東京地方裁判所 平成5年(特わ)2221号 判決 1994年6月06日
本店所在地
東京都世田谷区中町三丁目一四番一一号
北都冷暖房株式会社
(代表者代表取締役 白藤住雄)
本籍
東京都世田谷区中町三丁目一四番
住居
東京都世田谷区中町三丁目一四番一一号 レジデンス玉川二〇一
会社役員
白藤住雄
昭和二二年四月二四日生
主文
被告人北都冷暖房株式会社を罰金四〇〇〇万円に、被告人白藤住雄を懲役一年六か月に処する。
被告人白藤住雄に対し、この裁判が確定した日から三年間、右刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人北都冷暖房株式会社(以下「被告会社」という)は、東京都世田谷区中町三丁目一四番一一号に本店を置き、空調設備機器の販売及び施工等を目的とする資本金三〇〇万円の株式会社であり、被告人白藤住雄(以下「被告人」という)は、被告会社の代表取締役として同会社の業務全般を統括しているものであるが、被告人は、同会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、架空外注費を計上するなどの方法により所得を秘匿した上、
第一 昭和六三年一一月一日から平成元年一〇月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一億一三八七万七二一二円(別紙1修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、平成元年一二月二八日、東京都世田谷区玉川二丁目一番七号所轄玉川税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が二四〇万三八四八円で、これに対する法人税額が七一万七八〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額四六八六万五三〇〇円と右申告税額との差額四六一四万七五〇〇円(別紙4ほ脱税額計算書参照)を免れ、
第二 平成元年一一月一日から平成二年一〇月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一億一二七七万〇〇三〇円(別紙2修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、平成二年一二月二七日、前記玉川税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が三四二万八八一六円で、これに対する法人税額が九八万六〇〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額四四二一万九九〇〇円と右申告税額との差額四三二三万三九〇〇円(別紙4ほ脱税額計算書参照)を免れ、
第三 平成二年一一月一日から平成三年一〇月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一億九八九四万三二五八円(別紙3修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、平成三年一二月二七日、前記玉川税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が四一一万九二八九円で、これに対する法人税額が一一四万三〇〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額七三八三万三三〇〇円と右申告税額との差額七二六九万〇三〇〇円(別紙4ほ脱税額計算書参照)を免れ
たものである。
(証拠)
判示全部の事実について
・被告会社代表者兼被告人の公判供述
・被告人の検察官調書六通
・土門マイ子及び桜井満の各検察官調書
・外注費調査書、受取利息調査書、雑収入調査書、損金の額に算入した道府県民税利子割調査書、事業税認定損調査書
・検察事務官作成の報告書(甲一一)
・登記簿謄本
判示第二及び第三の各事実について
・公租公課調査書
判示第一の事実について
・雑損失調査書
・法人税確定申告書一袋(平成六年押第一三七号の1)
判示第二の事実について
・検察事務官作成の報告書(甲四)
・法人税確定申告書一袋(同号の2)
判示第三の事実について
・法人税確定申告書一袋(同号の3)
(補足説明)
被告会社代表者兼被告人(以下「被告人」という)は、脱税の事実は認めるものの、脱税額については検察官が主張する額よりも少ない旨述べ、弁護人も、費用額についての検察官の立証には合理的な疑いを容れる余地があり、その結果実際所得金額及び脱税金額は検察官主張の額より少なくなる旨主張する。
ところで、関係各証拠によれば、被告会社には本件各事業年度において判示認定どおりの所得があり、被告会社及び被告人は判示認定の額を脱税したことは優にこれを認めることができる。
これに対して、被告人は公判廷において、捜査段階においては数字に関したことは述べておらず、被告人の検察官調書の内容は検察官に言われるままこれにしたがった結果に過ぎない旨述べるのであるが、被告人の検察官調書の内容をみると、犯行動機、犯行手段、方法、ほ脱所得の留保状況などについて、数字に関する事項を含めて具体的かつ詳細に供述しており、しかもその供述内容は他の証拠から認定できる事実とも符号している。したがって、被告人の検察官調書は十分信用できるのであって、反対にこの点に関する被告人の公判廷での弁解は不自然であって採用できない。
また、弁護人は、被告会社の実際の費用額は検察官が主張する額より極端に少なく、その立証については合理的な疑いを容れる余地があると主張する。しかしながら、弁護人は、所得金額から控除すべき簿外費用の額については少なくとも一億円であると主張するにとどまりその数字的な根拠はなんら主張していない。しかも、合理的な疑いを容れる事情として弁護人がるる主張している事項、すなわち、<1> 通常売上高が増加すれば費用も増加するが本件では逆の現象が起きていること、<2> 被告会社の利益率が高すぎること、<3> 見積書記載の材料費はほとんど実額であるにもかかわらずそのような認定はされていないことなどはいずれも検察官の立証に対して合理的な疑いを容れるに足る事柄とは言えないものである。ちなみに、<2>の利益率の点について付言すれば、被告人は捜査段階において、「売上総利益の割合も売上高の七~八割はあったと思います」と述べ、被告会社の利益率については被告人自身認識していたことを明らかにしており、しかもその理由についても詳しく述べているのであり(平成五年九月二四日付け検察官調書《乙一号証》)、その内容は十分に合理的である。したがって、弁護人の主張は採用することができず、また、弁護人の主張に沿う被告人の公判供述も信用することができない。
(法令の適用)
被告会社の判示の各事実は、いずれも法人税法一六四条一項、一五九条一項に(判示第一及び第二の各事実についての罰金刑の寡額については、刑法六条、一〇条による平成三年法律第三一号による改正前の罰金等臨時措置法二条一項による)該当するところ、情状によりそれぞれ法人税法一五九条二項を適用し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条二項により各罪について定めた罰金の合計額の範囲内で被告会社を罰金四〇〇〇万円に処し、被告人の判示各所為は、いずれも法人税法一五九条一項に(判示第一及び第二の各事実についての罰金刑の寡額については前に同じ)該当するところ、所定刑中懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第三の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役一年六か月に処し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予することとする。
(検察官 金澤勝幸 主任弁護人 本間通義 各出席)
(求刑 被告会社に対し罰金五五〇〇万円 被告人に対し懲役一年六か月)
(裁判官 堀内満)
別紙1 修正損益計算書
<省略>
<省略>
別紙2 修正損益計算書
<省略>
<省略>
別紙3 修正損益計算書
<省略>
<省略>
別紙4 ほ脱税額計算書
(1)
北都冷暖房株式会社 自昭和63年11月1日至平成元年10月31日
<省略>
(2)
自平成元年11月1日至平成2年10月31日
<省略>
(3)
自平成2年11月1日至平成3年10月31日
<省略>