東京地方裁判所 平成5年(ワ)20005号 判決 1998年7月24日
東京都墨田区東向島二丁目四九番四号
第二〇〇〇五号事件原告
株式会社板垣製作所
右代表者代表取締役
板垣道勝
東京都墨田区東向島六丁目七番三号
第九八二号事件原告
有限会社イタガキ
右代表者代表取締役
板垣道勝
原告ら訴訟代理人弁護士
後藤栄一
東京都台東区寿三丁目一五番六号
第二〇〇〇五号事件被告兼第九八二号事件被告
有限会社イシモリ・コーポレーション
右代表者代表取締役
石森弘
東京都台東区寿三丁目一五番六号
第九八二号事件被告
石森弘
被告ら訴訟代理人弁護士
佐藤泉
主文
一 被告らは、第九八二号事件原告有限会社イタガキに対し、各自一一五万五三二七円及びこれに対する平成九年二月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用は、第二〇〇〇五号事件被告兼第九八二号事件被告有限会社イシモリ・コーポレーションに生じた費用の二分の一及び第二〇〇〇五号事件原告株式会社板垣製作所に生じた費用を第二〇〇〇五号事件原告株式会社板垣製作所の負担とし、第九八二号事件原告有限会社イタガキに生じた費用の一〇分の九、第二〇〇〇五号事件被告兼第九八二号事件被告有限会社イシモリ・コーポレーションに生じた費用の二〇分の九及び第九八二号事件被告石森弘に生じた費用の一〇分の九を第九八二号事件原告有限会社イタガキの負担とし、第九八二号事件原告有限会社イタガキに生じた費用の二〇分の一及び第二〇〇〇五号事件被告兼第九八二号事件被告有限会社イシモリ・コーポレーションに生じたその余の費用を第二〇〇〇五号事件被告兼第九八二号事件被告有限会社イシモリ・コーポレーションの負担とし、第九八二号事件原告有限会社イタガキに生じたその余の費用及び第九八二号事件被告石森弘に生じたその余の費用を第九八二号事件被告石森弘の負担とする。
四 この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。
事実
第一 請求
(第二〇〇〇五号事件)
被告有限会社イシモリ・コーポレーションは、原告株式会社板垣製作所に対し、五〇〇〇万円及びこれに対する平成五年一〇月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
(第九八二号事件)
被告らは、原告有限会社イタガキに対し、各自三四〇五万円及びこれに対する平成九年二月二二日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。
第二 当事者の主張
(第二〇〇〇五号事件)
一 請求原因
1(一) 第九八二号事件原告有限会社イタガキ(以下「原告有限会社イタガキ」という。)は、テイーデイーケイ株式会社と次の実用新案権(以下「本件実用新案権」といい、その考案を「本件考案」という。)の登録出願をし、次のとおり出願公告を経て、登録された。
実用新案登録番号 第二〇一一七八九号
考案の名称 ガスライター
出願日 昭和六〇年六月六日
出願公告日 平成五年五月一八日
登録日 平成六年三月二三日
実用新案登録請求の範囲 本判決添付の実用新案公報の該当欄記載のとおり
(二) 原告有限会社イタガキは、平成元年四月末日、第二〇〇〇五号事件原告株式会社板垣製作所(以下「原告株式会社板垣製作所」という。)に対し、営業を譲渡したが、その際、本件実用新案権に係る実用新案登録を受ける権利も譲渡した。これは、一般承継であるから、届出をしなくとも直ちに効力が生じる。
仮に、右譲渡について直ちに効力が生じないとしても、原告有限会社イタガキは、右営業譲渡の際に、原告株式会社板垣製作所に対し、本件実用新案権に基づく損害賠償請求権を譲渡した。
(三) テイーデイーケイ株式会社は、平成七年二月一六日、本件実用新案権の共有持分を放棄し、平成八年八月二六日、同社の共有持分を原告有限会社イタガキに移転する旨の登録がされた。したがって、テイーデイーケイ株式会社は、遡って無権利者となり、原告株式会社板垣製作所(又は原告有限会社イタガキ)が単独の権利者であったことになる。
(四) 本件実用新案権について、原告有限会社イタガキから原告株式会社板垣製作所に対して、平成八年八月二六日までに譲渡され、同日、移転登録がされたから、原告株式会社板垣製作所は、遅くとも同日からは、本件実用新案権について単独の権利者である。
2 本件考案の構成要件を分説すると、次のとおりである。
A ガスボンベ又はタンクと連結されるガスノズルを備えている。
B このノズル本体の径内に形成されたガス流路の上流側から、燃料ガスをガス流路の下流側に流動させる小さな開孔のスロート部を、ノズル本体の径内に設けている。
C そのスロート部近傍でノズル本体の側壁部に空気の取込み穴を設けている。
D この取込み穴から吸引する空気とスロート部から流動する燃料ガスとを混合し、当該混合ガスを燃料ガスとして流出するガスライターである。
E ステン、真鍮等の金属材料から一〇〇〇~三〇〇〇メッシュに形成された織布又は不織布のフィルター膜を、燃料ガス中に混在する不純物の濾過用兼燃料ガスの流量調節用として、スロート部の近傍でガス流路の上流側に張設装備したことを特徴とするガスライターである。
3 第二〇〇〇五号事件被告兼第九八二号事件被告有限会社イシモリ・コーポレーション(以下「被告有限会社イシモリ・コーポレーション」という。)は、業として、別紙物件目録記載の物件(以下「被告装置」という。)を組み込んだライターを販売した。
4 被告装置の構成を分説すると、次のとおりである(番号は、別紙物件目録の図面に記載のものを指す。)。
a ガスタンクと連結するガスノズル<1>を備えている。
b 燃料ガスが、ノズル本体1の径内に形成されたガス流路の上流側1aから、小さな開孔2aを含むスロート部2を経由して、ガス流路の下流側1bに流動する構造である。
c そのスロート部2近傍でノズル本体1の側壁部に空気の取込み穴<3>を設けている。
d この取込み穴<3>から吸引する空気とスロート部2から流動する燃料ガスとを混合し当該混合ガスを燃料ガスとして流出するガスライターである。
e ステンレスの金属材料から一五〇〇メッシュに形成された織布のフィルター膜7をスロート部2のガスの上流側に張設装備したことを特徴とするガスライターである。
5 被告装置の構成a、b、c、d、eは、本件考案の構成要件A、B、C、D、Eをそれぞれ充足する。
6(一) 原告株式会社板垣製作所は、被告有限会社イシモリ・コーポレーションに対して本件実用新案権を実施許諾するとすれば、五〇〇〇万円未満では許諾していなかった。したがって、原告株式会社板垣製作所の逸失利益は五〇〇〇万円である。
(二)(1) 被告装置を組み込んだライターの商品名は、ハーレーダビッドソン、VWMS、ギアである。
(2) 被告有限会社イシモリ・コーポレーションは、平成八年八月二六日から平成九年三月七日までに、ハーレーダビッドソン、VWMS反びギアを一万六〇〇〇個販売し、その小売単価は三五〇〇円を下らない。
(3) 本件考案の通常実施料率は、小売単価の三パーセントである。
(4) したがって、原告株式会社板垣製作所は、被告有限会社イシモリ・コーポレーションに対して、同社が平成八年八月二六日以降に販売した分についてしか損害賠償を請求することができないとしても、その場合の通常実施料相当の損害額は、右(2)の単価に販売個数を乗じた金額の三パーセントに当たる一六八万円である。
(5) なお、原告らは、被告装置を組み込んだライターの単価、販売個数が右(2)のとおりであることを立証するため、本件について文書提出命令の申立て(平成九年(モ)第一二二二三号)を行い、当裁判所は、平成一〇年三月二日、文書提出命令を発したが、被告有限会社イシモリ・コーポレーションは、右文書提出命令に従わず、堤出を命じられた文書をほとんど提出しないから、文書提出命令違反の効果により、原告らの主張事実が真実と認められるべきである。
7 よって、原告株式会社板垣製作所は、被告有限会社イシモリ・コーポレーションに対し、不法行為による損害賠償として、五〇〇〇万円及びこれに対する平成五年一〇月一五日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否及び被告有限会社イシモリ・コーポレーションの主張
1 請求原因1について
(一) 同1(一)の事実は認める。
本件考案は単なる公知技術の寄せ集めに過ぎないから、本件実用新案権は進歩性がなく無効であり、保護されるべき実用新案登録請求の範囲がない。
(二) 同1(二)の事実は否認し、主張は争う。
(三) 同1(三)のうち、平成八年八月二六日、テイーデイーケイ株式会社の共有持分を原告有限会社イタガキに移転する旨の登録がされたことは認めるが、その余の事実は否認し、主張は争う。
(四) 同1(四)のうち、本件実用新案権について、原告有限会社イタガキから原告株式会社板垣製作所に対して、平成八年八月二六日に移転登録がされたこと、原告株式会社板垣製作所は、同日から、本件実用新案権について単独の権利者であることは認める。
2 請求原因2ないし5の事実は認める。
3 請求原因6について
(一) 同6(一)の事実は否認する。
(二)(1) 同6(二)(1)の事実は認める。
(2) 同6(二)(2)、(3)の事実は否認する。
(3) 同6(二)(4)、(5)の主張は争う。
(第九八二号事件)
一 請求原因
1(一) 原告有限会社イタガキは、テイーデイーケイ株式会社と本件実用新案権を共有していた。
(二) テイーデイーケイ株式会社は、平成七年二月一六日、本件実用新案権の共有持分を放棄し、平成八年八月二六日、同社の共有持分を原告有限会社イタガキに移転する旨の登録がされた。したがって、テイーデイーケイ株式会社は、遡って無権利者となり、原告有限会社イタガキが当初から単独の権利者であったことになる。
(三) 原告有限会社イタガキかち原告株式会社板垣製作所に対して、本件実用新案権について、平成八年八月二六日までに譲渡され、同日、移転登録がされた。
2(一) 本件考案の構成要件、被告有限会社イシモリ・コーポレーションが業として被告装置を組み込んだライターを販売していること、被告装置の構成、被告装置の構成が本件考案の構成要件を充足することは、第二〇〇〇五号事件の請求原因2ないし5のとおりである。
(二) 第九八二号事件被告石森弘は、被告有限会社イシモリ・コーポレーションの代表取締役として、被告装置を組み込んだライターの販売を行っている。
3(一)(1) 被告装置を組み込んだライターの商品名は、ハーレーダビッドソン、VWMS、ギアである。
(2) 被告らは、平成五年五月一八日(本件実用新案権の出願公告日)から平成八年八月二五日(本件実用新案権について原告有限会社イタガキから原告株式会社板垣製作所への移転登録がされた日の前日)までに、小売単価六五〇〇円のハーレーダビッドソンを一五万個、小売単価六〇〇〇円のVWMSを一万二〇〇〇個、小売単価五五〇〇円のギアを一万六〇〇〇個販売した。
(3) 本件考案の通常実施料率は、小売単価の三パーセントである。
(二) したがって、原告有限会社イタガキが被告らに請求し得る通常実施料相当の損害額は、右(一)(2)の単価に販売個数を乗じた金額の合計の三パーセントに当たる三四〇五万円である。
(三) なお、原告らは、被告装置を組み込んだライターの単価、販売個数が右(一)(2)のとおりであることを立証するため、本件について文書提出命令の申立て(平成九年(モ)第一二二二三号)を行い、当裁判所は、平成一〇年三月二日、文書提出命令を発したが、被告有限会社イシモリ・コーポレーションは、右文書提出命令に従わず、提出を命じられた文書をほとんど提出しないから、文書提出命令違反の効果により、原告らの主張事実が真実と認められるべきである。
4 よって、原告有限会社イタガキは、不法行為による損害賠償として、被告らに対し、三四〇五万円及びこれに対する平成九年二月二二日から支払済みまで年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否及び被告らの主張
1 請求原因1について
(一) 同1(一)の事実は認める。
本件考案は単なる公知技術の寄せ集めに過ぎないから、本件実用新案権は進歩性がなく無効であり、保護されるべき実用新案登録請求の範囲がない。
(二) 同1(二)のうち、平成八年八月二六日、テイーデイーケイ株式会社の共有持分を原告有限会社イタガキに移転する旨の登録がされたことは認めるが、その余の事実は否認し、主張は争う。
(三) 同1(三)の事実は認める。
2 請求原因2(一)、(二)の事実は認める。
3 請求原因3について
(一)(1) 同3(一)(1)の事実は認める。
(2) 同3(一)(2)の事実は否認する。
被告らが、平成六年一月二二日から平成九年三月七日までに販売した被告装置を組み込んだライターの、単価、個数は、ハーレーダビッドソンが、単価一七三〇円のものが一二六一個、単価一六二〇円のものが一万四四一二個であり、VWMSが、単価一五七〇円のものが二三八一個、単価一五五〇円のものが三〇一一個であり、単価一五二〇円のギアが三〇一一個である。
(3) 同3(一)(3)の事実は否認する。
(二) 同3(二)、(三)の主張は争う。
三 抗弁
1 原告有限会社イタガキは、平成六年一月二一日当時、被告装置が本件考案の技術的範囲に属すること、被告らが被告装置を組み込んだライターを販売していることを知っていた。
2 原告有限会社イタガキが被告らに対して本訴(第九八二号事件)を提起した平成九年一月二一日に、平成六年一月二一日から三年が経過した。
3 被告らは、原告有限会社イタガキに対し、平成一〇年一月二八日の本件口頭弁論期日において、右消滅時効を援用する旨の意思表示をした。
4 したがって、被告らが平成六年一月二一日以前に被告装置を組み込んだライターを販売したことによって生じた本件実用新案権の侵害による損害賠償請求権は、時効により消滅した。
四 抗弁に対する認否
抗弁1の事実は否認し、同4の主張は争う。
原告有限会社イタガキは、平成六年一月当時、被告らによる本件実用新案権の侵害によってどのくらいの損害を被っていたのか具体的に知ることができなかったので、消滅時効は進行しない。
理由
第一 第二〇〇〇五号事件について
一 請求原因1について
1 同(一)の事実は、当事者間に争いがない。
被告らは、本件考案は単なる公知技術の寄せ集めに過ぎないから、本件実用新案権は進歩性がなく無効であり、保護されるべき実用新案登録請求の範囲がない旨を主張し、それを裏付けるものとして、乙第一二号証、第一八ないし第二三号証を提出するが、これらの証拠の記載によって、直ちに本件実用新案権について進歩性がなく無効であると認めることはできず(甲第八号証)、他に本件実用新案権について無効であるとすべき事情を認めるに足りる証拠はないから、被告らの右主張は、その前提たる本件実用新案権が無効であるという点において既に失当であり、これを採用することはできない。
2 次に、同(二)について判断する。
甲第六号証の一、二によると、原告有限会社イタガキは、平成元年四月末日に、原告株式会社板垣製作所に対して、その営業を譲渡したことが認められる。そして、当時出願中であった本件考案についての実用新案登録を受ける権利が、右譲渡の対象に含まれていたとしても、実用新案登録を受ける権利の移転は、一般承継の場合を除く外、届出をしなければその効力を生ぜず(平成五年法律第二六号による改正前の実用新案法九条二項、特許法三四条四項)、営業譲渡は一般承継ではないから、右届出がされたことを認めるに足りる証拠がない本件において、右実用新案登録を受ける権利につき移転の効力が生じたとは認められない。
また、平成元年四月末日当時、本件実用新案権は出願公告もされていなかつたから、原告有限会社イタガキが本件実用新案権に基づく損害賠償請求権を有していたとは認められず、そのような未発生の損害賠償請求権のみが、右営業譲渡の際に、本件考案についての実用新案登録を受ける権利とは別に譲渡されたとも認められない。
3 同(三)の事実のうち、平成八年八月二六日、テイーデイーケイ株式会社の共有持分を原告有限会社イタガキに移転する旨の登録がされたことは当事者間に争いがない。そして、甲第七号証、乙第二四号証及び弁論の全趣旨によると、テイーデイーケイ株式会社は、本件実用新案権の共有持分を放棄し、それに基づいて右移転登録がされたことが認められる。
同(四)の事実のうち、原告有限会社イタガキから原告株式会社板垣製作所に対して、本件実用新案権について、平成八年八月二六日に移転登録がされたことは当事者間に争いがない。そして、乙第二四号証及び弁論の全趣旨によると、原告有限会社イタガキは、原告株式会社板垣製作所に対して、本件実用新案権を譲渡し、それに基づいて右移転登録がされたことが認められる。
4 ところで、実用新案権の移転は、登録しなければその効力を生じない(実用新案法二六条、特許法九八条一項一号)から、右1ないし3の事実を前提にすると、原告有限会社イタガキは、本件実用新案権の出願公告日である平成五年五月一八日から登録日である平成六年三月二三日までは本件実用新案権の仮保護の権利につき二分の一の共有持分を有しており、同日から平成八年八月二六日まで本件実用新案権につき二分の一の共有持分を有しており、原告株式会社板垣製作所は、同日以降、本件実用新案権を単独で有していたものと認められ、「テイーデイーケイ株式会社は遡って無権利者となるから、原告株式会社板垣製作所(又は原告有限会社イタガキ)が単独の権利者であった」旨の原告株式会社板垣製作所の主張は、採用することができない。
二 請求原因2ないし5の事実は、いずれも当事者間に争いがないが、被告らが、平成八年八月二六日以降、被告装置を組み込んだライターを販売したことを認めるに足りる証拠はないから、原告株式会社板垣製作所は、被告イシモリ・コーポレーションに対し、本件実用新案権侵害に基づく損害賠償を請求することはできない。
なお、文書提出命令違反の効果の点については、後記第二の三3のとおりである。
第二 第八九二号事件について
一 請求原因1について
1 同(一)の事実は、当事者間に争いがない。「本件実用新案権は進歩性がなく無効であり、保護されるべき特許請求の範囲がない」旨の被告らの主張が採用できないことについては、前記第一の一1で判示したとおりである。
2 同(二)、(三)については、前記第一の一3、4で判示したとおりである。
二 請求原因2(一)、(二)の事実は当事者間に争いがない。
三 請求原因3について
1 同(一)(1)の事実(被告装置を組み込んだライターの商品名は、ハーレーダビッドソン、VWMS、ギアであること)は、当事者間に争いがない。
2 同(一)(2)の事実について判断する。
(一) 甲第一〇号証の一ないし三、第一一号証の一ないし一五、第一四号証、乙第二六号証の一ないし二四、第二七号証の一ないし四、第二八号証の一ないし三、第二九号証の一、二及び弁論の全趣旨によると、被告らは、韓国からハーレーダビッドソン、VWMS及びギア等のライターを輸入し、株式会社ペンギンライターに販売していたこと、被告らが株式会社ペンギンライターに対して販売する際の単価は、ハーレーダビッドソンは一七三〇円又は一六二〇円、VWMSは一五七〇円又は一五五〇円、ギアは一五二〇円であったこと、以上の各事実が認められる。
原告らは、小売単価をもって通常実施料相当額算定の基礎とすべきであると主張するが、被告らは、自らが販売した際における商品の価格の額しか受領していないのであるから、通常実施料相当額の算定に当たっては、右認定の単価を基礎とすべきである。
(二)(1) 乙第二六号証の一ないし二四、第二七号証の一ないし四、第二八号証の一ないし三、第二九号証の一、二及び弁論の全趣旨によると、被告らが平成六年一月二一日以降に株式会社ペンギンライターに販売したハーレーダビッドソン、VWMS、ギアの各販売時期、単価、販売数量は、次のとおりであったことが認められる。
<1> ハーレーダビッドソン
平成六年二月一六日頃から同年七月一八日頃までの間に単価一七三〇円で一二六一個販売し、同年八月一七日頃から平成七年五月三〇日頃までの間に単価一六二〇円で一万四四一二個販売した。
<2> VWMS
平成六年六月二九日頃から同年九月二八日頃までの間に単価一五五〇円で三〇一一個販売し、同日頃から同年一〇月六日頃までの間に単価一五七〇円で二三八一個販売した。
<3> ギア
平成六年七月二八日頃から同年八月二四日頃までの間に単価一五二〇円で三〇一一個販売した。
(2) ところで、甲第一一号証の一ないし一五によると、被告らは、ハーレーダビッドソンを、平成五年三月二七日頃から平成六年一〇月二二日頃までの間に合計二万二〇〇〇個輸入したこと、VWMSを、平成六年六月二日頃及び同年七月二四日頃に合計六〇〇〇個輸入したこと、ギアを、平成六年七月二四日頃に三〇〇〇個輸入したこと、以上の各事実が認められる。
甲第一一号証の二、三及び弁論の全趣旨によると、ハーレーダビッドソン及びVWMSは、売れ行きが必ずしもよくなく、輸入したもののうち販売しなかったものが相当数あったこと、被告らは、ライターの完成品の他、半製品も輸入しており、輸入した半製品を加工してギアとして販売したものがあること、以上の各事実が認められ、これらの事実を考慮すると、右(1)認定の販売時期及び販売個数は、右認定の輸入時期及び輸入個数と矛盾するところはなく、むしろ、右認定の輸入時期及び輸入個数によっても、右(1)認定の販売個数は裏付けられるということができる。
(3) 原告有限会社イタガキは、被告らが、平成五年五月一八日から平成八年八月二五日までに、ハーレーダビッドソンを一五万個、VWMSを一万二〇〇〇個、ギアを一万六〇〇〇個販売したと主張し、原告ら代表者の報告書である甲第九号証には同旨の記述がある。しかし、右報告書は、前記(1)の販売個数の認定を覆すに足りず、他に、右認定を覆すに足りる証拠はない。
(三) 同(一)(3)の事実について判断する。
甲第一一号証の一ないし一五及び弁論の全趣旨によると、被告らが輸入したライターの単価は、ハーレーダビッドソンが九七五円、一二七五円、一一二五円、一〇二五円、七二五円又は八三一円であり、VWMSが一二二五円又は八二五円、ギアが一一二五円であること、右のうちには、完成品で輸入したものと半製品で輸入したものがあること、以上の各事実が認められる。これらの事実によると、輸入価格と販売価格の差は、ハーレーダビッドソンについては、少なくとも一個当たり三四五円(一六二〇円から一二七五円を差し引いた金額)、VWMSについては、少なくとも一個当たり三二五円(一五五〇円から一二二五円を差し引いた金額)、ギアについては、一個当たり三九五円(一五二〇円から一一二五円を差し引いた金額)であったものと認められるから、被告装置を組み込んだライターの販売における被告有限会社イシモリ・コーポレーションの粗利益率は、販売額の二割を下回ることはないものと推認される。そして、このことに加えて、甲第四号証によると、本件考案は、純粋な燃料ガスをノズル先端から流出させて円滑に着火できるよう改良したガスライターに関するものと認められるから、ガスライターにとっては重要な考案であると考えられることを考慮すると、本件考案の通常実施料率は、右(二)(1)の認定に基づく売上額の六パーセントであると認めるのが相当である。
3 なお、原告らは、被告らの文書提出命令違反を主張するので、この点について判断する。
原告らは、被告装置を組み込んだライターの単価、販売個数を立証するために、それらが記載されている文書の提出命令を求め、それに対して当裁判所が発した文書提出命令により、被告有限会社イシモリ・コーポレーションは、平成五年五月一八日から平成九年三月七日までの被告装置に関する銀行発行の船積書(MAIL)、売主発行の商業送り状(COMMERCIAL INVOICE)、航空貨物引換証(AIR WAYBILL)、取消不能信用状(IRREVOCABLE DOCUMENTARY CREDIT)、被告有限会社イシモリ・コーポレーション作成の株式会社ペンギンライターに対する請求書控え、被告有限会社イシモリ・コーポレーション名義で作成された平成五年五月一八日から平成九年三月七日までの被告装置に関する決算書、売掛帳の提出を命じられ、このうち、売主発行の商業送り状を提出したが(甲第一一号証の一ないし一五)、その余の文書を提出していない。
しかし、右認定のとおり、右売主発行の商業送り状によって輸入数量を認めることができる。また、被告らは、被告装置を組み込んだライターに関する被告有限会社イシモリ・コーポレーション作成の株式会社ペンギンライター宛の納品書控えを書証として提出しているが(乙第二六号証の一ないし二四、第二七号証の一ないし四、第二八号証の一ないし三、第二九号証の一、二)、右認定のとおり、右納品書控えにより、被告装置を組み込んだライターの平成六年一月二一日以降における単価、販売個数を認めることができ、右認定の輸入数量もこれらの販売個数を裏付けるものであるということができる。後記四のとおり、原告有限会社イタガキの被告らに対する同月二〇日までの被告装置を組み込んだライターの販売についての損害賠償請求権は、時効により消滅しているから、本訴請求のうち認容され得る損害賠償額を算定するためには、同月二一日以降の単価、販売個数が認められれば十分である。
したがって、右文書提出命令に係るその余の文書が提出されなくても、損害賠償額の算定に必要な被告装置を組み込んだライターの平成六年一月二一日以降における単価、販売個数を認めることができるから、本件においては、被告有限会社イシモリ・コーポレーションの文書提出命令違反を理由として原告らの文書に関する主張を真実と認めるのは相当でない。
四 抗弁について判断する。
1(一) 弁論の全趣旨によると、原告株式会社板垣製作所は、平成五年九月二日、被告イシモリ・コーポレーションに対し、本件実用新案権の侵害につき警告書を送付したこと、原告株式会社板垣製作所と原告有限会社イタガキは、代表者が同一であることが認められる。右認定事実によると、原告有限会社イタガキは、平成六年一月二〇日までに、被告装置が本件考案の技術的範囲に属すること及び被告らが被告装置を組み込んだライターを販売していることを知っていたものと推認される。
(二) 原告らは、原告有限会社イタガキは、平成六年一月当時、被告らによる本件実用新案権の侵害によってどのくらいの損害を被っていたのか具体的に知ることができなかったので、消滅時効は進行しないと主張する。
しかし、民法七二四条は、不法行為による損害賠償請求権は被害者が損害及び加害者を知ったときより三年間の経過により時効によって消滅する旨を規定しているところ、右にいう「損害を知った」とは、他人の不法行為により損害が現実に発生したことを知ることを意味し、その損害の程度や数額を具体的に知ることまでは必要とされない。右(一)認定のとおり、原告有限会社イタガキは、平成六年一月二〇日までに、被告装置が本件考案の技術的範囲に属すること、被告らが被告装置を組み込んだライターを販売していることを知っていたものであるから、たとえその損害の程度や数額を具体的に知らなかったとしても、被告らの不法行為により損害が現実に発生したことを知っていたということができ、同日以前に発生した損害賠償請求権については、遅くとも平成六年一月二一日から時効期間の進行が開始していたものと認められ、原告らの前記主張は、採用することができない。
2 そうすると、原告有限会社イタガキの被告らに対する、被告らが平成六年一月二〇日以前に行った被告装置を組み込んだライターの販売を理由とする損害賠償請求権は、原告有限会社イタガキが被告らに対する本訴(第九八二号事件)を提起した平成九年一月二一日(この事実は当裁判所に顕著である。)までに、起算日から三年が経過したものと認められるから、時効によって消滅したものである。そして、被告らは、原告有限会社イタガキに対し、平成一〇年一月二八日の本件口頭弁論期日において、右消滅時効を援用する旨の意思表示をした(この事実は当裁判所に顕著である。)。
3 なお、原告株式会社板垣製作所は、原告有限会社イタガキが被告らに対して本訴(第九八二号事件)を提起する以前から、第二〇〇〇五号事件において被告有限会社イシモリ・コーポレーションに対して本件実用新案権の侵害を主張していた(この事実は当裁判所に顕著である。)が、原告株式会社板垣製作所が訴えにおいて本件実用新案権の侵害を主張したからといって、原告有限会社イタガキの被告らに対する損害賠償請求権の時効が中断することがないことは明らかである。
4 したがって、原告有限会社イタガキの被告らに対する、被告らが平成六年一月二〇日以前に被告装置を組み込んだライターを販売したことによって生じた本件実用新案権の侵害による損害賠償請求権は、時効によって消滅したものと認められる。
五 被告らが平成六年一月二一日以降に行った被告装置を組み込んだライターの販売は、前記三2(二)(1)認定のとおりであり、この販売個数に単価を乗じた金額の合計は、三八五一万〇九一〇円である。また、前記三2(三)認定のとおり、本件考案の通常実施料率は、売上額の六パーセントであるから、右合計金額についての通常実施料相当額は、その六パーセントに当たる二三一万〇六五四円である。
前記―2のとおり、原告有限会社イタガキは、本件実用新案権の出願公告日である平成五年五月一八日から登録日である平成六年三月二三日までは本件実用新案権の仮保護の権利につき二分の一の共有持分を有しており、同日から平成八年八月二六日まで本件実用新案権につき二分の一の共有持分を有していたものであるから、原告有限会社イタガキが被告らに請求し得る通常実施料相当の損害金は、右金額の二分の一に当たる一一五万五三二七円である。
六 原告有限会社イタガキが被告らに請求し得る損害賠償の遅延損害金の起算日、利率について判断すると、被告らが被告装置を組み込んだライターを最後に販売したのは、平成七年五月三〇日頃であると認められるところ、原告有限会社イタガキは被告らに対して平成九年二月二二日からの遅延損害金を請求しているから、同日が遅延損害金の起算日となり、同日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の限度で認容することとする。
第三 結論
よって、原告有限会社イタガキの請求は、主文第一項掲記の限度で理由があるから、これを認容し、その余の請求は理由がないから、これを棄却し、原告株式会社板垣製作所の請求は、理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 森義之 裁判官 榎戸道也 裁判官 中平健)
<19>日本国特許庁(JP) <11>実用新案出願公告
<12>実用新案公報(Y2) 平5-18609
<51>Int.Cl.5F 23 Q 2/16 F 23 D 14/48 識別記号 101 Z A 庁内整理番号 8918-3K <24><44>公告 平成5年(1993)5月18日
<54>考案の名称 ガスライター
審判 平2-10208 <21>実願 昭60-85421 <55>公開 昭61-204161
<22>出願 昭60(1985)6月6日 <43>昭61(1986)12月23日
<72>考案者 佐藤和穂 東京都中央区日本橋1丁目13番1号 テイーデイーケイ株式会社内
<72>考案者 板垣道勝 東京都墨田区東向島6丁目7番3号 有限会社板垣製作所内
<71>出願人 テイーデイーケイ株式会社 東京都中央区日本橋1丁目13番1号
<71>出願人 有限会社板垣製作所 東京都墨田区東向島6丁目7番3号
<74>代理人 弁理士 竹下和夫
審判の合議体 審判長 伴正昭 審判官 歌門恵 審判官 増沢誠一
<56>参考文献 特開 昭58-145823(JP、A) 特開 昭56-155316(JP、A)
実開 昭50-136040(JP、U)
<57>実用新案登録請求の範囲
ガスボンベまたはタンクと連結されるガスノズルを備え、このガスノズルの径内に形成されたガス流路の上流側から燃料ガスをガス流路の下流側に流動させる小さな開孔のスロート部をガスノズルの径内に設け、そのスロート部近傍でガスノズルの側壁部に空気の取込み穴を設け、この取込み穴から吸引する空気とスロート部から流動する燃料ガスとを混合し、当該混合ガスを燃料ガスとして流出するガスライターにおいて、
ステン、真鍮等の金属材料から1000~3000メツシユに形成された織布または不織布のフイルター膜を燃料ガス中に混在する不純物の濾過用兼燃料ガスの流量調節用としてスロート部の近傍でガス流路の上流側に張設装備したことを特徴とするガスライター。
考案の詳細な説明
産業上の利用分野
本考案は、ガスライターの改良に関するものである。
従来の技術
従来、ガスライターにおいては燃料ガスのガス流量を調整するべく、フイルター膜をガスノズルの径内に張設したものが知られている(特開昭58-145823号、同56-155316号)。
ところで、ガスライターにはガスボンベまたはタンクからの燃料ガスをガス流路の下流側に流動させる小さな開口のスロート部をガスノズルの径内に設け、そのスロート部近傍でガスノズルの側壁部に空気の取込み穴を設け、この取込み穴から吸引する空気とスロート部から流動する燃料ガスとを混合することにより、当該混合ガスを燃料ガスとして流出するものがある。
そのガスライターの燃料ガスとしては、ブタン80%、ブロバン20%程度の混合ガスが通常用いられている。この混合ガス中には不純物が多く含まれ、その他に、ガスノズル中にはノズル加工時の金属粉等が異物として存在する。この異物が燃料ガス中の油カス等と混じり合つて最小で40μ程度微細な不純物となり、ガス流れに伴つてノズル先端から流出する。
その不純物が燃料ガス中に混在すると燃料ガスが不完全燃焼するところから除去することが まれるが、上述したガスライターのフイルター膜としては200~300メツシユのものが通常装備されていることから、当該不純物を除去することができない。また、このフイルター膜としては耐熱性を有するものを用いるとよいが、その耐熱性から石綿等を用いるときには繊維の細かい毛羽立ちがガス流れに伴つて飛散し、これが燃料ガスの不純物と混じりあ合つてガスノズルの径内に付着することによりガス流れを阻害する事態も招く。
考案が解決しようとする課題
本考案は、純粋な燃料ガスをノズル先端から流出させて円滑に着火できるよう改良したガスライターを提供することを目的とする。
課題を解決するための手段
本考案に係るガスノズルにおいては、ガスボンベまたはタンクと連結されるガスノズルを備え、このガスノズルの径内に形成されたガス流路の上流側から燃料ガスをガス流路の下流側に流動させる小さな開孔のスロート部をガスノズルの径内に設け、そのスロート部近傍でガスノズルの側壁部に空気の取込み穴を設け、この取込み穴から吸引する空気とスロート部から流動する燃料ガスとを混合し、当該混合ガスを燃料ガスとして流出するガスライターで、ステン、真鍮等の金属材料から1000~3000メツシユに形成された織布または不織布のフイルター膜を燃料ガス中に混在する不純物 濾過用兼燃料ガスの流量調節用としてスロート部の近傍でガス流路の上流側に張設装備することにより構成されている。
作用
このガスライターでは、1000~3000メツシユのフイルター膜がガスノズルの径内に張設装備されているので、そのフイルター膜を通過する燃料ガス中から微細な不純物でも略完全に取り除け、純粋な燃料ガスとしてガス流路の下流側に流動することができる。また、このフイルター膜はメツシユの細かいものでガス流れに対する抵抗となるから、スロート部よりガス流路の下流側に流動する燃料ガスの流量を適度に抑えて側壁部の取込み穴から吸引する空気と適度に混合できることにより、純粋な混合ガスをノズル先端から噴出させることができる。更に、そのフイルター膜はステン、真鍮等の繊維の毛羽立ちのない金属材料で形成されているから、細かい繊維を含む不純物が油カス等と共にガスノズルの径内に付着するのも防止することができる。
実施例
以下、添付図面を参照して説明すれば、次の通りである。
このガスライターは、第1図で示すガスノズルを備えて構成されている。そのガスノズルのノズル本体1はガスボンベまたはタンクGが連結装備されるガス流路の上流側1aと、ガス着火側に至るガス流路の下流側1bとを持つて一体に組み立てられている。
ノズル本体1の径内には、燃料ガスをガス流路X3の下流側1bに流動するスロート部2が設けられている。そのスロート部2は、40~80μ程度の小さな開孔aを有する仕切板2bをガス流路X1、X2の上流側1aと下流側1bとの区切り位置に嵌込み固定することにより形成されている。このスロート部2を介し、ガス流路X2の下流側1bには1~3mm程度の小さな空気の取込み穴がノズル本体1の径内に連通するよう設けられている。また、そのガス流路X1の上流側1aには継手筒4、内筒5及び間座6をノズル本体1の径内に嵌入固定することによりスロート部2と連通するようガス流路X1が形成されている。このガス流路X1の径内には内筒5と間座6との間に挟み込むことにより、フイルター膜7がガス流路X1を遮るようスロート部2の近傍位置に張設装備されている。
そのフイルター膜7としては、1000~3000メツシユ程度に形成された織布または不織布布が用いられている。このフイルター膜7が1000メツシユ以下であると、燃料ガス中に混在する微細な不純物をガス流動と共に通過させてしまう。また、3000メツシユ以上になるとガス流れを著しく阻害するところから、1000~3000メツシユの範囲内のものがよく、特に1500メツシユ程度のものが好ましい。また、そのフイルター膜7はステンや真鍮等の金属材料で耐熱性を有ししかも細かな毛羽立ち繊維を持たないボーラスな繊維層で形成されている。
このフイルター膜7を有するガス流路X1に対し、ガス流路X2の下流側1bにはスロート部2から連通する挟径内に一部を嵌挿させてガス噴出用の内筒8が取り付けられている。このガス噴出用の内筒8はスロート部2から連続する下流側1bのガス流路X2を形成するものであり、そのガス流路X2から噴出する燃料ガスには圧電着火ユニツト等で火花放電を与えることによりガス着火するよう構成されている。
なお、ノズル先端から噴出する燃料ガスを確実に着火させるには1mm程度の透孔8aをガス噴出用内筒8の軸側面から径内に設けると共に、ノズル本体1の内周面と内筒8の外周面との間に間隔9を隔ててサブガス流路X3を形成するとよい。
このように構成するガスライターでは、ガスタンクまたはボンベGの燃料ガスをノズル本体1で形成されたガス流路X1の上流側1aからガス流路X2の下流側1bに流動させ、ノズル先端より流出することによりガス着火することができる。そのガス流路X1の上流側1aで燃料ガス中に金属粉や油カス等の微細な不純物が混入しても、スロート部2の近傍でガス流路X2には1000~3000メツシユのフイルター膜7が張設装備されているため、このフイルター膜7を通過する燃料ガスから不純物を完全に除去し、スロート部2からガス流路X2の下流側1bに流出させないよう取り除くことがきでる。
また、その燃料ガスはガス流路X1の上流側1aから高速に流動するものであるが、フイルター膜7が細かいメツシユのものでなるから、ガス流れに対する抵抗となつて流量を抑えることができる。この燃料ガスがスロート部2からガス流路X2の下流側1bに流動すると、取込み穴3から吸引される空気と効率よく混合することができる。
従つて、このガスライターではノズル先端から噴出する燃料ガスを不純物の除去された純粋なガスで空気と混合率の高いものにでき、その燃料ガスをノズル先端から噴出させて圧電着火ユニツト等の火花放電で着火することにより完全燃焼炎を得るようにできる。なお、このガスライターでは燃料ガスの流速をフイルター膜7と共に取込み穴3からの空気の吸引、混合で流速が適度に抑えられることから、着火用触媒を用いたフレームレスライター等を構成するのに適している。
考案の効果
以上の如く、本考案に係るガスライターに依れば、1000~3000メツシユのフイルター膜を装備することにより燃料ガス中に含まれる微細な不純物を除去できると共に、そのフイルター膜でガス流れを適度に抑えて取込み穴より吸引する空気と適度に混合できるから、ガス着火に必要な適当量の純粋な燃料ガスをガス流路の下流側に流動させることができる。このため、空気との純粋な混合ガスをノズル先端より噴出できるからガス着火で完全燃焼させ、燃焼効率を高め得て燃料ガスの消費量を少なくすることができる。また、フイルター膜が金属材料で形成されているから、毛羽立ち繊維を含む不純物が付着することによるノズル径内の目詰りも防止することができる。
図面の簡単な説明
第1図は本考案に係るガスライターを構成するガスノズルの断面図、第2図は同ノズルを展開させて示す説明図である。
1……ノズル本体、1a……ガス流路の上 側、1b……ガス流路の下流側、2……スロート部、
2a……開孔、3……空気の取込み穴、7……フイルター膜、X1、X2……ガス流路。
第1図
<省略>
1……ノズル本体
1a……ガス流路の上流側
1b……ガス流路の下流側
2……スロート部
2a……小孔
7……フィルター膜
X1、X2……ガス流路
第2図
<省略>
物件目録
構造の説明
1 ガスタンクと連結するガスノズル<1>を備えている。
2 燃料ガスが、ノズル本体1の径内に形成されたガス流路の上流側1aから小さな開孔2aを含むスロート部2を経由してガス流路の下流側1bに流動する構造である。
3 そのスロート部2近傍でノズル本体1の側壁部に空気の取込み穴<3>を設けている。
4 この取込み穴<3>から吸引する空気とスロート部2から流動する燃料ガスとを混合し当該混合ガスを燃料ガスとして流出するガスライターである。
5 ステンレスの金属材料から一五〇〇メッシュに形成された織布のフィルター膜7をスロート部2の近傍でガスの上流側に張設装備したことを特徴とするガスライターである。
<省略>
ガスノズル
1・・・・・・・・ノズル本体
1a・・・・・・・ガス流路の上流側
1b・・・・・・・ガス流路の下流側
2・・・・・・・・スロート部
2a・・・・・・・小孔
7・・・・・・・・フィルター膜
実用新案公報
<省略>
<省略>