東京地方裁判所 平成5年(特わ)1208号 判決 1994年6月14日
本店所在地
東京都新宿区百人町一丁目二〇番一九号
隆美観光株式会社
(右代表者代表取締役 高山隆夫こと髙河允)
国籍
韓国
住居
東京都新宿区百人町二丁目一番四九号
会社役員
高山隆夫こと髙河允
一九二六年五月三〇日生
右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官長島裕、弁護人権藤世寧各出席の上審理し、次のとおり判決する。
主文
被告人隆美観光株式会社を罰金二五〇〇万円に、被告人髙河允を懲役一年二月に処する。
被告人髙河允に対し、この裁判の確定した日から二年間右刑の執行を猶予する。
訴訟費用は被告人両名の連帯負担とする。
理由
(罪となるべき事実)
被告人隆美観光株式会社(以下「被告会社」という)は、東京都新宿区百人町一丁目二〇番一九号に本店を置き、ホテル・サウナ風呂の経営等を目的とする資本金一〇〇〇万円の株式会社であり、同区内において、カプセルホテル「盟和」、ホテル「あずさ」及びホテル「ロマンス」の三店舗を経営していたもの、被告人高山隆夫こと高河允(以下「被告人」という)は、被告会社の代表取締役として、同会社の業務全般を統括していたものであるが、被告人は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、売上の一部を除外するなどの方法により所得を秘匿した上
第一 昭和六二年六月一日から昭和六三年五月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が六一七四万七六四二円(別紙1の修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、昭和六三年八月一日、東京都新宿区北新宿一丁目一九番三号所在の所轄新宿税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が零で、納付すべき法人税額はない旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額二四九七万三七〇〇円(別紙4の1のほ脱税額計算書参照)を免れ
第二 昭和六三年六月一日から平成元年五月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が七八〇二万三一三二円(別紙2の修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、平成元年七月三一日、前記新宿税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が一四万六八一一円で、これに対する法人税額が四万三八〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額三一八〇万九六〇〇円と右申告税額との差額三一七六万五八〇〇円(別紙4の2のほ脱税額計算書参照)を免れ
第三 平成元年六月一日から平成二年五月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一億一一六一万三九六四円(別紙3の修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、平成二年七月三一日、前記新宿税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が一三五万八七六〇円で、これに対する法人税額が三九万三八〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額四三七六万五二〇〇円と右申告税額との差額四三三七万一四〇〇円(別紙4の3のほ脱税額計算書参照)を免れ
たものである。
(証拠の標目)
判示全部の事実について
一 被告人の当公判廷における供述
一 被告人の検察官に対する供述調書三通
一 証人山口正徳の当公判廷における供述
一 文子栄(二通)、高由美子(二通)、小野寺まさえ、五十嵐荘司及び佐藤大太郎の検察官に対する各供述調書
一 大蔵事務官作成の売上高調査書、報告書(売上高関係)、受取利息調査書及び領置てん末書
一 登記官作成の登記簿謄本
判示第一及び第二の事実について
一 大蔵事務官作成の繰越欠損金当期控除額調査書
一 検察事務官作成のリネン費の金額についての捜査報告書
判示第二及び第三の事実について
一 大蔵事務官作成の地方税利子割調査書
一 検察事務官作成の事業税認定損の金額についての捜査報告書二通
判示第一の事実について
一 押収してある法人税確定申告書等一袋(平成五年押第一一〇〇号の1)
判示第二の事実について
一 押収してある法人税確定申告書等一袋(前同押号の2)
判示第三の事実について
一 押収してある法人税確定申告書等一袋(前同押号の3)
(法令の適用)
一 罰条
1 被告会社
判示第一ないし第三の各事実につき、法人税法一六四条一項、一五九条一項(罰金刑の寡額については、刑法六条、一〇条により、平成三年法律第三一号による改正前の罰金等臨時措置法二条一項による)
2 被告人
判示第一ないし第三の各所為につき、法人税法一五九条一項(罰金刑の寡額につき、前同)
二 刑種の選択
被告人につき、懲役刑
三 併合罪の処理
1 被告会社
刑法四五条前段、四八条二項
2 被告人
刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(犯情の最も重い第三の罪の刑に法定の加重)
四 刑の執行猶予
被告人につき、刑法二五条一項
五 訴訟費用
刑訴法一八一条一項本文、一八二条
(量刑の理由)
本件は、ホテル経営等を業とする被告会社の社長であった被告人が、自己の子供達のために財産を残したり、将来の事業拡大のための資金を蓄積しようと考えて脱税を企て、売上の一部を除外し、除外分の会計票を破棄するなどして、三事業年度にわたり、合計一億〇〇一一万円余の法人税を脱税したという事案であり、ほ脱率は通算九九・五パーセント強に達している。このような脱税額、ほ脱率、犯行の計画性、態様等のほか、この種事案については一般予防の必要性が高いことにかんがみると、被告人及び被告会社の刑事責任には軽視を許されないものがあるといわなければならない。
他方、被告人は当公判廷において真摯な反省の態度を示していること、被告会社は、関係当局の指導に従い、本件三事業年度分の法人税本税を完納し、附帯税もその大半を納付していること、被告人には前科前歴がないこと、被告人はその子供が障害者になったり、急死するなどの不幸に遭遇していることなど被告人及び被告会社のために有利に斟酌すべき事情も認められる。
当裁判所は、以上のほか一切の情状を考慮して、主文のとおり量刑した次第である。
よって、主文のとおり判決する。
(求刑 被告会社・罰金三〇〇〇万円、被告人・懲役一年六月)
(裁判官 安廣文夫)
別紙1
修正損益計算書
<省略>
別紙2
修正損益計算書
<省略>
別紙3
修正損益計算書
<省略>
別紙4の1
ほ脱税額計算書
<省略>
別紙4の2
ほ脱税額計算書
<省略>
別紙4の3
ほ脱税額計算書
<省略>