東京地方裁判所 平成5年(ワ)2363号 判決 1995年7月26日
原告
日本国有鉄道清算事業団
右代表者理事長
西村康雄
右訴訟代理人弁護士
平井二郎
右訴訟復代理人弁護士
吉田秀康
右指定代理人
田口肇
外二名
被告
丸天運送株式会社
右代表者代表取締役
平岡祐介
被告
大東倉庫株式会社
右代表者代表取締役
平岡祐介
被告
明治サービス株式会社
右代表者代表取締役
平岡祐介
右三名訴訟代理人弁護士
石井成一
同
桜井修平
同
谷垣岳人
同
穂髙弥生子
主文
一1 被告丸天運送株式会社は、原告に対し、別紙物件目録(3)、(4)及び(5)記載の物件を収去して、同目録(1)記載の物件を明け渡せ。
2 被告大東倉庫株式会社及び同明治サービス株式会社は、原告に対し、別紙物件目録(3)及び(4)記載の物件から退去して、同目録(1)記載の物件を明け渡せ。
3 被告丸天運送株式会社、同大東倉庫株式会社及び同明治サービス株式会社は、原告に対し、各自金一四七七万五三〇〇円及び平成五年一月一日以降右1、2の明渡済みに至るまで一か年金二八七万五六〇〇円の割合による金員を支払え。
二1 被告丸天運送株式会社及び同大東倉庫株式会社は、原告に対し、別紙物件目録(6)記載の物件を収去して、同目録(2)記載の物件を明け渡せ。
2 被告大東倉庫株式会社は、原告に対し、別紙物件目録(7)記載の物件を収去して、同目録(2)記載の物件を明け渡せ。
3 被告明治サービス株式会社は、原告に対し、別紙物件目録(6)記載の物件から退去して、同目録(2)記載の物件を明け渡せ。
4 被告丸天運送株式会社、同大東倉庫株式会社及び同明治サービス株式会社は、原告に対し、各自金四六〇六万七七〇〇円及び平成五年一月一日以降右1から3の明渡済みに至るまで一か年金八九六万六〇〇〇円の割合による金員を支払え。
三 訴訟費用は被告らの負担とする。
事実及び理由
第一 原告の請求
主文同旨の判決(ただし、正確には、原告の請求の対象である別紙物件目録(1)及び(2)の物件は、鉄道高架下の土地ではなく、高架下の空間及び高架下に付属する鉄道用地部分であり、原告の主文一1・2及び二1から3についての請求は、同目録(3)から(7)の物件を収去し、同目録(3)、(4)及び(6)から退去して同目録(1)及び(2)の物件の明渡を求めるのではなく、同目録(3)から(7)の物件の収去並びに同目録(1)及び(2)の空間部分及び付属鉄道用地部分の明渡を求めることである。)及び仮執行の宣言
第二 事案の概要
本件は、後記一1のとおり国鉄の権利義務を承継した原告が、その所有にかかる別紙物件目録(1)記載の物件(以下「本件高架下(1)」という。)及び同目録(2)記載の物件(以下「本件高架下(2)」という。)を国鉄の債務償還の目的で売却するため、従前から被告らとの間でした本件高架下(1)及び(2)の使用承認を取り消したとして、所有権又は使用承認の終了に基づき、被告らに対し、本件高架下(1)及び(2)部分にある別紙物件目録(3)から(7)記載の物件(以下それぞれ「本件物件(3)」のようにいう。また、本件物件(3)及び(4)を「被告本社建物」、本件物件(6)を「本件三号倉庫」ということがある。)の収去、本件高架下(1)及び(2)の明渡並びに使用承認終了日の翌日から右明渡済みまでの使用料相当損害金の支払を求めた事案である。
一 争いがない事実
1 訴外日本国有鉄道(以下「国鉄」という。)は、昭和二四年六月一日、日本国有鉄道法の施行により設立された公共企業体であり、従前国が国有鉄道特別会計を以て経営していた鉄道事業等を国から引き継いだ公法上の法人である。
原告は、いわゆる国鉄改革の実施に伴い、旅客鉄道株式会社による国鉄からの事業等の引継等の後において、国鉄の長期借入金等の債務の償還等を行うことを目的として、昭和六二年四月一日国鉄から移行した特殊法人であり、本件高架下(1)及び(2)を所有している。
一方、被告丸天運送株式会社(以下「被告丸天」という。)は一般小型自動車運送事業等を、被告大東倉庫株式会社(以下「被告大東」という。)は倉庫業等を、被告明治サービス株式会社(以下「被告明治」という。)は自動車による移動宣伝事業等を、それぞれ営むことを目的とする株式会社であって、右被告らの本店所在地及び代表者は同一である。
2 本件高架下(1)の利用状況
(一) 本件高架下(1)及び(2)は、秋葉原駅から御徒町駅に至る鉄道高架の下の空間及び右高架下の土地に付属しそこからはみ出した土地部分であり、被告丸天は、国鉄から、昭和六〇年九月一〇日付けで、本件高架下(1)(ただし、次の本件高架下(1)④は除く。)について、期間・昭和六〇年四月一日から昭和六三年三月三一日まで、使用料合計・年一八〇万八四〇〇円として、使用承認を受け、ここに、本件物件(3)、(4)及び(5)(被告本社建物及び付属施設)を所有し、被告らは、これを被告本社の事務室及び倉庫等として使用している。また、被告らは、本件高架下(1)のうち、別紙図面(1)記載のイ、ロ、レ、ヲ、ワ、カ、ヨ、タ及びイの各点を順次結ぶ直接で囲まれた部分約86.9平方メートル(図面中の番号に従って以下「本件高架下(1)④」のようにいう。)について、通路及び車両置場として使用している。
(二) なお、被告丸天は、後記のとおり使用承認取消後の昭和六二年四月一日から平成四年三月三一日までの分の使用料として、本件高架下(1)のうち本件高架下(1)④を除く部分について合計金一〇三〇万九七二〇円を、本件高架下(1)④について金三九九万〇七〇〇円を供託した。
3 本件高架下(2)の利用状況
(一) 被告大東及び同丸天は、国鉄から、昭和六〇年九月一〇日付けで、本件高架下(2)(ただし、次の本件高架下(2)②は除く。)について、期間・昭和六〇年四月一日から昭和六三年三月三一日まで、使用料・年六八万五九〇〇円として、使用承認を受け、また被告大東は、国鉄から、昭和六一年五月一日付けで、本件高架下(2)のうち、別紙図面(2)記載のK、H、I、J及びKの各点を順次結ぶ直線で囲まれた部分(図面中の番号に従って以下「本件高架下(2)②」のようにいう。)について、期間・昭和六一年四月一日から昭和六二年三月三一日まで、使用料・年三万九九〇〇円として、使用承認を受けた。
被告大東及び同丸天は、本件高架下(2)に本件物件(6)(本件三号倉庫)を設置し、被告らは、本件物件(6)を事務室、倉庫及び給排水管設置用等として使用している。また、被告大東は、本件高架下(2)②に本件物件(7)を埋設している。
(二) なお、被告丸天及び同大東は、昭和六二年四月一日から平成四年三月三一日までの本件高架下(2)の使用料として、合計金三九三一万九二三〇円を供託した。
4 使用承認の取消
国鉄は、被告丸天及び同大東に対し、昭和六二年二月二五日付文書で、同年三月三一日限り、本件高架下(1)及び(2)についての右使用承認の全て(以下「本件使用承認」という。)を取り消す旨を通知した(以下「本件承認取消」という。)。
二 争点
本件の争点は、1本件使用承認には借地法の適用があるか、すなわち、(1)本件使用承認の対象である本件高架下(1)及び(2)が、借地法の適用がある「土地」かどうか、(2)本件使用承認は建物所有を目的とするかどうか、(3)本件使用承認は無名契約か、2(借地法の適用がある場合)本件使用承認は、一時使用目的と認められるか、3原告の損害額の程度である。
1 本件使用承認に対する借地法の適用の有無
(一) 原告の主張
(1) 本件高架下(1)及び(2)の土地性の有無
本件高架下(1)及び(2)は、鉄道施設を設けるために作られた構造物である高架橋工作物の内壁に囲まれた空間であって、高架の敷地となった土地を直接には含まない。
本件高架下(1)及び(2)には、構造物としての高架下からはみ出した土地部分があるが、それはあくまでも高架下の使用承認に付帯して認められたものに過ぎない。
また、本件高架下(2)には、荷扱いに使用する低床ホームが設置されており、通常の土地の使用と異なり地下を使用することはできない。さらに、本件高架下(2)は、屋根、柱の他、右のように床も有する構造物である。
以上のとおりであり、本件高架下(1)及び(2)の利用関係は、土地の賃貸借ではない。
(2) 建物所有目的の有無
本件物件(3)、(4)及び(6)は、昭和五八年三月三一日に、本件高架下(1)及び(2)の線路敷やその支柱等を利用して、それを屋根又は柱などとし、かつそれに外壁や屋根、天井、柱などを取り付けて建物状としたものであり、建物とはいえず、いわゆるガード下に設けられた構造物とみるべきである。また、本件物件(5)及び(7)が建物でないことは明らかである。
(3) 使用承認の法的性質(使用承認は無名契約か)
本件使用承認は、国有財産法一八条に基づく行政財産の目的外使用と同様に、国鉄がその本来の事業目的に支障の生じない範囲でその事業用財産の一時的な使用を認めていただけであって、借地法や借家法の適用されない無名契約というべきである。
日本国有鉄道法(以下「国鉄法」という。)四六条は、不動産を貸し付けた場合において、貸付期間中にその事業の用に供するため必要を生じたときは、当該契約を解除することができ、その場合には借受人は国鉄に対し損失補償を請求できると定めている。この規定は主として借地法や借家法の適用のある非事業用財産の貸付を解除する場合に適用されるものであって、使用承認である本件には適用されない。
なお、本件高架下(1)④については、使用承認がされていない。
(4) まとめ
以上のとおり、利用対象が土地又は建物ではなく、利用態様が建物を所有するものではなく、利用関係の法形式が賃貸借契約でないから、本件使用承認には借地法及び借家法の適用はない。
(二) 被告らの主張
(1) 本件高架下(1)及び(2)の土地性の有無
本件高架下(1)及び(2)は、使用目的を事務所用等としていることから明らかなとおり、土地自体を使用承認の対象としている。それは、単なる構造物ではなく、その敷地を含んだものであり、借地法にいう「土地」である。
(2) 建物所有目的の有無
本件物件(3)、(4)及び(6)は、それぞれ本件高架下(1)及び(2)に定着し、独立的排他的支配を可能ならしめる構造及び規模を有する建物である。
(3) 使用承認の法的性質(使用承認は無名契約か)
本件使用承認は、「使用承認」という形をとってはいるものの、借地法の適用のある賃貸借に該当する。国鉄法には、四五、四六条の規定があるが、右二か条以外には国鉄について私企業と異なった扱いをしないと解するべきである。高架の公共性が高いとしても、公共性が高いのは、高架そのもの及び高架上の空間に過ぎず、高架下の空間及びその敷地は何ら公的側面を有しない。
なお、本件高架下(1)④は、その西側に隣接する土地とともに被告丸天において国鉄から使用承認を受けていた。
2 一時使用目的の有無
(一) 原告の主張
仮に本件使用承認に借地法の適用があるとしても、以下の理由により、本件使用承認は一時使用目的のものとみるべきである。
(1) 本件使用承認は、期間が概ね三年間に限られており、貸借の対象がいわゆる高架下であって、鉄道事業の用に供すべきことを目的とするものであり、その期間内でも、貸借を中止することが妥当とされるときは、いつでも一方的にその返還を求めることができ、その場合でも借受人はその費用で同人が設置した物件を除去してこれを明け渡すものとされていた。
(2) 国鉄は、多額の債務を負った状態でその分割民営化が進められ、原告は残された国鉄の財産をもって国に対し国鉄の債務を早期に返還することが急務とされており、さらに、本件高架下(1)及び(2)の存する付近は、高架を除去して新たな公共の用に供することが計画されている。
(3) 被告らの支払っている使用料は、極めて低廉である。
(二) 被告らの主張
本件使用承認は、一時使用目的ではない。その理由は以下のとおりである。
(1) 本件高架下(1)及び(2)の利用目的は、「事務所、倉庫及び車庫用」等と定められており、本件使用承認は、究極的にはそれぞれ一体として本件物件(3)等の被告らの建物の所有を目的としている。
(2) 本件物件(3)は、木・鉄筋コンクリートブロック造りの建物で、電気、上下水道、ガス、空調及び消防用設備等を有し、本件物件(4)は、鉄筋コンクリート造りの建物で、電気設備等を有し、本件物件(6)は、鉄筋コンクリート造りの建物で、本件物件(3)と同様の設備を有している。
(3) 本件使用承認は、三年毎に契約の更新が繰り返され、その使用期間は、本件高架下(1)については約七〇年間、本件高架下(2)については代替土地である旧高架下等の使用期間と合算すると約四〇年間の長さに及んでいる。
(4) 国鉄において事業遂行に必要な財産は、高架そのもの及び高架上の空間に過ぎず、高架下の空間及びその敷地については高架設備の点検及び確保のための立ち入り等につき必要性が認められるだけで、直接自己使用する必要性は考えられない。
(5) 昭和六二年二月ころ、被告らは、国鉄から本件使用承認の取消通知を受け取ったが、そのころ、被告らは、原告に対し、本件高架下(1)及び(2)について保証金を差し入れていた。
3 使用損害額
(一)原告の主張
本件高架下(1)及び(2)の明渡未了による損害金としては、次の金額が相当である。
(1) 本件高架下(1)について
① 昭和六二年四月一日から平成四年一二月三一日までの分
合計金一四七七万五三〇〇円
(内訳)
昭和六二年四月一日から昭和六三年三月三一日まで
金二二一万一九〇〇円
昭和六三年四月一日から平成元年三月三一日まで
金二四三万三三〇〇円
(昭和六二年度分の約1.1倍)
昭和元年四月一月から平成二年三月三一日まで
金二四三万三三〇〇円
(昭和六三年度分と同額)
平成二年四月一日から平成三年三月三一日まで
金二六五万四四〇〇円
(昭和六二年度分の約1.2倍)
平成三年四月一日から平成四年三月三一日まで
金二八七万五六〇〇円
(昭和六二年度分の約1.3倍)
平成四年四月一日から平成四年一二月三一日まで
金二一六万六八〇〇円
(平成三年度分と同基準)
② 平成五年一月一日以降
一か年につき金二八七万五六〇〇円
(平成三年度分と同基準)
(2) 本件高架下(2)について
① 昭和六二年四月一日から平成四年一二月三一日までの分
合計金四六〇六万七七〇〇円
(内訳)
昭和六二年四月一日から昭和六三年三月三一日まで
金六八九万六九〇〇円
昭和六三年四月一日から平成元年三月三一日まで
金七五八万六六〇〇円
(昭和六二年度分の約1.1倍)
平成元年四月一日から平成二年三月三一日まで
金七五八万六六〇〇円
(昭和六三年度分と同額)
平成二年四月一日から平成三年三月三一日まで
金八二七万六三〇〇円
(昭和六二年度分の約1.2倍)
平成三年四月一日から平成四年三月三一日まで
金八九六万六〇〇〇円
(昭和六二年度分の約1.3倍)
平成四年四月一日から平成四年一二月三一日まで
金六七五万五三〇〇円
(平成三年度分と同基準)
② 平成五年一月一日以降
一か年につき金八九六万六〇〇〇円
(平成三年度分と同基準)
(二) 被告らの主張
争う。
4 結語
(一) 原告の主張
よって、原告は、所有権及び使用承認の取消(本件高架下(2)②については使用承認の終了)による原状回復請求権に基づき、被告らに対し、本件物件(3)から(7)の収去、本件高架下(1)及び(2)の物件の明渡と使用承認取消後の昭和六二年四月一日以降明渡済みに至るまでの損害金(なお、被告らは、昭和六二年四月一日以降の使用料を供託しているが、損害金の供託ではなく、原告はこれについて還付請求するつもりはない。)の支払を求める。
(二) 被告らの主張
よって、被告らは権原に基づいて本件高架下(1)及び(2)を使用しているのであり、原告の請求は理由がない。
第三 争点に対する判断
一 判決理由の骨子
本件使用承認に基づく本件高架下(1)及び(2)の利用は、その下に位置する土地の地表を含む空間部分の利用であり、かつ、本件使用承認の主たる目的は建物所有ではないから、本件使用承認は、借地法の適用されない無名契約というべきである。したがって、国鉄が使用承認を都合により取り消すことができるとの特約は有効であり、本件使用承認は本件承認取消により終了した。
二 本件使用承認の対象
1 国鉄が被告らに対し本件高架下(1)及び(2)を使用承認の形式で利用させていたことは争いがない。
ところで、本件高架下(1)及び(2)は、視覚的にいえば、鉄道施設である高架線を設けるために作られた構造物である高架橋工作物の空中にある底面とそれを支える支柱と右高架橋下の土地の地表とで囲まれる空間である。そして、本件ではこの空間を事務所及び倉庫等として利用することが問題となっているのであり、かつ後記のとおり、それらは、壁を作る等して一定の居住空間を設けているものであるから、本件高架下は、その利用の観点からいえば、単なる空間にとどまらず、高架下の土地の利用をも制約するものということができる。
2 ところで、逆に一般に高架下の利用を高架下に位置する土地の利用といえるかというと、それはいささか問題があり過ぎる。まず、高架は、支柱(橋脚)で支えられ、その支柱と高架及び地表とで囲まれる空間を作り出すが、その空間部分及び高架下に位置する土地は、高架を支える作用をしており、その意味で既に機能的には高架のための利用に供されていることに注意しなければならない。さらに、支柱は重量のある高架を支えるためにしっかりとした基礎を要するので、高架下にはこのような基礎が設けられる。したがって、高架下に位置する土地は、その地中を自由に利用することはできない。
すなわち、土地は、本来は地上地下に支配権が及ぶにもかかわらず、高架下に位置する土地の場合には、高架のために既にその地中部分と地上部分とが利用に供されており、空間部分に事務所、倉庫を設けるとしても自ずと制約が伴う。右の場合、高架下に位置する土地は、主として高架のために利用され、副次的に事務所等のために利用されるのであり、主従の段階をもって重複した目的に利用されることになる。
3 そして、本件高架下(1)及び(2)について、右のことがそのまま当てはまり、弁論の全趣旨及び証人森脇の証言によれば、本件高架下に位置する土地の地中には本件高架を支える基礎が設けられていることが認められる。また、甲第六〇号証及び右証言によれば、本件高架下(2)は、低床ホームの上の空間であり、地中を含め右床より低い部分を利用することはできないとの制約も加わることが認められる。なお、本件高架下(1)①に位置する土地部分は、高架直下からいくらか離れ、その地上利用に制約はないが、高架橋を支える橋脚及び高架橋基礎を埋設するための土地部分を含むのであり、地中利用の制約は伴うのであって、この部分も単なる土地と評価することはできず、高架下の一部を構成するものというべきである。
4 そうすると、本件使用承認に基づく本件高架下(1)及び(2)の利用は、その下に位置する土地部分の利用をも制約する空間部分(地中は含まないが地表は含む。)の利用ととらえるのが適当である。
したがって、土地利用を対象とする借地法は、本件には直接的には適用されないことになる。
三 本件高架下の工作物等の内容と本件高架下の利用目的
1 証拠によれば、次の事実が認められる(以下、認定に供した主な証拠または証拠部分を、当該事実の末尾に略記する。)。
(一) 本件物件(3)は、本件高架下(1)②及び③上にあり、一体として一棟の建物のような構造となっているが、本件物件(3)のうち、本件高架下(1)③上にある部分(以下「本件物件(3)③」という。)は、高架の線路敷をその屋根、高架の支柱をその柱としつつ、高架の支柱と支柱の間には鉄筋コンクリートブロック等を埋め込んで外壁を設けた上、その中に天井及び柱などを取り付けたものである。一方、本件物件(3)のうち、本件高架下(1)②上にある部分(以下「本件物件(3)②という。)は、高架からはみ出した部分であり、屋根を含め被告丸天が建築したものである。(甲一二、乙四九)
本件物件(4)は、本件高架下(1)①上にあり、その部分は高架からはみ出した部分であり、本件物件(3)②と同様に屋根を含め被告丸天が建築したものである。(甲一三、乙四九)
本件物件(3)及び(4)は、不動産登記簿上は建物として登記されており、その内部には事務室、会議室、応接室、台所、トイレ、従業員宿舎及び書庫等がある。(乙四九・五〇)
(二) 本件物件(6)は、本件高架下(2)上にあり、低床ホーム(地面から四五ないし六〇センチメートルほどの高さに設置された厚さ一五センチメートルほどの舗装コンクリート)上に、高架の線路敷を屋根、高架の支柱を柱としつつ、それに屋根、天井及び柱などを取り付け、高架の支柱と支柱の間には鉄筋コンクリートブロック等を埋め込み、開口部に軽量スティールシャッターを設置して外壁を設けたものである。なお、不動産登記簿上は未登記である。そして、右構造物の中に大型冷蔵庫、倉庫、事務所、トイレ及び浴室等がある。(乙五一・五二)
2 そうすると、本件高架下には、建物と呼ぶこともできる工作物が存在していることになる。しかし、本件使用承認の対象が二のとおりであることを踏まえると、本件使用承認の主たる目的を建物所有目的とまでいうことはできない。
四 本件高架下の利用の経緯と法的特色
本件使用承認に基づく本件高架下の利用の法的性質を明らかにする前提として、これまでの利用の経緯を検討する。
証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
1 訴外平岡祐作(以下「平岡祐作」という。)は、大正時代、個人商店「丸天運送店」を創業し、本件高架下(1)の敷地に荷扱所を設け、その西側の土地に事務所を構えるほか、現在の千代田区鍜冶町所在の高架下(以下「鍜冶町高架下」という。)にも倉庫を設けて、運送業及び倉庫業を営んでいた。被告大東は昭和二五年に右丸天運送店の倉庫事業部門が、被告丸天は昭和二六年に同運送事業部門が、被告明治は昭和三四年に同販売営業部門が、それぞれ法人化したものである。(乙五七)
2(一) 戦後、平岡祐作は、右事務所のあった土地(別紙図面(3)の「大成跡地」―以下同様にいう。―付近の土地)を鉄道省に返還したものの、本件高架下(1)及び鍛冶町高架下において、丸天運送店の営業を継続し、昭和二四年、本件高架下(1)に、本社事務所兼宿舎兼倉庫(本社建物)を建築した。(乙六・五七、証人平岡第九回調書一二頁)
(二) そして、平岡祐作は、昭和二四年一一月一八日付けで、国鉄東京鉄道管理局長から、本件高架下(1)のうち、別紙図面(1)記載のハ、ニ、ホ、ヌ、ル及びハの各点を順次結ぶ直線で囲まれた部分(以下「本件高架下(1)②」という。)について、左記のとおりその使用承認を受けた。
記
目的 運搬用具及び荷造用材置場の用として
期間 昭和二四年一〇月一日から昭和二五年九月三〇日
使用料 年九二二円
右使用承認の期間が満了した後、昭和二五年一二月一四日付けで、同年一〇月一日から昭和二八年三月三一日までについて、同様に使用承認がなされた。その後、国鉄東京鉄道管理局長は、昭和二八年五月一二日付けで、平岡祐作が代表取締役を務めていた被告丸天に対し、右同所について、右目的で、使用料を年一万三二〇〇円としてその使用を承認した。
その後ほぼ三年ごとに使用承認が繰り返され、最終的には国鉄東京北鉄道管理局長が、昭和六〇年九月一〇日付けで、被告丸天に対し、本件高架下(1)②(実測97.38平方メートル)について、目的・事務所、倉庫及び自動車車庫用、期間・昭和六〇年四月一日から昭和六三年三月三一日まで、使用料・年三二万二三〇〇円として、その使用を承認した。そして、右以降は使用承認はされていない。(争いがない。)
(三) また、平岡祐作は、昭和二五年三月三一日付けで、国鉄東京鉄道管理局長から本件高架下(1)のうち、別紙図面(1)記載のロ、ハ、ル、ヲ、レ及びロの各点を順次結ぶ直線で囲まれた部分(以下「本件高架下(1)③」という。)について、左記のとおりその使用承認を受けた。
記
目的 事務所及び倉庫用として
期間 昭和二四年八月一日から同二七年三月三一日
使用料 年一万九三五九円
右使用承認の期間が満了した後、昭和二七年五月二三日付けで、同年四月一日から昭和三〇年三月三一日までについて同様に(使用料は年三万一八六〇円)使用承認がなされた。
その後、国鉄東京鉄道管理局長は、昭和三一年一一月二六日付けで、平岡祐作が代表取締役を務めていた被告丸天に対し、目的・事務所用として、期間・昭和三〇年四月一日から昭和三二年三月三一日まで、使用料・年五万五五七〇円として、その使用を承認した。
その後ほぼ三年ごとに使用承認が繰り返され、最終的には国鉄東京北鉄道管理局長が、昭和六〇年九月一〇日付けで、被告丸天に対し、本件高架下(1)③(実測142.95平方メートル)について、目的・事務所、倉庫及び車庫用、期間・昭和六〇年四月一日から昭和六三年三月三一日まで、使用料・年八六万八一〇〇円としてその使用を承認した。そして、右以降は、使用承認はされていない。(争いがない。)
3(一) 被告丸天は、その設立後まもない昭和二八年一二月二五日付けで、国鉄東京鉄道管理局長から、本件物件(1)のうち別紙図面(1)記載のホ、ヘ、ト、チ、リ、ヌ及びホの各点を順次結ぶ直線で囲まれた部分(以下「本件高架下(1)①」という。)について、左記のとおりその使用承認を受けた。
記
目的 倉庫の用として
期間 昭和二九年一月一日から昭和三一年三月三一日
使用料 年一万九六八〇円
右使用承認期間が満了した後、昭和三三年八月二八日付けで、同年四月一日から昭和三六年三月三一日までについて、同様に使用承認がなされた。その後ほぼ三年ごとに使用承認が繰り返され、最終的には国鉄東京北鉄道管理局長が、昭和六〇年九月一〇日付けで、被告丸天に対し、本件高架下(1)①(実測188.39平方メートル)について、目的・倉庫用、期間・昭和六〇年四月一日から昭和六三年三月三一日まで、使用料・年六一万八〇〇〇円としてその使用を承認した。そして、右以後は、使用承認はされていない。(争いがない。)
(二) また、そのころ、被告丸天は、国鉄から本件高架下(1)④及びその西側に位置する別紙図面(3)の「西側隣接土地」(以下同様にいう。)の各使用承認を受けた。次いで、被告丸天は、昭和三八年ころ、前記2(一)の本社建物を増築するともに(増築以後のものが本件物件(3)である。)、本件高架下(1)①上に本件物件(4)を建築した。(弁論の全趣旨、甲二二・二四、乙五七、証人平岡)
4(一) 他方、終戦直後、浮浪者が別紙図面(3)の本件一号土地(同図面の「西側土地」と「東側土地」とからなる一一九九平方メートルの土地)及びその上部の空間からなる高架下(以下「一号高架下」という。)周辺を不法に占拠し、犯罪が多発するなど問題となっていたところ、被告大東は、一号高架下を占拠する者の立ち退きを行うことを条件に、昭和二六年、一号高架下について国鉄から仮使用承認を受けた。その後、被告大東は、右不法占拠者の立退交渉を進め、昭和二七年ころに概ね右立退交渉を完了し、昭和二八年から昭和二九年にかけて国鉄から一号高架下について使用承認を受けるとともに、そこに倉庫及び事務所を建築した。(証人平岡二六から二九頁、甲二五・二六、乙八から一一・五七)
(二) 本件高架下(1)④、西側隣接土地及び一号高架下については、被告丸天及び同大東が前記のとおりそれぞれ使用承認を受け、その後何度か更新を繰り返していたところ、昭和四七年、国鉄から東北新幹線建設工事のため右各高架下を一時返還してほしい旨の申し入れがなされた。右被告らは右申し入れを拒むと共に代替地、営業補償その他の提案があれば円満解決を図る旨を回答した。ところが、翌昭和四八年、工事着工はしばらく延期されることとなり、右各高架下は、昭和四五年一〇月五日付の使用承認(使用期間はいずれも同年四月一日から昭和四八年三月三一日まで)を最後に、その後は正式な使用承認がなされないまま、事実上右被告において使用料を払ってその使用を継続してきた。(証人平岡三〇から三五頁、乙二三から二七・五七)
(三) 被告丸天及び同大東は、昭和五七年八月から九月にかけて、改めて国鉄から東北新幹線建設工事のため右(二)記載の各高架下を一時返還してほしい旨の申し入れを受け、右被告らは代替地を用意してほしい等の要望を国鉄に提出した。交渉の結果、右被告ら及び国鉄は、本件高架下(2)を代替地として国鉄が提供すること等を条件に、右被告らが昭和五八年三月三一日に右各高架下を返還する旨を同月一七日に合意した。その一環として、国鉄は、本件高架下(1)④及び西側隣接土地については被告丸天に金五二七万円を、一号高架下については被告大東に金二一七七万二〇〇〇円を、補償金として支払った。また、国鉄は、昭和五八年三月三一日、右被告らに対し、左記の旨を約束した。(証人平岡三五から五〇頁、乙二八から三八・乙五七)
記
(1) 本件高架下(2)及び西側隣接土地の西側に位置する土地約五二二平方メートル(別紙図面(3)の大成跡地)については、国鉄事業の推進に支障のない限り工事終了後も引き続き使用できるものとする。
(2) 工事終了後の一号高架下の倉庫の復旧については国鉄事業の遂行に必要な場合は国鉄において処置することとする。
(四) 右(二)記載の各高架下は、その後昭和五九年三月三一日まで事実上使用が継続されたが、右被告らは、同日、国鉄にこれを返還し、同年四月一日から、代替地として本件高架下(2)につき使用承認がなされた。(甲四五、乙五七)
(五) 本件高架下(2)についての使用承認の経過をみると、次のとおりである。(争いがない。)
(1) 国鉄東京北鉄道管理局長は、昭和五八年一〇月一九日付けで、被告大東及び同丸天に対し、本件高架下(2)のうち、別紙図面(2)記載のA、B、C、K、J、D、E、F、G及びAの各点を順次結ぶ直線で囲まれた部分(以下「本件高架下(2)①」という。)について、左記のとおりその使用を承認した。
記
目的 倉庫、事務所、浴室及び自動車置場の用として
期間 昭和五九年四月一日から昭和六〇年三月三一日
使用料 年六四〇万七三〇〇円
右使用承認の期間が満了した後、最終的に国鉄東京北鉄道管理局長は、昭和六〇年九月一〇日付けで、被告丸天及び同大東に対し、本件高架下(2)①(実測1647.44平方メートル)について、目的・倉庫、事務所、浴室及び自動車置場用、期間・昭和六〇年四月一日から昭和六三年三月三一日まで、使用料・年六八五万五九〇〇円としてその使用を承認した。
(2) 右(1)の使用承認に付随して、国鉄東京北鉄道管理局上野建築区長は、昭和五九年二月七日付けで、被告大東に対し、本件高架下(2)②について左記のとおりその使用を承認した。
記
目的 給排水管添架埋設の用として
期間 昭和五八年一二月二二日から昭和六〇年三月三一日まで
使用料 年三万九九〇〇円
右使用承認の期間が満了した後、最終的に右上野建築区長は、昭和六一年五月一日付けで、被告大東に対し、本件高架下(2)②(二平方メートル)について、目的・管類埋設の用、期間・昭和六一年四月一日から昭和六二年三月三一日まで、使用料・年四万一〇〇〇円としてその使用を承認した。
(六) 右被告らは、右代替地の使用承認を得た後の昭和五九年四月ころ、右代替地である本件高架下(2)に本件物件(6)を設置した。この際、右被告らは、本件高架下(1)④及び西側隣接土地にあった社員食堂等に使われていた建物を取り壊したが、その後も、本件高架下(1)④につき、その西側と南側をフェンスで囲んだ上、ビニール波板の屋根を設置して、出入口等として事実上使用を継続した。また、被告大東は、本件高架下(2)②の使用承認を受けた後、その地中に本件物件(7)を埋設した。(甲四五、乙五七、弁論の全趣旨)
5(一) 国鉄は、昭和二四年六月一日国から独立した法人格を与えられ、昭和二五年四月一日以降は国有財産法の適用を受けないこととされた。それまでは、国鉄においては、国有財産法に根拠をおいた「鉄道用地使用承認書」(昭和五年達第五五四号)及び「鉄道財産使用承認心得」(昭和六年達第六九六号)を定め、これに基づき財産の貸付けを行っていた。そして、国鉄が国から独立した法人になった以後は、右二つの定めは廃止され、「土地建物貸付規則」(昭和三二年公示第九九号。以下「本件貸付規則」という。)が設けられたが、これは、国有財産法に根拠をおく規則ではなかった。
(二) そして、本件貸付規則は、国鉄からその管理する土地建物又は高架下を他に貸し付けるにあたり、その財産の適正で有効な運用を図ることを目的とし(一条)、財産の貸付形式に二種類を設け、その一の「使用承認」とは国鉄の事業の用に供している財産又は供するものと決定した財産を、その用途又は目的を妨げない限度で他に貸し付けることをいい、その二の「貸付」とは国鉄の事業の用に供している財産又は供するものと決定した財産以外の財産を賃貸借により他に貸し付けることをいう(三条)と定義された。次いで、貸付規則は、高架下の使用承認期間は三年以内、堅固な建造物設置の目的のための土地の使用承認期間は一〇年以内、その他の財産の使用承認期間は五年以内、土地の賃貸期間は三〇年以内等と定め(八条)、さらに、使用承認の場合には、「その使用が当該財産の用途又は目的を妨げるに至ったときは、使用承認期間中であっても、当該財産の使用承認を取り消すことができる。」と定めていた(二〇条)。(甲三七・六七)
(三) そして、本件高架下(1)及び(2)についての「鉄道高架下使用承諾書」には、「使用承認期間中であっても、国鉄において必要があると認めるとき、又は使用者において承認条項の違反その他不信行為があったと国鉄が認めたときは、いつでもこの使用承認を取り消すことがある。」と定められていた。(甲二八から三一)
6(一) 国鉄は、いわゆる国鉄改革に伴い、その財産を売却してその債務の返済に充てることになり、昭和六二年二月ころ、被告丸天及び同大東に対し、本件高架下(1)及び(2)の各使用承認を同年三月末日をもって取り消す旨の通知をなしたが、右被告らは、右の本件承認取消は無効だとして、同年四月一日以降賃料相当額を供託している。(甲六七・乙五七)
(二) 本件高架下(1)及び(2)の所在する付近一帯の土地は、東京都都市計画局が、いわゆる常磐新線の建設予定地として、これを都市計画の中に組み入れるべく準備をしている。そして、平成四年一〇月三〇日付けで、東京都都市計画局から、原告に対して、常磐新線等にかかる都市計画案が提示され、原告は、同年一一月一八日付けで右計画案を了承した。右計画案によれば、本件高架下(1)は、ほぼその全体が、同(2)はその半分程度が、常磐新線の建設用地に含まれることとされている。(甲四一・四二)
なお、右4(三)の事実経過につき、証人平岡は、「国鉄は、昭和五八年三月三一日、被告らに対し、本件高架下(2)について、被告らは、東北新幹線の工事が終了した後も、当時実施の噂があった『秋葉原地区再開発事業』まで継続的に使用できるものとし、右再開発以外の理由による返還請求を一切行わないと約束した。」旨を証言するが(証人平岡四五・四六頁)、それを裏付ける証拠は乙三二の二など被告ら作成の文書のみであり、その証明力は乏しいといわざるを得ない。かえって最終の合意文書(乙三六の一・二)には「国鉄事業の推進に支障のない限り」との文言が入っていることからすれば、国鉄が右の約束をしたとまでは認めることができず、右証言はせいぜい被告らの希望を述べたにすぎないものというべきである。
五 本件高架下の利用の法的性質
1 二のとおり本件高架下は、地表を含む空間を意味し、主として高架を支える目的に供され、従として右主目的の制約下で事務所及び倉庫等として利用する目的に供されているものである。
そして、三のとおり、本件高架下(1)及び(2)には、高架橋を屋根、高架の支柱を柱及び外壁、高架下の土地または低床を床面とする簡易ながらも建物と呼ぶこともできる事務所及び倉庫等か築かれ、長年存続している。
また、四のとおり、国鉄は使用承認の形式で本件高架下を貸し付けてきたが、それは、国有財産法の適用を受けなくなった国鉄が、その所定の規則に従って被告らの了解を得て行ってきたものである。
2 そうすると、本件高架下の貸付は、国鉄が、その保有する鉄道高架線を支えるために設けた支柱(橋脚)と基礎部分(地表)とから生じた空間を利用して、便宜重複的かつ副次的に右目的を妨げない範囲で他人に簡易な建物に類する工作物を所有することを許すものということができる。そして、昭和二五年四月一日以降は国鉄には国有財産法が適用されないこととなったので、右以降の右貸付についての法律関係に適用される法規は、まず公法法規ではなく、私法法規である。さらに貸付対象が土地ではなく、地表を含む空間(地中は含まない。)であり、使用承認の主たる目的が建物所有ではないから、右貸付に適用される私法法規は、借地法ではなく、結局民法であるというべきである。そして、本件貸付規則に基づく使用承認は、国鉄が右規則に従った内部意思に基づき相手方当事者と合意により行う特約という性質を有するもので、特段の事情のない限り民法の貸借関係規定と異なる内容を特約(合意)したものとして有効となる。
なお、本件高架下の使用承認中、本件高架下(1)についてのものは、昭和三二年に設けられた本件貸付規則によるものではないが、更新時期が右規則制定後に到来して更新されると右規則に従ったものとされた(右規則付則二項)ので、本件高架下についての使用承認は、いずれも国鉄が内部的には右規則に従ってしたものということができる。のみならず、国有財産法適用下ながら、被告らとの関係でも、国鉄が使用承認を都合により取り消すことができるとの特約を合意していた事実が存在する。(甲一七)
3 したがって、右規則を受け、国鉄が相手方当事者とした期間を三年とした合意及び国鉄の都合による使用承認の取消を定めた特約は、いずれも有効な特約ということができる。借地法の適用のある事案であれば、借地人に不利な特約の効力は否定されるが、借地法の適用のない本件高架下の使用承認という私法上の無名契約においては、特約は、原則として有効であるからである。
しかも、右の三年の短期使用承認の定めや都合取消の特約の適用があることは、実質的にみても不当ではない。というのは、まず期間の定めのない賃貸借について民法による場合、賃貸人は、理由のいかんを問わずいつでも取り消すことができ、解約後一年間経過後に賃貸借は終了するとされている(民法六一八条)ので、右の特約は、利用期間を当初から三年と定める一方、民法における右一年間の猶予期間を短縮する特約ということになるからである。のみならず、第二に、本件では、前認定のとおり、国鉄から移行した原告にとって、公益上の都合の生じてきたために明渡を求める必要があり、他方、被告らにとっても、永年にわたってその利益を享受してきたという事情がある。したがって、更新がされず、使用承認が取り消されても、過去の利用実績をも踏まえて総合的にみると、被告に対して著しく不当とは到底いえないからである。そうすると高架下の構造物は、高架の従たる存在として、高架の存在とその命運を共にするので、高架が何らかの公的な目的のために取り壊されるとすれば当然消滅することを覚悟すべきものといわざるを得ない。
4 したがって、本件高架下の使用承認は、本件承認取消により終了したものというべきである。
六 損害額について
以上によれば、被告らは、本件使用承認が取り消された昭和六二年三月末日を境にして、それ以降明渡済みまで、使用料相当の損害金を原告に対して支払う義務がある。その金額は、本件使用承認が継続したとすれば要する金額によるのが相当である。甲第三八から四〇・六八・七一号証及び証人立柄の証言によれば、本件高架下(1)及び(2)の使用料は、本件高架下(1)及び(2)の最終の各使用承認における使用料(本件高架下(1)④についても同様とする。)に、国鉄施設局通達に基づいて、昭和六二年度については一倍、昭和六三年度及び平成元年度については1.1倍、平成二年度については1.2倍、平成三年度以降については1.3倍を乗じた金額になる(一〇〇円未満切り上げ)ことが認められる。なお、右使用料相当損害金については、原告主張どおり、便宜平成四年末までは確定額として計算し、平成五年一月一日以降は一か月当たりの割合によることとする。
また、被告らは、昭和六二年四月一日以降の本件高架下(1)及び(2)の使用料を供託しているところ、原告は、右が損害金としての供託ではないとして右供託金については還付請求権を行使する意思がないと認められるので、供託を考慮せずに、原告主張額を認容する。
七 結び
よって、原告の被告らに対する主文掲記の請求を認容する。なお、原告の非金銭請求については、執行のための明確性を考慮して、建物等からの収去・退去及び高架下物件の明渡として認容する。また、仮執行の宣言は、相当でないので、これを付さないこととする。
(裁判長裁判官岡光民雄 裁判官松本清隆 裁判官平出喜一)
別紙
別紙物件目録(1)〜(7)、図面(1)〜(2)<省略>