギリスの著名なミュージシャンによって使用されるなどして人気を博し、特に一九五九年型のモデルは、当時アメリカ合衆国で人気のあったギタリストのマイク・ブルームフィールドによって使用されたことから、英米のギタリストに注目されるようになった(甲第二号証、甲第六号証、甲第一一号証)。

ウ その後、一九六一年に、原告製品一は、製造が中止されるに至ったが、一九六〇年後半ころから、当時の署名なミュージシャン達がこぞって一九五〇年代の原告製品一を使い始めたことから人気が爆発し、ユーザーの間で再生産の要望が盛り上がり、これを受けて、一九六八年には原告製品一の再生産が開始された(甲第二号証、甲第六号証、甲第一一号証)。

エ 以後も、原告製品一は、一九五〇年代型の復刻版など多数モデルが発売され、今日に至るまでエレクトリックギターにおける名器として、ミュージシャンや愛好家の間で定着した人気を有している(甲第二号証、甲第六号証、甲第一一号証)。

オ 原告製品一のヘッド部分の輪郭は、一九七三年九月一六日、アメリカ合衆国特許商標庁において、対象商品を弦楽器として商標主登録がなされ、ボディの輪郭形状は、一九九三年七月三〇日、同国特許商標庁において、対象商品をギターとして商標主登録がなされている(甲第四号証、甲第五号証)。

カ なお、原告製品一には、別紙原告製品目録四記載の機種のほか、「レスポール・クラシック」、「レスポール・リイシューゴールドトップ」等の機種がある(弁論の全趣旨)。

(2) わが国における販売状況

ア 原告製品一は、遅くとも昭和四四年(一九六九年)ころには、わが国で輸入、販売されているが、当時の販売価格は三〇万円前後であった。また、その輸入・販売の数量については、株式会社山野楽器が原告の総代理店となった昭和六二年(一九八七年)以降に関する資料によれば、昭和六二年(一九八七年)が九九七本、昭和六三年(一九八八年)が一二〇〇本、平成元年(一九八九年)が一七八二本、平成二年(一九九〇年)が二三二五本、平成三年(一九九一年)が二一九九本、平成四年(一九九二年)が三〇〇三本、平成五年(一九九三年)が三八五六本である(甲第九号証、甲第一〇号証)。

イ なお、この点につき、原告は、昭和四五年(一九七〇年)前後の原告製品全体のわが国への年ごとの販売額を明らかにする資料(甲第七号証)から、当時の原告製品全体のわが国での輸入・販売実績がかなりの額(例えば、昭和四八年(一九七三年)で一〇〇万ドル弱)にのぼるとし、他方、一九七一年から一九七九年までの各原告製品の出荷数を明らかにする資料(甲第八号証)によれば、原告製品一の出荷数が他製品に比して圧倒的に多いことがわかるから、わが国への右輸入・販売実績の中でも原告製品一が相当部分を占めていることが推認できる旨主張する。

しかしながら、そもそも原告製品全体の出荷数に占める原告製品一の割合をわが国への輸入・販売額にそのまま当てはめることは妥当でないし、仮に、これを当てはめるにしても、甲第八号証によれば、原告製品の各モデルの出荷数は、各年ごとの変動が著しく、ここから原告製品一の出荷数の割合として確たる数値を導き出すのは困難というべきである。いずれにしても、甲第七号証及び甲第八号証は、昭和四五年(一九七〇年)前後ころのわが国における原告製品一の販売数量や販売額について、確たる認定をなし得る資料とはなり得ず、前記ア認定の年以外の年分についてはこれを明らかにする証拠がなく、不明というほかない。

ウ また、エレクトリックギターの国内販売数量は、昭和四四年(一九六九年)に約三万本、昭和四五年(一九七〇年)に約二万本、昭和四六年(一九七一年)から昭和五〇年(一九七五年)までが年間約七、八万本、昭和五一年(一〇七六年)が約一〇万本、昭和五二年(一九七七年)から平成八年(一九九六年)までが年間約一五万本ないし約二〇万本程度(ただし、昭和五三年(一九七八年)及び昭和六一年(一九八六年)は年間約二三、四万本である。)であり、そのうち、アメリカ合衆国からの輸入数量は、昭和六三年(一九八八年)から平成七年(一九九五年)までが年間約一万本ないし四万本弱である(乙第六一号証、乙第六二号証の一ないし九、乙第六三号証の一ないし四、乙第六四号証の一、二)。

(3) 宣伝広告の状況

ア 株式会社山野楽器が原告の総代理店となった昭和六二年(一九八七年)以降は、「ギターマガジン」「プレイヤー」「ヤングギター」等の音楽関係雑誌において、原告製品一の形態が写真で表示されたギブソンブランド製品に関する広告が、「ギブソン日本総代理店山野楽器」の名義で頻繁に掲載されている(甲第一三号証の一ないし一二の各1、2、甲第一四号証の一ないし一四の各1、2、甲第一五号証の一、二)。

イ 他方、昭和六一年(一九八六年)以前においては、一九七〇年代中ごろの代理店であった日本楽器製造株式会社、株式会社神田商会名義のギブソンブランド製品のカタログに、原告製品の一つのモデルとして原告製品一のいくつかの機種が写真付きで掲載され(乙第一三号証ないし乙第一五号証)、昭和五一年(一九七六年)六月三〇日発行の楽器カタログ「楽器の本」において、「ギブソン」に関する紹介記事のなかで原告製品一の歴史等が原告製品一の写真付きで紹介されるとともに、多数のブランドのエレクトリックギターのカタログのなかで原告製品一の二機種が写真付きで紹介され(甲第一一号証、乙第一〇号証)、昭和五二年(一九七七年)三月一日発行の楽器専門誌「ミュージシャン」では、「レスポール」に関する特集記事が掲載され、その中で、原告製品一の仕様等が原告製品一の写真付きで紹介され(乙第一九号証)、昭和五七年(一九八二年)二月一日発行の楽器のカタログ「THE楽器」において、多数のブランドのエレクトリックギターの一つとして原告製品一の数機種が写真付きで紹介された(乙第一一号証)。

また、昭和五二年(一九七七年)一〇月に東京で開催された楽器の展示会「楽器フエア」において、当時のわが国における原告製品の総輸入元であった荒井貿易株式会社及び株式会社日本ギブソンによって、原告製品の展示コーナーが設けられ、その中で、他の多数の原告製品とともに、原告製品一のいくつかの機種が陳列された(甲第一二号証)。

(4) 類似品の販売状況

以下のとおり、わが国においては、昭和四五年(一九七〇年)前後ころから、ロックミュージックブームに乗って、原告製品一と正面輪郭形状のほかボディ上の部品の形状や位置に至るまで明らかにほぼ同一の形態を有すると認められるエレクトリックギター(以下「レスポール・タイプ」という。)が、国内のメーカーから、自社のブランド名により販売されるようになり、その後も多数の楽器メーカーによって多くのレスポール・タイプの販売がなされている。

ア 昭和四三年(一九六八年)ないし昭和四四年(一九六九年)ころ、株式会社原楽器店(ブランド名「バーンズ」により、「ルーカス」の名称でレスポール・タイプが発売された(乙第三号証)。

イ 昭和四五年(一九七〇年)、株式会社神田商会(ブランド名「グレコ」により、「EG―360」(価格は、三万六〇〇〇円)の名称でレスポール・タイプが発売され、それ自体ロックファンに人気を得ていた(乙第三号証、乙第一七号証)。

その後、昭和四九年(一九七四年)一月号の音楽業界専門誌「ミュージックトレード」における株式会社神田商会及び荒井貿易株式会社の広告では、グレコブランドのレスポール・タイプ一一機種(価格は機種により、三万六〇〇〇円から八万円)が、EGシリーズとしてそれぞれ写真付きで掲載され、さらに、右グレコ製品の昭和四九年(一九七四年)四月ころのカタログでは少なくとも一二機種(価格は機種により、三万八〇〇〇円から八万円)の、同じく昭和五二年(一九七七年)のカタログでは一九機種(価格は機種により、三万八〇〇〇円から一〇万円)のレスポール・タイプが、EGシリーズとしてそれぞれ写真付きで掲載されている(乙第五号証、乙第七号証、乙第八号証)。

また、昭和四九年(一九七四年)一付きころのテスコ株式会社(ブランド名「テスコ」)のカタログでは三機種(価格はいずれの機種も、三万六〇〇〇円)の昭和五一年(一九七六年)一一月ころの日本楽器株式会社(ブランド名「ヤマハ」)のカタログでは一二機種(価格は機種により、三万八〇〇〇円から一二万円)のレスポール・タイプが、それぞれ写真付きで掲載されている(乙第九号証、乙第一八号証)。

ウ 音楽業界専門誌「ミュージックトレード」昭和四八年(一九七三年)一〇月号の広告及び記事の中には、株式会社共和商会(ブランド名「ギャラン」及び「フレッシャー」)、テスコ株式会社(ブランド名「テスコ」)及び株式会社全音楽譜出版社(ブランド命「ロジェ」)の各レスポール・タイプ(価格は機種により、二万八〇〇〇円から四万円)がそれぞれ写真付きで掲載されている(乙第四号証)。

エ 昭和五一年(一九七六年)六月三〇日発行の楽器カタログ「楽器の本」において、昭和五一年(一九七六年)四月一五日当時国内で販売されていた各ブランドのエレクトリックギターが写真付きで紹介されているところ、その中には、以下のとおり、レスポール・タイプが含まれている(乙第一〇号証)。

ブランド名製品名ないし型版(価格)

① 「Aria ProⅡ」

「ES―700SB」など二機種(価格は機種により、七万円と七万五〇〇〇円)

② 「Elk」

「マーベリックMB―530」(価格は、五万三〇〇〇円)

③ 「FERNANDES Burny」

「FLG70」など二機種(価格は機種により、七万円と一〇万円)

④ 「Fresher」

「FLP―28」(価格は、二万八〇〇〇円)

⑤ 「Greco」

「EG1500」など三機種(価格は機種により、七万円から一五万円)

⑥ 「Guyatone」

「LP―580」など二機種(価格は機種により、五万八〇〇〇円と六万円)

⑥ 「Franpton」

「LP―300」(価格は、三万円)

⑦ 「heerby」

「LG―650」(価格は、六万五〇〇〇円)

⑧ 「JooDee」

「JLP―55CS、TB」(価格は、五万五〇〇〇円)

⑨ 「Westminster」

「EG―280」など三機種(価格は機種により、二万八〇〇〇円から四万円)

オ 昭和五二年(一九七七年)三月一日発行の楽器専門誌「ミュージシャン」では、「レスポール」に関する特集記事が掲載され、その中で、原告の「レスポール・スタンダード」及び「レスポール・カスタム」にあわせて、国産のレスポール・タイプの仕様等の比較が行われ、以下のとおりのレスポール・タイプが写真付きで紹介されている(乙第一九号証)。

ブランド名 製品ないし型番(価格)

① 「フレッシャー」

「FPL―30」(価格は、三万円)

② 「アリアプロⅡ」

「LS―450」など二機種(価格は機種により、四万五〇〇〇円と五万五〇〇〇円)

③ 「グレコ」

「EG―480」など三機種(価格は機種により、四万八〇〇〇円から九万円)

④ 「ジョーデイ」

「JLP―55」(価格は、五万五〇〇〇円)

⑤ 「キャメル」

「CLP―600」(価格は、六万円)

⑥ 「HSアンダーソン」

「HS―LP60」など二機種(価格は機種により、六万円と一一万円)

⑦ 「フェルナンデス バーニー」

「FLG―70」など二機種(価格は機種により、七万円と一二万円)

⑧ 「ハービー」

「LG―700」(価格は、七万円)

⑨ 「ナビゲーター」

「ES―13」(価格は、一〇万円)

カ 昭和五七年(一九八二年)二月一日発行の楽器のカタログ「THE楽器」において、昭和五六年(一九八一年)一一月一日当時国内で販売されていた各ブランドのエレクトリックギターが写真付きで紹介されているところ、その中には、以下のとおり、レスポール・タイプが含まれている(乙第一一号証)。

ブランド名 製品ないし型番(価格)

① 「アーカス」

「レスポール・モデル」(価格は、一〇万円)

② 「バーニー」

「RLG―240」など六機種(価格は機種により、五万円から二四万円)

③ 「フレッシャー」

「FL―800」など六機種(価格は機種により、四万円から八万円)

④ 「グレコ」

「EGF―1800」など一七機種(価格は機種により、四万五〇〇〇円から一八万円)

⑤ 「ナビゲーター」

「LPS―300」など七機種(価格は機種により、九万円から三〇万円)

⑥ 「トーカイ」

「LS―200V」など一二機種(価格は機種により、五万円から一八万八〇〇〇円)

⑦ 「ヤマハ」

「SL―550S」など二機種(価格は機種により、四万五〇〇〇円と五万五〇〇〇円)

キ 平成二年(一九九〇年)六月一八日発行の楽器のカタログ「THE楽器」において、平成二年(一九九〇年)一月一日当時国内で販売されていた各ブランドのエレクトリックギターが写真付きで紹介されているところ、その中には、以下のとおり、レスポール・タイプが含まれている(乙第一二号証)。

① 「ARIA PROⅡ」

「LPC--470」など二機種(価格はいずれの機種も、四万七〇〇〇円)

② 「BURNY」

「LC―75JS」など二機種(価格はいずれの機種も、七万五〇〇〇円)

③ 「EDWARDS」

「ELP―80S」など二機種(価格は機種により、八万円と八万五〇〇〇円)

④ 「ESP=NAVIGATOR」

「LPS―200」など二機種(価格は機種により、二〇万円と四〇万円)

⑤ 「HERITAGE GUITAR」

「H140CM」など五機種(価格は機種により、二四万円八〇〇〇円から三五万円)

(5) 原告の態度

ア 右のように、わが国において多数のレスポール・タイプが販売されてきた状況に対して、原告は、平成五年(一九九三年)二月に至って、被告を含む五社の楽器メーカーに対し、各社のレスポール・タイプの販売等の停止を求める警告書を送付する措置をとったが、それ以前には、これらの楽器メーカーに対して、特段の対応措置をとっていなかった(甲第二三号証の一、二、甲第二四号証の一、二、甲第二五号証の一ないし四、甲第二六号証の一、二、甲第二七号証の一、二)。

イ 原告の総代理店である株式会社山野楽器は、平成二年(一九九〇年)ころから、「オービル」ブランドで原告製品一と同じ形態の製品を七万五〇〇〇円ないし一九万八〇〇〇円で販売し、また、原告は、株式会社山野楽器を通じ、平成五年(一九九三年)ころからは、「エピフォン」ブランドで原告製品一と同じ形態の製品を三万五〇〇〇円ないし五万で販売している(甲第一五号証の一、二、甲第三六号証、乙第二一号証)。

(二)  右認定の事実によれば、原告製品一は、主としてアメリカ合衆国において、一九五二年の発売以来長年にわたり人気商品としてミュージシャンや愛好家の間に定着してきたものといえるが、わが国においては、昭和四四年(一九六九年)ころから輸入、販売されている事実は認められるものの、昭和六二年(一九八七年)以前の輸入・販売量は必ずしも明らかでないうえ、株式会社山野楽器が原告の総代理店となった昭和六二年(一九八七年)より前の時点においては、カタログや音楽雑誌に数回にわたり紹介されたり、楽器の展示会に陳列されたことがある程度で、大量に販売がなされたり、頻繁ないし大々的に宣伝広告がなされたりしたとはいえない状況であったところ、他方において、昭和四五年(一九七〇年)前後ころから、わが国の多数の楽器メーカーがそれぞれ自社のブランドにより、原告製品一とほぼ同一の形態のエレクトリックギターを、多数の機種にわたって、その大多数につき原告製品一に比して著しく低い価格によって販売するようになり、いわば「レス・ポール」のコピー競争とでもいいうる状況が出現し、そのような状況が一九八〇年代を経て一九九〇年代に至るまで継続しているのであるから、少なくとも昭和六二年(一九八七年)より前の時点において、原告製品一の形態が、わが国において、他の業者の同種商品と識別しうる独自の特徴を有し、かつ、右形態が、原告によって長年にわたり独占的に使用され、あるいは短期間でも強力な宣伝が行われたという事情を認めることはできず、したがって、原告製品一の形態が周知な商品表示としての機能を獲得したものとは認められない。

その後、昭和六二年(一九八七年)以降には、原告製品一の販売数が徐々に増加して、年間約一〇〇〇本ないし約三〇〇〇本の輸入・販売が行われ、平成五年(一九九三年)には四〇〇〇本近くまで達し、また、原告製品一の形態の写真を付した宣伝広告が音楽関係雑誌で頻繁に行われるようになったという事実が認められるけれども、右のような輸入・販売は年間約一五万本ないし二〇万本というエレクトリックギター全体の販売数量の中でとりわけ多いといえるわけではない。しかも、前記認定のとおり、右以前に、被告を含む多数の楽器メーカーから原告製品一と同形態のエレクトリックギターが多機種にわたって販売されるという状況が、十数年間継続してきたというのであって、意匠権の存続期間が設定登録の日から一五年(意匠法二一条)であり、商品形態の模倣を禁じられるのが最初の発売日から三年(不正競争防止法二条一項三号)であることに照らしても、これを超える期間原告製品一と同形態の商品の販売が多数行われたのに、原告がこれを放置し、同形態の商品表示機能を獲得ないし維持する努力を怠ったため、原告製品一の形態はダイリューションを起こし、需要者の間において、特定の商品の出所を表示するものとしてではなく、エレクトリックギターの形態におけるいわば一つの標準型として定着するに至っていたというべきである。

さらに、平成五年(一九九三年)に、原告が類似商品の販売業者に警告を行ったことにより、同年以降、原告製品一と同形態の製品は、販売業者数や機種数に多少の減少傾向はみられるものの、依然として相当数販売され、原告の総代理店も別ブランド名で原告製品一と同じ形態の製品を販売している状況が認められるのであるから、前記のような原告製品一の販売数や宣伝広告の増加という事実を考慮したとしても、原告製品一の形態がエレクトリックギターの標準型の一つとして需要者に認識されているという状況に基本的な変化はないというべきであり、原告製品一の形態が原告の周知な商品表示としての機能を獲得したものとは認められない。

(三)(1)  なお、原告は、原告製品一の形態は、一九五二年の発売後たちまちにして国際的に著名となったところ、わが国の取引者・需要者においても、様々な情報ルートを通して、国際著名の原告製品一の形態についての認識が速やかに広まったと推察でき、その結果、原告製品一の形態は、わが国においても、昭和四八年(一九七三年)ころには、原告の周知な商品表示となった旨主張する(請求原因3(一)(2)ア)。

しかしながら、不正競争防止法二条一項一号にいう「周知性」とは、わが国において広く認識されていることをいい、海外でのみ周知の商品等表示は、それがわが国において周知になった場合でなければ直ちにはこれに当たらないものと解すべきであるところ、原告が主張する「国際著名」が、わが国を含まない、せいぜいアメリカ合衆国やイギリスにおける著名性を指すものであることは明らかであり、また、このような海外でのみ著名な商品等表示が直ちにわが国において周知性を獲得すると解することはできない。そして、海外の商品等についての情報が瞬時にかつ大量に流通する現在と異なり、原告が主張する昭和四八年(一九七三年)当時、原告製品一の形態に関する情報が現にアメリカ合衆国などからわが国に流入し、取引者・需要者の間で広く知られるに至ったことを具体的に認定しうるに足りる証拠はなく、原告の前記の主張は、具体的な裏付けを欠くというべきである。

また、仮に、そのような情報の流入を通じて、原告製品一の形態がわが国の一部の演奏家や楽器メーカー等に知られるに至ったことがあったとしても、前記認定のように、少なくとも昭和六一年(一九八六年)以前においては、原告製品一の販売数量が不明であり、かつ頻繁ないし大々的に宣伝広告が行われた事実も認められないのに対して、昭和四五年(一九七〇年)前後ころから、原告製品一とほぼ同形態のエレクトリックギターが多数の楽器メーカーから販売されるようになり、以後もそのような状況が、原告から特段の対応措置もとられないまま長期間継続し、しかも原告自身が平成五年(一九九三年)まではこれを放置したという事情を考慮すれば、少なくも昭和六一年(一九八六年)以前の時点において、原告製品一の形態が商品表示としての機能を獲得するに至らず、又は商品表示としての機能を失ったものというべきである。

右認定に反する甲第二〇号証の一ないし二〇、甲第三五号証の一ないし三〇の記載部分はたやすく措置できない。

(2) また、原告は、わが国において一九七〇年代前半ころから多数のレスポール・タイプが販売されてきた状況は、むしろ、当時のわが国において、原告製品一がきわめて著名であり、その形態が顕著に出所表示機能を有していたことを示すものである旨主張する(請求原因3(一)(3))。

しかしながら、右のような状況の存在自体が、直ちに、需要者全体のなかで、原告専門品一の形態が周知になっていたことを認定し得る根拠にはならないし、原告がこれを放置して商品表示を獲得ないし維持する努力を怠った結果、商品表示を認めるに足りないことは前記認定のとおりである。

(3) 以上のとおり、原告の前記各主張は理由がなく、原告製品一の形態が周知な商品表示としての機能を獲得していると認めるに足りない。

3  原告製品一について

(一) 証拠によれば、以下の事実が認められる。

(1) 原告製品二は、一九五八年にアメリカ合衆国において発売されたが、僅かな本数が出荷されたのみで製造が中止された後、一九六〇年後半ころに製造が再開され、以後製造販売が継続されていることは前記認定のとおりであるところ、一九七一年から一九七九年までの間に原告が製造、出荷した原告製品二の機種は六機種あり、それぞれの各年毎の出荷数は、「Flying V NM」という機種の一九七五年における出荷数が一四七二本と比較的多いほかは、いずれも数十本から二〇〇本程度であり、他の原告製品と比較しても少ない出荷数である(甲第八号証)。

(2) 原告製品二は、遅くとも昭和五六年(一九八一年)ころにはわが国で輸入、販売されているが、当時の販売価格は、三二万円ないし四七万円であり、その輸入・販売の数量については、株式会社山野楽器が原告の総代理店となった昭和六二年(一九八七年)が二三本、平成二年(一九九〇年)が後述の原告製品三とあわせて三六〇本、平成三年(一九九一年)が後述の原告製品三とあわせて二八八本、平成四年(一九九二年)が二五七本、平成五年(一九九三年)が三三七本であり、その他の年分についてはこれを明らかにする証拠がない(甲第一〇号証、乙第一一号証)。

(3) また、原告製品二のわが国における宣伝広告については昭和五七年(一九八二年)二月一日発行の楽器のカタログ「THE楽器」において、多数のブランドのエレクトリックギターの一つとして原告製品二の二機種が写真付きで紹介され(乙第一一号走)、平成二年(一九九〇年)六月一八日発行の楽器のカタログ「THE楽器」において、多数のブランドのエレクトリックギターの一つとして原告製品二の一機種が「ORVILE by GIBSON」のブランド名により写真付きで紹介され(乙第一二号証)、平成二年(一九九〇年)九月号の音楽雑誌「プレイヤー」の(ギブソン日本総代理店山野楽器」名義の広告中に、原告製品一を中心とした多数の原告製品の写真に混じって原告製品二の写真が、その形態の一部が他の原告製品の陰に隠れるような形で掲載され(甲第一四号証の九の2)、平成四年(一九九二年)の「ギブソン日本総代理店山野楽器」名義の原告製品のカタログ中の多数の原告製品の一つとして原告製品二の写真が掲載され(甲第一号証)、平成四年(一九九二年)三月一〇日発行の原告やその製品の歴史等を紹介する書籍「ザ・ギブソン」のなかで、多数の原告製品の一つとして原告製品二がいくつかの写真付きで紹介されている(甲第二号証)。

(4) 他方、以下のとおり、わが国においては、一九七〇年代前半ころから、ロックミュージックブームに乗って原告製品二と正面輪郭形状において明らかにほぼ同一もしくは類似の形態を有すると認められるエレクトリックギター(以下「フライングブイ・タイプ」という。)が、国内の楽器メーカーから、自社のブランド名により販売されるようになり、その後も複数の楽器メーカーによってフライングブイ・タイプの販売が継続されてきた。

ア 昭和四九年(一九七四年)一月号の音楽業界専門誌「ミュージックトレード」の株式会社神田商会及び荒井貿易株式会社の広告において、グレコのフライング・タイプ二機種(価格は機種により、五万円と九万円)が、FVシリーズとして、それぞれ写真付きで掲載され、さらに、右グレコ製品の昭和五二年(一九七七年)のカタログにおいて、フライングブイ・クイプ三機種(価格は機種により、六万円から九万円)が、FVシリーズとして、それぞれ写真付きで掲載されている(乙第五号証、乙第八号証)。

イ 昭和五七年(一九八二年)二月一日発行の楽器のカタログ「THE楽器」において、昭和五六年(一九八一年)一一月一日当時国内で販売されていた各ブランドのエレクトリックギターが写真付きで紹介されているところ、その中では、以下のとおり、フライングブイ・タイプが含まれている(乙第一一号証)。

ブランド名製品名ないし型番(価格)

① 「バーニー」

「RFV―75」(価格は、七万五〇〇〇円)

② 「グレコ」

「FV―600」など三機種(価格は機種により、六万円ないし八万円五〇〇〇円)

ウ 昭和六〇年(一九八五年)一一月一五日発行の書籍「History of Electric Guitars」において、わが国のエレクトリックギターの歴史が、それまで国内で販売されてきた各ブランドのエレクトリックギターを写真付きで紹介しながら記述されているところ、その中には、以下のとおり、フライングブイ・タイプが含まれている(乙第三号証)。

ブランド名 製品名ないし型番

① 「アリア・プロⅡ」

「CUSTOM X―FR」

② 「バーニー」

「RFV―75」

③ 「グレコ」

「FV―500」など二機種

④ 「イバニーズ」

「ヴィンテイジ・フライングVモデル」

⑤ 「トーカイ」

「V―65」

⑥ 「トムソン」

「Ⅱ・FV―55M」

⑦ 「ヤマハ」

「VX―1」など二機種

エ 平成二年(一九九〇年)六月一八日発行の楽器のカタログ「THE楽器」において、平成二年(一九九〇年)一月一日当時国内で販売されていた各ブランドのエレクトリックギターが写真付きで紹介されているところ、その中には、以下のとおり、フライング・モデルが含まれている(乙第一二号証)。

ブランド名製品名ないし型番(価格)

① 「BILL LAWRENCE」

「BVIR―60」(価格は、六万円)

② 「BURNY」

「RFV―75 74」(価格は、七万五〇〇〇円)

③ 「EDP=NAVIGATOR」

「MSV―220」(価格は二二万円)

(5)ア また、右のように、わが国において多数のフライングブイ・タイプが販売されてきた状況に対して、原告は、平成五年(一九九三年)二月に至って、被告を含む五社の楽器メーカーに対し、各社のフライングブイ・タイプの販売等の停止を求める警告書を送付する措置をとったが、それ以前には、これらの楽器メーカーに対して、特段の対応措置をとっていない(甲第二三号証の一、二、甲第二四号証の一、二、甲第二五号証の一ないし四、甲第二六号証の一、二、甲第二七号証の一、二、弁論の全趣旨)。

イ 原告の総代理店である株式会社山野楽器は、平成二年(一九九〇年)ころから、「オービル」ブランドで原告製品二と同じ形態の製品を一〇万三〇〇〇円ないし一〇万八〇〇〇円で販売し、また、原告は、株式会社山野楽器を通じ、平成五年(一九九三年)ころからは、「エピフォン」ブランドで原告製品二と同じ形態の製品を三万六〇〇〇円で販売している(甲第一五号証の一、二、甲第二五号証の一ないし四、甲第二六号証の一、二、甲第二七号証の一、二、弁論の全趣旨)。

(二)  右認定の事実によれば、原告製品二は、アメリカ合衆国での一九五八年の発売開始当時に僅かな本数を出荷したのみで製造が中止された製品であり、その後、一九六〇年代後半ころに製造を再開した後も、他の原告製品に比して、格別大量に製造、販売がなされた製品とはいい難いところ、わが国においては、昭和五六年(一九八一年)ころには輸入、販売されていた事実が認められるものの、株式会社山野楽器が原告の総代理店となった昭和六二年(一九八七年)より前の時点における輸入販売数量は不明であり、また、昭和六二年(一九八七年)以降においても、年間数十本から原告製品三と合せても三百数十本程度の数量しか販売されていない製品であり、エレクトリックギター全体の販売量に比して少量といわざるを得ないし、しかも、宣伝広告に関しても、多数の同種商品に混じってカタログに掲載されたり、いくつかの雑誌広告に掲載されたことが認められる程度で、頻繁ないし大々的な宣伝広告が行われたとは認められないことなどを総合考慮すると、たとえ原告製品二の形態が発売当時ユニークなものであったこと(当事者間に争いがない。)を考慮するとしても、その形態が、わが国において、原告の商品表示として、取引者・需要者の間で周知になったことを認めることはできない。

また、前記認定のとおり、わが国においては、原告製品二が、大量に販売されたり、頻繁ないし大々的に宣伝広告されたりしていない状況下において、他方では、原告製品二の形態とほぼ同一ないし類似の形態のエレクトリックギターが、国内の楽器メーカーによって、一九七〇年代前半ころから、原告製品二に比して著しく低い価格によって販売されるようになり、一九八〇年代半ばころまでは、被告を含む五社以上の楽器メーカーが同様の製品をやはり原告製品二に比して著しく低い価格で販売するに至っているのであるから、少なくともこのころまでには、原告製品二の形態は、特定の商品の出所を表示するものとしてではなく、エレクトリックギターの形態における一つの標準型を示すものとして、需要者の間で認識されるに至っていたというべきであり、したがって、この意味においても、原告製品二の形態が原告の周知な商品表示としての機能を獲得しているものと認めることはできない。

(三)(1)  なお、原告は、原告製品二の形態は、国際的に著名となっているところ、わが国の取引者・需要者においても様々な情報ルートを通して、国際著名の原告製品二の形態についての認識が速やかに広まったと推察できる旨主張する(請求原因3(二)(2)ア)。

原告製品二の形態に関する情報が現にアメリカ合衆国などからわが国に流入したことを認定しうる証拠としては、前記(一)(3)で挙げたカタログやいくつかの雑誌広告の記載しか認められず、前記認定のとおり、この程度では、原告製品二の形態が取引者・需要者の間で周知になったことを認めるに足りないというべきであるから、原告の前記主張は、具体的な裏付けを欠くというべきである。なお、右認定に反する甲第三三号証の一ないし一七の記載はたやすく措信できない。

また、前記認定のように、原告製品二の販売数量が不明ないし少量であり、頻繁ないし大々的に宣伝広告が行われた事実も認められない状況のもとで、一九七〇年代ころから、原告製品二の形態とほぼ同一ないし類似の形態のエレクトリックギターが国内の楽器メーカーから販売されるようになり、以後一九八〇年代半ばころまでに相当数の楽器メーカーが同様の専門品を販売するに至っているという事情を考慮すれば、その結果として、原告製品二の形態は商品表示としての機能を獲得できず、又はこれが失われるに至っているものというべきである。

(2) また、原告は、わが国において一九七〇年代から多数のフライングブイ・タイプが販売されてきた状況は、むしろ、原告製品二の商品形態が、当時既にわが国において顕著な商品表示性を獲得し、かつ周知であったことを物語っているものである旨主張する(請求原因3(二)(3))。

しかしながら、原告の右主張が理由がないことは、前記原告製品についての判断(前記2(三)(2))と同様である。

(3) 以上のとおり、原告の前記各主張は理由がなく、原告製品二の形態が周知な商品表示としての機能を獲得していると認めるに足りない。

4  原告製品三について

(一) 証拠によれば、以下の事実が認められる。

(1) 原告製品三は、一九五八年にアメリカ合衆国において発売されたが、僅かな本数が出荷されたのみで製造が中止された後、一九七五年ころに製造が再開され、以後製造販売が継続されていることは前記認定のとおりであるところ、一九七五年から一九七九年までの間に原告が製造、出荷した原告製品三の機種は四機種あり、それぞれの各年毎の出荷数は、「Explorer」という機種の一九七六年における出荷数が一八三五本、一九七七年における出荷数が七六〇本、「Explorer Ⅲ」という機種の一九七九年における出荷数が五八六本と比較的多いほかは、数十本から二〇〇本程度であり、他の原告製品と比較しても少ない出荷数である(甲第八号証)。

(2) 原告製品三は、遅くとも昭和五一年(一九七六年)ころにはわが国で輸入・販売されているが、「限定生産」と銘打ってカタログに記載され、その販売価格は三〇万円を超えるものであり、その輸入・販売の数量については、株式会社山野楽器が原告の総代理店となった昭和六二年(一九八七年)が二二本、平成二年(一九九〇年)が前述の原告製品二と合わせて三六〇本、平成三年(一九九一年)が前述の原告製品二とあわせて二八八本、平成四年(一九九二年)が八四本、平成五年(一九九三年)が五五本件であり、その他の年分についてはこれを明らかにする証拠がない(甲第一〇号証、乙第一四号証)。

(3) また、原告製品三のわが国における宣伝広告については、昭和五一年(一九七六年)の「代理店日本楽器製造株式会社」名義の原告製品のカタログ中に多数の原告製品の一つとして原告製品三の一機種の写真が掲載され(乙第一四号証)、昭和五七年(一九八二年)二月一日発行の楽器のカタログ「THE楽器」において、多数のブランドのエレクトリックギターの一つとして原告製品三の二機種が写真付きで紹介され(乙第一一号証)、平成二年(一九九〇年)六月一八日発行の楽器のカタログ「THE楽器」において、多数のブランドのエレクトリックギターの一つとして原告製品三の一機種が「ORVILLE by GIBSON」のブランド名により写真付きで紹介され(乙第一二号証)、平成二年(一九九〇年)九月号の音楽雑誌「プレイヤー」の「ギブソン日本総代理店山野楽器」名義の広告中に、原告製品一を中心とした多数の原告製品の写真に混じって原告製品三の写真が、その形態の一部が他の原告製品の陰に隠れるような形で掲載され(甲第一四号証の九の2)、平成三年(一九九一年)三月号の音楽雑誌「ギター・マガジン」の「ギブソン日本総代理店山野楽器」名義の広告中に、他の原告製品とともに原告製品三の写真が掲載され(甲第一三号証の五の2)、平成四年(一九九二年)四月号の「ギター・マガジン」の「ギブソン日本総代理店山野楽器」名義の広告中に、他の原告製品とともに原告製品三の写真が掲載され(甲第一三号証の六の2)、平成四年(一九九二年)の「ギブソン日本総代理店山野楽器」名義の原告製品のカタログ中に多数の原告製品の一つとして原告製品三の写真が掲載され(甲第一号証)、平成四年(一九九二年)三月一〇日発行の原告やその製品の歴史等を紹介する書籍「ザ・ギブソン」のなかで、多数の原告製品の一つとして原告製品三がいくつかの写真付きで紹介されている(甲第二号証)。

(4) 他方、以下のとおり、わが国においては、一九七〇年代後半ころから、ロックミュージックブームに乗って原告製品三と正面輪郭形状において明らかにほぼ同一ないし類似の形態を有すると認められるエレクトリックギター(以下「エクスプローラー・タイプ」という。)が、国内の楽器メーカーから、自社のブランド名により販売されるようになり、その後も複数の楽器メーカーによってエクスプローラー・タイプの販売が継続されてきた。

ア 昭和五一年(一九七六年)六月三〇日発行の楽器のカタログ「THE楽器」において、昭和五一年(一九七六年)四月一五日当時国内で販売されていた各ブランドのエレクトリックギターが写真付きで紹介されているところ、その中には、グレコブランドの「EX―800」(価格は、八万円)というエクスプローラー・タイプが含まれている(乙第一〇号証)。

イ 昭和五七年(一九八二年)二月一日発行の楽器のカタログ「THE楽器」において、昭和五六年(一九八一年)一一月一日当時国内で販売されていた各ブランドのエレクトリックギターが写真付きで紹介されているところ、その中には、以下のとおり、エクスプローラー・タイプが含まれている(乙第一一号証)。

ブランド名 製品ないし型番(価格)

① 「バーニー」

「REX―80」(価格は、八万円)

② 「グレコ」

「EX―800」など二機種(価格は、いずれも八万円)

ウ 昭和六〇年(一九八五年)一一月一五日発行の書籍「History of Electric Guitars」において、わが国のエレクトリックギターの歴史が、それまで国内で販売されてきた各ブランドのエレクトリックギターを写真付きで紹介しながら記述されているところ、その中には、以下のとおり、エクスプローラー・タイプが含まれている(乙第三号証)。

ブランド名 製品名ないし型番

① 「フェルナンデス」

「BX―70」

② 「グレコ」

「EX―800」

③ 「H.S.アンダーソン」

「HS―A3 カスタムギター・オールドV」

④ 「イバニーズ」

不明

⑤ 「ヤマハ」

「EX―2」など二機種

エ 平成二年(一九九〇年)六月一八日発行の楽器のカタログ「THE楽器」において、平成二年(一九九〇年)一月一日当時国内で販売されていた各ブランドのエレクトリックギターが写真付きで紹介されているところ、その中には、以下のとおり、エクスプローラー・タイプが含まれている(乙第一二号証)。

ブランド名製品名ないし型番(価格)

① 「BURNY」

「REX―80 76」(価格は、八万円)

② 「EDWARDS」

「EEX―80」(価格は、八万円)

③ 「ESP=NAVIGATOR」

「MX―220」(価格は、二二万円)

(5)ア また、右のように、わが国において多数のエクスプローラー・タイプが販売されてきた状況に対して、原告は、平成五年(一九九三年)二月に至って、被告を含む五社の楽器メーカーに対し、各社のエクスプローラー・タイプの販売等の停止を求める警告書を送付する措置をとったが、それ以前には、これらの楽器メーカーに対して、特段の対応措置をとっていない(甲第二三号証の一、二、甲第二四号証の一、二、甲第二五号証の一ないし四、甲第二六号証の一、二、甲第二七号証の一、二、弁論の全趣旨)。

イ 原告の総代理店である株式会社山野楽器は、平成二年(一九九〇年)ころから、「オービル」ブランドで原告製品三と同じ形態の製品を一〇万三〇〇〇円ないし一〇万八〇〇〇円で販売している(弁論の全趣旨)。

(二)  右認定の事実によれば、原告製品三は、アメリカ合衆国での一九五八年の発売開始当時に僅かな本数を出荷したのみで製造が中止された製品であり、その後、一九七五年ころに製造を再開した後も、他の原告製品に比して、格別大量に製造、販売がなされた製品とはいい難いところ、わが国においては、昭和五一年(一九七六年)ころには輸入、販売されていた事実が認められるものの、株式会社山野楽器が原告の総代理店となった昭和六二年(一九八七年)より前の時点における輸入販売数量は不明であり、また、昭和六二年(一九八七年)以降においても、年間数十本から原告製品二と合せても三百数十本程度の数量しか販売されていない製品であり、エレクトリックギター全体の販売量に比して少量といわざるを得ないし、しかも、宣伝広告に関しても、多数の同種商品の一つとしてカタログに掲載されたり、いくつかの雑誌広告に掲載されたことが認められる程度で、頻繁ないし大々的な宣伝広告が行われたとは認められないことなどを総合考慮すると、たとえ原告製品三の形態が発売当時ユニークなものであったこと(当事者間に争いがない。)を考慮するとしても、その形態が、わが国において、原告の商品表示として、取引者・需要者の間で周知になったことを認めることはできない。

また、前記認定のとおり、わが国においては、原告製品三が、大量に販売されたり、頻繁ないし大々的に宣伝広告されたりしていない状況のもとで、一九七〇年代後半ころから原告製品三の形態とほぼ同一ないし類似の形態のエレクトリックギターが国内の楽器メーカーによって、原告製品三に比して著しく低い価格によって販売されるようになり、一九八〇年代半ばころまでには、被告を含む五社以上の楽器メーカーが同様の製品をやはり原告製品三に比して著しく低い価格で販売するに至っているのであるから、少なくともこのころまでには、原告製品三の形態は、特定の商品の出所を表示するものとしてではなく、エレクトリックギターの形態における一つの標準型を示すものとして、需要者の間で認識されるに至っていたというべきであり、したがって、この意味においても、原告製品三の形態が原告の周知な商品表示としての機能を獲得しているものと認めることはできない。

(三)(1)  なお、原告は、原告製品三の形態は、国際的に著名となっているところ、わが国の取引者・需要者においても様々な情報ルートを通して、国際著名の原告製品三の形態についての認識が速やかに広まったと推察できる旨主張する(請求原因3(三)(2)ア)。

原告の右主張が理由がないことは、前記原告製品二についての判断(前記3(三)(1))と同様である。

(2) また、原告は、わが国において一九七〇年代から多数のエクスプローラー・タイプが販売されてきた状況について、むしろ、原告製品三の商品形態が、当時既にわが国において顕著な商品表示性を獲得し、かつ周知であったことを物語っているものである旨主張する(請求原因3(三)(3))。

原告の右主張が理由がないことは、前記原告製品一についての判断(前記2(三)(2))と同様である。

(3) 以上のとおり、原告の前記各主張は理由がなく、原告製品三の形態が周知な商品表示としての機能を獲得していると認めるに足りない。

5  以上によれば、原告の損害賠償請求の対象期間である平成五年(一九九三年)九月三日から平成八年(一九九六年)九月二日までの間及び原告の差止め・廃棄請求の基準時となる本件訴訟の口頭弁論終結時である平成九年(一九九七年)一一月一七日の時点において、原告製品一ないし三の形態が原告の周知な商品表示としての機能を有しているとは認められない。

四  したがって、その余の点について判断するまでもなく、不正競争防止法二条一項一号に基づく差止め・廃棄請求及び損害賠償請求は、いずれも理由がない。

第二  不法行為に基づく請求について

一 民法七〇九条にいう不法行為の成立要件としての権利侵害は、必ずしも厳密な法律上の具体的権利の侵害であることを要せず、法的保護に値する利益の侵害をもって足りるというべきであるから、被告製品一ないし三を製造販売した被告の行為について、不正競争防止法上の不正競争に該当するとは認められないとしても、それが取引界における公正かつ自由な競争として許されてる範囲を著しく逸脱し、原告の法的保護に値する営業上の利益を侵害する場合には、不法行為を構成することもありうると解すべきである。

二 そこで、本件につき検討するに、甲第二号証によれば、原告製品一ないし三の形態は、原告が最初に考案し、製品化した形態であることが認められるものの、前記第一認定のとおり、わが国においては、被告を含む多数の楽器メーカーが原告製品一ないし三とほぼ同一ないし類似の形態を有する製品をそれぞれ自社のブランドによって製造販売し、これに対して原告から何らの法的措置も講じられないまま、かかる状況が相当期間継続した結果として、原告製品一ないし三の形態は、少なくとも一九八〇年代半ばころまでには、原告製品に独自の形態としてではなく、エレクトリックギターにおける標準型の一つとして需要者の間で認識されるようになったという事情が認められることからすれば、少なくとも一九八〇年代半ばころ以降においては、原告製品一ないし三の有する形態が原告独自の創作的形態であるとはいえないことになる。したがって、仮に、被告製品一ないし三が原告製品一ないし三の形態を模倣した製品であるとしても、取引界における公正かつ自由な競争として許されている範囲を著しく逸脱したものとはいえないから、被告の行為は違法性を欠くものといわざるを得ない。また、弁論の全趣旨によれば、被告は、昭和五〇年(一九七五年)にレスポール・タイプを、昭和五五年(一九八〇年)にフライングブイ・タイプ及びエクスプローラー・タイプを製造販売するようになったところ、原告は、他の楽器メーカーに対するのと同様、平成五年(一九九三年)に至るまでこれを放置し、原告が被告に対し警告をし、本件訴訟を提起したのが平成五年(一九九三年)であり、不法行為に基づく損害賠償請求を追加したのが平成八年(一九九六年)九月に至ってからであることが認められ、このような状況のもとでは、被告の行為が、原告の原告製品一ないし三に関する法的保護に値する営業上の利益を侵害するものと評価することはできないというべきである。

三  以上の次第で、原告が、本件において、不法行為に当たるとしてそれによって生じた損害の賠償を請求している平成五年(一九九三年)九月三日から平成八年(一九九六年)九月二日までの被告による被告製品一ないし三の製造販売行為は、権利侵害の要件を欠き、その余の点につき判断するまでもなく、不法行為を構成しないというべきであるから、不法行為に基づく原告の損害賠償請求は理由がない。

第三  結論

よって、原告の本訴請求は、いずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官髙部眞規子 裁判官榎戸道也 裁判官大西勝滋)

別紙製品目録<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例