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東京地方裁判所 平成5年(行ウ)218号 判決

原告

菅原和貴子

ダミアノブ康江

中村智茂子

佐藤晴美

右四名訴訟代理人弁護士

斉藤誠

野嶋真人

右訴訟復代理人弁護士

米山健也

被告

(品川区長) 高橋久二

右訴訟代理人弁護士

近藤善孝

事実及び理由

第三 争点についての判断

一  原告らは、本件訴えにおいて、本件予算の執行に係る本件支出命令が違法である旨主張する。

ところで、品川区長は、支出の原因となる契約に関する事務についての権限を有する(地方自治法二二〇条一項、二八三条一項)ところ、品川区契約事務規則(昭和三九年品川区規則第八号、丙一九号証の一)三条により、右権限の一部を総務部長又は経理課長に委任している。また、同区長は、収入及び支出の命令に関する事務についての権限を有する(同法二二〇条一項、二八三条一項)ところ、品川区会計事務規則(昭和三九年品川区規則第五号、丙一九号証の二)五条一項により、右権限を各課長に委任している。さらに、収入及び支出のうち、現実の収支執行手続に関する事務の権限は、収入役が有するものである(同法一七〇条一項、二項)。

そうすると、同区長は、本件予算の執行に係る財務会計上の行為について、債務負担行為としての契約の締結、支出命令及び支出のいずれについても権限を有するものではないから、被告は右の各行為をしたこと自体に基づく損害賠償責任を負うものではなく、同区長が本来的に権限を有する財務会計上の行為につき、同区長から権限の委任を受けた者らが違法な行為をすることを阻止すべき指揮監督上の義務違反がある場合に限り、それに基づく責任を負うにとどまることになる。

この点について、原告らの主張は必ずしも明らかではないが、以下、被告に右の指揮監督義務違反があるか否かを判断する前提として、本件支出命令の違法性の有無について検討することとする。

二  争点1(本件支出命令は、無効な本件請願に基づくものとして、違法であるか否か。)について

1  原告らは、本件請願は、実質的には品川区が作成して品川区議会に提出したものであるから無効であり、その後の本件予算の議決も無効であるから、本件予算の執行に係る本件支出命令も違法である旨主張する。

ところで、地方公共団体の議会に対する請願は、住民等が議会に対し一定の手続に従って公の職務一般に関する希望を表明する行為であるが、議会における請願の採択は、執行機関に対し、請願の趣旨に拘束されるべき法的義務を課すものではない。すなわち、採択された請願を議会から送付された執行機関は、誠意をもってその処理に当たるべきではあるものの、請願の趣旨どおりに事務を執行すべき法的義務を負うわけではなく、請願の趣旨にそい難いものについては、理由を付して議会に報告すれば足りるというべきである。

右のような請願の性質にかんがみると、仮に、本件請願の作成及び提出の経緯について、原告らの主張に係る事実が認められ、かつ、本件請願に何らかの瑕疵があるということができるとしても、本件請願は、本件予算の議案を提出するに至った動機の一つにすぎず、本件予算は別個独立の議決によって成立したものであるから、本件請願に瑕疵があることをもって、本件予算の議決の効力に影響を及ぼすものでないことは明らかである。

しがたって、原告らの右主張は、その余の点について判断するまでもなく、失当である。

2  原告らは、仮に、本件予算の議決が無効ではないとしても、一連の行政過程には一体性が認められるから、本件予算の執行に係る本件支出命令は、本件請願等の違法を承継し、違法となる旨主張する。

しかしながら、本件予算の議決に基づく本件予算の執行は、本件請願とは全く別個独立のものであるから、本件請願の瑕疵を理由に本件予算の執行の違法を主張することができないことは明らかである。また、有効な議決により予算が成立した場合には、執行機関は、先行する処分が著しく合理性を欠き、それに伴う予算の執行が、適正確保の見地から看過し得ない瑕疵が存するものといえない限り、予算を誠実に執行すべき義務を負うのであり、予算の執行自体を違法ということはできないというべきである。しかるに、本件請願が無効であるとしても、本件予算の議決の効力に影響を及ぼさないことは前記のとおりであるところ、原告らは、本件請願が無効であり、右の違法が本件予算の執行に承継されると主張するにとどまり、本件予算の執行に違法をもたらすような重大な瑕疵の存在について、何ら具体的に主張しない。

したがって、原告らの右主張は、失当である。

三  争点2(本件支出命令は、本件基準に違反して、違法であるか否か。)について

1  児童福祉法四五条は、厚生大臣は、保育所等の設備、運営等の最低基準を定めるとし、同法四六条は、行政庁は、右最低基準を維持するため、保育所の長等に対して必要な報告を求め、監督し、最低基準に達しないとき等には、改善を勧告し、必要な改善を命じ、更に事業の停止を命ずることができるとし、右各規定を受けて、厚生大臣は、本件基準を定めている。

そして、本件基準四条二項は、最低基準を超えて、設備を有し、又は運営している保育所等においては、最低基準を理由として、その設備又は運営を低下させてはならない旨を定めている。

2  〔証拠略〕によれば、次の事実を認めることができる。

(一)  品川区は、第二次長期基本計画において、既存の公立保育所を廃止することなく、都営住宅内の施設に零歳から二歳までの低年齢児のための保育所を設置することを決定していた。

しかし、その後、品川区内の乳幼児数が減少し、保育所の定員割れが生じる一方、六五歳以上の高齢人口が増加したことにより、同区は、平成二年ころ、保育所を増設しない方針に転じ、旧園を都営住宅内の施設に移転して旧園跡を高齢者向け施設に転用する旨の計画を立てた。

品川区は、東京都から、平成三年一〇月一四日、保育所用施設として、都営住宅の一階部分の一部を一億七七九五万九五六〇円で購入した。(〔証拠略〕)

(二)  旧園及び新園の設置場所は、別紙三記載のとおりである。

旧園は、大崎駅から約四〇〇メートルに位置し、周辺には株式会社明電舎及びソニー株式会社の工場用地があり、大崎西口公園に隣接している。

これに対し、新園は、大崎駅から約二〇〇メートルに位置し、幅員約一〇メートルの道路に接し、都営住宅の敷地は大崎公園に隣接している、

(三)  旧園は、鉄筋二階建てであり、新園は、鉄筋コンクリート造一四階建ての都営住宅の一階部分に併設されている。

旧園と新園の各敷地面積、建築面積、延べ建築面積及び代替場所を除く屋外遊戯場の面積は、別紙四記載のとおりである。なお、旧園は大崎西口公園を、新園は大崎公園を、それぞれ代替場所としている。(〔証拠略〕)

(四)  旧園と新園の各乳児室及びほふく室、保育室及び遊戯室並びに屋外遊戯室及び代替場所の総面積及び幼児(乳児室及びほふく室については、二歳未満の幼児、その他については二歳以上の幼児、以下同じ)一人当たりの面積は、別紙二記載のとおりである。新園は、旧園に比べて、幼児一人当たりの乳児室及びほふく室の面積が〇・四八平方メートル狭くなるが、幼児一人当たりの保育室及び遊戯室の面積は〇・二九平方メートル広くなっており、それぞれの幼児一人当たりの面積について本件基準三三条二、三、六号による最低基準を満たしている。(〔証拠略〕)

(五)  旧園は、定員一〇〇名、職員総数二四名であるのに対し、新園は、定員八七名、職員総数二三名であり、新園は、旧園より、園児一人当たりの職員数が多い。(〔証拠略〕)

(六)  新園は、事故防止のため、施設内のコンクリート柱を化粧板で覆い、床を中空式構造とし、園庭を透水性ウレタンで舗装するなどの安全対策が施され、給湯設備や全館冷暖房設備が設けられている。また、品川区は、大崎保育園父母の会及び職員労働組合との協議を行い、園児の父母らの要請を受けて、新園の設備について、敷地を囲むフェンスを高くし、落下物防止ネットを設置し、園庭をできるだけ広く使えるように水道設備を移設し、植木を植栽するなど、安全面、環境面等を改善するよう努めた。(〔証拠略〕)

(七)  品川区は、東京都に対し、新園設置の届出をしたところ、右届出は平成五年三月三一日に受理され、その後、東京都から、新園の設備及び運営について、改善命令、措置命令等を一切受けていない。(〔証拠略〕)

以上によれば、新園は、旧園に比べて、全体的にみて、設備及び運営が向上しこそすれ、著しく低下したものとは認められないし、いずれも本件基準を満たしているのであって、原告ら主張のごとく本件基準が何らかの法的規範性を有するとしても、本件移転が本件基準に違反するということはできないというべきである。また、原告らは、本件基準に具体的に定められていない立地条件や環境面での劣化を種々主張するが、これらの点をもって、本件移転を違法ならしめるような事情があるということはできない。

なお、原告らは、大崎公園は代替場所としてはふさわしくない旨主張するが、本件基準には代替場所についての具体的な定めはなく、前記認定のとおり、同公園は、都営住宅の敷地に隣接し、十分な広さを有するものであるから、何ら代替場所に該当しないというべき事情は認められない。

3  原告らは、本件移転には必要性及び合理性がない旨主張する。

しかしながら、前記認定事実によれば、品川区は、区内の年齢別人口の推移及び保育需要、大崎駅西口周辺の区有施設の有効活用、再開発等の動向などに照らして旧園の移転又は廃園について検討したこと、同区は、東京都から都営住宅の一階部分を購入する際、これを保育所施設として使用するという用途の指定を約していたことが認められ、また、証人田中清朗の証言によれば、旧園跡は、現在、高齢者向け施設の建設工事の準備中であることが認められ、これらの事実にかんがみると、本件移転に必要性及び合理性がないということはできない。

したがって、原告らの右主張は、失当である。

4  なお、本件移転の時期に関する品川区の対応等に起因して、原告らが不満や不安を有していることはうかがえるが、地方自治法二四二条の二第一項に定める住民訴訟は、地方公共団体による違法な財務会計上の行為を是正するために特に認められた訴訟であるところ、原告らの主張は、主として、本件移転という施策自体、あるいはその契機となった本件請願の経緯に対する不服を内容とするものであり、本件訴えにおいて、その違法を問うことはできないといわざるを得ない。

四  よって、原告らの請求は、いずれも理由がないから、これを棄却することとする。

(裁判長裁判官 秋山壽延 裁判官 竹田光広 森田浩美)

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