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東京地方裁判所 平成5年(ヲ)2115号 決定 1993年3月10日

当事者の表示 別紙当事者目録記載のとおり

主文

1  相手方らは、別紙物件目録記載の建物(以下「本件建物」という。)から、本決定送達後七日以内に退去せよ。

2  執行官は、相手方らが本件建物から退去するまでの間、相手方らに対して主文第一項記載の命令が発令されていることを公示しなければならない。

理由

1本件は、売却のための保全処分として主文記載の命令を求める事件である。

2記録によれば、次の事実が疎明される。

(1)  申立人は、抵当証券に関連する金銭の貸付および抵当証券の管理などを目的とする株式会社である。申立人は、昭和六三年六月三〇日、A株式会社に対し、金六億円を、弁済期を同年九月三〇日と定めて貸し付けた。同貸金の担保として、A株式会社は、本件建物に申立人のために抵当権を設定した。その後、同貸金の弁済期は平成元年五月三一日に延期されたが、A株式会社は同弁済期を経過するも弁済しなかった。

A株式会社は、築地地区を中心に営業している地上げ業者であったが、平成元年九月ころ、暴力団が関与する事件に関連するなどし、そのころから経営状態が悪化した。申立人は、平成元年一二月二七日、A株式会社に対し、前記貸金を平成二年一月一五日までに返済するよう催告した。しかし、返済されなかったので、申立人は、平成二年一月一九日、本件建物につき、当庁に抵当権の実行としての競売の申立をし、同日競売開始決定がなされた。平成二年三月二日、A株式会社は、第一回目の不渡りを出して、事実上倒産し、商業登記簿上の本店所在地である本件建物には現在事務所は存在しない。A株式会社の代表取締役であった○田○夫は平成三年三月一日死亡しており、現在会社として営業はしていない。

(2)  現況調査担当執行官が、平成二年二月、本件建物に臨場したところ、本件建物の一階及び二階は相手方Bと関係を有する株式会社○○○ゴルフが事務所として使用していた。三階は相手方Bが同人が組長である稲川会佃政一家B組の事務所として使用し、四階は同組組員の宿舎としていた。相手方Bは、平成元年一二月二七日、A株式会社から本件建物の三階及び四階部分を賃料月約五一万円、敷金六〇九万二五〇〇円で賃借した、と執行官に対し主張した。

申立人が平成二年三月六日、本件建物につき現地調査したところ、一階の郵便受けには、一階の居住者として個人名、二階につき「○○○○株式会社」、三階につき稲川会佃政一家B組の表示がなされていた。また、本件建物には一見して明らかに暴力団員と分かる若い男が出入りしていた。また、申立人が、後順位抵当権者である○○財形株式会社から電話で聴取したところ、○○財形株式会社の社員が相手方Bと面談した際、相手方Bは、「自分はA株式会社に三億八〇〇〇万円貸しており、ビルの改装費も出した。仮に競売になっても立ち退くつもりはない。」と述べたとのことであった。

申立人が、平成四年六月五日、本件建物につき現地調査したところ、一階の郵便受けの表示は、一階が相手方C、二階が○○○○コーポレーション、三階が○○ビル管理事務所となっていた。

評価人が、平成四年八月、本件建物に赴いたところ、相手方Cの代表者甲が、一階及び二階部分は、相手方Cが事務所として使用していると陳述した。

申立人が、平成四年一一月二六日、本件建物につき現地調査したところ、郵便受けの表示は、一階が相手方C、二階が相手方D、三階が○○ビル管理、となっていた。申立人が、当日、警視庁築地警察署へ赴いて本件建物の占有状況等につき事情を聞いたところ、三階はB組の組事務所として使用されており、四階はB組の若い衆が住居として使用しており、猛犬を二頭飼っているので注意されたいとのことであった。

申立人が、その後に築地警察署において調査したところ、相手方Cの代表取締役である甲は、佃政一家の準構成員であり、相手方Dは、佃政一家の企業舎弟と認められる、とのことであった。

3上記認定の事実、すなわち、①相手方Bは、所有者A株式会社に対し貸金三億八〇〇〇万円を有すると主張し、A株式会社が事実上倒産する直前に、本件建物につき賃借権の設定を受けたとして、本件建物の三階部分を暴力団稲川会佃政一家B組の組事務所として使用し、同四階部分を同組組員の宿舎として使用しており、競売になっても立ち退くつもりはない、と言明していること、②本件建物の一階、二階部分については、所有者A株式会社が事実上倒産する直前に、相手方Bと関係のある株式会社○○○ゴルフが占有し始めたが、その後、平成四年八月に本件建物に臨場した評価人に対し、相手方Cの代表者甲は、本件建物の一階、二階部分を同社が事務所として使用していると陳述し、更に平成四年一一月以降は、一階部分は相手方Cが、二階部分は相手方Dが占有している旨の表示がなされているところ、相手方Cの代表者甲は佃政一家の準構成員であり、相手方Dは佃政一家の企業舎弟と認められること、などの事実を総合すれば、相手方らは、共謀のうえ、執行妨害を目的として、本件建物を占有しているものと認められる。執行妨害を目的とする暴力団員ないしこれと関係する者が競売不動産を占有するときは、入札希望者は激減するから、競売不動産の価格は著しく減少するということができる。また、相手方らは本件建物につきその占有を移転し、あるいは占有名義を変更するおそれがあるから、主文第一項の命令が発令されたことを公示する必要がある。

以上によれば、本件申立は理由があるからこれを認容することとし、申立人に対し、相手方Bのために金五〇万円、相手方Cのために金一〇万円、相手方Dのために金一〇万円の担保を立てさせたうえ、主文のとおり決定する。

(裁判官松丸伸一郎)

別紙当事者目録

申立人 ○○クレジット株式会社

右代表者代表取締役 ○中○充

申立人代理人弁護士 小沢征行

同 秋山泰夫

同 藤平克彦

同 香月裕爾

同 香川明久

相手方 B

相手方 株式会社C

右代表者代表取締役 甲

相手方 株式会社D

右代表者代表取締役 ○木○

別紙物件目録

所在 東京都中央区築地○丁目○番地○

家屋番号 ○番○の○

種類 店舗兼居宅

構造 鉄筋コンクリート造陸屋根四階建

床面積 一階55.20平方メートル

二階54.00平方メートル

三階54.00平方メートル

四階26.55平方メートル

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