東京地方裁判所 平成5年(行ウ)193号 判決 1997年2月27日
原告 学校法人倉田学園
被告 中央労働委員会
補助参加人 香川県大手前高松高等(中)学校教職員組合
主文
一 被告が中労委昭和五九年(不再)第四号事件について平成五年五月一九日付けでなした不当労働行為救済命令主文第1項中の、原告に対し「被告補助参加人が組合活動のために行う学園施設の利用について、許可条件、手続等を被告補助参加人と誠実に協議しなければならない。」と命ずる部分を取り消す。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一請求
被告が中労委昭和五九年(不再)第四号事件について、平成五年五月一九日付けでなした不当労働行為救済命令は主文第2項を除きこれを取り消す。
第二事案の概要
被告は、<1>原告の、被告補助参加人(以下「組合」という。)の組合ニュース等のビラ配布を理由とした委員長等に対する警告書の交付、<2>原告の、組合委員長に対する小会議室の無許可使用を理由とした警告書の交付、<3>原告教頭補佐の、組合員に対するアンケート用紙配布についての発言等、<4>原告理事長の、縁故者である組合員に対する退職勧奨行為がいずれも労働組合法七条三号の支配介入にあたるとし、また、<1>原告の、前歴計算の方法についての公表の仕方、<2>原告による、昭和五二年年末ボーナスの査定項目等についての説明拒否等がいずれも同法条二号の不誠実団交にあたるとして、救済命令を発した。
本件は、原告が右救済命令を不服として、その取消しを求めた事案である。
(争いのない事実)
一 当事者
1 原告は、肩書地に香川県大手前高等学校及び同中学校(以下これら二校を「丸亀校」という。)を、高松市室新町一一六六番地に香川県大手前高松高等学校及び同中学校(以下これら二校を「高松校」という。)をそれぞれ設置して教育事業を行っており、香川県地方労働委員会(以下「香労委」という。)における審問終結時の職員数は一二七人(但し、うち、高松校六四人)である。
昭和五二年から昭和五三年にかけて、原告の理事長は倉田キヨヱ(以下「倉田理事長」という。)、理事は倉田康男(以下「倉田理事」という。)、高松校校長は宇喜多一塩(以下「宇喜多校長」という。)であった。
2 組合は、昭和五二年九月一〇日、高松校に勤務する職員をもって結成された労働組合であって、香労委での審問終結時の組合員数は二五人であった。
組合の執行委員長は、右結成以来、天野滋(以下「天野委員長」という。)である。
組合は、組合規約五条において、組合員資格を「この組合は、香川県大手前高松高等(中)学校の教職員をもって構成する。ただし、大手前高松高等(中)学校理事長、理事、校長、副校長、教頭、教頭補佐および事務長は除く。」と定めている。
3 なお、原告は、昭和五六年度以降、教員のうちから生徒指導主事及び進路指導主事を任命している。
右主事の職務権限は、生徒指導主事は生徒指導部会、進路指導主事は進学指導部会の意見をとりまとめ、部会の代表者として、学年主任等及び右主事を構成メンバーとする主任会に出席し、部会でとりまとめた意見を報告すること等である。
二 本件命令の存在
1 中労委命令
被告は、原告を再審査申立人とし、組合を再審査被申立人とする昭和五九年(不再)第四号不当労働行為再審査申立事件について、平成五年五月一九日付けにて左記主文の本件命令を発し、右命令は、同年六月二五日、原告に交付された。
記
1 初審命令主文4項を次のとおり変更する。
再審査申立人は、再審査被申立人が組合活動のために行うビラ配布及び学園施設の利用について、許可条件、手続等を再審査被申立人と誠実に協議しなければならない。
2 初審命令主文5項を取消し、この部分に係る再審査被申立人の救済申立てを棄却する。
3 初審命令主文6項を同5項とし、同7項を同6項とする。
4 その余の再審査申立てを棄却する。
2 初審命令
初審命令は左記のとおりである。
記
1 被申立人は、申立人執行委員長天野滋に対する無許可のビラ配布を理由とした昭和五二年九月二六日付け、同年一〇月一二日付け、昭和五三年六月二八日付け、同年七月一日付け、同年七月五日付け、同年七月一九日付け及び同年八月五日付けの各警告書並びに組合員天野滋に対する昭和五三年八月五日付けの警告書を撤回しなければならない。
2 被申立人は、申立人執行委員長天野滋に対する無許可の小会議室使用を理由とした昭和五二年九月二六日付け、同年一〇月一二日付け、同年一〇月一九日付け、昭和五三年六月二二日付け及び同年七月一八日付けの各警告書を撤回しなければならない。
3 被申立人は、申立人の組合員福家誠に対し、組合員である故をもって退職を勧奨することにより組合の運営に支配介入してはならない。
4 被申立人は、申立人の正当な組合活動である就業時間外における職員室でのビラ配布及び小会議室使用の職場集会に対し、その職制を通じて制止、警告する等して、組合の運営に支配介入してはならない。
5 被申立人は、申立人執行委員長天野滋及び副執行委員長であった堤一郎に対する職員祝賀会における抗議行動を理由とした昭和五三年三月二三日付けの訓告処分を撤回しなければならない。
6 被申立人は、申立人の昭和五二年九月一六日付けの公立並み待遇の早期実現に関しての前歴計算にかかる要求及び同年一一月四日付けの昭和五二年年末ボーナスの査定に関する要求について、誠意をもって団体交渉に応じなければならない。
7 申立人のその余の申立ては棄却する。
(争点)
一 組合の救済申立資格
本件命令は、労働組合法五条一項及び労働委員会規則三四条一項に違反したとして取り消されるべきか否か。
二 救済申立ての除斥期間
ビラ配布(以下「本件組合ニュース等の配布」という。)及び小会議室の使用に対する各警告並びに公立学校並み待遇の早期実現及び昭和五二年年末ボーナスの査定に関する要求についての団体交渉に係る救済申立ては、労働組合法二七条二項の除斥期間を徒過したか否か。
三 組合ニュース等の配布及び小会議室の使用
1 組合ニュース等の配布及び小会議室の使用に対する各警告
(一) 組合ニュース等の配布に対する警告
原告が組合に対し、本件組合ニュース等の無許可配布につき、就業規則に違反するとして警告書を交付したことが支配介入となるか否か。
(二) 小会議室の使用に対する警告
原告が組合に対し、小会議室の無許可利用につき、就業規則に違反するとして警告書を交付したことが支配介入となるか否か。
2 原告教頭補佐による本件組合ニュース等の配布に対する支配介入
教頭補佐の組合員に対する発言等が支配介入となるか否か。
四 組合員に対する退職勧奨
原告の、組合員福家誠に対する退職勧奨が、組合に加入したことを嫌悪し、原告から排除しようとしてなしたものか否か。
五 前歴計算についての不誠実団交
原告が組合に対し、前歴計算問題について団体交渉の場でその計算方法を何ら具体的に説明をせず、団体交渉が継続中であるにもかかわらず職員会議で組合員を含む職員に対して直接に前歴計算の方法を公表したことが、不誠実団交となるか否か。
仮に、右事実が不誠実団交になるとした場合であっても、前歴計算問題について既に組合の要求が実現されていたか否か(救済申立ての利益の喪失)。
六 昭和五二年年末ボーナスについての不誠実団交
原告が組合に対し、昭和五二年年末ボーナスについて査定項目等の説明を途中で拒否し、査定のうち定量的な問題について何らの説明しないことは不誠実団交となるか否か。
仮に、不誠実団交になるとした場合であっても、組合は、昭和五二年年末ボーナスについて、団体交渉の要求を放棄したか否か(救済申立ての利益の喪失)。
七 誠実協議命令(本件命令主文1項により変更された後の初審命令主文4項)
被告が原告に対し、本件組合ニュース等の配布及び学園施設の使用について誠実協議を命じたことが裁量権逸脱となるか否か。
(当事者の主張)
一 組合の救済申立資格
1 被告
高松校の生徒指導主事又は進路指導主事は、その職務内容からみて、労働組合法二条一号の「雇入解雇昇進又は異動に関して直接の権限を持つ監督的地位にある労働者」、「使用者の労働関係についての計画と方針とに関する機密の事項に接」する「監督的地位にある労働者」その他原告の利益を代表する者にはあたらない。
2 原告
組合は、その規約において、組合員資格を高松校の教職員に認め、その中に、中間管理職等の使用者の利益を代表する者を含めており、かつ、現実にも、生徒指導主事及び進路指導主事といった労働組合法二条一号に該当する者を加入させているのであるから、同条に抵触しており、同法五条一項及び労働委員会規則三四条一項により本件救済申立ては却下されるべきであった。
二 組合ニュース等の配布及び小会議室の使用
1 組合ニュース等の配布及び小会議室の使用に対する警告並びに公立学校並み待遇の早期実現及び昭和五二年年末ボーナスの査定に関する要求についての団体交渉に係る救済申立ての除斥期間
(一) 被告
組合は、組合ニュース等の配布及び小会議室の使用に対する警告並びに公立学校並み待遇の早期実現及び昭和五二年年末ボーナスの査定に関する要求についての団体交渉に係る救済について、昭和五三年八月一七日付け本件不当労働行為救済申立書において申立てをしており、昭和五六年一〇月二〇日付け第四回準備書面及び昭和五七年一月二二日付け第六回準備書面は、請求する救済内容を具体的に記述したものに過ぎない。
(二) 原告
組合ニュース等の配布及び小会議室の使用に対する各警告書の撤回を要求する組合の救済申立てがなされたのは、香労委での審問係属中の昭和五七年一月二二日付け第六回準備書面においてであり、これは各警告書を交付した日である昭和五三年七月一八日(小会議室の使用について)、同年八月五日(組合ニュース等の配布について)のいずれよりも一年以上経過しており、また、組合の昭和五三年七月一八日(小会議室の使用について)、同年八月五日(組合ニュース等の配布について)のいずれよりも一年以上経過してからであり、また、組合の昭和五二年九月一六日付け、同年一一月四日付け及び昭和五三年一月三〇日付け各要求書にかかる団体交渉応諾要求についての組合の救済請求がなされたのは、右審問係属中の昭和五六年一〇月二〇日付け第四回準備書面においてであり、各要求書についての団体交渉拒否がそれぞれその要求書の日付ころにあったものとするのであれば、既に一年以上経過してからなされており、いずれも労働組合法二七条二項により却下されるべきであった。
2 組合ニュース等の配布
(一) 組合ニュース等の配布に対する警告
(1) 被告
組合ニュース等の配布を理由とした本件警告書の交付は、組合の存在を嫌悪していた原告が、就業規則違反に藉口して警告を発することによって、組合の情報宣伝活動を抑制し、いまだ結成直後の状態にあった組合の弱体化を図ろうとしたものと判断せざるをえず、労働組合法七条三号に該当する不当労働行為である。
(2) 原告
組合ニュースの配布の行われた高松校の職員室は、教職員が授業時間前に朝礼を行い、朝礼前を含めて授業時間外の時間を教材研究、成績採点等のために過ごし、あるいは同室を訪れる生徒等を面接指導する等の専ら生徒の教育という目的のために必要な範囲で、かつ学園秩序に服する態様において、その使用が認められている施設であり、教室とともに、まさに教育の現場ともいい得る施設であり、高松校の教育現場の統合、調整機能をも担当する中枢的な施設である。
以上のごとく、職員室は、高松校の教職員が高松校に出勤した後は、専ら右のように教室における授業以外のほとんど全ての教育業務に従事する場所であって、教室等における授業を担当している教職員を除いて、常時いずれかの教職員が朝礼前を含めて授業時間(各教職員により異なる。)外(昼食時も教職員により異なるので同様である。)の時間を教育業務に充てているのである。
以上述べたように、高松校職員室は、専ら教育という目的のために供用されている学校施設であり、このようないわば教育の現場、しかもその中枢的な現場におけるビラ配布を規制し禁止することは、原告の施設管理、秩序維持の権限の行使として当該許容されるというべきである。
また、高松校職員室には、授業時間外の全ての時間帯において、生徒が教職員の指導を受ける等の目的で、その登校時から下校時までの間、自由に出入りしているのであり、しかも、出入りしている生徒は、社会的に未熟な中高生であるが、組合は、このような生徒の目に触れれば心理的に混乱を惹起せしめるに足る過激な調子の中傷記事を登載した組合ニュースを配布している。原告は、このように現実に生徒に悪影響を及ぼす内容の組合ニュースが配布され、これが生徒に読まれる危険性(組合ニュースの配布はほとんど始業時刻前ではあるが、既にこの時間帯に生徒は職員室内のいずれの場所にも出入りしており、各教職員の机上に配布された組合ニュースを手にとって読む危険性があり、また、その後の午前、午後の時間帯においても、配布された教職員がこれを放置等していると、出入りする生徒に読まれ、あるいは教職員が各自の屑籠に組合ニュースを捨て、それが職員室清掃当番の生徒の目に触れ、同生徒にこれを読まれる危険性もある。)があったので、これを防止するために予防的に組合ニュースの配布を禁じたのである。
さらに、企業施設内でのビラ配布が労働組合にとって必要不可欠であるとはいえない。組合は、従来から、原告から学園構内に掲示板の設置を認められ、そこに毎号の組合ニュースを貼付することも認められ、これ以外に、必要の都度、組合員、非組合員を問わず、組合ニュースを各教職員の自宅に郵送することにより、十二分に情報宣伝活動を行っているのであるから、学園内で組合ニュースを配布する必要性はなかったのである。
(3) 組合
組合ニュースの配布が生徒の教育に影響を与えたという事実はない。原告は、単に抽象的に危険性をいうのみで、生徒が組合ニュースを見たとか、組合ニュースを見て生徒が動揺し、あるいは騒いだという事実を何ら主張・立証していない。
(二) 原告教頭補佐による組合ニュース等の配布に対する支配介入
(1) 被告
西山寛教頭補佐(以下「西山教頭施佐」という。)は、昭和五三年七月一九日、アンケート用紙を配布していた組合員に対し、「あんた、これ配らん方がええで。」と述べ、同年八月二九日、組合ニュースを配布していた組合員に対し、「問題になっとん知っとんか。」と発言し、同年九月六日、組合ニュースを配布していた組合員に対し、「あんた、学校のいうことと組合のいうことのどっちを聴くんな。」と述べた。
原告は組合に対し、同年六月二二日から半年以上の期間にわたり見合わせていた警告書を再び交付するようになっており、組合ニュース等の配布を理由として、同年七月一日、同月五日、同月一九日及び同年八月五日付けでそれぞれ警告書を交付しているのであり、西山教頭補佐の前記各発言は、このような時期に行われている。
本件組合ニュース等の配布に対して、原告が警告書を交付したことは、組合の弱体化を企図した不当労働行為に該当するのであり、しかも、原告は、学校施設内における組合活動について、極めて厳しい否定的な態度をとっていた。
そうしてみると、西山教頭補佐の昭和五三年七月一九日、同年八月二九日及び同年九月六日の各発言は、原告の意を受けて労務担当として、組合の情報宣伝活動を抑制するために行われたものであり、労働組合法七条三号に該当する。
(2) 原告
本件組合ニュース等の配布は、正当な組合活動といえず、いずれも就業規則に違反してなされたのであるから、これらを制止し、抑制するためになされた西山教頭補佐の発言は不当労働行為とはならないことは明白である。
3 小会議室の使用に関する警告
(一) 被告
組合に対する原告の従来の態度、組合が小会議室を使用した場合の原告の組合に対する態度等からして、小会議室の無許可使用を理由とした本件警告書の交付は、組合の存在を嫌悪していた原告が、就業規則違反に藉口して警告を発することによって、組合の職場集会の開催を抑制し、未だ結成直後の状態にあった組合の弱体化を図ろうとしたものと判断せざるをえないのであり、これは労働組合法七条三号に該当する。
(二) 原告
労働組合又はその組合員が使用者の許諾を得ないで企業の物的施設を利用して組合活動を行うことは、これらの者に対し、その利用を許さないことが権利の濫用であると認められるような特段の事情がある場合を除いては、前記施設を管理利用する使用者の権限を犯し、企業秩序を乱すものとして、正当な組合活動としては許されないというべきである。
また、労働組合が組合員間の意思疎通のため職場集会を開く必要性があるとしても、そのことから直ちに、その集会が学園内で開かれる必要性があると結論づけることはできない。さらに、本件小会議室は、日常、職員が娯楽、食事、懇談等に使用しているのであり、組合が職場集会のために使用する時間帯においては、現実に職員が右目的でこれを使用することが妨げられたのであり、原告として不都合が生じていた。
組合は、当初から、小会議室を使用する権利が自己にあり、原告はこれを受忍する義務があるので許可申請の要はないという立場をとり続けてきたのであり、その結果、就業規則上の許可申請をせず、単に一方的に自己の都合を届け出の形で表明して原告の意向を完全に無視してこれを使用し、場合によっては、届け出すらせず、何の予告もなく使用したことも数回ある。
原告も一般に労働組合が組合員間の意思疎通のため集会を開く必要性があることは認めるが、そうであるからといってその集会が学園内で開かれる必要性があることにはならない。例えば、人里離れた場所に企業施設があり、組合員としてはそこで集会をしなければ他の場所に移って集会を開くことが不可能もしくは著しく困難である場合などは施設内で集会を開催する必要性は強まるであろう。しかしながら、高松校は僻遠の地にあるのではないから、近くの適当な場所において集会を開催することも極めて容易であり、したがって、集会の必要性があるからといって直ちに学園内での集会の必要性を結論づけることはできない。
組合には、学園内で集会を開く真の必要性などはなく、単に学園内の特定の場所、例えば小会議室での集会開催の実績を重ねてこれを組合事務所化しようとする意図があったから必要性があると主張しているのであり、また、従来の自己の立場(原告には小会議室利用を受忍する義務があるとの主張)を維持してその体面を保つため、必要性があると主張しているにすぎない。
したがって、原告が組合に対し、小会議室においての無許可職場集会開催を理由として警告書を交付したことは何ら不当労働行為には当該しない。
(三) 組合
組合は、小会議室を、数少ない団体交渉等が放課後に行われた場合に、待機、すなわち事後報告の場としてのみ使用しており、他の職員の昼食とか囲碁等の娯楽等とかち合う機会は全くないが、ほとんど希有である。組合が小会議室を使用したことによって、他の職員の利用を妨げたことはない。
三 組合員に対する退職勧奨
1 被告
倉田理事長は縁故者である福家誠(以下「福家」という。)に対し、組合に加入したことを嫌悪し、原告から排除しようとして、同人の父親を通じて退職を勧奨したから、労働組合法七条三号に該当する不当労働行為にあたる。
2 原告
倉田理事長は、親戚である福家を当分の間預かる趣旨で高松校に採用したが、遅刻が多く服装が乱れがちで教室管理が悪いなど、同人の勤務態度、成績等が思わしくないことから、転職に便宜な時期である九月に、同人の父親に対し、福家の引取りを依頼したのであって、たまたま時期的に組合結成と時期を一致しただけであり、同人の組合加入とは何ら関係はない。
四 前歴計算に関する団体交渉
1 被告
(一) 原告は、前歴計算に関する団体交渉の場において、「言えません。」、「公表しないで、公正にしていきたい。前歴計算は明示しません。」、「換算表はあるが明示しません。」、「一人一人と前歴計算の話をしたいと思います。組合とは話し合いしません。」などと回答するのみで、組合に対して何ら具体的な説明をしていない。ところが、原告は、組合に事前の連絡をすることもなく、昭和五四年一月の職員会議の場で、組合員を含む全職員に対して、直接に前歴計算の方法を公表した。
そうしてみると、原告は組合に対し、公立学校並み待遇の早期実現に関しての前歴計算の問題について、団体交渉の場で前歴計算の方法について何ら具体的に説明をせず、さらに、団体交渉が継続中であるにもかかわらず、組合に知らせることなく職員会議で組合員を含む職員に対して直接に前歴計算の方法を公表したのであるから、当該団体交渉における原告の態度は不誠実であったといわざるをえず、これは労働組合法七条二号の不当労働行為に該当する。
(二) なお、昭和五三年一月三〇日付け要求書に「公立並み待遇の早期実現」との文言が記載されていないことのみをもって、同日の時点で、組合が公立学校並み待遇の早期実現の問題の一環としての前歴計算の問題を団体交渉の要求項目としない旨の意思を表明しているとはいえないし、前歴計算を要する職員の本俸についてはなお公立学校との格差が残っているのであるから、本件申立てについてはなお救済の利益がある。
2 原告
(一) 原告は誠実に組合と団体交渉をしている。
(二) また、昭和五二年九月一六日付けの「公立並み待遇の早期実現」という組合からの要求について、同年度中に五回程度団体交渉がなされており、昭和五三年一月三〇日付け要求書では、「公立並み待遇の早期実現」に関連して、本俸一律二号俸アップと諸手当の公立学校並み支給とが要求されてはいるものの、昭和五二年九月一六日付けの「公立並み待遇の早期実現」という要求一般を維持するという明示の留保はなされていないのであるから、昭和五三年一月三〇日の時点で、組合が前歴計算の問題を団体交渉要求項目とはしない旨の意思を表明しているものと考えるべきである。
また、昭和五四年四月をもって、既に公立学校並み待遇が実質的に実現されているのであるから、前歴計算の問題は、もはや団体交渉の議題としては自然消滅するに至っている。
したがって、前歴計算に関する団体交渉については、救済の利益を欠く。
五 昭和五二年年末ボーナスの査定に関する団体交渉
1 被告
(一) 原告は、昭和五二年年末ボーナス査定について査定項目等の説明を途中で拒否しており、また、査定項目に対するウエート付けの基準作成は不可能とはいえず、定量的な問題について何らの説明をしていないのであるから、査定について組合との交渉が尽くされたとはいえず、したがって、原告が本件査定問題について誠実に交渉したということはできない。
そうすると、昭和五二年年末ボーナスの査定問題について、原告は誠実に団体交渉に応じたとはいえず、当該団体交渉における原告の対応は労働組合法七条二号に該当する不当労働行為である。
(二) なお、組合は、昭和五二年年末ボーナスが支給された後、同ボーナスの査定問題についての団体交渉を繰り返していたのであり、さらに、同月二〇日の個人面談の席上及び同月二一日のボーナス査定についての個人面談についての交渉においても、組合がボーナスの査定項目としてそのウエート付けの明示を求めたのに対し、原告は、査定項目を四つ例示したものの、各項目に対するウエート付けの基準に関しては何らの説明を行っていないのであるから、交渉の内容が組合にとって納得できる内容でなかったことは明らかであり、また、それ以後の団体交渉においても、ボーナスの支給に際しその査定問題が交渉議題とされていたのであるから、以上の点からすると、昭和五三年一月三〇日付け要求書により、組合が昭和五二年年末ボーナスの査定について原告との交渉を要求する意思を放棄又は撤回したとはいえず、救済の利益が認められる。
2 原告
(一) 原告は、昭和五二年年末ボーナスの査定問題につき、組合と誠実に団体交渉している。
また、組合が不公平是正を要求する査定については、査定項目については説明できるが、査定項目に対するウエート付けという定量的な問題については、明確な基準を設定することは不可能であり、したがって、これを説明することは不可能である。
したがって、原告に不誠実団交の事実はない。
(二) なお、組合員は、昭和五二年年末ボーナスを異議をとどめず受領し、組合は、昭和五三年一月三〇日付け要求書で右ボーナスの査定について何ら触れていないのであるから、この点につき団体交渉を要求する意思を放棄又は撤回していると考えるべきであり、本件申立てに救済の利益はない。
六 誠実協議命令(本件命令主文1項により変更された後の初審命令主文4項)
(一) 原告
学園内での組合による組合ニュース等の配布及び組合の小会議室の使用については前述したとおりであり、学園内における右組合ニュース等の配布及び小会議室の使用は便宜供与の問題にとどまり、いわゆる任意的団交事項の範囲に属する事柄であるから、労働委員会といえども命令でもってそれについての協議を原告に強制することはできないのであり、失当といわざるを得ない。
(二) 被告
本件に係る労使紛争を解決するためには、基本的には原告が学園施設内における組合活動を否定せずに、労使間において自主的にそのルールが形成されることが必要であると考えられるので、原告に対し、組合が組合活動として行う組合ニュース等の配布及び小会議室の使用について組合との協議を命じた。
組合ニュース等の配布の時間帯、場所、方法等についての労使双方の意見が一致しないままの状態が続いていること、さらに、原告は、学園施設内における組合活動について極めて厳しい否定的な態度をとっていたのであることから、本件事件に係る労使紛争を解決するためには、基本的には原告が学園施設内における組合活動を否定せず、労使間で自主的にそのルールを形成することが必要であるとの観点から、被告の裁量権の範囲内において組合との協議を命じたのである。
第三争点に対する判断
一 救済申立資格について
労働組合法五条一項は、公益的見地から、同法二条の要件に欠ける組合の申立てを却下すべき旨労働委員会に対し義務づけているにすぎず、使用者の法的利益を保障する趣旨に出たものではないから、仮に、労働委員会に右の点の判断に誤りがあったとしても、その違法によって、使用者の法的利益が害されるものではない。
したがって、使用者は、不当労働行為の救済命令が労働組合法二条の要件を欠く組合の申立てに基づき発せられたことを理由として、右の命令の取消しを求めることはできないものと解すべきである。
以上のとおりであるから、この点に関する原告の主張は理由がない。
二 除斥期間について
労働組合法二七条二項が不当労働行為救済申立てにつき一年の除斥期間を定めたのは、不当労働行為として申し立てられる「事件」が一年以上経過している場合には、その調査審問にあたって証拠収集・実情把握が甚だ困難になり、かつ一年以上経過した後に命令を発出することはかえって労使関係の安定を阻害するおそれが生じ、また、命令を発出する実益がない場合があることに存する。このような同条項の趣旨にかんがみれば、同項にいう「事件」とは「不当労働行為を構成する具体的事実」を指し、救済命令申立書に記載される「請求する救済の内容」は、単に、労働委員会の裁量の範囲を画する意味を持つにすぎないと解すべきである。したがって、救済の対象として申し立てた事実の基礎に変更はないまま、請求する救済の内容を追加・変更したり、あるいは、事実の追加を行うにすぎない場合には、申立ての対象となっている事件は終始同一であって、右追加・変更等の申立ては、申立期間の徒過とは関係なく行うことができると解するのが相当である。
これを本件についてみるに、昭和五三年八月一七日付け不当労働行為救済申立書(乙一)によれば、組合は、同申立書により、原告のビラ配布及び小会議室の使用に対する各警告書の交付並びに公立学校並み待遇の早期実現及び昭和五二年年末ボーナスの査定に関する要求についての団体交渉に係る救済について、これを申し立てていると認められるから、そうすると、被告の右申立てに係る部分についての除斥期間の判断について誤りはなく、原告の主張は理由がない。
三 組合ニュース等の配布及び小会議室の使用
1 争いのない事実及び認定事実
(一) 高松校の就業規則(抄)
高松校の就業規則には、次のとおり規定されている。
七条 職員は、業務以外の事由で当校の施設を使用する場合には、所定の手続きにより願い出なければならない。
一四条 職員は、左の各号を遵守しなければならない。
八号 当校内で団体活動又は政治活動をしないこと。
一〇号 業務を妨害し若しくは当校の名誉又は信用を傷つけないこと。
一二号 書面による許可なく、当校内で業務外の掲示をし、若しくは図書又は印刷物等の頒布あるいは貼布をしないこと。
一三号 書面による許可なく、当校内で業務外の集合、演説、放送又は喧騒にわたる行為をしないこと。
六七条 懲戒の種類は左の通りとする。
一号 譴責
イ 訓告 書面で注意する。
ロ 戒告 書面で注意し将来を戒める。
ハ 厳告 書面で注意し将来を戒め且つ始末書を提出させる。
二号 減給
三号 出動停止
四号 降職
五号 懲戒解雇
六九条 当校は、職員が左の各号の一に当たる場合には、懲戒解雇に処する。
但し、情状により降職又は出勤停止にとどめることがある。
三号 一四条八号に違反し、団体活動又は政治活動をしたとき。
五号 一四条一〇号に違反し業務を妨害し、若しくは当校の名誉又は信用を傷つけたとき。
七号 一四条一二号に違反し、当校内で業務外の掲示をし、若しくは図書又は印刷物等の頒布又は貼布をしたとき。
八号 一四条第一三号に違反し、当校内で業務外の集会、演説又は喧騒にわたる行為をしたとき。
七〇条 前二条の規定する行為の陰謀幇助、未遂、教唆又は煽動をした者の懲戒も同様とし、予備又は過失の場合でも同様の懲戒をすることがある。」
なお、原告は、就業規則については丸亀校のものをそのまま流用し、これを運用してきたが、事業所ごとに届出が必要ということで、昭和五四年一〇月上旬ころ、これまで使用されてきた就業規則を若干手直しして、労働基準監督署に提出した(乙四〇、一八五)。
(二) 組合結成に対する原告の対応について
(1) 組合結成直後の倉田理事の対応
組合結成日翌日の昭和五二年九月一一日(日曜日)朝、倉田理事は、同日の新聞に、組合結成についての記事が掲載されているのを見た。
そこで、倉田理事は、同日午前九時ころ、高松校の職員である野口に対して電話をかけ、「見ましたか、新聞を。組合のことを書いているので確認したい。」と尋ねた。これに対し、野口は、組合結成と同時に組合に加入していたが、「知らない。」と答えたところ、同理事は「びっくりしている。何か分かったら知らせてもらいたい。」と述べた。
同理事は、同日、同校職員の小泉ら五名に対しても、電話をかけ、同旨の質問をした。
(2) 組合結成通告時の倉田理事長の発言
昭和五二年九月一二日、天野委員長ら組合執行部役員七名は、昼の休憩時間に高松校の理事長室で、倉田理事長に対し、組合結成通告を行うとともに、団体交渉開催を申入れた。
その際、倉田理事長は、「私はそんなものは認めん。」、「頭をつけてこい。」、「頭をつけるというのは県の労政技能課へ行って組合を作ったという証明書をもらってくることだ。」、「組合ができた以上は、組合と学校は敵、味方だ。信頼関係なんかどうだかね。」等と発言し、右役員らがメモをとろうとすると、「大の大人が人の言うことをいちいちメモするなんて、こわい、こわい。」と発言した。
(三) 組合ニュースの配布等及び小会議室の使用に対する警告等
(1)ア 組合は、昭和五二年九月一二日、始業時刻前に、組合結成の記事等を掲載した組合機関紙である組合ニュース第一号及び号外を配布し、かつ、これを小会議室に掲示した。ついで、組合は、同月一四日から同月二六日までの間に、組合ニュース第二号ないし第八号及び号外を配布し、かつ、これを小会議室に掲示した。また、同月一六日、職員に対し、アンケート用紙を配布した。
イ 同年九月一二日付けの組合ニュース第一号は「組合結成さる!!」という見出しに続き、以下の内容を伝えるものである。
〔スローガン〕
一 独断経営から教育を守ろう!
一 公立並み待遇を勝ちとろう!
一 組合意識を高め団結を強化しよう!
〔基本的要求〕
一 公立並み待遇の早期実現
一 教育の民主化
一 福利厚生施設の充実
一 労災加入の早期実現
執行部(満場一致で)選出される!
全員で団結しよう!
同月一六日付け組合ニュース第四号は「理事長に通告」という見出しに続いて、「理事長は、『何やら知れんもん。』と我が組合を呼び、『組合と理事者とは利益が相反する。行くところまで行かねばならない。』と不当にも我々に対し不信の態度を表明してきた」と組合結成を通告した際の理事長の対応を伝えるものである。
同月一九日付け組合ニュース第六号は「第一回団交開かる!」という見出しに続いて、同日の団体交渉の経過を報ずるものである(乙一三七)。
同月二六日付け組合ニュース第八号は「理事長、組合を脅迫?!第二回団交開かる」という見出しに続いて、理事長が団交ルールがない以上、団交には応じられない旨言っていることを伝えるとともに、その非を訴えるものものである(争いのない事実及び乙一三八)。
ウ 同月一九日、原告と組合との間で初めての団体交渉が行われた。最初に、労使双方の交渉人員について意見の対立があり、話合いがつかないまま倉田理事長は退席した。その後、原告は、組合ニュース等の配布及び掲示について就業規則に基づくルールを守ってほしい旨の発言をし、これを契機に就業規則遵守に関する議論がなされた。
エ 同月二一日終業時刻後、組合は、小会議室において職場集会を開き、組合の組織問題及び団体交渉について報告、協議した。
オ 同月二六日、宇喜多校長は天野委員長に対し、組合ニュース第一号ないし第八号、号外アンケート等一一枚の文書の配布及び小会議室への掲示並びに右小会議室使用は、学校の許可なく行われたものであって、就業規則に違反しており、警告する旨の警告書(乙九九の一)を交付した。(本件警告)
なお、原告では、通例、校長は理事の職も兼任するが、宇喜多校長は倉田理事長の実兄であったため、理事には就任していなかった(乙一八五)。
カ 同月二八日、組合は宇喜多校長に対し、組合ニュースの配布及び掲示並びに職場集会の開催は正当な組合活動であるから就業規則によっては制限できない旨述べた右警告書に対する抗議書を交付した(乙一〇〇の一)。
(2)ア 同月二七日から一〇月一一日までの間に、組合は、組合ニュース第九号ないし第一四号を配布し、かつ、これを会議室に掲示した。
イ 組合ニュース一四号は、「団交拒否続く なおも延命策をとる」という見出しに続き、原告が団体交渉を拒否していること、一〇月五日小会議室で職場集会を開催したこと、倉田理事長が来客を理由に職員会議を早々に引き上げたことなどが記載されていた(乙一二〇の一)。
ウ 同月一二日、宇喜多校長は天野委員長に対し、右組合ニュース第九号ないし第一四号の配布及び掲示に関して、組合は就業規則違反を繰り返しており、重ねて厳重に警告する旨の警告書(乙九九の二)を交付した。(本件警告)
(3) 同月三日、原告が発行した学園だより第一号には「本校の就業規則は、『教育現場である校内における業務外の活動をきびしく制限し、全教員が教育業務に専念することにより、生徒達のために全精力を打込める』ように作られております。」と記載されていた。
(4)ア 同月五日終業時刻後、組合は、小会議室において職場集会を開き、団体交渉において組合の要求項目については交渉できなかったこと等を報告し、その対応について協議した。
イ 同月一二日、宇喜多校長は天野委員長に対し、組合は依然として就業規則違反を繰り返しており、重ねて厳重に警告する旨の警告書(乙九九の二)を交付した。(本件警告)
ウ 同月一九日、組合は宇喜多校長に対し、組合ニュースの配布及び掲示並びに職場集会の開催は正当な組合活動であるから就業規則によっては制限できない旨述べた右警告書に対する抗議書を交付した(乙一〇〇の二)。
(5)ア 同月一二日始業時刻前、組合は、小会議室において職場集会を開き、団体交渉において、いまだに組合の要求項目については、交渉することができないことを報告し、宇喜多校長に抗議することとした。
イ 同月一九日、同校長は天野委員長に対し、右の小会議室使用は、学校の許可なく行われたものであって就業規則に違反しており、また早朝からの職場集会は学校教育にとり望ましくないとして、警告する旨の警告書(乙九九の三)を交付した。(本件警告)
ウ 同月二四日、組合は宇喜多校長に対し、職場集会の開催は正当な組合活動であるから就業規則によっては制限できない旨の右警告書に対する抗議書を交付した(乙一〇〇の三)。
(6)ア 宇喜多校長は天野委員長に対し、同年一一月七日、組合ニュースの配布及び掲示並びに小会議室での職場集会の開催は就業規則違反である旨の警告書(乙の九九の四)を発した。
イ 同月八日、組合は宇喜多校長に対し、組合ニュースの配布及び掲示並びに小会議室での職場集会の開催は正当な組合活動であるから就業規則によっては制限できない旨の右警告書に対する抗議書を交付した(乙の一〇〇の五)。
(7) 宇喜多校長は、同年一二月六日ころ及び同月二一日ころ、組合に対し、緊急のやむを得ない必要性があるとして、二回、組合集会のために小会議室の利用を許可した(乙五六、九二)。
(8) 昭和五三年一月一一日及び同月一七日、組合と原告との間で、組合ニュース等の配布、組合掲示板の設置、職場集会のための学校施設の利用等について団体交渉が行われた。
これらの団体交渉において、組合ニュース等の配布については許可制度、配布の時間帯、場所、方法等に関して、職場集会のための学校施設の利用については許可制度、職場集会の場所等に関して、それぞれ交渉が行われた。原告と組合との意見は一致しなかったが、双方で妥協点を探そうということになり、原告側、組合側の双方から委員を選出しこれらの問題点について検討を行うこととなった。掲示板については、小会議室であれば生徒の目に触れないとして同会議室にこれを設置することで原則的な合意が成立し、設置場所等細部についてはさらに協議することとなったが、翌一八日、組合は小会議室に掲示板を設置した。
なお、宇喜多校長は、重大かつ緊急の必要がある場合には、学校施設の利用を許可することもあるが、その場合、職場集会に使用してよいところは小会議室と視聴覚教室である旨を発言し、また、組合ニュースについても、右掲示板への貼付を認めるほか、職員室での朝礼前の配布は、職員が組合ニュース等に気をとられて朝礼等の実施等に問題があるので認められないが、昼に右掲示板の下に組合ニュース等を備え付け、組合員らがそこから自由に組合ニュースを持って行くという方法等を組合に提案した。しかし、組合は、組合ニュース等の配布についての右提案を拒否した(乙三六、四〇、五二、六〇、九二)。職場集会等のための学校施設の利用については、原告と組合の間で施設利用の際に原告に提出する文書の様式等を含めて話し合いが続けられることになった。
翌一八日、当時の組合の副執行委員長堤一郎(以下「堤副委員長」という。)から宇喜多校長に対し、「校内における組合活動についての取り決め <1>掲示板を小会議室に設置する。<2>集会等は、事前に日時・使用場所等について届出る。」との確約書(乙一七〇)を提出し、原告がこれに押印するよう求めたが、同校長は、集会等の施設利用については、届出制と決まっていないとして、押印等を拒否した。
(9) 施設利用については、宇喜多校長から許可願のような様式を作れば考えてもよいとの提案があったことから、教頭の吉田和美と堤副委員長との間で、昭和五三年四月以降は西山教頭補佐と堤副委員長との間で、様式等につき検討することとなり(乙二四、三六、八六)、また、これと並行して宇喜多校長と天野委員長との間でも、この点に関して協議が行われた。(乙五二、九二、一二八の二)
しかしながら、学園施設利用の基本的立場として、原告は許可制を主張し、組合は届出制を主張したため協議は難航した。書面の表現について、天野委員長から、「学校施設を使用したいのでよろしくお願いします。」という文言を入れた届出書ではどうかとの申し出があったが、宇喜多校長は、届出書ではなく許可願の形式でなければ応じられないとの姿勢を崩さず、様々な検討はなされたものの(乙五二、一二八の二)、結局、双方が基本的立場を譲らず、具体的使用条件についての話し合いが行われないまま、最終的には、組合側が原告には受忍義務がある旨主張し交渉を打ち切ったため、同年六月中旬ころ、交渉は決裂した(乙四六、五二、一七八)。その後、原告は組合に対し、小会議室の利用の際には、以後は原告が定めた様式の許可申請書(乙一二八の一)により許可を申請するよう通告した(乙五二)。
(10) 宇喜多校長は天野委員長に対し、同年三月二三日、学校ロビーでの職場集会について口頭での警告及び警告書(乙九九の六)の交付を行った。
(11) 組合は、同年四月ころ、「教育の民主化闘争について」として、「教育現場における教職員の地位の向上については、校長、教頭等の学校中枢部に自信を失わしめ、その指導性を低下させつつあるが、まだ具体的な問題として職員会議の決定、校務分掌の任命等に強い権限を残させ、我々もあいまいな形で決定を容認している点や理事長への対処等がある。今後、これらの問題を民主化闘争の中核にすえて行動をとるべきであろう。」と組合結成以来の八か月間を総括した(乙一四五)。その後、原告は、右総括の掲載された書面を入手した(乙五二)。
(12) 同年四月一日、原告は、昭和五三年度から新設した教頭補佐の役職に社会科教諭であった西山寛を任命し、労務を担当させることとした。同年四月一一日、組合は原告に対し、口頭で小会議室を使用する旨を届け出、職場集会を開催した。翌一二日、堤副委員長は西山教頭補佐に対し、職場集会を開催するため口頭で同室を使用する旨を届け出たところ、同補佐は、前日も組合が同室を使用したため、「よく開くなあ。」と述べた。また、西山教頭補佐は、同年五月二二日朝、始業時刻前に職員室で組合ニュースの配布をしようとした組合員東久保正年に対し、「ビラ配布は、今問題になっとん知っとんな。」と述べた。
(13) 西山教頭補佐は、同年六月六日、組合員が昼の休憩時間に数回同補佐に抗議の申入れにきたため、職員室内での他の職員の仕事の妨げとなるので、学校近くの喫茶店で、福井心司ほか二名の組合員と話し合った。席上、組合員から、同補佐の仕事の内容を聞かれたので、同補佐は、「無許可のビラ配布とか職場集会をやめさせることも自分の仕事の内容である。」と述べた。
(14) 宇喜多校長は天野委員長に対し、同年六月一九日、組合は無断で職員室において業務外印刷物を配布しているとして警告書(乙九九の七)を発した。
(15) 同年六月二二日始業時刻前、組合は、小会議室において職場集会を開き、西山教頭補佐が労務を担当することになって以来、原告の組合活動に対する対応がより厳しくなったと考え、同補佐に抗議することとした。
同日、宇喜多校長は、組合に対し、右小会議室使用は学校の許可なく行われたものであって、就業規則一四条に違反しており警告する旨の警告書(乙九九の八)を交付した。(本件警告)
(16)ア 組合は、同年六月二八日、同年七月一日、同月五日及び同月一九日に組合ニュース等をそれぞれ配布した。
イ 同年六月二八日の組合ニュース五六号は「なぜ七月昇給か?!」との見出しに続いて、昇給が七月に延びたことに対する組合の意見を記載したものである(乙一二〇の二)。
同年七月五日の組合ニュース五八号は「団交報告 査定の不合理さを衝く!」という見出しのもと、団体交渉において、原告から明らかにされた査定基準は教員に管理職の前で要領よくやるよう強いるものであり真の教育に反すると訴えるものである(乙一二〇の三)。
同月一九日の組合ニュース六〇号は「勤評強行さる(夏季ボーナス)」という見出しに続き、組合は査定廃止の運動を続けていくことなどを記載したものである(乙一二〇の四)。
ウ 宇喜多校長は天野委員長に対し、組合が右各組合ニュース等を配布した右各当日、組合の天野委員長に対し、その配布は学校の許可なく行われたものであって、就業規則一四条に違反しており、警告する旨の警告書を交付した。(本件各警告)
(17) 同年七月一五日終業時刻後、組合は、小会議室において職場集会を開き、夏期ボーナス支給の実態を調査し、その対応策を協議した。
同月一八日、宇喜多校長は組合に対し、右の小会議室使用は学校の許可なく行われたものであって、就業規則第一四条に違反しており、警告する旨の警告書を交付した。(本件警告)
(18) 西山教頭補佐は、同年七月一九日朝、始業時刻前に職員室でアンケート用紙を配布していた組合員出井秀樹に対し、「あんた、これ配らん方がええで。」と述べ(本件発言)、また、同年八月二九日、組合ニュースを配布していた組合員中村益夫に対し、「問題になっとん知っとんか。」と述べた。(本件発言)
(19)ア 同年八月一日ころ、組合は、同月二日付の組合ニュース第六号を配布した。
イ 右組合ニュースは「交渉の余地のない団交 サマースクール手当」という見出しに続き、組合のサマースクール手当に対する要求に対する団交での原告の回答を記載したものである。
ウ 同月五日、宇喜多校長は天野委員長及び直接の配布者である天野委員長個人に対し、右組合ニュースの配布は、学校の許可なく行われたものであって就業規則一四条に違反しており警告する旨の警告書を交付した。(本件警告)
(20) 同年九月六日、組合ニュースを配布していた組合員杉谷圭司に対し、西山教頭補佐は、「あんた、学校のいうことと組合のいうことのどっちを聴くんな。」と述べた。(本件発言)
なお、右組合ニュース等の配布に対し、西山教頭補佐は、同ニュース等を回収したりすることはなく、また、組合員らは同ニュース等を配布し続けた。
(21) 原告の組合ニュース等の配布に対する処分は、昭和五七年ころまでは組合三役に訓告、配布者に警告程度であったが、昭和五八年ころから、組合ニュース等の配布につき懲戒処分として減給等の措置をも行うようになった(乙一九一、一九三、丙四二)。
(四) 組合ニュース等の配布の態様
(1) 高松校の建物は、教室棟二棟、管理棟一棟からなり、職員室は、管理棟の三階にある。
職員の始業時刻は午前八時三〇分であり、職員は同八時二五分前後に出勤する者が多く、同八時三五分から職員朝礼が行われ、一校時日の授業は同八時五〇分から行われる。
また、職員の昼の休憩時間は午後〇時四〇分からとされていた。
休憩時間等には、生徒が勉強のこと等を聞くため、職員室へ入室することが多かった。
(2) 組合による組合ニュース等の配布は、前記のとおり、昭和五二年九月一二日以降行われた。その時間及び場所は、まれに昼の休憩時間に行われることもあったが、そのほとんどは始業時刻の五分ないし一〇分前に、職員室の各職員の机上に置く方法により行われた。
始業時刻とともに職員室では朝礼が始まるが、その際、机上に配布された組合ニュース等に目をやる職員がいて、宇喜多校長や西山教頭補佐から注意される者もいた(乙四五、四六、一八三、一九一)。
組合ニュース等は概ね片面の印刷であり、印刷面を上にして机上に配布された(乙三六、四四、五二、六四、一八三)。組合ニュース等は組合員だけではなく全職員を対象に配布されたが(乙八六)、非常勤講師の机上に配布された組合ニュース等はそのまま放課後まで放置されていることもあった(乙三六、三七、四四、一八三)。
一回に配布された枚数は、四〇枚ないし六〇枚程度であった。その記載内容は、前記のとおり、組合の結成、賃金その他の労働条件及び団体交渉の経過等について組合の主張、意見等や原告の主張、対応等を記述したものであり、原告に対する批判も述べられることがあった。
(3) 原告は、ビラ配布について、原則として就業規則一四条一二号に違反するが(乙六四)、許可願を出した場合に例外的に認めることがあるという立場であった。
一方、組合は企業内組合であるので、組合には組合ニュース等ビラの配布及び小会議室での貼付を行う権利があり、原告には受忍義務があるという立場であった(乙五二、六四、一三七、一〇〇の一ないし三及び五)。
(五) 小会議室使用の態様
(1) 小会議室は、当時は、高松校の管理棟の三階にあり、小会議室という名称を付してはいるものの、職員の娯楽、食事、懇談等に利用されており、職員室等の鍵を入れてある金庫が置いてあることから、生徒の入室が禁じられていた。
なお、現在は小会議室は存しない(証人天野滋の証言)。
(2) 組合は、所属組合員に団体交渉の経緯を報告するなどのため、小会議室を使用し、職場集会を開催していた。
組合は、同室の使用に当たっては、無届の場合もあったが、その多くは当日又は前日に、口頭又は文書で原告に使用の届出をしていた。
(3) 原告は、原告の許可なく小会議室にて組合が職場集会を開催することは就業規則七条及び一四条一三号に違反するとして(乙六四)、小会議室の使用の際には、教育施設使用許可申請書(乙一二七)を提出して許可を求めた(乙三六、六四)。
原告は、小会議室の使用について、原則として組合に利用させる意思はないが、緊急な事態があるという例外的な場合、具体的には、ストライキの直前に緊急に組合員らが集まって相談しなければならないような場合に、組合から許可の申請があるときは、小会議室等の使用を許可する方針であった。もっとも、その許可するか否かは校長の判断であった(乙四〇、四六、五二、五六)。
なお、原告は、小会議室にテレビ、新聞、湯茶セット等を具えて、職員が同所においてこれを娯楽、食事の目的で利用することを包括的に許可しているとしている。
(4) 一方、組合は、企業内組合であるので、組合には職場集会を行うために企業施設を利用する権利があり、原告には受忍義務があるという立場であった(乙二一、三六、四五、一〇〇の一ないし三及び五、一九一)。
職場集会は、原則的に終業時刻である午後五時一五分以降、問題によっては、昼の休憩時間及び始業時刻前に開催した。職場集会の頻度は、月二回ないし三回程度であり、時間は、最長二時間程度であった。組合は、職場集会が長時間に及ぶことが予想される場合には、公民館の会議室などを予約し、利用したこともあった。
組合は、原告から車で二、三分のところに組合事務所を設置していた(乙五六、一八七)。
(5) 昭和五三年三月ないし四月ころ、組合で届け出用紙を作成してこれを提出するようになった。それまでは口頭で届け出ていた。(乙一九一)
2 組合ニュース等の配布に対する警告
本件組合ニュース等の配布は、許可を得ないで学園施設内で行われたものであるから、形式的には就業規則一四条一二号所定の禁止事項に該当するものの、右規定は学園内の職場規律の維持及び生徒に対する教育的配慮を目的としたと解されるから、ビラ配布が形式的にはこれに違反したとしても、組合ニュース等の内容や配布の態様等に照らして、その配布が学園内の職場規律を乱すおそれがなく、また、生徒に対する教育的配慮に欠けることとなるおそれのない特別の事情が認められるときは、これを理由として就業規則所定の懲戒処分をすることは許されないというべきである。
右の見地に立って本件組合ニュース等の配布について検討すると、本件各組合ニュース等の内容は、組合の労働組合としての日ごろの活動状況及びこれに関連する事項であって、違法不当な行為をあおり又はそそのかす等の内容を含むものではなく、また、本件組合ニュース等の配布の態様をみても、高松校の職員室内において行われたのであるが、本件組合ニュース等の配布それ自体によって業務に支障をきたしたことを窺わせるような事情はない。本件においては、前記のように、朝礼の際に組合ニュースを見ている教職員がおり、原告において、注意したことがあったことが認められるけれども、これが本件の組合ニュース等にあたるかについては、これを認めるに足る証拠はない。
また、生徒に対する教育的配慮という観点からすれば、組合ニュース等の内容が労働組合としての通常の情報宣伝活動の範囲内のものであっても、学園内部における使用者と教職員との対立にかかわる事柄をみだりに生徒の目に触れさせることは相当ではないということもできるが、原告作成の「『組合ニュース』記事について生徒が読んだ場合、悪影響ありと思われる記事」(甲五)では、本件組合ニュース等については掲げられていないうえ、本件組合ニュース等の配布は、通常生徒が職員室に入室する頻度の比較的少ない時間帯になされたのであって、前記の教育的配慮という一般的見地を余りに強調するのは、本事案の実情にそぐわない。
そうすると、原告の本件組合ニュース配布等に対する警告は、前記認定の事実に照らし、組合弱体化の意図のもとに行ったといえるから、労働組合法七条三号の支配介入に該当する。
したがって、初審命令主文1項及びこれを維持し、再審査請求を棄却した本件命令主文4項にはこの点につき違法はなく、原告の主張は理由がない。
3 原告教頭補佐による組合ニュース等の配布に対する支配介入
前記のとおり、本件においては、西山寛教頭補佐は、昭和五三年七月一九日、アンケート用紙を配布していた組合員に対し、「あんた、これ配らん方がええで。」と、同年八月二九日、組合ニュースを配布していた組合員に対し、「問題になっとん知っとんか。」と、同年九月六日、組合ニュースを配布していた組合員に対し、「あんた、学校のいうことと組合のいうことのどっちを聴くんな。」とそれぞれ述べていることが認められるうえ、原告は、同年六月二二日から半年以上見合わせていた組合ニュース等の配布に対する警告書を再び交付し、組合ニュース等の配布を理由として、同年七月一日、同月五日、同月一九日及び同年八月五日付けでそれぞれ警告書を交付しているのであるから、西山教頭補佐の昭和五三年七月一九日、同年八月二九日及び同年九月六日の各発言は、組合弱体化の意図のもと、労務担当者として、組合の情報宣伝活動を抑制するために行われたものであり、労働組合法七条三号に該当する。
原告は、本件組合ニュース等の配布は、正当な組合活動といえず、いずれも就業規則に違反してなされたのであるから、これらを制止し、抑制するためになされた西山教頭補佐の行為は不当労働行為とはならない旨主張するが、右主張に理由がないことは右に述べたとおりである。
4 組合の職場集会のための小会議室の使用に対する警告
当該企業に雇用される労働者のみをもって組織される労働組合(いわゆる企業内組合)は、当該企業の物的施設(以下「企業施設」という。)内をその活動の主要な場とせざるを得ないのが実情であり、その活動につき企業施設を利用する必要性の大きいことは否定できない。しかしながら、現行法秩序のうえで、労働組合が使用者の所有し管理する企業施設を当然に利用する権利を保障されているということは認められておらず、労働組合による企業施設の利用は、そもそも使用者との団体交渉等による合意に基づいて行われるべきであって、労働組合にとって利用の必要性が大きいからといって、労働組合又はその組合員において企業施設を使用者の許諾なしに組合活動のために利用することができる権限を取得し、また、使用者において労働組合又はその組合員の組合活動のためにする企業施設の利用を受忍しなければならない義務を負うと解すべき理由はない。そして、労働組合又はその組合員が使用者の許諾を得ないで企業施設を利用して組合活動を行うことは、これらの者に対しその利用を許さないことが当該企業施設につき使用者が有する権利の濫用であると認められるような特段の事情がある場合を除いては、当該企業施設を管理利用する使用者の権限を侵し、企業秩序を乱すのであり、正当な組合活動にあたらない。
もとより、使用者が労働組合による企業施設の利用を拒否する行為を通して労働組合の弱体化を図ろうとする場合には不当労働行為の成立する余地のあることはいうまでもないが、右のとおり、使用者が職場集会等のための企業施設の利用を労働組合又はその組合員に許諾するかどうかは、原則として、使用者の自由な判断に委ねられており、使用者がその利用を受忍しなければならない義務を負うのではないから、右の権利の濫用であると認められるような特段の事情がある場合を除いては、使用者が利用を許諾しないからといって、直ちに団結権を侵害し、不当労働行為を構成するということはできない。
これを本件についてみるに、学園施設利用については、宇喜多校長から許可願のような様式を作れば考えてもよいとの提案があったことから、教頭の吉田和美と堤副委員長との間で、昭和五三年四月以降は西山教頭補佐と堤副委員長との間で、様式等につき検討することとなり、また、これと並行して宇喜多校長と天野委員長との間でも、この点に関して協議が行われたものの、学園施設利用の基本的立場として、原告は許可制を主張し、組合は届出制を主張したため協議は難航し、学園施設利用のために提出する書面の表現について、天野委員長から、「学校施設を使用したいのでよろしくお願いします。」という文言を入れた届出書ではどうかとの申し出があったが、宇喜多校長は、届出書ではなく許可願の形式でなければ応じられないとの姿勢を崩さず、様々な検討はなされたものの、結局、双方が基本的立場を譲らず、具体的使用条件についての話し合いが行われないまま、同年六月中旬ころ、最終的には、組合側が原告には受忍義務がある旨主張し交渉を打ち切ったため交渉は決裂したというのである。
このようにみてくると、原告と組合との間で、組合がその活動のために学園施設を利用することについての合意が成立していないのは、原告の学園施設利用についての全面的な拒否によるのではないものの、その利用についての許可制の主張をしているのに対し、組合が許可制に反対し、あくまでも届出制に固執していたためであるというのであるから、学園施設利用についてその条件が折り合わないことによるということができる。
ところで、そもそも学園施設を組合活動のためにいかなる態様・条件の下に利用させるかは施設管理権を有する原告の専権的決定事項に属するところであるから、組合が学園施設利用につき届出制に固執するあまり許可申請することなく小会議室を利用したことには非難されるべき点のあることは原告の指摘しているとおりである。
しかし、原告が許可制にあくまで固執したのには、組合に対する否認的態度ないし不信感がその根底にあることは倉田理事等の発言から十分に窺い知ることができるのであり、組合も、職場集会開催にあたっては、当日又は前日に届出をし、その回数も月二ないし三回で、利用時間も始業時刻前又は終業時刻後の約二時間で、集会内容も団体交渉内容の報告等であったというのであり、その間、非組合員の入室を拒否したこともなければ、小会議室の本来の使用目的である職員の娯楽、懇談等の障害になるとの非組合員からの苦情が寄せられたことも認められないし、また、教育上好ましくない結果が生じたとか、学園業務の阻害になったとの事情も認められないというのであるから、組合に譲歩の余地のあることは勿論であるが、原告にも譲歩の余地がないとはいえない。このような状況下で原告が組合に対し、就業規則違反を理由に本件警告書を多数回に亘り交付したということは、被告の認定・判断しているとおり組合の弱体化を企図した行為であり、不当労働行為に該当すると判断されてもやむを得ないところであろう。
したがって、この点に関しての被告の判断は相当であり、原告の主張は採用しない。
四 組合員に対する退職勧奨
1 認定事実
乙二七、七四(但し、後記認定に反する部分を除く。)、一八八(但し、後記認定に反する部分を除く。)、一九〇、証人福家誠の証言及び弁論の全趣旨によれば以下の事実が認められる。
福家は、原告に採用される前の昭和四八年、東京都、千葉県、神奈川県の公立の教員採用試験を受験しこれらは不採用であったが、香川県の公立の教員採用試験には合格し、一年間待機し必要があれば採用されるというBランクに登録され、機会があれば公立学校の教員になろうという考えももっていた。しかし、福家は、同人の母親が倉田理事長の縁故者であったことから、親が同理事長に就職依頼をし、昭和四九年四月に高松校の理科の教諭として採用された。なお、福家は、採用に際しては、他の教職員より一号俸高い賃金が支払われていた。
福家は、昭和五二年九月一〇日の組合結成と同時に組合に加入した。
倉田理事長は、同月一八日、福家の父親を丸亀校に呼び出し、理事長室で面談した。この際、倉田理事長は福家の父親に対し、「福家は親戚であるのに積極的に組合に加入しており、それでは親戚関係がまずくなる。したがって、来年の三月までに善処してもらいたい。」旨を述べた。
上記面談の内容を知り、福家の母親が、同日夕方ころ、倉田理事長に電話をしたところ、同理事長は、「福家は親戚であるので採用した。なのに組合に加入している。強制的にやめさせるようなことはできないけれども、来年の三月までに善処するように。」と述べた。
福家は、昭和五五年度は高校の一年三組、昭和五六年度には同校の一年二組の担任をした。なお、後記のとおり、原告ではボーナスを支給するにあたり査定を実施しているが、学級担任をしていることはプラスの評価とされていた。
倉田理事長は、昭和五六年八月二四日、福家を理事長室に呼び、「公立の採用試験があるのでそれを受けるようにしたらどうか。」と述べた。
2 判断
以上の事実が認められるところ、倉田理事長は労働委員会において、昭和五二年九月一八日、福家の父親を丸亀校に呼び出し、理事長室で面談した際、福家の父親に対し、福家には、昭和五三年三月までには退職して欲しい旨を述べたこと、昭和五二年九月一八日の夕方ころ、福家の母親に対し、同様のことを述べたこと、同日当時、既に福家が組合に加入していることを知っていたことをそれぞれ供述しながらも、右退職勧奨を行った理由は、福家が組合に加入したからではなく、同人の勤務態度が不良であったからであり、転職に便宜な時期である九月という時期に話をしたにすぎない旨供述している(乙七四、一八八)。
しかし、右退職勧奨に至るまで、倉田理事長らが福家に対し退職を勧奨したことはなく、一方、右退職勧奨は組合結成直後のものであること、原告は、昭和六〇年ころに至っても、福家の服装や勤務態度について同人を処分したことはないこと、倉田理事長らが教職員の勤務態度を注意するときは職員会議等で全教職員に一般的な注意を行ってから、それでもなお教職員が勤務態度を改めないときに個別に注意を行っているのが通例であるのに、福家の場合、このような手順が践まれていないことなど、前記各証拠により認められる事実に照らすと、倉田理事長の右供述は採用することができない。
したがって、前記事実関係が認められる本件においては、倉田理事長の右退職勧奨は、組合の弱体化を意図して行われたものであり、労働組合法七条三号の支配介入にあたるとした本件命令に違法はなく、初審命令主文3項及びこれを維持し、再審査請求を棄却した本件命令主文4項は相当であると認められる。
五 前歴計算についての不誠実団交について
1 争いのない事実及び認定事実
(一) 原告の給与体系は、香川県「公立学校職員の給与等に関する条例」を準用しているところ、原告の職員の本俸は、公立学校の職員と比較すると、昇給期間について三か月または六か月の短縮がないことからおおよそ一ないし二号俸の格差の存する職員が生じ、また、前歴計算の方法が異なることからの格差も生じていた。
なお、前歴計算の問題とは、本俸等を決定するに際し、他の職業等での勤続年数等をどの程度加味するかという問題であり、したがって、大学卒業直後に原告に就職した場合には前歴計算の問題は発生しない(乙八六、一九一)。
(二) 組合は原告に対し、昭和五二年九月一六日、同日付けの要求書を提出し、この中で、公立学校並みの待遇の早期実現を要求した。この要求項目について、原告と組合との間で、同年一〇月一八日、同年一一月四日及び同年一二月一五日の三回に亘り団体交渉が開催された。これらの団体交渉の中で、原告は、公立学校並みの待遇の早期実現に関し、「<1>本俸の格差是正については、大きい格差のある職員から順に、三年から五年以内に是正をしたい。<2>組合から要求のあった給与体系の公表については、体系表はあるが、公表すべきものではない。<3>来年度は公立にならって昇給を三か月延伸することになるだろう。」と回答した。
(三) 組合は原告に対し、昭和五三年一月三〇日、同日付け要求書を提出し、この中で、<1>同年三月の年度末手当は〇・五か月プラス五万五〇〇〇円の支給をすること、<2>職員の本俸を同年四月から一律二号俸アップすること、<3>同年度の期末勤勉手当の年間支給率を公立学校の支給率プラス一か月とすること、なお、算定方法については、昭和五一年度並みに復すること、<4>有給休暇については、年次休暇は初年度から二〇日とすること等、<5>職員の日曜・祝・祭日の日直を昭和五三年四月から廃止すること、<6>住宅手当・休養手当・通勤手当を同月から公立学校並みとすることを要求するとともに、同年二月三日正午までに文書により回答するよう要求した。
(四) 原告と組合とは、同年二月二五日、倉田理事長の出席の下で、右一月三〇日付けの組合要求事項について団体交渉が行われた。席上、倉田理事長は、これらの要求のうち本俸の格差是正について「<1>同年度は、二号俸の差のある人をまず一号俸の差にし、その後この一号俸の差をなくす方法で実施したい。<2>昇給は、公立学校が三か月延伸となるので、本校も三か月延伸し、七月に行う。」旨の回答をした。これに対し、天野委員長は、「二号俸の是正は少し見通しがついたが、その他は、今後早い時期に継続審議したい。」旨を述べ、この結果、同年三月八日又は同月九日に次回団体交渉を行うこととなった。
(五) 原告と組合とは、同年三月八日、倉田理事長の出席の下に、右一月三〇日付け組合要求について団体交渉が行われたが、このうち本俸の格差是正について、原告は、「三年から五年かけて格差を是正する。」と説明した。
(六) 組合は原告に対し、同年三月一六日から同月一六日までの間、連日に亘り、同年一月三〇日付け組合要求について団体交渉を開催するように要求した。組合がこのような要求をしたのは、原告の右二月二五日及び同年三月八日の回答が、<1>本俸一律二号俸アップができない理由として財政的な困難さを挙げるのみで財政事情を十分に説明せず、<2>四月に行われてきた昇給を、公立学校が三か月延伸して七月に行うとの理由で、一方的に七月に実施するという不十分な内容であったためである。
(七) 原告と組合とは、同年三月一七日、倉田理事長の出席の下に右一月三〇日付け組合要求について団体交渉が行われた。
右交渉において、原告は、「定期昇給は、公立学校並みに三か月延伸し、七月に実施する。本俸の中だるみ是正については検討を続ける。」と回答した。
(八) 組合は原告に対し、同年四月三日、本俸のアップ及び定期昇給月について、同月二二日及び二三日の両日又はそのいずれかに団体交渉をするように申し入れた。
(九) 倉田理事長は、同年四月三日、職員会議において、本俸の格差について、「三年から五年をかけて是正をしていく方針である。公立学校との差がある職員は四月に昇給させる。このうち二号俸以上の差のある職員は、四月昇給に加えて、七月にも昇給させる。」旨の方針を示した。そして、原告は、この方針どおりに実施した。
(一〇) 組合は原告に対し、同月八日、同月一〇日及び同月一二日、訓告書の件(本件救済申立てに係る職員祝賀会及び私学助成をすすめる会に関する各訓告処分の件を指す。)、本俸是正の件、公立並み諸手当支給の件について団体交渉を開催するよう申し入れた(乙一〇八の六ないし八)。
(一一) 同月一八日、本俸の格差是正、公立学校並み諸手当支給の件及び訓告書の件等について団体交渉が開催された(争いのない事実及び乙一三四、一四二)。席上、原告は、本俸の格差是正については、「五、六年かけて、公立学校に準ずるように努力しています。」旨を発言した。その際、組合は、原告が本俸の格差是正措置を一律になしたとしても、公立学校並みにならない組合員土肥輝夫らの本俸について、公立学校並みの前歴計算が行われていない旨の問題提起をし、原告が実施している前歴計算方法を具体的に明示することを要求したが、原告は「言えません。」と答えた。
(一二) 組合は原告に対し、同月一九日、訓告書撤回の件で団体交渉を開催するよう申し入れた(乙一〇八の九)。
同月二四日、主に訓告書撤回の件について、その他労災加入の件、本俸諸手当の件について団体交渉が行われた(乙一三四、一四二)。
(一三) 組合は、同年五月六日付け及び同月一五日付け団体交渉申入書をもって、前歴計算等について団体交渉を開催するよう申し入れた。しかしながら、団体交渉は開催されなかったので、組合は原告に対し、同年六月一日付け団体交渉申入書をもって、前歴計算等四項目について団体交渉を開催するよう申し入れた。
(一四) 組合は、同月二二日、訓告書撤回の件に関し、香労委に調停の申立てを行った(乙一四二)。
(一五) 同年六月七日、前歴計算等について団体交渉が行われた。
組合は原告に対し、組合員土肥輝夫ら三名の前歴計算について説明を求めた。これに対し、原告は、「何もかも公立学校並みにはいきません。」と答え、組合が「前歴を、教員、企業、大学浪人、大学院について数字で示してほしい。」、「最低の基本線は出るのではありませんか。」と質したところ、原告は、「公立学校とあまり違わないのではないですか。公表しないで、公正にしていきたい。前歴計算は明示しません。」と答えた(争いのない事実及び乙一三五)。
(一六) 組合は原告に対し、同年六月二日、同月八日及び同月二一日、夏期一時金について団体交渉を申し入れた(乙一〇八の一四及び一五)。同年六月一六日、右申入れにより団体交渉が行われたが、夏期一時金のほか、前歴計算及び組合ニュース配布についての問題が話し合われた(乙一三五、一四二)。
(一七) 同年八月一七日、組合は香労委に本件申立てを行った。
(一八) 組合は原告に対し、同年九月二七日付け要求書を提出し、本俸格差是正については、「前歴換算方式について、換算表を明示すること」等を要求し、同年一〇月一四日及び同月二一日の両日、団体交渉が行われた。これらの団体交渉の中で、原告は、「換算表はあるが明示しません。」、「前歴計算は採用したときの条件です。人によって違います。前歴計算の内容については答えません。但し、一般的にいえばどこの教師であったかが基準になります。」と回答した。
(一九) 同年一一月一五日及び同年一二月一一日、団体交渉が行われたが、これらの交渉の中で、原告は、前歴計算について「一人一人と前歴計算の話をしたいと思います。組合とは話し合いをしません。」と答えた。
(二〇) 昭和五四年一月、原告は、職員会議の場で、大要次のとおりの前歴計算の方法を記載した文書を配布した。なお、このことについては、原告は、組合に事前の連絡をしていなかった。
<1> 公立学校に教諭として勤務していた場合
(私立学校の場合はこれを参考とする)
公立学校勤務年数×一〇〇/一〇〇×八〇/一〇〇
<2> 企業に従事していた場合
会社勤務年数×八〇/一〇〇×八〇/一〇〇
<3> 自宅にあった場合
自宅年数×五〇/一〇〇×八〇/一〇〇
右の文書の中では、「公立学校と比較しての主要な相違点は、計算の出発点であり、公立学校は高校卒業の時点から起算し、原告は大学卒業の時点から起算するという点である。したがって、公立学校では高校卒業後の浪人期間及び大学在学中の留年期間が加算されるが、原告では両期間とも加算されないことである。」旨が記載されていた。
(二一) 組合は原告に対し、昭和五四年五月四日、要求書(乙一一三の一ないし三)を提出した。
その中で、組合は、「号給の認定にあたっては当面従来通りの前歴計算法を用いるが、前歴計算方法については今後改善の方向で話し合うものとする。」旨要求した(乙一八五)。
(二二) 組合は原告に対し、昭和五六年四月一六日、要求書(乙一一五の一ないし四)を提出し、その中で、前歴計算を公立どおりに換算することを要求した(乙一九一)。
(二三) 原告は、昭和五四年四月一日までに号俸アップにより本俸の格差を是正していたが、前歴計算を要する職員の本俸については、前歴計算の方法に公立学校との差異があったことから、公立学校との格差が残った。
2 右認定事実によると、組合は原告に対し、昭和五二年九月一六日付け要求書の中で、公立学校並みの待遇の早期実現等を要求したが、組合がこのような要求をしたのは、原告の職員の本俸が公立学校の職員と比較して昇給期間の短縮のないことや前歴計算の方法が異なることから格差のある職員が生じていたことにあったというのである。
その後、原告と組合とは、同年度中に三回にわたり団体交渉を行った結果、原告が一定の譲歩回答をなしたものの、組合は原告に対し、昭和五三年一月三〇日付け要求書の中で本俸の格差是正等に関する要求をなし、この問題をめぐり原告と組合とは、同年二月二五日、同年三月八日及び同月一七日の三回にわたり団体交渉を行い、原告も一定の譲歩回答をなしたが、組合は、原告が本俸の格差是正措置を一律になしたとしても、なお公立学校並みにならない組合員が生じることから、昭和五三年四月一八日の団体交渉において前歴計算の方法を具体的に明示することを要求したというのである。
しかし、原告は、組合のこの要求に対し、昭和五三年四月二四日、同年六月七日、同月一六日、同年一〇月一四日、同月二一日、同年一一月一五日、同年一二月一一日に団体交渉を行ったが、原告は組合に対し、前歴計算に関してはその方法・内容等について全く回答を示さなかったというのである。ところが、原告は、昭和五四年一月の職員会議において、前歴計算に関する文書を配布したというのである。
以上の原告の組合との前歴計算の方法についての交渉経緯をみるならば、原告が組合との間で原告の主張するような誠実な団体交渉をしていたなどということは到底できず、この点に関しては被告の認定・判断するとおり、原告の交渉態度は不誠実であるから、労働組合法七条二号に該当する不当労働行為であると指弾されてもやむをえないところである。
また、原告は、組合は前歴計算問題を団体交渉の要求項目とはしない旨の意思を表明したと主張するが、右に述べたところから明らかなとおり、組合は終始公立学校並み待遇の要求をしており、前歴計算問題はこの具体的内容の一つと考えられるから、組合が原告の主張するとおり、前歴計算問題を団体交渉の要求項目から除外する旨の意思を表明したなどとは到底いうことができない。
したがって、この点に関する原告の主張も理由がない。
次に、原告は、公立学校並み待遇の早期実現問題は、公立学校並みの待遇が実現されたことにより団体交渉の対象項目としては自然消滅するに至った旨主張するが、原告の本俸是正措置にもかかわらず前歴計算を要する職員の本俸については、公立学校の職員と比較して格差がなお残存していたというのである。
したがって、この点に関する原告の主張も理由がない。
六 昭和五二年年末ボーナスの査定に関する団体交渉
1 争いのない事実及び認定事実
(一) 昭和五二年年末ボーナスについての団体交渉の経緯
(1) 原告は、昭和五二年度のボーナスについて、公立学校と同様に五か月分を、夏期ボーナスとして一・九か月分、年末ボーナスとして二・六か月分、年度末手当として〇・五か月分に分けて支給した。これらのボーナスは期末手当と勤勉手当とに分かれており、勤勉手当については査定を実施していた。
(2) 組合は原告に対し、昭和五二年一一月四日、同日付け要求書を提出し、同年九月一六日付け要求事項に加え、新たに昭和五二年年末ボーナス等について、団体交渉に応じるよう要求した。
(3) 同年一一月一八日の団体交渉において、昭和五二年年末ボーナスについて、組合は、<1>三・二か月プラス一律二万円、<2>一二月五日支払い、<3>査定の廃止を要求した。
これに対し、宇喜多校長は、<1>県立校並みの二・六か月分の支給、<2>前年同様一二月一〇日をメドに支給、<3>企業において査定は当然であり、原告の方針に従って査定は行うことを回答した。
なお、支給額である二・六か月分の内訳は、期末手当が二か月、勤勉手当が〇・六か月であった。
(4) 同年一一月二二日、同年一二月六日及び同月八日に、それぞれ昭和五二年年末ボーナスについて団体交渉が行われた。
これらの団体交渉の中で、宇喜多校長は、組合の要求のうち、勤勉手当分の査定廃止については、「<1>勤勉手当の趣旨は、学校教育への貢献度に応じて出すことにある、<2>原告は一種の企業でもあり、県立校と同様に無差別に出すのは勤勉手当の本旨と違う、<3>勤勉手当の額〇・六か月分は査定対象分として貢献度に応じて支給するものであるが、実際には査定対象分を〇・二か月以下に抑えることとする。」旨を回答した。
(5) 原告は、同年一二月一二日、昭和五二年年末ボーナスを支給し、組合員は、これを受領した。
なお、このボーナスのうち、勤勉手当については、倉田理事長の裁量により、約〇・〇一か月分が上積みされて約〇・六一か月分が支給されたが、このことについて組合に事前の通告はなかった。また、勤勉手当の額については査定がなされており、その結果、組合員の平均支給額は〇・五七か月分であって、組合員の四分の三近くの者が〇・六か月分未満となっていた。
(6) 同月一三日、団体交渉が行われたが、席上、原告は、昭和五二年年末ボーナスについては、<1>算定方式のうち算定ベースが昨年と違っていること、<2>学校会計は赤字であることを説明した。
なお、昭和五一年度ボーナスまでは、期末手当、勤勉手当はいずれも本俸、調整手当、教特法手当及び家族手当の合計額が算定ベースとされていたが、昭和五二年夏期ボーナスからは、期末手当については、本俸、調整手当及び家族手当の合計額、勤勉手当については、本俸、調整手当の合計額がそれぞれ算定ベースとされていた。
(7) しかし、組合は、原告の説明に納得せず、昭和五二年年末ボーナスの差別的支給を是正するとして、ボーナスの査定廃止と算定ベースの復元問題について、同年一二月一四日から同月二一日までの間に六回にわたり原告と団体交渉を行った。この間、組合は、同月一五日の忘年会をボイコットしたうえ、同月二〇日にはウインタースクール(生徒募集の目的で、毎年、冬に小学校六年生を集めて開く高松校の特別講座)のボイコットをほのめかして、原告と交渉した。
右交渉の結果として、組合は次の二項目等が記載された文書を作成のうえ宇喜多校長に交付し、宇喜多校長は、同月二一日、右文書に署名捺印してこれを組合に交付する形式がとられた(争いのない事実及び乙五六)。
<1> 昭和五三年度以降のボーナス支給の算定基準は、在来の算定方法に復するよう全力をあげて努力する。
<2> ボーナスのうち査定対象分は、来年度は〇・〇五月以下にする。
以後、理事会にはかり査定をなくするよう全力をあげて努力する。なお、今年度の査定については説明をする。
(8) 組合は、昭和五三年一月一一日、宇喜多校長がボーナス査定に不満な者に対して個人面談をする方法について原告と団体交渉を行った。
(二) 不誠実団交の事実
(1) 同月二〇日、個人面談が始められ、その席上、組合員は、ボーナス査定の項目とそのウエート付けの明示を求めた。これに対して、同校長は、この面談は、教育的個人面談であって、支給内容の説明をする約束はしていないと述べたが、査定の項目の具体例を、<1>出勤の程度、<2>課外授業や補欠授業をしているかどうか、クラブ活動の指導をしているかどうか、<3>学級担任をしているかどうか、学級担任としてどのような指導をしているか、<4>主任等学校分掌上の職務や学校行事への貢献度等を示して説明した。ウエート付けの明示については、同校長が拒否したため、議事進行係として同席していた天野委員長は、ウエート付けが明らかにされなければ個人面談は意味がないとして退席し、同面談は打切られた。
(2) 翌二一日、組合は、個人面談について再び原告と団体交渉を行ったが、同校長は、その席上、査定項目についてのウエート付けの明示はできないと答えた。
(三) その後の事情
(1) 組合は原告に対し、昭和五三年一月三〇日、同日付けの要求書を提出し、<1>昭和五三年三月の年度末手当は、〇・五か月プラス五万五〇〇〇円の支給をすること、<2>職員の本俸を昭和五三年四月より一律二号俸アップすること、<3>昭和五三年度の期末勤勉手当の年間支給率を公立学校の支給率プラス一カ月とすること、なお、算定方法については、昭和五一年度並みに復すること、<4>有給休暇について、年次休暇は初年度より二〇日とすること等、<5>職員の日曜・祝・祭日の日直を昭和五三年四月より廃止すること、<6>住宅手当・扶養手当・通勤手当を昭和五三年四月より公立学校並みとすることを要求するとともに、同年二月三日正午までに文書により回答するよう要求した。
(2) 同年二月二五日、倉田理事長出席の下、団体交渉が行われたが、席上、倉田理事は、昭和五三年三月のボーナスについて「五二年年末ボーナスの不満をこれに盛り込むことは考えていない。既にそれは終っている。しかし、毎年度末〇・五か月は支給しているので本年度も出来るだろう。ただし、これにも勤勉手当が入っている。」と回答した。
(3) 同年三月八日、倉田理事長出席の下、団体交渉が行われたが、この中で、原告は、昭和五三年三月ボーナスについて、「〇・五か月は出す予定である。プラスアルファ分は出せない。プラスアルファを出すだけの原資があるのであれば本俸格差の是正の方へ回したい。」旨を回答した。
(4) 同月一七日、倉田理事長出席の下、団体交渉が行われたが、この中で、原告は、昭和五三年三月ボーナスについて、「公立学校並みが精一杯である。」旨を回答した。
(5) 原告は、同月二三日、昭和五三年三月ボーナスを支給し、組合員はこれを受領した。
(6) 組合は原告に対し、同年六月二日、昭和五三年夏期ボーナスについて、<1>算定ベースを昭和五一年度並みに復すること、<2>一・九か月プラス二万円を支給すること等を求めた要求書を提出した。
(7) 同年六月一六日及び七月三日、昭和五三年夏期ボーナスについて、団体交渉が行われた。
これらの交渉の中で、原告は、「勤勉手当の算定については査定します。査定の内容は発表できません。」と回答した。
(8) 原告は、同年七月一五日、昭和五三年夏期ボーナスを支給し、組合員はこれを受領した。
(9) 組合は、同年八月一七日、香労委に本件申立てを行った。
(10) 組合は原告に対し、同年九月二七日付け要求書を提出し、昭和五三年夏期ボーナスについては「勤勉度を査定する基準(柱)を明示すること」等を要求した。
(11) 同年一一月一五日、同月二一日、同年一二月一一日及び同月一四日、昭和五三年年末ボーナスについて、団体交渉が行われた。
これらの交渉の中で、原告は、「昭和五二年度のやり方でやります。査定をやめることはしません。」と回答した。
(12) 原告は、同年一二月五日、昭和五三年年末ボーナスを支給し、組合員はこれを受領した。
(13) 倉田理事長は、昭和五三年一二月二七日、組合に対し査定をなくす旨述べ、昭和五四年三月のボーナスについては査定がなかったこともあったが、その後、再び、査定は行われるようになった(乙一九一)。
2 判断
(一) 使用者は、団体交渉において、組合の要求を受諾して譲歩する義務を負うものではないが、自己の見解等を固執する合理的な理由を具体的、かつ、明確に説明しなければならないのであって、しかも、その説明は、単なる諾否の回答や一方的な見解の表明では不十分であり、相手方の質問に答え、自己の立場を相手方に納得させる努力を必要とする。そして、次第に団体交渉のきめが細かくなってくれば、労使ともに、自己の見解を裏付ける資料の提出をしなければならず、資料が提出されない場合には誠意ある団体交渉を行ったとはいえないと解される。したがって、ボーナスの支給額に争いが生じ、それが明らかにされなければ交渉が全く進まないという状況に至った場合には、ボーナス算定の基礎となる勤務成績等の考課の基準やその方法、考課の結果と支給額との関連について、組合側から提示の要求があれば、使用者はこれを提示して疑問に答えるべき義務があるものというべきである。
この点、原告は、組合が不公平是正を要求する査定については、査定項目という定性的な問題については説明できるが、査定項目に対するウエート付けという定量的な問題については、明確な基準を設定することは不可能であって、これを説明することは不可能であるとして、査定項目の定量的な問題について説明をしなくても、不誠実団交にはあたらない旨主張する。
しかしながら、前記認定の事実に照らし、そもそも、原告が、その主張する右のような説明を、本件団体交渉に際して、組合に説明したとの事実はこれを認めることができない。また、明確な基準を設定できない査定制度が合理的なものといえるかという問題をさておいても、仮に原告の主張するように、定量的な問題につき明確な基準を設定することが不可能であるとするならば、そうであればこそ、その定量的な問題について、個人のプライバシー保護には配慮しつつも、具体例をあげたり、あるいは、統計的資料を用いるなどして、努めて組合の理解を得られるように誠実に努力する必要があるものというべきである。しかしながら、本件においては、右のような努力を行ったという事情を認めることができない。
してみると、原告の右主張も理由がなく、本件においては、前記認定のとおり、原告は、昭和五二年年末ボーナス査定について査定項目等の説明を途中で拒否し、また、査定項目の定量的な問題について何ら説明していないのであるから、右行為を労働組合法七条二号の不誠実団交にあたるとした本件命令には違法はない。
したがって、初審命令主文5項(本件命令主文3項による変更前の初審命令主文6項)中、原告に対し、昭和五二年一一月四日付けの同年年末ボーナス査定に関する要求につき、誠意をもって団体交渉に応ずることを命ずる部分及びこれを維持し、再審査請求を棄却した本件命令主文4項は相当である。
(二) なお、原告は、組合の組合員は昭和五二年年末ボーナスを異議をとどめず受領し、昭和五三年一月三〇日付け要求書では右ボーナスの査定について何ら触れられていないのであるから、組合はこの点つき団体交渉を要求する意思を放棄又は撤回していると考えるべきであるとして、組合には救済の利益が存しない旨主張する。
しかしながら、本件においては、前記認定のとおり、昭和五二年年末ボーナス支給後も、これについての団体交渉が行われているうえ、組合作成の昭和五三年八月一七日付けの不当労働行為救済申立書においても、不当労働行為を構成する具体的事実として、「査定内容の説明についても一貫した説明はなされず、皆勤、担任、クラブ顧問等を上げ連ねてはいるが、良い者、悪い者、まちまちで依然として不明のままである」旨主張しているのであるから、昭和五三年一月三〇日付け要求書をもってその要求を撤回しているとは認められず、また、その他本件全証拠に照らすも組合において、昭和五二年年末ボーナス査定について査定に関し団体交渉を要求する意思を放棄又は撤回していると認めることができない。
してみると、この点に関する原告の主張も理由がない。
七 誠実協議命令(本件命令主文1項により変更された後の初審命令主文4項)
原告は、学園内での組合による組合ニュース等の配布は便宜供与の問題にとどまり、いわゆる任意的団交事項の範囲に属する事柄であり、労働委員会といえども命令でもってそれについての協議を原告に強制することはできない旨主張するが、組合活動に関する便宜供与等の団体的労使関係の運営に関する事項は義務的団交事項であって、原告の主張は失当である。
してみれば、他に裁量権逸脱の違法につき主張のない本件においては、本件命令1項中の、原告に対し、組合活動のために行うビラ配布について、許可条件、手続等を組合と誠実に協議する旨命ずる部分についてはこれを取り消すべき理由はない。
ところで、本件命令は、主文1項において、初審命令主文4項(初審命令が、西山教頭補佐の発言を支配介入にあたるとし、職制を通じての支配介入を禁じたもの。)を変更し、「補助参加人が組合活動のために行う学園施設の利用について、許可条件、手続等を補助参加人と誠実に協議しなければならない。」と原告に対し命じており、西山教頭補佐の発言をもって、小会議室での職場集会に対する支配介入をも認めたかのようであるが、前記のとおり、被告が不当労働行為と認定した同補佐の本件発言は、いずれも組合ニュース等の配布に関することであって、本件命令は、初審命令が不当労働行為と認定した小会議室使用の職場集会に関する昭和五三年四月一二日及び同年六月六日の各発言を不当労働行為にはあたらないとしているのであるから(しかも、再審査請求は原告のみが行っているのであり、「組合の職場集会のための小会議室の使用に関する警告」に対する救済として、被告がこれを追加したとも認められないので)、本件命令主文1項中の、原告に対し「補助参加人が組合活動のために行う学園施設の利用について、許可条件、手続等を補助参加人と誠実に協議しなければならない。」と命ずる部分は不当労働行為に該当する事実がないのに救済命令を発したものといわざるをえず、この部分については取消しを免れない。
第四結論
よって、主文のとおり判決する。
(裁判官 林豊 小佐田潔 三浦隆志)