東京地方裁判所 平成5年(ワ)9419号 判決 1994年6月17日
原告
佐土洋一
被告
練馬交通株式会社
主文
一 被告は、原告佐土洋一に対し金一八万四二〇〇円、原告佐土裕子に対し金一六万八二〇〇円及び原告佐土忠に対し金七四万〇四〇〇円並びに右各金員に対する平成五年一月一〇日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用は、これを五分し、その四を原告らの、その余を被告の負担とする。
四 この判決第一項は仮に執行することができる。
事実及び理由
第一原告らの請求
被告は、原告佐土洋一に対し金一三六万〇三五七円、原告佐土裕子に対し金一二八万八四一〇円及び原告佐土忠に対し金一八八万六六八〇円並びに右各金員に対する平成五年一月一〇日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
一 争いのない事実等
1 被告の従業員である西村勝弘は、平成五年一月一〇日午前一〇時ころ、被告の保有にかかる普通乗用自動車(以下「加害車両」という。)を、その業務に関して運転し、東京都練馬区中村北二丁目二六番先交差点において、進路前方の信号が赤色であるのを見落として千川通り方面から鷺ノ宮方面に向かつて同交差点に漫然と侵入した過失により、青色の信号表示に従つて同交差点を練馬方面から中杉通り方面に向かつて進行中の原告佐土洋一(以下「原告洋一」という。)運転、原告佐土裕子(以下「原告裕子」という。)同乗の、原告佐土忠(以下「原告忠」という。)の所有にかかる普通乗用自動車(以下「被害車両」という。)の右前部に加害車両の右前部を衝突させ、被害車両を大破するとともに、原告洋一に対して頸椎捻挫の、原告裕子に対して頸椎・腰部捻挫の各傷害を負わせた(争いのない事実、甲一、二、三、八、九、二一、二二)。
2 被告は、前記事故の加害車両の運行供用者として、原告洋一及び原告裕子に対し、並びに加害車両の運転者の使用者として原告忠に対し、それぞれその損害を賠償すべき義務がある(争いがない)。
二 本件の争点
被告は損害額を争う。
第三争点に対する判断
一 原告洋一の損害について
1 治療費(請求額金五万二八二〇円) 五万二八二〇円
証拠(甲八)により認められる。
2 通院交通費(請求額五〇七〇円) 〇円
証拠(甲八)によれば、原告洋一は、平成五年一月一四日から同年二月二〇日までの間に四日通院したことが認められるが、その間通院交通費を支出したことを認めるに足りる証拠はない。
3 労働能力喪失率相当損害額(請求額一一万八二八七円) 〇円
原告洋一は、本件事故による後遺障害として、頸部の重い感じ、肩凝り症状のほか、天候の悪いときには頭重感も加わるとし、これらの苦痛により労働能力が低下したとして、五パーセントの労働能力を六カ月程度喪失した旨主張するが、原告洋一に本件事故による後遺障害が存すること及び後遺障害により労働能力が喪失したことについてはいずれもこれを認めるに足りる証拠はない。
4 慰謝料(請求額一〇九万五八〇〇円) 二〇万円
原告洋一の傷害の程度、通院期間等本件にあらわれた一切の事情に鑑みると、傷害による慰謝料は二〇万円と認めるのが相当である。
原告洋一は、後遺障害の慰謝料(請求額四五万円)及びいわゆる懲罰的慰謝料(請求額五〇万円)も請求するところ、本件事故による後遺障害の存在が認められないことは前記認定のとおりであり、また、慰謝料をもつて、傷害により被つた肉体的・精神的苦痛に対する賠償という機能のほかに、制裁としての機能を有するものと認めることはできないというべきであるから、これらの点を理由とする慰謝料を認めるのは相当ではない。また、本件にあつては、通常の範囲を超えて慰謝料の増額を考慮すべき特段の事情は認められないというべきである。
5 損害の填補
原告洋一に対しては、損害の填補として八万八六二〇円が支払われた(争いがない)。
6 弁護士費用(請求額一七万七〇〇〇円) 二万円
本件事故と相当因果関係のある弁護士費用の相当額は二万円と認めるのが相当である。
二 原告裕子の損害について
1 治療費(請求額金四万〇五八〇円) 金四万〇五八〇円
証拠(甲九)により認められる。
2 通院交通費(請求額五〇七〇円) 〇円
証拠(甲九)によれば、原告裕子は、平成五年一月一四日から同年二月二〇日までの間に四日通院したことが認められるが、その間通院交通費を支出したことを認めるに足りる証拠はない。
3 労働能力喪失率相当損害額(請求額七万一三四〇円) 〇円
原告裕子は、本件事故の後遺症状として、頸部痛、頭重感、動作時の腰痛があるとし、これらの苦痛により労働能力が低下したとして、五パーセントの労働能力を六カ月程度喪失した旨主張するが、原告裕子に本件事故による後遺障害が存すること及び後遺障害により労働能力が喪失したことについてはいずれもこれを認めるに足りる証拠はない。
4 慰謝料(請求額一〇九万五八〇〇円) 二〇万円
原告裕子の傷害の程度、通院期間等本件にあらわれた一切の事情に鑑みると、受傷による慰謝料は二〇万円と認めるのが相当である。
原告裕子は、後遺障害の慰謝料(請求額四五万円)及びいわゆる懲罰的慰謝料(請求額五〇万円)も請求するところ、本件事故による後遺障害の存在が認められないことは前記認定のとおりであり、また、慰謝料をもつて、傷害により被つた肉体的・精神的苦痛に対する賠償という機能のほかに、制裁としての機能を有するものと認めることはできないというべきであるから、これらの点を理由とする慰謝料を認めるのは相当ではない。また、本件にあつては、通常の範囲を超えて慰謝料の増額を考慮すべき特段の事情は認められないというべきである。
5 損害の填補
原告裕子に対しては、損害の填補として九万二三八〇円が支払われた(争いがない)。
6 弁護士費用(請求額一六万八〇〇〇円) 二万円
本件事故と相当因果関係のある弁護士費用の相当額は二万円と認めるのが相当である。
三 原告忠の損害について
1 レツカー料金(請求額五万〇四〇〇円) 五万〇四〇〇円
証拠(甲一〇、一一)により認められる。
2 修理代見積額(請求額三万円) 三万円
証拠(甲一二)により認められる。
3 被害車両損害(請求額一二六万〇二八〇円) 五八万円
原告忠は、被害車両の修理費用として、日産プリンス東京販売株式会社練馬営業所が作成した見積書を提出し、右見積額一二六万〇二八〇円をもつて損害額であると主張する。
しかしながら、交通事故により中古車両を破損された場合において、当該車両の修理費相当額が破損前の当該車両と同種同等の車両を取得するに必要な代金額の基準となる客観的交換価格を著しく超えるいわゆる全損にあたるときは、特段の事情のない限り、客観的交換価値を超える修理費相当額をもつて損害であるとしてその賠償を請求することは許されず、客観的交換価値からスクラツプ代金を控除した残額の賠償で足りるというべきである。
ところで、被害車両が中古車であつて、本件事故により全損の状態となつたことは当事者間に争いがない。そこで事故時の被害車両の客観的な交換価格について検討するに、右交換価格は、被害車両と同一の車種・年式・型・同程度の使用状態、走行距離等の自動車を中古車市場において取得し得るに要する価額をもつて定めるべきところ、右は、いわゆるレツドブツクによる中古車市場価格に求めるのが合理的であるというべく、証拠(乙三)によれば、被害車両と同型・同一年式の本件事故当時における中古車市場価格は五八万円であつたことが認められる(原告忠は、被害車両は、保管、利用状態が良く、走行距離も少なくて中古車としては良好な状態にあるとして、高額に算定されると主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。)。また、証拠(甲二四の1)によれば、原告忠は、被害車両を有償譲渡することなく廃車としたが、スクラツプ代金等は受け取つていないことが認められる。なお、本件にあつては、被害車両と同種同等の自動車を中古車市場で取得することが至難であるとか、あるいは、多額の修理費を投じても被害車両を修理し引き続き使用したいと希望することを社会通念上是認するに足りる相当の事情が存するなどの特段の事情は見当たらない。したがつて、車両損害は五八万円と認めるのが相当である。
4 慰謝料(請求額三〇万円) 〇円
自動車は代替性のある物件であつて、被害者の愛情利益や精神的平穏を強く害されるような特段の事情が存する場合を除いては、その損傷のために財産上の損害賠償によつては回復し得ない精神的苦痛が残存することはことないというべきである。本件にあつては、右のような特段の事情の存在は認められない。
5 弁護士費用(請求額二四万六〇〇〇円) 八万円
本件事故と相当因果関係のある弁護士費用の相当額は八万円と認めるのが相当である。
四 結論
以上のとおりであるから、原告らの請求は、被告に対して、自賠法三条本文に基づく損害賠償として、原告洋一において一八万四二〇〇円、原告裕子において一六万八二〇〇円、民法七一五条一項に基づく損害賠償として原告忠において七四万〇四〇〇円並びにこれらに対する本件事故の日である平成五年一月一〇日から支払い済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度において理由があるから、これを認容することとし、その余の請求はいずれも失当であるから棄却することとする。
(裁判官 齋藤大巳)