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東京地方裁判所 平成5年(ワ)4146号 判決 1994年6月29日

東京都板橋区板橋一丁目四四番一〇号

原告

株式会社ハリカ

右代表者代表取締役

原口廣一

右訴訟代理人弁護士

河合信義

水谷彌生

埼玉県幸手市中三丁目八番三九号

幸手ハリカこと

被告

松本のぶ子

右同所

被告

松本忠茂

主文

1  被告松本のぶ子は、「ハリカ」を含む表示を、その営業上の看板、カタログ、請求書、領収証、電話帳の登載名簿及び広告に使用してはならない。

2  被告松本のぶ子は、その営業上の看板、カタログ及び領収証用紙に表示した「ハリカ」を含む表示中、「ハリカ」とある部分を抹消せよ。

3  被告らは、原告に対し連帯して、金五〇万円を支払え。

4  原告のその余の請求を棄却する。

5  訴訟費用はこれを三分し、その一を原告の、その余を被告らの負担とする。この判決は、第3項に限り仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  主文第1項、第2項と同旨。

2  被告らは、原告に対し連帯して、平成五年八月七日から被告松本のぶ子(以下「被告のぶ子」という。)が主文第2項の義務を履行するまで一か月金一〇〇万円の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告らの負担とする。

4  主文第2項及び右請求の趣旨第2項について仮執行宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  請求原因

一  原告は贈答用のインテリア製品、日用品雑貨等(以下「ハリカ商品」という。)の卸及び販売等を目的とする会社であり、右商品を販売する小売店と代理店契約を締結し、ハリカ全国チェーンを組織している。

二  原告は、昭和五六年九月一九日、被告のぶ子との間で次の約定によりハリカ商品を同被告に卸売りするハリカ代理店契約(以下「本件代理店契約」という。)を締結した。

1  被告のぶ子は、原告に対する買掛代金を原則として毎月二五日締切り、翌月一〇日限り現金で支払う(第三項(1)号)。

2  原告は、被告のぶ子に対し、ハリカ商品販売のため「ハリカ」という商標の使用を認める(第四項(1)号)。

3  被告のぶ子が原告に対し、右1の代金支払いを遅滞したときは、原告は催告を要せず本件代理店契約を解除することができる(第五項(2)号)。

4  被告のぶ子が本件代理店契約を解除されたときは、被告のぶ子は速やかに「ハリカ」文字と同一もしくは類似の名称を商号または営業表示並びに商品の標章として使用することを中止し、この場合被告のぶ子が所持する「ハリカ」の名称がついたパンフレット及びカタログ等を直ちに原告に交付し、一〇日以内に商号、看板及び伝票等を変更しなければならない(第六項(3)号)。

5  被告のぶ子が右4記載の義務を履行しないときには、同被告は、原告に対し、直ちに相応の違約金を支払う(第六項(4)号)。

三  被告松本忠茂(以下「被告忠茂」という。)は、原告に対し、昭和五六年九月一九日、被告のぶ子が本件代理店契約に基づき原告に対して負担する債務について、同被告のため連帯保証する旨約した(以下「本件連帯保証契約」という。)。

四  その後原告は、被告のぶ子に対し本件代理店契約に基づいて、各種ハリカ商品を売り渡したが、同被告は右代金の支払いを延滞し、昭和五九年三月二六日以前に支払うべき右代金は合計一八八五万六二一五円であった。

五  原告は、被告のぶ子に対し口頭で、同月三〇日、本件代理店契約第五項(2)号に該当することを理由として右契約を解除する旨の意思表示をした。

六1  被告のぶ子は、埼玉県幸手市中一丁目一番四〇号において、その後も今日に至るまで、贈答品類の販売を行っている(以下被告のぶ子が右の営業を行っている店舗を「本件店舗」という。)ところ、被告のぶ子は、本件店舗の内外に「幸手ショッピングハリカ」及び「幸手ハリカ」の看板を掲げて「ハリカ」の表示を使用し、カタログ及び領収証にも「幸手ハリカ」の表示を用いている。

2  被告のぶ子は、日本電信電話株式会社発行の電話帳に「幸手ハリカ(有)」との表示をし、株式会社ゼンリン発行の幸手市ゼンリンの住宅地図上にも「幸手ハリカ」と表示している。

七  原告は、ハリカ全国チェーンの代理店の一つとして「ハリカ久喜店」を出店しているところ、被告のぶ子が幸手市において「幸手ハリカ」の名称を使用して営業しているため、久喜及び幸手の両市を販売地区とする「ハリカ久喜店」の営業は多大の損害を受けており、代理店に対する出荷により利益を得ている原告の営業にも損害が生じている。

被告のぶ子の本件店舗は、店の外装内装とも劣悪で、原告のチェーン店としての営業上のイメージを著しく傷付け、信用を低下させている。

右各事情を考慮すれば、前記二5の違約金額は一か月につき一〇〇万円が相当である。

八  よって、原告は、被告のぶ子に対しては本件代理店契約に基づき、被告忠茂に対しては本件連帯保証契約に基づき、請求の趣旨記載どおりの判決を求める。

第三  請求原因に対する認否

(被告のぶ子)

一  請求原因一の事実は知らない。

二  請求原因二中、原告と被告のぶ子との間で、昭和五六年九月一九日、ハリカ代理店契約が締結され、被告のぶ子が「ハリカ」の商標を使用することが認められたことは認め、その余は否認する。

三  請求原因四中、原告が被告のぶ子に対し本件代理店契約に基づき各種ハリカ商品を売り渡したことは認め、その余は否認する。

四  請求原因五は否認する。

五  請求原因六は認める。

六  請求原因七中、原告が「ハリカ久喜店」を出店していることは認め、その余は否認する。

七  請求原因八は争う。

(被告忠茂)

一  請求原因一及び二は知らない。

二  請求原因三は否認する。

三  請求原因四及び五は知らない。

四  請求原因六中、被告のぶ子が本件店舗で「ハリカ」の名称を使用して営業していることを認め、その余は知らない。

五  請求原因七は知らない。

六  請求原因八は争う。

第四  証拠関係

証拠の関係は、記録中の証拠に関する目録記載のとおりである。

理由

一  被告のぶ子作成部分について、原告と同被告との間では、同被告の名下及び書類上部の同被告の印影が真正に成立したものであることは争いがないから同被告作成部分は真正に成立したものと推定され、被告忠茂との間では、被告のぶ子本人尋問の結果により真正に成立したものと認められ、被告忠茂作成部分については、被告忠茂の名下、書類上部及び印紙消印部の印影が被告忠茂の印章によるものであることは当事者間に争いがないので、右の印影は被告忠茂の意思に基づいて顕出されたものと推定されるから真正に成立したものと推定され、その余の部分については証人小宮山知子の証言により真正に成立したものと認められる甲第一号証の一、証人織田澤選の証言により真正に成立したものと認める甲第一五号証及び同証言によれば、請求原因一の事実が認められる。

二  原告と被告のぶ子との間では、原告と被告のぶ子との間で、昭和五六年九月一九日、ハリカ代理店契約が締結され、被告のぶ子が「ハリカ」の商標を使用することが認められたことは争いがなく、前記甲第一号証の一、甲第一五号証、成立に争いのない甲第一号証の二ないし四、証人織田澤選の証言並びに被告のぶ子及び被告忠茂本人尋問の結果によれば、原告と被告のぶ子との間で、昭和五六年九月一九日、請求原因二1ないし5の約定により、ハリカ商品を同被告に卸売りする本件代理店契約が締結されたこと、被告忠茂はその直前頃、被告のぶ子に対し、原告と被告のぶ子との間の本件代理店契約において被告のぶ子が負う債務を連帯保証する代理権限を授与し、被告のぶ子は、前同日、被告忠茂のために、原告と、本件代理点契約において被告のぶ子が負う債務を連帯保証する契約を締結したことが認められる。

三  原告と被告のぶ子との間では、原告が同被告に対し、本件代理店契約に基づき各種ハリカ商品を売り渡したことは争いがなく、前記甲第一五号証、証人織田澤選の証言により原本の存在及び成立を認める甲第二号証及び甲第九号証、証人織田澤選の証言及び被告のぶ子本人尋問の結果によれば、被告のぶ子は本件店舗において、本件代理店契約に基づき原告から仕入れた各種ハリカ商品を販売する贈答品の販売業をしていたが、原告に対する買掛債務の支払いが滞りがちで、昭和五九年三月二六日の時点で、支払期日を徒過した買掛債務が一八八五万六二一五円にのぼったこと、そのため原告の専務取締役で、被告のぶ子との取引きの担当者であった織田澤選は、被告のぶ子との取引継続は困難であると判断し、原告の担当部署である営業部に本件代理店契約の解除及び売掛金の回収を指示したが、被告のぶ子が、原告からの代理店契約解除の内容証明郵便の受領を拒絶したため、同月三〇日、原告の当時の総務部長の渡辺一が、織田澤選の指示を受けて本件店舗に赴き、被告のぶ子に対し、本件代理店契約の契約解除事由である原告に対する買掛債務の弁済遅滞などを根拠に、本件代理店契約を解除することを口頭で伝えたことが認められ、右によれば本件代理店契約は前記請求原因二3の約定に従い右契約解除の意思表示により解除されたものと認められる。

したがって、被告のぶ子は、前記請求原因二の4及び5の約定により、「ハリカ」の文字と同一、もしくは類似の商号、営業表示の使用を中止するとともに、一〇日以内に「ハリカ」の名称のついた看板、伝票等の変更を行なうべき義務を負い、また右債務を履行しない場合には、直ちに相応の違約金を支払う義務を負うものである。

四  請求原因六の事実は、原告と被告のぶ子との間では当事者間に争いがない。原告と被告忠茂との間では、請求原因六中、被告のぶ子が本件店舗で「ハリカ」の名称を使用していることは争いがなく、いずれも成立に争いのない甲第六号証、甲第七号証の一、二、甲第一四号証、被告のぶ子本人尋問の結果により成立を認める甲第八号証、撮影対象について争いなく、証人織田澤選の証言により渡辺一が平成二年四月一日および平成四年八月五日本件店舗を撮影した写真であることが認められる甲第一三号証の一ないし五、証人織田澤選の証言、被告のぶ子本人尋問の結果によれば、請求原因六のその余の事実が認められる。

したがって、被告のぶ子は、前記請求原因二4の約定による代理店契約が解除された場合に「ハリカ」文字と同一もしくは類似の商号、営業表示の使用を中止し、一〇日以内に「ハリカ」の名称のついた看板、伝票等の変更を行なうべき債務を履行しなかったものであり、前記請求原因二5の約定による相応の違約金を支払うべき義務を負うものである。

五  原告は前記請求原因二5の約定について、一か月につき一〇〇万円の割合で継続的に違約金支払義務を生じさせるものであるとの前提で、請求の趣旨第2項の裁判を求めるが、前記甲第一号証の一によって認められる右約定の「万一、第六項(3)号を不履行の場合は何等法的手続きを取る事なく、直ちに相応の違約金を支払うものとする」との文言をもって履行にいたるまで継続的に違約金支払義務が発生する趣旨と解することは相当でなく、一回のみの違約金支払義務を定めたものと認めるべきであり、原告の右主張中、継続的に違約金支払義務が発生することを前提とする部分は採用できない。

そこで、右約定に定められた相応の違約金の額について判断するに、右約定には特段の算定基準が示されていないから、諸般の事情を総合して定めるのが相当であるところ、前記甲第一号証の一、甲第一五号証及び証人織田澤選の証言、被告のぶ子本人尋問の結果によれば、本件代理店契約には、被告のぶ子が原告に対し「ハリカ」の商標の使用の対価あるいは、それを含むロイヤルティを支払うべき旨の合意は含まれていないこと、原告と代理店契約を結び「ハリカ」の商標、営業表示の使用を許諾されている販売店は全国に約二〇〇店舗あり、原告の開発した独自商品を含む贈答品を販売しており、原告は少なくとも過去にはテレビコマーシャルをしていたこと、被告のぶ子も「ハリカ」の営業表示の使用の継続に執着していることが認められ、これらの事実から、「ハリカ」の営業表示の使用には有形、無形の何らかの営業上の利益があるものと推認されること、証人織田澤選の証言によって認められる、被告のぶ子は、かって、本件店舗において月額四〇〇万ないし五〇〇万円程度の売上げをあげていて、粗利が三割程度の事業規模であったこと、前記四認定の被告のぶ子の「ハリカ」の名称を含む「幸手ハリカ」などの営業表示の使用態様を合わせ考えれば、被告のぶ子が請求原因二4の約定による債務を右条項の定めるところにしたがい履行しなかったことによる相応の違約金は五〇万円と認めるのが相当であり、これを上回るものと認めるに足りる証拠はない。

六  以上によれば、本件代理店契約及び本件連帯保証契約に基づく原告の本訴請求は、主文第1項ないし第3項掲記の限度で理由があるから認容し、その余は失当であるから棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法九二条本文、九三条本文を、仮執行宣言について同法一九六条一項を(なお、主文第2項について仮執行宣言を付するのは相当でない)各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 西田美昭 裁判官 髙部眞規子 裁判官 櫻林正己)

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