東京地方裁判所 平成5年(行ウ)56号 判決 1996年1月26日
東京都板橋区徳丸五丁目九番五号
原告
塩野榮一
東京都板橋区徳丸四丁目二〇番一一号
原告
塩野誠之助
東京都板橋区徳丸五丁目九番五号
原告
塩野金一
東京都板橋区高島平七丁目四三番三号
原告
塩野賢一
東京都板橋区徳丸五丁目九番五号
原告
塩野誠一
東京都北区浮間三丁目一八番八号
原告
杉本末吉
右同所
原告
杉本芳啓
原告ら訴訟代理人弁護士
高山征治郎
同
亀井美智子
同
中島章智
同
野島正
同
枝野幸男
東京都板橋区大山東町三五番一号
被告
板橋税務署長 森谷和雄
右訴訟代理人弁護士
相川俊明
右指定代理人
伊東顕
同
鈴木一博
同
吉岡榮三郎
同
長谷川貢一
同
小柳誠
主文
一 原告らの請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告が、原告塩野榮一、同塩野誠之助、同塩野金一、同塩野賢一、同塩野誠一の昭和六三年六月二六日相続開始に係る相続税について、平成二年六月三〇日付けでした各更正のうち別表1ないし5の各「更正の請求」欄記載の課税価格及び納付すべき税額を超える部分及び過少申告加算税の各賦課決定(ただし、原告塩野榮一については、審査裁決により一部取り消された後のもの)を取り消す。
2 被告が、亡杉本文子の昭和六三年六月二六日相続開始に係る相続税について、平成二年六月三〇日付けで原告杉本末吉に対し、平成三年二月一三日付けで原告杉本芳啓に対し、それぞれした更正のうち別表6及び7の各「更正の請求」欄記載の課税価格及び納付すべき税額を超える部分及び過少申告加算税の各賦課決定を取り消す。
3 訴訟費用は被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
主文と同旨
第二当事者の主張
一 請求原因
1 亡塩野金一郎(以下「亡金一郎」という。)は昭和六三年六月二六日死亡し、その子である原告塩野榮一(以下「原告榮一」という。)、同塩野誠之助、同塩野金一、同塩野賢一(以下「原告賢一」という。)、同塩野誠一及び杉本文子(以下「亡文子」という。)の六名(以下「本件相続人ら」という。)が、同日、亡金一郎の遺産を相続し(以下「本件相続」という。)、同年一二月二六日、別表1ないし7の「当初申告」欄記載のとおり、本件相続に係る相続税(以下「本件相続税」という。)の申告をした。
2 亡文子は、本件相続が開始した後の平成元年三月二一日死亡し、原告杉本末吉(以下「原告末吉」という。)及び同杉本芳啓(以下「原告芳啓」という。)が、国税通則法五条により亡文子の本件相続税の納付義務を各二分の一の割合で承継した。
3 原告らは、平成元年四月一四日、別表1ないし7の「更正の請求」欄記載のとおり、本件相続税について更正の請求を行い、同年五月一日請求どおりの減額更正がされたが、被告は、平成二年六月三〇日原告芳啓を除く原告らに対し、平成三年二月一三日原告芳啓に対し、それぞれ別表1ないし7の「更正・賦課決定」欄記載のとおり、本件相続税の増額更正(以下「本件各更正」という。)を行うとともに、過少申告加算税を賦課する決定(原告塩野榮一については、審査裁決により一部取り消された。以下「本件各決定」という。)をした。
本件各更正及び本件各決定に対する不服申立ての経緯は別表1ないし7記載のとおりである。
4 しかしながら、本件各更正は、本件相続税に係る課税価格を過大に認定した違法なものであるから、原告らは、本件各更正及びこれを前提とする本件各決定の取消しを求める。
二 請求原因に対する認否
請求原因1ないし3の事実は認めるが、同4は争う。
三 抗弁(課税処分の適法性)
1 相続財産の内訳
本件相続に係る相続財産(以下「本件相続財産」という。)は、別表8の順号1ないし23記載の三六筆の土地(以下、一括して「本件各土地」といい、順号によって区分された各土地を「本件1土地」、「本件2土地」などという。なお、同表の括弧内の土地の表示は、土地区画整理事業による換地処分に係る従前の土地の表示である。)、別表9記載の建物、別表10記載の有価証券、別表11記載の預貯金等、別表12記載の既経過利息のほか、家庭用財産、預け金及び電話加入権である。
2 本件相続財産の価額
(一) 本件各土地
本件各土地の価額は、別表8の「評価額」欄記載のとおり(その合計額は五三億三三三三万三〇七九円)である。
(二) 建物
本件相続財産のうち建物の価額は、別表9の「価額」欄記載のとおりであり、原告榮一はその順号1ないし3の建物を、原告賢一はその順号4の建物を、原告誠一はその順号5の建物をそれぞれ取得した。
(三) その他
本件相続財産のうち、有価証券の価額は別表10の「価額」欄記載のとおり合計一五万三三九六円、預貯金等は別表11の「金額」欄記載のとおり合計四億四七九一万一一七五円、既経過利息は別表12の「金額」欄記載のとおり合計四六万五五四一円、家庭用財産の価額は一〇万円、預け金は三五六万八〇二〇円、電話加入権の価額は五万円であり、原告榮一がこれらの相続財産を取得した。
3 係争各土地の価額
原告らが価額を争う本件4土地、本件12土地、本件14ないし18土地、本件21土地(以下「係争各土地」という。)の評価の詳細は、以下のとおりである。
(一) 土地の価額の評価方法
相続により取得した土地の価額はその取得の時における時価により評価するものとされているが(相続税法二二条)、その具体的な評価方法については、国税庁長官が各国税局長あてに発した「相続税財産評価に関する基本通達」(昭和三九年四月二五日付け直資五六、直審(資)一七国税庁長官通達。ただし、平成三年一二月一八日付け二-四、課資一-六による改正前のもの。以下「評価通達」という。)、毎年各国税局長が定める相続税財産評価基準(本件の場合は、昭和六三年分の東京国税局の評価基準。以下「評価基準」という。)があり、また、東京国税局管内においては、右のほか東京国税局長の通達「個別事情のある財産の評価等の具体的な取扱いについて」(昭和五五年六月二四日付け直評一五号、直資一〇五号。平成四年一月二八日課一評二八号、課一資二二七号により廃止されたもの。以下「東京通達」という。)が定められている(以下、評価通達、評価基準及び東京通達をあわせて「本件通達」という。)
本件通達が定める評価方法の概要は次のとおりである。
(1) 評価区分等
土地の価額は、課税時期における現況の地目に応じ、課税時期における実際の面積により評価する(評価通達7、8)。
(2) 評価の方式(路線価方式)
ア 市街地的形態を形成する地域にある宅地は、その宅地の面する路線に付された路線価を基とし、所要の補正を行い計算した金額により評価する(評価通達13)。
不整形地の価額は、その不整形の程度、位置及び地積の大小に応じ、その近傍の宅地との均衡を考慮して、その価額からその価額の一〇〇分の三〇の範囲内において相当と認める金額を控除した価額によって評価する(評価通達20)。
イ 「市街地周辺農地」については、市街地的形態を形成する地域にある宅地に準じて(ただし、宅地転用のめたの造成費が控除される。)評価される「市街地農地」であるとした場合の価額の八割とする(評価通達39)。
ウ 「市街地山林」については、市街地的形態を形成する地域にある宅地に準じて(ただし、宅地転用のための造成費が控除される。)評価される(評価通達49)。
(3) 賃貸地の評価
ア 地上権又は借地権の目的となっている宅地の価額は、その宅地の自用地としての価額から相続税法二三条の規定により評価した地上権の価額又は評価通達27の定めにより評価した借地権の価額を控除した価額とする(評価通達25)。
イ 地上権又は借地権以外の賃借権の目的となっている土地の価額は、その自用地としての価額から、次の区分に従い評価した賃借権の価額を控除した価額とする(東京通達5-(5))。
<1> 地上権に準ずる権利として評価することが適当と認められる賃借権(以下「地上権的賃借権」という。)の場合には、その賃借権が地上権又は借地権であるとした場合に評価される価額のいずれか低い方の価額
<2> 右<1>以外の賃借権(以下「普通賃借権」という。)の場合には、その残存期間に応ずる相続税法二三条に規定する割合の二分の一に相当する割合を乗じて計算された価額
(4) 貸家建付地の評価
貸家の目的に供されている宅地の価額は、その自用地としての価額から、右価額にその宅地に係る借地権割合とその貸家に係る借家権割合との相乗積を乗じて計算した価額を控除する(評価通達26)。
(二) 係争各土地の形状・地積・利用状況等
(1) 本件4土地
本件4土地は、東側と北側の二路線に接し、同路線の交差部分にすみ切りがされた多角形の土地(四五三・三二平方メートル)で、本件相続開始時において、三筆全体を原告榮一が無償使用し、同原告所有の建物の敷地として利用され、その地上建物は小野電気株式会社に賃貸されていた。
(2) 本件12土地
本件12土地は、南側と西側の二路線に接し、同路線の交差部分にすみ切りがされた多角形の山林(一五一・〇五平方メートル)で、その南側と北側とで高低差のある土地である。
(3) 本件14土地
本件14土地は、本件相続開始時点において、その北側部分が舟生昭雄(以下「舟生」という。)に、その南側部分が株式会社増田組(以下「増田組」という。)に賃貸されていた。
舟生への貸付地部分(以下「舟生第一貸付地」という。)は、東側、北側及び西側の三路線に接し、各路線の交差する部分にすみ切りがされた多角形の二六〇・一九平方メートルの土地であり、増田組への貸付地部分(以下「増田組貸付地」という。)は、東側及び西側の二路線に接する台形の四五〇・九六平方メートルの土地である。
(4) 本件15土地
本件15土地は、本件相続開始時において、その南側部分が舟生に賃貸され、北側部分は畑として利用されていた。
舟生への貸付地部分(以下「舟生第二貸付地」という。)は、東側、南側及び西側の三路線に接し、各路線の交差する部分にすみ切りがされた多角形四七六平方メートルの土地であり、畑部分は、東側及び西側の二路線に接するおおむね矩形の一五六・五〇平方メートルの土地である。
(5) 本件16土地
本件16土地は、本件相続開始時において、八区画に分けて利用され、そのうち七区画はそれぞれ他人に賃貸され、残りの一区画は原告榮一が無償使用していた。
ア 工藤竹太郎(以下「工藤」という。)への貸付地部分(以下「工藤貸付地」という。)は、南側と東側の二路線に接する南北に細長い宅地(九四三・八九平方メートル)であり、南側の路線に接する間口の距離が約七メートルと狭く、奥行距離も間口距離の約八・三倍(約五七メートル)と長い土地である。
イ 株式会社滝沢組(以下「滝沢組」という。)への貸付地部分(以下「滝沢組貸付地」という。)は、東側の路線に接する台形の宅地(三五五・五四平方メートル)である。
ウ 古川一郎(以下「古川」という。)への貸付地部分(以下「古川貸付地」という。)は北側の路線に接する矩形の宅地(九九・三六平方メートル)であり、間口の距離が六メートルと狭い土地である。
エ 杉原功(以下「杉原」という。)への貸付地部分(以下「杉原貸付地」という。)は、北側の路線に接する矩形の宅地(一六五・六〇平方メートル)である。
オ 竹下守(以下「竹下」という。)への貸付地部分(以下「竹下貸付地」という。)は、北側の路線に接する矩形の宅地(九九・三六平方メートル)であり、間口の距離が六メートルと狭い土地である。
カ チヨダ建設工業株式会社(以下「チヨダ建設」という。)への貸付地部分(以下「チヨダ貸付地」という。)は、北側と東側の二路線に接し、同路線の交差部分にすみ切りがされた多角形の土地(一三二・四八平方メートル)である。
キ 久保田修治(以下「久保田」という。)への貸付地部分(以下「久保田貸付地」という。)は、西側の路線に接する矩形の宅地(三七四・五七平方メートル)である。
ク 原告榮一の無償使用部分は、南側及び西側の二路線に接し、同路線の交差する部分にすみ切りがされた多角形の土地(七八九・四一平方メートル)であり、原告榮一所有の建物の敷地として利用され、その地上建物は、高橋隆雄、アライ電気産業株式会社及び石川和子に賃貸されていた。
(6) 本件17土地
本件17土地は、北側、東側及び西側の三路線に接する南北に長い多角形の畑(一四四五・〇五平方メートル)で、一枚の畑として利用されていた土地である。
(7) 本件18土地
本件18土地は、本件相続の開始時において、原告榮一が所有し斉藤總一郎に貸し付けられていた建物の敷地部分三三〇平方メートル、原告榮一が所有し佐藤昌志に貸し付けられていた建物の敷地部分二四二・四五平方メートル及び亡金一郎が所有し佐藤昌志に貸し付けられていた建物の敷地部分九〇・九一平方メートルの部分とに区分されて利用されており、原告榮一所有建物の敷地は、いずれも同原告が無償使用していたものである。
(8) 本件21土地
本件21土地は、南側の路線に接する二筆の隣接する宅地であり、本件相続の開始時点において、原告賢一がその全部を無償使用していた。
そのうち、高島平七-四三-二(三〇〇平方メートル)は、亡金一郎、原告榮一、同賢一、訴外塩野恵子の共有建物の敷地として利用され、原告賢一がその地上建物に居住しており、高島平七-四三-二六(九八平方メートル)は、原告賢一が駐車場として第三者に賃貸していた。
(三) 右(二)の係争各土地の利用状況に照らせば、係争各土地は、別表13のとおり、一九の画地に区分して土地の価額の評価を行うことになる。
(四) 本件各土地のうち宅地として利用されている画地は、いずれも市街地的形態を形成する地域内に存在し、本件15土地の農地部分及び本件17土地は、いずれも評価通達にいう「市街地周辺農地」であり、本件12土地は、評価通達にいう「市街地山林」である。
(五) 別表13の一九画地に適用される「路線価」並びに評価通達所定の「奥行価格逓減率」、「側方路線加算率」、「間口狭少補正率」及び「二方路線加算率」は、同表の「各土地の評価明細」欄記載のとおりである。
(六) したがって、右画地ごとの価額は、別表13の「各土地の評価明細」欄記載のとおりとなる。
4 本件相続人らの相続税の課税価格
(一) 本件相続人らが取得した財産の価額
本件相続により本件相続人らが取得した財産の価額の合計は、別表14の9欄記載のとおりである。
(二) 控除すべき債務等の価額
相続税法一三条及び一四条(平成三年法律第六九号による改正前のもの)の規定に基づき、原告らが取得した財産の価額から控除すべき債務等の価額は別表14の10ないし14欄記載のとおりである。
(三) 相続開始前三年以内の贈与財産の価額
相続税法一九条の規定に基づき課税価格に加算される相続開始前三年以内に亡金一郎から原告らに贈与された財産の価額は別表14の16欄記載のとおりである。
(四) 課税価格の合計額
本件相続人ら各人ごとに、右(一)の価額から右(二)の価額を控除した金額に、右(三)の贈与財産の価額を加えて算出される課税価格は、別表14の17欄記載のとおりであり(国税通則法一一八条一項により一〇〇〇円未満の端数切捨て)、その合計額は五四億七一一八万四〇〇〇円である。
5 納付すべき税額
(一) 基礎控除額
相続税法一五条(平成四年法律第一六号による改正前のもの)に基づき計算された遺産に係る基礎控除額は八八〇〇万円である。
(二) 本件相続税の総額
相続税法一六条(平成四年法律第一六号による改正前のもの)の規定に基づき、前記4(四)の課税価格の合計額から右基礎控除額を控除した金額を法定相続人六名(本件相続人ら)が法定相続分に応じて取得したものとした場合におけるその各取得金額(国税通則法一一八条一項により一〇〇〇円未満の端数切捨て)に同条所定の税率を適用して計算した金額の合計額三三億四七〇二万七四〇〇円が本件相続税の総額となる。
(三) 本件相続人らの本件相続税額
原告榮一について租税特別措置法七〇条の六が定める農地等の納税猶予の特例の適用があるから、原告榮一以外の本件相続人らの本件相続税額は、同条二項一号の規定により、前記4(四)の課税価格の合計額のうち、右特例の適用を受ける農地の価額が同号に定める農業投資価格に基づき計算した金額であるとした場合(別表16)に相続税法一一条ないし一七条の規定を適用して計算した金額(別表15の7欄下段及び8欄の金額)であり、原告榮一の本件相続税額は、同条二項二号の規定により右(二)の本件相続税の総額から原告榮一以外の本件相続人らの本件相続税の合計額を控除した金額である。
(四) 税額控除
相続税法一九条の規定に基づき、贈与税の税額一二万八三〇〇円は、原告榮一の納付すべき税額の計算上税額から控除される。
(五) 納付すべき税額
本件相続人らがそれぞれ納付すべき税額は別表14の20欄記載の金額のとおりとなるところ(原告末吉及び同芳啓については亡文子の納付すべき税額を二分の一ずつ承継する。)、本件各更正に係る相続税額はいずれも右金額の範囲内であるから、本件各更正は適法である。
6 過少申告加算税額
本件相続人らに課されるべき過少申告加算税の額は、右5(五)の本件相続人らのそれぞれ納付すべき相続税額から、更正の請求に基づき被告が平成元年五月一日付けでした各更正の相続税額を控除した税額(国税通則法一一八条三項により一万円未満の端数切捨て)に国税通則法六五条一項に基づき一〇〇分の一〇の割合を乗じて算出した金額となるところ、本件各決定の金額(原告榮一については審査裁決により一部取り消された後のもの)は、右金額の範囲内であるから、本件各決定に係る税額は適法に算出されたものである。
四 抗弁に対する認否
1 抗弁1の事実は認める。
2(一) 同2(一)のうち、係争各土地以外の各土地の価額が別表8の「評価額」欄記載のとおりであることは認めるが、係争各土地の価額については否認する。
(二) 同2(二)、(三)は認める。
3 同3(一)、(二)、(四)及び(五)は認めるが、(三)及び(六)は争う。
4(一) 同4(一)は争う。
(二) 同4(二)、(三)は認める。
(三) 同4(四)は争う。
5 同5は争う。
6 同6は争う。
五 係争各土地の評価についての原告らの反論
1 本件4土地
(一) 本件4土地は、地積が大きく、かつ、不整形な画地であり宅地として利用するうえで不便な部分を内蔵する土地であるから、その点を減価要因として考慮して価額の評価がされるべきである。そして、右不整形による減価割合は、評価通達20の定める最高限度である三〇パーセントとするのが相当であり、それが認められないとしても、少なくとも鑑定人田原拓治の鑑定結果(以下「田原鑑定」という。)の認める一二パーセントとするのが相当である。
(二) また、本件4土地は、建物所有目的で原告榮一に使用貸しされた土地であり、地上建物が朽廃するまで継続して土地の無償使用を認めたものというべきであるから、賃借権の付着する土地と同様に、自用地の価額から四割を減額して評価すべきである。
仮にそうでないとしても、本件相続によって原告榮一が右使用貸しされた土地を取得したことにより、右使用貸借契約が消滅し、土地と地上建物の所有者が同一人となったことから、同土地については、貸家の目的に供されている宅地(貸家建付地)としてその価額を評価すべきである(その場合の借家権割合は四割とすべきである。)。
2 本件12土地
本件12土地は、不整形な画地であり宅地として利用するうえで不便な部分を内蔵する土地であるから、その点を減価要因として考慮して価額の評価がされるべきである。そして、右不整形による減価割合は、評価通達20の定める最高限度である三〇パーセントとするのが相当であり、それが認められないとしても、少なくとも田原鑑定の認める一一パーセントとするのが相当である。
3 本件14土地
(一) 本件14土地は、地積が大きく、かつ、不整形な画地であり宅地として利用するうえで不便な部分を内蔵する土地であるから、その点を減価要因として考慮して価額の評価がされるべきである。そして、右不整形による減価割合は、評価通達20の定める最高限度である三〇パーセントとするのが相当であり、それが認められないとしても、少なくとも田原鑑定の認める舟生第一貸付地について一四パーセント、増田組貸付地について七パーセントとするのが相当である。
(二) 舟生第一貸付地及び増田組貸付地は、いずれも建物所有を目的とするもので借地法の適用される賃貸借であり、昭和五〇年六月(増田組)あるいは昭和五八年六月(舟生)から継続していることからも一時使用ということはできないのであって、自用地の価額から、右借地権価額としてその四割を減額すべきである。
仮にそうでないとしても、本件相続の開始後、代替地の提供によって初めて右各貸付地部分の明渡しを受けることができたことなどからすれば、右賃借権は、地上権的賃借権に該当するものであって、自用地の価額から、その四割を減額すべきである。
4 本件15土地
(一) 本件15土地は、地積が大きく、かつ、不整形な画地であるため宅地として利用するうえで不便な部分を内蔵する土地であるから、その点を減価要因として考慮して価額の評価がされるべきである。そして、その減価割合は、評価通達20の定める最高限度である三〇パーセントが相当であるが、それが認められないとしても、少なくとも舟生第二貸付地については田原鑑定の認める一三パーセントとするのが相当である。
(二) 舟生第二貸付地は、建物所有を目的とするもので借地法の適用される賃貸借であり、昭和五八年六月から継続していることからも一時使用ということはできないのであって、自用地の価額から、右借地権価額としてその四割を減額すべきである。
仮にそうでないとしても、地上権的賃借権に該当するものとして、自用地の価額から、その四割を減額すべきである。
5 本件16土地
(一) 本件16土地は三筆の土地であるから、筆ごとに土地の価額を評価すべきである。
(二) 西台三-五六-一の土地及び西台三-五六-四の土地は、地積が大きく、かつ、不整形な画地であるため宅地として利用するうえで不便な部分を内蔵する土地であるから、その点を減価要因として考慮して価額の評価がされるべきである。そして、その減価割合は、評価通達20の定める最高限度である三〇パーセントが相当であるが、それが認められないとして、少なくとも田原鑑定の認める工藤貸付地について二五パーセント、滝沢組貸付地について一一パーセント、チヨダ貸付地について一二パーセント、久保田貸付地について七パーセント、原告榮一の無償使用部分について一三パーセントとするのが相当である。
(三) 工藤貸付地、滝沢組貸付地、杉原貸付地、竹下貸付地、チヨダ貸付地及び久保田貸付地(久保田貸付地は、亡金一郎が久保田に建物所有目的で賃貸していた別の土地の明渡しを受けるために、その代替地として提供されたものであるから、明渡し前の借地と同様に建物所有目的の賃貸借というべきである。)は、建物所有を目的とするもので借地法の適用される賃貸借であり、何年も前から継続していることからも一時使用ということはできないのであって、自用地の価額から、右借地権価額としてその四割を減額すべきである。また、古川貸付地についても同様に四割を減額すべきである。
仮にそうでないとしても、代替地を提供することによってその明渡しを受けることができたことなどからすると、地上権的賃借権に該当するものとして、いずれについても、自用地の価額から、その四割を減額すべきである。
(四) また、本件16土地のうち原告榮一の無償使用部分も、建物所有目的で原告榮一に使用貸しされた土地であり、地上建物が朽廃するまで継続して土地の無償使用を認めたものというべきであるから、賃借権の付着する土地と同様に、自用地の価額から四割を減額して評価すべきである。
仮にそうでないとしても、本件相続によって原告榮一が右使用貸しされた土地を取得したことにより、同土地については、本件4土地と同様に貸家建付地としてその価額を評価すべきである。
6 本件17土地
本件17土地は、地積が大きく、かつ、不整形な画地であり宅地として利用するうえで不便な部分を内蔵する土地であるから、その点を減価要因として考慮して価額の評価がされるべきである。そして、右不整形による減価割合は、評価通達20の定める最高限度である三〇パーセントとするのが相当であり、それが認められないとしても、少なくとも田原鑑定の認める二六パーセントとするのが相当である。
7 本件18土地
(一) 本件18土地のうち、建物所有目的で原告榮一に使用貸しされた土地は、地上建物が朽廃するまで継続して土地の無償使用を認めたものというべきであるから、賃借権の付着する土地と同様に、自用地の価額から四割を減額して評価すべきである。
仮にそうでないとしても、本件相続によって原告榮一が右使用貸しされた土地を取得したことにより、同土地については、本件4土地と同様に貸家建付地としてその価額を評価すべきである。
(二) また、本件18土地のうち、亡金一郎が所有していた建物(貸家)の敷地部分は、貸家の目的に供されている宅地(貸家建付地)としてその価額を評価すべきであるが、その評価にあたって用いる借家権割合については、東京国税局長の定める三割は相当でなく、大阪国税局長の定める四割とすべきである。
8 本件21土地
本件21土地は二筆の土地に分かれ、両土地の間には約五〇センチメートルの段差があり、一方(高島平四-四三-二)は原告賢一の居宅敷地で他方(高島平四-四三-二六)は駐車場という利用形態の相違があることからすると、各筆ごとに価額を評価すべきである。
そのうえで、居宅敷地については、評価通達20(3)イ所定の間口の狭小な宅地として〇・八六の補正率を、駐車場については、同ハ所定の奥行が短小な宅地として〇・九五の補正率をそれぞれ路線価に乗じてその価額を算定すべきである。
六 被告の反論
1 宅地の価額は、その利用の単位となっている一区画の宅地ごとに評価するのが合理的であるところ(評価通達20もその旨定めている。)、本件16土地は、本件相続の開始時において、八区画に区分されて利用されているから、その評価は、利用の単位となっている一区画の土地ごとに行うのが相当である。
2 評価通達が定める不整形による補正は、主としてその形状が整形地に比べて悪い宅地について、その形状が悪いことにより、整形地に比べて有効に利用できない部分が生ずることを配慮して行われるものであるから、その宅地が整形地でないとしても、既に同通達が定める間口狭小補正や奥行長大補正などによりその宅地の形状について適正に補正がされている場合には、それらの補正に加えて不整形地補正を行うことは適当ではない。また、不整形による補正は、個々の不整形地についてその価値の減少していると認められる範囲内で補正することになるから、たとえ不整形地であっても、その面積がおおむね適正規模か若しくはそれ以上の広さがあり、かつ、不整形の程度が小さい場合など宅地としての利用に特に支障がないときは、不整形地補正を行う必要はないというべきである。
原告らの主張する本件4、12、14ないし17土地については、いずれもその不整形の程度などに照らし不整形地補正を行う必要性、合理性がないというべきである。
3 舟生第一、第二貸付地、チヨダ貸付地及び久保田貸付地についての賃貸借は、いずれも建物所有を目的とするものでなく、借地権があるということはできない。
また、原告らが主張する各貸付地に係る賃貸借契約書によると、契約期間の自動更新に関する記載もなく、地上に設置できる建物もプレハブ式のもの等に制限され、また、一時使用を目的とした賃貸借であることなどが明記されているうえ、本件相続の開始後まもなくその賃借人のほとんどが右各契約書の約定に従い、貸付地から退去しているのであって、これらの事実からすると、右賃借権は、いずれも臨時的、一時的な土地の使用を目的としたもので、借地権や地上権的賃借権に当たらないことが明らかである。
したがって、右賃借権はいずれも普通賃借権に該当するものとして、その価額を相続税法二三条に規定する割合の二分の一に相当する割合を乗じて計算し、当該貸付地の価額の評価を行うべきである。
4 使用貸借に基づく権利は、借地権などに比べて極めて弱く、特に土地の所有権が第三者に移転した場合には、その第三者に対抗できないものであって、課税実務上も、使用借権は経済的価値のないものとして取り扱われ、その権利の目的となっている土地も自用地の場合の価額によって評価することとされている。このことは、建物所有を目的とする使用貸借であっても同じであり、使用貸しされている土地について、賃借権の設定された土地と同様に評価すべき合理的な理由はない。
また、使用貸借の目的となっている土地に相続人が貸家を有している場合において、貸家所有者がその敷地を相続したときは、借家人の有する借家権により結果的にその敷地の利用が制限されることとなるが、これはたまたま貸家の所有者がその敷地を相続した結果であり、そのような事情は使用貸借の目的となっている土地の評価に影響を及ぼすものではない。
第三証拠
本件記録中の書証目録記載のとおりであるからこれを引用する。
理由
第一課税処分等の経緯について
請求原因1ないし3の事実は当事者間に争いがない。
第二本件各更正の適法性について
一 抗弁1の相続財産の内訳、同2の係争各土地以外の相続財産の価額、同4のうち控除すべき債務等の総額、相続開始前三年以内の贈与財産の価額については、いずれも当事者間に争いがない。
したがって、本件相続財産のうち争いがあるのは係争各土地の価額であるところ、係争各土地の価額を本件通達に従って評価することについては、原告もこれを争わないし、また、本件通達による評価方法の概要(抗弁3(一))、係争各土地のうち宅地として利用されている画地がいずれも市街地的形態を形成する地域内に存在し、本件15土地の農地部分及び本件17土地が評価通達にいう「市街地周辺農地」であり、本件12土地が評価通達にいう「市街地山林」であること(抗弁3(四))、別表13の一九画地が面する路線の数及びその路線価並びにそれら画地に適用される評価通達所定の「奥行価格逓減率」、「側方路線加算率」、「間口狭小補正率」及び「二方路線加算率」が、同表の「各土地の評価明細」欄記載のとおりであること(抗弁3(五))も当事者間に争いがないから、結局、本件における争点は、係争各土地について、原告らの主張する、<1> 評価単位、<2> 不整形地等による補正の要否、<3> 賃貸地の評価、<4> 無償貸付地の評価、<5> 貸家建付地の評価の各点に帰着することになる。
二 そこで、係争各土地の価額について検討するに、原本の存在及び成立に争いのない乙第一号証によると、評価通達は、宅地については利用の単位となっている一画地の宅地ごとに、農地については耕作の単位となっている一枚ごとに評価するものとしており(評価通達10、33)、右評価方法は、土地の現実の利用状況に即して土地の評価を行う趣旨であって、土地の時価の評価方法として妥当なものといえるところ、係争各土地の利用状況は後記のとおりであるから、被告が係争各土地についてその利用の単位となっている一九の画地に区分し、一画地ごとにその価額を評価したのは相当ということができる。原告らは、本件16及び21土地に関し、その価額の評価を一筆ごとにすべきであると主張するが、右土地についてのみそのように解さなければならない理由は見当たらず、原告らの右主張は、失当である。
以下、右一九画地について、前記争点に即し順次検討することとする。
三 本件4土地の価額について
1 抗弁3(二)(1)の事実は当事者間に争いがない。
2(一) 原告らは、右土地の評価に際しては、不整形地であることを減価要因として考慮すべき旨主張する。
ところで、評価通達20は、不整形地について、その不整形の程度、位置及び地積の大小に応じ、路線価に補正を施した上で、その価額を評価することとしているが、これは、土地の形状が悪いことによって、整形地に比べ宅地としてその効用を十分に発揮できない等のため、整形地の価額に比してその価額が低くなることから、その程度に応じて減価補正をする余地を認めたものであり、あくまでそれぞれの個別事情に応じその不整形のためにその価値が減少していると認められる範囲で補正することとしたものであって、単に整形地でないということから必ず補正をしなければならないという性質のものではないというべきである。
弁論の全趣旨により成立の真正を認める乙第三三号証によれば、本件4土地の位置・形状は別紙図面1のとおりであり、北東の角にすみ切りがあるため全体の形状は東西に長い五画台形地となっていること、しかし、右すみ切り部分の面積は約二五平方メートルで、全体面積に対して約六パーセントにすぎないことが認められ、これによれば、右不整形は、同土地の宅地としての利用にそれほど大きな支障を与えるものとはいえず、宅地としての効用を阻害しているとまではいえないから、同土地について、不整形地補正をしなかったことが不合理であるということはできない。
(二) また、原告らは、地積が大きいことによる補正をすべきであるとも主張しているが、評価通達では、画地の面積が大きいこと自体を直接の減額要因として補正を行うこととしてはいない。原本の存在及び成立に争いのない乙第二号証によれば、東京通達においては、宅地の面積がその地域における標準的な宅地の面積に比して著しく広大で、通常の用途に供することができない宅地である場合には、一〇パーセントの面積広大補正を行うこととされており(東京通達2-(8))、この場合の著しく広大な宅地とは、原則としてその面積がその地域の標準的な宅地の面積のおおむね五倍以上で、かつ、一〇〇〇平方メートル以上であるものとされ、高層マンション等の建築が可能な地域にあるものを除くとされている(東京通達2-(8)ホ注)。
しかし、本件4土地の地積は四五三・三二平方メートルであって、都市においてはマンション敷地としての利用がかなり一般化してきていることなども考えると、右程度の地積があるからといって、減額しなければならないとすることは相当でない。
(三) ところで、田原鑑定によると、本件4土地については、不整形地による価格増減率をマイナス五パーセント、地積大による価格増減率をマイナス七パーセントとしているが、田原鑑定は、土地の価額の評価を求めたものではなく、主として地積と地形の要因が土地の価額に及ぼす影響による増減修正率を求めたものであり、地積については、二〇〇平方メートルの土地を標準として、これを超える場合にその程度に応じた修正率を算定し、地形については、最大減額割合を五五パーセントとする三角地の補正率を基準として不整形地の修正率を算定するものであるが、不整形地による価額修正も地積大による価額修正も、土地の価額を評価するための諸要素の一つにすぎないものであり、本件通達による評価方法を離れて、地形と地積要因だけを切り放しその修正率をうんぬんすることは、土地の価額を算定する方法として適切なものといえないというべきであるから、田原鑑定に依拠して、不整形等による減額をいう原告らの主張も、失当というほかない。
なお、乙第三三号証は、右土地の価額を評価するにあたり、不整形による減価補正率としてマイナス一パーセントを適用しているが、結論としては右土地の本件相続時における価額を三億六三一〇万円と評価し、本件通達(路線価方式)に従って評価された価額を大幅に上回っているのであるから、そのことも本件通達に従った右土地の価額の評価において不整形による補正をしなかったことを不合理であるとする根拠とはならない(乙第三三号証は、右のほかにも、いくつかの画地について、その価額を評価するにあたり不整形地補正あるいは地積大による補正を行っているが、結論としての評価額はいずれも本件通達に従って評価された価額を大幅に上回るものであって、右と同様、その点は、被告がその補正をしなかったことを不合理とする根拠となるものではない。)。
3 原告らは、本件4土地は建物所有目的で原告榮一に使用貸しされた土地であるから、地上権的賃借権類似の権利が付着する土地として、自用地の価額から四割を減額すべきであると主張するが、土地の使用借権は、借主と貸主の間の好意・信頼関係などの人的つながりを基盤とする利用権にすぎず、借主が使用継続を要求する権利は極めて弱いものであって客観的な交換価値を有するものと見ることは困難であるから、土地の価額の評価に際しては使用借権の存在を減額要因として考慮することは適当ではなく、使用借権を減額要因としない本件通達による評価方法は相当なものであり、原告らの右主張は失当である。
また、原告らは、原告榮一が右土地を相続したことにより貸家建付地として評価すべきである旨主張するが、相続により取得した財産の価額は、特別の定めのあるものを除き、当該財産の取得の時における時価により評価されるところ(相続税法二二条)、相続の開始時において使用貸借の目的となっている土地の価額は、前記のとおり、自用地の価額と同一であると解されるのであるから、たまたま相続人が相続した土地上に建物を所有しこれを賃貸していたために、結果として、借家権による土地利用の制限を受けることになったとしても、このことは、相続の開始時における土地の評価に影響を与えるものではないというべきであり、原告らの右主張は理由がない。
4 したがって、本件4土地の価額一億八一三二万八〇〇〇円は、本件通達に従って適法に算出されたものであり、その時価を上回るものではないということができる。
四 本件12土地の価額について
1 抗弁3(二)(2)の事実は当事者間に争いがない。
2 前掲乙第三三号証によれば、本件12土地の位置・形状は別紙図面2のとおりであり、南西側の角にすみ切りがあるため変形の五角台形地となっていること、しかし、右すみ切り部分の面積は全体地積の約二パーセントにすぎないことが認められ、これによれば、右不整形は、同土地の宅地としての利用に大きな支障を与えるものとはいえないところ、被告は、不整形地補正として五パーセントを減額しており、これ以上にさらに減額する必要があるということもできないから、同土地についてより高い割合の補正をすべきであるとする原告らの主張は採用できない(田原鑑定に依拠してその減額をいう原告らの主張を採用しえないことは前記のとおりである。)。
3 したがって、本件12土地の価額の価額四八七七万一〇二四円は、本件通達に従って適法に算出されたものであり、その時価を上回るものではないということができる。
五 本件14土地の価額について
1 抗弁3(二)(3)の事実は当事者間に争いがない。
2 前掲乙第三三号証によれば、本件14土地の位置・形状は別紙図面3のとおりであること、そのうち舟生第一貸付地は、三方路画地であって、北東角及び北西角にすみ切りがあるため、変形の六角台形地となっていること、しかし、右すみ切り部分の面積は全体地積の約一〇パーセントにすぎないことが認められ、これによれば、右不整形は、同土地の宅地としての利用にそれほど大きな支障を与えるものとはいえず、宅地としての効用を阻害しているとまではいえないから、同土地について、不整形地補正をしなかったことが不合理であるということはできない。なお、増田組貸付地はその形状からいって不整形地補正をする必要のないことは明らかである。
また、舟生第一貸付地の地積は二六〇・一九平方メートルであり、増田組貸付地の地積は四五〇・九六平方メートルであって、前記のとおり、右程度の地積があるからといって、減額しなければならないとすることは相当でない。
したがって、右土地の評価について、不整形等を理由に減額すべきであるとする原告らの主張は採用することができない(田原鑑定に依拠してその減額をいう原告らの主張を採用しえないことは前記のとおりである。)。
3 原告らは、舟生第一貸付地及び増田組貸付地については、その借地権価額として各四割を減額すべきである旨主張するので検討する。
(一) 増田組貸付地について
原本の存在及び成立に争いのない乙第三五号証の二、成立に争いのない甲第七号証、弁論の全趣旨により成立の真正を認める甲第三号証、乙第三五号証の一並びに弁論の全趣旨を総合すると、<1> 増田組(平成元年五月、株式会社ソーセツに商号変更)は、ガス施設工事などを営む会社であり、増田組貸付地を賃借し、二年ごとに契約を更新してきたこと、<2> 本件相続の開始当時は、昭和六二年七月一日から二年間の契約期間中であったが、賃貸借契約書によると、その使用目的は臨時の建設工事詰所及び駐車場に限定され、一時使用を目的とするもので借地法の規制を受けるものではないことを確認するとの条項が設けられていること、<3> 増田組は、右貸付地を下請会社であるキタカミ工業株式会社に事実上使用させており、同社は、同地上に設けられた二階建てのプレハブ式建物を事務所及び作業員宿舎として利用し、残地は資材置場として使用していたこと、<3> 賃貸借契約書では、作業員用宿舎、トイレ、風呂場としてプレハブ式仮設建物を建設することができることとされてはいるが、その建坪は合計一八坪に制限されており、貸付地一三〇坪のうちのごく僅かな部分にすぎないこと、<4> なお、権利金の授受はされておらず、増田組は、亡金一郎死亡の数か月後、原告榮一から相続税の納付のため必要であるとして貸付地の明渡しを求められたため、もともと一時使用の約束であったことから、これに応じて立ち退くこととしたが、その際、代替地の趣旨で、別に賃借していた土地を約三〇坪借り増しすることにしたこと、が認められる。
右認定したところからすれば、増田組貸付地の賃貸借が建物の所有を主たる目的とするものといえるかどうかについては疑問があるが、その点はさておくとしても、その使用目的など契約書の記載内容、その現実の使用の態様などに照らせば、契約の更新を重ねて賃借が続いていることを考慮しても、右賃貸借契約は、一時使用を目的とするものと認めるのが相当であり、かかる一時使用を目的とする土地の賃貸借は、存続期間等に関する借地法二条ないし八条の二の規定の適用がなく、評価通達25にいう借地権には該当しないというべきである。そして、増田組貸付地の賃貸借については、権利金の授受もないことなどからすると、東京通達にいう地上権的賃借権として評価すべきものにも当たらないというべきである。
そうすると、増田組貸付地について、東京通達にいう普通賃借権が設定されている土地として、その残存期間一〇年以下のものに対応する相続税法二三条所定の割合(〇・〇五)の二分の一を減額したことに不合理な点は存しない。
(二) 舟生第一貸付地について(便宜上、舟生第二貸付地も含めて検討する。)
成立に争いのない甲第八、第九号証、原本の存在及び成立に争いのない甲第二号証の五、六、乙第一五号証の五、第三六号証の二、三、弁論の全趣旨により成立の真正を認める乙第三六号証の一並びに弁論の全趣旨を総合すると、<1> 舟生は、中古車販売を営む株式会社ファミリーオートの代表取締役であり、昭和五八年六月ころ、中古車展示場として舟生第二貸付地を賃借し、その後、舟生第一貸付地も賃借するようになったこと、<2> 契約期間は一年で、一年ごとに更新されてきたが(本件相続の開始当時は、昭和六二年七月一日から一年間の契約期間中であった。)、賃貸借契約書によると、その使用目的は株式会社ファミリーオート用自動車駐車場に限定され、一時使用を目的とするもので借地法の規制を受けるものでないことを確認するとの条項が設けられていること、<3> 舟生は、右各貸付地を右会社の中古車展示場として使用し、舟生第二貸付地には、一〇・五畳ほどの広さの事務所用の簡易な建物と車二台が作業できる程度の柱と屋根だけの作業所を設けていたこと(賃貸借契約書では、プレハブ式物置及び駐車場使用に必要な休憩所を建設することができることとされている。)、<4> なお、いずれの貸付地についても権利金の授受はされておらず、舟生は、その明渡しを求められたことに応じて、亡金一郎死亡後まもなく舟生第一貸付地を、平成五年に舟生第二貸付地を立ち退いたこと、が認められる。
右認定したところからすれば、舟生第一貸付地及び舟生第二貸付地の各賃貸借は、いずれも株式会社ファミリーオートの自動車駐車場(中古車展示場)として使用することを目的とするものであり、建物の所有を主たる目的とするものとはいえないから、右各賃借権は、評価通達25にいう借地権に該当しないというべきであるし、権利金の授受もないことなどからすると、東京通達にいう地上権的賃借権として評価すべきものにもあたらないというべきである。
そうすると、舟生第一貸付地について、東京通達にいう普通賃借権が設定されている土地として、その残存期間一〇年以下のものに対応する相続税法二三条所定の割合(〇・〇五)の二分の一を減額したことに不合理な点は存しない。
4 したがって、増田組貸付地及び舟生第一貸付地の価額は、それぞれ本件通達に従って適法に算出されたものであり、いずれもその時価を上回るものではないということができる。
六 本件15土地の価額について
1 抗弁3(二)(4)の事実は当事者間に争いがない。
2 前掲乙第三三号証によれば、本件15土地の位置・形状が別紙図面4のとおりであること、そのうち舟生第二貸付地は、南東角と南西角にそれぞれすみ切りがあり、そのため多辺形状のやや不整形な土地となっていること、しかし、同土地の面積は四七六平方メートルであり、右すみ切り部分が全体地積に占める割合は小さいことが認められ、これによれば、右不整形は、同土地の宅地としての利用にそれほど大きな支障を与えるものとはいえず、宅地としての効用を阻害しているとまではいえないから、同土地について、不整形地補正をしなかったことが不合理であるということはできない。なお、本件15土地のうち舟生第二貸付地を除いた残地である農地部分はその形状からいって不整形地補正をする必要のないことは明らかである。
また、舟生第二貸付地の地積は四七六平方メートルであり、農地部分は一五六・五〇平方メートルであって、前示したところから明らかなように、右程度の地積があるからといって、減額しなければならないとすることは相当でない。
したがって、舟生第二貸付地の評価について、不整形等を理由に減額すべきであるとする原告らの主張は採用することができない(田原鑑定に依拠してその減額をいう原告らの主張を採用しえないことは前記のとおりである。)。
3 原告らは、舟生第二貸付地について、その賃借権価額として四割を減額すべきである旨主張するが、既に検討したとおり、舟生第二貸付地の賃貸借は、建物の所有を主たる目的とするものとはいえないから、その賃借権は、評価通達25にいう借地権に該当しないというべきであるし、権利金の授受もないことなどからすると、東京通達にいう地上権的賃借権として評価すべきものにも当たらないというべきである。
そうすると、舟生第二貸付地について、東京通達にいう普通賃借権が設定されている土地として、その残存期間一〇年以下のものに対応する相続税法二三条所定の割合(〇・〇五)の二分の一を減額したことに不合理な点は存しない。
4 したがって、舟生第二貸付地及び農地部分の価額は、それぞれ本件通達に従って適法に算出されたものであり、いずれもその時価を上回るものではないということができる。
七 本件16土地の価額について
1 抗弁3(二)(5)の事実は当事者間に争いがない。
2 原告らは、一筆ごとに土地の価額を評価すべきであると主張するが、その失当であることは前記のとおりである。したがって、不整形地補正が必要かどうかの判断も、その利用単位に応じた八つの各画地ごとに行うことになる(一筆ごとに価額の評価をすべきであることを前提に、地積が大きいことを減価要因として考慮すべきであるとする原告らの主張は、その前提を欠き失当である。)。
(一) 前掲乙第三三号証及び弁論の全趣旨によれば、本件16土地の形状及びその利用単位ごとの形状は、別紙図面5のとおりであること、そのうち、工藤貸付地は、南北に長い土地で、南側の部分ほど東西幅が狭くなっている形状にあるが、右土地は、南側路線に接する間口が約七メートルと狭く、奥行距離も間口距離の約八・三倍(約五七メートル)と長いことから、被告は、右土地の評価に際しては、間口狭小補正率〇・九九、奥行長大補正率〇・九二を乗じてその価額を計算していること、南東側の接道部分が約六一・四メートルあることから、分割利用が可能であり、分割後の各画地はおおむね台形状のものとなり、平均的には建物の有効利用度に大きな影響はないとみられること、が認められる。
これによれば、工藤貸付地の右不整形については、間口狭小補正及び奥行長大補正によってある程度まで評価されていることになるのであり、これに加えてさらに不整形地補正を行う必要があるほどに宅地としての効用を阻害しているとまではいえないから、同土地について、不整形地補正をしなかったことが不合理であるということはできない。
(二) 滝沢組貸付地についてみるに、前掲乙三三号証、原本の存在及び成立に争いのない乙第一九号証によれば、同土地は、その北東側に凸部分を有するが、その面積は約二三平方メートルにすぎず、全体地積の約六パーセントにすぎない上、道路側にあるため建物の有効利用にさほど影響を与えるものといえないことが認められ、これによれば、同土地について、不整形地補正をしなかったことが不合理であるということはできない。
(三) チヨダ貸付地についてみるに、前掲乙三三号証によれば、同土地は角地であり、北東角にすみ切りがあり、南西部分に凸部のあるやや不整形な土地であるが、角地であることなどを考えると、同土地について、不整形地補正をしなかったことが必ずしも不合理であるとまでいうことはできない。
(四) その他の古川貸付地、杉原貸付地、竹下貸付地、久保田貸付地、原告榮一の無償使用部分については、その形状からいって不整形地補正をする必要のないことは明らかである。また、画地ごとの地積をみると、最も大きいのが工藤貸付地の九四三・八九平方メートルであって、前記のとおり、右程度の地積があるからといって、減額しなければならないとすることは相当でない。
(五) なお、原告らは、工藤貸付地、滝沢組貸付地、チヨダ貸付地及び久保田貸付地について、田原鑑定に依拠して減額すべき旨主張するが、右主張を採用しえないことは前記のとおりである。
3 原告らは、工藤貸付地ほか六画地の貸付地については、その賃借権価額として各四割を減額すべきである旨主張するので検討する。
(一) 工藤貸付地について
弁論の全趣旨により成立の真正を認める乙第三七号証の一、原本の存在及び成立に争いのない乙第三七号証の二ないし四並びに弁論の全趣旨を総合すると、<1> 工藤は、一般土木業を営む株式会社工竹土木の代表取締役であり、昭和五九年一二月、即決和解により、工藤貸付地の一部七四七・九五平方メートルを期間三年の約定で賃借したこと、<2> 工藤と亡金一郎は、昭和六二年一一月、工藤貸付地の全部を賃貸借することとして再度の即決和解を行い、使用期間を昭和六二年一一月三〇日から三年間、使用目的は、臨時の建設工事詰所、駐車場及び資材・残土置場としての一時使用に限定されること、借地上に事務所、宿舎、住居などの六棟のプレハブ式仮設建物を所有することができるが、契約が終了したときは、それらを収去して土地を明け渡すこと、この賃貸借は土地の一時使用を目的とするもので借地法の規制を受けるものでないことを確認することなどを合意したこと、<3> 借地上の六棟の建物はいずれも簡易なもので登記されておらず、工藤はそのうちの一棟に居住し、他の建物は工事労務者の宿舎などとして利用され、建物の存在しない残りの土地は、駐車場及び資材置場として使用されていたこと、<4> なお、右賃貸借に際し権利金の授受はされておらず、工藤は、亡金一郎の死亡後の昭和六三年暮れごろ、相続税の納付のため必要であるとして工藤貸付地の明渡しを求められ、原告榮一から代替地を賃借することとして、工藤貸付地を立ち退いたこと、<5> その後、工藤は、平成五年四月には、原告榮一から求められるままに右代替地から他の借地に移転しているが、立退料などの支払は受けていないこと、が認められる。
右認定したところからすれば、工藤貸付地の賃貸借が建物の所有を主たる目的とするものといえるかどうかについては疑問があるが、その点はさておくとしても、即決和解において定められた使用目的など合意内容、その現実の使用の態様などに照らせば、右賃借契約は、一時使用を目的とするものと認めるのが相当であるから、右賃借権は、評価通達25にいう借地権に該当しないし、権利金の授受もないことなどからすると、東京通達にいう地上権的賃借権として評価すべきものに当たらないというべきである(なお、代替地を提供して明渡しを受けたとしても、そのことから直ちに、その賃借権が地上権に準ずる権利として評価すべきものに当たると解することも困難である。このことは、以下の貸付地についても同様である。)。
そうすると、工藤貸付地について、東京通達にいう普通賃借権が設定されている土地として、その残存期間一〇年以下に対応する相続税法二三条所定の割合(〇・〇五)の二分の一を減額したことに不合理な点は存しない。
(二) 滝沢組貸付地について
成立に争いのない甲第一五ないし第一七号証、第一九号証、第二九号証、原本の存在及び成立に争いのない甲第二六号証並びに弁論の全趣旨を総合すると、<1> 滝沢組は、土木建築請負業等を営む株式会社であり、昭和五七年から滝沢組貸付地を賃借してきたこと、<2> 使用期間は二年で、二年ごとに更新されてきたが(本件相続の開始当時は、昭和六一年一〇月一一日から二年間の契約期間中であった。)、賃貸借契約書によると、その使用目的は、建設工事詰所及び駐車場に限定され、一時使用を目的とするもので借地法の規制を受けるものでないことを確認するとの条項が設けられていること、<3> 滝沢組は右土地上にプレハブ式の仮設建物を設けてこれを利用していたこと(賃貸借契約書では、作業員用宿舎、トイレ、風呂場としてプレハブ式仮設建物を建設することができることとされている。)、<4> 右賃貸借に際し権利金は授受されていないこと、<5> 滝沢組は、亡金一郎死亡後の昭和六三年一一月ごろ、相続税の納付のため売却の必要があるとして滝沢貸付地の明渡しを求められ、弁護士に委任して一時使用目的ではないとしてこれを拒否していたが、平成元年四月、原告榮一から代替地を借地することとして、滝沢組貸付地を立ち退いたこと、<5> 右代替地の賃貸借に際しては、原告榮一と滝沢組の間で即決和解が行われ、同賃貸借は、原告榮一が同土地上にマンションを建設するか又は同土地を売却するまでの間の一時使用を目的とするものであることを相互に確認する旨の和解条項が設けられていること、が認められる。
右認定した使用目的など契約書の記載内容、建設が認められていた建物も解体・撤去が容易なプレハブ式仮設建物に制限されていたこと、明渡しの経緯などに照らせば、右賃貸借契約は、一時使用を目的とするものと認めるのが相当であるから、右賃借権は、評価通過25にいう借地権に該当しないし、権利金の授受もないことなどからすると、東京通達にいう地上権的賃借権として評価すべきものにも当たらないというべきである。
そうすると、滝沢組貸付地について、東京通達にいう普通賃借権が設定されている土地として、その残存期間一〇年以下に対応する相続税法二三条所定の割合(〇・〇五)の二分の一を減額したことに不合理な点は存しない。
(三) 杉原貸付地について
原本の存在及び成立に争いのない乙第三八号証の二、成立に争いのない甲第三三ないし第三六号証、第三八号証、弁論の全趣旨により成立の真正を認める甲第三七号証、乙第三八号証の一並びに弁論の全趣旨を総合すると、<1> 杉原は、ネジの製造販売を営む有限会社杉原製作所の代表取締役であり、昭和五七年から、杉原貸付地を期間一年の約定で賃借し、一年ごとに契約を更新してきたこと(本件相続の開始当時は、昭和六三年五月一日から一年間の契約期間中であった。)、<2> 昭和六三年五月の更新時における賃貸借契約書によると、その使用目的は、プレハブ式物置及び駐車場に限定され、一時使用を目的とするもので借地法の規制を受けるものでないことを確認するとの条項が設けられていること、<3> 杉原は、同地上に、平屋のプレハブ式建物(間口約一間半、奥行約二間)と簡易な下屋(間口約四間、奥行一間半ないし二間)を設置し、商品の倉庫として利用し、その余の土地は駐車場として使用していたこと、<4> 右賃貸借に際し権利金は授受されておらず、杉原は、亡金一郎死亡後の昭和六三年一二月ころ、右土地の明渡しを求められ、翌平成元年二月ころ、同土地を立ち退いたこと、が認められる。
右認定したところからすれば、杉原貸付地の賃貸借が建物の所有を主たる目的とするものといえるかどうかはさておき、その使用目的など契約書の記載内容、その現実の使用の態様などに照らすと、右賃貸借契約は、一時使用を目的とするものと認めるのが相当であるから、右賃借権は、評価通達25にいう借地権に該当しないし、権利金の授受もないことなどからすると、東京通達にいう地上権的賃借権として評価すべきものに当たらないというべきである。
そうすると、杉原貸付地について、東京通達にいう普通賃借権が設定されている土地として、その残存期間一〇年以下に対応する相続税法二三条所定の割合(〇・〇五)の二分の一を減額したことに不合理な点は存しない。
(四) 竹下貸付地について
成立に争いのない甲第三九号証、原本の存在及び成立に争いのない甲第四〇号証、乙第三九号証の二、弁論の全趣旨により成立の真正を認める乙第三九号証の一並びに弁論の全趣旨を総合すると、<1> 竹下は、文化シャッターの販売・設置工事を営む西台文化工業株式会社の代表取締役であり、竹下貸付地を賃借し、一年ごとに契約を更新してきていたこと、<2> 賃貸借契約書によると、その使用目的は、建設工事作業所及び事務所用地に限定され、一時使用を目的とするもので借地法の規制を受けるものでないことを確認するとの条項が設けられていること、<3> 竹下は、契約期間が一年ごとであることから、右土地の一部に、鉄骨で柱を建てシャッターの廃材で周りを囲んで屋根をつけただけの簡易な構造の建物を設置し、残地は駐車場や資材置場として使用していたこと、<4> 右賃貸借に際し権利金は授受されておらず、竹下は、亡金一郎の死亡後、竹下貸付地の明渡しを求められ、代わりに原告榮一から臨時の事務所等として建物の賃貸を受けることとして、同土地を立ち退いたこと、が認められる。
右認定した使用目的など契約書の記載内容、その現実の使用の態様などに照らせば、右賃貸借契約は、一時使用を目的とするものと認めるのが相当であるから、右賃借権は、評価通達25にいう借地権に該当しないし、権利金の授受もないことなどからすると、東京通達にいう地上権的賃借権として評価すべきものにも当たらないというべきである。
そうすると、竹下貸付地について、東京通達にいう普通賃借権が設定されている土地として、その残存期間一〇年以下に対応する相続税法二三条所定の割合(〇・〇五)の二分の一を減額したことに不合理な点は存しない。
(五) チヨダ貸付地について
原本の存在及び成立に争いのない甲第二号証の一、二、乙第二三号証並びに弁論の全趣旨を総合すると、<1> チヨダ建設は、建設工事資材置場及び駐車場として、チヨダ貸付地を昭和六〇年一〇月一五日から二年間の約定で賃借したこと、<2> 右賃貸借契約は、昭和六二年一〇月一五日、同一の条件で更新されたこと、が認められ、右事実によれば、右賃貸借が建物の所有を目的とするものでないことは明らかであり、右賃借権は、評価通達25にいう借地権に該当しないし、権利金の授受も認められないことなどからすると、東京通達にいう地上権的賃借権として評価すべきものにも当たらないというべきである。
そうすると、チヨダ貸付地について、東京通達にいう普通賃借権が設定されている土地として、その残存期間一〇年以下のものに対応する相税法二三上所定の割合(〇・〇五)の二分の一を減額したことに不合理な点は存しない。
(六) 久保田貸付地について
弁論の全趣旨により原告主張の日に原告主張の被写体を撮影した写真と認められる甲第一〇号証(写真番号一〇、一一)、原本の存在及び成立に争いのない乙第二四号証によると、<1> 久保田は、久保田貸付地を賃借してきたが、昭和六三年二月二五日付けの賃貸借契約書によると、その使用目的は臨時の自動車古タイヤ置場(廃品)に限定され、一時使用を目的とするもので借地法の規制を受けるものでないことを確認するとの条項が設けられているとともに、期間は昭和六三年二月一六日から同年八月一五日までの六か月間で、更新はその都度取り決めるものと約定されていること、<2> 右借地上には、建物は建設されておらず、駐車場として利用されていたこと、が認められる。
右認定したところからすれば、久保田貸付地の賃貸借は、建物の所有を目的とするものでないことは明らかであるから、右賃借権は評価通達25にいう借地権に該当しないというべきであるし、また、契約期間も昭和六三年八月一五日までの僅か六か月にすぎず、その自動更新の定めもないことからすれば、被告が同土地について、右賃借権による減価をせずに自用地としての価額を評価したことは相当であって、不合理な点は存しない。
原告らは、別の借地の代替地として久保田貸付地を賃貸したものであるから、明渡し前の借地と同様に建物所有目的の賃貸借というべきであると主張するが、前記認定のとおり、久保田貸付地の賃貸目的が古タイヤ置場に限定されている以上、原告らの右主張は、独自の見解以外のなにものでもなく、採用することができない。
(七) 古川貸付地について
原本の存在及び成立に争いのない乙第二二号証によると、古川は、昭和六三年六月一日、駐車場として、期間一年間の約定で古川貸付地を賃借したものであることが認められ、右事実によれば、右賃貸借が建物の所有を目的とするものでないことは明らかであるから、右賃借権は、評価通達25にいう借地権に該当しないし、東京通達にいう地上権的賃借権として評価すべきものにも当たらないというべきである。
そうすると、古川貸付地について、東京通達にいう普通賃借権が設定されている土地として、その残存期間一〇年以下に対応する相続税法二三条所定の割合(〇・〇五)の二分の一を減額したことに不合理な点は存しない。
4 また、原告らは、本件16土地のうち原告榮一の無償使用部分は建物所有目的で原告榮一に使用貸しされた土地であるから、地上権的賃借権類似の権利が付着する土地として、自用地の価額から四割を減額すべきであると主張するが、既に説示したとおり、土地の価額の評価に際し使用借権の存在を減額要因として考慮することは適当でなく、使用借権を減額要因としない本件通達による評価方法は相当なものであって、原告らの右主張は失当である。
また、右土地を貸家建付地として評価すべきであるとする原告らの主張を採用できないことも、前示のとおりである。
5 したがって、本件16土地の八画地の各価額は、それぞれ本件通達に従って適法に算出されたものであり、いずれもその時価を上回るものではないということができる。
八 本件17土地の価額について
1 抗弁3(二)(6)の事実は当事者間に争いがない。
2 前掲乙第三三号証によれば、本件17土地の位置・形状は別紙図面6のとおりであること、同土地は、三路線に面した南北に長い土地であり、南側及び北東側に若干の欠け部分があるが、その部分が全体地積に占める割合は僅かであること、接道部分が約七七・一メートルと広く、分割利用が可能であって、分割後の各画地はほぼ台形状となり、平均的には建物の有効利用度にさほど大きな影響を与えるものではないことが認められ、これによれば、右不整形は、同土地の宅地としての利用にそれほど大きい支障を与えるものとはいえず、宅地としての効用を阻害しているとまでいえないから、同土地について、不整形地補正をしなかったことが不合理であるということはできない。
したがって、右土地の評価について、不整形等を理由に減額すべきであるとする原告らの主張は採用することができない(田原鑑定に依拠してその減額をいう原告らの主張を採用しえないことは前記のとおりである。)。
3 したがって、本件17土地の価額四億三九二九万六〇〇八円は、本件通達に従って適法に算出されたものであり、その時価を上回るものではないということができる。
九 本件18土地の価額について
1 抗弁3(二)(7)の事実は当事者間に争いがない。
2 原告らは、建物所有目的で原告榮一に使用貸しされた土地であるとして、自用地の価額から四割を減額すべきである旨主張するが、前示のとおり、土地の価額の評価に際しては使用借権の存在を減額要因として考慮することは適当ではなく、使用借権を減額要因としない本件通達による評価方法は相当なものであって、原告らの右主張は失当である。
また、右土地を貸家建付地として評価すべきであるとする原告らの主張を採用できないことも、前示のとおりである。
3 本件18土地のうち、亡金一郎が所有していた貸家の敷地部分については、別表13の「各土地の評価明細」欄記載のとおり、貸家建付地として、自用地としての価額から、借地権割合六割と借家権割合として東京国税局長が定めた三割とを乗じた割合が減額されているが、原告らは、貸家建付地の価額の評価における借家権割合は、東京国税局長が定める一〇〇分の三〇は適当ではなく、大阪国税局長が定める一〇〇分の四〇が相当である旨主張する。
しかし、前掲乙第一号証、原本の存在及び成立に争いのない乙第三号証によれば、借家権割合は国税局長が定めるものとされ(評価通達94)、これを受けて東京国税局長は借家権割合を一〇〇分の三〇と定めているのであって、右借家権利割合が特に不合理であるとすべき理由は見当たらないから、東京都内にある右貸家建付地の価額の評価にあたって、東京国税局長が定めた借家権割合ではなく、大阪国税局長が定める借家権割合によるべきとの原告らの主張は何ら理由がなく、採用の限りでない。
4 したがって、本件18土地の三画地の各価額は、それぞれ本件通達に従って適法に算出されたものであり、いずれもその時価を上回るものではないということができる。
一〇 本件21土地の価額について
1 抗弁3(二)(8)の事実は当事者間に争いがない。
2 原告らは、本件21土地については一筆ごとに評価すべきであることを前提に、間口狭小補正及び奥行短小補正をすべきであると主張するが、二筆の同土地が隣接している土地で、原告賢一が無償で借り受け、一筆(三〇〇平方メートル)を居宅敷地として、他の一筆(九八平方メートル)を駐車場として利用していることから、その利用単位に応じ、右二筆を一画地としてその価額を評価すべきであることは前示のとおりであるから、原告らの右主張はその前提を欠き失当である。
3 したがって、本件21土地の価額一億四三二八万円は、本件通達に従って適法に算出されたものであり、いずれもその時価を上回るものではないということができる。
一一 以上のとおりであるから、本件相続人らの相続税の課税価格は、別表14の17欄記載のとおり(国税通則法一一八条一項により、一〇〇〇円未満の端数切捨て)であり、本件相続人らの納付すべき相続税額は、被告主張のとおり別表14の20欄記載のとおりとなる(原告末吉及び同芳啓は、亡文子の納付すべき税額を二分の一ずつ承継する。)。そうすると、本件各更正に課税価格及び税額を過大に認定した違法はなく、本件各更正はいずれも適法である。
第三本件各決定の適法性について
本件各決定は、本件各更正によって原告らが新たに納付すべきことになる税額に基づき、国税通則法に従って適法に算出された過少申告加算税額を賦課するものと認められる。
第四結論
以上の次第で、本件各更正及び本件各決定はいずれも適法であり、原告らの本件請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九三条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 佐藤久夫 裁判官 橋詰均 裁判官 徳岡治)
(別表1)
本件課税処分等の経緯(塩野榮一)
<省略>
(別表2)
本件課税処分等の経緯(塩野誠之助)
<省略>
(別表3)
本件課税処分等の経緯(塩野金一)
<省略>
(別表4)
本件課税処分等の経緯(塩野賢一)
<省略>
(別表5)
本件課税処分等の経緯(塩野誠一)
<省略>
(別表6)
本件課税処分等の経緯(杉本文子相続人杉本末吉)
<省略>
(別表7)
本件課税処分等の経緯(杉本文子 相続人 杉本芳啓)
<省略>
(別表8)
土地の明細表(全2枚中の1枚目)
<省略>
(別表8)
土地の明細表(全2枚中の2枚目)
<省略>
(別表9)
建物の明細表
<省略>
(別表10)
有価証券の明細表
<省略>
(別表11)
預貯金等の明細表
<省略>
(別表12)
既経過利息の明細表
<省略>
(別表13)
係争各土地の評価明細書(全2枚中の1枚目)
<省略>
(別表13)
係争各土地の評価明細書(全2枚中の2枚目)
<省略>
(別表14)
課税価格等の計算明細表
<省略>
(別表15)
税額算出表
<省略>
(別表16)
相続税の納税猶予を受ける農地の明細及び農業相続人の課税価額の明細
<省略>
<省略>
別紙地図省略