大判例

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東京地方裁判所 平成5年(ワ)6229号 判決 1994年1月31日

原告

バークレイズ・バンク・ピー・エル・シー

右代表者取締役代理(Deputy Risk Man-agement Director)

レジナルド・ジェームズ・カーター

原告

トランスエッジ・リミテッド

右財産管理人(Ad-ministrative Receiver)

レイモンド・ホッキング

ピーター・リチャード・コップ

原告ら訴訟代理人弁護士

北新居良雄

被告

株式会社ジャパン・プランニング・アソシエーション

右代表者代表取締役

梁田義秋

右訴訟代理人弁護士

井上智治

吉野正三郎

千原曜

久保田理子

清水三七雄

原口健

大久保理

河野弘香

野間自子

本山信二郎

船橋茂紀

主文

1  連合王国イングランド及びウェールズ高等法院女王座部が原告バークレイズ・バンク・ピー・エル・シーと被告との間の同裁判所1991-B-NO-7065事件について平成四年二月十二日に言い渡した「被告は、原告バークレイズ・バンク・ピー・エル・シーに対し、四三七九万四七九三円九〇銭、利息二六四万〇八二一円四〇銭(三四〇〇万円に対する最高法院一九八一年法三五条Aの規定に基づく年一五パーセントの割合による利息)及び訴訟費用242.50ポンドを支払え。」との判決に基づき、原告バークレイズ・バンク・ピー・エル・シーが被告に対して強制執行をすることを許可する。

2  原告トランスエッジ・リミテッドの請求を棄却する。

3  訴訟費用中、原告バークレイズ・バンク・ピー・エル・シーと被告との間に生じたものは被告の負担とし、原告トランスエッジ・リミテッドと被告との間に生じたものは原告トランスエッジ・リミテッドの負担とする。

4  この判決は、原告バークレイズ・バンク・ピー・エル・シーの勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一原告ら

1  主文1項と同旨

2  連合王国イングランド及びウェールズ(以下「英国」という。)高等法院女王座部が原告トランスエッジ・リミテッド(以下「原告会社」という。)と被告との間の同裁判所1991-T-NO-2940事件について平成四年二月一二日に言い渡した「被告は、原告会社に対し、一九一四万二四六五円六四銭、利息一〇三万五六一五円八〇銭(一五〇〇万円に対する最高法院一九八一年法三五条Aの規定に基づく年一五パーセントの割合による利息)及び訴訟費用242.50ポンドを支払え。」との判決に基づき、原告会社が被告に対して強制執行をすることを許可する。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決及び仮執行の宣言を求める。

二被告

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

との判決を求める。

第二事案の概要

一(前提事実)

1  原告バークレイズ・バンク・ピー・エル・シー(以下「原告銀行」という。)は、英国法に基づいて設立された銀行であって、その本店をロンドン市に、その支店を東京都に有するものであり、原告会社は、英国法に基づいて設立された会社であって、その本店をロンドン市に有するものであり、被告は、東京都に本店を有する我が国の株式会社法に基づいて設立された株式会社であって、英国の領土内にはその支店又は営業所を有してはいない(争いがない)。

英国高等法院女王座部は、平成四年二月一二日、原告銀行と被告との間及び原告会社と被告との間の前記「当事者の求めた裁判」欄記載の各訴訟事件(原告銀行と被告との間の右訴訟事件を以下「本件第一事件」といい、原告会社と被告との間の右訴訟事件を以下「本件第二事件」という。)について、同欄記載のとおりの各判決(以下「本件外国判決」という。)を言い渡したが、これらの判決は、そのまま確定をみた(<書証番号略>及び弁論の全趣旨)。

2  本件第一事件にかかる原告銀行の請求は、原告銀行がその本店において原告会社に対して貸し付けた貸付金債務について、被告が昭和六二年一二月一七日に原告銀行東京支店で原告銀行との間において締結した債務保証契約に基づき、保証債務の履行を求めたものであって(争いがない)、右債務保証契約の契約書(英文)には、「この債務保証契約についての準拠法は、英国法とする。」、「原告銀行は、この債務保証契約に関する訴えを英国の高等法院に提起することができる。ただし、右の定めは、被告が他の然るべき裁判所へ訴えを提起することを妨げるものではない。」との趣旨の条項が含まれている(<書証番号略>)。

また、本件第二事件にかかる原告会社の請求は、被告が訴外カウントエイト社(英国法に基づいて設立された会社であって、ロンドン市にその本店を有する。)から買い受けたファッション・ショウのビデオ・フィルムの売買代金について、原告会社が訴外カウントエイト社から債権の譲渡を受けて、その支払いを求めたものである。(<書証番号略>及び弁論の全趣旨)。

3  本件第一事件及び本件第二事件について高等法院が発した被告に対する各召喚状は、高等法院の嘱託に基づき、東京地方裁判所によって被告に送達されたが、被告は、いずれも期日に出頭せず、原告らの請求を争わなかった(争いがない)。

そこで、高等法院は、前記のとおり、いわゆる欠席判決として原告ら勝訴の本件外国判決を言い渡したものである(<書証番号略>)。

二争点

本件の争点は、本件外国判決が民事訴訟法二〇〇条各号所定の条件を具備しているかどうかにあるものであって、これについての当事者の主張は、次のとおりである。

(原告ら)

1 被告は、本件第一事件については、英国の高等法院を管轄裁判所とする付加的な管轄の合意をしているものであるほか、本件第一事件及び本件第二事件についての準拠法はいずれも英国法であり、本件第一事件及び第二事件についての義務履行地はいずれも原告らの各本店所在地であると解すべきであるから、本件第一事件及び本件第二事件についての国際裁判管轄権はいずれも英国にあるものと解するのが相当である。

2 英国における外国判決の承認の条件は、我が国におけるそれと実質的に同等ということができるのであって、これによって相互の保証の条件は充足されているものと解するのが相当である。

(被告)

1 被告の代表取締役梁田義秋は、原告銀行から債務保証契約の契約書についてなんらの説明も受けることなく、その内容を理解しないままに、右契約書に会社印及び代表取締役印を押捺したに過ぎないのであって、右契約書に前記のような管轄の合意に関する条項が含まれていたとしても、これによって管轄の合意が有効に成立したものということはできない。

また、右債務保証契約及びビデオ・フィルムの売買契約は、いずれも我が国において締結されたものであること、本件第二事件についての準拠法は、日本法であると解すべきであること、被告は、英国には支店、営業所等を一切有しておらず、英国において訴訟の追行をすることが著しく困難であるのに対して、原告銀行は、我が国に支店を有していて、我が国において訴訟の提起・追行を行うことが極めて容易であることなどに照らすと、本件第一事件及び本件第二事件についての国際裁判管轄権は、いずれも我が国にあるものであって、英国にはないと解するのが相当である。

2 英国法の下においては、外国の裁判所が英国の国民又は英国法に基づいて設立された会社に対して言い渡したいわゆる欠席判決が承認され執行されるためには、当該国民若しくは会社が当該外国において営業所若しくは事務所を有しているか又は代理人を雇って営業活動を行っているという事実が必要とされているのであって、これらの事実がない場合においては、当該外国の国際裁判管轄権は認められないものとされている(Adams V ・ Cape Industries Plc ・(1990)2 Weekly Law Reports 657参照)。

そして、被告は、英国において営業所若しくは事務所を有し又は代理人を雇って営業活動を行ったようなことはないのであるから、被告に対していわゆる欠席判決として言い渡された本件外国判決は、いずれも「相互の保証」の条件を具備していない。

3 本件第一事件についての債務保証契約の契約書には、保証債務の額は四〇〇〇万円と記載されているけれども、原告銀行が原告会社に貸し付けた実際の貸付額は明らかではなく、また、本件外国判決は、被告に対して最高法院一九八一年法三五条Aの規定に基づく年一五パーセントの割合による利息の支払いを命じているけれども、右利息の割合は、我が国の利息制限法に違反するものである。

したがって、本件外国判決は、我が国における公の秩序または善良の風俗に反するものである。

第三争点に対する判断

一本件外国判決が外国裁判所の有効な確定判決であることは、既にみたところから明らかである。

二そこで、本件外国判決が民事訴訟法二〇〇条各号所定の条件を具備しているかどうかについて判断する。

先ず、民事訴訟法二〇〇条一号所定の条件(国際裁判管轄権の存在)については、本件第一事件についての債務保証契約の前記契約書には、「原告銀行は、この債務保証契約に関する訴えを英国の高等法院に提起することができる。ただし、右の定めは、被告が他の然るべき裁判所へ訴えを提起することを妨げるものではない。」との趣旨の条項が含まれていることは、先にみたとおりであって、その趣旨が本件第一事件について英国の高等法院を追加的な管轄裁判所とする旨の国際裁判管轄の合意であることは明らかである。そして、本件第一事件の事案は、我が国の裁判権に専属的に服するという類のものではないのであるから、右のような国際裁判管轄の合意が書面によってなされたときには、これによって当該合意にかかる判決国の一般管轄権を基礎づけることができるものということができる。

被告は、この点について、原告銀行から債務保証契約の契約書について説明を受けることなく、その内容を理解しないままに、代表取締役梁田義秋において会社印及び代表取締役印を押捺したに過ぎず、これによって管轄の合意が有効に成立したものということはできないと主張し、<書証番号略>中にはこれにそった記載があるけれども、<書証番号略>及び弁論の全趣旨を総合すると、被告の代表取締役梁田義秋は、昭和六二年一二月初め頃以降、原告銀行から債務保証契約の契約書案の送付を受けるなどして交渉を続けたうえで、同月一七日には自ら原告銀行東京支店に赴いて、右契約書に会社印及び代表取締役印を押捺するなどして、債務保証契約を締結したものであることが認められるのであって、このような経過に鑑みると、直ちに被告の右のような弁疏を採用することはできない。かえって、右のような経過に照らすと、右国際裁判管轄の合意は、有効に成立したものというべきであり、したがって、本件第一事件については、我が国の国際民事訴訟法の原則に照らして、英国の裁判所が国際裁判管轄権を有するものと解するのが相当である。

次に本件第二事件については、右にみたような国際裁判管轄の合意がなされたとか、被告が英国の領土内においてその支店若しくは営業所を有し又はそこで代理人を雇うなどして継続的な営業活動を行っていたものと認めるべき証拠はない。

そして、原告会社は、準拠法が英国法であると解すべきこと及び義務履行地が原告会社の本店所在地であると解すべきであることを本件第二事件について英国の裁判所が国際裁判管轄権を有することの根拠として主張する。しかしながら、先ず、準拠法の如何は、それだけで直ちに一般管轄権を基礎づけるものではない。また、義務の履行地についても、<書証番号略>及び弁論の全趣旨によれば、被告と訴外カウントエイト社との間のビデオ・フィルムの売買契約については、売買契約書が作成されたようなことはなく、したがって、契約上義務の履行地が明示されていたというものではないことが認められるのであって、原告会社の主張も、結局、契約準拠法上の法原則によれば本件第二事件の義務の履行地は原告会社の本店所在地となるというに尽きるものであることが明らかである。

そして、そもそも義務の履行地が国際裁判管轄の原因として合理性を有する所以は、債務者がその地における義務の履行を予期していることから、その地での応訴を要求しても不当ではないとする点にあると解されるところ、右のように契約準拠法上の法原則の適用によって初めて義務の履行地が定まるというような場合において、とりわけ当該債務が金銭債務であるようなときには、右のような合理性は著しく希薄なものとならざるを得ない。したがって、右のような場合においては、単に義務の履行地であるということのみをもっては国際裁判管轄権を基礎づけることはできず、他になんらかの補強的な関連を要するものと解するのが相当である。

これを本件についてみると、<書証番号略>及び弁論の全趣旨によれば、被告と訴外カウントエイト社との間のビデオ・フィルムの売買契約の締結地は、かえって我が国であったことが認められるし、他には本件第二事件と英国の裁判所による国際裁判管轄権とを連結する補強的な関連を認めるべき証拠はない。

したがって、本件第二事件については、英国の裁判所は、国際裁判管轄権を有しないものと解するのが相当である。

三次に、民事訴訟法二〇〇条四号所定の条件(相互の保証)について検討すると、右法条にいわゆる「相互の保証あること」とは、我が国が外国判決を承認するのと同様に、当該外国も我が国の判決を承認することをいい、この場合において、当該外国の定める条件と我が国の条件とが重要な点において異ならず又は実質的に同等であれば足りるものと解するのが相当である。

そして、<書証番号略>及び弁論の全趣旨によれば、英国においては、外国の裁判所によって勝訴判決を得た債権者は、当該外国判決に基づく訴え(Action on the Foreign Judgement)を提起することができ、その認容判決を得てその執行することができるものとされており、そのためには、右の訴訟において、当該判決国が英国の国際民事訴訟法の原則に照らして当該被告に対する国際裁判管轄権を有するものであることが認められるのでなければならず、(なお、そこでは「相互の保証」は要件とはされていない。)、これに対して、当該被告は、当該外国判決が詐取されたものであること、当該外国判決の執行が英国法の公序に反するものであること又は当該外国裁判所の手続が英国の自然的正義に反するものであることのいずれかの抗弁を援用することができるにとどまるものとされていることを認めることができる。

このように、英国においては、外国判決そのものの効力を承認してその執行を許可するといういわゆる執行判決の制度が採られているものではないけれども、被告が当該訴訟において援用できる抗弁は、前記のものに限られており、それらは、結局、民事訴訟法二〇〇条二号又は三号所定の条件と同一内容であるか又はそれに包摂されるものと解することができ、そこで外国判決のいわゆる実質的再審査が行われるものではないのであるから、右の手続又は形式の相違を捉らえて「相互の保証」に欠けるものとするのは相当ではないし、外国判決に対して執行を許可するための条件ないし要件に彼此において実質的に差異があるものということもできない。

したがって、我が国におけると英国におけるとでは、外国判決に対して執行を許可するための条件ないし要件は、重要な点において異ならず又は実質的に同等であるものということができるから、ここに「相互の保証」の条件は充足されているものと解するのが相当である。

なお、被告は、英国法の下においては、外国の裁判所が言い渡したいわゆる欠席判決が承認され執行されるためには、当該判決の被告が当該外国において営業所若しくは事務所を有しているか又は代理人を雇って営業活動を行っているという事実が必要であるとされており、これらの事実がない場合においては、当該外国の国際裁判管轄権は認められないものとされているとし、英国において営業所若しくは事務所を有し又は代理人を雇って営業活動を行ったことのない被告に対していわゆる欠席判決として言い渡された本件外国判決は、相互の保証の条件を具備していないと主張し、その援用する先例<書証番号略>によれば、英国法において右のような法理が存在することを認め得ないではないけれども、他方、国際裁判管轄の合意が存在する場合においては、英国法の下においても右のような法理を適用する余地のないものであることもまた明らかであって、被告の右主張は、国際裁判管轄の合意が存在する本件第一事件に関する限りにおいては、失当である。

四最後に、被告は、本件第一事件について、原告銀行が原告会社に貸し付けた実際の貸付額が明らかではないこと又は本件外国判決が被告に対して最高法院一九八一年法三五条Aの規定に基づく年一五パーセントの割合による利息の支払いを命じたことをもって、本件外国判決は、我が国における公の秩序又は善良の風俗に反すると主張するけれども、民事訴訟法条二〇〇条三号にいわゆる外国判決が我が国における公の秩序又は善良の風俗に反しないこととは、外国判決をそのまま承認して執行することが我が国の公益や道徳律に反するものとして是認できないようなものではないことを意味し、被告の主張するような事項がこれに当たらないことは明らかである。

そして、本件第一事件についての本件外国判決は、その内容、成立手続等に照らして、我が国における公の秩序又は善良の風俗に反するものであるとはいえないから、民事訴訟法条二〇〇条三号所定の公序良俗に関する条件も具備しているものということができる。

そうすると、本件第一事件についての本件外国判決は、民事訴訟法条二〇〇条各号所定の条件をすべて具備したものであって(なお、同条二号所定の条件については、第二事案の概要の一(前提事実)の3参照。)、これを承認し、その執行を許可すべきものであることが明らかである。

第四結論

以上によれば、原告銀行の本訴請求は理由があるからこれを認容し、原告会社の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとして、訴訟費用の負担については民事訴訟法八九条、仮執行の宣言については同法一九六条の各規定を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官村上敬一)

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